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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/10/16


みんなの思い出



オープニング


 ここは、メイドカフェ『ぱふぱふ』
 久遠ヶ原島のはずれにある喫茶店だ。
 店の名前はアレだが、スタッフもメニューもそこそこのレベルを持っている。
 そう。あくまで『そこそこ』だ。
 それは、店を見ればわかる。
 日曜のランチタイムだというのに、店内はガラガラ。
 客は1人だけで、メイド服の店員たちはボケーッとしている。

「ヒマねえ」
「今日、客何人来たっけ」
「2人」
「やばくない? 今月のバイト代出るのかな」
「え。このお店、そんなにヤバいの?」
「見りゃわかるじゃん。この時間帯に、客ひとりだよ?」
「はあー。オープンしたときは、けっこう繁盛してたのにねー」

 この店がオープンしたのは、3ヶ月前。
 そのときは、かなりの人気店だったのだ。久遠ヶ原学園の女子学生を何人も雇い、ランチタイムやディナータイムともなれば行列ができるほどだったのである。
 それが、いまやこのありさま。
 原因はいくつかある。
 まず、立地条件が悪いということ。
 次に、メイドカフェとしては『普通すぎる』という点。
 店名が『ぱふぱふ』なのにぱふぱふさせてくれない、というクレームも多かった。
 だが最大の理由は、ライバル店の登場だ。
 といっても、相手はメイドカフェではない。ごく普通の食堂だ。『ぱふぱふ』がオープンした際にはあおりをくらって潰れかけた店だが、撃退士たちの手助けで息を吹き返したのだ。とくに店主の頑固オヤジが作るオフクロの味は絶品で、しょせん『そこそこ』の料理しか出せないメイドカフェは、あっというまに客をとられてしまったのである。

「このままじゃヤバいよねー」
「うちも久遠ヶ原学園に依頼すればいいんじゃない?」
「あのケチな店長が、そんなお金出すわけないって」
「じゃあ、あたしたちでお金あつめて……」
「そこまでする義理はないでしょ」
「まぁねぇ……」

 そのとき。
 しずかにミスペを飲んでいた客が、不意に声をかけた。
「話は聞かせてもらった。なんなら、この私が手を貸してやろう」
「え。本当? でも、どうやって?」
「簡単だ。私の研究室(ラボ)には、どんな料理もおいしくする魔法のスパイスがある。それをくれてやろう」
「でも、お高いんでしょう?」
「いや、タダでいい」
「「ええ……っ!?」」
「ただし、ひとつ条件がある。この実験の経過を観察させてもらうことだ」
「それぐらいは大丈夫だと思うけど……。でも、どうして協力してくれるの?」
「理由は簡単だ。この店にはミスペがある。つぶすには惜しい」

 ミスペ。すなわちミスターペーパー。
 どこかの林家みたいな名前だが、そうではない。
 コーラを突然変異させたような、特殊炭酸飲料だ。
 多くの消費者からは『薬品くさい』と不評だが、一部に熱狂的なファンを持つ、中毒性の高いドリンクである。
 当然ながら、ふつうのメイドカフェには……というより、どこのカフェにも置いてない。

「日本広しといえど、こいつを扱っているカフェはここぐらいだろう。その心意気を評価したい」
「は、はあ……」
「そうと決まったら、さっそく店長に連絡するがいい。まぁことわる理由もなかろうが。なにしろ、この天才発明家・平等院が手を貸してやろうというのだ。成功は保証されている。ふ……ふふふ……ふぅーーはははははははは!」



 翌日から、平等院特製のスパイスを使った料理が提供されるようになった。
 その効果は絶大で、訪れた客は一人残らずリピーターになるほど。
 それどころか、1日に5回訪れる客や、食べすぎてブッ倒れる客が続出するありさまだった。
 数日も経つと、朝には開店を待ちきれない客がシャッターを叩き、閉店後には料理を求めて店のまわりに群がる客が大量発生するまでの事態にエスカレート。それはまるで、ゾンビ映画さながらだった。



「あは、あはははは……なにこれ……」
「ふぅーーはははははは! だから言っただろう、成功は保証つきだと!」
 積み上げられた札束を前に、呆然とする店長。
 かたや平等院は、ミスペを飲みながら高笑いだ。
 ここは『ぱふぱふ』の事務所。
 机の上には、札束の山ができている。
 つい先日の、閑古鳥が鳴きまくっていた状態からは信じられない売り上げだ。
「それにしても凄い……。あのスパイス、どうやって作ってるの?」
「ふ……。それは秘密だ。アウルには色々な使いかたがあるとだけ言っておこう。天魔を退治するばかりが能ではないのさ」
「でも本当にいいの? 1円も受け取らないなんて……」
「くく……。カネなど無用。私がほしいのは実験データだけだ」
「それは助かるけど……このまま続けて大丈夫? あんまり派手にやると、問題になったりしない?」
「なにが問題になると言うのかね? 我々は、ただおいしい料理を提供しているだけだ」
「けど、あのスパイスはどう見ても……」

 そのとき、ドアがノックされて一人の女性が入ってきた。
 いかにも真面目そうな、黒スーツ姿の事務員風だ。
「わたくし、久遠ヶ原学園風紀委員の者ですが……。本日は、お話があって参りました」
「風紀委員が、なんの用かね?」
 応じながら、ソファにふんぞりかえる平等院。
「突然ですが、こちらのお店のメニューを見なおしていただけませんか?」
「なぜ?」
「じつは、こちらのお料理で何人かの学生が被害を受けておりまして……。具体的に言いますと、毎日こちらのカレーを食べ続けて他の料理を食べられなくなってしまった者や、装備品を売り飛ばしてまで料理を食べようとする者……中には完全に精神を病んでしまった者までいます。これ以上の被害が出る前に……
「おことわりだ。それとも何かね? そちらには、我々の営業に口を出す権利があるとでも?」
「しかし、こちらのお料理は、あきらかにやばい症状を……
「なにを言うかと思えば……。いいかね、私が提供しているのは飽くまでもアウルによる産物。合法なのだよ、合法」
 アレな売人みたいな主張をする平等院。
 だが実際、彼の言うとおりだ。特製スパイスを取り締まる権利など、だれにもない。
「しかし、こうして被害者が出ているうえ、苦情も寄せられているわけですし……」
「苦情だの被害者だの、知ったことではない」
「これは完全に人体実験ですよ? あなたにはモラルというものがないのですか?」
「モラル? はーっはははははは! くだらん! くだらんなああああ! そんな言葉で私を止められると思うのかね?」
「どうやら、あなたを止めるのは不可能なようです。……しかし、店長さんはどうですか? このまま、非人道的な実験をつづけていいんですか? このままだと、死者が出る可能性さえあるんですよ?」
「え……!?」
 あわてる店長。
 だが、平等院が有無を言わさず封殺した。
「馬鹿を言え。撃退士がこれぐらいで死ぬわけなかろう」
「しかし一般人も……」
「私のスパイスは、一般人にはただの調味料でしかないのだよ。さぁ、お引き取り願おうか!」
「く……っ」
 完全に論破された風紀委員は、なにも反論できずに引き下がるしかなかった。
 こうして、風紀委員から依頼が出されるという珍しい事態に至ったのである。




リプレイ本文



 その日も『ぱふぱふ』は大盛況だった。
 店内は満席。床で料理を貪る客もいる。
 店の外には大勢の客が列も作らず群がり、あーうー言いながらヨロヨロ歩く光景が広がっていた。

「ふわあ……! すごいことになってるのです……!」
 驚愕の声を漏らしたのは、江沢怕遊(jb6968)
「これはまさに、メイドカフェ・オブ・ザ・デッド! 恋音、今回もアクセル全壊で頑張りましょうね!」
 袋井雅人(jb1469)は、なぜか笑顔だ。
「は、はい……それにしても、予想以上ですよぉ……」
 あまりの惨状に、かるく震える月乃宮恋音(jb1221)
 なにしろ、この亡者の群れは全員撃退士なのだ。
「まったく。毎度毎度ろくな発明をしない人ですね」
 あきれたように、雫(ja1894)が肩をすくめた。
 おっぱい薬のときの屈辱は、いまだ記憶に新しい。今日も平等院をブン殴ることになるのだろうか。
「やれやれ。いくら競争社会とはいえ、モラルがねぇ……」
 佐藤としお(ja2489)は、苦笑いを浮かべた。

「ともかく、あれをどうにかしないと店に入れないな。……というわけで」
 手はずどおり、としおは平等院特製スパイスに見せかけた自家製スパイスを取り出すと、頭上高く掲げた。
「これを見ろっ! この店特製のスパイスだっ! これさえあれば、いつでもどこでも極上料理が食べらr……!?」
「「ウオオオオオ!!」」
 生気を失っていたゾンビたちが、目の色を変えて突撃してきた。
 そう、こいつらは走るタイプのゾンビ!(注:撃退士です)
「少々驚いたが、計画どおり! 魔性のスパイスに魅了されたゾンビども、僕についてこいっ!」
 縮地を発動すると、としおは走りだした。
 あらかじめ、このあたりの地理は把握している。ゾンビどもを空き店舗に誘導し、閉じこめる作戦だ。
 ──が、としおの策にハマったのは一部だけだった。
 まだまだ大量のゾンビ撃退士が、店の周囲に群がっている。

「あたいの出番よ!」
 雪室チルル(ja0220)は珍しく頭を使い、巨大な台車に箱を載せて搬入業者のふりをする作戦に出た。
 箱の中身は仲間たちだ。箱には『香辛料』とか『ミスターペーパー』などと書かれており、偽装は多分完璧!
「さぁ行くわよ!」
 光纏すると、チルルは全力で台車を押した。
 気付いたゾンビたちが、うーあー叫びながら押し寄せてくる。
「邪魔よ! どかないとスパイスが届けられないじゃない!」
「「ううあああ……」」
「頭を冷やすといいわ! ブリザードキャノン!」
「「あばあああ……!」」
 結局、力ずくで押し通るチルルちゃん。
 予定どおり!

 そこへ、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が駆けつけた。
「なんだか知りませんが、とりあえずあのゾンビみたいな人たちを吹っ飛ばせばいいですか?」
 言いながら、エイルズは無数のトランプをまきちらした。
 鋭利なカードの嵐が、容赦なくゾンビの群れを切り刻む。
「おなじ撃退士と戦うのは胸が痛みますが、これも任務。しかたありませんね」
 と言いつつ、エイルズはケラケラ笑いながら範囲攻撃を撃ちまくった。
 偽装とか潜入とか、まったく小細工を考えてない。とにかく全部ブッ倒せばいいんだという、脳筋ブルータル思想である。チルルと同じだ。
 ともあれ、ふたりの強引な行動によって、一同は店内への突入に成功。
 こまかいプレイングがあれこれ無駄になったが、しかたない。
 ここで、ひとつ言っておこう!
 なにごとも暴力で解決するのが一番だ!



「なんだ、キミらは」
 事務所のドアを開けると、平等院が待ちかまえていた。
 後ろには、店長とメイドの姿もある。
「風紀委員からの依頼で、危険な実験をやめさせに来ましたよ!」
 めずらしくマトモなことを言いながら、雅人が前に出た。
「すなおにやめると思うのかね?」
「いいえ。しかし、発明品というものは斬新なコンセプトやアイデアが命です! 実験は秘密裏に行わなくては、アイデアが盗まれてしまうのですよ。久遠ヶ原には多くの科学者や発明家がいるのですから、データ漏洩を防ぐためにも実験は被験者を募集して行うべきです」
「ふ。私の発明をまねできる者などいない。以上だ」
 一言で切り返す平等院。
「では店長さんに言いましょう。今回これだけの騒ぎを起こした以上、あなたは責任者として責任を取らないといけません。魔王さまもお怒りですよ!」
「いえ……私は、そのぉ……」
 魔王扱いされて、うろたえる恋音。
 それと同じぐらい、店長もうろたえている。が──
「全責任は私が負う。店長には何の責任もない」
 平等院は強気だった。
 雅人、説得失敗!

「でも実際、危ないんでしょォ……? その特製スパイスってェ……」
 黒百合(ja0422)が問いかけた。
「少々精神に異常をきたすが、身体的な問題はない」と、平等院。
「本当に安全なら、自分の身で証明してねェ……? もちろん一気に飲み干せるでしょォ? だって安全なんだしィ……♪」
 そう言って、黒百合はコップの水に特製スパイスを溶かした。
「よかろう。証明しよう」
 黒百合の手から、コップを受け取る平等院。
 その瞬間、黒百合はわざとコップを落とした。
 意識がそれた隙を突いて、黒百合は注射器を取り出す。
 中に充填されているのは、高濃度のスパイス液だ。その針先を、平等院の首筋めがけて突き刺し──
 バスッ!
 平等院の取り出した辞書が、針を止めた。
「キミのことは、よく知っている。油断などしない」
「あらァ……私、そんな有名人じゃないわよォ……? まァそれなら、店長さんたちに訊こうかしらァ……。あなたたち、あのゾンビみたいなのを見て、どう思うのォ……? 本当に安全だと思うわけェ……?」
「撃退士だから大丈夫って……」
 おろおろと店長が答えた。
「そこのマッド発明家が、勝手に言ってるだけでしょォ……? 万が一、死傷者が出たらどうするのォ……? 危険を承知で手を貸したんだから、あなたたち全員共犯者よォ……? 巨額の賠償金……社会的な制裁……当然、お店は閉鎖よねェ……。極貧借金生活のすえ、最後には首を吊る運命じゃないかしらァ……? 火薬庫で火遊びするようなこと、やめたほうがいいんじゃなァい……?」
「そんな脅迫は通じない。さっきも言ったが、事故が起きれば私が責任をとる。賠償金など、いくらでも払ってやろう」
 平等院は、どこまでも強気だった。
 黒百合の脅迫作戦も、あえなく失敗。

「では私が……」
 と、雫が前に出た。
 その手にあるのは、鍋料理。
 完全無味無臭の、凄絶な失敗料理だ。
「なにをしても変化が起きないこの料理を、あなたのスパイスで味つけできますか?」
「楽勝だ。このスパイスは、被験者のアウルを介して大脳皮質の味覚受容野を直接刺激する。味など問題ではない」
「どう考えても危険な気がしますが……真実か否か、証明してください」
 そう言うと、雫は窓から投げ縄を飛ばしてゾンビを一匹引きずりこんだ。
 これに味見させようというのだ。
「なるべく活きが良く、理性が残っているのが理想なのですが……。まぁ贅沢は言えませんね。この世に二つとない味なので、試してみてください。……色々な意味で」
「うーあー」
 特製スパイスのかけられた鍋料理を、一心不乱にかっこむゾンビ。
 まともにしゃべれないので感想は聞けないが、だれの目にもタダゴトでないのはわかる。
「店長さん見てください、このありさまを。違法性がなく中毒性の高い、このスパイス……怖いお兄さんたちが手を出してきそうではありませんか。安全を考えて、手を引いた方が良いのでは?」
「怖いお兄さんって、頭文字Yの……?」
 店長の問いに、こくりとうなずく雫。
 だが、ここでも平等院は強気だ。
「はぁーははは! 私はその方面にも顔が広いのだよ! この実験も、もとはといえば脱法ドラ……いや、なんでもない。とにかく店長は心配無用だ!」
 彼にモラルはない。

「たしかに、平等院先輩の言うとおり、身体的な害はないかもしれませんが……お料理を食べるための金銭目的で、犯罪に走る撃退士が出る可能性はありますねぇ……。その場合、このお店は危険ですよぉ……」
 恋音が店長に訴えた。
「心配無用。そんなときのために私がいるのだ」と、平等院。
「しかし、もしもということもありますよねぇ……? もう十分かせいだでしょうし、それを元手に安全な経営にシフトしては……」
「もしものことなどない!」
「これは、店長さんたちへのご相談なのですけれどぉ……。私の手元に、こういう薬がありますぅ……」
 おもむろに、恋音は牛乳瓶を飲み干した。
 そのとたん、恋音の姿が牛娘に変身!
 メイドたちの間から、驚きの声が湧き上がった。
「どうですかぁ……? ほかにも、幼女化したり、体の一部を大きくしたりする薬もありますぅ……。うまく活用すれば、とてもリアルな『獣耳デー』や『ロリータデー』などのイベントが開けるのでは……。リスクもありませんし、平等院先輩も継続して実験できますよぉ……?」
 それならいいかも、とメイドたちが騒ぎだす。
 しかし、平等院は引かなかった。
「獣耳デー? くだらん! 私が見たいのはゾンビデーだ!」
 恋音も説得失敗!

 もはや打つ手ナシかと思われた、そのとき。
「なにごとも暴力で解決するのが一番です!」
 エイルズが、平等院の背後から斬りかかった。
「甘い」
 平等院の言葉とともに、天井に仕掛けられていた振り子状の巨大鎌がエイルズに襲いかかる。
「甘いのはどちらですかね」
 超絶回避力で、エイルズはラクラクと──
「この『量子ダイス』に勝てるとでも? くらえ、強制ファンブル!」
 平等院がサイコロを転がした瞬間、エイルズは巨大鎌に切り裂かれて血煙を噴き上げた。
 これはヤバイ。まちがってもコメディ重体はもらいたくないしと、逃げる準備をするエイルズ。
「逃がすと思うかね? 召喚! 殺人ズワイガニェェェッ!?」
 怪しげな召喚獣を呼び出そうとした瞬間、平等院は前傾姿勢で吹っ飛んだ。
 黒百合が、ロンゴミニアトで後頭部をブン殴ったのだ。
「たしかにィ……なにごとも暴力で解決するのが一番よねェ……?」
「……!?」
 言葉を失う平等院。
 そこへ、雫が大剣で襲いかかる。
「言葉が通じないなら仕方ありません……」
「グワーッ!」
 血まみれで床を転がる平等院。
 そこにブチこまれる、チルルのブリザードキャノン!
「アバーッ!」
 ピンボールの玉みたいに転がりながら、平等院は窓を突き破って吹っ飛んでいった。
 これだけのメンツなら、説得なんて無用だったんだ!
 なにごとも暴力で(略!



 こうして邪魔者は消えた。
 あとは店長とメイドを説得し、カフェの経営を──
「ボクは悲しいのです!」
 ここまで空気だった怕遊が、突然テーブルを叩いた。
 一体なにごとかと、全員の視線が集まる。
「あなたたちは、堂々とメイドの格好をできるのに……なぜ! なぜ、スパイスなんかに頼りパーフェクトメイドになろうとしないのですか! それではメイド……ひいては女子としても失格なのです! もしやあなたたちは、ただメイドの格好をして『いらっしゃいませ、ご主人様』とか言ってればメイドになれるとでも思ってるのですか!? いいですか、メイドとは中世より伝わりし伝統の職業……家事などの能力に加え、さまざまなメイド服の違いによるファッション性をも追究した、女子力の結晶と言っても過言ではない存在……いや、むしろメイドとは女子力の結晶そのものなのです!」
 ブレーキの壊れたダンプカーみたいに、怕遊はテンション全開でメイド愛をぶちまけた。
 皆が呆然と見守る中、彼はバンッとテーブルを叩いて続ける。
「まず、危険なスパイスは即排除! そんなものに頼らなくても、メイドの魅力で客をつかむことは出来ます! くりかえしますが、メイドとは女子力の結晶! つまり女子力を高めることで、メイド力すなわち集客力も上げられるのです!」
 あまりの熱さに、だれも口をはさめない。
 怕遊は絶好調だ。
「では今から、メイド力を高めるための指南をします! メイドの基本は、まず接客! 次に料理! さぁメイドの皆さんを集めてください! 今日はもう閉店です!」
 無茶苦茶な強引さで、話を進める怕遊だった。
 これぞ彼のメイド(女装)愛!



 というわけで、メイドの教育指導とカフェの経営改善が始まった。
 ちなみにゾンビの群れは、としおのデスソース爆発ラーメンで全員重体……もとい正気に戻っている。

「経営不振で、あのスパイスに手を出したらしいけどォ……そもそもメイド喫茶って枠にくくるから、客が来ないんじゃないのォ……?」
 会議の席で、黒百合が発言した。
「じゃあどうすればいいの?」と、店長。
「たとえばァ……客がコスプレできるカフェにするとかァ……?」
「それ、いいかも」

「日本で唯一ミスペを扱ってるカフェって宣伝するのはどう?」
 チルルが提案した。
「唯一とは言い切れないかも……」
「そんなの、言ったもの勝ちよ! あと、ミスペに合う料理やお菓子も大切よね!」
「ミスペを前面に出すのは、名案ですねぇ……」
 恋音が同意した。
「でしょ? あたいったら天才ね!」
「料理の味では、食堂に勝てませんし……ミスペに合わせたスイーツなど軽いメニュー中心にして、食堂と棲み分けるようにしましょう……。そのうえで、カフェと食堂がお互いのメニューを宣伝すれば、効果的ですぅ……」

「いっそ、共同経営にしてみては……?」
 と、雫が言った。
「共同経営!?」
 店長の声が高くなる。
「ええ。客層が重なっているようですし、争うより協力したほうが良いと思うのですが……。料理は食堂スタッフ、接待はメイドという形で……」
「食堂のオヤジが納得するかしら」
「駄目もとで提案してみる価値はあります」
「そうねぇ……」

「あと、クレームが来る店名はやめたほうがいいですね。良きにしろ悪しきにしろ、看板って店のイメージを作るアイキャッチの一つですから」
 としおが、まっとうな指摘をした。
 怕遊がうなずく。
「そのとおりなのです! このお店は立地が悪いですけれど、欠点もうまく利用すれば魅力になるのです! 別荘系メイド喫茶にして、店名もそれっぽく改めましょう!」

 そんな具合に、会議は進んでいった。
 途中でとしおが好奇心からスパイスカレーを食べてえらいことになったり、雅人が男の娘を持ち帰ろうとしたり、恋音がスパイスを吸いこんだりして大事故が起きたが、さいわい死者は出なかったことを記しておく。




 数日後、メイドカフェ『ぱふぱふ』は、別荘型コスプレ喫茶『もしゃす』として生まれ変わった。
 質の高い接客、頑固オヤジ食堂との提携による相乗効果、ミスペ押しによる新規顧客の獲得……。
 それらによって、『もしゃす』の経営は軌道に乗った。
 ただ一部の研究によると、平等院の特製スパイス料理よりミスペのほうが遙かに中毒性が高いとか──




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
女の子じゃないよ!・
江沢 怕遊(jb6968)

大学部4年282組 男 アカシックレコーダー:タイプB