「Hi,アヤ! 元気そうでなにより……でもないな。どうしたんだ?」
リリィ・マーティン(
ja5014)は一番乗りで教室にやってくると、フレンドリーに話しかけた。
「アンタ依頼書見てないの? あたしの胸を大きくするために、あんたらの知恵を借りてやろうってのよ」
「Oh,そうだったな。なるほど胸か……私も小さいほうではあるが、とくに気にしたことはないな。アヤはなぜ胸がほしいんだ?」
「理由なんかどうでもいいでしょ! ないものはほしい! それだけよ!」
「アヤ、自分と他人を比べるな。アヤはアヤだ。明るくてフレンドリーで充分魅力的な人間だと私は思っているぞ。胸が大きかろうが小さかろうが、その気持ちに変わりはないさ」
欧米的な合理思考で説得を試みるリリィ。
だが、亜矢には通じない。
「アンタに好かれたって意味ないのよ! そこのレズどもと一緒にしないで!」
「失礼な。私はレズじゃない。バイだよ」
桜花(
jb0392)が冷静に反論した。
「変態に変わりはないでしょ!」
「まぁ私のことは置いといて……そんなに小さいのイヤなの? 私は亜矢、そのサイズでも好きだけど?」
色目を使って、すりよる桜花。
「ちょ! あんたは年下専門でしょうが!」
「え? 少し前までは自己紹介に『さいきん可愛ければ同年代でもよくなってきた』って書いてたんだよ? つまり、亜矢も守備範囲」
「寄るな、変態!」
予想どおりの展開だが、これでは説得どころではない。
「オウカ! このあいだは楽しかったよ。また呼んでくれ、いつでも付き合うぞ!」
リリィが欧米風のノリで挨拶した。
「リリィも参加してたんだね。よし、協力して揉み……依頼を成功させよう!」
「そうだな。しかしアヤは思った以上に頑固だ。策はあるか?」
「まずは、なぜ大きくしたいのか。そこからだな」
そう言うと、桜花は再び亜矢に向きなおった。
「私は……以前は小さい子へのアピールとかさ、さわらせて癒してあげたい的なものがあったんだけど……亜矢はそういうのあるの? 『持てる者の悩み』って言うけど、そこはっきりしないと意味ないと思うよ?」
訊ねながら、胸の下で腕組みしておっぱいを見せつける桜花。
イヤミ効果は抜群だ!
「たしかに理由は重要だ。さっきアヤは『理由なんかどうでもいい』と言ったが、正直になれ。理由もなく何かをほしがることなどありえない」
リリィが真剣な表情を向けた。
しかし、亜矢は答えない。
「ならば……これをさわってみろ」
ガシッと亜矢の手をつかむと、リリィは自らの胸に押し当てた。
ふわっとした感じはなく、カチンカチンに張っている。
もともと揉めるほどはないが、これではまるで雄っぱいだ。
「なんなのよ! あんたも変態レズ野郎ってわけ!?」
「ちがう。私は最近、やっと筋肉がついてきたのだ。もともとつきにくい体質なのかもしれんが……。いまはそれが嬉しい。ようやく体が格闘訓練や銃の反動に耐えれるようになってきたからな。幼少のころは悔しかった。格闘訓練は明らかに不利だったし、銃も扱えるものを選ばなければならなかった。……だが今は大抵の銃は扱える。格闘訓練はまだまだ不利だが、昔よりは選択肢が増えた」
「なにが言いたいのよ」
「もうすぐ愛する祖国の、海兵隊の役に立てる……それが嬉しくてしょうがないのだ。わかるか、これが私の『理由』だ!」
「知らないっつーの!」
これは説得どころでは(ry
「では、ここで私から解決策。……こんなのどうかな?」
桜花が取り出したのは、人工乳房だった。乳ガンなどで乳房を失った人がつけるアレだ。ちなみにDカップ。
「まずはこれを1週間つけてみなよ。持てる者の悩みってのを理解してから考えてもいいんじゃない? あ、お風呂のとき以外は外しちゃだめだよ? 肩こりやら何やら含めて経験しないと意味ないんだから」
「そんなニセモノじゃなく、自前のおっぱいを大きくしたいのよ! ほんと役に立たないわね!」
「自前のを大きくね……。私は自分で大きくしたけれど?」
「その方法を訊いてんのよ!」
「え、方法? マッサージだよ、自分でおっぱい揉むの、先っぽもちゃんといじってね……女性ホルモンとかうんたらなんだって。……あ、激しくやると逆に形が崩れるからやさしくね。なんなら私がやってあげようか? ん?」
両手をワキワキさせながら迫る桜花。
直後、眉間に手裏剣が刺さって彼女は倒れた。
「それにしてもォ……あんた馬鹿ァ? 機動力が武器の忍者が、なんで被弾面積と体重を増やしてまで、バランスを悪化させるだけの物を取り付ける必要があるのよォ……? というか『変化の術』でいくらでも体型をいじれるでしょォ?」
そう言って、黒百合(
ja0422)は『変化』した。
すると、ロリ中学生の黒百合が一瞬で妖艶美女に早変わり!
ちなみに彼女が貧乳ロリなのは、あくまで戦闘を有利にするため。かわいい少女の外見で敵を油断させる効果もある。……まぁだれも黒百合を見て油断しないと思うけどな。
「ただのインチキでしょ、それ」
「でも、大きく見せることはできるわよォ?」
「却下よ、却下!」
駄目だこりゃ。
「思ったんだけど、胸って勝手に育っていくものなんじゃないのかな?」
不破十六夜(
jb6122)が、ふと問いかけた。
「現実を見なさい、現実を!」
「うーん……刺激を与えれば大きくなるらしいから、針を大量に刺すのはどう? 某国4000年の歴史も相俟って効くかもしれないよ」
「SM趣味はないわよ」
「じゃあ、あとは……ぼくの自作料理を一緒に食べる?」
「あんたは重度の味覚障害でしょうが!」
「じゃあもう、だれかに『雫衣』をかけてもらえば? 理想の体型になれるはずだよ。……動いたら解けちゃうけど」
「そういうインチキは却下! ったく、役立たずばかりね!」
「そもそも胸なんて、あってもなくてもどっちでもいいと思うけどな〜」
おもわず、根底から依頼を否定してしまう十六夜。
そのとき、彼女の背後に銀髪少女の生霊が現れた。
「妬ましい……たれてしまえ……」
これはもしや、十六夜の姉。
ブルッと震える十六夜。
「あれ、今なんか寒気が……風邪かな?」
生霊を飛ばすって、すごいスキルだな。
「では、今回唯一の男として、その視点からの意見を」
こほんと咳払いして、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が語りだした。
「いいですか、女性は貧乳が一番! 昔、どこかのエロい人が言いました『貧乳はステータスで、希少価値がある』と。つまり矢吹先輩、あなたの貧しいおっぱいはとても珍しくて貴重なのです。レアなのです! 凡百のごとく中途半端に大きくするなんて、とんでもない!」
「それはアンタの趣味でしょ!」
「単なるロリ趣味ではありません。僕は基本的に小柄な女性が好みなのです。それに、スレンダー美女の矢吹先輩には巨乳より貧乳のほうが映えますよ。黒百合さんの例もあるとおり、胸のサイズは回避率にも大きく影響しますし」
「胸が邪魔で被弾するなんて、羨ましすぎる!」
「こまった人ですね……こうなれば、なにごとも暴力で解決するのが一番でしょうか」
「やれるものならやってみなさい!」
今日の亜矢は本気だった。
まぁ全員でかかれば瞬殺だが……。
「ところで、あのぉ……百合華さんのほうは……?」
月乃宮恋音(
jb1221)が話を切り替えた。
どうやら他人事ではないらしい。
「じゃあ恋音の話を話を聞こうか?」
明日羽が教壇で微笑んだ。
一方、百合華は机の前で小さくなっている。
「えとぉ……百合華さんの下着は、サイズが合ってないと思いますぅ……。もともとCの80なら、アンダーは65ぐらい……胸に合わせて多少増えていても、70cm前後ですし……それでバスト110cmなら、L〜Mカップぐらいはあるのでは……。見たところ、とくに太っているわけでもありませんし……」
「えと……そこまでは多分……」
「うぅん……大きくなったことを認めたくないのは、よくわかりますぅ……。けれど、きちんと合ったサイズをつけないと、形が崩れたり、肩こりがひどくなったりしますよぉ……」
「それはわかるんですけど……」
「そのぉ……下着屋へ行くのが恥ずかしいのでしたら、私がお作りしましょうかぁ……?
「そ、それはもっと恥ずかしいですよ……。あの、これを小さくする方法はないんですかぁ……?」
「あるなら、私が知りたいですねぇ……」
何年も前から胸部の肥大化に悩まされている恋音にとって、これは大きな課題だ。
が、ここでひとつの可能性が浮上する。
「もしかすると……私と関わったことで、体質が感染してしまった可能性も……もしそうでしたら、本当に申しわけありません……」
深々と頭を下げる恋音だが、内心では仲間ができたと思って少し喜んでいた。
「ねぇ、百合華さんがよく行くお店を紹介してくれないかな? 着れる服や下着の値段が高くて困ってるんだ……。センスの良いお店で、なるべく安価で売ってる所がいいんだけど」
場の空気を変えようと、十六夜が話を振った。
「それは、私でなく月乃宮さんに訊いたほうが……」
「ん。たしかにそうかも」
というわけで、お店の話を聞く十六夜。
桜花やリリィにも話を振るが、黒百合のことはチラッと胸を見て「うん、お姉さんはいいや。他の人に相談するね」とバッサリだ。
が、そんな些細なことを気にする黒百合ではない。
かつて手籠めにした百合華のために、今日は準備万端ととのえてきたのだ。
「ふふ……あなたのために、色々と準備したわァ? 使用後の結果だけでも聞かせてほしいなァ♪」
と微笑みながら、なにやら百合華の机にアイテムを並べる黒百合。
ひとつめは、漆黒の裁ち鋏だ。見るからにヤバげな凶器である。
「これで肉を切ると、痛くないらしいわよォ……最小限の被害と手間で胸を小さくできるのだから便利よねェ……?」
「ひ……っ!?」
本気で怯える百合華。
次に黒百合が置いたのは、呪われたぬいぐるみだ。
「これは呪術的、って言うのかしらねェ? まァ、小さくなるオマジナイ(呪い)が込められた人形らしいわァ」
解説によると、過去の所有者は一人残らず発狂したり惨殺されたりしている。
貧乳少女の恨み恐るべし!
黒百合は更に、謎の香水を百合華に見せた。
「これは薬物的かしらァ? なんでも、塗ると小さくなるらしいわァ? 本当かしらァ?」
わくわく顔で勧める黒百合。
解説によると、塗った部位の蛋白質を溶かすことで貧乳に……って、直球でグロすぎるぞ!
そんな議論の中。
御供瞳(
jb6018)が元気よく乱入してきた。
「おめさんがだも物好きだべンなー。そげに病さ得て胸がぷっぷくぷーさ腫れ上がるのを喜んでるさまは、哀れを通りこしていっそ滑稽だべ?」
おお、今日はエア旦那様ぁをさがしてない!
ついに諦めたか!?
「……なんだべ? おめさんがだの胸ってば、普通は膨れるものなんだべって? おらぁてっきり、悪い腫れもんができてふぐれてるとさーばっかり思ってたべ。……でもぉ、なんでさオラの胸は膨らまねーべ。おがしいでねーが。未亡人とはいえ、この中で唯一既婚者のおらがちいざいなんでありえねーべ?」
かなりの訛りっぷりに、参加者たちも呆然だ。
どうやら超絶田舎者で芋娘な瞳は、自分こそがスタンダードだと思ってたらしく、巨乳女子は悪いビョーキなんだと固く信じて疑ってなかったようだ。そのため深刻なデカルチャーショックに襲われ、わが胸を顧みて三歩あゆめず。……ということは全くなく、やっぱりよくわかってない模様。でも胸が腫れたり腫れなかったりする方法はなぜか知っているとか。
「四国の山奥村が健在だったころ、胸を腫らしたおなごだつが籠る洞窟があったそうな。3日3晩そこで禊さ捧げると、胸が小さくなるって言ってたべ。反対に胸さ腫れてないおなごだつが同じように祈りさ捧げると、なんともはぁ……胸が腫れあがってしまったそうな。どっとはらい」
毎度のことながら、発言が自由すぎる。
ちなみに村は全滅してるので、その洞窟が今もあるかどうかは不明。
つまり何のアドバイスにもなってない!
こうして、いつもどおりグダグダのまま話は進んでいった。
亜矢も百合華も、まるで問題が解決してない。
そこへ、さらに話をグダグダにするべく黒神未来(
jb9907)がやってきた。
「話は全部聞かせてもろたで! おっぱいデカいんが悩みやなんて、ぜいたくな悩みやないか! ええ加減にせえ! おっぱい小さいんが悩みやなんて、それはそれでアリやないか! なにぜいたく言うてんねん!」
明日羽の隣に立つと、未来は教卓をブッ叩いた。
一同を見下ろして、彼女は続ける。
「アンタら全員、うちの悩みがわかるか!? うちは一応Dカップあるんやで! 世間一般では大きいほうや! それが何で、この学園やと小さいほうやねん!」
恋音を指差して吠える未来。
「デカかったらデカいで、おっぱいキャラになれるやろ!」
次に亜矢と瞳を指差して、
「小さかったら小さいで、ちっぱいキャラになれるやんか!」
と怒鳴る。
酔っ払いみたいなテンションだ。
「ええか、うちみたいな中途半端なんが一番困るねん! うちはどういうキャラでやってけばええねん! この悩みわかってくれるんは明日羽クンだけや!」
明日羽の胸に飛び込んで、オイオイと泣きだす未来。
思いがけぬ展開に、明日羽は大喜びだ。
「うんうん、大変だったね? 慰めてあげるよ?」
「そんな慰め、いらんわー! うおー! うちにそのおっぱいわけろー!」
光纏して、明日羽に襲いかかる未来。
「おっぱいなら、この子を揉んでね?」
するりと未来の手をかわすと、明日羽は百合華をひきずりよせて未来のほうへ突き飛ばした。
よろけた百合華の胸に、ぽよんと未来の両手が!
いや、ぽよんどころかガッシリと鷲づかみ状態だ!
「ええ揉み心地やー! こうなったら全員のおっぱい揉んだるでー!」
「じゃあ手を貸そうか?」
言うが早いか明日羽の手から鎖が飛んで、エイルズ以外の全員を縛り上げた。
ちなみに黒百合は、とっくに逃げてる。
だが、ただ逃げたわけではない。改造テントを教室の片隅に設置して、中に香水(媚薬)をまいておくという置きみやげつきだ。
「どうせ愉快な展開になるのだから、事前に逃げ場所を用意しておいたほうが親切でしょォ……?」
などと微笑みながら、悠々と廊下を去って行く黒百合。
その後テントに押し込まれた少女たちがどんな目に遭ったかは、とても書けない!
今回の未来は、ちょっと、だいぶ、かなり、どうかしてたんだ!
おかしいな、おっぱいの悩みを解決する依頼のはずだったんだが。
なにひとつ解決してないどころか、明日羽が得しただけだコレ。
……いや訂正。桜花と未来も明らかに得してる。
これぞまさに、百合オタの、百合オタによる、百合オタのための依頼!
うん……ひどい事件だったね……。