クリスマスまで2週間もある、平日の午後。
矢吹亜矢のクリスマスパーティーが、盛大に行われようとしていた。
告知されたとおり、彼女が用意したのは大量の大根と人参のみ。あと、撃退酒とかいうヤバい飲み物。会場の教室は、折り紙で作ったチェーンや段ボール製のツリーが飾られており、小学校のクリスマス会めいた光景を作り出している。
なんともお粗末なパーティー会場だが、はたしてどうなるのか。
開場前。最初にやってきたのは、アルフィーナ・エステル(
jb3702)だった。
全身白ずくめの、天然天使である。
「えと、人参さんがたくさんです?」
「なに? このまま食べるの?」と、亜矢。
「それは遠慮するです。でも、人参さんのお菓子なら作れるのです」
「じゃあ調理実習室へ移動よ!」
その実習室には、先客がいた。
大根と人参だけの根菜料理に精を出しているのは、胡桃みるく(
ja1252)
まずは、すりおろした大根とシナモン、小豆、豆乳をゼラチンで固めて、きなこで飾った大根ゼリー。
次に、牛乳と豆腐にすりおろした大根を入れた大根プリン。
さらには、人参カップケーキ、クリームチーズ入り人参スコーン、人参アイスと品数豊富だ。
すべて、熱いものが苦手な藍那湊(
jc0170)のためである。
菓子類だけではない。ほかの参加者のために、ふろふき大根、あんかけ、味噌田楽、人参きんぴら、人参と大根のサラダ……と揃っている。
そこへやってきたのは、当の湊。
みるくの手料理目当てに参加したのだ。
「すごいなぁ。大根と人参が、こんな多様に変化するんだね」
「おじいちゃんが言っていたのです。『料理は食材に彩を与える』と。限られた食材でも、調理次第で華やかになるものです」
そう答えて、みるくは微笑んだ。
「よし、僕も手伝うよ」
さりげなく、みるくの横に立つ湊。
その瞬間。調理室の隅にあったツリーが、ビカーンと目を輝かせて湊に襲いかかった。
「娘はやらんと言ったハズだァァ!」
がしっと湊を取り押さえたのは、ヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)
みるくを守るため、そして正体を隠すため、こうしてツリーに擬態していたのだ。
「のんちゃん……いや、義父さま!」
うっかりそんなことを口走る湊。
「だれが義父さまだ! おまえを電飾で飾って吊るしてやんよぉ!」
ヴァルヌスは一気に駆け寄って湊の腹に膝をぶちこむと、華麗な動きで卍固めに持ちこんだ。
「娘はなぁ! ボクのお嫁さんになるって言ってくれたんだよォ! ……4歳のとき」
震え声で過去の記憶を語るヴァルヌス。
みるくの前で『娘』とか言っちゃったけど、いいのか?
「4歳のときの話なんて無効です!」
言い返すものの、義父を傷つけるわけにいかず防戦一方の湊。
そんな二人をよそに、みるくは料理に夢中だ。
どうやらヴァルヌスの正体には気付いてない。ていうか二人を止めろよ。
しかし、そのとき。
調理台から転げ落ちた撃退酒ボトルが、湊の頭に命中した。
「うおおおお! こうなれば、貴様をキャストオフしてやりましょうか!?」
当たりどころが悪かったのと、撃退酒の効果によって、悪魔の血が活性化してしまう湊。
卍固めをふりほどくや、紙袋をかぶって覆面レスラーに変身!
ヴァルヌスの胸板に、渾身の逆水平チョップ!
「くっ! おまえのような男に娘はやらん!」
負けじとヴァルヌスも逆水平を返す。
「絶対にいただきます!」
壮絶なチョップ合戦が始まった。
最後は、ふたり同時のチョップが互いに炸裂。
クロスカウンターみたいに、両者とも仰向けにブッ倒れた。
「ふ……いいチョップだったぜ、湊……。娘はやらないけどな」
「あなたこそ……僕らはやはり、いいコンビだったのです……」
夕日の河原で殴りあった不良同士みたいなことを言って、彼らはガクリと意識を失った。
以上、緑の悪魔ヴァルヌス物語・第3話『娘はやらん編』おわり。
次週第4話『荒野の決闘! ヴァルヌス、暁に死す!』へ続く!
そんな騒ぎを避けたのか、美森あやか(
jb1451)、音羽聖歌(
jb5486)、神谷託人(
jb5589)の3人は、部室の台所で調理していた。
大根と人参は前もって受け取ってあり、下ごしらえは万全。
正直なところ聖歌はあまり亜矢と関わりたくないのだが、たまには他の人がどんな料理を作るのか見ておいても良いのではと考えたのだ。そして、どうせ参加するなら料理好きの3人で……ということになったのである。料理のリサーチ目的でパーティーに参加するとは、3人そろってかなりの料理好きと言えよう。
というわけで、あやかが作っているのは人参のすりおろし。
これをホットケーキミックスと混ぜてフライパンで焼けば、キャロットパンケーキの出来上がりだ。
平行して、すりおろした人参でソーセージを煮込んでゆく。
大根は千切りにして塩を振り、しんなりしたところを洗ってギュッと絞り、ほぐしたタラコとマヨネーズ、塩コショウであえてサラダにする。
その隣では、託人が鶏肉のクリーム煮を作っていた。
手順は比較的簡単。まずは一口大に切った鶏もも肉をフライパンで焼き、大量の千切り玉葱と牛乳を投入して、水気がなくなるまで煮込むだけ。最後に塩胡椒で味を調えればOK。
クリスマスにチキンは定番だが、ローストチキンや唐揚げは誰かが作るだろうと考えての選択だ。なかなか気が利く。
とはいえクリーム煮だけでは見た目が地味なので、得意料理のゆで玉子入りミートローフも作成。
簡単に作れて見映えが良いので、パーティーにはピッタリだ。無論、味も抜群である。
そんな二人を横目に、聖歌はおでんを煮込んでいた。
せっかく大量の大根と人参があるのだから、クリスマスにこだわる必要はないという判断だ。おでんなら、大人数でも好きなように食べられる。残ったら持ち帰ることもできるし、これまたパーティーにはもってこいだ。もっとも、聖歌自身も気付いているようにクリスマスっぽさはカケラもないが。
とはいえ、さすがに大根と人参だけではアレなので、玉子やチクワ、はんぺんなど、最低限おでんらしく見えるように食材は追加してある。下ごしらえは昨日のうちに済ませたので、あとは煮込むだけだ。
しばらくして、すべての料理が完成した。
「できましたね。さぁ行きましょう」と、あやか。
「ちょっと作りすぎた気もするけど……」
託人が頭を掻いた。
「久遠ヶ原には大食いの連中が多いし、これぐらい片付くだろう。あまったら持ち帰ればいいし。……それより、忘れるなよ? 俺たちは料理のリサーチに行くだけだ。まちがっても、撃退酒なんかには手を出すな。わかったな?」
聖歌が釘を刺すと、あやかと託人はうなずいた。
(ユウ、Xmasって大好き☆ だって何だか暖かくて、優しくって、素敵な気持ちになるんだもん♪ ちょっと色々そろってないみたいだケド、素敵なパーティーになれば良いなっ☆)
ユウ・ターナー(
jb5471)は、こぼれる笑顔でパーティー会場へ向かっていた。
彼女が持ってきたのは、手作りのシュトーレン。
ドイツではクリスマスの時期によく見られる菓子パンだ。お菓子作りの得意なユウ、入魂の一品である。
(皆がおいしく食べてくれると嬉しいな……喜んでくれれば嬉しいな……。けどそれにしても……皆は何を持ってくるのかなぁ? えへへ……こんなトコロからわくわくできるなんて、やっぱりXmasは素敵なの☆)
会場に着く前から……というより、パーティーの告知を見たときから、ユウはずーっと胸を高鳴らせていた。
さて、どんなパーティーが彼女を待っているやら──
そのころ。会場の教室へ乗りこんでくる1頭のパンダがいた。
彼の名は、下妻笹緒(
ja0544)
どういうわけか、手には大根の漬物を持っている。
そして無人の教室に入ってくるなり、彼はいつもの調子で独演会をはじめた。
「だれよりも先にパーティを開くのが、勝利の方程式。……なるほど、矢吹亜矢にしては一理も二理もある。だが、懸念すべき点を挙げるとすれば、これが本当に最も早いクリスマスパーティなのかということ。世界中のあらゆるパーティを探せば、もしかしたら既にクリパを開催しているところもあるだろう。よって万一の事態を想定し、いまから1年後……すなわち2015年のクリスマスパーティをおこなうことにしよう!」
笹緒はチョークを手にすると、黒板に書かれた『2014Xmasパーティー会場』を『2015年』と修正した。
「……いや、1年後ではまだ甘い、か? どうせなら確実にいきたい。……ならば、おもいきって60年後の2075年にしておこう」
そう言って再び黒板の文字を書きなおし、うんうんと満足する笹緒。
こうして彼は、隙間風の吹き込む教室でプルプル震えながら、漬物をかじり茶をすするのであった。
そこへ、亜矢が戻ってきた。
「あら、あんただけ? まぁいいわ。アルフィーナとみるくのおかげで、宴の準備はできたし。……しかしまぁ、どうせなら2075年のクリスマスを祝おうってのは名案ね。さすがパンダ園長。さぁ祭りをはじめるわよ!」
というわけで、ようやく本題に入れた。
パチパチと、まばらな拍手。
だが、そんなお菓子の匂いをかぎつけて、江沢怕遊(
jb6968)が突入してきた。
身につけているのは、ミニスカサンタコス。ノーブラノースリーブで、露出多めだ。……え? ノーパンかって? それは知らん。
「おー、クリパなのです♪ ケーキとか、お菓子いっぱい食べれるのですよ♪」
言うや否や、アルフィーナの作ったスイーツをパクパクほおばる怕遊。
だが、じつはこのスイーツ。リキュールと間違えて撃退酒が使われてるのだ。
おまけに怕遊は、ジュースと勘違いして撃退酒を一気飲み。
あとはお察しください。
それを皮切りに、ヒマな連中……もとい時間に余裕のある生徒たちが、次々やってきた。
「ハッピープリンデー! まだ先だけど毎月25日はプリンの日! 買えるだけ持ってきたよ。プリン良いよね、安くても幸せな気持ちになるよね。最近のとろとろ系もすばらしいけど、典型的なぷるぷる系も外せないよね!」
やたらテンション高めでプリンを持ってきたのは、咲魔聡一(
jb9491)
いつものクールな彼は、一体どこへ……?
そして、だれにも訊かれてないのに自己弁護をはじめる。
「……え、クリスマスを祝おうとしないのはパートナーがいないからなのかって? いやいや、じつのところそれだけじゃなくてさ……それもあるけど、無神論者でないと咲魔家の一員と認められないんだ。いや本当、モテないからクリスマスに恨みを抱いてるわけじゃないよ? 本当だよ? でもパーティーは出たかったんだ。おいしいものいっぱいあるからね」
パートナーの不在を認めてしまったが、それはいいのか。
次にやってきたのは、木嶋香里(
jb7748)
持ってきたのは、大量のケーキだ。漬物とかプリンとかの変化球ではない。みんなにパーティーをたのしんでもらえるよう、手作りケーキを焼いてきたのだ。
種類も豊富で、ブッシュ・ド・ノエル、レアチーズケーキ、苺のミルフィーユ、抹茶のシフォンケーキ、ザッハトルテ、林檎のタルト、モンブラン、紅茶のロールケーキ、そしてオペラ……と、よりどりみどり。
「色とりどりのケーキをおたのしみくださいね♪」
「おー、ケーキ! ケーキビュッフェなのです!」
千鳥足で突撃してくる怕遊は、もうだいぶ出来上がってるようだ。
「そんなに喜んでもらえると、作った甲斐があって嬉しいです♪」
と、香里。
いまの怕遊にケーキの味などわかるのか?
「まぁ! 気の早いXmasですわね! でも。楽しいことはいつやっても楽しいのですわ! 存分に楽しみましょう! ええ、存分に!」
なにやら不穏な笑顔で会場入りしたのは、ロジー・ビィ(
jb6232)
なにか持ち寄らなければならないと聞いて、彼女が持ってきたのは花火だった。
「これで、皆さんが持ち寄られた菓子類を素敵に彩りたいと思いますわ。ふふふ……」
いい笑顔で、ケーキやプリン、漬物にまで花火を刺していくロジー。
火をつければ、パチパチ光ってとても楽しく──
「ほら、みなさん。見てくださいな。とても華やかで素敵ですのっ☆ 気分も上がりますわ〜♪」
どう見ても、なにかのフラグである。
たぶん、そのうち爆発したりするんじゃないかな。
「大根といえば、熱々おでんよね。9割大根の。残り1割は……コンニャク?」
大根教の信者みたいなことを言い出したのは、蓮城真緋呂(
jb6120)
彼女は前日から煮込んでおいた『おでん』を持って会場入りすると、まずはクリスマスっぽさを出すためにダイヤモンドダストを発動した。
たちまち氷の結晶が舞い散り、室温を急低下させる。
突然の暴挙に、周囲から悲鳴が上がった。
「どう? 雪っぽいでしょ? キラキラ綺麗でしょ♪ ……え、寒い? 私は平気だけど……寒いなら、それこそ熱々おでんよ! みんな遠慮せず食べてね♪」
湯気の立ちのぼる大根を箸でつかむと、真緋呂は亜矢の口へ突っ込んだ。
「あづァァァッ!?」
「まだ寒い? もっと温めたほうがいいかしら?」
真緋呂は大根に『炎焼』をかけると、もういちど亜矢の口へIN!
ジュッという音がして、亜矢は後ろへ5回転ぐらい転がった。
「あら……? 口に合わない? 大根じゃない方が良かった? それならこっちを……」
大根より更に熱々の、カラシたっぷりコンニャクが亜矢の口へ押し込まれた。
「スンドゥブッ!?」
謎の悲鳴をあげて倒れる亜矢。
それを笑顔で眺めながら、真緋呂はケーキをもぐもぐ。
「……ところで、今日って何のパーティーだったっけ?」
そんな参加者たちと無関係に、桝本侑吾(
ja8758)はいつのまにか会場の片隅で酒盛りしていた。
持ってきたのは、大量の酒類。日本酒から洋酒まで、すべて自前だ。
「クリスマス……つまり飲みだな」
と言いながら、淡々と酒を飲む侑吾。
「クリスマス……つまり冬眠の季節でもあります」
眠そうに言うのは、久瀬悠人(
jb0684)
「久瀬君は大学2年生……でもまだ19か、ならこっちだな」
侑吾が、撃退酒を渡そうとした。
「えぇと……まるで息をするかのように、この違法ギリギリ(?)の酒(?)を渡してきますか、桝本さん。見た目変わってませんが、こう見えても俺は二十歳っす。だからこの酒(?)だけはイヤです。……そしてチビ、それはおあずけだ」
悠人は、撃退酒を盗み飲みしようとする召喚獣の首根っこをつかんだ。
「そうか、久瀬君も二十歳になったか。よし飲もう」
「ええ、飲みましょう」
この二人だけ、クリスマスというより忘年会の様相だ。料理にも手をつけず、ひたすら酒を飲んでいる。
やがて、ふと気付いたように侑吾が言った。
「なにか、日本酒に合うつまみがほしいな」
「そうですね。ここにあるのは、お菓子ばかりですし」
実際にはみるくの根菜料理もあったのだが、ヴァルヌスと湊が異様なオーラを放ってて近付けないのだ。
「大根と人参は大量にある……よし、煮るか」
「あ、俺も手伝いますよっと」
そう言って、ふたりは調理実習室へ向かった。
「しかし……大根と人参を集めて何をする気だったのですか?」
雫(
ja1894)が亜矢に問いかけた。
「集めたんじゃなくて! 農業やってる実家から送られてきたのよ!」
「そうでしたか。てっきり、あなたの頭がおかしくなったのかとばかり」
「どんな病気よ、それ」
「ともあれ、私はこれを持ってきました」
雫が見せたのは、七面鳥の丸焼きだった。
「やった! これぞクリスマスよ!」
「狩ってあったから良かったものの、できればもう少し計画的に主催してほしかったですね……」
「あたしの辞書に『計画』なんて言葉はないのよ!」
「あなたの場合、辞書の有無さえ怪しいのですが」
「ちょ!」
「Hey、たしかアヤだったか? あいかわらず騒がしいな」
声をかけてきたのは、リリィ・マーティン(
ja5014)だった。
「あんたは、元軍人の……」
「ああ。射撃場での一件以来だな。呼んでくれて感謝するよ」
リリィが右手を差し出した。
「ふ。たのしむといいわ」
自分は何もしてないのに、ドヤ顔で握手を返す亜矢。
そこへ、杜玲汰がやってきた。
「こんにちは、マーティン先輩。ご無沙汰してます」
「Oh、レイター! 元気か? おたがい、お迎えが来てないようで何よりだ!」
欧米式にギュッとハグするリリィ。
慣れてない玲汰は、顔が真っ赤だ。
「今日はオフだ。先輩だの後輩だの、気は使うな。パーっとやろう!」
「は、はい」
「さぁ飲むぞ! つきあえ! Drink up! Fall down!」
「僕、未成年です」
「大丈夫。撃退酒なら合法だ!」
有無を言わさず、互いのグラスに撃退酒を注ぐリリィ。
そのまま乾杯すると、一気飲み敢行。
「そうだ、レイター」
なにやら荷物からノートを取り出すと、リリィは玲汰に渡した。
『前哨偵察狙撃』と書かれている。
「少し早いが、クリスマスプレゼントだ。きっとおまえの役に立つだろう。これで強くなってくれ、戦友!」
リリィがウインクし、玲汰は「はいっ!」と応じた。
そのとき。ガラッと教室のドアが開いた。
姿を見せたのは、ペンギン着ぐるみの東雲みゅう(
jb7012)
ランドセルを背負った幼女天使だ。
彼女の目的は、母と再会すること。今日は情報収集のために人が大勢あつまっているところへ訪ねてきたのだ。
まずは聞き込み。亜矢の姿を見つけると、みゅうはトテトテッと駆けだした。
そして、なにもないところでスッ転ぶ。
「痛いみゅぅ〜〜 ><」
「なにやってんの、あんた」
亜矢が手を取って助け起こした。
「ありがとうございますなの。お礼に、これをどうぞなの」
みゅうのランドセルから、ポテチが出てきた。
「ポテチ? まぁもらっておくけど」
「ところで、みゅうはね〜。母上を探しているのよ。なにか知りませんか?」
「そう言われてもねぇ……」
「うぅ……それなら、ほかの人にもきいてみるの」
そう言って、みゅうは無邪気に駆けまわりながら聞き込みをつづけた。
──が、手がかりなどあるはずもなく。
みゅうは、持参したポテチをひとつ残らずパーティー開けすると「皆様どうかポテチをお食べくださいなの」と言い残し、とぼとぼ去っていった。
「レモネードと、おいしいものが食べ放題ですぅ〜♪ これ少しいただきますねぇ〜♪」
神ヶ島鈴歌(
jb9935)が持ってきたのは、当然レモネードだった。
それも、アイスとホット両方。レモネードに合う甘酸っぱいレアチーズケーキ付きだ。
持参したものを振る舞いつつ、ほかの人が持ってきたものを満喫する鈴歌。
「これは、おいしいものを巡る争奪戦パーティーですねぇ〜♪」
人が増えて白熱してきた会場を、鈴歌は写真におさめていった。
知り合いと世間話したり、たのしげにクリスマスの雰囲気を味わう鈴歌。
「ぁ……このお料理おいしいのですよぉ〜♪ ぜひレシピをお聞かせくださいなぁ〜♪」
「それは、みるくちゃんの愛が詰まった味噌田楽だよ! レシピは愛!」
湊が答えた。
「ううう……こんなにおいしい料理を作れるようになって……僕は嬉しいよ……」
なんか泣いてる、緑の悪魔ロボ。
そこにやってきたのは、ナンパ師ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)
フライングXmasパーティーと聞いて、ナンパの機会もフライングOKとばかりに参加したのだ。
なに? 言ってることがよくわからない? ようするにナンパしたいんだよ!
そんなジェラルドは、オリジナルカクテル『アウル』を手にして、みるくと鈴歌に声をかけた。
「や、一杯つきあわない?」
「これは、もしやナンパ!? ナンパですね!?」
怯えるみるく。
「そのとおりさ。よかったら、今夜はボクのBARに来ない? 君みたいな美人は大歓迎だよ♪ 鈴歌も一緒においで☆」
「レモネードは? おいしいレモネードはありますかぁ〜?」
「もちろんさ。クリスマスにふさわしいオリジナルカクテルに仕立ててあげるよ☆」
そう言って、キザっぽくカクテルグラスを傾けるジェラルド。
ブラッドオレンジをシャンパンで割った、ミモザのアレンジ版だ。女性にも飲みやすく、それでいて大人っぽい一品。本当はこれを使ってナンパする計画だったが、残念なことに酒を飲める女性がほとんどいなかったんだ! いっそ、タコ焼き鴉でもナンパしとけばよかったんだよ!
まぁそんな次第で普通にナンパを仕掛けるジェラルドだったが、ヴァルヌスと湊のツープラトン攻撃でKOされたのは言うまでもない。
「なにしてるの、この男。どうせなら、あたしをナンパしなさいよ」
亜矢が撃退酒を飲みながら、フラフラやってきた。
「えへへ〜、ナンパされちゃったですぅ〜♪」
陽気に応じる鈴歌。
「ところで、このまえは世話になったわね」
「なんのことですかぁ〜?」
「果物狩りの話よ」
「あ〜、あのときはあまりお役に立てず、すみませんでしたぁ〜」
「いや、あんたがいなけりゃアタシ死んでたかも」
「そんなことないですよぉ〜。……あ、そうそう。亜矢さん、クリスマスプレゼントどうぞですぅ〜♪」
鈴歌が、手袋とマフラーを手渡した。
かわいい羊の手袋だ。
「あ、あたしに?」
「はい、どうぞですぅ〜♪」
「く……っ。あたしも学園生活長いけど、こんなのくれたのアンタだけよ……!」
いつもロクな扱いを受けない亜矢は、鈴歌の優しさに感動を隠せなかった。
酔っぱらってるだけかもしれないが、発言内容は事実だ。
「こう見えても、あたしは義理堅い女よ。この恩は必ず返すから!」
そう言うと、亜矢は半泣きで駆け去っていった。
「皆の者、メリークリスマスじゃ♪」
八塚小萩(
ja0676)は、百均のミニスカサンタ服で登場した。
またがっているのは、車輪を取りつけたアヒル型のおまる。アヒルの頭には、ごていねいにトナカイの角まで付いている。
肩に担いでいるのは、プレゼント入りの布袋。
そこから取り出されたのは、小萩の故郷榛名山の●●岩をかたどったクリスマスキャンディだ。
「どうじゃ、皆の者。霊験あらたかじゃぞ♪ 遠慮するな、こうやって舐めるのじゃ♪」
あむっとキャンディをくわえると、小萩はなぜか上目づかいでしゃぶりはじめた。
一見エロそうに見えるけど、全然エロくない! エロくないよ! これは健全なクリスマスパーティーだから! ただ、●●みたいな棒状の飴を舐めてるだけだよ!
しかし、小萩の蔵倫チャレンジは止まらない。
飴をしゃぶりながら、なんと撃退酒を一気飲み。
そして、「暑いのじゃ〜♪」と叫びながらサンタ服をキャストオフ!
紙おむつ一枚になって、「はぁーはははは!」と笑い転げた。
そのうえ、酔っぱらって尿意を催した小萩は………以下略! 蔵略!
おむつ穿いてればいいってものじゃないんだァ!
「フライング……フライ……そうか、揚げればええんやな!」
なにか納得すると、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)は亜矢を調理室に呼び出した。
「なーなー、忍者って縄抜けとかできるんやろ? 優秀な忍軍の亜矢なら余裕やんな?」
「あんたねぇ……毎度毎度そんな手にひっかかると思うの?」
「なに警戒しとるん。亜矢は俺よりずっと撃退士歴長いんやろ? そんな怯えることないんちゃう?」
「怯えてなんかないわよ!」
「だったら、やってみせてや。なぁに、忘年会の隠し芸大会みたいなもんやって」
「そこまで言うなら、やってやろうじゃない!」
基本的に、亜矢は頭が悪い。
おまけに酔っぱらってるし、もうダメだ。
──数分後。手錠と鎖でぎっちぎちに縛られている亜矢がいた。
「ほな、3分クッキング開始や。まずは、新鮮な亜矢に小麦粉をまぶしてと……」
「げほっ、ごほっ!」
「次に、溶き卵にくぐらせて、パン粉をつけるで」
「ぶはっ、ぐほっ!」
「隠し味に口の中へ粉ワサビを詰めたら、あとは油で揚げるだけや」
「アバーッ!」
こんな目にばかり遭ってる亜矢が鈴歌のプレゼントに感動するのも、無理はなかった。
「クリスマスって、聖夜……性夜とも言うんだってさ。だからアタシとイイコト、しよーよ」
老若男女オールオッケーな秋水橘花(
jc0935)が真っ先に声をかけたのは、リリィだった。
カッコよさと可愛さを兼ね備えた(ように見えた)のが、彼女だったのだ。
「What? イイコト?」
素で返すリリィ。
平和ボケならぬ戦争ボケしてる彼女には、ときどき常識が通じない。
しかし、『これはこれで!』などと思う橘花。
どうせ手当たり次第にナンパしまくる予定だ。押せ押せのオラオラである。
そこへ、桜花(
jb0392)がやってきた。
「待て。そいつは私の妹だが……ヤルだけヤッたら捨てる奴だ、気をつけろ」
「はぁ? クソ姉貴みたいなロリショタよりはマシだと思うけど? いろんな人と気持ち良くなって何が悪いのさ」
「私のことはどうでもいい。いまは橘花の話をしてるんだ」
「自分のことは棚に上げて、偉そうなことを」
鋭い眼光を交わす二人。
見かねて、リリィが口をはさむ。
「姉妹喧嘩はほどほどにしたらどうだ? ここに撃退酒もある。一杯やるといい」
「飲むと酔っぱらうやつ? いいよ、そんなの」
橘花は固辞した。
桜花も、「遠慮しておく」と一言。
だがしかし。
「あの……一緒に飲みませんか?」
玲汰が打診すると、桜花は瞬時に軟化した。
「まぁ杜君が言うなら……」
それを聞いた橘花も、「姉貴が飲むなら……」と態度を変える。
こうして姉妹喧嘩は終わったが、玲汰の貞操が心配だ。
そんな感じで、パーティーは順調に(?)進んでいった。
あわや根菜だけかと思われた宴も、参加者たちの協力で案外マトモになっている。
でも、撃退酒を飲んでる面々がそろそろヤバい。
飲んでない連中も、アルフィーナが作った撃退酒入りスイーツのおかげで結構ヤバい。
というか、作成中から試食しまくってた彼女が一番ヤバい。
完全に酔っぱらったアルフィーナは、「これ、どうぞにゃのですにゃあ!」と劇物スイーツをかたっぱしからオススメ……というか押しつけていく。
こんなカワユス少女の言葉を、だれが無視できようか!
というわけで、大量の撃退酒スイーツを食べるハメになった桜花は、完全に泥酔して怕遊に突撃。
「右目が……痛いんだよ……お願い、舐めて痛みを癒して……」
目の火傷跡を舐めろと強要する桜花。
だが、怕遊も既に錯乱状態だ。
「桜花さんにプレゼントなのです〜♪」
光纏して、思いっきり桜花の顔面へケーキをぶちこむ怕遊。
不意討ちをくらって吹っ飛んだ桜花へ、「ジュースも飲むのです〜♪」と撃退酒の瓶を口へ突っ込む。
だが、酔っぱらった怕遊の真価はこのあと。
なんと彼は、酔っぱらうと誰彼かまわず脱がしにかかる酒癖があるのだ! うん、知ってた!
しかも、いい具合に脱がしたところで今度は橘花が駆け寄ってくる。
言うまでもなく、彼女も酔っ払いだ。そのまま桜花の胸に抱きつき、「なんでせっかくお姉ちゃんに会えたのに目とかなくなってるのさ! お姉ちゃんの目、綺麗でダイスキだったのに!」などと号泣する始末。
……こ、これは! 禁断の百合姉妹!? イイネ!
その近くでは、香里が雫に絡まれていた。
「良いですか? 私が変わったのではなく、PLやMSが変にいじったせいなのですよ。わかりますね?」
「ええ、はい」
「ちゃんと聞いてますか? 私は変わってないのです!」
「は、はい!」
「すべて牛が悪いのです! それはともかく飲みなさい!」
雫が『神威』を発動すると、禍々しい血のような光とともに魍魎が現れた。全員そろって頭にネクタイを巻き、酒瓶を握っている。
って、どういう奥義だ! MSのせいで変わった? 嘘だ!
そんな雫は、流れ弾で飛んできたアルフィーナの炸裂掌をくらって、香里と一緒に転がっていったのであった。
ああ香里……『絡み大歓迎』と書いた結果、まさか絡み酒されるとは……。
そんな騒ぎをBGMに、侑吾と悠人は淡々と酒を飲んでいた。
つまみは、大量に煮込んだ根菜鍋。味は悪くないが、大量すぎる。
「しかし……クリスマスパーティーって、こんなでしたっけ?」
あえて周囲を見ずに、悠人は呟いた。
「人参の赤と、大根の葉の緑……クリスマスカラーだ」
「さすが桝本さん!」
ふたりとも、だいぶ酔っぱらってる。
悠人は鍋に飽きたのか、大根をそのままかじってるほどだ。まさに草食系男子。
そこへ、猫化して分別を失ったアルフィーナが突進してきた。
「にゃあ〜♪ にゃにゃあ〜♪」
もう、人語を話すこともできないようだ。
走ってきた猫天使が、一升瓶を蹴り飛ばす。
その瞬間。侑吾が豹変した。
「酒を粗末にするとは……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
「まずい! 桝本さんのアレが! おいチビ、俺の盾にぐふぅぁーー!」
伝家の宝刀ウェポンバァッシュが炸裂し、アルフィーナも悠人もチビも一升瓶も鍋も、ことごとく窓の外へ吹っ飛ばされたのであった。
そんな会場を眺めて、「おー、元気だなー。みんなプリン大好きなんだなー」とか無表情で呟く聡一。
「騒ぐのも結構ですが、Xmasが本来何たるかを皆さん忘れてますわね!」
吹っ切れたかのように、ロジーが酒瓶片手に立ち上がった。
堕天使でありながらも敬虔な基督教徒である彼女にとって、クリスマスは大切な行事なのだ。
ならば、やることはひとつ! 酔っ払い相手に、クリスマスの由来を解説するのだ!
もちろん最後の締めは賛美歌斉唱!
「いいね! みんなでお歌を歌うの、すっごくたのしそう☆」
今こそ出番とばかりに、ユウがハーモニカを取り出して教壇に立った。
そして、酔っ払いどものグダグダな歌が始まる。
こうして、ロジーの爆発フラグは回収されぬまま、謎のパーティーは最後だけクリスマスっぽく閉幕した。
PS:亜矢は病院送り