その日、戦場に24+3人の撃退士が集まった。(1人白紙!)
ジスー制限が厳しいので、さっそく出場選手の紹介だ!
【チーム焼きそばパン】
いきなり特製焼きそばパンを調理しはじめて気合い十分! 小田切ルビィ(
ja0841)!
じつは明太フランスが一番と言ってしまった鈴代征治(
ja1305)! 死亡フラグか!?
ポエムに乗せて焼きそばパン愛を語るぞ、亀山淳紅(
ja2261)!
さわやか少年は、さわやかに焼きそばパンを愛する! レグルス・グラウシード(
ja8064)!
焼きそばパンは青春の象徴だ! 相馬カズヤ(
jb0924)!
コロッケそばのコロッケを焼きそばに換えても良いと豪語! 雪風時雨(
jb1445)!
本当に一番好きなのはカレーパンと言ってしまったユリア(
jb2624)! 死亡フラグ!
ストレス発散に参加! いつもの温厚さは捨てて鬼と化す! 樋熊十郎太(
jb4528)!
男は黙って焼きそばパン! でも黙らないぜ! 霧島イザヤ(
jb5262)!
【チームコロッケパン】
コロッケは一番なじみのあるおかずだ! グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)!
ニンジャパワーでコロッケパン最強を証明するぞ! 犬乃さんぽ(
ja1272)!
新勢力玉子サンド派を立ち上げて戦場に混乱を巻き起こす! RehniNam(
ja5283)!
ノーサイド精神を主張しつつ玉子サンド派に荷担しちゃうよ! 月乃宮恋音(
jb1221)!
カレーパンこそ最強にして至高! カレーは飲みものだ! 最上憐(
jb1522)!
一番はカツサンドと語る、玉子サンド派! ちょっとまて! マクセル・オールウェル(
jb2672)!
漢字が読めないのでコロッケパンを選んだぞ! ラヴ・イズ・オール(
jb2797)!
【チーム揚げパン】
じつはカレーパンが大好き、鐘田将太郎(
ja0114)! もうカレー軍作れよ!
ルビィに負けじと揚げパンを調理する淑女、御堂・玲獅(
ja0388)!
理論武装は完璧! 高虎寧(
ja0416)!
ほんとうは玉子サンド派の刺客! 雫(
ja1894)!
おなじく玉子サンド派の一味! 月詠神削(
ja5265)!
甘いもの大好き! 揚げパン以外の選択肢はない! 桜木真里(
ja5827)!
クール&ハードボイルドにピーマンを憎悪する! ミハイル・エッカート(
jb0544)!
最後に、超実践調理派! セミプロ料理人崎宮玄太(
jb4471)!
「ふはははは! 圧倒的じゃないか、我が軍は!」
V兵器ギターを手に、チョッパー卍は高笑いした。
「ふん。人数が戦力の決定的差ではないことを教えてあげるわ」と、矢吹亜矢。
「くくく。戦いは数だということを証明してやる。いくぞ、野郎ども!」
ズギャアーーーーーンンン!!
チョッパー卍のVギターが轟音をあげ、焼きそばパンチーム数名が地面にひざをついた。
レグルスとカズヤは過去の依頼でこのギターを知っていたため、冷静に耳栓で対処。
しかし、ほかのメンバーは全員頭をかかえている。なんと恐ろしい味方殺し兵器か。
「あはは。あいかわらずアホなヤツね。さぁいくわよ!」
亜矢が光纏して走りだすと、チームコロッケパンは全員一丸となって突撃──してなかった。
というのも、8人中3人が玉子サンド派であり、1人はカレーパン信者なのだ。実質的な戦力は、たったの4人! さすがにこれでは『人数が戦力の決定的差ではない』などと言ってる余裕はない!
「おやおや。コロッケパンのメンバーは意思が統一されてないようだ。どうだい? 我々と手を組んで、まず焼きそばパンを滅ぼすというのは」
「邪魔よ! この、非モテ系ディバインナイト!」
亜矢の投げた手裏剣は、ラクーナの眉間にサクッと命中。
あっというまに1名脱落し、こうして第一次パン戦争の幕が開かれたのであった。
登場と同時に死んだラクーナをよそに、揚げパンチームは和気藹々と食事会をたのしんでいた。
なにしろ、中華料理店で働く料理人玄太と、料理の腕には自信ありの玲獅が、本格的に揚げパンを作っているのだ。
放課後、腹をすかせた学生たちにとって、これは強烈な誘惑! 問題は、敵を籠絡するつもりで作った揚げパンが次から次へと味方メンバーに食われてしまうことだった。揚げパン好きな連中の前で揚げパンを作れば、そうなるに決まっている。
「やっぱ、できたての揚げパンはうまいよなー。あ、あんたも食べる?」
そう言って玄太が揚げパンを手渡そうとした相手は、なんとチョッパー卍。
「なめてんのかぁぁっ! ここは戦場だ! おままごとやってんじゃねぇぇ!」
チョッパー卍の『Sonic Firestorm(ファイアワークス)』が揚げパンチームにぶちこまれ、あたり一面火の海と化した。サツバツ! これではお食事会どころではない。
直撃を受けた玄太は、ここで脱落。揚げパン愛は十分だったが、料理しているだけでは生き残りようがなかった。
「ははは。良いぞ、チョッパー殿。我も手を貸そう」
ストレイシオンに騎乗した時雨は、颯爽とボルケーノを発動。
揚げパンチームは、いきなり大混乱に陥った。
「く……っ。なんて野蛮な……! ちゃんと糖分をとらないから、そんな風に落ち着きがなくなるんだ」
幸せなスイーツタイムをぶち壊しにされた真里は、時雨めがけて怒りのライトニングを発射。
真里の揚げパン愛と、時雨の焼きそばパン愛がぶつかりあう!
そして、勝ったのは時雨。『焼きそばパンもコロッケパンもそれぞれおいしい』と認めてしまった真里に対して、暴虐的なまでに他のパンを敵視するプレイングを書いた時雨は問答無用に強まっているのだ!
「そもそも、こういうのって優劣つける必要ないと思うんだけどな……」
とても正しいことを言う真里だったが、それを言うと、この依頼自体が無意味と化してしまうのだ! だって暴力でパンの優劣を決めようという依頼ですからね、これ! 無茶苦茶な話だな!
そういう次第で、ストレイシオンの尻尾に撥ね飛ばされた真里はあえなく脱落。玲獅の『癒しの風』も間に合わなかった。基本的にみんな一撃死である。だって回復されると戦闘が長引くんだもん。(ひどい理由だ)
余勢を駆った時雨は、ついでとばかりに玲獅を襲撃。
「揚げパン派よ、おまえたちは本当にそんなおやつを毎回昼食で食べていいと思っているのか。油脂分過多で顔に吹き出物ができているぞ?」
「私の顔に吹き出物などありません!」
「よく見たほうがいい。ほら、そこだ」
「馬鹿なことを……!」
時雨の言うことはでたらめだったが、一瞬動揺してしまった玲獅の胸を銃弾が撃ち抜いた。残念ながら、彼女もゲームオーバー。
完勝した時雨は、高々と宣言する。
「見たか! これぞ焼きそばパンの祝福!」
その直後。四方八方から飛んできた魔法や銃弾が時雨を蜂の巣にした。
あまりに目立ちすぎたのだ。
命中したのは、グラルスのトルマリンアロー、さんぽの十字手裏剣、神削のレラージュボウ、憐のBK57その他もろもろ。
どう考えても即死ダメージだが、それでも倒れずにいるのは深い焼きそばパン愛によるものだ。全身血まみれになりながら、時雨は呪文のように唱える。
「我は焼きそばパンを信じる……。栄養価の高い野菜と一緒に食せる焼きそばをパンで包み、持ち運びにくい麺の弱点を克服した焼きそばパンこそ至高……!」
おお。なんと! みるみるうちに時雨の体力が回復してゆくではないか!
ルール無視の離れ業だが、そんな彼の眉間をミハイルのスターショットが撃ち抜いた。
「馬鹿なぁぁぁ」
ちょっと目立ちすぎた時雨。ここで終了。熱演ありがとうございました。
そのとき。たおれた時雨に、ササッと走り寄る影があった。
潜行中のため誰にも気付かれていないが、正体はカレー信者の憐だ。
そして、なんと。大量に持参したカレーパンのひとつを時雨の口に!
動けない者に無理やりカレーパンを食わせるとは、なんと非道な布教活動! 彼女は形だけコロッケパンチームに属しているが、じつは単身カレーパンの勝利をもくろむ革命家なのだ。
「……ん。カレーパンが。最強にして。至高」
そのセリフを、将太郎が聞いていた。
「いま、なんと言った? カレーパンが最強と言ったな?」
「……ん」
コクコクうなずく憐。
「よし、手を組もう。俺もカレーパンが最強だと信じている」
「……ん」
コクコク。(かわいい)
「おお! 正直、馬鹿げた戦いだと思っていたが、カレーパンのためなら俺は本気で戦うぞ。ともに勝利をめざそう!」
意気高らかに言う将太郎。
直後。その後頭部に手裏剣がめりこんだ。チームメイトの寧が放ったものである。
「裏切りは駄目ですよ?」
堂々とやりすぎた将太郎、カレーパンの魅力を伝える前に沈没!
あっというまに同志を失った憐はとりあえず将太郎の口にカレーパンをつっこむと、『煙幕』を展開。遁走した。
「つか、焼きそばサイコー、あたりまえじゃん。コッペパン至高、言うまでもないことじゃん。ふたつのハーモニー絶賛、当然の帰結じゃん。これわかんねぇやつは頭足りねぇんじゃん」
グラサンにワイルドTシャツ。金属バットかついでチューインガムくちゃくちゃしながら歩いてきたのは、十郎太。
ふだんの温厚かつ誠実な彼の人柄を知る者なら目を疑う光景だ。いつも壁役専門で、馬鹿丁寧なしゃべりかたしているストレスを、今日こそ発散しようというのである。
「バットやらヨーヨーやら、ふだんクソの役にも立たねぇカスアイテムも、ここで有効活用じゃん。使ってやるぜ、思いっきりよォ」
ジャンキーみたいな発言だ。どれだけストレスに耐えていたのだろう。
一応、MSとしてバットとヨーヨーの名誉のために言っておくが、これらは場面によっては大変役立つアイテムである。たとえば、「いそのー。ヨーヨーで野球しようぜー」みたいな依頼のときに。いまのところ、そういう依頼を見たことはないが。
「え……っ? 樋熊さん!?」
サングラスで変装は完璧! だったはずの十郎太を一秒で見抜いたのは、恋音である。
この二人は顔見知り。そして、顔面にクマの爪痕みたいな傷を持っている人間など、めったにいない。最初からバレるつもりだったとしか思えない変装だ。
「おっと、人違いだぜ! ハニーベイベー!」
あわてて逃げだす十郎太。そのままグラウンドの外まで脱出してエンド。
って、おい。結局一ミリもストレス発散してないぞ! ヨーヨーで野球するんじゃなかったのか!
「……どうしたんでしょう、樋熊さん」
不思議そうにつぶやく恋音。
その背後から、突如として襲いかかる十字手裏剣!
「ぬうっ!」
すばやく割って入ったマクセルが、盾になって手裏剣を受け止めた。
鍛えぬかれた大胸筋に手裏剣が突き刺さる。
ふつうの依頼なら、たいしたことのないダメージだ。が、パンへの愛がすべてを決めるこの依頼では、カツサンドが好きで玉子サンド派に乗り換えるつもりでいた腹黒マクセルは紙切れ以下の耐久度しかなかった。
「カ、カツサンドに栄光あれぇぇ!」
ちゅどーーーん!
なぜか爆発して果てるマクセル。
「……爆発する手裏剣を投げた覚えはないんですけれど」
寧は物陰に身をひそめながら、戸惑いの表情を浮かべた。
──と。そこへ飛んできたのは、漆黒の風。ジェット・ヴォーテクス by グラルス!
寧は揚げパンへの愛でその一撃を耐えようとしたが、コロッケパン愛でグラルスが上回っていた。
「あ、あんな、胃もたれしやすい、コロッケパンに……」
寧の遺言は、偶然にも辞世の句になっていた。(季語はコロッケパン)
「いい歳した大人がピーマンなんぞ食えるかー! そうだろう? おまえらー! そうだと言えー!」
ここは揚げパンチーム。わけのわからないことを叫びだしたのはミハイルだ。
いや、訂正しよう。わけはわかる。ただ、いい歳した大人はピーマンが嫌いだとか大声でカミングアウトしないものだ。一体どうしたというのか。
撃退士の中でも格段のハードボイル度を誇る、秘密工作員ミハイル。じつは病的なほどのピーマン嫌い。今回も、焼きそばとコロッケにはピーマンが入っていると勘違いして揚げパン派に加入したのだ。そういう無茶なプレイングは大好きです。
「俺はここにピーマン排除党を結成する! 学生よ、立て! ピーマンへの怒りをアウルに変えて、立てよ学生! ピーマン排除党は諸君らの力を欲しているのだ!」
テンションMAXの演説と対照的に、しずまりかえる揚げパンチーム。
だれもがツッコミのタイミングをはかりかねる中、チョッパー卍が冷静に指摘した。
「購買の焼きそばパンにはピーマン入ってないぜ?」
「……っるせーー! 俺を寝返らせようという罠か!」
秘密工作員ミハイルの手から、アサルトライフルが乱射された。
揚げパンへの愛ではなくピーマンへの憎しみで強化された弾丸が、チョッパー卍の全身をたたく!
「ぐはっ!」
血を吐いて吹っ飛ぶチョッパー。
しかし、この程度で死ぬ男ではない。ゆらりと立ち上がりながら、彼は言う。
「おまえがどれほどピーマンを憎んでいるか、よくわかった。……ならば俺も応えよう」
すぅっと息を吸うと、チョッパー卍は一気にまくしたてた。
「俺はパイナップルが嫌いだ! とくに酢豚に入ってるヤツだ! あの、肉だと思って口に入れたときの衝撃! 違和感! これじゃないよ感! たとえるならサハラ砂漠でイワトビペンギンを見かけたような異常感! なぜあいつらは、のうのうと酢豚界にのさばっている!? あのパイナップルが、これまで何億人の人間を不幸にしてきた!? だれもあいつらを望んじゃいない! にもかかわらず、あいつらは平気な顔して酢豚に入ってやがる! 何様のつもりだ!? 最近じゃピザにまで浸食しやがって! このままいけば牛丼にも入りかねねぇ! やつらは地球上から排除されるべきなんだ! そう、貴様ら揚げパンのようにな!」
カッ、と輝く手から、『Painkiller(オンスロート)』が放たれた。
「ぅぉおおっ!」
血煙を上げて倒れるミハイル。彼のピーマン嫌いは相当なものだったが、焼きそばパンにピーマンが入ってない時点で彼の勝ち目はなかった。──というか、パンと関係なさすぎだろ、この戦い!
そのころ。ルビィはマイペースに焼きそばパンを作りつづけていた。
「どのパンが究極にして至高かだと? ……ハン。愚問だぜ」
その言葉はハッタリなどではなく、チーズがトッピングされた特製焼きそばパンは絶品。MSは公平なマスタリングをせねばならず、どこかの陣営に肩入れしてはならないが、このレシピはマジうまそうなので勝たせたい。
そんなわけで、チームメンバー数名は戦闘をほったらかして焼きそばパンに夢中である。嗚呼、ここにも揚げパンチームと同じ轍を踏む者が。おいしいパンを作ったら味方に食われてしまうことが、なぜわからない!?
「飢えた獣どもめ! これでも食らいなさい!」
燃えさかる蛇形の炎が、一直線に彼らを薙ぎ払った。
調理のことしか頭になかったルビィはまともにこれを食らい、焼きそばパンごと炭火焼きになって退場。
「ああっ! 焼きそばパンが!」
ルビィの身より焼きそばパンの身を案じるレグルス。一見ひどいが、ほうっておけば回復する撃退士と違ってパンは燃えたら戻らないので仕方ない。
切りこんできたのは、矢吹亜矢と犬乃さんぽだった。どちらも非常に高レベルかつ、コロッケパン愛あふれるニンジャだ。
「許せない……。僕の力よ……焼きそばパンを蔑む悪を打ち砕く、流星群になれッ!」
レグルスはいきなりコメットを発動。詠唱に呼応して、巨大な岩のかたまりが雨のように降りそそいだ。
しかし、どれも当たらない。むしろ、味方の淳紅やカズヤをまきこんでいる始末。
「ちょ、ちょお! なにすんねん!」
焼きそばパンをもぐもぐしながら逃げる淳紅。
そこへ、大量のパン粉が襲いかかる!
「なんや、これ。パン粉……!?」
そう、パン粉である。さんぽが散布したのだ。さんぽが散布ですよ。わかりますか、この高度な駄洒落!
「風下に立ったが不覚だよ!」
パン粉まみれの淳紅めがけて放たれたのは、幻光雷鳴レッド☆ライトニング! 命中すれば、こんがり確定だ! さぁおたがいのパンLOVE度が判定される!
そして勝利をおさめたのは淳紅! レッド☆ライトニングはギリギリのところで回避された!
えー、ではここで、ちょっと淳紅のプレイングを見てみましょう。
『紅しょうがや青のりで可愛くおしゃれして、甘くも芳ばしいソースを勝負服に、ほんのりと小麦の甘さを伝えてくるコッペパンの布団にくるまる麺……』
ここまで詩情ゆたかにパンへの愛をつたえるプレイングは、ほかになかった!
「どうやら自分の愛は伝わったみたいやね」
伝わりましたとも。
「ボクのコロッケパン愛だって……!」
だが、さんぽが本当に好きなのはハンバーガーだった! これでは勝ち目はない!
「ごめんなぁ。悪く思わんといて」
炸裂するブラストレイ!
さんぽ、無念の退場!
「な……!? さんぽちゃんを一撃で……!?」
あわてる亜矢。さんぽが隠れバーガー派だったとは知らずにタッグを組んでしまったのだ。
「すまんなぁ亜矢ちゃん。自分、かなり強まっとるみたいや」と、淳紅。
「ふん。焼きそばパンなんか食べてる撃退士が強いわけないじゃないの」
「ほな、ためしてみよか?」
「そのまえに訊くけど、あなた一年前の今日、お昼に何を食べたか覚えてる?」
「え? いや、そんなん覚えとるはずないやろ」
「あたしは覚えてるわよ! 一年前も二年前も、その前も……。この学園に入学してから一日だってコロッケパンを欠かしたことはないんだから!」
「なん……やて……?」
言葉を失う淳紅。
その隙をついて、亜矢の影手裏剣が放たれた。
ドスッ!
「コ、コロッケパン恐るべし……や……」
ガクリと崩れ落ちる淳紅。ここでリタイア。
「毎日コロッケパンとは……。この中に毎日焼きそばパンを食べてる人いますか?」
征治が問いかけた。
レグルスとカズヤが首を横に振る。そりゃそうだ。ちなみにチョッパー卍はこの場にいない。時雨とともに揚げパンチームへ切りこんだままである。
「でも、逃げられる雰囲気じゃなさそうですね……」
征治が言い、レグルスとカズヤがうなずいた。
「逃がすわけないでしょ」
シャッ、と投げられた手裏剣は、危ういところで征治のシールドに阻まれた。
「こうなれば、やるしかないぜ!」
カズヤのヒリュウ、ロゼが全力で体当たりを繰り出した。
カズヤの焼きそばパン愛も決して小さくはなかった。むしろ、かなりのものだった。が、相手が悪すぎた。
あっさり避けられたロゼに、手裏剣が突き刺さる。
ダメージを肩代わりしたカズヤは、そのまま一発退場。
「チートすぎる……」
たしかにチートだが、毎日焼きそばパン食べてるメンバーがいれば勝負になったのだ。
しかしそれにしても、なんという戦力差(パン力差)!
征治とレグルスは絶望に身をよじるしかなかった。
ここで場面転換。
単体で亜矢を倒せる貴重な人材チョッパー卍は、神削と雫の揚げパンチームを前に固まっていた。
というのも、神削が焼きそばパンを人質に取り降伏を要求したのだ。
無謀すぎる交渉だが、それが通じてしまうのがこの依頼のひどいところである。ふつう思いつきませんよ、パンを人質にして降伏勧告なんて。
「おまえらが抵抗しなければ、こいつらの安全は保障しよう。だが、もし抵抗するなら……大変なことになるぜ? さあ、おとなしく負けを認めるがいい」
完全に悪役のセリフだが、イケメンは何をやってもサマになる。
「てめえ……。食いものを粗末にするなって教わらなかったのか?」
「俺は粗末にするつもりはないさ。おまえらがおとなしくしていればな」
「ち……っ。やむをえん。そいつらに罪はない。焼きそばパンを認めさせる戦いで、当の焼きそばパンを犠牲にしたんじゃ、本末転倒ってものだ。……わかった。俺はリタイアする」
「え……?」
冗談半分の交渉が成功してしまったことに驚きをかくせない神削。
「ただし、俺は俺の意志でリタイアするが、チームの連中に無理強いはできない。悪ィな」
「ああ、いや、おまえが消えてくれるだけで十分だ。あとは実力で揚げパンチームを勝利に導こう」
「ふ……。俺を消したことを後悔しないようにな」
チョッパー卍はVギターを肩にかつぎ、グラウンドの外へ出ていった。彼の焼きそばパン愛は海より深く山より高かったが、それゆえに敗北を招いたのだ。
そして場面は、征治&レグルス組に。
もはやコロッケパン愛で人類無双になりつつある亜矢は、全身からコロッケ臭ただようオーラをまきちらして仁王立ちしていた。
こんな依頼でなければ、征治もレグルスも亜矢と互角以上に渡りあえる実力者である。しかし、パンへの愛がすべてを決めるこの戦いでは、ライオンに立ち向かうネズミのようなもの。
「チョッパーさんを呼んできてください。それまで、僕がどうにかします」
征治が言い、レグルスは首を振った。
「いや、ここは僕が受け持つ。すくなくとも防御に関してはアストラルヴァンガードである僕のほうが上のはずだよ」
「でも……」
「いいから早く! 僕だって、そう簡単にやられはしない!」
そんな熱いドラマを見せる二人の視界の先で、チョッパー卍は自ら歩いてグラウンドの外へ出ていった。
「「え……?」」
ぽかんと口をあける二人。
その直後、彼らの頭部にゲームオーバーを告げる手裏剣がサクサクッ!
さて、こまった。この無双状態の亜矢を、だれか止められるのか!? 予定だとチョッパーと相打ちだったんだけど!? 人質作戦は予想外すぎたぞ!
最大派閥だったはずの焼きそばパンチームは、この時点で残り2名。霧島イザヤとユリアを残すのみ。
揚げパンチームも同じく2名。神削と雫。
そしてコロッケチームは、亜矢含めて6人。
これはもう、コロッケパンの勝利間近か?
そうはさせじと、イザヤは果敢にコロッケチームを襲撃。
チームと言っても、亜矢は一人で動いており、憐は淡々と脱落者にカレーパンを布教しているため、チームとして動いているのは、グラルス、ラヴ、恋音、Rehniの4人だけだ。
1対4とは無謀に思えるが、イザヤには自信があった。
「男は黙って焼きそばパン! しかし黙っていても伝わらない! ならここは、この思いをほとばしらせるとき!」
焼きそばパンへの思いをこめて、堕天使イザヤがグラルスの頭上から襲いかかる!
「焼きそばパンを炭水化物の塊と呼ぶ輩もいるが、それがどうした! 焼きそばの香ばしさ、口に入れたときの辛みと旨味。タレはやや濃いめがよく、パンの優しさに受け止められ口の中で絶妙なハーモニーを奏でる……! 食欲がないときでもソースの香ばしさが\私を食べて/と誘っているんだ。男なら黙って焼きそばパンだろ!」
まったく黙ってないが、これはかなりの焼きそば力だ!
一方、グラルスも負けてはいない!
「ふつうのコロッケだけでなく、グリーンピースやニンジンをこまかくしたものをまぜて食感を出したり、エビ、カニ、カボチャといったバリエーション豊富なコロッケ。それらをパンと一緒に食べることによるハーモニーは、ほかのふたつより優れている! ジェット・ヴォーテクス!」
型破りな詠唱とともに撃ち出された漆黒の風が、イザヤをとらえた。
と同時に、イザヤのパルチザンもグラルスの胸を貫いている。
壮絶な相打ちかと思われた両者。
だが、イザヤは倒れなかった。わずかに、パンへの愛が上回っていたのだ。
そこへ、すかさずラヴの薙刀が閃く!
「コロッケパンの良いところは、ぜんぶカタカナで書かれているところじゃ。読みやすいというのはそれだけで素晴らしいことよ。焼? 揚? そんな難しい字を使われても、読めぬゆえ買うこともできんのじゃ!」
「読め!」
一言で返り討ちにするイザヤ。
カウンターの一撃を受けて、ラヴは吹っ飛んでいった。
「なんということぢゃあああ……!」
のこる二人は、恋音とRehni。
しかし、この二人は玉子サンドが一番でありながらコロッケチームに所属しているハンパ者。これはイザヤの四人斬り達成か?
「男は黙って焼きそばパン! なによりも……、そう! ほかに愛するパンをかかえて偽りの愛を叫ぶ人には負けない!」
この一言はクリティカルすぎた。ものすごい勢いで強まったパルチザンは、もはやオーディンの槍のごとし!
絶体絶命のRehni。だが彼女には切り札が!
「そう。私は偽りの心を持って、このチームに入りました。でもやっぱり一番なのは玉子サンド! 私たちは今ここに、玉子サンド同盟を発足します!」
「なにぃぃッ!?」
Rehniのブレスシールドが発動してパルチザンを受け止め、恋音のライトニングがイザヤを打ちすえた。みごとな連携。このふたりは、最初からこうする予定だったのだ。
予想外の反撃を受けて、イザヤは轟沈した。
これを見たユリアは焼きそばを捨ててカレーパンチームをひとりで発足。焼きそばパンチームは消滅した。
だが同時にコロッケチームも瓦解し、実質のメンバーは亜矢ひとりに。
それだけではない。Rehniの玉子サンド同盟発足を見た雫は「揚げパン、あなたはおいしいパンでしたが、その高カロリーがいけないのですよ」と言い捨てて玉子サンド派へ合流。つづいて神削も「よく考えたら俺、揚げパンより玉子サンドのほうが好きだな」と、玉子サンドチームへ。
これによって、揚げパンチームも消滅。
勢力図は以下のようになった。
玉子:4(Rehni、恋音、雫、神削)
カレー:1(憐)
カレー:1(ユリア)
コロッケ:1(亜矢)
なぜかカレーパンチームが二つあるが、おたがいカレー派だということに気付いてないのが原因だ。──というか好き放題やりすぎですよ、みなさん。
「裏切ったわね、あなたたち」
ラスボスと化した亜矢が、コロッケパンを手に襲いかかった。
標的は当然、Rehniと恋音である。
偽りの愛(コロッケ)を捨てて真の愛(玉子)を歩みはじめた彼女たちは、実際かなり強い。だが、彼女らは間違っていた。玉子サンドが好きだというのなら、プレイングには玉子サンドへの愛を綴らなければ駄目だったのだ。【卵】などと書くだけで、愛が伝えられると思うのか! そんな恋文はない!
「小麦の精よ! ジャガイモの精よ! そして偉大なるイーストの王よ! 蒙昧なる反逆者たちに裁きの鉄槌を!」
亜矢の雷遁がすべてを引き裂き、Rehniと恋音は抵抗もできず手を取りあって死んだ。
しかし、雫と神削はあきらめない。
「まだです! まだ終わりではありません!」
雫は闘気を解放し、フランベルジェで斬りかかる。
だが、それでは駄目なのだ! 玉子サンドへの愛を語らなければ!
「これまでに食べてきたすべてのコロッケパンが、あたしに力をくれる。負ける道理がない!」
「ぐふっ!」
スキルでも何でもない普通の正拳突きで、雫は倒れた。
学園でもトップレベルの阿修羅である雫を、正拳一発。神がかり的なコロッケパン愛だ。
「動くな。それ以上暴れれば、こいつらがどうなるか……」
まともに戦って勝てるはずがないと判断した神削は、コロッケパンを人質に交渉!
が、一抹の躊躇もなく行使された火遁が人質ごと神削を焼き尽くした!
「そんな手が通じると思った?」
一部の焼きそば愛好家には通じていたが、亜矢には通じなかったようだ。
おお、身も心もコロッケパンと化したこの鬼神を、もう誰も止められないのか!? 学園はコロッケパンの魔の手に落ちてしまうのか!?
さぁ、第一次パン戦争も最終盤。
残るは、亜矢、憐、ユリアの3人だ。
ここで初めて、憐の手にあるカレーパンに気付いたユリア。
「もしかして、あなたもカレーパン派?」
「……ん。カレーパンは。正義。だから。勝利」
コクコクとうなずく憐。
ふたりは固い握手を交わし、ラスボス亜矢と真正面から対峙した。ここまできては、もう小細工も何もない。カレーパンへの愛を信じて戦うだけだ。
そして、カレーパン愛に関して憐は誰にも負けない自信がある。
無論、ユリアのカレーパン愛も相当なものだ。
ふたりの全身からカレー臭ただようオーラが立ちのぼり、亜矢のコロッケオーラと混じりあって猛烈なカレーコロッケ臭がグラウンド全体に立ちこめた!
「まさかカレーパンと戦うことになるとは思わなかったけど、どうやら本気のようね」と、亜矢。
「初めて食べて衝撃を受け、三日三晩この島のカレーパンを食べまわったあたしにとっては、カレーパンが一番! 香ばしくも中はふわふわのパンに、お店や商品によって味が千差万別なカレー! この二つの組み合わせには悪魔も微笑むね!」
ユリアが答え、憐がコクコクした。
「……ん。カレーパンを。飲めば。カレーパンの。すばらしさに。気がつくよ」
「ふん! カレーなんて、しょせんコロッケの材料でしかな、がぼ!」
大声で怒鳴った亜矢の口に、ガボッとカレーパンが投げ込まれた。
その香ばしさ。絶妙な甘みと辛みのハーモニー。コロッケ鬼と化した亜矢も、思わず感動する味だった。
「お、おいしい……」
言った直後に、ハッと我に返る亜矢。
しかし、手遅れだった。カレーパンのおいしさを認めてしまった彼女に、さきほどまでのコロッケパワーはない。
「そう! カレーパンはおいしいんだよ!」
ユリアの『Moonlight Burst』が放たれ、亜矢は回避も防御もできず黒こげになった。
「く……っ。カレーパン……おいしいなんて、卑怯だぞ……」
辞世の句を詠んで倒れる亜矢。
勝負あり!
最後に立っていたのは、ユリアと最上憐!
こうして、第一次パン戦争はカレーパンチームの勝利で幕を下ろしたのである。
「……ひどい戦いだったね」
「……ん」