その日、平等院の招集に応じて20人あまりの撃退士が集まった。
これは、そんな料理自慢の撃退士たちと巨大野菜の戦いの記録である。
● 只野黒子(
ja0049)
「正直どれもおいしくなさそうですが……私はこれを選びます」
黒子が選んだのはカボチャだった。
無論ただのカボチャではない。それこそ馬車ぐらいありそうなスーパーカボチャだ。
が──。
「これは硬い……」
万能包丁を手に、黒子は苦戦していた。
硬いのは予想していたが、これは予想以上だ。包丁ではなく七星剣の出番かもしれない。
しかし、黒子は撃退士。こんなときこそアウルの力を使うのだ。
「くらえ、激打!」
ズバアアッ!
渾身の一撃を受けて、巨大カボチャは真っ二つになった。
間髪入れず、割れたカボチャへ翔閃! さらにスピンブレイド!
たちまちカボチャは一口サイズに切り刻まれた。
こんなことに翔閃とか使った撃退士は、きっと黒子が初めてだ。
ともあれ、ここまで小さくしてしまえばあとは通常のカボチャ料理である。
圧力釜を使い、やや甘めに煮付けてゆく。硬さを考慮して、煮る時間は長めに。
味がないなら煮付けで味を染み込ませようという作戦である。
煮込みが終われば、別の鍋で作っておいた豚コマ煮を添えて完成だ。
● 陽波透次(
ja0280)
彼は、とりあえず巨大野菜を試食することから始めた。
そう、これは戦いなのだ。まず敵を知らなくては話にならない。
が──やはり、前情報どおりのまずさ!
(これはひどい……無人島で遭難したときの、雑草で食いつないだ日々の苦渋を思い出したぞ……)
イヤな記憶が蘇ってきて、苦い表情になる透次。
だが、これも依頼だ。なんとかしなければならない。
(雑草だっていじれば食えなくもないし、調理次第ではとも思うが……。そうだ! いっそ、この巨大さを生かして食用以外で活用するのは? だって、よほどの極限状況じゃないと誰も食べないよね、この野菜。……ということで)
透次は超巨大ダイコンを手に取ると、ナイフで彫刻をはじめた。
モチーフは、近未来SFアニメ『キャッチザスカイ』に登場するロボットだ。
その名も、『ナイトフォーゲル XF-08Bミカガミ』
その1/1模型を作ろうというのである。
着色には食紅を使い、高所作業では壁走りで大根を駆け上り、水分で足が滑らないよう水上歩行も併用。
完全に調理を放棄した透次が、趣味の木彫り手芸で培った超絶技巧をもって優勝を狙う!
● 黒百合(
ja0422)
「おいしい料理ねェ……まァ、たのしみましょうかァ♪」
いつもの微笑を浮かべながら、黒百合は実習室にやってきた。
しかし、その様子はただごとではない。なんせ彼女が『搬入』してきたのは以下のような工具なのだ。
・剪断機
・粉砕機
・乾燥機
・大型チェーンソー
・掘削用ドリル
・梱包機
いずれも工業用の大型モデルで、完全にガチのプロ仕様である。
土木工事でも始めるつもりか、この人。
「さァて、まずは下ごしらえねェ♪」
いい笑顔でチェーンソーのエンジンをかける黒百合。
そして、巨大野菜を手当たり次第に滅多斬り!
カボチャなどの硬い野菜はドリルで穴をあけて爆薬を詰めこみ、おもむろに爆破!
ただただ野菜を木っ端微塵にしてるだけに見えるが、そうではない。
こうして粉々にした野菜の残骸を調味料と混ぜ合わせて、剪断→粉砕→乾燥の手順を踏めば──
あら不思議! 色鮮やかな野菜フレークが完成!
これを梱包機で小分けすれば、見た目には立派な商品だ。
「ふりかけにしてみたわァ、これなら多少野菜がまずくても食べれると思うのよォ♪」
作業工程はともかく、これは意外とイケる!?
● 雫(
ja1894)
「まずい野菜をおいしく調理させる……天才と自称するわりには、発想が普通ですね」
「ふ……凡人なら、野菜を品種改良しておいしくしようとするものだ。しかし、私はそんな手間をかけない。なにしろ天才だからな! はぁーはははは!」
「なにか根本的に間違ってると思いますが……まぁこれも依頼ですから、最低限のことはしましょう」
そんな会話のあと、雫が選んだのはワラビだった。
フクロネズミ目カンガルー科に属する動物で……はなくて、植物の蕨である。
まずは、巨大蕨の根から蕨粉を抽出。
蕨粉、水、砂糖を混ぜて透明になるまで加熱したら、型に入れて冷やす。
十分に冷えて固まったら丁寧に切り分け、きな粉と黒蜜で完成。
「ほう、わらび餅か」
「はい。なにしろ巨大なので、蕨粉が大量に採れますし。味もほとんどが黒蜜の味ですから、香りがあれば問題なしです」
だが本当に問題ないかどうかは、試食するまでわからない!
● エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
「カラスに白ペンキをぶちまけたところで、ハトにはなりません。まずい野菜は何をしたってまずいですよ。超天才平等院ともあろうお人が、そんなこともわからないとはねえ……」
エイルズは、あきれ気味に呟いた。
すでに野菜はいくつか味見しており、これらをおいしくするのは不可能との結論に至った次第だ。
しかし、これもれっきとした依頼。『できませんでした』で済ませるわけにはいかない。
ならば──おいしくなくても問題ないものを作れば良いのだ!
というわけで、エイルズは巨大野菜を煮込むための超巨大鍋をどこからともなく持ってきて、作業をはじめた。
それは『調理』というより、まさしく『作業』
なんせ、鍋の中に片っ端から野菜を放りこみ、脚立の上から野菜めがけて『黒のJOKER』をブッ放して切り刻むという手順なのだ。
こうして野菜を徹底的に煎じつめ──できあがったのは、みごとな青汁!
「これなら、おいしくなくても問題ないはずです。まずい野菜は、まずいまま利用するのが正解ではないでしょうか」
おお、これはみごとな逆転の発想!
● 佐藤としお(
ja2489)
「食べ物で遊んではいけないな」
と言いながら、ラーメン王としおがやってきた。
どうせまた、ラーメンを作るに決まって……
「ふっふっふ……どうせまたラーメンを作ると思ってるんだろう? まさかな、ラーメン極めしモノは全ての食材を制す! ググッてみろ!」
地の文に対して、意味不明な反論をするとしお。
いやスマン。べつに意味不明ではなかった。ただ、ラーメンを極めても全ての食材を制することはできないってだけだ。
「……ふ、まぁいいさ。これから、このキング様が華麗に食材を調理するところをごらんに入れよう! まずは、このトマトをカット……か、カッ……クソッタレガッーー!!」
硬すぎるトマトに業を煮やし、奥義バレットパレードをぶちかますラーメン王。
ラーメン食べすぎのカルシウム不足で、キレやすくなってるのかも。
「フム、やりすぎた……食材がバランバランだ……。だが安心してくれ。こんなときのために用意してきている……テテテテン♪ 『 と ん こ つ ラ ー メ ン 』」
もうダメだ、この男は……。
ラーメンのこと以外考えられない体になってしまったようだ……。
● 楯清十郎(
ja2990)
「これは難しいお題ですね……。しかし考えてきましたよ。僕なりに、巨大野菜をおいしく食べる方法を」
清十郎は、防護マスクにゴム手袋という格好で登場した。
選んだ食材は、バレーボールサイズのキウイ。表面はタワシみたいな剛毛に覆われたうえ、中身はスカスカのスポンジみたいな代物だ。
これを使って、キウイジャムのゼリーを作ろうというのである。
まずは、強力なタンパク質分解酵素に触れないよう、ゴム手袋で中華包丁フェンシング!
たしかに皮は硬いが、魔具+攻撃スキルをもってすればラクラク皮むき終了だ。
「ふ……どんなに硬かろうと所詮はキウイ。魔具の中華包丁なら楽勝です」
勝ち誇りながら、さらにクレセントサイスとオンスロートでキウイを細かく刻む清十郎。
あとは鍋で煮詰めてジャムを作るのだが、ここで大味なのを解消するためにキウイジュースを投入して味を整える。
「購買の期間限定品。これが決め手です」
なかなか芸が細かい。
ここまで来れば、あとはジャムにゼラチンを加えて冷やし固めて完成。
「ジャムにするのが大変だけど、あとは簡単ですね」
さて、審査員の評価はどうだろう。
● 月詠神削(
ja5265)
「せっかくだから、俺はこのジャガイモを選ぶぜ」
なにが『せっかく』なのかわからないが、神削が選んだのはジャガイモだった。
これで一体なにを作るのか!?
そう、『フライドポテト』だ!
べつに『!』付きで言うほどでもなかった!
「いいか、思い出してほしい。ファミレスやハンバーガー店のフライドポテトに、やけに長いものが混じってなかったか? じつは、ああいう店のフライドポテトには、すでに品種改良された巨大ジャガイモが使われているんだよ!」
な、なんだってーー!?
「当然、大型化されたジャガイモは佐渡乃の言うようにまずいはずだが……あの手の店のフライドポテトは普通にうまい。つまりフライドしてしまえば、まずいジャガイモでもうまく食えるんじゃないか!?」
なるほど!
なにやら地の文と会話する妙な人になってきたが、ともあれ調理開始!
「では、手頃な大きさと長さに切った巨大ジャガイモを揚げていこう。事前に水に浸けてデンプンを抜いておくことと、表面に軽く薄力粉をまぶすのが、フライドポテトのコツだ。さあ、うまくなるか……?」
結果は審査員の手にゆだねられた。
● 向坂玲治(
ja6214)
「……こりゃ丸太か何かか?」
玲治は長ネギを脇にかかえながら、首をかしげた。
実際、そのネギは馬鹿でかい。ログハウスが建てられるんじゃないかというほどだ。
料理というより、趣味の日曜大工スキルの出番かもしれない。
「冗談言ってる場合じゃないな。まずは、この丸太……もといネギを切断して、と」
持ってきたノコギリで、ギコギコとネギを切る玲治。
その光景は、どこから見ても日曜大工だ。
ネギを手頃なサイズに切ったら、用意しておいたマグロの切り身の出番。
醤油、酒、味醂などで調味したツユを寸胴鍋に張り、ネギとマグロを投入。くつくつと煮込んでゆく。こうすることで、脂の乗ったマグロから染み出した旨味成分がネギに染み込み──見た目だけは申し分ないネギマ鍋の出来上がりというわけだ。
しかし、ごく普通の作りかたをしてしまったぞ!? この丸太ネギのネギマ鍋、はたして食えるのか!?
● エルム(
ja6475)
彼女は、巨大な酒樽を背負って実習室にやってきた。
しかも酒樽の中には、実寸サイズの学園長像が入っている。
一体これで何を作るつもりなのか?
答えは、エルムの選んだ野菜にある。
そう、彼女が選択したのは白菜。すなわち、酒樽で漬け物を作ろうというのだ。
「では、はじめましょう。まずは白菜を洗って……包丁で適当な大きさに切ります」
軽く言うエルムだが、その『白菜』とかいう物体はワゴン車ぐらいある。簡単に切れるものではない。
「ええと……適当な大きさに……切り……斬りま……す!」
エルムは光纏し、天狼牙突を抜き放った。
そして闘気解放からの──
「秘剣、我流・燕返し!!」
ザシュウウウッ!
銀色の剣閃が、白菜を十文字に切り裂いた。
それをさらにザクザク切り刻み、酒樽へ豪快にブチこむ。
その上から大量に塩を振ってフタをかけたら、重石がわりに学園長の胸像をドスン!
「……えっと、これで制限時間まで待てば出来上がりです。……え? そんな時間じゃ漬からない? ……ふふっ、ココは久遠ヶ原学園ですよ? きっと不可能も可能になりますよ」
たしかにエルムの言うとおりだが、おいしい漬け物が出来るかどうかは別問題だ。
● 斉凛(
ja6571)
「メイドの名にかけて、おいしい料理をご提供しますの。お残し厳禁ですわ」
凜は重体の身ながら、料理の腕をふるうべく実習室に参上した。
選んだ野菜は、ダイコン、ニンジン、カブ、ゴボウ、レンコン、タケノコ。
これに、持参した豚肉をあわせて──作るのは、けんちん汁だ。
「では参りますわ。アレ・キュイジーヌ!」
凜は陽光の翼で舞い上がると、天井近くから急降下してダイコンやニンジンを釘バットでブッ叩いた。
ゴシャアアッという音をたてて、あっちこっちへ四散する野菜たち。
無論、なにも考えずブン殴ってるワケではない。こうすることで野菜の切り口がデコボコになり、断面積が大きくなって味の染みこみが良くなるのだ。
「どいつもこいつも、虎徹のサビにしてくれるわ!」
とか言いながら釘バットふりまわしてるけど、理にかなった調理法なんだよ!
ただ暴れたいだけじゃないよ! ちゃんと考えてるよ! たぶん!
ともあれ野菜を刻んだら、いくつもの圧力鍋で煮込んでゆく。
酒、みりん、醤油、味噌で味を調えたダシ汁と、豚肉の脂が良い塩梅だ。
温めたり冷ましたりを繰り返すことで味を染み込ませるという一手間も忘れない。
「どれだけ固くても味がなくても、ここまでやればおいしく食べられますの」
はたして、それはどうだろうか。
● 月乃宮恋音(
jb1221)
彼女が選んだ食材は、リンゴだった。
これもまた、尋常な大きさではない。大玉転がしに使えるサイズだ。
「うぅん……この野菜や果物……食べても、体に影響はないのでしょうかねぇ……」
不安げに呟く恋音だが、心配無用。影響がないわけはない。
というわけで、調理開始。
まずは巨大リンゴをクリアワイヤーで切断し、適切な大きさに切りそろえる。
断面にはなぜか無味無臭の『蜜』が溜まっているが、これは巨大化薬の変質したものだ。
そんなフラグを立てたところで、切ったリンゴとレモン汁、砂糖を鍋に投入。
もうひとつの鍋には砂糖のかわりに蜂蜜を加えて、水で煮込む。
お手軽でおいしい、リンゴのコンポートと蜂蜜煮の完成だ。
シナモンやラム酒、梅酒などを加えたバリエーションも用意し、さらにコンポートを使ってアップルパイやタルトに仕立てる。
さて、味はどうだろうか。
あと、フラグは回収できるのか?
● ナナシ(
jb3008)
今回の彼女は本気だった。
わりといつも本気に見えるが、今回は一層だ。
ナナシはまず、学園のプールを借りることから始めた。
そこへ巨大な布巾を敷き、大量のジャガイモを投げ込んだら──上空からありったけの範囲攻撃を乱射! ジャガイモを木っ端微塵にすりつぶし、クレーンで布巾を持ち上げる。
そして絞り汁から澱粉を精製。これで、うどんを打つのだ。
だが、素うどんでは味気ない。
というわけで、ナス、キュウリ、タマネギなどを風遁で切り刻み、塩漬けにする。
浸透圧で野菜の細胞壁を破壊し、味の原因になる水分を抜いたら、プールの流水で丸一日塩抜き。
完全に味が抜けたところで、布巾に包んで撃退士パワーで圧搾。
水分が抜けたら、昆布、鰹、清酒、本味醂、醤油、砂糖を混ぜた特製調味液に一日漬け込む。
最後に澱粉をつけて油で揚げれば、野菜漬物の天ぷら完成!
これをうどんのトッピングにして関東風の汁とあわせれば、野菜100%天ぷらうどんの出来上がりだ。
「これで文句ないでしょ? 味がまずいなら、味を抜いてつけなおしちゃえばいいのよ」
なるほど、これは本気だ。
● ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「よくもまあ、こんなくそまずい野菜を作り出したもんだな」
犯罪だと言い切るのは、学園一の爆破職人ラファル。今日も元気に爆破だぜ!
……って、やめてください!
「さーて、本日はカレー女もいないので、ラファル風のカレーライスを作ることにするぜ」
からいもの好きの彼女にとって、カレーはソウルフードなのである。飲み物なんてコンゴ動乱、もとい言語道断。
というわけで、クッキング開始。
使用する野菜は、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ等々。
「まずは……巨大野菜を消毒だぁーー!」
全砲門オープン。
全火力をもって、野菜群を消し炭にする。
これぞ食材を急激に加熱することで旨みを凝縮するという、ラファル流クッキング術の究極奥義である。良い子はマネしないように。
こうして、消し炭になった野菜の表面を削り落とし、内部の果肉部を選り分けて鍋に投入する。
それを火にかけて香辛料やらなんやらを適当にぶっこめば、ラファル風カレーの完成。
こんな適当なカレーは初めて見た。
● ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)
「まずい野菜やて? んなもん、素材の味を無視すれば問題ないやろ。我々には『調味料』という武器があるのだよ!」
というわけで、ゼロは巨大な鍋を持ってきた。
どれぐらいのサイズかというと、土俵ぐらいの直径はある。
これをやはり巨大な火柱で炙り、濃いめのダシ汁で野菜を煮るのだ。
具材はテキトー。目についた野菜をデビルブリンガーなどでぶった切り、ドカドカと鍋へ叩きこむ。
煮ればどれも同じやという、強引な調理法だ。
が、そのまえに。野菜のアクを抜かなければならない。
料理には、豪快さと繊細さが必要なのだ。
「あ、俺はめんどくさいから代わりに亜矢か誰かやっといてくれや」
「なんで、あたしがこんなことを……」
「なんか言うたか? アクとりが終わったら、煮込みもまかせるで」
「あんた、なにもしてないじゃないのよ……」
文句を言いつつも、巨大鍋を火にかける亜矢。
そして、煮込む→冷ます→煮込む→冷ますという作業を繰り返す。
こうすることで、味がよく染み込むのだ。
「ちうことで、試食は皆さんでどうぞ。……俺? うまいもん食いに行くんで大丈夫(」
そう言うと、ゼロは鍋をほったらかしてどこかへ行ってしまった。
● 咲魔聡一(
jb9491)
「神などいない、つまり存在するかぎり誰も神にはなれない……そういうことだよ平等院君」
よくわからないことを言って、聡一は調理に取りかかった。
とはいえ料理のヘタさは自覚しているので、ひたすら野菜の下ごしらえだ。
まずはビニール袋にくるんで高度30mから叩き落として粉々にしたり、モルゲンアックスや大屋都麻で滅多斬りにしたり、ガトリング砲で木っ端微塵にしたり──とても調理風景とは思えない。
「イッヒヒハハハ! 砕けろ砕けろ野菜どもォ!」
野菜に何か恨みでもあるのかというテンションで暴れまくる聡一。
怪しい薬? やってませんよ。たのしいお食事を前に『ちょっと』テンションが上がっているだけで、平常運転です。
というか、久遠ヶ原ではこれぐらいの奇人変人は日常的に見られます。
● エカテリーナ・コドロワ(
jc0366)
「学園の厄介事の後始末も、立派な撃退士の仕事だ。まあ今回は遊び感覚でいくか」
エカテリーナは、チェーンソーとビスクヴィート(ハルバード)を携えてやってきた。
選んだ野菜は、ニンジン、ゴボウ、レンコン、タケノコ。
だが、そのとき。長さ5mほどのニンジンの影から、体長1mほどの巨大芋虫が登場!
「おまえに食わせる飯はない。おとなしくこの斧の餌食となれ!」
やけにノリノリの様子で、エカテリーナはハルバードをふりかざして斬りかかった。
バシュウウウウッ!
ただデカイだけの芋虫は、なんの抵抗もせず一刀両断。
しかし派手に飛び散った緑色の血が、とてもキモイ。
ていうか、野菜はもちろん周囲の人たちにもぶっかかってる。
が、エカテリーナは気にしない。
緑色に染まったニンジンに向かって、「これが軍隊式調理法だ!」とか言って豪快に裁断する。
そして裁断がすんだら普通に調理だ。
作るのは……たぶん筑前煮!
鶏肉も何も入ってないが、巨大芋虫のダシが利いた一品だ!
これはイヤだな!
● 茅野未来(
jc0692)
「カレー味にすれば大体なんでもおいしくなる、ってお母さんが言ってた……!」
世界共通の真理をたよりに、未来はポテトサラダを作ることにした。
なぜなら、唯一お手伝いで作ったことがあるのがポテトサラダなのだ。
使う野菜は、もちろんジャガイモとキュウリ。
それだけだ。
「……にんじんは嫌いだから入れない。……たまねぎも、からいから(ry」
というわけで、えらくシンプルなポテトサラダの調理実習だ。
「まず、包丁でジャガイモを切っ……切り……!」
あちこちで見られるように、これまた普通の包丁では刃が立たなかった。
やむなく、太刀を抜いて斬りかかる未来。
最初からそうしておけばよかったんだ。
「次に、ピーラーで皮むき……か、皮むk……!」
太刀でジャガイモの皮を削り飛ばす未来。
最初からそうしておけば(ry
見た目は非常によろしくないが、どうせ最後には潰すから大丈夫だ!
こうしてジャガイモを小さく切ったら、電子レンジで火が通るまで加熱し、マヨネーズと塩胡椒、カレー粉を入れてまぜまぜ。さらに、一口大の薄切りにしたキュウリとハムをあえれば完成。
「ど、どうかな……」
大丈夫!
カレー味だから、きっと大丈夫!
● 上野定吉(
jc1230)
「うわあい! きゅうりが渦巻いておる!」
一頭の熊がやってきて、巨大なキュウリをほおばった。
そのとたん、あまりの硬さに歯が欠けてしまう。
おまけに中身はスカスカで、えぐみ100%の汁が口いっぱいに広がる。
「ぐほ……っ!?」
あまりの破壊力に、のたうちまわって悶絶する定吉。
「これは強敵じゃな……。しかし、わしには名案があるのじゃ! キュウリといったら漬け物! それ以外ないのじゃ!」
理屈も何もなく断定すると、定吉は調理をはじめた。
といっても、魔具の三節棍でバッキバキにぶんなぐるという、カンフー映画みたいな『調理』だが。
ともあれ、こうして細かくしたキュウリを4つの壺に投入して、それぞれ濃度の違う漬け物液を注ぐ。
そして漬かり具合を見ながら、適度な味に仕上がった漬け物を探し出すのだ。
納得の行く漬け物ができたら、ふっくら炊いた白米と焼き鮭が登場。
「ひとつの鮭むすびに、ひとつの漬け物。日本食じゃな」
どう見ても鮭がメインディッシュだが、これでいいのだろうか。
● 常盤芽衣(
jc1304)
「巨大な野菜かい? そんな食材、料理する機会も滅多にない。存分に楽しむとするさ」
芽衣が選んだ野菜は、巨大キャベツだった。
さらに実習室へ持ちこんだのは、普通のタマネギとニンジン。鶏卵、合い挽肉など、ロールキャベツの材料だ。
ナツメグ、塩、こしょう、コンソメといった調味料も確保した。
念のためエプロンの下には魔具魔装を装備しており、巨大害虫への対処も完璧。
「たとえ野菜が大きすぎて味が薄くても、中の肉に下味がついていたり、スープで煮込んだらキャベツ特有のかすかな甘みも生かされてマシにならないかな……?」
などと、真剣な顔で調理に取り組む芽衣。
だが、そこに。
1匹の巨大な青虫が!
「うね、うねってる! いやあ無理!!」
とか言いながら、半泣きになってレクイエムブレイドで襲いかかる芽衣。
しかし、もうお察しのとおり青虫はただ大きいだけで攻撃力も防御力もゼロに等しい。
あっというまに解体され、ドロネバの体液をまきちらす巨大青虫ちゃん。
これまた芽衣ふくめて周囲の人たちにぶっかかってるけど、まぁ気にするな!
ロールキャベツは無事にできた!
● 袋井雅人(
jb1469)
「これはいけませんね。料理どころではありません。まずは巨大害虫の駆除ですよ!」
無駄にグロい巨大害虫を見て、雅人が颯爽と現れた。
みんなと違って料理をする気などカケラもなく、魔具魔装完全装備。
スキルも抜かりなく活性化しており、『非常に難しい』戦闘依頼なみに気合いが入っている。
こうして『巨大害虫駆除部隊』を1人で組織した雅人は、とくに害のない害虫部隊に全力で挑みかかる!
まずは、巨大芋虫に『ダンスマカブル』!
巨大バッタに『暗黒破砕拳』!
そして逃げるしか能のない巨大Gに対しては、『闇渡り』で機動力をUPして攻撃だ!
もちろん、すべての目標はノーダメージで撃破。
だってさっきも言ったけど、こいつら攻撃力ゼロだし……。
「ふー、闇渡りがなかったら危なかったですよ」
と言いながら、汗をぬぐう雅人。
そんなものなくても楽勝だったのだが、たしかにゴキをつかまえるのには最適の技かもしれないな。
そんなことに用いられる『奥義』も、ちょっとどうかと思うが……。
● 雪ノ下・正太郎(
ja0343)
「なんだこりゃ……。カレーを作るつもりで来たら、バイオテロの現場だったぜ……」
ともあれ害虫を退治しなければと、正太郎は『蒼き覇者・リュウセイガー』に変身して戦場に身を投じた。
何度も言うが相手は無闇にでかいだけの人畜無害な害虫なので、撃退士が真剣に戦ったら一方的な虐殺である。
まぁ見た目がグロイというだけで十分有害なのだが、惨殺するとグロ度が増すあたりタチが悪い。
ともあれ、正太郎と雅人のタッグによって巨大害虫軍団はあっさり壊滅した。
じつは一番多くの害虫を滅殺したのは芽衣なのだが、本人の記憶が少々飛んでいるため数はわからない。
「害虫退治は終わった。……ならば、次はカレー作りだ!」
山積みになった芋虫やゴキなどを背景に、正太郎は調理をはじめた。
たいへん食欲を失わせる調理風景だが、大丈夫。カレーだから! カレー味だから大丈夫!
しかし──
「か、かたい……! 皮が剥けない!」
巨大タマネギが硬くて、包丁が入らなかった。
おまけに何故か、強酸の汁が飛んでくる。
とっさに寸胴鍋を盾がわりにする正太郎。
ジュオオオオオッ!
「な、なに……鍋が溶けた!?」
あまりのできごとに、正太郎は目を疑った。
このタマネギ、害虫軍団より遙かに強いぞ!
だが、ここで正太郎は名案を思いついた。
「そうだ! このタマネギの汁を利用して害虫を溶かそう!」
こうして害虫の死体はドロドロに溶かされ、究極的なグロさに発展して異臭騒ぎを引き起こすのだった。
● 実食
なんだかんだ騒ぎがありつつも、全員の料理(および料理とは言えないモノ)が完成した。
テキトーにかきあつめられたヒマな学生100人による審査が進む中、参加者たちもそれぞれ自由に料理を試食する。
だがしかし──
残念ながら、どれもこれも不評の嵐だった。
ある生徒はマズさのあまり悶絶痙攣し、ある生徒は口を押さえてトイレに駆け込み、またある生徒は真剣に退学届けを書こうとしている。
『カレーは飲み物』と言ってラファル特製カレーを一気飲みした聡一は、その場でダウン。
凜のけんちん汁を試食した恋音は巨大化薬の影響をモロに受けて、いつものようにいつもの部分が膨れあがり、周囲の物すべてを押しつぶしてダウン。当然凜も巻きこまれてるが、まぁ些細なことだ。
ほかにも、試食に参加した生徒たちは例外なく悲惨な運命をたどっていた。
そもそもクソまずい食材をフツーに調理したってダメなのだ。
多少なりともマシな評価を受けているのは、ナナシの野菜天ぷらうどん、雫のわらび餅ぐらい。
どうやら、食材の味を徹底的に抜いてしまうのが正解だったか。
そんな中、審査員をはじめ多くの賞賛を得ている料理があった。
それは──としおの作った、特製とんこつラーメン!
そりゃまぁ、ラーメン王の作った自慢の一品だ。うまいに決まってる。
でも、巨大野菜がまったく入ってないよ! ただのおいしい豚骨ラーメンだコレ!
「クソッ! たよりにならん連中だ!」
平等院は舌打ちした。
このままでは、巨大野菜で世界を牛耳るという野望が潰えてしまう。
そこへ、玲治がネギマ鍋を持ってきた。
「よお、こいつを食べてみろよ」
見れば、深めの大皿に丸太みたいなネギが立てられ、そのまわりにマグロの切り身が並べられている。
「ただのネギマ鍋に見えるが?」
「いや、ただのネギマ鍋とは違うぜ。まぁ食ってみな」
「よかろう。ためしてやる」
「ああ、ネギはそんなに強く持つなよ。でないと……」
玲治の忠告もまにあわず、平等院の手から熱々のネギ鉄砲が飛び出して顔面に命中した。
「グワーーッ!?」
これはもう、ネギ鉄砲ではなくネギ大砲だ。
アホな企画を考えた平等院には、良いオシオキである。
「……しかし、トウモロコシなどは無理して食べるよりもバイオエタノールや家畜の飼料にしたほうが遥かに世のためになると思うのですが?」
雫が、まっとうな指摘をした。
「そ、そんなことはわかっている!」
あわてて答える平等院。
どうやら気付いてなかったらしい。
「ジャガイモも大量の澱粉が採れて片栗粉の代用品になるし、発酵させてアルコールを蒸留すれば安価で高品質なウィスキーなども作れるのでは?」
「そ、そんなことは(ry」
どうやら気付いて(ry
● 審査結果
ともあれ、100人の犠牲者(審査員)による公正な投票と、主催者平等院の独断(!?)によって最優秀作品が選ばれた。
「第一回・巨大野菜料理王選手権! 優勝はエイルズレトラ・マステリオ!」
「おや、僕ですか? 理由があれば聞きたいですね」
「理由はひとつ。ほかの参加者がまずい野菜をおいしくしようとするのに対して、キミはまずいまま青汁にした。これぞコロンブスの卵と呼ぶべき、発明家の思考! みごとだ! 優勝賞品として、巨大野菜つめあわせ1年分を贈ろう!」
「いや結構です。優勝も辞退しますので。これにて失礼」
そう応えると、エイルズはマントを翻して走り去っていった。
「ならば審査員特別賞! 袋井雅人! おめでとう! キミには巨大野菜つめあわせ半年分を贈呈しよう!」
「おお、害虫駆除部隊が評価されたのですね! 私はちゃんといただきますよ! 恋音、さっそく巨大野菜料理の研究です!」
だがそのとき、すでに恋音は動ける身ではなかった。
というより、この野菜を持ち帰るのは危険なような……。
後日、学園中の調理実習室が強化工事されたとかされないとか。