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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/11/23


みんなの思い出



オープニング



 これは、3人の撃退士たちの非日常的な日常をめぐる話である。

 まず1人目の登場人物は、三条絵夢。久遠ヶ原学園中等部の二年生だ。
 学校指定の制服を着用し、黒い髪を肩で切りそろえている。
 見るからに清楚な感じの、お嬢様風。
 2ヶ月前に久遠ヶ原へ来たばかりの、新入生だ。
 専攻はアストラルヴァンガードで、天魔との実戦経験はない。人助けや救命活動が、彼女の守備範囲だ。
 成績優秀、品行方正で、人望も厚い。
 唯一の欠点は戦うことが嫌いだという点だが、なにも戦うばかりが撃退士ではない。ほかの仕事はいくらでもある。

 そんな絵夢の歩く姿に目をとめたのは、大学生の瀬野。
 有名ブランドのスーツとネクタイ、細いフレームの眼鏡がよく似合う。撃退士というより、エリートビジネスマンのようだ。
 彼が、2人目の登場人物。本件の発端となる男である。
 素行には少々問題のある人物だが、撃退士としては有能で、絵夢とは比較にならないキャリアを積んでいる。倒した天魔の数も、相当なものだ。
 現在の専攻は、アカシックレコーダー。
 彼がこのジョブについているのは、理由がある。

「うおっ! 急に木枯らしが!」
 おおげさに叫ぶと、瀬野は『春一番』をぶっぱなした。
 狙いはもちろん、絵夢の足下だ。
「きゃあっ!?」
 季節外れの突風に襲われて、スカートをおさえる絵夢。
 だが、一瞬遅かった。瀬野の目には、しっかりと縞々パンツの模様が焼きつけられていたのである。

 そう。彼がアカシックレコーダーであることの、これが理由!
 優秀な頭脳と紳士的な外見を備えながら、この瀬野という男は一日中女子のパンツのことばかり考えているのだ!
 無論、ただ考えるだけではない。彼は理論派ではなく実践派だ。
 その熱意は、パンチラをゲットしただけで収まるものではない。
 瀬野は咳払いし、ネクタイを整えると、絵夢のほうへ近付いていった。
 そして、いきなり切り出す。

「はじめまして、お嬢さん。突然で申しわけないが、あなたのパンツをゆずっていただけないだろうか」
「え……!? はい……!?」
 唖然として聞き返す絵夢。
 瀬野は商談でも持ちかけるように、慎重な口ぶりで言う。
「あなたのはいているパンツをゆずっていただきたい。30000久遠でどうだろう」
「いや、おことわりしますけど……?」
「では、50000久遠出そう。悪くない金額だと思うが?」
「あの……そういうのは、ほかの子に持ちかけたらどうですか? お金に困ってる子なら、売ってくれるかもしれませんよ? 私は、たとえ100万久遠積まれてもごめんです」
 きっぱり断る絵夢。
 だが、それを見た瀬野はますます盛り上がる。
「すばらしい! 金に流されることのない高潔なプライド! だからこそ、ますますほしくなるというもの! よろしい。金で駄目ならば、この指輪はどうだろう。一見ただの指輪だが、身につければ膨大なアウルが体に宿り……
「すみません、本当に無理ですから!」
 言い捨てて、走り去ろうとする絵夢。
「そう言わずに、もうすこし話を聞いてほしい。心配は無用だ。私は怪しい者ではない。人畜無害な、ただのパンツ愛好家だ! くりかえす、ただパンツが好きなだけなんだ! 変態ではない!」
 絵夢の腕をつかんで、瀬野は説得をつづけた。
 はたから見れば、犯罪めいた状況だ。

 そこへ、3人目の人物が登場する。
 名前は鮫嶋鏡子。非常に高レベルの阿修羅で──
「なにやってンだ、この変態野郎ォォッ!」
 バキイイイッ!
 鏡子のメリケンサックが、瀬野の顔面を打ち抜いた。
 空中で一回転して、地面をバウンドする瀬野。
 不意討ちとはいえ、一撃KOである。みごとだ。

「え……えええ……っ!?」
 あまりのできごとに、絵夢は目を丸くして鏡子を見上げるばかり。
 行動もさることながら、鏡子の外見もまた異様だった。
 着崩したセーラー服に、足首まで丈があるスカート。いつの時代の人ですかと訊きたくなる、完全スケバンスタイルなのだ。
「ちっ。一発で寝やがって。もうすこし殴らせろっての」
 吐き捨てるように言う鏡子。
 そこでようやく、絵夢は我に返った。
「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございました。ぜひ、お礼を……」
「ああ? いらねーよ、そんなモン。あたしは、殴りたかったから殴っただけだ」
「いえ、しかし……。あの、よかったら、これからお茶でも……」
「いらねーっつってんだろ」
「そういうわけにはいきません。恩を受けたら必ず返すというのが、我が家の家訓ですから」
「しつけぇな。もう一回言ったら、てめぇも殴るぞ?」
「何度でも言います。受けた恩は返さなけれバァァーーッ!?」

 容赦なく顔面をブン殴られて、絵夢は仰向けにブッ倒れた。
 しかし、反射的に光纏して『神の兵士』で起き上がる絵夢。
「おお、やるじゃねーか。もう一発殴ってやろうか?」
「は、はい……! おねがいします!」
 鼻から血を流して、絵夢は微笑んだ。
 これが彼女の、Mに目覚めた瞬間!
 そうとも知らず、鏡子は指をポキポキ鳴らして近付く。


「待て、凶子! なんの騒ぎだ!?」
 駆けつけたのは、教師の臼井だった。
「なんでもねーよ。このガキが殴ってほしいとか言うから殴ってやろうってんだ。邪魔すんじゃねぇ」
「おまえが本気で殴ったら死ぬぞ!」
「半殺しぐらいで済むように手加減してやらぁ」
 と言いながら、闘気を解放する鏡子。
 絵夢は怯えながらも笑っている。
 しかも、「手加減は無用です」などと言い出す始末。
「いい度胸じゃねぇか、オイ。死んでも文句ぬかすなよ?」
 極道でさえ逃げだしそうなメンチを切る鏡子。

「待った! 待つんだ、鮫嶋君!」
 止めたのは瀬野だ。
「あァ? てめぇはおとなしく死んでろよ」
「そうはいかない。その子のパンツを手に入れるまで、私は死ねないんだ!」
 必死の形相で訴える瀬野。
 絵夢は「絶対にパンツは売りません!」と言い返す。

「あー、ちょっと待て、おまえたち。まったく状況が理解できないんだが……?」
 臼井が、当然の疑問を口にした。
 無理もない。最初から成り行きを見ていた者でさえ、理解困難な状況なのだ。
「私は、どうしても彼女のパンツを手に入れたい! それだけだ!」
 どこまでも男らしく主張する瀬野。
「私は、助けてもらった恩を返したいだけです。……でも、鮫島先輩に逆らった私はお仕置きを受けないといけませんね。……あ、あの、先輩……いまから『鏡子お姉様』って呼んでもいいですか……?」
 なにやら妙なことを言い出して、もじもじと頬を染める絵夢。
「ああ、いいぜ。好きなように呼べ。そのかわり、いまからおまえら二人とも殴り殺してやんよ。アタシは、てめぇらみたいな変態どもが大嫌いなんだ」
 鏡子はボキボキ指を鳴らした。
 本気で殺る目つきだ。
「あー、すこし落ち着け?」
 と、臼井がなだめた。
「センコーは黙ってな。アンタの出る幕じゃねぇんだよ」
「鏡子お姉様の言うとおりです。これは私たちの問題なんですから。生徒の自主性にまかせるのが、久遠ヶ原学園の方針ですよね?」
 絵夢の発言に対して、臼井は何も返せなかった。

 ならば生徒がどうにかしようと、何人かが前に出てくる。
 こうして、世にも不毛な説得ゲームが始まったのであった。




リプレイ本文



「まぁまぁ、ソコのヤンキー。落ち着くネ。怒るとおなかが減って損だし、エネルギーの無駄ダヨ」
 とおりすがりの長田・E・勇太(jb9116)が、鏡子に呼びかけた。
「あァ? なんだてめえ」
 鬼のような形相で振り返る鏡子。
「撃退士の力は、天魔を倒すためにあるネ。仲間を殴るためではないヨ」
「こんな変態ども、仲間じゃねぇんだよ!」
「彼らと同じ戦闘依頼に参加したとしても、そんなコトが言えるのカナ?」
「こんなヤツら、いねぇほうがマシだっつーの」
「それはいけないネ。戦場では、仲間との連携が大切ヨ。ミーを拾ってくれた、元軍人のおばあさんも言ってたネ。戦場で生き残るには
「グダグダうるせぇ野郎だな。一発殴れば静かになるか?」
「ほぉう……説得はイラナイノネ。なら、スタンド・アンド・ファイトね」
 勇太は光纏すると、スレイプニルを呼び出した。
 さらに、金属糸を取り出して身構える。
「ほー。話が早ぇじゃねーか」
「説得が通じないのでは仕方ナイネ。サンダーボルトをくらうがいいヨ!」
 見かけによらず、好戦的な勇太。
 はやくも説得失敗かと思われた、そのとき。


「やあ、鮫嶋さん。これはクラブ活動の一環か?」
 剣呑な空気をものともせず、月詠神削(ja5265)が声をかけた。
「ん? おまえは……?」
「おぼえてないのか? 4月に、ファイトクラブの部員集めで……」
「ああ、そうだ。小学生の小娘にKOされてたヤツだ」
「いやなことを覚えてるな……。まぁいい。あれから、例のクラブはどうなった? すこし気になってたんだ」
「おう、あれから何人か集まってな。毎日殴りあってるぜ。おまえも入れよ」
「考えておこう。それはともかく……」
 と、雑談をはじめる神削。
 こうして鏡子の気を引いておいて、変態2名は他の生徒に任せる作戦だ。
(これで、だれかが説得してくれれば良し。駄目だったら……俺は知らん)
 鬼畜策士として名高い神削だが、今日はずいぶん投げやりだ。
 まぁ気持ちはわかる。


 しかし鏡子の気が逸れたことで、「パンツを売ってくれ」「売りません」問答が再開。
 そこへ、月丘結希(jb1914)が呆れ顔でやってきた。
(……ったく。この学校の変態率は高すぎよ。本土と比べたら、あまりに異常な確率じゃない。やっぱりアウル覚醒の要因には、一般人を超越した思考や思想が大きく影響するとしか思えないわ)
 心の中で呟きながら、結希は瀬野の前に立った。
 そして、蔑むような視線を向ける。
「アンタ、そんなに女の子の下着が欲しいの? なかなかの変態ぶりだけど、なっちゃいないわね。下着を得るために金銭を支払うのは、変態の道に外れた行動よ。あなたも変態なら、もっと変態らしく行動することね」
「なにを言う! 私は変態ではない!」
「だれがどう見ても変態よ。自覚したなら、変態は変態らしく下着ドロでもやってなさい。ゲスな犯罪者だけど、久遠ヶ原で変態をやるならソレくらいの覚悟を持つのね。今のままじゃ中途半端よ。せいぜい依頼掲示板をにぎわすくらいの変態をめざすのね」
「私は変態ではないと言ってるだろう!」
 あくまで否定する瀬野。
 これでは説得にならない。


「話は聞いたわ! あたいにまかせて!」
 いつもどおり自信満々で、雪室チルル(ja0220)が登場した。
「瀬野! あんたは、この子のパンツが手に入ればいいのね?」
「そのとおりだ!」
「じゃあ、パンツがもらえたら退散するって約束しなさい! ちゃんと誓約書も書いて、カメラの前で宣言してもらうわ!」
「よかろう!」
 提供者である絵夢をほったらかして、勝手に話を進める二人。
「ちょ……イヤですよ、私は!」
 当然、絵夢は拒絶した。
 が、チルルには策がある。
「心配無用よ。いまから新品のパンツを買ってきて、この変態に渡せばいいの。これで解決! あたいったら天才ね!」
「待ちたまえ! 私がほしいのは、彼女のはいたパンツだ! 新品など価値がない!」
 と、瀬野。
「約束を破るつもり!? あんたにはパンツへの愛が足りないわ!」
「馬鹿を言え! パンツを愛するからこそ、私はこうして嘆願しているのだ!」
 この男を説得するのは、容易ではない。


「それなら……まずはみんな落ち着いて。そして三条は、みんなの分のお茶を買ってきて」
 チルルが、唐突なことを言い出した。
「お茶? なぜですか?」
「あんたは、鮫嶋にお礼がしたいんでしょう? でも鮫嶋は受け取らない。だったら、お茶やお菓子を買ってきてみんなで食べればいいじゃない。鮫嶋も、それぐらいなら納得するでしょ?」
「アタシが、そんなおままごとに付き合うワケねぇだろ」
「まぁまぁ。お茶を飲んで甘いものでも食べれば、きっと気分も落ちつくはずよ。よく考えると、あたいたちが一番得してる気もするけれど。多分きっと気のせいね! 三条の目的も達成できるし、これぞ一挙両得ってやつよ!」
「そもそもアタシは、甘いモンが嫌いなんだよ!」
「ウソ!? 甘いものが嫌いな女の子なんて、いるはずないわ!」
「本人が、嫌いだって言ってんだよ!」
「は……っ! もしやあんたは、カレー教の信者!?」
「なんだそりゃ」
「甘いものが嫌いだなんて、それ以外考えられないわ!」
 信じがたい事実を前にして、妙な方向へ話を進めてしまうチルルちゃん。


「ああ、もう。お茶とかパンツとか、どうでもいいんです。私は鏡子お姉様にお話が……」
 どうでもいい話を打ち切って、絵夢は鏡子のもとへ走ろうした。
 その首根っこを、結希がグイッとつかむ。
「ちょっと待ちなさい、アンタ」
「なんですか! 止めないでください!」
「ぶっちゃけ、あたしはただの通りすがりだし、アンタの性癖は勝手にしろって感じけど、鮫島についていきたいならアンタのジョブじゃダメよ。あたしのデータによると、彼女は阿修羅至上主義者。だから、仲良くなりたければとっとと阿修羅にジョブチェンジしてくることね」
「そうなんですか! それはいいことを聞きました! さっそく今日中に変えてきます」
「ただ、あんたが鮫島目当てじゃなくて、ただMの欲求を満たしたいってだけなら佐渡乃明日羽って女を紹介するわよ?」
「いいえ、私は誰でも良いわけではありません。鏡子お姉様がいいんです!」
「あ、そう。まぁ好きにすれば?」
「はい! 好きにします!」
 こうして、学園に阿修羅が1人ふえた。
 だが、事態は何も解決してない。


「さぁそこをどけ、中坊。変態ふたりブン殴ってオシマイだ」
 神削の小細工も通じず、鏡子が絵夢に近付いてきた。
「まぁすこし落ち着きなさいよ」
 と、結希が止める。
「あァ? オマエにゃ関係ねぇだろ」
「あんたの場合、もう単に誰でもいいから殴りたいってだけなんじゃないの? アタシは遠慮しておくけど、野次馬の中にはそれなりに強い人間もいるだろうからソイツとでも殴りあってれば? あんたの性癖なら、それで十分ストレス解消になるんじゃない?」
「わかってねぇな。アタシは、この変態どもに鉄拳制裁をくらわしてやりてぇんだよ」
「それ、ただのストレス解消と何が違うのよ」
「うるせーな。気分の問題だ」
 鏡子はボキボキと指を鳴らした。
 ここまでの説得で、状況は何ひとつ変わってない。


 そこへ、月乃宮恋音(jb1221)がおずおずと出てきた。
「あのぉ……お話をうかがうかぎりでは、鮫嶋先輩が三条さんからのお礼を受け取れば、解決するのではないかと、思うのですけれどぉ……」
「んなモンいらねぇって、何度言わせる気だ!」
「しかしですよぉ……? 『恩を受けて返さないのが嫌』という気持ちは、鮫島先輩も同様ではありませんかぁ……?」
「そいつの気持ちなんぞ知ったことか! アタシがいらねぇっつったら、いらねぇんだよ!」
「うぅん……これでは、話が平行線のままですねぇ……。ここはひとつ、学食の食券とドリンクを三条さんがおごるという形で収めては、いかがですかぁ……?」
「しつけぇな! アタシはメシをおごってもらうために助けたワケじゃねぇんだよ!」
「う……うぅん……そうですねぇ……」
 攻めあぐねて、口ごもってしまう恋音。
 なんでも理詰めで考える彼女にとって、理屈が通じない相手は非常に厄介だ。
 こうなれば説得の矛先を替えようと、恋音は忍法霞声で絵夢に話しかけた。
「あのぉ……さきほどから見ていると、どうやら三条さんは少々特殊な趣味に目覚めてしまったのではないかと思うのですけれどぉ……いかがですかぁ……?」
「そ、そんなことありません!」
「失礼ながら、私も同じような趣味を持っているので、見ればわかりますぅ……。そこで、ですねぇ……もしよろしければ、私がお相手しますよぉ……? さきほど月丘さんが言っていた、佐渡乃先輩直伝の責め技術もありますしぃ……。ものたりなければ、佐渡乃先輩もご紹介しますよぉ……?」
「私は……私は、鏡子お姉様にいじめてもらいたいんです!」
 ついにぶちまけてしまった絵夢。
 これには、恋音も言葉がない。


 だが、ここで救世主が現れた。
 外見の奇っ怪さでは学園でも屈指の怪人、パンダ男・下妻笹緒(ja0544)だ!
「話はすべて聞かせてもらった。どうやら……このパンダちゃんの出番のようだな。ともかく皆おちついて、この状況をよく見てほしい。まず一人目は、何発顔面にいいのをもらおうとも屈することなく立ち上がる『パンチドランカー』三条絵夢! 次に二人目は、自らの求める布きれのためには引き際知らずの猪突猛進、『パンツマン』瀬野! さらに三人目は、挨拶がわりにぶっとばす狂気のメリケンサック『パンクナックル』鮫嶋鏡子!」
 ひとりずつ順番に指差しながら、笹緒はノリノリで続けた。
 今日はまた一段と、頭のネジがブッ飛んでるようだ。
「パンチ、パンツ、パンク、そしてこのパンダちゃん……。パンを冠する者たち。久遠ヶ原パンの使徒4名がこの場に集結したのは、はたして偶然だろうか。……否! この出会いは必然にして宿命! ここから物語が始まるのは間違いない! ならば些細な揉めごとで、この奇跡の邂逅を台無しにするわけにはいくまい! ここはどうか、パンダヶ原学園長たる私に仲裁させてもらえないだろうか。さぁ皆、これを食べてくれ。そして、これをもって手打ちとしてもらいたい!」
 怒濤の勢いでまくしたてると、笹緒は鏡子たち3人にアンパンを手渡した。
 だが、彼の一人舞台はまだ続く。
「諸君には、このアンパンを食べることで、パンの名を持つ者としての自覚を持ってほしい。さらには、各々の興味好奇嗜好趣向に関しても、より熟成させるべきだ。パンツを欲する心を、殴りたい衝動を、そして殴られたい気持ちを。……そう、パンは生地を発酵させるからこそうまくなるというもの。己の心を即座に発散、解消するのではなく、我慢し蓄積することによって見えてくるものもある。さながら、こねあげた生地がふわりと膨らむように、得られる満足度もひとまわり大きくなるだろう。そして、あんぱんを食べれば牛乳も飲みたくなるはずだ。どうだね、このあたりで一旦休憩をはさもうじゃないか」
 すべてを言い切って、ドヤ顔で提案する笹緒。
 その直後、鏡子の喧嘩キックが笹緒の土手っ腹にブチこまれ、彼は遠くへ転がっていった。
 おお、なんということか! 笹緒の演説をもってしても、事態が収束しないとは! というか、むしろ悪化してる!


「おい、だれかどうにかしてくれ!」
 教師臼井が、生徒たちに呼びかけた。
 一般人である彼は、鏡子が暴れたらとても止められない。
 そのとき。たまたま目が合ってしまった山本ウーノ(jb8968)は、面倒くさそうに前に出てきた。
「ええと……僕、帰りたいんだけど」
「そう言わずに、先生を助けてくれ! このままだと死人が出る!」
「めんどいなぁ……できれば関わりたくないんだけど……」
 と言いながらも、しぶしぶ説得に加わるウーノ。
 無理もない。どこからどう見ても面倒ごとだ。我関せずの姿勢を決め込みたくなるのも当然と言えよう。
 だが、無関心でいたくてもそうさせてくれないのが久遠ヶ原。
 ともあれ、まずは殺人事件の元凶になりそうな鏡子を説得だ。
「あのさぁ、もう気が付いてると思うけど、この子……三条さんだっけ? 完全な変態みたいだよ? これ以上手を出しても、よけい絡まれるだけだろうし、鮫島さんが困ることになるんじゃないかな。どうしても殴りたりないなら、この人殴ってもいいから」
 まるで他人事みたいに(実際他人事なのだが)、瀬野を指差すウーノ。
「まてまて! それでは何の解決にもならん!」
 臼井が慌てて止めた。


「そこ! そこの女子! どうにかしてくれ!」
 臼井が呼びかけたのは、蒼月夜刀(jb9630)
 どう見ても二十歳過ぎの女性だが、これでも小等部の男子だ。
 久遠ヶ原には性別や年齢が行方不明な生徒が多いが、彼女……もとい彼もまた、その一員だった。
「一応訂正しておくが、俺は男だ。それに、状況がよくわからないんだが……?」
「状況は……見てのとおりだ。女子のパンツをほしがってる変態と、殴られたがってる変態と、仲間を撲殺しそうなスケバンを止めてくれ」
「どうしろと言うんだ……」
 一目見て、これは無理だろと判断する夜刀。
 だが、教師に泣きつかれた以上は駄目元で説得するしかない。
 とはいえ、とくに有効な説得材料があるわけでもなく……。


「もういいじゃないか。鮫嶋さんの好きにさせて変態を殺そう?」
 すべてをあきらめた顔で、神削が提案した。
 全員の視線を浴びて、彼は続ける。
「……というわけにもいかないのがつらいな。万が一のことがあれば、臼井先生に迷惑がかかるし……」
 ここからは、胸の内での独り言。
(というか……瀬野はいずれ捕縛依頼が立てられそうな変態だし、三条って娘も将来的に佐渡乃明日羽に匹敵しそうな変態性を感じる。そんな二人を今のうちに片付けておくことが悪だろうか? いや、そんなことはない。だから鮫嶋さんがこの二人をぶっ殺しても別にいいんじゃね? ……ただまあ、ここは校内だしな。血の雨が降るのはまずいか……)
 そこまで考えて、神削は一計を案じた。
 ようするに、教師の目がないところでカタをつければいいのだ。
 そこで彼は、ひそひそと絵夢に耳打ちした。
「よく聞いてくれ。じつは鮫嶋さんは、見かけによらずシャイなんだ。こんな人目の多いところでは……その、困るんだよ。わかるだろ?」


「つまり……こうすればいいんですね?」
 絵夢は振り返ると、考えたとおりのことを実行した。
 すなわち、すべての流れを無視して走りだしたのだ。
「あっ! 私のパンツが!」
 瀬野が血相を変えて追いかける。
「逃がすか、この変態野郎ども!」
 鏡子も猛然とダッシュ開始。



 ──数分後。
 無人の校舎裏で、全身血まみれの絵夢と瀬野が発見された。
 こうして今日もまた、在校生たちの知恵によって学園の秩序と平和は守られたのである。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 こんな事もあろうかと・月丘 結希(jb1914)
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
さりげないフォローが光る・
山本 ウーノ(jb8968)

大学部4年82組 男 アストラルヴァンガード
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
充実した撃退士・
蒼月 夜刀(jb9630)

高等部1年30組 男 ルインズブレイド