その日、港に10人の撃退士が集まった。
なんと、10人中8人が女子。おまけに袋井雅人(
jb1469)は女装のため、日下部司(
jb5638)のハーレム状態だ。
「なにか、すごい場違い感が……。しかし、『魔界の』財宝とはいえ明日羽さんが興味を示すのは意外だ」
と、司が言った。
「私にだって物欲はあるよ?」
「物欲じゃなく色欲では……」
「なにか言った?」
「いえ……」
次に、遠石一千風(
jb3845)が話しかける。
赤髪の、モデルみたいな少女だ。水着姿がまぶしい。
「強力な天魔がいるって聞いて来たけど、本当? 弱かったらガッカリだよ?」
「ふぅん。自信あるの?」と、明日羽。
「当然。どんな相手でも、負けるつもりはない」
死亡フラグっぽい発言だが、一千風の運命やいかに。
「えっと、今回は明日羽さんの誕生日プレゼントを捕りに行くってことで……?」
クロフィ・フェーン(
jb5188)が問いかけた。
明日羽のことは以前スイーツカフェで見かけた程度だが、普通にすごい撃退士だとは聞いている。
「うん。まぁ無理しないでね?」
ニッコリ微笑む明日羽。
確実に、なにか企んでる顔だ。
「えとぉ……お誕生日、おめでとうございますぅ……」
月乃宮恋音(
jb1221)が、明日羽に会釈した。
「あら? 入院中じゃないの?」
「あ、ケガは大体なおりましたぁ。ただ、アウルが不安定で……今日は補佐役ですぅ……」
「再入院にならないといいね?」
「うぅ……気をつけますぅ……」
「あの……探検が終わったら、なにか催しとか開くんです……?」
恋音の後ろから、愛須・ヴィルヘルミーナ(
ja0506)が訊ねた。
「うん。みんなが無事ならね?」
「が、がんばります……」
由利さんの依頼だからって安心できないかも……と、愛須は思いなおした。
「私はこれを持ってきたの! 洞窟に入るなら必要だと思うの!」
忍び装束のナデシコ・サンフラワー(
jb6033)が取り出したのは、人数分の懐中電灯だった。
対暗闇用のスキルを使える者も多いが、持っておいて損はない。
というわけで、全員が懐中電灯を装備。
「じゃあ現場に向かうよ?」
明日羽の指示で、全員がクルーザーに乗った。
これで洞窟の入口まで向かい、ボートを出すのだ。
空は快晴。波は低く、潮風が心地良い。
海と空の境界線には、真っ白な積乱雲が……
「旦那さまぁ! おらは、おらはー! 今日も頑張ってるがら、はよぉ見つけてくんロー!」
甲板から、水平線に向かって御供瞳(
jb6018)が叫んだ。
最近、エア充(エア旦那様との結婚生活で充実)っぷりの激しい瞳は、今日も今日とて旦那さまぁと再会すべく奮闘中。絶対エァ旦那さまぁだろうと周囲には囁かれているが、頑として認めない瞳である。最近では、スキルと称して『旦那さまぁ命』と書いた痛ボディペイントでエアラブラブっぷりを見せつける痛い子になりつつあるが、生来のみりき(実力)からそうは思われてない……といいな! 彼女の将来に幸あれ!
それはさておき、瞳は褌一丁だった。
理由は『あなたの好きな水着は?』参照!
色々アレだが、超情夫(ヒモ)理論ならぬ超白板(中国語禁止)理論で全然エロくない! エロくないよ!
やがて、船は洞窟に到着した。
切り立った崖の一部にぽっかりと大穴が穿たれて、鍾乳洞みたいになっている。
「さて。これは5人乗りだから、2班に分かれてね?」
明日羽が、カッターボートを海に下ろした。
「私は重体中の恋音を守りますよ!」
当然、雅人は恋音と同じ艇に。
「私も月乃宮お姉さんと……」
愛須も恋音についてゆく。
「わあい♪ 探検たのしみだな♪ たのしみだな♪ みんな今日はよろしくなの!」
ナデシコが笑顔で乗船し、なんとなくという感じで百合華も同じボートに乗った。
オールは雅人の手に渡り、こちらのボートの漕ぎ手は決定。
「こっちは俺が漕ごう」
ここぞ男の出番とばかりに、司がオールを取った。
女性陣が、不安と期待の視線を向ける。
「制限人数ギリギリで、バランスが崩れやすいから気をつけようね。……あと、明日羽さん。ボートの上では、可能なら、できるなら、ほんの少しでも、気が向いたらでいいので、自重をお願いします」
「私が変なことでもすると思うの?」
「はい」
「言い切られちゃった? 私だって海には落ちたくないよ?」
「……」
説得力ないなぁと思う司だが、それ以上は言えなかった。
ともあれ、二隻のボートは並んで出航。
洞窟に入るとたちまち視界は暗くなり、底光りする群青色の光が周囲を照らし出した。
「ここが青の洞窟……。名前どおり、幻想的なくらい綺麗。天魔さえいなければ……」
感動の声をもらす一千風。
その全身を青い光が染め上げて、妙に艶めかしい。
先へ進むと、すぐに洞窟は狭くなった。
すこしでもラクに船が通れるよう、ナデシコは愛須にハグする。
「暖かいの……じゃなくて、せまくて危ないからハグしてるの!」
謎の理由だが、だれも損してないので無問題。
愛須も特に拒否せず、抱き返しながら周囲を見まわす。
「ん……ここって、どんな天魔がいるんだろ……」
その直後。
とぷん、と音がして──
「「〜〜〜〜〜ッッ!?」」
声にならない絶叫が、撃退士たちの口から漏れた。
彼女らを迎えたのは、洞窟全体にみっしり詰まったゼラチナスキューブ。
スライムの亜種で、透明な壁のようにダンジョンの通路いっぱいに溜まってるアレだ。
攻撃手段は、もちろん消化液! しかも、なぜか服だけを溶かすエロ消化液だ!
でも大丈夫! 火に弱いから、着火すれば一気に……
ズドガアアアアン!
あとさき考えず、瞳が炸裂陣をぶっぱなした。
敵味方識別しないので、大惨事だ。
爆心地にいた瞳は、丸焦げになってリタイア。
消化液と炎に包まれた撃退士たちも、えらいことになっている。
「これはまずい……まずいな……」
なるべく女の子を見ないよう、司は心頭滅却して船を漕いだ。
彼自身も粘液まみれの半裸状態だが、どうにもできない。
そこへ襲いかかってきたのは、エビ天&シャコ天のタッグ。
「きましたね、愉快な海の仲間たちが……」
クロフィは素早く着替えると、光纏して大人の姿になった。
転覆防止で、光の翼を発動。低空ホバリングしつつ、各種対抗スキルを連発する。
「うぅ……実戦なの……」
愛須は魔法書を手に光纏。
魔女の服が全身を覆い、おっぱいが巨大化し──
バランスを崩して、愛須は前のめりに倒れた。
「はわぁ……っ!?」
巻きこまれて下敷きになる恋音。
なにやら要因が重なって、おっぱいが一段階大きくなる。
みしっ、と船体の軋む音。
「あぅ……お姉さん、ごめんなさい……」
愛須は慌てて立ち上がった。
戦闘態勢をとり、恋音の支援を受けて迎撃だ。
それと前後して、ナデシコも光纏。
「まねするの〜、ニンニン♪」と言いながら、一番近くの……愛須の光纏をまねする。
結果、肥大化した胸のせいでスッ転ぶナデシコ。
これでは戦えない!
やむなく(?)蜃気楼を使って、ナデシコは姿を隠した。
「できれば戦いたくないの! だから後ろで補助するの!」
そんな感じで、戦闘が始まった。
百合華の式神縛がシャコを封じて、強化しまくった愛須の聖火が飛ぶ。
クロフィはタウントで敵を引きつけ、一千風の発勁がエビを叩く。
その間、雅人と司は必死に船を操舵している。
明日羽だけ、なにもしてない。
「見てないで戦って」と、一千風。
「ん? 私はパーティーの主賓だよ?」
「……あ、そう」
一千風はクールに応じた。
と同時に、戦闘は終了している。
一撃必殺のシャコパンチも、エビジャンプも、当たらなければ意味がない。遠距離戦では無力だ。
しかし、ここは天魔の巣。すぐに次の刺客が現れる。
前方からボートで近付いてきたのは、女の子みたいなディアボロだ。
……え? 海産物限定じゃなかったのかって? いいんだよ。地球の全生物は、もともと海から生まれたんだ! 人間の祖先だって、もとは海産物! ならば人間も海の生物だと言い切れるはずだ!
以上、変態仮面理論でした!
「あれは間違いなくM少女! 私に任せてください!」
雅人が声を張り上げた。
「あのぉ……みんなで戦ったほうが……」
「なにを言うんですか恋音! コトは一刻を争うんです! この場は私に任せて、みなさんは先に進んでください!」
そう言うと、雅人は敵のボートに跳び移った。
そのまま、怯える少女を一気に押し倒す!
「いやあああ……っ!」
「いい声で鳴きますね、この天魔は。では早速、自慢の指技で……。お、おや……?」
よく見れば、敵は少女ではなく少年だった。
すなわち男の娘!
「わ、私としたことが! しかし、体は男でも心が乙女ならば立派な女の子! 私が最後まで面倒見ましょう!」
濃厚なキスをしながら、男の娘の胸をまさぐる雅人。
はたから見ると百合百合だが、じつはどちらも男! 蔵倫もビックリだ!
「あなたのようなMっ娘は、こうしてこうして、こうです!」
「ふあああぁぁ……!」
青黒い洞窟の中に、誘い受け天魔の喘ぎ声が延々と響いた。
そんな変態は置いといて、撃退士たちは船を進めていた。
雅人が離脱したので、やむなく百合華が漕いでいる。
敵も現れず、洞窟探検は今のところ順調だ。
「うーん。洞窟の財宝の番人か……。定番なら、三又槍を持った魚人や、財宝を求めて息絶えた冒険者のゾンビと骸骨かな」
テンション高く、司が言った。
前人未踏の洞窟に謎の財宝と来ては、年甲斐もなくワクワクするのも無理はない。男はみんなロマンチスト(馬鹿)なのだ。
(あとは……冒険物の定番なら、女性ばかり絡め捕ろうとするけど実は無害な巨大ローパーとか。ドSな明日羽さんが責められるのも、こう……くるものがあるよな……って、いけないいけない。年下の女の子が多いのに、ゲスすぎる考えだな。でも番人のボスといったら……龍とか?)
イヤな笑顔で妄想する司。
死亡フラグにもほどがある。
そんな矢先、巨大なアメフラシが登場!
うしろには、タコみたいなのもいる。
「アメフラシ、と……あれはなんだろ?」
クロフィは眼を細めながら、慎重に翼を広げた。
ほかのメンバーも、それぞれ強化スキルを使って武器を構える。
緊張が走る中、ナデシコはピンク色のギターを出して演奏しはじめた。
「歌いながら戦闘をたのしむ……これが私の戦いかたなの♪」
このとき、だれも奇襲に気付いてなかった。
前ばかり注意しすぎて、足下を見てなかったのだ。
「は……っ!?」
ぬるっとした感触で、恋音は足首を見た。
するとそこには、船底から舷側を越えてくるタコの腕が!
チクッとした瞬間、アウルを乱す毒が注入された。
「はぁぅ……っ!?」
先日の治験の影響もあって、全身がぶくぶくと膨張する恋音。
どばしゃあああん!
当然、ボートは転覆した。
恋音と愛須はおっぱいの浮力で浮いてるが、ナデシコと百合華は大変だ。
「ふぇぇ……助けてぇ……」
泣きながら百合華にしがみつくナデシコ。
このままでは、ふたりとも溺れてしまう。
「私が、どうにか……!」
愛須が小天使の翼で舞い上がり、ふたりをかかえた。
どぼーーん!
……うん、ちょっと無理だった。
しかし、冷静になって泳げば問題ない。彼女らは撃退士なのだ。
が、そのとき。キロネックス(クラゲ)型のディアボロが、無数の触手をのばしてきた。
それに触れたとたん、恋音も含めて全員スタンしてしまう。
泳げるはずもなく、沈んでいく4人の撃退士たち。
「まずい! 助けないと!」
司がボートの向きを変えようとした。
「どうやって? この船、人数ぎりぎりだよ?」
ふふっと笑う明日羽。
そこへ、毎度おなじみイカ天登場!
沈みかけた4人を触手で絡め取り、あんなことやこんなことををを!(お約束)
それだけではない。タコやクラゲも寄ってきて以下略ゥゥ!
気付けば、司たちのボートも触手に囲まれていた。全滅の危機だ。
「いいこと教えようか? ここの財宝には冥魔を従わせる力があるらしいよ?」
明日羽が言った。
都合の良すぎる話だが、このままでは全滅確実だ。
「正直、眉唾だが……行こう! スピードを上げるから気をつけてくれ!」
司は猛然とオールを振るいだした。
モーターボートみたいに船が走り、触手の包囲を突破する。
しかし、馬並みのアメフラシが待ちかまえていた。
口から吐き出された紫色の煙が、飛行中のクロフィに襲いかかる。
たちまち認識障害に陥って、墜落するクロフィ。
そこへ、毒持ちのタコ天が!
「え、ちょっ! なんで僕ばかり!?」
タウント中だったことを忘れてたクロフィは、そのまま触手の餌食にぃぃ!
「く……っ。あとで必ず助ける!」
司は漕ぐ手を止めなかった。
が、敵の攻撃は止まらない。
次に襲ってきたのは、ダツ型ディアボロ。
槍みたいな魚が何匹も、四方から高速で突進してくる。
「ふ……おもしろい」
良いところを見せようと、はりきって回避する一千風。
司もタイミングを見て封砲や翔閃で敵を仕留めるが、なんせ数が多すぎる。
「あ……っ!」
ついに一千風はダツに突き刺され、海へ転落した。
間髪入れずに群がってきたのは、無数のウミヘビ。
たちまち全身に巻きつかれて、一千風は動けなくなってしまう。
「いやぁ……! そんなに強く締め上げ、るなんて……!」
大変な(恥ずかしい)姿で、一千風は苦悶した。
ふりほどこうとすればするほど、締めつける力は強くなる。
しかも、ボートは彼女を置き去りだ。
これまでかと思った、その瞬間。
次なる敵が襲いかかってきた。
それはマグロ。魚雷みたいに向かってくる、マグロ天だ。
直撃されれば終わりだが、ここで一千風は閃いた。
うまくこいつに乗れれば──!
どっぱーーん!
海面を突き破って、一千風はマグロごと宙を飛んだ。
そのままイルカみたいにマグロを乗りこなし、波を切って突き進む。
「おおっ!」
驚く司の横に、一千風が並んだ。
これはまさに、マグロに乗った少女!
勢いに乗じた彼女らは、一気に財宝へ迫る!
じきに司たちは、最深部へ到達した。
待ち受けていたのは、司の予想どおり龍!
すなわちドラゴン!
「ほわちゃあああーー!」
細マッチョの男が、奇声とともに跳び蹴りを放ってきた。
「そのドラゴン!?」
なすすべもなく、正面から食らって吹っ飛ぶ司。
残念! 予想は当たったのに!
司を葬ったドラゴンは、そのままボートに着地して一千風に密着。ワンインチパンチを繰り出した。
「こんな海産物いるかァァ……ッ!」
どぼーーん!
「まぁ人間も海産物だしね?」
静かになった洞窟を眺めて、明日羽は告げた。
なぜ彼女が襲われないのかは謎だ。
そこへ、精気を吸い尽くされて干物になった雅人が流れてくる。
こうして、明日羽の誕生日パーティーは無事に終わった。