いちはやく騒動の現場に駆けつけたのは、長田・E・勇太(
jb9116)だった。
偶然にも任務の帰りに騒ぎを見かけ、なにごとかと走り寄ってきたのだ。
「Oh God...What's happen?」
勇太が目を丸くするのも、無理はなかった。
なにしろ車数台がひっくりかえって炎上し、電柱は倒れて電線が路面を跳ねまわり、壁や道路はあちこち陥没している。いくら『コメディ』とはいえ、これはひどい。
見れば、この惨状を引き起こしたのは2人の撃退士のようだ。
「ストップ! ケンカはやめるネ!」
大声で呼びかける勇太。
だが──
「やかまし! 邪魔すな!」
「そうなのです!」
カナロアの手からジェット水流が噴き出し、カルーアのヨーヨーが飛んだ。
「Nooooo!」
避ける間もなく倒れる勇太。
任務の帰りにこんな目に遭うとは、なんと運の悪い。
「アウチ。いきなり何しやがるネ!」
勇太はゴム銃を取り出すと、カルーアめがけて発射した。
つづけてティアマットを召喚。ボルケーノを発動し、ふたりまとめて薙ぎ払う。
さらにサンダーボルトで追撃、暴徒化した二人をマヒさせる。
「「グワーッ!」」
すかさず勇太はティアマットを飛ばし、カナロアたちを踏みつけさせた。
そして警官みたいに罪状を告げる。
「オマエラには、弁護士を呼ぶ権利及び、黙秘の権利ガアルネ。罪状は器物破損、&騒音公害、エトセトラね!」
「んなモン知るかい! いったれ、フライングマグロ!」
カナロアがサッと手を振り下ろすと、どこからともなくマグロ型のディアボロが飛んできた。
そう。腐っても彼女は魔界の悪魔。いざというときのために海産物軍団をひかえさせてあるのだ。
「そんなの聞いてないネー!」
抗議の声を上げながら、勇太はマグロに腹をブチ抜かれて遠くへ飛んでいった。
いくらなんでも、撃退士1人で魔界の悪魔と天界の使徒を相手にするのは無謀すぎた!
次に現場へ通りかかったのは、秋姫・フローズン(
jb1390)だった。
どうやら、夕飯の買い物帰りらしい。
「あれはなにを……しているのでしょうか……?」
と呟くのは、秋姫。
「はた迷惑……な……」
応じたのは、秋姫のもうひとつの人格。修羅姫だ。
彼女は周囲の惨状を眺めながら、驚き&あきれつつカナロアたちに近付いてゆく。
「これは……ひどい……ですね……」
「……あれが……原因みたいだな……」
とりあえず物損以外の被害がないことをたしかめると、秋姫は気配を殺して距離をつめた。
そして──目の見えない二人の背後から、ワサビのチューブを口に突っ込む!
「ぐふっ!?」
「んにゃっ!?」
突然の不意討ちに、驚愕する二人。
味覚がお子様のカルーアは、前代未聞のワサビ攻撃に悶絶状態だ。
「……すこし……頭を、冷やしましょうか……?」
カルーアの肩をつかみ、微笑みながら訴える秋姫。
だが、その微笑は鬼のようだ。
「……もう知らんぞ……妾は……」
ふだん温厚な秋姫のブチギレモードに、修羅姫も思わず顔を引きつらせていた。
「けふっ、ひふっ! わさびはひどいのです! 反則攻撃なのです!」
涙目になりながら、苦悶するカルーア。
「なにか……言いましたか……?」
秋姫は微笑したまま、肩をつかむ手に力をこめた。
ギシギシと骨が軋む音。
「いたああああ! いたい! いたいのです!」
「……喧嘩するなとは……言いませんが……すこし考えてください……ね……?」
背景にブリザードみたいなオーラを吹き荒らしながら、秋姫はニッコリ微笑んだ。
それはいいのだが──
「海鮮大好きなウチに、ワサビなんか効くかーい!」
秋姫の後頭部に、カナロアの必殺シャコパンチが叩きこまれた。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!?」
路面を転がりながら、秋姫も遠くへ消えてしまった。
おしい! ワサビチューブじゃなくて、からしチューブだったら……!
──というわけで2人の通りすがりが敗れたあと、依頼を受けた5人がやってきた。
「なにしてんだか……。とりあえず、道路封鎖と避難誘導だな。はーい、危ないよー! 行った行ったー!」
阻霊符を起動しつつ、鴉乃宮歌音(
ja0427)は野次馬を追い払った。
今日はカラスのコスプレではなく、白衣の女装スタイルだ。
「なんなんですかね、このありさまは。僕はいま重体中です。巻き込まれたら死んじゃいますね。ふだんなら範囲攻撃でまとめて吹っ飛ばすんですが……」
発言どおり、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は重体の身だった。
コメディとはいえ、ヘタすれば連続重体の危険もある。ここは自重しておいて正解だ。
「ともかく、ふたりを歩み寄らせましょう。天と魔、相容れない存在と思われがちですが共に歩むことは可能です。堕天し、はぐれたからこそ、前以上に近づけるはず。なんとしても説得しなくては……でないと、ひどいことになりそうですし」
いつものように、ユウ(
jb5639)はシリアスだった。
はたして、彼女の説得は通じるのか。
「うぅん……あちらの金髪のかたは、面識がありますねぇ……。撃退士同士の喧嘩、でしょうかぁ……?」
小首をかしげたのは月乃宮恋音(
jb1221)
カナロアとは焼肉JOJO亭のCM作成などで交流があり、知らぬ関係ではない。
「おおっ! 美女と美少女の2人がギャグ状態で目が見えなくなっているなんて……まずはオッパイを揉みに行くしかないと思います!」
袋井雅人(
jb1469)は、初手からそんなことを言いだした。
それ、ふつうに犯罪行為なんだが……。
「しかし『二兎追う者は一兎も得ず』と言いますから、顔見知りのカナロアさんより冒険して見知らぬ未体験の褐色まな板美少女を狙いましょう。いやまあ、カナロアさんのオッパイもまだ揉んだことはないんですけどね!」
いまさら言うのも何だけど、見知らぬ少女のおっぱいを揉みに行くってヤバイだろ……。
さておき、彼らはそれぞれの作戦どおりに動きだした。
まずは、ユウが闇の翼で舞い上がり上空から停戦を呼びかける。
「ふたりとも、ひとまず矛をおさめてください! 話しあわなくては何もできません!」
あえて二人に命中させないよう、『常夜』で両者の間に冷たい闇を発生させるユウ。
警戒させて戦闘を止める作戦だが──残念、どっちも目が見えないので効果なかった。
「これは今の私にわかるのは……オッパイを揉まなければならない! それだけです!」
最初の宣言どおり、雅人は説得も戦闘も放棄してカルーアのおっぱいを狙いにいった。
しかもナイトウォーカーなのに、『ハイド&シーク』さえ使ってない。
まさに正々堂々。白昼堂々。ある意味、『漢』と言えよう。
「褐色少女のちっぱいGETです!」
カルーアの真正面から、まないた状の胸へ手をのばす雅人。
「変態おことわりですぅー!」
ヨーヨーが飛び、雅人の股間を直撃した。
「あばふッッ!?」
吹っ飛んで退場することさえ許されず、股間をおさえてうずくまる雅人。
まさに『自業自得』だ。
まぁそんな漢は置いといて──
「あーあー、あなた、何やってるんですか。とりあえず目を治療しますから、おちついてください」
エイルズは、面識のある磯臭い女(カナロア)を保護しようと近付いた。
「ああ? 邪魔やで!」
カナロアの指から、猛毒の銛が飛び出した。
イモガイの毒を強化したものだ。これはヤバイ。
「これは……いま食らったら死にますよね……?」
冷や汗をかきながら、紙一重でかわすエイルズ。
この人、重体なのに回避力700以上あるよ……。
「あー、説得するにしても、まずは動きを止めないとね。羽交い締めにするといいけど……痛いのイヤだし、髪芝居!」
うまく隙をついた歌音の攻撃がカナロアをとらえ、束縛した。
「なんで邪魔すんねん! なんなんアンタら!」
「私たちですか? 久遠ヶ原の撃退士ですが、なにか?」
「撃退士やて? ほっとけや! ただの喧嘩やっちうの!」
「周囲に被害が出てるのでね。ほっとくわけにはいかない。とりあえず二人とも目を治して、まわりを見てみたらどうだ? このまま暴れ続けるなら、学園から処分が下るだろう」
「そ、それはアカンな」
急に弱腰になるカナロア。
そもそも彼女は、謎の天ぷらそば攻撃を食らって激昂していただけなのだ。久遠ヶ原学園と敵対してまでカルーアと戦う理由はない。そしてカナロアが譲歩するなら、カルーアにも危険な戦いをつづける必要などなかった。
というわけで、騒ぎは一段落。
ふたりの盲目状態を回復して、事情を聞くことになった。所属と名前、喧嘩の理由などだ。
が、彼女らはニセ撃退士。うかつなことは言えないため、事情聴取がはかどらない。
(……口裏をあわせようとしている?)
そう思う歌音だが、確証がないので深くは追及できない。
すると──
どこかから、ふいに焼肉の匂いが漂ってきた。
「お、ええ匂いやなぁ」
思わず、鼻をひくひくさせるカナロア。
「気付きましたか! じつはこの焼肉、おふたりのために恋音が用意したのですよ!」
雅人はまだ股間をおさえていた。
「ちうことは……焼肉パーティーやな!?」
「そのとおりです! さぁ行きましょう!」
そんな流れで、一同は近くの公園へ。
本来は焼肉で喧嘩をおさめる作戦だったのだが、空振りになってしまったので仕方ない。
「いらっしゃいませぇ……おいしい焼肉は、いかがですかぁ……?」
恋音は、屋外用のロースターでカルビを焼いていた。
カナロアが焼肉大好きと知っての行動である。
「おお、ええなあ!」
「焼肉! 大好物なのです!」
妙なところで意気投合する、カナロアとカルーア。
もしかするとこの二人は、おなかがへっててイライラしてたのかも。
「では、どうぞぉ……。もちろん、みなさんのぶんもありますよぉ……」
こうして、唐突に焼肉パーティーが始まった。
「こらうまい! ええ肉やー!」
「最高のお肉なのです♪」
たちまち上機嫌になる、食いしんぼう2名。
いまがチャンスとばかりに、恋音は騒ぎの経緯を聞くことにした。
「えとぉ……そもそも、どうして喧嘩になったのですかぁ……?」
「あー、それはやなぁ……」
焼肉をほおばりながら、ペラペラしゃべりだすカナロア。
作戦とは少々ちがうが、これはこれで恋音GJ。
やがておおかたの話を聞き出したところで、恋音は考えた。
たとえ今回の喧嘩を抑えても、隣に住んでいる状態で、かつ何か勘違いの残ったままでは、再発の可能性が高いのでは……と。
そこで恋音の出した答えは──『平和的に撃退酒で酔いつぶす!』というもの。
カナロアが酔っぱらうとどうなるか、身をもって知ってるはずなのだが……。
「えとぉ……焼肉には、撃退酒ですよねぇ……?」
「おお、気が利く姉ちゃんやな!」
そう言うと、カナロアはボトルをラッパ飲み。
あっというまに、酔っ払いのできあがりだ。
「あふ……あふへへへ……」
妙な声とともに、カナロアの両腕がタコとイカの触手に変化した。
しかも、それぞれ8本と10本に枝分かれしている。
「恋音ぇ〜、カルーア〜、仲良うしようや〜♪」
Hな触手が、ふたりに襲いかかる!
そう、カナロアは酔っぱらうとクレイジーレズの本性をあらわにするのだ!
ちなみにユウは買い出しに出ててセーフ!
「はぅぅぅ……!」
なぜか無抵抗で触手に絡め取られる恋音。
だが、カルーアにそういう趣味はない。
「Hなのはいけないのです!」
巨大なモーニングスターと化したケンダマが、周囲のすべてを薙ぎ払った。
「「グワーッ!」」
焼肉を食べてただけなのに、理不尽な暴力で吹っ飛ばされる撃退士たち。
だが、この程度で倒れるカナロアではない。
「おんどりゃ、おとなしく餌食になれや〜」
「イヤですぅぅ!」
逃げるカルーア。
その足首に、触手が巻きつく。
「まあまあまあ、おちついてください。ほら、焼肉がありますよ」
エイルズがカナロアを羽交い締めにして後ろへ引きずった。
が──
「男は引っ込んでろやー!」
無数の触手が襲いかかり、エイルズはあわてて距離をとった。
いくら回避力700超とはいえ、これは厳しい。っていうか重体中だし。
「命が惜しいので、あとはまかせます!」
正直に告げて、戦線離脱するエイルズ。
こうして平和な焼肉パーティーは、一転して触手地獄と化した。
「みんな落ち着け! 落ち着くんだ!」
雅人は素早く近寄ると、カルーアのおっぱいを揉みしだいた。
って、おい! そんなことしてる場合か!
「そのおっぱいはウチのもんやで〜!」
びたーーん!
極太の触手で、公園の外へ吹っ飛ばされる雅人。
気がつけば歌音の姿もない。とっくに逃げたのだ。
そんな次第で、残った撃退士は恋音のみ。
「お、おお……? これは緊急事態ですねぇ……!?」
依頼を失敗させるわけにはと、恋音はテラ・マギカを発動した。
が、カナロアの触手は即座に再生してしまう。
なんせ、胴体を輪切りにされても回復したぐらいだ。再生力はハンパない。
「こうなれば……最後の手段ですぅ……!」
恋音は、いざというときのために持っていたソーダLV5を一気飲みした。
中身は、ある依頼でもらった超肥満薬を炭酸水で割ったもの。
で、結果はというと──
ず ど お お お お お ん ん !!
一万倍超の体重に膨れあがった恋音の体が、公園のすべてを下敷きにした。
これでは、いくら再生力があっても耐えられない。
最初からこうしておけばよかったんだ!
そんなたのしい(?)阿鼻叫喚触手おっぱい地獄が終わったところで、ユウが戻ってきた。
「みなさん、大丈夫ですか? いまはまだ横になっていてください。気持ち悪くなったら遠慮なく言ってくださいね」
と、被害者たちをやさしく介抱するユウ。
ちなみに被害者とは、カナロア、カルーア、雅人、恋音の4名である。
そこへ、難を逃れたエイルズと歌音が涼しい顔で帰ってきた。
しかも歌音は、優雅にティーカップなど持っている。
「とりあえず紅茶でもいかがかね。ほら、疲れたときには甘いもの。このクッキーは私の手作りだ」
ティーカップとクッキー缶を差し出して、むやみに女子力をアピールする歌音。
「お、おお……クッキーや……」
「クッキーなのです……」
寝たきりのまま、ぷるぷると腕を上げるカナロア&カルーア。
歌音が、その手にクッキーをわたす。
「甘いものを食べれば、心にゆとりもできる。それでも気がすまないなら、河川敷で決闘すればいい。無手、我々のジャッジあり、殺しなしで。夕日をバックにボロボロの体で称えあう青春……いがみあう天の者と魔の者が手を取りあう……いいじゃないか」
学園ではそれが普通だけどねと呟いて、歌音は紅茶をすすった。
そして、話をまとめる。
「……そだね、仕事がオフのときくらいは仲良くしなさい。他人に迷惑をかけないようにね。まだ慣れないなら、これから慣れればいい。……人界へようこそ」