青い空。
白い雲。
渡る潮風。
日差しは穏やかで、寄せる波は炭酸水のように泡立っている。
その日、一番乗りで浜辺にやってきたのは棺(
jc1044)だった。
名前どおりの棺桶みたいな男だ。……というより、棺桶そのものだ。DQで死んだキャラみたいなのを想像してほしい。
潮干狩り未経験の彼はとりあえず『潮干狩り』でググッてみたのだが、結果なるべく早く現地に到着したほうが良いとのガセネタを得るに至った。
ならば祭りの前日に現地入りして、お泊まり待機……と、棺は考えた。
だが、そこで棺は気付いた。ここは久遠ヶ原だということに!
そう、ここでは常識は通用しない。ならば……一週間前から待機しておこう! 彼は、そう結論した。
というわけで、その日だれよりも早く棺は浜辺に到着していたのである。
「めざせ、大漁ゲット!」
佐藤としお(
ja2489)は、朝早くから一番乗りで現場入りして……と思ったが、さすがに一週間前から待機してた棺には勝てなかった。あの人アタマおかしいから仕方ない。としおもだいぶおかしいんだが……残念!
「潮干狩りは、ゆっくり和やかに……バカ言ってんじゃねぇ! だれよりも先に浜に入って潮の引きに合わせて瀬を掘ってくんだよぉ〜!」
叫びながら海へ突撃する、としお。
「潮干狩りは熊手でホリホリ……バカ言ってんじゃねぇ! そんなチマチマやってられっか! こうやってスキル使うんだよぉ〜! 喰らえ、ぴあすじゃべりんっ!」
どぱああああん!
「スキルぶっぱしたらアサリが死んじゃう? ……バカ言ってんじゃねぇ! そんなこと言ったらコメディ依頼が成立するか!? そもそも誰(MS)の依頼だと思ってんだよぉ〜!」
今日のとしおは、えらく荒ぶってるな。
月に一度の女の子の日か?
「アサリを回収したら砂抜き用に海水を? ……バカ言ってんじゃねぇ! 麺毒瀬ー! 砂なんぞ浮き輪の真ん中にザルはめて浮かべて、その場で抜いちまえよぉ〜! 砂を抜いたらあとは……喰え! アサリラーメン一丁上がり!」
なにがなんだかわからんうちにラーメンを作って食うという……これがラーメン王の実力だ!
あと、コメディでもアサリは死ぬぞ!
「よーし、あたいが一番多く見つけてやるんだからね!」
雪室チルル(
ja0220)は、だれよりも気合を入れて潮干狩りに臨んでいた。
彼女にとって、これは遊びではない。貝類との戦いだ。
まずは光纏し、アサリが沢山いそうなエリアに向けて呪縛陣を発動!
その衝撃でアサリを砂面に浮き上がらせ、同時に束縛を与えて逃げられないようにする!
アサリに逃げられてしまう撃退士は滅多にいないが、念には念だ!
「これは名案ね! 封砲だけがあたいの武器じゃないのよ!」
そう、いつものチルルならとりあえず封砲で辺り一面を吹き飛ばすところだが、今日の彼女は忍軍。なので、忍者っぽく速やかに作業をおこなう予定なのだ。
呪縛陣を使いきったら、いつものように大剣を抜いて豪快に地面を掘ってゆく。
コンセントレートで剣のリーチをのばし、より深いところまで掘り起こす! 掘り起こす! 掘り起こぉおおす!
これはもう、潮干狩りじゃなくて土木工事だ! やってることは全然忍者じゃないし!
「あたいが久遠ヶ原一のシオヒガリストよ!」
こうして人間ショベルカーと化したチルルは、地形が変わる勢いで砂浜を掘り返して行くのだった。
後日、国土交通省は真剣に地図の書き換えを検討したという。
(そんな錆びつきそうな場所に自分から入っていくと思ったか、ばーかばーか)
見えない相手に向かって無言で悪態をつくのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
……なんてことはなくて、今日はライフセーバーみたいな監視員として参加するラファルであった。
一応今回の義体はラッガイほどではないが、防水加工されているので塩水は平気なのだが……参加メンバーに危険人物が多数含まれているので、事態が収拾不能なほどにカオス化した場合すべてを原初の炎で無に帰するための要員として待機している次第だ。
その『危険人物』リストには、あなたも含まれるんですけどねラファルさん……。
まぁいい。最後はまかせた!
「潮干狩りか。デカい魚も捕りたいぜ」
黒髪ロングの、スケバンみたいな女が眼光鋭く砂浜を見渡していた。
右手には和風の槍。左手には火のついた煙草。
ハードボイルドな感じで紫煙をくゆらせる姿は、とても潮干狩りに来たとは思えない。
彼女の名は、天王寺千里(
jc0392)
こう見えても彼女は、真剣に潮干狩りをするつもりだった。
「せっかく海に来たんだ、ちょっと派手に大暴れさせてもらうぜ」
そう言うと、千里は槍を引きずって潮干狩りをはじめた。
スケ番(22歳)のわりには、やたら楽しそうだ。
さらに潮干狩りだけでは飽きたらず、槍を掲げて海中へ突撃。
「行くぜええええ!」
その勇姿は、もはや完全に一人の漁師だ。
そして始まる、人食い鮫との死闘!
強烈な『咆哮』が轟き、電光石火の槍がうなる。
「これが天王寺流捕獲術だ!」
巨大な鮫といえど、千里の前にはメダカのようなものである。
その手にかかれば、あとは刺身になるだけだ。
「とれたての魚はうまいぜ〜♪」
鮫の刺身がうまいかどうかは、審議の余地があるけどな。
「いっぱい、とれる?」
茅野未来(
jc0692)は、着替えとバケツと熊手を持ってやってきた。
そして、とくにスキルを使うでもなくフツーに潮干狩りをはじめる。
「すなぬき、しないとじゃりじゃりするって、おかあさんいってた、です……」
一生懸命に貝を掘って、海水の入ったバケツにそっと沈める未来。
だが、どうにも不安げだ。
「れいぞうこ……いれなくてへいき……?」
未来は首をかしげた。
たしかに、海鮮は冷蔵しないとすぐに腐る。
でもとにかくいっぱい採っておこうと、はりきる未来。
「あさり、おいしい、です。すき……でも、おりょうりしたことない、です……」
作るところは見ていたので視覚として記憶にはあるが、材料の名称やら何やらが全然わからないのだ。
「……バターでやいて、おさけいれる……おさけ?」
首をひねる未来。
そこへ、颯爽と亜矢が参上!
「ふ……あたしにまかせなさい!」
「あ、矢吹せんぱい。バターやき、つくってみたい、です」
「んなもん、鍋にバターとアサリぶちこんで炙ればいいのよ!」
「これは……たこやきとおなじ、パターン……」
がくりとうなだれる未来。
今回も消し炭が完成したことは言うまでもない!
「GWに家族そろって潮干狩り。なるほど、一足早く海をたのしみつつ、おいしい貝を食べることもできる。それほど金もかからない、パパもにっこりなイベントだろう」
にぎわう砂浜を見ながら、下妻笹緒(
ja0544)は演説をはじめた。
「……だが、それでは記事としては弱すぎる。時代の最先端を行く我がエクストリーム新聞部の記事となる以上、新たなブームを生み出すくらいでなければならないのだ。そこで今回紹介したいのが……潮干狩りではなく、潮干狩られ!」
言ってることが理解不能なので、実際やってもらおう。
「潮干狩られとは……狩る立場ではなく狩られる立場に身を置き、普段とは別の視点から世界を覗く行為。砂の中に体を埋め、ただゆっくりと熊手で掘り出されるのを待つのだ……」
と言いながら、2mほどの縦穴を掘ってスッポリおさまる笹緒。
なにかの罰ゲームか、これ。
「こうして恐怖と期待が入り混じった感情の変化を楽しみながら、どこまでも砂浜と一体化するのだ……。流行が、今ここから始まる……!」
1時間後、笹緒を掘り出した子供がショックで引きつけを起こし、浜辺は一時騒然となった。
まぁ潮干狩りの最中に砂の中からパンダの頭部が出てきたらパニクるよな、ふつう。
「いやぁー、いい天気ですねぇ……」
金鞍馬頭鬼(
ja2735)は、馬人スタイルで海にやってきた。
あらためて言うのも何だが、海岸に馬やパンダがいるのはやはり違和感がある。
まぁ海でなくとも違和感あるのは確かなのだが……。
ともあれ馬頭鬼は、いたって普通に潮干狩りをはじめた。
「パワーでゴリ押しも一興……しかしここは昔ながらの方法で楽しむとしましょう」
と呟きつつ、淡々と砂を掘る馬頭鬼。
どうやら今日の彼は、ひたすらのんびりと潮干狩りをたのしみに来たようだ。
天魔との戦いに明け暮れる日々の中、たまにはこういう休息も必要だろう。
それでも一応、アサリ採りには意欲的だ。
「うーん、たしかこういうところに……」
砂が少し盛り上がってるところを狙ってみる馬頭鬼。
その狙いは大当たりで、アサリがザクザク出てくる。
「これだけ採れれば、夕食には十分ですねぇ」
と言いながらも、まだしばらくは潮干狩りを堪能する馬頭鬼であった。
「ねぇふたりとも。そろそろ貝掘りシーズンだし、今日は絶好の貝掘り日和だし……海に行かない?」
ふと思いついて、礼野真夢紀(
jb1438)はそんなことを言いだした。
ここは、久遠ヶ原学園にほど近いマンションの最上階。
「それはいいけど……また唐突だな」
あっけにとられて答えたのは、礼野智美(
ja3600)
「なんとなくアサリが食べたくなったの。でも外国産は買いたくないしー。国内産を買ってもいいけど、近くに良好な堀場があるもんね」
「そうか……じゃあ早速いまから行くか。アスも行くだろ?」
「はい、もちろんです!」
笑顔で答える礼野明日夢(
jb5590)
こうして唐突に、礼野家3人の休日は潮干狩りをすることに決まった。
マンションから海岸までは、歩いて行ける距離だ。
浜辺で智美はサンダルに履き替え、持ってきたバケツと熊手を弟妹たちに渡す。
「しかし騒がしいな……」
周囲を見回して、智美は肩をすくめた。
砂浜のいたるところで、スキルや魔具を使っての撃退士流・潮干狩りをしている者たちがいる。
「長居すると、ろくでもないことになりそうだ。ある程度採ったら帰ろう。それから、火のそばや海の家には近寄らないように」
「はーい」
「わかりました」
智美の言葉に、真夢紀と明日夢は元気よく返事を返した。
3人は、なるべく静かな場所を選んで作業開始。
スキルなどは使わず地道に熊手で砂を掘り、一個ずつアサリをバケツに放りこんでゆく。
(たくさん採れたら幼馴染のところにおすそわけしたいな……)
そんなことを考えつつ、せっせとアサリを集める明日夢。
「アス、小さいのはそのまま置いておけよ」
やんわりと、智美が告げた。
「はい。採り尽くしたら全滅しちゃいますからね」
すなおに従う明日夢。
だが、大きいアサリだけでもかなりの収獲だ。
「うわあ……この調子だと大漁だね。なに作ろっかなー」
バケツを覗きこむ真夢紀は、とても嬉しそうだった。
「アサリって、姉さんが作るのはお味噌汁と酒蒸しで、お姉ちゃんはお味噌汁とたまにボンゴレ、だよね……うん、たまには別の料理も食べてみたいからアクアパッツアに一票です」
考え考え、明日夢が言った。
「アクアパッツア? ……そういえばやったことないわねー。……うん、帰ったらネットでレシピ検索して挑戦してみよっと」
「夕食が楽しみです。……そういえば姉さん、今回は浜辺で調理しないんですか?」
「今日は姉上いないし、お味噌汁にしても酒蒸しにしても、砂しっかり吐かせたほうがいいからな」
明日夢の問いに、智美は砂を掘りながら答えた。
そんな感じで、のんびりと潮干狩りをすること約2時間。
採れたアサリの量はかなりのもので、今日の夕食どころか向こう3日間ほどの食事になりそうだ。
「これだけ採れば十分だろ。二人とも、ほどほどにして日の高いうちに帰ろう」
智美が言い、明日夢は改めて周囲を見回した。
「……ですね。君子危うきに近寄らず、です」
「アスも気付いたか……なにごともないうちに帰るとしよう」
しかし、真夢紀は貝掘りに必死で周囲の空気に気付かない。
「……? まだ採れるんじゃないの?」
「安全第一」
「せっかく採れたアサリが、焼けたり飛び散ったりするのはイヤです」
智美と明日夢が、冷静に応じた。
それでもなお真夢紀は気付かないが、ひとりで続ける気もないので姉弟たちと撤収することに。
その夜。礼野家の食卓には、新鮮なアサリをふんだんに使ったアクアパッツァが乗せられたという。
ブレード(
jc1380)とシィルキー(
jc1382)は、仲良く手をつないでやってきた。
はたから見ると、完全に女の子同士だ。
が、ブレードはれっきとした男の子。
その証拠に、女子用の旧型スク水を着ている!
繰り返す! 女子用の旧型スク水を着ている!
しかしこれは、ブレードの趣味というわけではない。幼馴染みのシィルキーに、ぜひ着てほしいとせがまれたためだ。だんじて趣味ではない! と思う!
一方シィルキーのほうは、おニューのかわいらしいビキニだった。
ひさしぶりの海なのか、とても嬉しそうだ。
落ち着いた雰囲気のブレードとは好対照である。
「さて……絶好の潮干狩り日和だな」
いたって真面目な顔で、ブレードは浜辺を眺め渡した。
「そうですね。熊手とバケツも、しっかり用意してきました!」
「よし……では行くぞ」
熊手を持ち、陰影の翼を広げるブレード。
「はいっ!」
飛行できないシィルキーは、バケツを振りまわしながらパタパタ走って行く。
ふたりとも、かなり真剣だ。
ただ、潮干狩りに飛行はあまり意味ないような気もするが……。
ともあれ二人は、マイペースに、かつ効率的にアサリを採集していった。
とくに誰かと競うでもなく、せっかく海に来たのだからと熱心に取り組むブレード。
負けじとシィルキーも頑張ってるが、年頃乙女の視線はブレードの水着姿に釘付けだ。
なぜスク水(しかも旧型)を押しつけたのかは謎だが……最近腐ったものに興味を持ち始めたのが理由かもしれない。
なんにせよ、ふたりはたのしそうだった。
キャッキャウフフしながらアサリを掘ったり、波打ち際で水をかけあったり、遊び疲れたら肩を寄せあって砂浜に座ったり……まさにリア充としか言いようがない!
一応念のため言っておくと、この二人はただの幼馴染み同士で、恋人同士ではないらしいが……。
きっと恋人同士になるのも時間の問題だろう。
そう思わせるほどのイチャラブっぷりを見せつける、ブレードくんとシィルキーちゃんなのであった。
そして沢山とれたアサリはシィルキーが料理して、「はいアーン♪」とかやったに違いない!(憶測)
爆発しろ!(願望)
サァ──と、ゆるやかな潮風が砂浜を撫でた。
その風に揺られて、ティアーアクア(
jb4558)の白銀色の髪が陽光にきらめく。
身につけた白のビキニも、目にまぶしい。胸元に施されたブルーのアクセントが、やけに印象的だ。その上に羽織ったシースルーのカーディガンは涼やかで、おおきなリボンが結ばれた麦わら帽は夏を先取りしたかのようだ。
「お姉ちゃん、水着かわいい!」
背後から抱きついたのは、ティアーマリン(
jb4559)
背格好から髪や瞳の色にいたるまでクローンみたいにそっくりな二人だが、衣装はまったく違う。
白を基調としたコーディネートのアクアに対して、マリンは黒をベースにしたワンピース水着。ところどころに炎のような意匠が刻まれ、肘や首筋に巻きつけられたリボンが動きの流れを作っている。前髪にかけられた水中眼鏡も、不思議な魅力を掻き立てるようだった。
5月上旬。海で泳ぐには、まだ早い季節だ。
学園から歩いてすぐの海岸で潮干狩りができると聞いたマリンが『どうしてもお姉ちゃんと行きたい』と言うので、しかたなく(じつはまんざらでもなく)アクアが付き合った形である。
そんなアクアの目的は、もちろん妹の水着姿を愛でること……ではなく、潮干狩り!
一方マリンは、無邪気に瞳をキラキラさせている。
「潮干狩りなんて初めてだから、たのしみだね」
「それはいいけれど。マリン、あまり遠くへ行っちゃだめよ?」
「うん、わかった。お姉ちゃんのそばを離れないよ!」
と言った舌の根も乾かぬうちに、マリンはどんどん遠くへ行ってしまう。
潮干狩りに夢中……というより、海を見てテンションが爆発してしまったようだ。
ちょっと目を離した隙に、アクアの視界から綺麗さっぱり消えてしまうマリン。
「え? ちょっと……!? マリン!?」
あわてて陰陽の翼を発動し、アクアは空へ舞い上がった。
が、人が多くて簡単には見つからない。
そのころ、マリンも姉とはぐれたことに気付いてオロオロしていた。
「お姉ちゃん、どこ?」
心細くなり、いまにも泣きそうになるマリン。
そこへ、最愛のお姉ちゃんが飛んでくるのを発見!
「まったくもう……遠くへ行っちゃダメって言ったでしょ」
そう言って、アクアは妹を抱きしめた。
「ごめんなさい」
力いっぱい姉を抱きしめるマリン。
「二度とはぐれたらダメよ?」
柔らかい口調で言いながら、アクアは妹の頭をやさしく撫でた。
とっても仲の良い百合姉妹である。
潮干狩りのシーズンに入ったと聞いて、海好きの龍崎海(
ja0565)も浜辺を訪れた。
そこで彼が使うのは……恒例の『生命探知』!
これで砂の下に隠れているアサリを見つけ出し、効率良く掘り出すのだ。
しかも全長5cm以上の生物にしか反応しないから、大物だけを選んで採り放題。
おお、これは……2年前の釣り大会と同じ戦略だ!
過去の実績があるだけに、これは手堅い。
しかもアウルディバイドで使用回数を回復して、徹底的に生命探知を使いこなす。
手間がかかるので数は今ひとつだが、サイズは申し分ない。
そうこうしてるうちに、亜矢たちを見つけた海。
ちょうど、料理をおごれだの何だの騒いでいるところだ。
知らぬ仲でもないので、ためしにこう言ってみる。
「もしよかったら、3人分も4人分も同じってことで俺もお願いできないかな? もちろん俺の採ったアサリは全部提供するよ」
海が収獲を見せると、卍は「こりゃすげえ。でけえのばかりじゃねーか」と驚いた。
「たしかに凄いわね。もしかしてアスヴァンって、潮干狩り最強ジョブ?」
亜矢も本気で驚いてる様子だ。
「……で、御相伴しても良いのかな?」と、海。
「ああ、いいぜ。俺のイタリア料理をとくと味わいやがれ」
得意げに卍が答えた。
が、しかし──食事にありつけるのは、無事に帰れた者だけだ!
染井桜花(
ja4386)は、黒ビキニ&ミュールサンダルという格好で潮干狩りにやってきた。
えらく目立つ格好だが、これでも本人は鍛錬のつもりである。
そう、これは砂浜を観察することで獲物(アサリ)が潜んでいる場所を見分けるという、実戦向きの訓練なのだ!
「……見つけた」
アサリの居場所さえ見つかれば、あとは撃退士パワーで掘り出すのみ。
そしてある程度つかまえたら、あとは撃退士パワーで調理するのみ。
仮設テントの調理スペースに移動して、アサリ出汁の塩ラーメンを製作だ。
「……実は使わない……ダシをとるためだけに使う」
ぜいたくな使いかただが、これがおいしいラーメンの作りかたである。
……あれ? としお?
「人工島で遠浅の砂浜って無理なくないか? ……まあいいか、さすが久遠ヶ原」
天険突破(
jb0947)は素朴な疑問を抱きつつも、『まぁ久遠ヶ原だし』と自らを納得させた。
そしてバーベキューセットを砂浜にセッティングし、浜焼きをはじめる。
潮干狩りとか比較的どうでもいい感じで、みんなが持ってきた貝や魚をひたすら焼く。焼く。焼く。
砂抜き? なにそれ? ジャリッとしても知らん!
という具合に、とてもワイルドな浜焼きに。
「なんか、見たこともない巨大ハマグリが混じってるが……ディアボロとかじゃないよな、これ」
などと言いながらも、気にせず焼いて食ってしまう突破。
うん、たぶん大丈夫。たぶんディアボロじゃないよ! 仮にディアボロだとしても大した問題じゃないよ!
月乃宮恋音(
jb1221)と袋井雅人(
jb1469)は、今日も仲良く遊びに来ていた。
恋音は桜色のビキニに牛柄のパーカー。
雅人は普通に女子用のスクール水着だ。
もはやツッコミをいれる必要を感じないので、なにごともないかのように潮干狩りをはじめる二人。
恋音は『共鳴鼠』で周囲の貝類を動かして一ヶ所に集めようと試みるが……アサリの移動速度を考えたら人間が掘ってまわったほうが遥かに早いぞ!
「うぅん……それはまぁ、そうでしたねぇ……」
「ところで恋音。やけに人が少ないと思いませんか?」
「たしかに……そういえば、ここは……『青の洞窟』の近くですねぇ……」
「おお、あれはひどい依頼でしたよ!」
「ちょっと、様子を見に行ってみませんかぁ……?」
「いいですとも。全力で支援しますよ!」
やめとけばいいのに、好奇心で青の洞窟へ近寄る二人。
彼らは知らないが、ここは海魔カナロアの実験場なのだ。
従って、洞窟の中はディアボロだらけである。
早速ふたりの前に現れたのは、バレーボールサイズのハマグリ型ディアボロ。
透過で砂の中を移動してきたかと思えば、出水管から謎の液体を噴射。
なんとこれは! 衣服のみを溶かすHな溶解液ではないか! お約束!
「はわぁぁぁ……!?」
溶けたパーカーと水着をおさえて、真っ赤になる恋音。(かんこれの大破絵をご想像ください)
「おおっ、なんてエロい巨大ハマグリ! これはちょっとさわってみたくなりますね!」
雅人の思考は、ときどき宇宙人めいている。
どう見てもさわったら駄目な敵だが、だれも止めないので雅人はハマボロにタッチ──する寸前、貝殻がガバッと開いて雅人の腕に噛みついた。
さらに追加で登場したハマボロが、雅人の両手両脚を拘束する。
完全に動けなくなったところへ、以前お世話になった男の娘型ディアボロが登場!
雅人はあっというまに押し倒されて、なにやらピンク色のオーラが漂い始める。
「ぐおおおっ、まさか男の娘まで出てくるとは! 闇渡りで緊急離脱です!」
だが残念! まったく身動きできない!
「こうなれば恋音! 私ごと敵を焼きつくし……れ、恋音!?」
気がつけば恋音の姿はなかった。
水着を溶かされてあられもない姿になってしまった彼女は、我を失ってどこかへ走り去ってしまったようだ。
「こ、このままだと私の運命は……っ!?」
こんな所に来たのが悪いんだ。
「アッーーー!」
雅人の*は死んだ。
「潮干狩りー♪ いっぱい貝をとって今日の夕飯にするのだ♪」
焔・楓(
ja7214)は、シャツ一枚にスパッツという格好でやってきた。
いかにも潮干狩りというスタイルだ。あるいは昆虫採集とかだ。
「大物いるかな? かな? 大きな貝さん、隠れてないで出ておいで、なのだ♪」
と言いながら、楓はアサリに対して『挑発』を使用!
ピューッと水を噴き出してきたところを、華麗に『サイドステップ』で回避!
「ふふん♪ 大物いただきなのだ! ……わひゃ!?」
足を滑らせた楓は、だれかの掘り返した水溜まりの中へボチャン。
たかがアサリ1匹に『挑発&サイドステップ』は、大盤振る舞いすぎた。
「うー、びしょ濡れなのだー(汗」
犬みたいに全身をブルブルさせると、楓は躊躇なく服を脱いだ。
そしてパンツ一丁のまま服を乾かしつつ、狩り再開。
「服は日向に置いておけば乾くよね? それじゃあ潮干狩り再開なのだ♪ もっといっぱい獲るのだー♪」
熊手片手に、ふたたび波打ち際へと走る楓。
そのまま最期の時間まで、自分の恥ずかしい姿には気付かぬまま潮干狩りを続ける楓であった。
「亜矢ちゃん、貝堀りしてるのぉ、手伝うねぇ♪」
そう言って、白野小梅(
jb4012)は『ニャンコ・ザ・ズームパンチ』を発動した。
と同時に巨大なネコの姿のアウルが出現し、オラオラ状態で肉球パンチを砂浜へ振り下ろす。
巻き上がる砂嵐。飛び散るアサリ。
その間、小梅は無駄にスタイリッシュなポーズでJOJO立ちしている(重要)
「にゃはははは」とか笑いながら、使用回数上限まで連打連打連打!
識別しないで無差別に撃ちまくってるから、そこらへんの人たちとかえらい勢いで巻きこんでる。もちろん亜矢も巻きこまれてるが、小梅にとってはわりとどうでもいいことらしい。
ひととおりニャンコパンチが終わったら、出てきた貝を回収(駄洒落)
「も、いっかなぁ?」
適当に貝を集めたら倒れた亜矢の上にドシャッと乗っけて、あとはフリータイム。
っていうか、調理スペースからおいしそうな匂いがしてきたので潮干狩りとかしてる場合じゃない!
「アサリですか……根こそぎ捕り尽くしても問題ないですよね」
言うや否や、雫(
ja1894)は砂面をえぐるように封砲をブッ放した。
景気よく舞い上がる砂と海水。大量のアサリに混じって、ヤドカリやカニなどが巻き上げられる。
そして、落ちてくるアサリをザルで回収。
封砲を使い切ったら、地すり残月、翔閃、ウェポンバッシュと次々に繰り出し、無茶苦茶な勢いでアサリを収獲。その豪快極まる潮干狩りに、周囲から拍手が飛んだ。
「貝殻が壊れないよう、力加減に注意しないといけませんね」
そんな微妙な力加減が可能なのかと思うが、まぁ久遠ヶ原だしアサリの貝殻も鍛えられてるに違いない。
攻撃スキルを使い切ったら、次の作戦。
買っておいた金棒を利用して、即席の鋤簾(じょれん)を作るのだ。
ようするに熊手のデカいやつである。
これを腰にくくりつけたら……いざ縮地! 鋤簾を引きずりながら、砂浜を縦横無尽に走りまわるぜ!
これまたえらい勢いでアサリが──
「グワーッ!」
「……? なにか轢いたような気がしましたが………気のせいですね」
卍が轢かれて犬神家のアレみたいな状態で砂浜に突き刺さってるが、うん、気のせいだな!
そんなことよりアサリ獲ろうぜ!
「さて……料理の準備をしましょうか♪」
木嶋香里(
jb7748)は、たくさんの米、パスタ、野菜などを持って仮設テントにやってきた。
調理器具も自前で用意し、準備は万端。潮干狩りをする気はない!
もっとも、わざわざ自分で採らなくても大勢の人たちがアサリを持ってきてくれるので食材に困ることはなかった。
ボウルにザルをかさねてアサリを真水で洗い、海水を入れたボウルにアサリを置いてダンボールをかぶせるという手間をかけて、きっちり砂抜き。
そして、持ってきたパスタと米を使ってボンゴレとパエリアを作る。
千里や桜花、突破たちも協力して、盛大な海鮮料理パーティーが始まった。
飢えた撃退士たちが、ゾンビみたいに集まってくる。
「影分身って、3T(15秒)しかもたないんじゃないですかねえ。……まぁ本人が楽しそうだし、そっとしておきますか」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は、亜矢の様子を見て冷ややかに呟いた。
「……まぁ、そんなことより。浜辺に打ち上げられたような、こんな小さな貝ばかりちまちま集めていてもラチがあきません。大物は海の中に潜んでいるはずです。……というわけで、ダイヤ召喚!」
呼び出されたのはストレイシオン。
これで海底を探索させて、巨大な貝を探し出す狙いだ。
が──
現れたのは、オウムガイみたいな巨大メカ型ディアボロだった。
久遠ヶ原近海には何が潜んでるかわからない!
「これは手強そうですね……。ならば初手から全力で葬りましょう! アドリブ奥義・固有決壊阿鼻叫喚!」
いきなり最終奥義をぶっぱなすエイルズ。
でも、これって自爆技だったような……。
しかも相手は殻に閉じこもって完全無傷!
おまけに変な脚とか生えててめっちゃ素早いし、誘導レーザーと拡散ミサイルで弾幕シューティングみたいな攻撃してくる。
当然エイルズは撃沈。
そして潮干狩り会場に、ダライ●スのボスみたいなのが襲来!
まずいことに、今日の潮干狩り客たちは誰ひとりそんな天魔が襲ってくるとは思ってなかった。
みんな撃退士としての自覚が足りない。潮干狩りイベントだからって潮干狩りだけしてればいいってもんじゃないんだ!
もちろん中には熊手とバケツで立ち向かう勇者もいたが、勝ち目などあるはずない。
乱れ飛ぶレーザーの雨。
炸裂するミサイルの嵐。
たちまち、砂浜は惨劇の場と化した。
まさに死屍累々。ボンゴレとか深川飯とか言ってる場合じゃない。
なぜ潮干狩りに来てこんな目に遭わなければならないのかと思う撃退士たちだが、ここは久遠ヶ原。『油断=死』なのだ。
まぁ大体エイルズが悪いっていうか、すべてエイルズが悪いんだけど、こんなときのために後始末をつける役者は用意されている。
そう、浜辺の平和を守るライフセーバー・ラファルだ!
「よーし、俺の出番だな。今回ボクシング部もいねーから、俺がケツもつしかねーんだよな」
だれもケツもってくれとは頼んでないのだが、なんにせよGJ!
もしもラファルがいなければ、潮干狩り会場は地獄と化していただろう。
「そんじゃまぁ、ポチッとな」
ち ゅ ど お お お お お ん ん!!
いつのまにか砂浜に仕掛けられていた大量の爆薬が、すべてを吹き飛ばした。
撃退士たちもアサリたちも、海の家も、ボンゴレも、なにもかもをだ。
どう見てもディアボロより被害が大きいが、これぞラファル流撃退術!
もちろんラファル自身も爆発四散!
こうして砂浜に静寂が取り戻されたのだ!
「……もう朝ですか?」
すべてが終わったあとで、棺はポツリと呟いた。
なんせ一週間も同じ場所にいたので、潮の満ち引きを繰り返したすえ彼の棺桶はフジツボやら海草やら何やら、ひどいありさまだ。
その棺の中から、貝の出水管みたいなのがニューッと出てくる。
そして、ぷしゅーっ!と排水。
その姿を目撃した者たちの間では、新種の貝類発見と大騒ぎになったのであった。