どんなものを食べているか、言ってみたまえ。きみがどういう人間か、言い当ててみせよう。 ── ブリア・サヴァラン
●千葉真一(
ja0070)
「用事片付けてたら、すっかり昼飯が遅くなっちまったな。すきっ腹がエマージェンシーを鳴り響かせてるぜ。この時間でもやってる所となると……」
赤いマフラーをなびかせて、真一は知らない商店街を歩いていた。
じきに、雰囲気の良さそうな定食屋を見つけた彼は迷いなく扉を開ける。
入ってみれば、『いかにも』といった感じのレトロな店だ。
「こういう店か。悪くない。注文は……よし、カツ丼で決めよう。セットの汁物は、豚汁が選べるのか。いいな」
やけに独り言が多いが、すべて心の呟きである。
じきに、カツ丼セットが運ばれてきた。
が──
「しくじった。豚カツと豚汁で、豚がダブってしまったぞ」
まぁいいかと己を納得させながら、豚汁を一口。そして、カツをかじる。
ザクッという心地良い音。口いっぱいに広がる、肉と脂の旨味。
「いいカツだ。いかにも豚カツってカツだ。かぶろうと何だろうと、うまければ良しだ」
豪快にカツ丼をかっこみ、豚汁とお新香を片付けると、真一は爪楊枝をくわえて席を立った。
今日は、もう一件依頼があるのだ。
「おし。これでもうひと頑張りできるな」
●黒百合(
ja0422)
商店街を歩きながら、黒百合はジャンクフードを買いあさっていた。
フライドチキン、ハンバーガー、フライドポテトにコーラ。
日本のどこでも食べられる、某ファーストフードチェーンの主力商品だ。栄養バランスもクソもない。
「きゃはァ、やっぱりジャンクフードはいいわねェ……不健康生活万歳ィ♪」
などと言いながら、満面の笑みを浮かべる黒百合。
紙袋を提げて、適当なベンチに腰を下ろすと、彼女は粗末な昼食をとりはじめた。
まずは、ポテトを数本。次にハンバーガーを頬張り、コーラを一口。
「んー、健康に悪いのは理解してるのだけどォ……やっぱり止められないのよねェ♪」
もぐもぐしながら、満足げに呟く黒百合。
実際、チキンもバーガーもうまい。ポテトも揚げたては最高だし、コーラは超安定だ。
「そういえば、コーラって130円なのよねェ……原価は5円から7円ぐらいなのにィ……ボロもうけもいいところだわァ……」
と文句を言いつつも、コーラをゴクゴクする黒百合。
そうして短い昼食をすませると、彼女はしっかりゴミを片付けて立ち去るのだった。
●龍崎海(
ja0565)
その日、授業のなかった海は、自宅で自炊することにした。
休みの日は可能な限り自炊するのが、彼のスタンスである。
作るのは、豚肉とモヤシの生姜焼き。
安上がりで簡単に作れる上においしいという、自炊派庶民の心強い味方だ。
残ったモヤシとワカメで味噌汁も作り、チーズはんぺんは二つに切ってキツネ色になるまでフライパンで焼く。
あとはキュウリの柴漬けを添えて、炊きたてごはんを茶碗に盛ればOK。
「うん、われながらうまくできた」
うなずきながら、豚生姜焼きでごはんを食べる海。
これほどごはんのおかずに合う料理も、なかなかないだろう。
チーズはんぺんは、表面がカリッと、中はフワッと。とろけたチーズも、ごはんに合う。
シンプルな具材の味噌汁は落ち着く味わいだし、柴漬けも良いアクセントになっている。
簡素ながらも、充実した昼食だ。
デザートには、よく冷やした梨。
こうして秋の風情を味わいつつ、海はのんびりと午後を過ごすのだった。
●矢野胡桃(
ja2617)
見慣れた商店街を、胡桃は一人で歩いていた。
多くの飲食店が建ち並ぶ中、彼女はどこにも目を引かれずに歩く。
「とりあえず、今日も一仕事終了、ね。お昼は食べない方向に……」
と思った、そのとき。
ふいに胡桃の足が止まった。
「……って、あんなところにクレープ屋さん、あった? 甘いもののお店なら、知らないはずないのだけど……」
見慣れたはずの商店街に、見慣れぬ店が建っていた。新規開店したクレープ屋らしい。
これは天使カンミエルの名にかけてチェックせねばなるまいと、意気込んで立ち向かう胡桃。
メニューには、サラダ巻きやツナ巻きなどのラインナップもある。
が、胡桃の目に映るのは甘いものだけ! クレープは甘いものと法律で決まっている!
「バナナチョコ苺クレープひとつ。チョコソース多め、苺マシマシで」
出てきたのは、期待を裏切らない代物だった。
バナナ+チョコという黄金タッグに、苺のトッピング。完璧な三重奏だ。
「なかなかやるわね。ならば次は……キャラメルバナナクレープひとつ。キャラメルソース多め。苺ダブルで!」
これまた、バナナ+キャラメルという黄金タッグに(略
「……うん、すごくおいしい。次も来よう」
口元をぬぐうと、胡桃は満足して家路につくのだった。
●礼野智美(
ja3600)
商店街を歩きながら、智美はスマホで時刻を確認した。
妹にメールを投げると、すぐに返ってくる。
『誰も買い物してないよ』
それを見て、智美は昼食を作ることに決めた。
「今日は肌寒いし……たしか部活の台所には……」
思い出しながら、智美はスーパーで食材を買い求めた。
そして、レジ袋片手に部室へ向かう。
まずは、台所でエプロンを装着。
冷蔵庫や食材置場から、うどんの乾麺、椎茸、人参、青梗菜を出してくる。
買ってきた鶏肉は細切りにして、野菜やキノコ類も適当に処理。
次に、土鍋を用意する。
「鰹出汁は……ぜんぶ使うか」
土鍋に出汁を張り、昆布を細切りにして投入。
具材を入れてよく煮込みつつ、同時進行でうどんをゆでる。五島うどんなので、麺は丸くて細い。
「たまには太いうどんも食べたくなるけど……保存が効くし、なによりおいしいからな」
具材に火が通ったところで土鍋にうどんを移し、よく煮込んで完成。
そこへ、タイミングよく妹たちが帰ってきた。
「いい匂いー」
「おなかすいた―」
口々に言いながら、台所へ駆け込んでくる。
智美はコンロの火を止めると、笑顔で振り返った。
「おかえり。ちょうど煮込みうどんができたぞ。食べるか?」
●月詠神削(
ja5265)
行きつけの食堂に新メニューを発見した神削は、迷わずのれんをくぐった。
彼が心惹かれたのは、牡蠣。
まさにこれからが旬の、冬の貝の代表だ。
だが、牡蠣料理といっても色々ある。
焼き牡蠣、生牡蠣、牡蠣鍋、牡蠣飯……
神削が選んだのは、定番かつ王道のカキフライだった。しかも、一番人気のカキフライ定食!
まずは素材の味を見るべく、なにもつけずそのままで。
揚げたてサクサクの衣に歯を入れれば、たちどころに溢れる汁っけ。ほんのり苦味を含むカキ特有の旨味が、口の中に広がる。プリプリとした食感も、じつに心地好い。白いごはんと一緒に掻き込めば、それはまさに至福のひととき。
次は、定番のオイスターソースをかけて。レモンを軽く絞り、少量のマヨネーズを組み合わせるという細かさだ。これまた、飽きの来ない味である。
惜しむらくは、神削は未成年だということ。
たしかにカキフライと白飯は最強のタッグだが、ビールもまた白飯に劣らぬカキフライの相棒なのだ。
いまだ知らぬその組み合わせをたのしみに想像しながら、いまはカキフライ定食を満喫する神削であった。
●元海峰(
ja9628)
「さて、昼飯は何を食うか」
商店街を闊歩しつつ、海峰は腕組みして考えた。
食べ歩きを趣味とする彼は、このあたりのものは食い尽くしている。
まぁとりあえず手軽に腹を満たそうと、コンビニに入る海峰。
まずは烏龍茶のペットボトルを買い物カゴに入れ、おにぎりを次から次へとカゴに移していく。全種類を制覇しようというのだ。そのままカウンターへ持って行き、さらに中華まんを全種類オーダー。
店を出ると、歩きながら食べ始める。
すれちがう老人が何故か海峰を見て「ありがたや」などと拝んでいくが、彼は気にも留めない。
数分後、中華まんもおにぎりも彼の胃袋におさまっていた。
が、まったく満腹にならない。
というわけで、なじみの大衆食堂へ。
焼肉定食大盛り2人前を注文。たちまち完食。
それでも足りずに、蕎麦屋へ入ってかけそば3人前。
これも、あっというまに完食。
「まぁ腹八分目というし、今日はこれくらいにしておこう」
けろっとした顔で言いながら、蕎麦屋をあとにする海峰。
その頭の中では、すでに晩飯を何にしようかと考えているのだった。
●月乃宮恋音(
jb1221)
「うぅん……お昼はどうしましょうか……」
恋音は、久遠ヶ原の商店街にいた。
ふだんは弁当を用意することの多い恋音だが、今朝は作る時間がなかったのだ。
というのも、学園事務局で発生したデータトラブル対応の援軍として、早朝から駆り出されていたのである。
とりあえずトラブルは無事解決したが、さて。
このあと仮眠するかもしれないし軽いものを──と考えた結果、恋音は大晦日にバイトした蕎麦屋を訪ねることにした。
「あらまぁ、恋音ちゃん」
「ごぶさたしておりますぅ……」
という感じで、店のおばちゃんと世間話が始まる。
ともあれテーブルにつき、かけ蕎麦を注文。
これがまた、じつによく出来ている。
「シンプルなかけ蕎麦やザル蕎麦は、差がハッキリ出るのですよねぇ……こちらのお店は、そば粉の選びかたはもちろん、水の分量や水回しなども、すばらしい技術ですぅ……。私も精進しなくては……」
心の中で、そっと呟く恋音。
そうして軽い昼食をすませると、彼女はテイクアウトの生そばをおみやげに買って帰るのだった。
●天宮佳槻(
jb1989)
佳槻は、コンビニの袋をさげて公園のベンチに座った。
さきほど終えた依頼のせいか、どうも気分がすぐれない。
こんな風に昼食をとることにしたのも、できるだけ他人と関わりたくなかったからだ。
レジ袋から、チーズバーガーと卵サンド、ホットコーヒーを取り出す。
コーヒーを一口。そしてバーガーをかじると、無駄な体の力がふわっと抜けるような気がした。
なぜだかわからない。
味の点から言えば、通りすがった店にもっと美味しいものがあっただろう。
けれど──
ふと見上げると、空が高かった。
ふだんあまり見上げることのない空だ。
そこで、不意に思い出す。
コンビニの袋に、アップルパイも入っていたことを。
それが妙におかしくて、佳槻は小さく笑った。
考えてみれば、久遠ヶ原に来たときはデザートなんて目に入ることもなかった。もっと考えてみれば、空や風さえも。
学園に来て、そろそろ2年。それなりに歩いて来られたのだろうか。すこしは何かが出来るようになったのだろうか──
しみじみした気分で、佳槻はアップルパイをかじった。
口の中に、じんわりと甘い味が広がる。
●ラカン・シュトラウス(
jb2603)
久遠ヶ原上空を、紳士な白猫エンジェルが飛んでいた。
無論、着ぐるみだ。冬毛仕様の、もふもふもふも(
「腹がへったのである。お昼は何を食べようかなである〜」
財布を取り出し、「むむむ……」とうなりながら中身をごそごそするラカン。
そして──
「Σ(*゜∀゜*) 我、お金持ちさんなのである! 500久遠発見なのである! きょーはゴージャスランチなのである〜♪」
大喜びする、堕天使ラカン。
気分はルンルンだ。
「さて……500久遠限定ランチも捨てがたいであるが……我はあちらを選ぶのである!」
キラーンと目を輝かせて、ラカンは急降下した。
ズシャアアッ!
砂煙をまきあげて着陸したラカンの前には、一台の軽トラ。
そう、これは石焼き芋屋!
「店主殿! 500久遠で一つお願いするのである!」
「おう。いいとこ選んでやるぜ」
「はふはふ、寒くなってきたら、ほふほふ、やはりこれに限るのである!」
空中散歩しながら、芋をかじるラカン。
こんなおいしそうに石焼き芋を食べる猫は、ほかにいない。
「むぐむぐ……甘いのである! ほっくりとしながらも、ねっとりとした蜜が内包されており、芋の甘さを(略
●咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)
いつもの商店街を、咲は当てもなく歩いていた。
大食いで悪食の彼女は商店街の全メニューを制覇済みだが、さて今日の昼食は?
そのとき。見慣れない移動販売車を見かけて、咲はフラフラ近付いていった。
見れば、客は一人もいない。
不思議に思ってよーく見れば、店員が某筋肉天使みたいなツラだったのだ。
「なるほどねー。でも、大事なのは味よ!
そもそも何の店なのかと、メニューを確かめる咲。
すると、そこには──
「えーと……なにこれ。担当の袋井を呼んでこい!……と言いたいが、そんなことするヒマにあたしの空腹ゲージがバッドエンドだ。……ええい、ままよ! この『黒光りするギXルの皮付きフランク』と、『がぶりLサイズ肉まん』をください!」
ひどい注文をする咲。
店員はニヤリと笑い、「どちらも肉汁が出るゆえ気をつけよ」などと返す始末。
「ところで、このギXルって(略
──数分後。公園のベンチで怪しいモノを頬張る咲の姿が。
「おお、太くて固くてプリップリ。肉まんはもちもちで、ふかしてあるのに頂点が焦げててコリコリして(略
●白野小梅(
jb4012)
「おなかへったぁ、ドーナツを食べよう!」
小梅は商店街を爆走していた。
自称ドーナツ通の彼女に、『選択肢』などない。
手近のカフェに突撃し、「ねーちゃん! オールドファッションあるかぁ?」と、通ぶって注文。
「あ、はい」
「よーし、それなら……オールドファッション、シュガーレイズド、チョコリング……ドリンクはチョコレートフラッペだぁ! クリームだのストロベリーチョコだのを好むのは、お子様さぁ!」
人が変わったように騒ぐ小梅(6歳)
「真のドーナツ好きは、生地にこだわる」
席に着くと、小梅は両手にドーナツを持ってかぶりついた。
まずは、オールドファッションを一口。
「こ、これは……このモソッとした懐かしい食感、芯に近いほどふんわりねっとり、そして派手さのない甘さ……うまい……うまい……うーまーいーぞーぉぉっ!」
大騒ぎしながら、一心不乱にドーナツを貪る小梅。
なにかヤバい成分が含まれてるんじゃないか、この商品。
「ふぅ……うまかったぁ」
あっというまに完食すると、小梅は満足そうにチョコフラッペを飲むのだった。
●蓮城真緋呂(
jb6120)
「こんにちは。大将、今日は60分でお願いします」
真緋呂の昼食は、行きつけの蕎麦屋だった。
時間指定とは風俗店みたいだが、さにあらず。この店では、時間制でわんこそばを提供しているのだ。
気分的にはさっぱりと、でも食欲的にはがっつり食べたい。そんな乙女心を満たしてくれる、素敵なシステムだ。
無制限だと際限なく食べちゃうっていうか店をつぶしてしまう真緋呂なので、これは双方にとってメリットのある解決策。……いや、メリットあるの真緋呂だけか。
「よろしいですか?」
「いただきます」
おねえさんの合図で、たのしい時間が始まった。
わんこそばは、おねえさん(orおばちゃん)との戦い。
「はい、じゃんじゃん」の掛け声を聞きつつ、テンポよく食べねばならない。
温かい蕎麦を、するするツルツルと。
この店のダシは昆布と煮干しの薄味で、量を食べるのに邪魔をせず、蕎麦の喉越しも良い。
すじこ、クルミ、葱、なめこおろし、花鰹、もみじおろし等、薬味も豊富で飽きが来ない。
「時間でーす」
「はーい」
箸が止まらぬまま、戦闘は終了した。
雑然と積まれた椀の数は、あとで日本野鳥の会の人に数えてもらおう。
「御馳走様でした」
礼儀ただしく手を合わせる真緋呂。
食べた物は全て胸に行くシステムだ。
●不破十六夜(
jb6122)
「う〜ん、『ぱふぱふ』は別のお店になってるし……どうしよう。たまには御新規さんを発掘してみようかな〜」
十六夜は商店街をうろうろしていた。
「あれはJOJO亭……でも一人焼肉はヤだな〜」
などと迷ったすえ、なんとなく激辛料理店に決定。
ふと思いついて、亜矢に電話をかけてみる。
「玉入れは何だか知らないうちに負けたけど、その残念会も兼ねてどう? おごっちゃうよ?」
「行くに決まってるでしょ!」
タダ飯で簡単に釣れる忍者、亜矢。
「ボクはカレーにしようかな〜」
「じゃあ、あたしもそれ」
というわけで、超激辛カレーが運ばれてきた。
「赤黒いカレーって、初めて見るよ」
「辛いのは好きだけど、これはヤバそうね」
おそるおそる、スプーンを手にする二人。
「あれ。全然からくない」
「げふっ! ごふっ!」
平然と食べる十六夜と、むせかえる亜矢。
そう、味覚バカの十六夜には、辛いものも甘いものもよくわからないのだ。
「どうかしてるわよ、あんたの舌」
「うーん……。駄目舌を持つ人は、グルメリポーターとかやらせたら駄目ですね」
このあと、亜矢は死にそうになりながら完食したという。
●後藤知也(
jb6379)
「ふぅ、メシ時か……」
思い出したように言って、知也はコンビニに入った。
そこで安い弁当とお茶を購入。近くの公園へ。
安上がりな昼食だ。贅沢はできない。多くの学生と違って、知也には家庭があり、子供もいるのだから。
それに、たまには喧騒を避けて一人になりたいときもある。
(まぁ、こんなもんか)
ベンチに腰かけると、知也は弁当を膝の上に置いた。
味は悪くない。最近のコンビニ弁当は、よくできている。
そこへ、一匹の野良猫が近寄ってきた。
見るからに、腹をすかせた様子だ。
(どんな生き物も、空腹はつらいもんだ)
弁当のフタにおかずをいくつか乗せると、知也はそれを地面に置いた。
野良猫は警戒しながらも、むしゃむしゃ食べ始める。
(こいつらも、命をかけて戦ってるわけか……。俺らの戦いは、いつ終わるんだろうな)
野良猫を眺めながら、ひとり物思いにふける知也だった。
●華桜りりか(
jb6883)
「んぅ……お昼ごはん……? 今日は、自分へのごほうびにおいしいものを食べるの……」
なんのごほうびか謎だが、ともかくりりかはお気に入りのチョコ専門店へ向かった。
ここは、チョコ好きの、チョコ好きによる、チョコ好きのための店!
「んと……ジャンドゥーヤチョコ、プラリネ、ガナッシュ、ロシェ、トリュフ、ケーク・オ・ショコラ、ザッハ・トルテ、フィレナワール、ドラジェ、オランジェット、パンワークチョコ……あと普通の板チョコもください、です。それと、ホットチョコもなの……」
「ご贈答用ですか?」
「あ、全部あたしが……」
というわけで、大量のチョコを購入したりりかは公園のベンチへ。
大人気だな、公園のベンチ。
「ふふ……チョコがたくさんで幸せなの、です。チョコ大好きなの……」
すっかりご機嫌で、笑顔をこぼれさせるりりか。
まずは、温かいうちにホットチョコを一口。
そして、世界各国のチョコをひとつひとつ味わってゆく。
「うふふ……チョコは主食なの……ですよ?」
と言いつつも、チョコばかり食べていると怒られるので周囲をキョロキョロするりりかだった。
●ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)
今日は、あそこに行くか──
そう決めて、ゼロは薄暗い路地裏に足を踏み入れた。
真昼にもかかわらず、危険な空気の漂う場所だ。
すこし歩いた先に、ちいさな店がある。
暖簾も看板もない。一見、普通の民家だ。
ゼロがこの店を知ったのは、ただの偶然。とあるバーで知り合った、どこぞの社長の案内がきっかけだ。
重いドアを開けると、空気が変わる。
霧のかかったような照明。うっすらと流れるジャズ。
この店にメニューはない。そのときの旬なもの──あるいはシェフの気分によって、料理が決まる。
従って、オーダーの必要もない。黙って座れば、今日の一品が出てくる。
ゼロの前に置かれたのは、ビーフシチューだった。
濃厚なデミグラスソースと、とろけるまで煮込まれた肉。
雑誌やTVで紹介されるような店と違い、具沢山で量もしっかりとある。大人の男が満足できる一皿だ。
『腹いっぱいにならなければ飯じゃない』
この店を治めるシェフの、それがモットーだ。
微笑しながら、ゼロはワイングラスを傾ける。
今日も、良い一日だ。
●桐ケ作真亜子(
jb7709)
ぐごぅらぎゅるるぅ〜〜!
デスメタルのギターソロみたいな音が響いた。
信じがたいが、これは腹の虫の音。
「おなかすいた、でもお金ない……。さっきやっつけた兎ディアボロ、まるまる太っておいしそうだったな。持ってくれば良かった……」
危ないことを口走りつつ、真亜子はガマ口財布とにらめっこしていた。
が、ないものはない。
「こうなれば……」
とりあえず空腹を紛らわせようと、道の真ん中でロボダンスをはじめる真亜子。
だが……
「しまた。動いたらよけいに空腹!」
ダンスで腹は膨れない!
「最後の手段!」
真亜子はコンビニの裏に回ると、廃棄弁当を回収した。
そのままコンビニの屋根に飛び乗り──いざ実食!
「期限切れても、すぐ腐るわけじゃないもんね。ほら、この納豆、まったく腐ってなんかない」
得意げに言い切る真亜子。
そして、あっというまに完食。
食後の運動にと、ふたたびロボダンスを敢行。老朽化した屋根で、ハッスルハッスル♪
──三分後。
「おなか痛!」
謎の腹痛に襲われて、悶絶する真亜子がいた。
だが幸いなことに、コンビニは真下。
というわけで、トイレに駆け込む真亜子であった。
●玉置雪子(
jb8344)
「チャーシュー麺、チャーシュートッピングで」
某ラーメン店で、雪子はそんな注文をした。
どんだけ肉が食べたいのかと、あちこちから失笑が漏れる。
「……ダリナンダ、いま雪子の背後でクスッと笑った人は。べつに雪子は肉が食べたいワケじゃないです。ここのチャーシュー麺は、なぜか薄くて枚数が少ないんです。笑いたければ笑えばいいんジャマイカ?」
と、心の中で抗議する雪子。
さすがに、一般人に向かって挑発はできない。
もともと、この店に来たのは通行人の会話を耳にしたせいだ。
「この辺にィ、うまいラーメン屋の屋台が来てるらしいっすよ」
「じゃけん、夜行きましょうね〜」
という会話だ。
「それで試しに訪ねてみれば、ただの薄いチャーシューのラーメン屋ですよ。もうね、アホかと。馬鹿かと。しかも周りを見れば、おソロ様は雪子のみ。だれかと一緒に来ればよかった件。……あ、雪子ぼっちだった……」
どこまでも、心の中で呟く雪子。
どうでもいいことだが、チャーシュー麺チャーシュートッピングで笑われたのは、雪子の背後だとか。
●アルベルト・レベッカ・ベッカー(
jb9518)
歩き慣れない商店街。
依頼後の空腹に耐えかねて、アルベルトは飯屋をさがしていた。
「ああ……私がちょっとごはんを入れていくような店って、もうないの?」
と呟きながらも、妥協せず店をさがすアルベルト。
そのとき、ふと一軒の定食屋が目に留まった。
「よし、ここに決めたわ」
ガラガラと扉を開けるアルベルト。
メニューを見ると、煮込み雑炊が妙に気になった。
「この煮込み雑炊を、ひとつもらえるかしら」
「あ、ごめんなさい。それ来月からなんですよ」
「じゃあ、この煮込み雑煮を」
「ですから、ごめんなさい。お雑煮も来月からなんですよ」
「じゃあ……煮込みうどんを!」
「どれだけ煮込み食べたいんですか、あんた」
「あんたって言いかたはないでしょう!?」
アルベルトは立ち上がると、店主の腕を取ってアームロックを決めた。
ベキッ!
すぐさま救急車が呼ばれ、アルベルトは警察から厳重注意を受けたのであった。
撃退士が一般人にアームロックをかけると、だいたい折れるという教訓である。
●神ヶ島鈴歌(
jb9935)
「レモネードが私を呼ぶですぅ〜♪」
レモンの香りに誘われて、鈴歌はフラフラ歩いていった。
各店のレモネードを巡り、研究開始!
「おー、このレモネードはスッキリさわやかですぅ〜♪」
「ぁぅ? このレモネードは、さきほどのお店より甘めですねぇ〜♪」
「なんと。このレモネードは生姜入りですぅ〜♪」
などなど、色々なレモネードとの出会いを果たす鈴歌。
そうしてひととおり堪能したあとは、当然自分で作る番。
八百屋で大量にレモンを買って、いざ自宅へ。
「えへへ〜、これだけレモンがあればぁ〜♪」
レモネードの新作レシピを考えながら歩く鈴歌。
そこへ、走ってきた子供が衝突!
「ふみゃっ!? レモンがぁ〜!」
道路に落ちて、あっちこっちへ転がるレモン。
「待ってほしいのですぅ〜レモンさぁ〜ん!」
追いかける鈴歌。
通行人たちも、足を止めて手伝う。
「うぅ……みなさん、ありがとうですぅ〜。助かったのですぅ〜」
ちらばったレモンを無事回収すると、鈴歌は今度こそ慎重に自宅をめざすのだった。
●川内日菜子(
jb7813)
依頼の報告をすませると、日菜子は昼食をどうしようかと考えた。
(外食で済まそうとも思ったが、一人で入るのは気が引ける。ならばテイクアウトにするか? ……いや今日は蕎麦かうどんの気分。たまにはカップ麺もいいか。赤か緑か迷う。配管工の兄弟の話ではない。正直、油揚げもかき揚げも食べたい。が、ふたつ買うのも卑しい気がする。なにか妙案はないものか──)
どうでもいいことを真剣に悩む日菜子。
そこで彼女は気付いた。
(そうか! 狐を買って、かき揚げの惣菜を足せばいいのか! そうだ、ついでにスーパーの惣菜コーナーで、おいしそうなものを買ってトッピングすればいい。まるで勝手丼だな。ワクワクしてきたぞ!)
というわけで、日菜子は目的のブツを手に入れてフードコートへ。
そこで偶然見つけたのは──
●ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
所定の時刻が来ると、ラファルは2本のチューブを取り出した。
いつものように、処方箋が付いている。
「またレシピが変わって……あいつら遊んでやがんな。今日はミドリムシ味と爆竹味……?」
説明しよう。メカ撃退士であるラファルの健康管理は、常人とは異なるのだ。彼女は毎日決まった時刻に、義体をメンテしている研究所の処方に従った専用食を摂らなければならないのである。
ともあれ、ラファルは自販機からパチってきた紙コップにチューブの中身をひねり出した。
1本は、ドロッとしたクロレラ色の液体。
もう一本は、超炭酸めいた火花がスパークしてバチバチいってる謎物質。
両方をブレンドすれば、今日のランチが出来上がり♪
そこへ──
「ラルじゃないか、偶然だな」
日菜子が、レッドフォックス片手に声をかけてきた。
「おー、ヒナちゃんじゃねーか。今日の昼メシはシャア専用うどんか?」
「ああ。緑と迷ったんだが、かき揚げを買って乗っければ解決することに気付いた」
「ほー。いまここに、緑色の食いものがあるぜ?」
「なにやら、見るからにヤバそうだが……」
「俺も、この処方箋は今日が初めてだ。なんなら味見してみるか? なぁに、死ぬことはない。たぶん」
なかば強引に、紙コップを押しつけるラファル。
日菜子の顔に、イヤな汗が浮かぶ。
だが、愛する人がどんなものを食べているのか──それは気になる。
覚悟を決めると、日菜子は紙コップを手に取った。
──数秒後、彼女は全身から火花と煙を噴いて倒れ、救急車が呼ばれたのであった。
●黒神未来(
jb9907)
「とっておきの店行くで! みんなに知られたら行列できるさかい、こっそりな!」
堂々と宣言しながら、未来は『久遠ヶ原食肉センター』に駆け込んだ。
ここは、ランチタイム限定45分間980久遠で焼肉食べ放題というステキな店。
ただし、肉はレバーとハツのみ!
席に座ると、ごはん+わかめスープ+スライスオニオンのセットが自動的に出てくる。
当然、レバーとハツも一緒だ。
「ああ、この角の立った肉、ええわぁ……」
おもわず光纏し、肉をババッとグリルへ並べる。
その手つきは、まさに神速。
「あせるんやない、うちはただ腹が減ってるだけなんや……」
みずからに言い聞かせながら、慎重に肉を育てる未来。
刺身でも食べられるほど新鮮なレバーをレアでほおばり──肉汁が口にあふれたところで、ごはんをぶちこむ!
「くぅ〜、たまらんわ。濃い目の塩ダレがごはんを進めてくれるねん……」
レバー、ごはん、ハツ、ごはん、口直しでオニオン。そこへ追いレバー、追いごはん……
永久機関のごとく繰り返される、肉食行為。
そして、名言が飛び出す。
「うおォン、うちはまるで人間火力発電所や!」
●袋井雅人(
jb1469)
「おおっ、黒神さんも焼肉とは! いいチョイスです!」
人間発電所と化した未来の背後から、雅人が声をかけた。
だが、いまの未来は肉を食うためだけに存在するマシン。45分という時間制限バトルにおいて、しゃべってるヒマなどない!
「おっと、失礼しました。焼肉屋は戦場……言葉など無用でしたね。では私も戦闘開始です!」
雅人は真剣だった。
なんせ、『非常に難しい』戦闘依頼の帰り道なのだ。失った血を補給するためにも、目一杯食べねばならない。
が──
「こちら、ランチ限定食べ放題でよろしいですかぁ〜?」
声をかけてきた女性店員の胸に、雅人は目を奪われてしまった。
なんとそれは、恋音のものに勝るとも劣らぬおっぱい!
「ふおおおおっ!?」
「よろしいですねぇ〜?」
「ふおおおおおっ!?」
「では、45分間おたのしみくださぁ〜い♪」
「ふおおおおおおおっ!?」
なんだか風俗嬢みたいなセリフだが、ここは焼肉屋。
雅人も、血を補充するために肉を……
「な、なんなんですか、あのオッパイは! これはもう焼肉どころじゃありません! そのおっぱいを、ぜひ食べ放題に!」
「いやあああん♪」
政治家であり稀代の食通でもあるサヴァランは、食事を見れば人格がわかると豪語した。
私には、食事など見なくてもわかる。