.


マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/26


みんなの思い出



オープニング


 ここは、とある購買部。
 その武器コーナーで、ひとりの新入生が難しい顔をしていた。
「うーーーん。どの武器を選ぶのがベストなんだろう……」
 小学5年生の彼はいま、人生の岐路にあった。
 撃退士としての第一歩。それは武器選び。
 そう。簡単にジョブを変えられる現在となっては、ある意味ジョブ選びより武器を選ぶことのほうが重要とも言える。入学したばかりでロクに久遠を持ってない新入生にとって、あれもこれも買うなどということはできないのだ。できるかぎり武器はひとつに絞って、効率的に強化しなければならない。一日も早く先輩たちに追いつくためにも。


「あなた新入生? どうやら、武器選びで迷ってるようね?」
 声をかけたのは、隙あらば出番を得ようとする目立ちたがり屋の忍者・矢吹亜矢。
「あ、はい。でも色々ありすぎて、どれにすればいいのか……」
「そんなの、刀と手裏剣を選べばオッケーよ! ジョブも忍軍で決まり! なにを迷うことがあるの!」
「そんな強引な……」
「なに言ってるの。忍者は最強のジョブだし、日本刀は世界最強の武器でしょうが! 鍛えられた忍者は、全裸でもシャーマン戦車並みの防御力を持つのよ! そこに最強武器の日本刀があわされば、まさに無敵! さぁ迷いなんか捨てて、いますぐ忍びの道を踏み出すのよ!」
「いや、あの……」
 無理やり日本刀を押しつけられて、困惑する新入生。


「いいかげんにしとけよ、亜矢。いやがってんじゃねーか、そのガキ」
 背後から呼びかけたのは、地獄のメタラー・チョッパー卍だった。
 革ジャンにサングラス、おまけに七色の髪という格好なので、新入生にはかなりのインパクトだ。
「なによ、あんた。邪魔する気?」
「べつに、そのガキが忍軍になろうと何になろうと知ったこっちゃねーが、日本刀が最強の武器だとかテキトーなこと吹き込むなよ。最強の武器はコイツに決まってんだろ」
 言うや否や、卍は光纏してギターをかまえた。
 そして、アタック一発。

 ズギャアアアアアアアアアアンン!!

 すさまじい爆音が轟き、新入生だけでなく周囲の学生たちの鼓膜をもつんざいた。
「な? 新入生クンよ、ギターが最強だってわかったろ? 刀じゃこんなことできねーぞ?」
「その攻撃、味方にも被害が……」
「こまけぇこたぁ気にすんな! よし、俺のギターを売ってやるよ。簡単には手に入らねぇ代物だぜ? どうせカネ持ってねぇだろうから、分割払いにしてやる。感謝しろよ?」
 亜矢に負けじと強引なことを言いだす卍。
 最近おとなしかった彼だが、本性はコレである。


「まぁおふたりとも、そのへんで。少年が怯えているではありませんか」
 やってきたのは、完璧超人・九鬼麗司。
 文武両道、品行方正、多芸多才、博覧強記、並み外れた美貌と財産をも合わせ持つ、360度スキなしの男だ。
「なんだ、クッキー。おまえの出る幕じゃねぇよ」
「まぁ、そう言わずに。さきほどのギター音は卍君のものだと気付いて、ごあいさつにやってきたわけです。見たところ、新入生の少年に魔具のアドバイスをしているようですね。これも何かの縁です。私からも一言よろしいでしょうか」
「は、はい。おねがいします」
 どうやらマトモな先輩が助け船を出してくれたようだと思って、ふたつ返事でうなずく新入生。
 だが、彼はすぐに後悔することになる。

「最初の魔具選び……それは誰もが経験し、悩み抜く場面です。けれど安心してください、撃退士であれば必ず一度は経験することなのですから。……もちろん、矢吹君や卍君のように、迷いなく魔具を選ぶことのできた人もいるでしょう。しかし、多くの撃退士は久遠ヶ原に入学したとき大いに迷ったはずです。すくない久遠で、どの魔具をいかに効率良く強化するかということを。あるいは、いずれの魔具が最もスタイリッシュかというロマンを追い求めた者も少なくないでしょう。実際、効率ばかりを追い求めて目先の数値にこだわりすぎるのは
「話が長ぇんだよ! 一行でまとめろ!」
 卍が突っ込んだ。
 麗司に唯一欠点があるとすれば、しゃべりすぎることである。おかげで、OP以外の出番は少ない。

「これは失礼しました。話を本題に移しましょう。魔具を選ぶ際、もっとも重視すべきことは『強さ』にほかなりません。私たち撃退士が天魔との戦いを宿命づけられている以上、魔具魔装の強さは命の安全に直結しています。強化が足りずに戦場で命を落とした者も、けっして少なくはないでしょう。現代ではあまり見かけなくなった、戦場にロマンを持ちこむタイプの撃退士でさえ、装備品は出来るかぎり鍛えておきたいと考えるのが普通です。ロマンを追及するあまり天魔に殺されてしまっては元も子もありませんし、だいいち
「一行でまとめろって言っただろ!」
 麗司が登場すると、卍の仕事は彼のトークを止めることだけになってしまう。

「おっと、失礼しました。……では、単刀直入にいきましょう。ニュートン力学によると、物体の運動エネルギーすなわち物理的な攻撃力は『K=1/2mv^2』で求めることが出来るわけでして、つまり同じ速度で攻撃するのであれば質量の大きな武器ほど破壊力が増すことになります。先人は言いました。『レベルを上げて物理で殴れ』と。これでもう、答えはおわかりですね? そう、この店でいちばん大きいハンマーを買って、それを強化してブン殴ればいいのです」
「いや、でも、あの……」
「ええ。みなまで言わなくとも、わかります。ハンマーは見た目がよろしくないと言いたいのですよね? たしかにハンマーのような鈍器には、日本刀のような刃物に代表される洗練された空気はありません。これもまた、物理学にもとづいて強さばかりを追求したがゆえの悲劇です。私も一時期、おおいに悩みました。……が、しかし! ここに漢のロマンを持ちこむことで、私は最強の魔具を手に入れたのです! ごらんください、これが私の導き出した答え!」

 ズバゴオオオオン!

 異様な効果音とともに麗司が取り出したのは、巨大なドリルだった!
 それはもう、どこからどう見ても完全無欠なドリル!
 スイッチひとつでギュオオオオオオンンと猛回転をはじめるや、コンクリート壁を軽々と粉砕!
 これぞ、男の浪漫あふれる破壊兵器だ! 実用性は知らん!

「いいですか、ただの鈍器に過ぎないハンマーでは、『質量×速度2乗』の壁を破ることはできません。しかし! ドリルならば! アルキメデスの螺旋効果によって、『質量×速度2乗×回転数3乗』の破壊力が得られるのです! これこそまさに、魔具の限界を超えるブレイクスルー! さぁ、いまここに究極の真実が明示されました! もう何も迷うことはありません! 私とともにドリル道を歩もうではありませんか!」
「いや、ドリルとか購買で売ってませんし……」
「ご心配は無用です! 私のおさがりのドリルをさしあげましょう!」
「おさがりのドリルって……人生で初めて聞きました、そんな言葉……」
 この先輩が一番アタマおかしいんじゃなかろうかということに、ようやく気付く新入生であった。


 そこへ、騒ぎを聞きつけた学生たちがやってくる。
 こうして、かわいそうな新入生をダシにしつつの武器論争が始まるのであった。




リプレイ本文




「やれやれ。ひどい連中に目をつけられたものだな。せめて俺が、先輩として導いてやろう」
 困り果てる新入生を見かねて、月詠神削(ja5265)が声をかけた。
 今度こそ助け船が来たかと思い、すがるような目を向ける新入生。
「武器選びについては真面目な話、ひとつにこだわるなって言いたいかな。たとえば俺の場合……」
 と言いながら、神削はウォフ・マナフを具現化した。
「魔法攻撃が有効な敵や、移動力が必要な場面ではこれを使うし……」
 次に白龍三節棍を出して、
「敵より早く行動しなければならない戦いでは、これを使う」
 最後にシャイニングバンドを装備すると、
「屋内や障害物が多い戦場ではこれだな」
 と、レクチャーした。
 そしてまとめる。
「そういう風に、状況に応じて武器を持ち替える。これは多くの撃退士がやってることだし、ジョブの差はない。大事なのは、今の状況にどの武器が有効か見極められる目を持つことと、どんな武器でも一通り使いこなせることだ。そのためにも色々な武器を使ってみるべきだと俺は考えるな」
「おお……」
 まともな話を初めて聞いて、新入生は感嘆の声を漏らした。
 が、神削の本性はここからだ。
 そっと声をひそめて、彼は耳打ちする。
「よく聞け。たしかに最初は手持ちの久遠が少なくて、色々な武器は買えないだろうが……発想を変えるんだ」
 ちらりと麗司に視線を向けて、神削は続けた。
「いいか? あいつは金持ちだ。つまり、あのドリルは金銭的価値が高いはず。珍しい武器だし、強化もされてるようだしな。それをタダでくれるって言うんだ。ひとまずもらっとけ。それを売って、その金で何種類かの武器を買え。それが一番、頭のいい方法だぜ?」
 ビッとサムズアップして、さわやかな笑顔を見せる神削。
 さすがのアドバイスだ。



「話は大体聞いたよ。新入生相手に、いつものノリで騒がないように」
 ていねいな口調で話しかけたのは、龍崎海(ja0565)
「だれも騒いでなんかいないでしょ!」
 亜矢が怒鳴った。
「すこし声を下げようね。……たしかに、さっき言ってた矢吹さんの主張も一理ある。財布に余裕のある撃退士は、だいたい遠近両方の武器をそろえてるし。武器が一つだけなら、チョッパーさんの遠距離武器もありだな。近距離武器の場合、飛行なんかのスキルがないと戦場によっては接近できなくて攻撃できないってなるし。……九鬼さんの破壊力重視も、たしかに間違っちゃいないなぁ。いくら攻撃しても、敵にダメージを与えられないと意味ないし。……とはいえそれは、攻撃を当てることに慣れた熟練者じゃないとね」
 これまた、じつに正しい発言だ。
 新入生は完全に耳を奪われている。
「きみ、どうやら武器選びに迷っているようだけれど……新入生が購入できるあたりだと、武器の性能差はほとんどないよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。それに『覚醒』して身体能力が上がると、その前に剣術なんかを習っていても他の武器でほとんど変わらない動きができるようになるし……武器選びはフィーリングでいいと思う」
「へえー」
「……とはいえ、戦闘スタイルが決まってないのなら、初めのうちは距離を取って戦える武器がいいかもね。戦闘依頼では、敵を殺すことが求められるし。初の実戦で、そういうのがきついって人もいるから」
「わかりました。参考にします!」
「……あと、そっちの三人にはひとつ言っておきたいな。どの武器が最強かと言うのなら、答えは槍だろ? だって、単純な性能なら聖槍にかなうものはないし」
「なるほど。それは一理ありますね」
 麗司がうなずいた。
 その後すこしの間、『聖槍最強』『聖槍なんて普段は使えない』などの論争が交わされることに。



 そこへ、コツコツと靴音を立てて近付いてきたのは、軍服姿の男。
 ルーカス・クラネルト(jb6689)だ。
「すこし話を聞いていたが……新入生が使う武器ということなら、俺も遠距離攻撃できるものを勧めたい」
「理由を聞いてもいいですか?」と、新入生。
「ああ。まずは銃の利点を教えよう。まず第一に、敵と距離をおいて攻撃できるという点。うまくいけば、一方的に攻撃することもできる。第二に、剣術などと比べて初心者でも一定の戦果を出せるという点だ。要求される筋力も少なめだし、鍛える労力や時間を抑えることもできる。そして第三に、多種多様な状況に対応できるという点だな。白兵戦用の武器では、状況によってはまったく攻撃が届かないこともある。銃なら、そういうケースは少ない」
「なるほど」
 いかにも軍人らしい口調に、新入生は説得力を感じていた。
「しかし欠点もある。まず、接近戦においてはやはり剣などの方が威力に勝るということ。それから、適切な位置取りをしなければ戦果も上げにくい。大きな戦果を得たければ、剣術同様に……もしくはそれ以上に研鑽を積まないといけない。結局、ラクな道などないということだ」
「それは、そうですね」
 うなずく新入生。
 それを見て、ルーカスは拳銃を抜いた。
「よければ、これをやろう」
「え。いいんですか?」
「ああ。持っていて損はあるまい。そう高価なものでもないし、気にするな」
「ありがとうございます! 大切に使います!」
 新入生は何度も頭を下げた。
「もし銃が気に入ったなら……ぜひインフィルトレイターを専攻してほしいな。もっとも、コストの高い銃は装備しずらいという厳しい欠点があるから、強くは勧めないが……。まぁそういう道もあると覚えておいてくれ」
「はい!」
 どうやら、ルーカスの言葉は新入生の心に響いたようだ。




ここまで真面目班
ここから不真面目班




「武器? なんだそれ。おいしいのか?」
 全身これ兵器のメカ撃退士、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が現れた。
 彼女は武器で戦う撃退士ではない。全身を武器化するスキルで戦う撃退士なのだ。つまり……
「武器なんて数値さ。それ以外は誤差!」
 つまり、形とか使いやすさとか浪漫はゴミ以下ですかそうですか。
「大事なのは、一に命中、二に火力。三四がなくて、五に回避さ。とにもかくにも、当たらなくちゃ話にならねーんだ。物理でも魔法でもいいが、両方ついてりゃベストだ。……で、当たっても相手の防御を突破できなけりゃ意味ねーから、火力もいる。自慢の防御を打ち砕いて相手を不幸のどん底に突き落とすためにも、欠かせねー要素だな。あと、回避は魔具というより魔装のほうだな。……え、防御? 死ねばいいのに」
 一方的にまくしたてると、ラファルは溜め息をついた。
 一体なにがあったんだ?
「それで、結局なにを選べば……」
「よし、見てもつまんねーが、俺の武器を見せてやる」
 ラファルが取り出したのは、四角い弾倉だった。
『ファンファーレLV11』とか『八岐大蛇LV10』とか書かれてる。
「これをどう使うのかって? ……こうやるのさ!」
 待ってましたとばかりに偽装解除するラファル。
 フィンガーキャノンを展開して弾倉をセットすれば、準備完了だ。
「ちょうどいいからターゲットはおまえだ。ネタのために死ね!」
 そう言うと、ラファルは問答無用で十字砲火をぶっぱなした。
 ズドオオオン!
「アバーッ!」
 窓を突き破って吹っ飛ぶ亜矢。
「俺は全裸ニンジャスレイヤー! おまえは絶対俺に勝てない! ……いいか、少年。ナイトウォーカーは忍軍の上位職! なるならこっちだ!」
 さりげなく(?)宣伝するラファル。
 新入生はポカーンとするばかりだ。



「あらァ……武器談義かしらァ? おもしろそうだし私も混ざってイイ?」
 亜矢が消えて静かになったところへ、黒百合(ja0422)登場。
 しかも、飲み物の差し入れ付きである。
 ……え? マジ? だれこれ。アカウント乗っ取られてない?
「そうねェ……私は『火炎放射器』なんておすすめしてみようかしらァ。あれはいいわよォ? 室内とかの狭閉鎖空間では制圧力高いしィ……トーチカとかの固定目標も簡単に制圧できるわァ……。おまけに、見てて綺麗だしねェ……♪」
「は、はぁ」
「それにさァ……燃料を浴びせられて火達磨になって転げまわる姿って、見てて愉快じゃないのォ……♪ とくに、人間みたいな知能を持ってる天魔だったら、かわいいい悲鳴を上げてドブネズミみたいに地面を転げまわりながら必死に火を消そうとするのよォ……♪ それでねェ、真っ黒に焼け焦げた死体を蹴るとさァ……焼けた部分だけ剥がれてピンク色の肉が見えるのォ……とても綺麗よォ。これが本当のレアって焼きかたなんだァ、ってさァ……♪ 真っ黒に炭化した死体も、抽象作品みたいで楽しめるしィ……♪」
 うん、いつもの黒百合だった。
 もう話の途中から、新入生ドン引きである。
「あ、ちょうど使わない火炎放射器持ってたから上げるわァ……。アウルなんて使わない本物のほうだったら、もっと楽しめるのにねェ……残念だわァ。……まァ、火炎瓶でもファイヤーダンスを拝見できるけど……日本だと法律上面倒なのよねェ……」
 物騒なことをぶつぶつ呟く黒百合。
 このあと新入生は強引に火炎放射器を渡されて、途方に暮れるのだった。



「私は今、非常に憤っている!」
 黙ってなりゆきを見守っていた川内日菜子(jb7813)が、突然声を上げた。
 なにごとかと、注目が集まる。
「ただひたすら強さや効率、あるいは浪漫を求めるのも結構。それはあんたたちの得物だからな。……だが、魔具は玩具ではない。いわば己の身を預ける命綱だ。個人の価値観でどうこうしていい代物ではないことくらい、あんたたちもわかっているだろう? どの武器がいいか悪いか、決めるのは私たちではない! 新入生自身だ!」
「すみません。つい先輩たちに頼ってしまって……」
「いいんだ。あんたに責はない。ちょうど私も、ディバインナイトの戦術を学ぼうと思っていてな。ここに一通りの演習用武器が揃っている。いい機会だから、練習につきあってほしい。私はひたすら盾で受け防御をするから、剣でも槍でも好きな物で攻撃してくれ」
「え……ここでですか?」
「常在戦場! 購買を天魔が襲う可能性もあるんだ! さぁ武器を取って打ち込んでこい!」
「なんか、このリングが効果不明です」
「ん? そうか……テイマーのスキルを取らなくては意味がないのか。……はぁ、気は乗らないが仕方ない。私が召還獣役をしよう!」
「あの……え……?」
 困惑する新入生。
 この無茶振りは初心者には厳しい。ていうかMSにも厳しい!
「おいおい、ヒナちゃん。少年が困ってるじゃねーか」
「なにを言うんだ、ラル! いまの私は召喚獣だぞ!」
「撃退酒でも飲んでんのか? また焼肉のときみてぇなコトになっても知らねーぞ」
「そっ、その話はやめろ! 古傷が疼く……! たのむから忘れたままにさせてくれ!」
「へぇー? あのときのビデオ映像もあるんだぜー?」
「うっ、うわあああああっ! なかった! そんなものはなかった! 私は何もしてない! してないんだああああっ!」
 錯乱する日菜子。
 一度やらかすと後々までずーっと言われ続けるという典型である。



 あの人どうしたんだろ……という目を向ける新入生。
 そこに、下妻笹緒(ja0544)がやってきた。
「パ、パンダ!?」
「うむ、いかにも私はパンダだ。……少年に問いたい。たとえば、ジャイアントパンダしかいない動物園があったとする。どうかね。地球最高のラブリーアニマル、ジャイアントパンダ。たしかにそれが10頭も20頭もいたとすれば、それはそれで繁盛するだろう。しかし長期的な目で見れば、一部のパンダ愛好家しか楽しめないものになる。老若男女すべての人が楽しむためには、象も、ライオンも、猿も必要なのだ」
「あ、はい……」
「つまりは、そういうことなのだ。たとえば剣が最強だという結論が出たとしても、近接攻撃が有効ではない相手、軟体ゆえに斬撃が効かない相手などなど、剣が真価を発揮しない場面はいくらでもある。学園に入ったばかりのころは、だれもが自分ひとりで戦うものと思いこみがちだが、そうではない。自分の足りない部分は、だれかがフォローしてくれる。と同時に、だれかが持っていないものを自分がカバーする。それが撃退士というものだ。ゆえにベストな武器選択とは『他人が使っていないもの』となる。オンリーワンな魔具をチョイスし、いままでになかった連携を決めることが重要なのだ」
「は、はぁ……」
「そこで私がオススメするのは、このクーゲルシュライバー! 支給品でもらえるボールペンだが、戦闘中に情報をメモできるという至高の一品。この学園にも、ボールペン使いはそう多くはいないだろう。戯曲リシュリューでも語られているとおり、ペンは剣よりも強し! 武器の性能にたよらず、修練を続けることで見えてくるものがあるはずだ。入学祝いに一本進呈しよう」
 一気に持論をぶちかますと、笹緒はクーゲルシュライバーを渡してクールに立ち去るのだった。



 ここまでの流れを見て、ついに桜花(jb0392)がブチ切れた。
「みんな、好き勝手言ってくれちゃって……ひとつ勘違いしてない? その武器を使うのは、新入生のこの子なんだよ!?」
 怒鳴りながら、少年を抱き寄せる桜花。
 ああ始まったか……みたいな視線を日菜子が向ける。
「とくに、そこのドリルマニア! 経験も実力もない少年に、そんな馬鹿でかくてクソ重いもの持たせるつもり!? そりゃ武器は強いほうが良いよ? でもいきなりドリルなんか持たせて、動けなくなったりしたらどうするのさ? 武器を使うどころか武器に振りまわされるのがオチだよ? だったら、いくら弱くてもナイフやピストルのほうがマシ! 刀や楽器の強さは私も認めるけど……刀は使いこなすのにコツがいるし、楽器は使いどころを見極めないと味方も被害を受けるから、結局『おめぇ邪魔すんな』ってなるのがオチ!」
 熱弁をふるいながら、新入生の顔を胸に押しつける桜花。
 これは、10歳の少年にとって刺激が強すぎる。
「でも大丈夫。安心して。撃退士になったばかりの君が、ひとりで強敵と戦うようなことはないから。もしそうなっても、経験豊富な撃退士が君を援護するよ。久遠だって、依頼を受けてれば自然に溜まっていくから。君はただ自分を鍛えていけばいいんだよ」
 まじめなことを語りながら、少年の頭を胸にぐりぐりする桜花。
「だから私は、これをあげる。プロテクトシールドとオートマチックS-01。……え、しょぼい? いいんだよ。扱いやすい武器だから。盾だって、君が強くなるまでの間しっかり守ってくれる。私の思いが、きっと君を守るよ!」
 その直後、少年は脳天から蒸気を噴いて倒れた。
 そして、うわごとのように唇を動かす。
「はわ……わかりましたぁぁ……ぼくガンマンになりますぅぅ……」



 こうして久遠ヶ原に、新たなインフィルトレイターが生まれた。
 結論! 最強の武器はおっぱい!




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 肉欲の虜・桜花(jb0392)
重体: −
面白かった!:7人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
暁光の富士・
ルーカス・クラネルト(jb6689)

大学部6年200組 男 インフィルトレイター
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅