「杜玲汰、小等部5年生。実戦は初めてです」
斡旋所の一室。
8人の先輩を前に、玲汰は頭を下げた。
「初陣でござるか。実戦経験のない子供には、酷な依頼に思えるがのう」
正直な感想を口にしたのは、鳴海鏡花(
jb2683)
漁港に天魔出現と聞いて、もしやエビ天ではと駆けつけた次第である。
「そんなに厳しいですか。この依頼」
「拙者は今まで、ナマコ、ヒトデ、エビといった海の天魔と戦ってきたでござるが……どれも一筋縄では行かなかったのう」
「うう……っ」
萎縮する玲汰。
「そう固くなるなや。訓練は本番のつもりで、本番は訓練のつもりで……ってな」
お気楽な調子で玲汰の肩を叩いたのは、麻生遊夜(
ja1838)
見かけによらず、面倒見の良い男である。
面倒見が良すぎて玲汰に近接拳銃術を叩きこんでしまった彼だが、もちろん後悔などしていない。
「大丈夫だよ。僕も実戦経験すくなめの、新米アイドルなんだ。いつも先輩たちの動きを見て、邪魔にならないよう行動してるよ。でしゃば……無茶すると、まわりも大変だからね。今日は、おたがい頑張ろー!」
遊夜以上にユルい感じで言うのは、藍那湊(
jc0170)
歌も踊りも苦手な湊だが、笑顔は素敵だ。
「ボクも戦闘依頼は新人みたいなものですけど、緊急らしいので……できるかぎりのことをします」
と挨拶したのは、ふだん日常依頼を受けてばかりの礼野明日夢(
jb5590)
一見たよりないが、撃退士歴は長い。
「いいか、レイター二等兵! 重要なことはふたつだ。ひとつ、死んだら役に立たん。ふたつ……どうせいつか皆死ぬ!」
「は、はいっ!」
リリィ・マーティン(
ja5014)の言葉に、玲汰は背筋をのばした。
今日のリリィは、砂漠迷彩の軍服姿だ。よく見ると、星条旗やUSMCのロゴが刻まれている。
「大丈夫です……最初は落ち着いて、訓練を思い出しましょう……」
いつになく真面目な顔で言うのは、平田平太(
jb9232)
今日は丸太を持ってきてないが大丈夫か? 漁港に丸太は生えてないぞ?
という感じでチームメイトの確認が進む中、桜花(
jb0392)は出来るだけ目立たないようにしていた。
先日の依頼で右目を失った彼女は、玲汰に顔を見られたくないのだ。
が、隠れきれるはずもなく。
「あ、桜花先輩、こんにちは」
なぜか顔を赤くさせる玲汰。
桜花は「ああ」と、そっけなく応じる。
「あの、それは……?」
「あぁ、この顔? 撃退士になるってことは、こういうこともありえるってことだよ」
無愛想に答える桜花。
玲汰は何も言えず、沈黙してしまう。
だが、そこへ。
「ブレイカー♪ ブレイカー♪」
と、どこかで聞いたフレーズのテーマソングで登場したのは、日本撃退士攻業 美奈(
jb7003)
ほぼ1年ぶりの登場となる彼女だが、ここ1年間は本格的な学生起業のための準備に奔走していたのだ。(勉強しろ)
本日の美奈の目的は、ずばり前途有望な若者のスカウト。美脚すぎる撃退士に加え、最近ハマったゲームの影響ですっかりビッチな魔女と化した模様だ。
「そこの少年、あたしの会社で働かない?」
と誘いながら、自慢の美脚を見せつける美奈。
これぞ、超青田刈り!
「な、なんの話ですか?」
「いい? どんな美乳も、いずれは垂れてしぼむ。それにくらべて、美脚は絶対不滅。わかる? この魅力が」
「いや、あの……」
「それと、あなたには依頼を見極める観察眼が足りない。結果、分不相応な敵に突撃して命を危険にさらすことになる。今回の依頼もそう。厄介な海産物どもは歴戦の先輩たちにまかせて……いますぐトンズラだー!」
玲汰を拉致って逃げだす美奈。
バギッ!
美奈の後頭部を、体育会系教師が殴りつけた。
「おまえは何をしに来たんだ!?」
「いや、冗談ですよ? こう見えても、大怪獣ゴジ●と戦ったこともあります。エビ天やイカ天ぐらい、楽勝で
「いいから、さっさと行け!」
数分後、彼らは大阪湾の漁港に到着した。
青い空。波打つ海。渡る潮風。
跳ねる巨大エビ。
転がる巨大ウニ。
シャドーする巨大シャコ。
なにもしてない巨大アメフラシ。
「海産物ばかりですね……。うーんと、エビとシャコは近接戦闘系かな……? アメフラシは……やわらかそうだから、点で攻撃する銃や矢は厳しいかな? それにウニ……うわ、あの猛スピードで転がってるの、どうやって止めよう……」
現場を見て、明日夢はうろたえた。
「All right! 私たちの任務は海の幸を獲ってくることだが、問題はその海の幸がデカすぎたってことだ。だから刻まなければならない。OK?」
かるくジョークをかますリリィ。
まったく余裕はないが、クセなのだ。
「やはりおったか……バックジャンプでやられた恨み、いまこそ晴らす!」
ほかの敵など目もくれず、鏡花はエビ天に向かって走りだした。
はたして、三度目の正直でリベンジなるか?
「シャコ……青森……花見……海産物……うっ! 頭が……!」
平太は花見の記憶を思い出して、頭をかかえた。
彼もまた、海産物に恨みを抱く者。いまこそ復讐のとき!
「いまの私は、恐ろしいほど冷静ですよ……。花見の恨みを、ここで晴らしましょう……」
そう言うと、平太はシャコに向かっていった。
「おー、僕が援護しますよー」
アホ毛をブンブンさせながら、平太の後を追う湊。
シャコの相手は、この二人だ。
「杜君。あいつやるよ。いい?」
と、アメフラシを指差す桜花。
「わかりました。突撃します」
玲汰は光纏すると、両手に拳銃を抜いた。
「わ、だ、駄目ですよー杜さーん! 近付くのは自殺行為ですよーっ!」
明日夢が叫んだ。
「相手の特徴も知らずに突っ込む気? バカじゃないならやめようか?」
玲汰の首根っこを、桜花がつかむ。
その直後。アメフラシが毒霧を噴き出した。
周囲の空気が紫色に染まり、コンテナが溶けだす。
「ほら、なんか出してきた。つっこんでたら、あれでいきなりアウトだよ」
と、桜花。
なにか触手みたいなアウルがウネウネして、視覚的に鬱陶しい。
「あの霧、やばそうですよね。広範囲に影響及ぼしそうですし……」
明日夢がうなずいた。
「あぁいう相手は、毒ガスの届かない所から撃ちまくる」
桜花は対戦ライフルを抜くと、射程範囲まで距離をつめた。
明日夢も破魔弓をかまえて、ロングレンジショットを繰り出す。
毒霧が邪魔でよく見えないが、魔法攻撃が効果的なようだ。
遠距離攻撃で一方的に撃たれるアメフラシ。
「レイター! ただ撃つだけなら、セントリーガンでも置いておいたほうがマシだ。考えて撃て! Move! Move!」
「は、はいっ!」
リリィの言葉に従って、玲汰は足を使いながら射撃する。
だが、敵はそれだけではない。
玲汰たちを轢き殺そうと、ウニボロが転がってきた。
「過去に、たった2体で多くの味方を轢いたという存在……相手にとって不足なし!」
遊夜が光纏して立ちふさがった。
先輩として魅せるしかあるまいと、いつも以上に張り切っている。
「見取り稽古と行こうか、こっちも見とけよ玲汰ぁ!」
ガトリング砲を腰だめにすると、遊夜は派手にブッ放した。
「ハッハァ、砕け散れやァ!」
だが、高速回転するトゲが弾丸をはじき返してしまう。
「なるほど、こいつぁ厄介だ」
「手を貸そう」
と、リリィが援護射撃する。
弱点はないかと観察しながら撃つリリィだが、なんせ巨大な鉄球にトゲが生えたようなものなので、それらしい箇所は見当たらない。どうにか玲汰たちのほうへ行かないように引きつけて、かわすのが精一杯だ。やはり強い。
「いまこそ、あたしの出番!」
無駄に美しい脚を無駄に見せびらかしながら、無駄にスタイリッシュなポーズをとる美奈。
それに釣られたのか、ウニが方向転換して襲いかかる。
あわや轢き逃げかと思いきや、美奈は予測回避で華麗にウニの背後へ。
「ラーハッハー!」などとベ●ネッタっぽくSAN値が下がりそうな笑い声をあげ、がらあきの背中にサンダーブレードキック!
え、そんな技はないって?
でも撃てるんです。社長ですから。
まぁそれはともかく、ウニに背中とかないんで。
勢いよく跳び蹴りかました美奈さんは、その百倍ぐらいの勢いで水平線まで吹っ飛ばされたのであった。
そのころ。復讐に燃える鏡花は、単身でエビ天と戦っていた。
過去2回やられているので、恨み骨髄。こういうのを逆恨みという。
「憎きエビ天! 今度こそエビの丸焼きになるでござる! 超A級スナイパーの真似もやめるでござる!」
そう言ったとき、鏡花はハッと気付いた。
拙者も奴の後ろに立たなければ、やられぬのでは……?
いまごろ気付くとは遅すぎるが、気付かないよりマシだ。
「後ろに立たず真正面をキープしておれば、おぬしなどザコ同然! くたばるでござる、エビ天ーー!」
怒りゲージMAXで、炎陣球をぶちこむ鏡花。
「カニィィ……ッ!」
謎の悲鳴をあげて、炎に包まれるエビ天。
海鮮の香ばしい匂いが、あたり一面に漂う。
こうして鏡花は、三回目の挑戦にして初めてエビ天を撃退し、リベンジを果たしたのであった。
一方、シャコ天を相手にしているのは、平太と湊。
平太が正面から弓で射ち、湊が側面から魔法書で攻撃する形だ。
「海産物だ! 海産物だろう! なぁ、身置いてけ!」
「アイドルの立場……学校での人間関係……男の娘扱いされる屈辱……もうウンザリだよ……」
平太は何かトランス状態入ってるし、湊は日ごろのストレスを存分にぶつけていた。
ボクサー型のシャコ天は、距離をとられると何もできない。
「まさか、なにもできないなんてことはありませんよね? ロケットパンチや触角ミサイルなどの遠距離攻撃を持っているはずです。さぁ見せてみなさい! さぁさぁ!」
距離をおき、容赦なく矢を射掛ける平太。
そのとき。シャコ天が素早く湊に詰め寄った。
しかし、この攻撃は予測済み。ダッキングで綺麗にかわすと、湊は敵の懐に潜りこんで紫電清霜を突き刺した。
マヒしたシャコ天に向かって、「打つべし。撃つべし。討つべし」と連呼しながらアイスウィップを振るう湊。呪詛? いいえ呪文です。
こうして、湊のストレス解消に利用されたシャコ天は、あっさり死んだのであった。
「海産物め……海産物め! 花見を……たのしかった花見を返せ!」
ズタボロになった敵を、平太はいつまでも死体蹴りしていたという。
どんだけ花見したかったの……。
「ち……弾が全部はじかれる」
「どうにか動きを止めたいな」
「人手がありゃ、落とし穴でも掘るんだがなぁ」
遊夜とリリィは、ウニ相手に苦戦していた。
攻撃が直線的なので回避は容易だが、こちらの攻撃もまったく通じない。
そこで、遊夜はふと思いついた。
「あのアメフラシにぶつけてやったら、おもしろいんじゃね?」
「名案だ」
ふたりは意見を一致させると、ウニを誘導してアメフラシに突っ込ませた。
湧き上がる毒霧が、ウニの動きをマヒさせ、トゲや殻を腐食させる。
「うまくいったか? とりあえず、コレで終わっとけや」
溶けた殻の隙間に銃口を押し込むと、遊夜は『愚か者の矜持』による零距離射撃を敢行した。
ドバシャアアッ!
爆発四散するウニボロ。
と同時に無数のトゲがアメフラシに突き刺さり、これも撃破。
「さすが麻生先輩!」
玲汰が賞賛した。
「アメフラシがいて助かったやな」
と、遊夜。
「少々手こずったが、これで任務終了だ。学園に連絡して、あとの処理を
リリィのセリフは、途中で飲みこまれた。
突如海面を割って出現した敵が、空中から近付いてきたのだ。
全身緑色の装甲に覆われた、タツノオトシゴ。通称グリーンコロナタス!
「こいつは強そうでござるな……」
鏡花は再び光纏し、光の翼を広げた。
「うぅ……新手もまた海産物! いや、メカ? どっちなんですか……!?」
困惑する平太。
「全部倒したあとに来るたぁ、ボスみてぇだな」
遊夜は余裕の笑みを浮かべて、拳銃をかまえる。
「あれはヤバそうだな。杜君、こっちへ」
桜花は玲汰の手を握ると、物陰へ引きずっていった。
その直後。オトシゴの全身が発光し、腹部から無数のレーザーが扇状に発射された。
爆撃でも受けたみたいにコンテナが吹っ飛び、堤防が崩れて瓦礫が飛び散る。
「こりゃ無茶苦茶やな……。よっしゃ、今回最後の授業といくか……よっく見とけよー!」
ニヤリ微笑むと、遊夜は腐爛の懲罰を撃ち込みながら敵に詰め寄った。
そのままコンテナを足場にして跳びかかり、レーザーの射出口へ銃口を押しつけて、『霧夜の絢爛舞踏』!
と同時に、レーザーの束が遊夜の全身を貫いた。
「……ハッ、これが正真正銘……保身無き零距離射撃ってヤツだぜ……」
血煙を上げながら遊夜は落下、戦闘不能に。
見れば、敵にはほとんどダメージがない。
「まるで装甲車だな。……よし、継ぎ目を狙う。フォローしてくれ」
リリィが声をかけた。
「えとえと……たぶん、目には鱗ないですよね? とにかく当たったらおしまいだから、避けて避けて……龍ってくらいだし、どっかに逆鱗ないかな……ていうか、最悪学園に増援依頼しないと……あれイベント討伐対象だよ……」
半泣き状態の明日夢は、少々混乱ぎみだ。
「海産物なのか、メカなのか……」
平太は完全にうろたえて、海産物バスターの勢いを失っている。
「みんな落ち着いて。僕が囮になるから、その隙に」
言いながら、湊は自分に風の烙印をかけた。
「僕も戦います! 麻生先輩の仇を討たないと!」
桜花の制止を振り切って、玲汰は物陰から飛び出した。
「大丈夫だレイター、私もおまえくらいの歳にはイラクで戦っていた。対兵器の戦闘なら、お手のものだ! Semper Fi!」
リリィが鼓舞する。
「うんうん。確実に行けると思ったら、遠慮しなくて大丈夫。出るとこで出ないと、見せ場なんてないもの。戦場はある意味ステージ。おたがい、男を見せる活躍ができたらいいねっ」
と、玲汰に風の烙印をかける湊。
こうして彼らはそれぞれ強化スキルを使い、足並みを合わせて一斉攻撃に出た。
囮役になった湊は、真っ先にミサイルをくらって倒れる。
だが、仕事をやりとげた彼は良い笑顔だ。
その隙に、鏡花は刀をひるがえして空中から迫り、桜花は玲汰の前に立って対戦ライフルの狙いをさだめる。平太がトロンボーンを吹いているのは一見シュールだが、まじめに考えての行動だ。
それら全てを一瞬で叩きのめす、拡散レーザーの嵐。
その中をかいくぐって、リリィが肉薄する。
「ユーヤに教えてもらった、保身無き零距離射撃……いまこそ見せる!」
シュビィィィィッ!
ズドオオオオンン!
容赦なく乱射されるレーザーとミサイルの前に、なす術もなく彼らは全滅した。
玲汰が死なずに済んだのは、桜花が盾になったおかげだ。
その後オトシゴは、明日夢の呼んだ増援によって撃退された。