「話を聞いていれば……無一文で焼肉だと?」
様子を見かねて、パウリーネ(
jb8709)が声をかけた。
「あらリーネちゃん。この子の相談に乗ってくれる?」
明日羽がカルーアの頭をぽんぽん叩いた。
「金がないなら自給自足すればよかろう? 畑で野菜を作り、丹精こめて牛や豚を育て……そして食う。きっと多分おそらく、物好き数名くらいは入部するはず」
「カルーアは今すぐ焼肉したいのです! 野菜も無用なのです!」
「焼き林檎おいしいよ?」
「そんなのクソまずいのです!」
この発言は、確実にパウリーネの機嫌を損ねた。
「部費がないなら、現地調達すればいいんですよ」
当然のように、雫(
ja1894)が言った。
「現地調達、です?」
首をかしげるカルーア。
「はい。機材も何もないという話ですが、たとえば焼き網は……工事用の金網を綺麗にすれば転用可能ですね。燃料は……そのへんの木を切り倒して乾かせば問題なし。食器は……木の枝などを加工すれば使えます」
「なんだかワイルドなのです!」
「肝腎の食材は……近くの海から海産物を、獣肉は野山に出かけて調達。そこらへんのカラスやスズメ、ハトなどを捕獲するのも良いでしょう」
「カラスを食べるですか!?」
「はい。ハトはフランス料理でも使われる食材ですし、カラスなど高級食材扱いですよ。スズメは可食部が少ないですが、とても美味です。とくに冬場は絶品でした」
「そんなお肉が、そこらへん歩いてるですか!? すぐ捕まえてBBQです!」
「慌ててはいけません。肉は熟成させたほうがおいしいので、パーティーの数日前に狩っておくほうが得策です」
「それじゃダメなのです!カルーアは今すぐ焼肉したいのです! でも、そこらへんのハトとか食べられるのは、いいこと聞いたです!」
久遠ヶ原島からハトやスズメが消えたら、雫のせいだ。
「うぅん……あの騒ぎは……」
カルーアの様子を見て、月乃宮恋音(
jb1221)は悟った。
どうやら先日自分が焼肉に誘ったのが原因らしいと。
「どうしました、恋音。……ややっ、あれは佐渡乃さん! とても危険な予感がしますよ!」
恋音の隣にいた袋井雅人(
jb1469)が、顔色を変えた。
その予感はもちろん的中するので、みんな覚悟を決めよう。
「まぁとにかく……話を聞きましょうかぁ……」
「見えている地雷を踏みに行く! さすがですね! 私もつきあいますよ!」
そう言ってる雅人が、歩く地雷みたいなもんなので……まぁ、うん……。
「あのぉ……話を聞いてたのですけれどぉ……」
「あっ! 焼肉のおねーさんなのです!」
「えとぉ……うぅん……」
完全に『焼肉のお姉さん』扱いされて、困惑する恋音。
だが、すぐに体勢を立てなおして話を進める。
「ええと、カルーアさん……クラブを作るには、書類が必要なのですけれどぉ……手続きは済ませましたかぁ……?」
「書類とかイミフなのです!」
「でしたら、私がやりましょうかぁ……? カルーアさんは、署名だけで結構ですぅ……」
「全部まかせたです! それより焼肉なのです!」
「では場所を替えて……焼肉を食べながら、相談しましょうかぁ……」
「そうするのです!」
勝利のガッツポーズをとるカルーア。
だが、そこへ雅人が口をはさんだ。
「待ってください、カルーアさん! 働かざるもの食うべからず! なので私は、この依頼の前に別の依頼でディアボロを退治してきましたよ! 労働のあとに食べる焼肉こそが至高の美味なのです!」
「変態は黙ってろです!」
「アバーッ!?」
カルーアの巨大剣玉が、雅人の●玉に命中した。
おっぱい揉まれた恨みは忘れてないぞ!
「じゃあ私も、とっておきのお肉をごちそうするわね」
話を聞きつけた満月美華(
jb6831)が、壺漬けカルビ片手に走ってきた。
「ふぅん……おいしそうな肉だね?」
妖しく微笑む明日羽は、カルビではなく美華の肢体を見つめている。
「もちろん。とてもおいしいお肉ですわ」
「それはたのしみだね?」
着実に何かのフラグが!
「待って! お金はどうするんですの?」
通りすがりの咲魔アコ(
jc1188)は、最初から祭りに便乗する構えだった。
そう、そもそも金がないから焼肉できないという話だったのだ。
そこへひょっこり顔を出したのは、玉置雪子(
jb8344)
「明日羽先輩の話だと、これは『依頼』ですよね? だったら、3000久遠支給されますよね? 全員分あつめれば、七輪と炭と食材くらいは用意できる希ガス」
それは名案!
と思いきや──
「七輪? 炭? 食材? なに言ってるの!? まずは酒よ! なにがなくとも酒よ! 焼肉に酒は不可欠でしょう!? 日本酒、焼酎、ビール、ウイスキー、ワイン、ウォッカ、テキーラ、ジンにラム……ロックにお湯割り、ソーダ割り、レモンもほしいわね。……肉ぅ? いいのよ、そんなの後回しで!」
えらい剣幕で、アコがまくしたてた。
一同の視線が集まる中、彼女は続ける。
「でも、いっぱい飲むなら明日羽ちゃんの協力が必要なのよねぇ……オマケとはいえ、肉も炭火で焼きたいし……ねぇ明日羽ちゃん、お金出してくださる?」
「かわりに何かしてくれるの?」
「お酒が飲めるなら、なにをしてもよくてよ。……あ、でも後払いでいいかしら? ああいうのは、お酒が入ってるほうが楽しいに決まってますもの、ね?」
「ふふ……約束したよ?」
にんまり笑って、明日羽はアコの胸元に札束をつっこんだ。
「では、資金が確保できたところで……場所を決めませんかぁ……? とくに希望がなければ、先日と同じ公園で
「待った! 希望はある! 私の話を聞け!」
恋音のセリフを遮って、桜花(
jb0392)が光の速さで走ってきた。
一体なにごとかと、目を見張る撃退士たち。
「公園で焼肉なんて近所迷惑! この季節だと花粉症とか虫刺されとかあるし! ここはいっそ、カルーアの部屋でどう? いや別に、幼女の部屋が見たいわけじゃないからね! そこで股間おさえてる変態と一緒にしないでね!」
「カルーアの部屋せまいのです。窮屈なのですよ」
「そこが! そこがいいんだよ! よし決まり! 幼女のお部屋で肉欲を満たそう!」
あっというまに話は決着した。
いま気付いたけど、この依頼って変態しかいないな……。
あ、いつものことか……。
ともあれ会場が決まり、パウリーネ、雪子、アコ、雅人の4人は買い出しに。
恋音は創部に必要な書類を取りに行き、あとの5人はカルーアの部屋で準備をすることになった。
が──
この買い出し班は、少々問題だった。
「酒! 酒! なにはなくとも酒よ!」(アコ)
「林檎だ……みな林檎を食べるのだ」(パウリーネ)
「みなさん、野菜を食べましょう!」(雅人)
「雪子、お肉は食べないですしおすし」(雪子)
買い物カゴに次々放り込まれる、酒と林檎と野菜。
雪子は少食なので、どれだけ肉を買い物カゴにシュゥゥゥーッ!超!エキサイティン!すればいいかわからないため、自腹で豆腐と鰻のひらきを買っている。これで焼き豆腐と蒲焼きを作る予定なのだ。……って、おい! だれか! 肉を買え!
「だって雪子、あんまりお肉食べられないですしおすし。雪子だけ野菜炒めパーティーじゃないですかー! やだー!」
だれかに何か言われたわけでもないのに、大声でわめく雪子。
肉が駄目なのは、寿命が短い関係で胃腸も徐々に弱ってきているせいだ。
『あたしオムライス食べられないんですぅ、ヒヨコさん死んじゃう……><』とかいうキャラ作りとはワケが違う。
「……あ、でも鶏肉ならヘルシーでサッパリしてて食べやすいんジャマイカ?」
ちょうど串に刺さってて食べやすそうな鶏肉を見つけて、雪子は買い物カゴに放りこんだ。
言うまでもないが、それは焼き鳥だ。
──結果、購入したもの。
大量の酒。リンゴ。野菜。焼き鳥。豆腐。鰻。
これらをかかえて、買い出し班はカルーアの部屋へ向かうのだった。
「お肉が……お肉がないのです!」
レジ袋の中身を見て、カルーアは叫んだ。
『あ、そういえば……』みたいな顔で、おたがいを見つめる買い出し班。
「ふざけんなです! もういちど行けです!」
「大丈夫。ここにカルビがありますわ」
おお、まさかこんな形で美華の所持品が役に立つとは!
「こんなんで足りるかです! とっとと買ってきやがれです!」
残念、まるで役に立ってなかった!
そんなこんなで無駄な二度手間のすえ、ようやく焼肉パーティーが始まった。
ちなみに6畳のワンルームである。そこに10人の男女が集まると、かなりの人口密度だ。
よく見れば男は雅人だけで完全にハーレム状態だが、一番うれしそうなのは桜花さん。
雫、雪子、パウリーネ、カルーアの美少女4人をはべらせて、まさに酒池肉林状態だ。
……あれ? これって桜花をたのしませるための依頼だったっけ?
「焼肉部……太りそうだしお金かかりそうだし、入るつもりなかったけど……これなら体験入部してもいいかも!」
「本当なのですか!」
「うんうん。だからここにおいで。お姉さんの膝の上に」
「おやすい御用なのです!」
誘われるまま、桜花の膝の上で焼肉を食べるカルーア。
「そういえば、部員が足りないのでしたよねぇ……私でよければ、名前をお貸ししますが……?」
こまめに肉をひっくりかえしながら、恋音が言った。
「だれでも歓迎なのです!」
「では、知人にも声をかけてみましょう……幽霊部員としてなら、名前を貸してくれる方がいるかもしれません……」
「なら私も入部しますわ」と、美華。
「おぉ……満月先輩も、焼肉部員ですかぁ……」
「まぁ焼肉は好きだし。それにしても、このお肉。本当においしいわね」
ごはん茶碗片手に、焼けた肉を片端から食べる美華。
「みんなー、野菜もちゃんと食べないと駄目ですよ!」
めずらしくマトモなことを言って、雅人は焼きトウモロコシをかじっていた。
それは野菜じゃなくて穀物だが、こまかいことは気にするな。
「野菜なんてどうでもいいのですわ! それよりカルーアちゃん、私にお酒を注いでくださる?」
アコが手にしているのは、洗面器サイズのドンブリだった。
「そんなの自分でやれです!」
「あら。部長になるのでしたら、それぐらい当然ですわよ? 人間界の礼儀ですわ」
「そ、そうなのです!?」
あわててドンブリにウォッカを注ぐカルーア。
「そうそう、肉を焼くのも部長さんの仕事よ?」
「そ、そうなのです!?」
あわてて肉を焼くカルーア。
「そして、給仕といったらやっぱり『これ』よね!」
アコは従兄に借りたメイド服を取り出すと、無理やりカルーアに着せた。
「はうぁああ……っ!?」
「まぁよく似合ってるわ。ほらほら、がんばりなさい部長さん♪ そこの肉、焦げてるわよ。よく見なさい。トロいわねぇ」
「これが部長の仕事なのです!?」
「そうよ。……うん、良いお酒ね。お肉もおいしい。やっぱり焼肉は人に焼かせるに限るわね」
サドい笑顔で肉をほおばり、酒をあおるアコ。
「私もお酒が足りません。注いでください、部長さん」
アコに負けぬ口調で、パウリーネが命令した。
「は、はいっ!」
あわてて撃退酒をグラスに注ぐカルーア。
「肉も取ってきてください。気が利かない子ですね。言っておきますが私は塩派なので。タレなんか持ってきたらブチ殺しますよ?」
「はわわ……!」
「そうそう、そんなことより焼肉部の話でした。いっそ焼肉部改め林檎部でも設立したらどうです? とても楽しいのではないかと思いますよ。毎日焼肉は不健康ですが、毎日林檎は健康的。なにより林檎派が増えるのは喜ばしいです。さぁ林檎を食べましょう?」
酔った勢いで、焼き林檎をカルーアの顔面に押しつけるパウリーネ。
ジュウウウッ!
「あちひぃぃぃッ!」
林檎型の焼き印を押されて、カルーアは床を転げまわった。
「まぁ大変。やけどには林檎が効きますよ」
焼きたて熱々の林檎を選んで、メイド服の中につっこむパウリーネ。
ジュウウウッ!
「ひゃちィィィっ!?」
まるでイジメだが、これは林檎をクソまずいと言われたことへの正当な報復だ。
「うぅん……これでは、焼肉部の助言どころでは……」
書類を手にしたまま、恋音は呆然と佇んでいた。
「そんなの、もういいじゃない。それより恋音も一杯どう?」
当然のように撃退酒を持ってくる美華。
「しかし、これは一応『依頼』ですし……」
「堅苦しいこと言わずに! ほらほら、飲んで飲んで! 私も飲むから!」
「では……一杯だけですよぉ……?」
いっせーので、同時に撃退酒を飲もうとする美華と恋音。
そこへ、雅人が飛び込んできた。
「待ってください! 危険が危ない!」
どぐしゃあああっ!
地震みたいに揺れるアパート。
そしてお約束どおり膨張した恋音と美華のおっぱいが、雅人をサンドイッチして押しつぶしたのであった。
「お、おそろしいのです……!」
あまりのことに、震えるカルーア。
「大丈夫。私が守るからね?」
下心丸出しで、桜花が頭を撫でた。
「そうですよ。私が守りますからね?」
雫もカルーアの頭を撫でる。
どうやら彼女も酔っぱらってるようだ。
「よし、カルーア、雫、雪子! いまこそ服を脱いで、サンチュを体に乗せるんだ!」
桜花は唐突にワケのわからないことを言い出した。
どうやら彼女も酔っぱらって……はいないようだ。これでシラフだから恐ろしい。
「なに言ってるお? アタマおかしいのかお?」
焼き鳥をかじりながら、雪子が基地外を見るような目を向けた。
「私は正常だ! いいか、裸体にサンチュを乗せて、その上から焼肉とタレをかけて口だけで食べるんだ! 焼肉でも女体盛りができるってことを、いまこそ世に知らしめるんだよ!」
「そんなの自分でやれお」
「わかったよ! じゃあ私がやるよ! カルーアは部長だから付き合ってね!」
「あひえええっ!?」
桜花は自ら制服を脱ぎ捨てると、圧倒的支配力でカルーアのメイド服を剥ぎ取った。
そして、みごとな女体盛り焼肉2人前が完成!
「さすが部長ですね」
雫がカルーアのXXXを鉄串で突き刺した。
「あひぇぇぇ!?」
「桜花も綺麗ですわ。……ああ、なんて猟奇的♪」
アコはドンブリ酒を飲みながら、鑑賞モード。
「どんどん食べて! おかわりもあるよ! みんなの肉欲を存分に満たすんだ!」
自らの胸にカルビを盛りつける桜花は、完全にどうかしていた。
「じゃあ、アコちゃんにも同じコトしてもらおうかな? なんでもするって言ったよね?」
と、明日羽。
「ふ……女に二言はありませんわ!」
アコは躊躇なく脱衣すると、3皿目の女体盛りになった。
というわけで──
美華と恋音は超乳化現象で自重に押しつぶされ、雅人は下敷きになり、
3皿の女体盛りを、明日羽と雫とパウリーネが容赦なく突っつきまわし、
雪子はマイペースに鰻丼を作って食べるのだった。
これが、記念すべき焼肉部最初の活動記録である。