『2015年度 忘年会・受付』
と書かれた窓口が、開場前に設置されていた。
そこに座っているのは、ナナシ(
jb3008)
「参加者は、この登録書にサインしてね。これって一応、斡旋所を通した正式な依頼だから」
と言って、書類にサインさせるナナシ。
書面にはビッシリ文字が並び、『主催者を甲、参加者を乙として、以下のとおり契約を結ぶ。第一条……』などと、面倒な文章が続いている。
当然だれも読みやしない。みんな適当にサインして会場に入る。
「ふ……勝ったね」
「GJよ、ナナシ!」
亜矢が親指を立てた。
そう、この書類はナナシの策略なのだ!
まぁそれは置いといて。
会場には、署名を済ませた参加者が続々と集まってきた。
亜矢が用意したのは、スナック菓子とかスーパーの惣菜の売れ残りとかなので、皆の持ち寄りに期待がかかる。
「きゃははァ、いいわねェ……飲み会って。さァ、いっぱい飲むわよォ……♪」
黒百合(
ja0422)は手作りのサンドイッチを持ってきた。
一口サイズの、手軽につまめる軽食だ。
「それ、砒素とか入ってない?」
亜矢の疑念も当然だった。
黒百合が手作りサンドイッチ?? ご冗談を。
「なによォ……私が毎回毎回愉快犯になるとでも思ってるのォ……? これでも普通の料理作れるのよォ?」
「信じられないわね」
「信じてよォ……今日はお酒を飲みに来ただけだしィ……」
正直不安だが、大丈夫か?
「亜矢さん……ついに頭が可哀想なことに……」
あたりさわりのない料理を持って、雫(
ja1894)がやってきた。
「まさか、あんたの手作り?」
「なんですか? 苦手なのは甘味系だけで、これは普通に食べられますよ?」
「あんたの料理、ろくな記憶がないけど?」
黒百合と同じで、雫も大概ロクなことをしない。
「まぁ今日は亜矢さんの味方ですから。安心してください」
正直不安だが、大丈夫か?(2回目)
「忘年会……そのわりには学年が上がっていないが……? そうか、亜矢おまえダブったのか……」
バトルフライパンをひっさげて、強羅龍仁(
ja8161)が会場入りした。
「あたしは永遠の女子高生なのよ!」
「そうか。しかし今年も色々あったな……。じつは亜矢が男で、卍丸が女だったとはな……驚いたぞ」
「捏造しないでよ!」
「すまない、これは秘密だったな」
「ちがうし!」
「まぁ忘年会だか新年会だか知らないが……今日は存分に料理させてもらおう」
龍仁は天然だが、料理の腕は一流だ。
愛用のバトルフライパンLv5さえあれば、和洋中なんでも作れるぜ! 天然だけど!
「年を忘れる会と書いて忘年会。ならば、その年の記憶を完全に喪失してこそ、真の忘年会と言えよう」
いつもの口調で、下妻笹緒(
ja0544)が語りだした。
「いいわね、その調子よ。これは忘年会なんだから」
声援を飛ばす亜矢。
それを受けて、笹緒が続ける。
「ただ、ひとつ問題がある。これが12月の忘年会であれば、撃退酒を浴びるほど飲めば一年間の記憶などなくなったはず。それならば特に問題はなかった。……だが2月に忘年会を行うのであれば、記憶を失うだけでは済まない。3月以降の記憶も綺麗さっぱり消去し、頭からっぽのまま残りの日々を過ごす必要がある」
「え……?」
「つまり我々は、いまから2016年元旦まで一切の記憶を保持できない。そんな、未来の記憶をも吹き飛ばすほどの衝撃となれば……爆発しかない!」
「待って! 始まる前に爆破はNG! そんなのラファルだけで十分よ!」
「だが、そうしてこそ真の忘年会。覚悟を決めて、爆破スイッチをポチッとn
「忍法・場面転換!」
というわけで、危機は去った。
爆破魔は他にもいるけどな!
「……ハァ? 忘年会? 頭おかしいの? 新年会でしょ? バカなの?」
いきなり正論をかましたのは、雪室チルル(
ja0220)
それを聞いた卍は「よし俺の勝ちだな」と勝利宣言した。
「ちょ、チルル! なんでアンタがそんなマトモなこと言うのよ!」
うろたえる亜矢。
彼女からすれば、味方に背中を刺された気分だ。
「だって、どう見ても新年会でしょ?」
「忘年会! これは忘年会なの!」
「これだから、頭の悪い人は……」
「ぐぬぬ……」
頭の悪い子に正論をつきつけられて、『ねえ今どんな気分? ねえ今どんな気分?』みたいになる亜矢。
だがチルルは素でやってるだけなので、悪意は微塵もない。
「ま、とにかく俺の勝ちだ」
こうして、亜矢と卍の勝負は簡単に決着したのであった。
皆が会場入りする、すこし前。
ユキメ・フローズン(
jb1388)と秋姫・フローズン(
jb1390)は、教室の一画に作られた仮設キッチンで調理に取り組んでいた。
「さて、作ってしまいましょうか」
「作りましょうか……ユキメ姉様」
ユキメは和服姿、秋姫はメイド服姿だ。
髪も金色と銀色で、対照的。
作る料理も、ユキメは和食中心。秋姫は洋食がメインだ。
ユキメの料理は、ブリ大根や焼き魚などの魚介系。それに、厚焼き卵やタコの唐揚げなど居酒屋定番メニューも忘れない。
一方秋姫も、洋食だけでなく酒のつまみになりそうな鶏の唐揚げなどを作っていた。
「下味をつけるとき……お醤油のかわりに、麺つゆを入れるのも……おすすめですよ……?」
と、姉にアドバイスする秋姫。
ユキメは妹や友人にしか見せない微笑を返しつつ、「ありがとう。ためしてみるわ」とクールに応える。
そんな会話を交わしながらも、ふたりは手際よく調理を進めるのだった。
木嶋香里(
jb7748)と日向響(
jc0857)は、荷物をたくさん持って会場にやってきた。
今日のために、ふたりで力をあわせて料理を作ってきたのだ。
「いろんな年中行事を一気に味わうらしいので、色々な料理を持ってきました♪」
香里が亜矢に料理を手渡した。
まずは、鍋で煮込まれた雑煮。
次に、重箱に詰められた恵方巻きと、ちらし寿司。
別の重箱には、桜餅と柏餅だ。
「まだありますよ」
響が差し出したのは、そうめん、月見団子、塩にぎり、カボチャの煮付け、えび天蕎麦。
すべて、年中行事に関連した料理である。
「なるほど、料理で今年一年を振り返るわけね! 名案じゃない!」
亜矢は大喜びだ。
周囲の人もぞろぞろ集まってきて、「これはすごい」などと言っている。
「では皆さん、パーティーおたのしみくださいね♪」
そう言うと、香里は響と一緒に静かなテーブルへ移動した。
そして隣同士に腰を下ろし、適当な料理とノンアルコールカクテルで乾杯。
「えーと……今年一年間、おつかれさまでした?」
苦笑いしながら、響がグラスをかかげた。
「はい、おつかれさまでした。お料理、手伝ってくれて助かりましたよ」
「いえいえ、お手伝いできて楽しかったです」
「ありがとうございます。では乾杯しましょう」
「乾杯」
「乾杯♪」
「出張赤猫、ふたたび開店ってね〜」
アメリア・カーラシア(
jb1391)は、赤薔薇の装飾を施した真っ赤なチャイナドレスで中華料理をふるまっていた。
彼女の経営するチャイナカフェ『赤猫』は、点心から一品料理まで揃った本格派。
今日も、飲茶などの軽食や麻婆豆腐などのがっつりした料理を、次から次へと提供する。
「中華料理はおまかせあれ〜」
仮設キッチンで中華鍋をふるうアメリアは、とてもたのしそうだ。
それをサポートするのは、バイトの染井桜花(
ja4386)
今日は『赤猫』の制服姿で、店長アメリアのお手伝い。
「……これ持って行く……店長」
できあがった料理を淡々と配膳する桜花は、無愛想だが有能だ。
おかげで、会場には続々と料理が並んでゆく。
「フライング忘年会なんて言うぐらいなら、教室なんてしみったれたこと言わずに飛行船でも借りきって空でやればいいのにな」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)が、無茶なことを言いだした。
「レンタル料は卍と亜矢につけといて、食い物とかは俺たちで持ち込みにすればいけるよな。てか、なんで今回は九鬼とか変態お嬢様は噛んでねーんだろうな、こんなときのための金づるだろうに。……でもこれ、いつものノリでやると飛行船が墜落しかねんから、ちょっとヤバめか?」
いちばん墜落させそうな人が心配してるのだから、世話はない。
「まったく、どんちゃん騒ぎがしたければ素直にそう言えばいいものを。なにがフライング忘年会だか……」
重体の身で参加した川内日菜子(
jb7813)は、全身包帯だらけだった。
大規模作戦で長期重体を負い、一度は死線をさまよったが、いまはどうにか回復の兆しが見えている。そんなワケで各方面に色々と心配をかけた一年……いや、一ヶ月だった。これ以上周囲に迷惑をかけるわけにはいかないので、撃退酒は避けておきたいところだ。
「酒はなるべく避けたいな、なるべく……な。ちがう、酒だけにという駄洒落ではない」
「ヒナちゃんよ、それは『押すなよ押すなよ絶対押すなよ?』っていうギャグだよな?」
「そんなことはない。あの焼肉屋の悪夢をくりかえすわけには……」
「とか言いながら撃退酒の瓶をにぎりしめてるのは何故だ?」
「ちがう! これは過去の自分を戒めるためにだな……! だんじて飲みたいわけでは……!」
はたして、日菜子の……というかラファルの運命やいかに!
「今年もひどい事件やら色々あったな。忘れたい記憶だ……」
リリィ・マーティン(
ja5014)は、撃退酒をあおりながら亜矢に話しかけた。
彼女にとって今年最大の事件は、いわゆる『フレグランステント事件』である。
亜矢と百合華の胸に関する悩みを聞きに行ったはずが、なぜか媚薬の香が焚かれたテントで(自主規制)してしまった件だ。
「ああ、あれね。あたしの中では、なかったことになってるけど」
「アヤはタフだな。どれだけの修羅場を経験すればそんなタフになれるんだ? 私はしばらくのあいだ、行軍訓練のときテントで寝るのが怖かったぞ。……わりとマジで」
おびえながら、ヤケ酒をがぶ飲みするリリィ。
彼女もイラクを経験した軍人だが、亜矢ほどには開きなおれないようだ。
「そのための忘年会でしょ! 飲んで忘れればいいのよ!」
「そうだな。アヤは良き友人だ。だからアレはおたがい忘れたほうがいい……」
「だから、あたしはもう忘れたって! 思い出させないでよ!」
「sorry……とにかく忘れよう……おたがい色々あったが、撃退酒で忘れてしまおう……」
意味深なことを言いながら、飲み続けるリリィ。
だが、こんなことで記憶が消えるなら誰も苦労しない!
「どもー、『もしゃ寿司』おまたせしました〜」
ヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)が、岡持をさげて教室に入ってきた。
今日は悪魔ロボではなく人間の姿だ。
服装はセーラー服に半ズボン。そして首輪をつけている。メニアック!
「もしゃ寿司?」
亜矢が首をかしげた。
「創作寿司の宅配です。請求先は卍様でよろしいでしょうか」
「いいわよ。今いないけど」
「では、こちらが請求書になります。毎度どうも〜」
卍本人を無視して、勝手に請求書を作る悪党2名。
ともあれ配達を終えたヴァルヌスは、廊下へ出て行こうとした。
そのとき。薄気味悪いウサギマスクをかぶった胡桃みるく(
ja1252)が、ひょこっと教室へ。
「「うわ……っ!?」」
うっかりぶつかってしまう二人。
廊下に尻餅をつく、みるく。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
ヴァルヌスが手を差し伸べた。
そのとたん、みるくの顔が真っ赤に。
これは、いわゆる一目惚れ!?
いや違う。じつは宅配中のヴァルヌスを見つけたみるくは、道中ずっとストーキングしてきたのだ! なぜならば、彼女は半ズボンフェチ! ぶつかったのも、ハァハァしすぎてうっかり近付きすぎたせい。ただの変態だ!
「こ……こっちこそ、ごめんなさいなのです。……おにーさんは、撃退士の方です?」
「はい。去年の9月からこちらでお世話になっている、マルs……ヴァルヌス・ノーチェと申します。よろしく」
マスクのせいで、相手がみるくだと気付かないヴァルヌス。
みるくのほうも、半ズボンばかり見てるおかげで相手の正体に気付かない。
「あっ、いけない! まだ仕事が残ってるんだった! またね、うな……うさぎさん!」
にこりと微笑んで、ヴァルヌスは走り去った。
「あぶないあぶない。うっかり『うなじさん』とか言いそうに……。でも素敵なうなじだったな……。また会えるといいなぁ」
こっちはこっちで、うなじフェチだった。
とんだ変態親子だな!
「ヴァルヌス、ノーチェさん……。どこか、なつかしい感じがするのです……」
走り去るヴァルヌスの尻を凝視しながら呟くみるく。
そして、思い出したように親指を立てる。
「……ナイス、半ズボン」
すれちがう父と娘の物語は、これをもって最終回!
なんだってーー!?
「2月の忘年会といえば、レモネードとチョコの季節なのですぅ〜♪ 皆さん、どうぞですぅ〜♪」
神ヶ島鈴歌(
jb9935)は、大量のチョコをかかえてやってきた。
一見ふつうのチョコだが、中身はランダム。ナッツやフルーツなど安全なものに紛れて、撃退酒入りのチョコが混じっている。さりげなく……というかあからさまに酔っ払いを量産する気だ。
「亜矢さんチョコどうぞ〜、ぁ〜んなのですぅ〜♪」
「あら、なかなかおいしいわね」
「最近はこういうチョコが流行りみたいですぅ〜。亜矢さんも誰かに、ぁ〜んしてみると良いのですぅ〜♪」
などと無邪気に微笑む鈴歌だが、やってることは撃退酒テロである。
「ふむ。今年の忘年会、か……ずいぶんと粋であるな!」
カミーユ・バルト(
jb9931)は、貴族である。
貴族であるので、なにをやっても完璧だ。
「ふ……今年もボクの雄姿が輝いた一年だったな。輝きすぎて、皆には眩しくて見えなかっただろう、そうだろう。……そうだな、今年のボクも完璧だった。パーフェクトだ。依頼もプライベートも充実していた。老若問わずレディにも優しくできたしな。素晴らしい!」
これほど躊躇なく自画自賛する人も珍しい。
だが、これでいいのだ。貴族だから。
「……ん。今年の締めくくりに、亜矢クンにも優しくしなければ、な。……そうだ! ボク自ら撃退酒でもお酌しようではないか。そして、彼女の話を聞こうではないか!」
おお、貴族の手からお酌とは!
「あら、なかなかのイケメン♪」
亜矢は既にへべれけだった。
そのグラスへ、カミーユが更に撃退酒を注ぐ。
「さぁ話を聞かせてくれ。亜矢クンの素敵さにふさわしい、素晴らしい一年だったのだろう? ボクは信じているぞ? さ、遠慮せず話したまえ。撃退酒はまだまだあるぞ?」
「素晴らしかったに決まってるでしょ! そりゃあ素晴らしかったわよ!」
ふたりの自画自賛祭りが始まった。
「恋音、さあ忘年会を存分に楽しみましょう!」
袋井雅人(
jb1469)は自慢のチーズフォンデュをふるまおうと、フォンデュ鍋や大量の食材を持ってやってきた。
「はい……たのしみですねぇ……」
応える月乃宮恋音(
jb1221)は、めずらしく何も料理を持ってきてない。
そのかわり、平等院から『撃退酒β』をもらってきてあるぜ。
では説明しよう、撃退酒βとは!
飲めばわかる!
でもいきなり飲むといきなり終わってしまうので、飲むのはあとにしよう。
というわけで、由利百合華を含めた4人で乾杯だ。
「私は普通のお酒をいただくわ〜」
満月美華(
jb6831)は二十歳過ぎなので、通常の酒が飲める。
というか、すでに凄い勢いで飲んでいる。
フォンデュだけでなく他の人が作った料理も食べながら、ほとんど一気飲み状態だ。
「恋音〜、飲んでる〜?」
いい具合に酔ったところで、美華が絡みだした。
「えとぉ……私は未成年なので、烏龍茶をいただいておりますぅ……」
「そんな人のための、撃退酒よ〜♪」
「うぅ……撃退酒には、良い記憶がないものでしてぇ……」
「なにかあったら私が介抱するから大丈夫よ〜♪」
「うぅん……では、すこしだけ……。百合華さんも、どうですかぁ……?」
恋音の誘いに百合華は、「では一口だけ……」と応じた。
そして数分後。
そこには、光纏して暴れる百合華がいた。
「この体質、どうにかしてくださいよぉぉ! ぜったい月乃宮さんのせいですよ、これぇぇ!」
「そ、それは否定できませんが……確たる証拠は、ありませんよぉ……」
『体質』というのは、アウルの影響で胸が大きくなってしまう特異体質のことだ。
「証拠なんていりません! あなたを始末すれば、きっと治ります……っ!」
物騒なことを口走って、両手に呪符を取り出す百合華。
こいつに撃退酒飲ませたらアカン。
「おちついてくださいぃ……! ちょうどここに、平等院さんの作った新薬がありますのでぇ……飲めば、体質改善されますよぉ……」
「そんなこと言って、いつも失敗ばかりですよぉぉ!」
「いえ、今回はきっと……たぶん……おそらく……」
しどろもどろに答える恋音。
一応彼女も、胸を小さくする薬を真剣に探しているのだ。ただ、いつも裏目に出るだけで。
「あら? 新しい撃退酒〜?」
美華が食いついた。
「はい……満月先輩も、ためしてみますかぁ……?」
「もちろんよ〜♪」
「私もいただきますよ!」と、雅人。
そんな次第で、4人いっせいに撃退酒βを飲んだわけだが──
ぐしゃあっ!
瞬時に膨張した恋音と美華のおっぱいが、左右から雅人を押しつぶした。
どうでもいいことだが、雅人のおっぱいは変化がない。
「あはは♪ おっぱいおおきい〜」
とか笑ってる場合じゃないよ美華さん。雅人が死んでる。
まぁなにはともあれ、これで美華と恋音の姉妹の絆が深まって──
「やっぱり、こうなったじゃないですかぁぁぁ!」
恋音たちと同じく爆乳化した百合華が、ありったけの符を炸裂させた。
おっぱいが重くて動けない美華と恋音は爆死。
おっぱいに挟まれて動けない雅人は圧死。
そして百合華本人も自爆。
こうして、彼女たちの忘年会は終わった。
うん、百合華に飲ませたらアカン。
「さぁできたぞ! 宴会料理といえば……当然これだろう!」
龍仁が大鍋で運んできたのは、カレーだった。
しかも、フローティングシールドをトレー代わりにして鍋を載せている。フラフラして、いまにもひっくりかえりそうだ。
「わぁ〜い。カレーなのですぅ〜。強羅さん、肩車してくださぁ〜い♪」
鈴歌が皿とスプーンを持って走ってきた。
話に脈絡がないが、酔っぱらってるのかシラフなのかわからない。
「肩車か……なつかしいな」
息子のことを思い出して、感慨深い表情になる龍仁。
そのとき既に、鈴歌は龍仁の背中によじのぼっている。やっぱり酔っぱらってるのかも。
「では、生命の恵みに感謝していただきますぅ〜♪」
肩車してもらいながら、カレーをほおばる鈴歌。
なにやら珍妙な光景だが、龍仁はまんざらでもなさそうだ。
「なにもおかしくはない、これはぼうねんかいだ。『ねんどまつ』だからね!」
そう言って、九鬼龍磨(
jb8028)はキリッと顔を引きしめた。
なるほど、たしかに年度末だ。まぁそれでも早すぎるけど。
しかも龍磨は、最初から酔っぱらっていた。
さらには、忘年ついでに自分の限界を確かめておこうと、撃退酒と普通のお酒をちゃんぽん。
あっというまに泥酔野郎の完成である。
「よし、今日こそ挑戦だ!」
龍磨は酔っぱらった勢いで『赤猫』へ突撃した。
注文するのは、超究極・激辛四川風麻婆豆腐『アメリアスペシャル』
どれぐらいの辛さかというと……まぁ尋常ではないとだけ。
「しせんりょうり からい……つらい……」
半泣きになりながら、麻婆豆腐を食べる龍磨。
ここで、撃退酒をぐびっと一口。
ただの撃退酒ではない。恋音から少しだけ譲ってもらった、β版だ。
その瞬間、なぜか体が小さくなってしまう龍磨。
「むふー」とか言う不思議生物めいた何かに変身した龍磨が、一気にアメリアスペシャルを丸呑みにする!
「おお〜、完食おめでとうだよ〜。これは、お店のサービス券ね〜」
アメリアが『赤猫』の無料チケットを手渡した。
しかし、酔っ払い&謎の生命体化した龍磨は、そのチケットも食べてしまう。
彼の食欲はとどまるところを知らず、そのまま酔いつぶれるまで会場の料理を食い荒らすのであった。
ひととおり料理を作り終えたところで、ユキメと秋姫は宴席についた。
ユキメは秋姫の作った洋食を、秋姫はユキメの和食をおたがいにつまむ。
「……うん。このお料理、なかなかの味よ?」
「ユキメ姉様に……そう言ってもらえると……うれしいですね……。ユキメ姉様のお料理も……おいしいです……」
そんな会話をしながら、くいくいと撃退酒をあおる二人。
とくに変化はないように見えるが──
「熱い〜!」
突然、ユキメが着物を脱ぎだした。
「あの……どうしました……?」
「熱いの〜!」
と叫びながら、着ているものをぽんぽん放りだすユキメ。
どうやら彼女は、酔っぱらうと脱ぐクセがあるらしい。
それだけでなく、幼児退行までしているようだ。
「しかたがない……ですね……」
脱ぎ散らされた服をかきあつめて、姉の背中にかける秋姫。
だが、彼女の仕事はそれだけでは済まなかった。
「おねえちゃあん……」
こちらも幼児と化した桜花が、子供みたいに微笑みながら秋姫の背中に抱きついたのである。
ふだんは超クールな桜花とユキメをこんな風にしてしまうとは、撃退酒おそるべし。
「本当に……しかたがない……ですね……」
溜め息をつきながらも、冷静に対処する秋姫。
その直後に彼女の口から出てきた「まったくだ……」という一言は、修羅姫モードのものだった。
「この学園に着たばかりの頃は右も左もわからなかったけど、木嶋さんに逢えて毎日が楽しいです♪」
「響さんと出会ってから、私も一層たのしく過ごせてますよ♪」
響と香里は、完全に二人だけの世界を作っていた。
周囲の喧騒など、なんのその。出会ってからの思い出話に、ずっと花を咲かせている。
しかし会話に集中しすぎたせいか、響はソフトドリンクとソフトドリンク風撃退酒を取り違えてしまうという失敗をやらかした。
最初の1杯2杯はほろ酔いで済んだが、なんだか気分が良くなって飲み進めるうち完全に酔いつぶれてしまう。
「響さん、もしかして酔っぱらってませんか……?」
「いえ、大丈夫です。ジュースしか飲んでませんから。……そんなことより、私は初めて会ったときから……香里さんのことが……すk………zzz」
最後まで言えないまま、響はテーブルに突っ伏した。
それを見て、香里は穏やかに微笑む。
起きたとき響はこの記憶を忘れているが、ほかならぬ香里が覚えているのは、きっと幸福なことだ。
「今年の年賀状に『2015年も早いもので、残すところ11ヶ月。来年もよろしくお願いします』と書いたあたしに死角はない!」
なにか言いながら、歌音テンペスト(
jb5186)がやってきた。
5億年も生きてるくせに年賀状を書くとは、案外律儀だ。
「クイズ72億人にききました! 忘年会の余興といったら? そう、ビンゴよね!」
だれの答えも待たずに、定番のパーティーグッズを取り出す歌音。
そして、間髪入れずに説明をはじめる。
「さぁみんな集まって! 景品は、早かった人には生パンツ。遅かった人には、木ネジ、ビール瓶の王冠、縮れ毛などなど。……って、こんなん誰がやるのよ!」
自らのボケに自らツッこみ、ビンゴカードを床に叩きつける歌音。
「私がやります! ぜひ生パンツを!」
参加者は雅人だけだ。
リタイアしたのに、パンツのためだけに復活するとは……。
「さっきはああ言ったけど、正直ビンゴどころじゃないのよ! 今年も残り11ヶ月を切ったのに、来年の年賀状を一枚も書けてないの! どこに行っても2016年の年賀状は『まだ売ってません』って、どうなってるクェェー!」
あせりと動揺のあまり、号泣&錯乱する歌音。
「誰ガデー! ダデニ投票シデモ! オンナジオンナジヤオモデェー! ンァッハッハッハー! この日本ンフンフンッハッ天地神明二誓ッテェー! STRIP細胞ハアリマアアアアアァン!」
大丈夫かな、このネタ。
「亜矢お姉さん、卍お兄さん、一緒に遊びましょう」
ほろ酔いの雫が、ふたりに声をかけた。
「なんだ? 今日はおとなしいな」と、卍。
「いつもどおりですよ? ふたりとも、まぁ飲んでください」
この段階では、年相応に可愛らしい雫。
だが、酒が進むと豹変した。
「卍さん……そこに正座」
「な、なんだ?」
「いいですか。卍さんは亜矢さんとつきあいが長いのですから、いいかげん気付いてあげないと。2月と12月をまちがえる頭の可哀想な子になるまて放っておくなんて、ひどいです」
「こいつは最初からそういう奴だ」
「私の言うことが聞けないんですか……?」
やおら立ち上がり、邪悪なオーラとともに大剣を抜き放つ雫。
「ま、待て!」
「待ちません! すべて卍さんが悪いんです!」
「グワーッ!」
教訓:雫に撃退酒を飲ませてはいけない。
(自分は場違いな所に来てしまったのでしょうか……)
周囲の喧騒に包まれながら、秋嵐緑(
jc1162)は教室のすみっこでジュースを飲んでいた。
場に馴染もうにも、右を見ても知らない人。左を見ても知らない人。
今月の頭に入学したばかりなので、まわりの人についていけない状態だ。
おまけに極度の人見知りのせいで自分から声をかけることもできず、ちびちびと一人でジュースを飲むばかり。その背中には、ちょっと寂しげなオーラが漂っている。が、はたから見ると無表情なので何を考えてるかわからない。
(皆さん、ワイワイたのしそうですね。自分的にはここに来て1ヶ月も経っていませんので、忘年会と言うよりは新年会のほうが近いような気がしなくもないですけど……)
そんなことを思いながら、黙々とジュースを飲む緑。
もっとも、亜矢以外ほとんどの人はこれを忘年会とは思ってないけどな。
そのころ。日菜子は完全に出来上がっていた。
飲まない飲まないと言ってたが、ふたを開ければこの始末。
「さぁラル。あーんしろ、あーん」
「飲みすぎだぜ、ヒナちゃん」
「私は飲んでない! いいから早く、あーんするんだ! 口移しで飲ませてやる!」
「やだよ、ばっちいな」
「ばっちくない! それとも私の酒が飲めないのか!」
言うのを忘れたが、日菜子はラファルを押し倒してる状態だ。
一体いつから日菜子は、こんなクレイジーサイコレズに……。
だが、そこへチルル襲来。
「正義の味方、あたい登場! いやがる子を無理やり押し倒すなんて、撃退士の風上にも置けないわ!」
「部外者はひっこんでてくれ! これは私とラルの問題なんだ!」
「いいえ、風紀の問題よ! 学園の倫理はあたいが守る!」
「倫理なんかで私を縛れると思うな!」
「蔵倫を敵にまわす気ね? だったら、あたいの勝ちよ! くらえ、ブリザードキャノン!」
なにかというと、すぐ封砲をぶっぱなしたがるチルルちゃん。
それ撃つとラファルも巻きこむんだが、まぁいいか。
「あはァ、たのしそう♪ 私もまぜてェ……?」
イカソーメンをかじりながら、黒百合が超低空飛行で乱入してきた。
どうやら、だいぶ酔っている。ただでさえタチの悪い黒百合だが、酔っぱらうと更にタチが悪くなるぜ!
具体的にどうなるかというと、日菜子と同じになる!
「まとめて相手してあげるゥ……ダークハンド発動ォ♪」
影から伸びた腕が、チルルと日菜子とラファルを同時に拘束した。
しかもこの闇の腕、やたらと動きがエロい。まったく、レズの多い学園だな!
「いかん! 蔵倫が発動してしまう!」
鈴歌を肩車したまま、龍仁が走ってきた。
そして、黒百合めがけて審判の鎖を……と思ったら、まちがえて星の鎖で一本釣り。
「おっと、うっかり」
と言ったそばからフローティングシールドが暴走して、拘束中の3人に激突。盛大にカレーをぶちまけた。
「すまん。うっかりだ」
「うっかりじゃ仕方ないですぅ〜♪」
笑顔でカレーをもぐもぐする鈴歌。
こうして悶絶百合地獄は回避され、かわりに少女たちはカレー地獄へ落とされたのであった。
「さて、そろそろ宴会も終わりね……。みんな注目!」
騒ぎが収束したところで、ナナシが書類を手に立ち上がった。
隣には亜矢の姿もある。
「これは、入場のときみんなにサインしてもらった参加登録書のコピーよ。ここをよく見て。『私は今回【忘年会】に参加することを宣言します』って書いてあるわね? つまりこれは、参加者全員が認めた忘年会ってわけよ!」
「「な、なんだってーー!?」」
会場中から驚きの声が湧いた。
「待て! そんな適当な書類が認められるか!」
抗議したのは卍だ。
「これは斡旋所の公式な書類よ。公文書に署名した以上、知らなかったは通らない。裁判でも勝てる! あなたの負けよ!」
「く……やってくれたな」
「あはははは。この私の好きなことの一つは。絶対勝ったと思っている相手に敗北を突きつけてやることよ!」
勝ち誇るナナシ。
亜矢は大笑いだ。
が、卍には切り札があった。
「パンダ園長! いますぐ全員の記憶を爆破しろ!」
「ようやく私の出番か。では要求どおり、今年1年間の記憶を消去しよう。圧倒的なエクスプロージョンによって!」
笹緒が出てきて、謎のスイッチに指をかけた。
「待ちなさい! バレンタインと同じオチなんて認めないわよ!」
血相を変えて怒鳴る亜矢。
だが、笹緒は顔色ひとつ変えない。
「バレンタインと同じオチ? 問題ない。その記憶すら吹き飛ばすのだから。ポチッとな」
ち ゅ ど お お お お お ん !
こうして、卍と亜矢の不毛な勝負は綺麗さっぱり抹消された。
参加者も皆そろって記憶障害に陥り、翌日学園の掲示板には『爆破禁止』という告示が貼り出されたのであった。