久遠ヶ原には日々さまざまな依頼が舞い込むが、今回の依頼は他に類を見ない内容だった。
なにしろ、『一般人のラノベ作家をキャバクラ嬢として接待する』という依頼なのだから。
久遠ヶ原じゃなければ、風営法違反で捕まってる。
「この学園の風紀は、一体どうなってるのかしらァ……」
そう言って、黒百合(
ja0422)はクスッと笑った。
いまは会場の設営中。服装はセーラー服だ。
ただし、ノーパンノーブラノースリーブ。ついでにノーマーシィ。風紀がヤバイ。
「うぅん……風紀、ですかぁ……」
応じる月乃宮恋音(
jb1221)も、セーラー服姿だ。
こちらはちゃんと下着をつけている。
が、巨大な乳房のせいで上着が持ち上がり、へそ出し状態。あきらかに風紀が(ry
「ライトノベル作家、ですか……。どういう方なのでしょう。お口にあえばいいですけど……」
クロフィ・フェーン(
jb5188)は軽く首をひねりつつ、お手製の菓子類を卓上に並べていた。
彼女はラノベなどほとんど読まないので、その取材と言われてもピンとこない。
ちなみに服装は、上下が分かれたゴシックロリィタ風。下着は着けてない! 風紀!
「ギューどんには恩義があるべから、今日はいっぱい接待するべ」
いつもは男だか女だかもわからないような芋娘の御供瞳(
jb6018)だが、今日は違った。
シックな和服に身をつつみ、大人っぽいムードを漂わせて気合入りまくりだ。一体なにがあったのか。
「キャバクラって、なんだか知らないけど……とにかくお話して、一緒に飲んだり食べたりすればいいんだよねー?」
元気いっぱい小学生の焔・楓(
ja7214)は、タンクトップにスパッツという服装だ。
これまた風紀が……いやコレは特に問題なかった。
「うちは未成年やし、キャバクラとか行ったことないさかいようわからんけど……聞いた話やと真ん中にリングがあって、女の子同士のバトル見せたりするらしいで」
などと言いながら、黒神未来(
jb9907)は教室の中心にリングを設置していた。
そう、これぞプロレスキャバクラ!
じつはプロレスとキャバクラには、大きな類似点がある。体ひとつで客(ファン)を惹きつけるのは他のアスリートや芸能人も同じだが、レスラーとキャバクラ嬢は『演技』が仕事なのだ。客もそれを理解して楽しむあたり、そっくりである。
もちろん未来はそこまで考えてプロレスキャバクラを考案……したわけじゃなく、単に暴れたかっただけだ!
「今回お見えになるお方は、爵位を持つ貴族の方です。粗相がないよう勤めなければなりませんね」
ステラ シアフィールド(
jb3278)は、だれよりも真剣だった。
身につけているのはメイド服。そこらのコスプレと違って、完璧な着こなしだ。
「お見えになる理由は取材とのことですが、どういったことを取材にこられるのでしょうか。わかる範囲では小説家としてご活躍しているようですが……となりますと、次回作等の題材となる物でしょうか。とりあえずは粗相がないよう、最善を尽くしましょう」
そのころ。ユキメ・フローズン(
jb1388)は、調理実習室で自慢の腕をふるっていた。
いでたちは、普段着の和服に割烹着。
献立はもちろん和食中心だ。前日から念入りに下ごしらえしてあり、かなり手が込んでいる。
「金目の煮付け、大根の煮物、御飯系は五目稲荷……こんなところね。あとは、リクエストされたらでいいかしら」
完成したのは、みごとなコース料理だった。
しかし、男爵が来るまでにはまだ時間がある。
ここでユキメは、ちらりと横を見た。
壁に純白のチャイナドレスが下げられている。
昨日、買い物途中でバッタリ遭遇した赤猫店長から無理やり……というか無言で押しつけられたのだ。
「これを着て接待しろと……?」
溜め息をつくユキメ。
だが確かに、キャバクラならチャイナはアリだ。
「まぁ、ものはためしで……着てみようかしら?」
──数分後。
そこには、チャイナ姿のユキメがいた。
鏡の前でポーズまでとって、わりとノリノリである。
が、そのとき
「えとぉ……よく、お似合いですよぉ……」
後ろから恋音が話しかけた。
おもわず跳び上がり、あせるユキメ。
「こ、これは、強引に……! 友人に無理やり渡されたのよ!」
「そうですかぁ……。良いと思いますよぉ……」
「そ、そう? でも……うーん……」
などと言ってる間に、時間がやってきた。
「ここは相変わらずカオスだな……どこがどこやらサッパリだ」
学園の正門前で、ギュー男爵は左右を見まわした。
そこへ、ステラが迎えにやってくる。
なんと彼女、30分も前から待機していたのだ。
「本日はようこそおいでくださいました、ギュー男爵閣下。本日メイドとして御仕えする、ステラ シアフィールドと申します。どうかよろしくお願い致します」
ステラは両手でスカートの裾をつまむと、軽くスカートを持ち上げて深々と頭を下げた。腰だけでなく膝まで柔らかく折り曲げての、より丁寧なカーテシーだ。
「おお、いいねえ」
「では閣下。会場までご案内しましょう。手荷物など御座いましたら、お預かり致します」
「じゃあこれを持ってくれ」
男爵が持たせたのは、エロゲーのキャラ(半裸)の抱き枕だった。
わざわざセクハラのためだけに持ってきたのだ。
「これを、ですか……」
ステラの頬が赤くなった。
だが本当は何も感じてなどいない。恥ずかしがるのが相手の希望だと判断して、意図的に頬を染めたのだ。実際、男爵は満足げである。
「では参りましょう」
ステラはちゃんとエロゲのキャラが見えるように枕をかかえると、男爵の横に付き従って歩きだした。行く方向を示すときだけそっと前に出て、先導する。
おお、なんとみごとな奉仕力。
「男爵先生、久遠ヶ原へようこそやー!」
会場に到着した男爵を、未来が元気に出迎えた。
ちなみに服装はブレザー制服。セクシーな衣装など一着も持ってないのだ。
しかしキャバクラ常連の男爵にとっては、制服のほうが新鮮!
「お嬢ちゃん、名前は?」
「黒神未来や! ご指名よろしうな!」
「未来ちゃんね。覚えておこう」
「おおきに! ご新規さま一名ご案内〜!」
未来の対応が、やけに手慣れてる。
「ギューどん、ひさしぶりだべ〜。今日は全力で接待するっちゃよ」
和服姿の瞳が、無邪気に男爵へ抱きついた。
前回の取材ではセクハラ三昧で印象最悪の男爵だったのに、この歓迎ぶりは一体?
じつは瞳ちゃん、四国戦争の折に生き別れて以来ずっと探してきた旦那さまぁに再会できたのは男爵のおかげだと信じているのだ。彼女の身の上話を聞いた男爵が同情して旦那さまぁが見つかるよう祈ってくれたことには感謝しており、恩返しの機会を狙っていた次第。男爵のお願いは何でも聞いちゃうつもりだ。
「ならば、言葉どおり全身で接待してもらおう」
男爵はいきなりズボンのベルトに手をかけた。
そして、おもむろにジッパーを……
「それは、蔵倫待ったなしですぅぅ……!」
男爵の行動を察して、恋音が止めた。
「ん? いっぱい食べられるようにベルトをゆるめただけだが?」
にやにや笑う男爵。
「こ、これは失礼な勘違いををを……!」
「どんな勘違いしたの? ん?」
「そ、それはぁぁ……!」
赤面して震える恋音。
「よく見れば、けしからん乳がますます成長してるな。それだけあれば、余裕でアレができる」
「ア、アレですかぁ……!?」
「ん? どんな想像したの?」
「うぅぅ……」
今回も男爵はセクハラ放題!
「恋音ちゃんが困ってるわァ……。今日は取材で来たのよねェ……?」
黒百合が近付き、そっと男爵の腕に触れた。
「おお、キミもかわいいね。小学生?」
「中学生よォ……。こちらへどうぞ、先生」
黒百合は男爵をソファに座らせると、隣に腰を下ろした。
そして意図的に体を接触させつつ、グラスにウイスキーをそそぐ。
ノーブラなので、男爵の腕に当たる感触が! 感触がああ!
そこへ、ユキメが自作料理を運んできた。
まえもって並べられていた恋音の洋食系おつまみと合わさって、いいバランスだ。
が、男爵は「チャイナもいいな!」とか言ってユキメを視姦してばかり。
「ええと……和服もあるのよ?」
「俺はチャイナ派だ!」
「そ、そう……」
こう堂々と趣味を告白されては、ユキメも黙るしかなかった。
「飲み物追加なのだ♪ ええと……このお酒でいいのかな? かな?」
慣れない接待に戸惑いつつ、楓はブランデーを持ってきた。
なんとバニーガールの衣装だ。しかも胸がスカスカで、中が覗き込めてしまう!
「うおおおっ!」
男爵が今日一番の声を上げた。
「接待が何か知らないけど、格好はこれがいいって聞いたのだ♪ ちょっとぶかぶかだけどウサギさんなのだ♪」
かわいらしく、ピョンと跳ねる楓。
「そう! それが『接待』だ! ごほうびをあげよう!」
男爵が楓の胸元に札束をつっこんだ。
「はわわ……っ!?」
「もっとほしいかい? よし、たっぷり出してあげよう」
「やんっ、くすぐったいのだ♪ おかえしにくすぐっちゃ……あや? はやややや!? お洋服ぬげちゃったのだっ!」
「おおっ、ベニッシモ!」
「ディ・モールト素晴らしい!」
このハプニングに、男爵もMSも大喜びだ!(おい
「あのぉ……今日は一応、取材で来たのでは……?」
恋音が冷静に指摘した。
「ああ、そうだった。最近おもしろいことはあったかい?」
「最近ですと、撃退酒というものが……」
「なにそれ」
「えとぉ……ノンアルコール飲料なのですけれど、体内のアウルを乱して……
「理屈はいいから飲んでみて」
「は、はいぃ……」
過去の酒乱ぶりを思い出し、赤面しつつも撃退酒を飲む恋音。
すると──
「はぅぅ……先生ぇ……私、とても熱いんですぅ……」
色っぽい声を漏らして、恋音は男爵にしなだれかかった。
これでは取材どころではない。
「ほかにも色々な薬があるんですよぉ……体型が変わる薬とか、動物化する薬とか……。これは、子供になっちゃう薬ですぅ……。そういうのがお好みと、お聞きしたことがありますのでぇ……ちょっと飲んでみますねぇ……?」
恋音は特製トマトジュースを取り出すと、一気に飲み干した。
そのとたん、姿は4歳児に! 胸はそのままで、ロリ爆乳が爆誕!
「うおおっ!」
男爵大喜び。
取材はどこへ……。
「それじゃァ、私がネタになりそうな話をしてあげるわァ……」
恋音の反対側から、黒百合が男爵にすり寄った。
吐息が耳に触れるほどの至近距離。しかも片手が男爵の下半身に!
「キミは『接待』ってものがわかってるね」
「ふふ……。しばらく前の話だけどォ……依頼の関係で敵の本拠地に潜入作戦を行ったのよォ。そしたら捕まっちゃってねェ……頑張ったんだけど、最後は力尽きて嬲り者に……大変だったわァ……」
「詳細を聞きたいな」
「それはヒミツよォ……ちなみに『嬲る』って漢字、『女』を『男』が前後から挟み込んでる形で、なかなか過激よねェ……?」
「なるほど、つまり3P」
これ以上いけない!
「次はオラァの番だぁ! 出血大サービスだべ!」
瞳は大胆にキャストオフすると、半裸でテーブルに飛び乗った。
これまたみごとな接待だ!
しかし瞳の浅黒い肌に浮かぶのは、痛車ならぬ痛ボディペイント。東京スーパー●ーク王子もかくやというスーパーイケメンが、中指をおったててお怒りモードだ。そう、瞳は忘れてなかった。男爵が旦那さまぁの無事を祈る前に、爆発しろと呪っていたことを。
たしかに瞳は、旦那様ぁと再会できた。だが彼はすでに、帰らぬ人だったのだ!
イタコ(痛子)体質で剣に宿った旦那様ぁの霊から聞いたところ、謎の思念によって暴走した彼は撃退士に討たれていた。そこで思い当たったのは男爵の言葉。愛憎ないまぜになった瞳の『SETTAI(物理)』が火を噴く!
「天国と地獄を味わうべ、ギュー!」
瞳がコレダーを発動すると、スタープラチ●的な旦那さまぁの幻影が現れ──
「あぶない……っ!」
光纏したクロフィが、『庇護の翼』で割って入った。
危険に備えて、つねに身構えていたのだ。
「邪魔するでねぇ!」と、瞳。
「経緯はわかりませんが、一般人に暴力はいけません。当てるつもりはなくても、万が一ということがあります」
「うぅ……悔しいべ、旦那さまぁ……!」
クロフィの言葉は正論すぎて、瞳も引くしかなかった。
「助かったよ、お嬢ちゃん。ところでキミは、ネタないの?」
さすがに男爵も冷や汗をかいていた。
「小説のネタになるようなこと、ですか……じゃあ天界にある昔話をしましょう。僕は他の人たちほど、依頼で多くの経験がないので」
「昔話か。そのまえに一杯どうだ?」
「お酒ですか……では少しだけ」
そう答えると、クロフィはカルーアミルクを作って飲みはじめた。
そして昔話を語りだす。
「昔々、狂ったように悪魔を殺す攻撃的な天使がいました。あるときその天使は、何者かによって天界から人間界へ堕とされました。記憶をなくし力をなくし、人間に拾われたその天使が無意識のうちに身につけたのは……仲間を『守る』ための力でした。今その天使を知る者はなく、結末を知る者もいない……そんなお話です」
「それはキミ自身の話だな?」
「なぜ、そう思うんです?」
「そのほうが『話』として面白いからだ! 作家の勘さ!」
「正解はご想像にまかせますが……すこし嬉しいですね」
かすかに頬を染めるクロフィは、甘えるような笑みを浮かべた。
その表情に、男爵はキュン死!
「さーて、宴もたけなわや! ここで特別ショー、キャットファイト開催や!」
未来が宣言すると、会場の照明が一斉に消えた。
突然のことに、ざわつく場内。
次の瞬間、リングが照らし出されて、赤コーナーに未来の姿が!
自慢のDカップを見せるため、お気に入りの黒ビキニ着用だ!
一方、青コーナーには楓。頭にウサ耳をつけたまま、スク水に着替えての登場だ!
そしてゴングが鳴らされる!
「いくでー!」
未来は関節技中心に試合を展開させた。
技が極まるたび、楓の顔が苦痛に歪む。
しかも、ポロリしてるのに気付かない!
「卑怯やで! そんならウチもポロリさせたる!」
最近の未来は、ちょっとどうかしてる。
やがて試合と平行して、リングサイドの即席ステージではユキメの演舞が始まった。
ラジカセから流れる音楽にあわせ、両手に大きな鉄扇を持ってのパフォーマンスだ。
「もうヤケよ! 照覧あれ!」
なにか吹っ切れたように、チャイナドレスで舞うユキメ。
これには、みんなの視線が釘付けだ。
そんな嬢たちを眺めながら、酒と料理を満喫する男爵。
ステラの完璧な給仕がそれをささえ、黒百合の直接的なサービスが彼を悦ばせる。
これは、そこらのキャバクラより遙かに上等な歓迎と言えよう。
この日、男爵は決意した。本格的な『久遠ヶ原キャバクラ化計画』の立案を!