その日、枕投げ会場に25人の撃退士が集まった。
では、それぞれの意気込みを語ってもらおう。
「知るかバカ! そんなことより枕投げよ!」
いきなり否定してくれたのは、歩く封砲発射台・雪室チルル(
ja0220)
ある意味、やる気は満々だ。
「さァて……今日は、どんなことしましょうかねェ……♪」
黒百合(
ja0422)は不気味な笑みを浮かべていた。
手元の枕には、どう見ても石が入ってる。が、その程度はみんな想定内だ! ……想定内だよな!?
「的に当てるのは、我々インフィルの専売特許! 弾を当てるのも枕を当てるのも、要は同じこと。我々インフィルの右に出るヤツはいない……ハズ!」
力強く(?)断言したのは、佐藤としお(
ja2489)
だが、ちょっと待て。銃を撃つのと枕を投げるのは、まったく別物では!?
「さすがとしおさん! 今日は思いっきり楽しんじゃいましょう〜♪」
華子=マーヴェリック(
jc0898)は、としおとタッグを組んでいた。
とは言っても女の子。超強い先輩たちとエクストリーム枕投げなんかマトモにやったら即お陀仏だ。
な・の・で♪ としおを盾にして戦う作戦♪ 都合のいいことに彼はデカイ♪ これはイケる♪
「枕投げってルールがあったんですね。最後まで立っていた人が勝ちだと思ってました」
真顔でそんなことを言うのは、楯清十郎(
ja2990)
やるからには、当然勝ちを狙いに行く! 今日も彼の頭脳プレーは冴えるか!? アンパン持ってきたか!?
「これ、枕か布団ならなんでもいいんですよね……?」
浪風悠人(
ja3452)は不安げに訊ねた。
その枕には明らかに鉄アレイが仕込まれているが、大丈夫。問題ない。もっとひどいのが何人もいる。
「キュゥ……(ここが今回の戦場か……)」
鳳静矢(
ja3856)は、ラッコの着ぐるみで参加していた。
両脇に抱えているのは、律儀にもわざわざ改造してきた抱き枕LV5!
その隣には、鳳蒼姫(
ja3762)が立っている。
言うまでもなく、ふたりはペアだ。夫婦の絆を生かせば、優勝は間違いない!
「……枕と布団で作った……ルールどおり、『布団(のシーツ)と枕』しか使っていない」
なぜか置いてある牛の置物を見て、染井桜花(
ja4386)は言った。
彼女の武器は、布団シーツを枕に結びつけて分銅鎖状にしたものだ。名付けて『シーツハンマー』!
なんか、とても弱そうな名前だな……。せめて、枕に墓石を詰めこむぐらいしないと……。
「修学旅行で枕投げできなかったから、今日しっかり楽しむのだ♪」
焔・楓(
ja7214)は、たのしめればいいやと気楽に参加していた。
『枕投げは寝巻き姿が正装』ということで、寝るときの格好(シャツと下着姿)だ。
ロリコンに対する視覚的攻撃力は高いぞ!
「皆の枕を見ると、どうやら枕投げの世界も非情のようだな……」
桝本侑吾(
ja8758)は、ぼんやり呟いた。
ちなみに特別な枕は持ってきてない。だが大丈夫だ。彼には必殺のウェポンバッシュがある!
「枕投げは修学旅行に欠かせないものなのだな。修学旅行とは楽しいものなのだろうか……」
などと呟く元海峰(
ja9628)は、修学旅行はおろか観光と呼べる旅行に行った経験がなかった。
そのため、今回の枕投げ大会はとても楽しみにしている。
でも『重体OK』って書いちゃったよ、この人……。
「さて、今日も元気に負傷者を救出しますか」
救護はおまかせとばかりに衛生兵として参加したのは、黒井明斗(
jb0525)
まえもってヒリュウを召喚して視覚を共有し、死角をカバーしている。さらに部屋の隅に布団防壁を張り、勝手に負傷者回収所に認定。ケガ人にそなえて待機済みだ。
これは心強い。彼の回復スキルさえあれば、たとえ死亡判定が下されても大丈夫だ!
「今日は私が盾になりますから、恋音は好きなようにやっちゃってくださいね!」
「おぉ……たよりにしてますよぉ……」
袋井雅人(
jb1469)と月乃宮恋音(
jb1221)も、当然ペアを組んでいた。
常識で考えて、ソロよりペアのほうが強いに決まってる。これまた、優勝候補か。
と思いきや──
「同志諸君よ! いまこそ自分自身に素直になる時だ! おっぱい・おしり祭りの幕開けだ!」
雅人は意味不明なことを言いだした。
「お、おぉ……?」
「宣言しましょう! 私はこの大会で、老若男女・種族を問わず敵のバストとヒップのみを狙って枕を投げ続けます!」
「そ、そうですかぁ……応援しますよぉ……」
さすがの恋音も、コメントに窮しているようだ。
「どうせロクな枕投げにならないのはわかってるんだ。普通は(主に)男子生徒たちが枕を投げて、寝る前に余った体力を消費してぐっすり寝るための文化というか伝統行事というか儀式みてーなもんなんだが……」
ぼやくように、ルナ・ジョーカー(
jb2309)が言った。
「……枕避けて反撃。華麗に容赦なく。あってる?」
問いかけたのは、華澄・エルシャン・ジョーカー(
jb6365)
枕投げ未経験の彼女は、高校生のうちに枕投げを経験しようと楽しみにしていた。ついでだから、この際堂々とイチャイチャして勝つつもりだ。
「あってる。……が、数分後ここは地獄の戦場と化す。くれぐれも気をつけろ」
「了解」
たしかに二人組は有利だが、イチャイチャして勝てるほど甘くはないぞ!
「こいつは俺様の得意分野だぜー」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は、いつにも増して戦意が高かった。
そう、まくら投げと言ったら爆破! 爆破といったらラファル! 今回の勝利も彼女のものだ! やめてくれ!
今回ラファルが用意したのは、蕎麦殻のかわりに癇癪玉を詰めた『癇癪玉枕』
寝返りを打つたびに癇癪玉がぱちぱち炸裂して頭皮の血行に良い代物だ。
もっとも今回は、盛大に投げつけて爆破の渦に巻き込む予定だが。
そして二つめは、枕LV20!
亜矢のコロッケパンLV15でビームが出るくらいだから、こいつはきっと部屋全体を爆破できるに違いない!
あいかわらず無茶苦茶なことを言うな、このロボ。
だが、結末はどうなるかわからないぞ!
「世の学生は、修学旅行のたびに乱闘するんですか……」
シエル・ウェスト(
jb6351)は、少々あきれぎみだった。
そのくせして、とんでもないこと企んでるんだが……採用していいのか、これ。
「よっしゃ。この『MSキラー』『牛殺し』と呼ばれた、うちの本領発揮やな!」
なにやら剣呑なことを口走ってるのは、黒神未来(
jb9907)
い、一体なにをするつもりだーーっ!(フラグ
「ふっふっふ、この僕を見つけられるかな?」
部屋のすみに立て掛けられている、ひとつの棺があった。
なにをかくそう、これは棺(
jc1044)なのだ!
って、またおかしな人が入学してきたよ……。部屋の片隅に棺が立ててあったら、異様な光景だろうに……。
いや、久遠ヶ原ならそうでもないか……?
「枕投げ、たのしそうです♪ ……けど、みなさん強そうなのです」
マリー・ゴールド(
jc1045)は、普通の枕投げ大会と信じて参加していた。
戦闘未経験の彼女に、はたして勝機は!?
「枕投げやと……? かかってこい、なにがあっても寝たおしてやるわ」
藍那禊(
jc1218)は、珍妙な麹菌イメージキャラ『コージ君』(自作)のプリントされた枕を持参していた。
そして、すでに布団に入って寝ようとしていた。
ああ、ここにも変人が……。
「あはははは! どいつもこいつも敵じゃないわね!」
主催者の矢吹亜矢は、ロケットランチャーを装備していた。
そりゃないだろという非難の視線にも「これ枕だし♪」と反省の色がない。
「俺の枕はコイツだぜー!」
爆音を轟かせて、チョッパー卍が750ccのバイクで乱入してきた。
畳に刻まれる、盛大なタイヤ痕。
まさかそのバイクで人を撥ねるつもりかと思う、参加者一同。だが、そのとおりだ。
「これで25人、全員そろったよ〜」
会場となった隣の部屋で、アメリア・カーラシア(
jb1391)は実況役をつとめていた。
特設実況席のモニターには枕投げ会場の様子が映され、スピーカーからは試合開始前の喧騒が聞こえてくる。
「さぁ、第一回枕投げバトルロワイヤル。そろそろゴングの時間だよ〜。実況は私、アメリアと〜」
「解説の……秋姫で、お送りします……」
秋姫・フローズン(
jb1390)が受け答えた。
このやりとりは、会場のほうにも流されている。
なるほど、巻きこまれるのを避けて隣室で実況というのは賢い判断だ。
が、どうせなら隣の校舎ぐらいまで移動するべきだったな……。
「なにか不穏な空耳が聞こえたけど……枕投げ大会、いざ開始だよ〜!」
アメリアが、カーーンとゴングを鳴らした。
試合開始と同時に、いくつかのことが起きた。
まず、黒百合がティアマットを召喚。名前は『枕ちゃん』だ。このイベントのためだけに奇天烈な名前をつけられた召喚獣には、同情を禁じ得ない。
それを横目に、としおは『索敵』で敵を識別。当然まわりは敵だらけだ。意味あるのか、この索敵。
だが、意外なことにこれが功を奏した。
というのも、清十郎が投げたドライアイス入りの氷枕があちこちで破裂して、室内を白煙で覆いつくしたのだ。
いきなり視界を奪われて、あわてる撃退士たち。
そんな会場を一目散に飛び出して、シエルは作戦決行のために動きだした。
どんな作戦かは、すぐわかる!
それは良いとして、未来は暴挙に及んでいた。
「亜矢と卍は本気で戦うっちう話やけど……牛男爵は違うやろ?」
などと主張しつつ、MSに向かって手当たり次第に枕を投げはじめたのだ。
もちろん全力投球グワーッ!
って、おい! メタ行為はやめろと、あれほど!
「なに言うてんの。使っていいのは布団と枕だけってのはちゃんと守ってるで! 黒服につれていかれるいわれはないはずや!」
そのとおりだグァーッ!
「あとは布団でくるんで、垂直落下式バックドロップでKOや!」
グワーッ!
\理由なき暴力が牛男爵を襲う!/
「え? 話の進行に支障が出る? 大丈夫! 牛が重体になったら、うちが代わりに地の文書いたるさかいな! 安心してやられとき!」
言うや否や、あざやかなバックドロップホールドで3カウントを奪う未来。
こうして牛の仕事は、うちにゆだねられたわけや!
おお、『牛』と『うち』って、語呂もええやん!
……などということはなく、それはバックドロップをボディプレスで返された未来が見ている幻覚だった。
ふ……牛にはプロレスができないなどと、いつから思っていた!
そこへ、明斗が素早く駆けつけた。
倒れた未来に向かって「ファイト?」と訊ねながらファイティングポーズをとってみせる。
だが、未来の受けたダメージは深刻だった。とても立ち上がれやしない。
「これは続行不能ですね。すぐさま死体回収所……もとい負傷者回収所へ搬送します」
そう言うと、明斗は未来をかかえて走っていった。
「あ〜っと! ここで最初の脱落者が〜!」
アメリアの実況が飛んだ。
「これは……相手が、悪かった……ですね」
淡々と解説する秋姫。
ちなみに、試合が始まってから10秒も経ってない。
「つまり……枕か布団を投げれば良いのだな?」
なにか微妙に違うことを言って、海峰は包帯を解き光纏した。
そのまま壁走りを発動。縦横無尽に部屋中を駆けながら、回避&攻撃モードに入る。
だが、これは目立ちすぎた。基本的に、布団などを盾にして戦うのが枕投げのセオリー。
おまけに清十郎がタウントをかけてくれたおかげで、海峰の注目度は百パーセントだ。
で、まぁ当然のことながら、四方八方から集中砲火を受けた海峰はなす術もなく戦闘不能に陥ったのであった。
「うおりゃあああああ!」
開始するや否や、脳筋チルルは手当たり次第に枕を投げていた。
言っておくが、正真正銘ただの枕だ。撃退士パワー(あいまい)で投げられた枕は、敵に届く前に綿毛や羽毛にクラスチェンジしてしまう。言うまでもなくフワフワなので、とても気持ちがいいぞ! 威力? お察し(ry
「なによ、この枕! 根性ないわね!」
でも一応、まきちらされた綿が煙幕がわりになっている。案外役に立つかも(?
「最強クノイチの座を賭けて、勝負よ黒百合! あんたさえ倒せば、あとは楽勝!」
勝手に決めつけて、亜矢はロケランを黒百合に向けた。
「あらァ……やる気ィ……?」
「そのとおりよ! 砕け散れ!」
対戦車ロケット弾が発射された。
いくら黒百合でも、この距離で回避するのは困難……だが、その必要もなかった。
「そんなの、透過するわよォ……?」
「え……!?」
そう、ロケット弾は魔具じゃない。余裕で透過可能だ!
「ひ、卑怯よ!」
「ロケット砲持ちこむ人に、言われたくないわァ……。さぁ枕をどうぞォ……?」
黒百合が枕(ティアマット)を投げた。
「ぐわーっ!」
あっというまに、亜矢撃沈。
というか、これはまずいのでは……。通常兵器(枕)じゃ透過能力を貫けないぞ……。
などというMSの心配をよそに、のっけから戦いを放棄する連中もいた。
「最初に宣言したとおりや。なにがあろうと俺は寝るで。ほなおやすみ」
登場したときから既に布団にINしていた禊は、迷うことなく目を閉じた。
どう見ても自殺行為だが、彼は本気だ。枕さえあれば、たとえ火の中水の中、草の中森の中だろうが寝てみせる……!
いざとなれば、『コージ君』枕もあるぜ! なんの役に立つのかは知らん!
「ふあー……とりあえず俺は様子を見ますね」
あくびをしながら布団に潜りこむのは、悠人。
どうやら彼も寝る気満々だが、一応鉄アレイ枕でセルフディフェンスはしてある。完璧だ! たぶん!
「………」
棺は最初からただの棺桶だった。
たとえ周囲で殺しあいが始まろうと、あくまでも棺桶になりきる。
そう、けっして誰にも気付かれることなく、ただそこにいるのだ。
そして、虎視眈々とチャンスを待つ──。
大丈夫! きっと最後まで誰にも気付かれないよ! だって、ただの棺桶だし! おしゃれなインテリアだし!
そんな戦闘放棄組などおかまいなく、室内には無数の枕が飛び交っていた。
ごく普通の枕に混じって、石の入った枕、爆薬の仕込まれた枕、灯油の染み込んだ火炎枕などが飛び交うのだから、ただごとではない。これはもはや、そこらの天魔退治より壮絶な『戦争』だ。
「いろんな枕が飛んでくるのだー。なら、あたしの枕で打ち返すよー♪」
楓は、布団を盾にしながら明斗をも盾がわりにするというW防衛体勢で枕を投げていた。
狙うのは、盾に使えなさそうな小さい相手。
下着姿なので、全力で振りかぶると何か見えてはいけないものが見えてしまう。
が、本人は気付かず本気の枕投げモードだ。
──だが、ひとつ言いたい。普通の枕で撃退士を倒せるわけないだろ!
「いいか、華澄。枕投げってのはな……こんなんじゃない。これは枕投げとは呼ばない。ただの危険地帯と呼ぶ」
ルナは厚手の布団で自分と華澄を守りつつ、わりと普通に戦っていた。
見るからにヤバそうな枕は、枕で迎撃。
その後ろから、華澄も枕を投げている。
ただの枕ではない。敵に命中すると色々な中身が飛び出す、ビックリ枕だ。
たとえば、ラベンダーのポプリ入り枕。これは相手をリラックスさせて眠らせる効果が……あるといいな。
次に、科学室の先生をプリントした抱き枕。日ごろの鉄屑や突然変異の恨みをこめて、全力で投擲。っていうか、床に叩きつけてる。一体どんだけ恨みが。
それから、没プレの束を詰めた昼寝用枕。
まともなところでは、発煙手榴弾入りの枕もある。
「そんな枕で、撃退士を倒せると思うのォ……?」
ルナたちの背後から、黒百合の枕ちゃんが襲いかかった。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
いきなりピンチに陥る二人。
だが、手元の枕と布団では打つ手がない。
「ここは華澄、おまえだけでも逃げるんだ! 抱き枕のおまえなら、投げても問題ない!」
男らしいところを見せるルナ。
だが、華澄も黙ってはいない。
「いいえ、私があなたを投げるわ。いつも膝枕してあげてるし、私たちはおたがい抱き枕よ!」
「馬鹿を言うな! 黒百合の相手は俺の役目だ!」
「いいえ、私の役よ!」
などと盛り上がる恋人たちを、枕ちゃんのブレスが容赦なく吹き飛ばしたのでした。まる。
「キュゥ!(いくぞ蒼姫!)」
ラッコ男・静矢は、両脇に抱き枕をかかえて光纏した。
「はい! 静矢さんと組んだらアキは強くなるのですよ!」
たがいに『絆』をつかう、鳳夫妻。
そして蒼姫が持参した『枕』は──なんと、静矢自身だった。
「いつも静矢さんの腕枕で寝てるんだから、枕は静矢さんなのですよぅ☆」
「うむ。蒼姫の腕枕である私……つまり我が身は、この場においてひとつの武器なり!」
無茶なことを言ってるが、夫婦だけあって息はぴったりだ。
「では行くのです、静矢枕!」
そう言うと、蒼姫はマジックスクリューで静矢を回転させながら投げ飛ばした。
これって静矢にダメージ入るんじゃね? と思うが、こまかいことは気にすんな!
抱き枕をかかえたまま、「なぅ?・キュゥ・うぇあぁ?」とか鳴き声を放ちながら飛んでいく静矢。
狙いは当然(?)ラファルだ。毎度毎度爆破オチなど、許してはならない!
「ちっ。警戒されてやんの。いいぜ、相手になってやる。これでも食らいなー!」
ラファルの手から癇癪玉枕が飛んだ。
ドパパパパパッ!
「ぬああああっ!?」
爆破の渦に巻きこまれる静矢。
肉弾突撃は確かに強力だが、自身も攻撃にさらされる両刃の剣だ。
「なんの、これしき。『根性』さえあれば、どうということはない! 根性最強!」
癇癪玉枕の洗礼を耐えきると、静矢は連想撃をぶちかました。
ラファルの布団バリアーも、撃退士本人に突撃されては無力でしかない。
そして炸裂する、静矢のWアタック!
吹っ飛ぶラファルに対して、さらに紫鳳翔で追撃だ!
「アバーッ!」
こうして、わりと簡単に(?)ラファルは倒れた。
やった! これで枕LV20の出番はナシ! 世界は救われた!
「キュゥ!(勝った!)」
勝利のガッツポーズをとる静矢。
そこへ蒼姫が瞬間移動してくる。
「さぁ静矢枕。どんどん飛ばすですよぅ☆」
「キュゥ!」
このペア強ぇな!
「みんなよく見ろ! 枕ってのは、こういうのを指すんだ! ははははは!」
哄笑しながら、卍がナナハンで突っ込んできた。
狙いは恋音だ。最終兵器(おっぱい)で全てを潰される前に始末する作戦である。
「そうはいきません! 恋音は私が守ります!」
雅人が両手に枕を持って立ちはだかった。
「グワーッ!」
あっさり轢かれる雅人。
無念。ただの枕では何もできなかった!
当然そのまま戦闘不能に──と思いきや、雅人はムクッと立ち上がった。
「なにィ!?」
驚愕する卍。
「ふふふ……私を甘く見ましたね! いままでさんざん巨大おっぱいに押しつぶされてきた私にとって、バイクに轢かれるぐらい蚊に刺されたようなものなのですよ!」
「だったら、もういちど轢き殺してやるぜ!」
バイクをターンさせて、ふたたび突撃する卍。
だが、そのとき
バツン!
ブレーカーの落ちる音がして、室内は真っ暗になった。
「うおおおおッ!?」
あわててブレーキをかけたとたん、ジャックナイフを通りこして思いっきり前転する卍。
そのまま壁に激突した彼は、バイクごと大破炎上して病院送りになった。
やはり、16畳の和室でナナハンを乗りまわすのは無理があったようだ。
「お〜っと、これはビックリだね〜。会場が真っ暗だよ〜」
アメリアが他人事みたいに実況した。
まぁ実際、完全に他人事なんだが。
「実況解説が……難しくなってしまいました、ね……」
と、秋姫。
もちろん会場の撃退士たちも、少々混乱気味だった。
そこへ、張本人シエルが『夜の番人』と『ハイド&シーク』で颯爽と帰還。
さらに『闇討ち』まで使って、雅人の背後から拳で殴りかかる。
(……え? 腕枕とか、ゴロ寝スタイルで使うじゃないですか。枕だってコレ)
と、心の中で言いわけするシエル。
それはいいけど、生命力8ってアンタ……。
「そうはいきません! 私も闇を歩く者! そのおっぱい、頂戴しますよ!」
雅人も素早く夜の番人を発動し、シエルの胸めがけて枕を──
「ふたりとも、隙だらけよォ……?」
黒百合の枕ちゃんが、雅人とシエルをまとめて薙ぎ払った。
「「アバーッ!?」」
ここで二人はあえなく脱落。
シエルは会場に混乱を招いただけで、病院送りになった。
とはいえ、会場は完全な真っ暗闇というわけではない。
たしかに視界は不自由だが、この程度の障害は撃退士にとって日常茶飯事。枕投げの続行に問題はない!
「ふ……たとえ闇の中でも! 『索敵』で敵を見つけ出し! 『緑火眼』で回避力と命中率を上げ! 精度を高めて確実に敵を撃破! 危険な枕は『回避射撃』で迎撃! ふふふ、まさにパーフェクト! さぁドンドンかかってこい!」
としおは絶好調だった。
たしかに、暗闇の中で『索敵』は優秀と言えよう。
だが、海峰と同じで目立ちすぎである。
緑火眼だって万能ではない。そこらじゅうから飛んでくる枕を避けきることはできない。
石枕や爆弾枕を次々に被弾して、あっというまに瀕死だ。
「く……っ、華子だけは……!」
最後の『回避射撃』をパートナーのために使うと、としおは沈んだ。
「それそれ〜♪ ……って、あれ? いつのまにか、としおさんが!?」
ハッと気付く華子。
「わかったわ! きっとラーメンパウワーが足りないのね! さぁこれを食べて、元気100倍よ!」
華子はインスタント麺をとしおの口にねじこむと、その上から熱湯をかけた。
仰向けに倒れたまま、びくんびくん痙攣するとしお。
「……あれ? 白目むいたままね? どうしましょ? そうね、こういうときは……私の部屋で介抱するのが一番!」
パンッと手を叩くと、華子はとしおの両足首をつかんで引きずりはじめた。
「さぁさぁ、こっちですy……ギャフン!」
自分の世界に入りすぎた華子、大量の枕攻撃を浴びて撃沈!
ふたり仲良く、布団で就寝(気絶)♪
「俺は……なにがあろうと寝る! 最後まで寝たるんや!」
飛び交う枕の中を、禊は必死で寝ようとしていた。
飛んでくる枕を、ときには伏せて、ときには跳躍して回避。
それと平行して寝るという、まさに荒行だ!
だが、けっしてMY枕(コージ君)を投げようとはしない。
「そう……俺は決して枕さんを投げたりせえへん。神聖な眠りの守護者、枕さんを投げるやなんてとんでもない!」
おお、枕投げに参加したのに枕を投げないとは! なにをしにきたんだ!?
……あ、寝にきたのか。納得。
だが、逃げてるだけで勝てるほど、枕投げは甘くない。
「……枕投げの最中に……寝ようだなんて……」
特製シーツハンマーを手に、桜花が立ちはだかった。
「どこまでも邪魔する気やな。安眠妨害は、この世の悪やで! みんな、この子を攻撃や!」
あくまでも自分では攻撃せず、『マネージャー』スキルで周囲の人たちに指示する禊。
でも残念。一般スキルって『使用』するものじゃないんだ。
「……勉強不足……だったな」
ブンッ、とシーツハンマーが振りまわされて、禊の側頭部に叩きこまれた。
「ふ……これでゆっくり眠れるわ……zzz」
こうして禊は、文字どおり永眠した。
だが、勝利した桜花を悠人が襲う!
そう、足下の布団で丸くなって寝ていたのだ!
「安眠妨害は悪……たしかに、そのとおりです!」
ガバッと跳ね起き、鉄アレイ入りの枕で殴りかかる悠人。
「……くっ!」
とっさにシーツハンマーを叩きつける桜花。
だが、悠人の布団に止められてしまう。
「……ならば!」
桜花はハンマーごと悠人を引き寄せると、体勢を崩したところに落ちていた枕を──
「そうはいきません!」
悠人のかぶっていた布団が、桜花の頭にかぶせられた。
地味ながら、これは効果的。
視界を奪われて一瞬ひるんだ桜花の頭に、鉄アレイ枕がぶちこまれる。
「……不覚」
ドサッと倒れる桜花。
しかし、そこに潜んでいたのは悠人だけではなかった。
そう、ただの棺に偽装していた棺が、棺っていたのだ!
ゴシャッ!
一瞬の隙をついて偽装を解いた棺の手から、石の枕(拾いもの)が飛んだ。
「……くっ、てっきりただの棺桶とばかり……!」
無念の言葉を残して、悠人も倒れた。
意識を失う寸前、彼は好き放題したことの妻への言いわけを考えるのだった。
「だいぶ負傷者が増えてきましたが……まだ続けるのですか……」
明斗は枕をくくりつけたフローティングシールドで身を守りながら、救護活動に専念していた。
あの……なんか平然と魔具を使ってるけど……枕が結びつけてあるから、まぁいいか!(適当)
しかし、問題がひとつあった。
楓とマリーが、明斗を盾がわりにして戦っているのだ。
「だって、百戦錬磨の先輩たちにかなうわけないですし……強い人に守ってもらうしかないです」
と自分に言いわけしつつ、明斗の後ろから枕を投げるマリー。
楓にいたっては、戦闘不能になったお兄さんやお姉さんたちを盾に使っている。
「いままで見学していたが……やはり、やられっぱなしは面白くないな……救護班を盾にするのも感心しない」
ここまで沈黙を守っていた侑吾が、のっそり立ち上がった。
なにか手頃な武器はないかと周囲を見回すも、あるのは枕と布団だけだ。
「……よし」
侑吾は布団を手に取ると、撃退士パワーで思いきり圧縮していった。
じきに完成したのは、ガッチガチに固められた球状の何か。
それをバレーのサーブの要領で上げると──
渾身のジャンプバッシュ!
ドバアアアアアンン!
すべての布団と枕が舞い上がり、床にはぽっかりとクレーターができた。
直撃を受けた明斗と楓は、見るも無惨な姿になっている。
「おっと、まきこんでしまったか……まぁやむをえまい。事故事故」
侑吾がバッシュすると一発ごとに人が死ぬので、しかたない。事故事故。
「はわわわ……! いやですぅーー!」
なにかパニックを起こして、わたわた逃げだすマリー。
しかも無差別に奇門遁甲を発動し、周囲を幻惑の渦に巻きこんでいる。
どうやら某巨乳(恋音)から久遠ヶ原には変態が多いと刷り込まれ、貞操の危機と思ってパニクっているらしい。
「まァ、おちつきなさいよォ……」
黒百合の投げた石枕が、マリーの後頭部に命中した。
「!?」
悲鳴も上げずに倒れるマリー。
あえて今まで言わなかったが、今回の黒百合はガチすぎるぞ!
「さ〜て、残るは8人! 優勝者には、チャイナカフェ赤猫の無料チケットをあげちゃうよ〜」
アメリアが気楽に実況した。
「戦いは……ここからが、本番です……」
と、秋姫。
「はたして、優勝の栄冠は誰の手に〜?」
「優勝はあたいよ!」
チルルが超巨大な布団を持ち上げて突進した。
狙いは最大の敵、黒百合だ。彼女を倒さなければ、優勝はない。
だがしかし。
「布団って透過できちゃうのよねェ……」
押しつけられた巨大布団をスルッと通り抜けて、黒百合がチルルの脳天を石枕で殴打した。
「ず、ずるい……! 天魔はずるい……っ!」
抗議しつつ、ばったり倒れるチルル。
たしかにずるいが、仕方ない。ルールに問題があったんだ。俺のせいじゃない(
「透過は厄介だな。……よし、こいつでウェポンバッシュしよう」
侑吾は、なんの躊躇もなくアスカロンを抜き放った。
たしかに実際、魔具を使わないと黒百合は倒せないのだが──
ピピーーッ!
当然のように反則をとられ、侑吾は謎の黒服に引きずられていった。
「そうか……枕投げの世界も非情だな……」
「うぅん……これは賭けですが……私は私の判断を信じますよぉ……」
意を決すると、恋音は二つの武器を出した。
一方は、魔法の電撃を放つ『V電気式マッサージ枕』
もう一方は、体に巻くことで電磁バリアを発生させる『V電気毛布』
どちらも、V家電研究所から借りてきたものだ。
が、しかし──
ピピーーッ!
「えぇぇ……っ!? ですが、あの……たしかに、V兵器は禁止ですけれど、V家電については何も言及がなかったはずではぁぁ……!」
抗議しながら、恋音は黒服に引きずられていった。
まぁV家電って、V兵器そのものなので……。
「たしかに、魔具なしで透過能力を崩すのは難しい……が、いまは私自身が枕! 勝機はある! ルインズ最強!」
静矢の体からオーラがあふれた。
「支援しますよぅ☆マジックスクリューで思いっきり飛ばすのです!」
蒼姫も、やる気十分だ。
その状況を、清十郎は複雑な心境で見守っている。
鳳夫妻が勝てば、そのあと自分ひとりで夫妻と戦うことになる。
逆に黒百合が勝てば、透過能力に手こずるだろう。
どちらにせよ厄介だ。
ちなみに棺も生きてるが、完全に存在を忘れられている。なんというステルス能力!
「まァ、ここまで人数が減っちゃうと、正面きって戦うしかないわねェ……」
黒百合はクスッと笑った。
「いざ、尋常に勝負!」
静矢が身構えた。
直後
ちゅどおおおおおおおん!!
謎の大爆発っていうか、ラファルの置いていった枕LV20が爆発した。
だが、本人は意識不明なのになぜ!?
わけは簡単だ。枕に時限装置を仕込んでいたのである。
爆破オチは回避できたと思ったら、これだよ!
しかも校舎ごと破壊されてるので、アメリアと秋姫も瓦礫の下だ。
打ち上げパーティーとかの用意も、すべてパー! ラファルひでぇ!
「結局、いつもどおりねェ……」
瓦礫の下から、黒百合が平然と出てきた。
そう、爆発も瓦礫の山も、透過の前にはすべて無意味だ。
以上、第一回枕投げ優勝者は黒百合に決定!
【本日の教訓】枕は透過される!