「やれやれ。ひどい連中に目をつけられたものだな。せめて俺が、先輩として導いてやろう」
困り果てる新入生を見かねて、月詠神削(
ja5265)が声をかけた。
今度こそ助け船が来たかと思い、すがるような目を向ける新入生。
「武器選びについては真面目な話、ひとつにこだわるなって言いたいかな。たとえば俺の場合……」
と言いながら、神削はウォフ・マナフを具現化した。
「魔法攻撃が有効な敵や、移動力が必要な場面ではこれを使うし……」
次に白龍三節棍を出して、
「敵より早く行動しなければならない戦いでは、これを使う」
最後にシャイニングバンドを装備すると、
「屋内や障害物が多い戦場ではこれだな」
と、レクチャーした。
そしてまとめる。
「そういう風に、状況に応じて武器を持ち替える。これは多くの撃退士がやってることだし、ジョブの差はない。大事なのは、今の状況にどの武器が有効か見極められる目を持つことと、どんな武器でも一通り使いこなせることだ。そのためにも色々な武器を使ってみるべきだと俺は考えるな」
「おお……」
まともな話を初めて聞いて、新入生は感嘆の声を漏らした。
が、神削の本性はここからだ。
そっと声をひそめて、彼は耳打ちする。
「よく聞け。たしかに最初は手持ちの久遠が少なくて、色々な武器は買えないだろうが……発想を変えるんだ」
ちらりと麗司に視線を向けて、神削は続けた。
「いいか? あいつは金持ちだ。つまり、あのドリルは金銭的価値が高いはず。珍しい武器だし、強化もされてるようだしな。それをタダでくれるって言うんだ。ひとまずもらっとけ。それを売って、その金で何種類かの武器を買え。それが一番、頭のいい方法だぜ?」
ビッとサムズアップして、さわやかな笑顔を見せる神削。
さすがのアドバイスだ。
「話は大体聞いたよ。新入生相手に、いつものノリで騒がないように」
ていねいな口調で話しかけたのは、龍崎海(
ja0565)
「だれも騒いでなんかいないでしょ!」
亜矢が怒鳴った。
「すこし声を下げようね。……たしかに、さっき言ってた矢吹さんの主張も一理ある。財布に余裕のある撃退士は、だいたい遠近両方の武器をそろえてるし。武器が一つだけなら、チョッパーさんの遠距離武器もありだな。近距離武器の場合、飛行なんかのスキルがないと戦場によっては接近できなくて攻撃できないってなるし。……九鬼さんの破壊力重視も、たしかに間違っちゃいないなぁ。いくら攻撃しても、敵にダメージを与えられないと意味ないし。……とはいえそれは、攻撃を当てることに慣れた熟練者じゃないとね」
これまた、じつに正しい発言だ。
新入生は完全に耳を奪われている。
「きみ、どうやら武器選びに迷っているようだけれど……新入生が購入できるあたりだと、武器の性能差はほとんどないよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。それに『覚醒』して身体能力が上がると、その前に剣術なんかを習っていても他の武器でほとんど変わらない動きができるようになるし……武器選びはフィーリングでいいと思う」
「へえー」
「……とはいえ、戦闘スタイルが決まってないのなら、初めのうちは距離を取って戦える武器がいいかもね。戦闘依頼では、敵を殺すことが求められるし。初の実戦で、そういうのがきついって人もいるから」
「わかりました。参考にします!」
「……あと、そっちの三人にはひとつ言っておきたいな。どの武器が最強かと言うのなら、答えは槍だろ? だって、単純な性能なら聖槍にかなうものはないし」
「なるほど。それは一理ありますね」
麗司がうなずいた。
その後すこしの間、『聖槍最強』『聖槍なんて普段は使えない』などの論争が交わされることに。
そこへ、コツコツと靴音を立てて近付いてきたのは、軍服姿の男。
ルーカス・クラネルト(
jb6689)だ。
「すこし話を聞いていたが……新入生が使う武器ということなら、俺も遠距離攻撃できるものを勧めたい」
「理由を聞いてもいいですか?」と、新入生。
「ああ。まずは銃の利点を教えよう。まず第一に、敵と距離をおいて攻撃できるという点。うまくいけば、一方的に攻撃することもできる。第二に、剣術などと比べて初心者でも一定の戦果を出せるという点だ。要求される筋力も少なめだし、鍛える労力や時間を抑えることもできる。そして第三に、多種多様な状況に対応できるという点だな。白兵戦用の武器では、状況によってはまったく攻撃が届かないこともある。銃なら、そういうケースは少ない」
「なるほど」
いかにも軍人らしい口調に、新入生は説得力を感じていた。
「しかし欠点もある。まず、接近戦においてはやはり剣などの方が威力に勝るということ。それから、適切な位置取りをしなければ戦果も上げにくい。大きな戦果を得たければ、剣術同様に……もしくはそれ以上に研鑽を積まないといけない。結局、ラクな道などないということだ」
「それは、そうですね」
うなずく新入生。
それを見て、ルーカスは拳銃を抜いた。
「よければ、これをやろう」
「え。いいんですか?」
「ああ。持っていて損はあるまい。そう高価なものでもないし、気にするな」
「ありがとうございます! 大切に使います!」
新入生は何度も頭を下げた。
「もし銃が気に入ったなら……ぜひインフィルトレイターを専攻してほしいな。もっとも、コストの高い銃は装備しずらいという厳しい欠点があるから、強くは勧めないが……。まぁそういう道もあると覚えておいてくれ」
「はい!」
どうやら、ルーカスの言葉は新入生の心に響いたようだ。
↑
ここまで真面目班
ここから不真面目班
↓
「武器? なんだそれ。おいしいのか?」
全身これ兵器のメカ撃退士、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)が現れた。
彼女は武器で戦う撃退士ではない。全身を武器化するスキルで戦う撃退士なのだ。つまり……
「武器なんて数値さ。それ以外は誤差!」
つまり、形とか使いやすさとか浪漫はゴミ以下ですかそうですか。
「大事なのは、一に命中、二に火力。三四がなくて、五に回避さ。とにもかくにも、当たらなくちゃ話にならねーんだ。物理でも魔法でもいいが、両方ついてりゃベストだ。……で、当たっても相手の防御を突破できなけりゃ意味ねーから、火力もいる。自慢の防御を打ち砕いて相手を不幸のどん底に突き落とすためにも、欠かせねー要素だな。あと、回避は魔具というより魔装のほうだな。……え、防御? 死ねばいいのに」
一方的にまくしたてると、ラファルは溜め息をついた。
一体なにがあったんだ?
「それで、結局なにを選べば……」
「よし、見てもつまんねーが、俺の武器を見せてやる」
ラファルが取り出したのは、四角い弾倉だった。
『ファンファーレLV11』とか『八岐大蛇LV10』とか書かれてる。
「これをどう使うのかって? ……こうやるのさ!」
待ってましたとばかりに偽装解除するラファル。
フィンガーキャノンを展開して弾倉をセットすれば、準備完了だ。
「ちょうどいいからターゲットはおまえだ。ネタのために死ね!」
そう言うと、ラファルは問答無用で十字砲火をぶっぱなした。
ズドオオオン!
「アバーッ!」
窓を突き破って吹っ飛ぶ亜矢。
「俺は全裸ニンジャスレイヤー! おまえは絶対俺に勝てない! ……いいか、少年。ナイトウォーカーは忍軍の上位職! なるならこっちだ!」
さりげなく(?)宣伝するラファル。
新入生はポカーンとするばかりだ。
「あらァ……武器談義かしらァ? おもしろそうだし私も混ざってイイ?」
亜矢が消えて静かになったところへ、黒百合(
ja0422)登場。
しかも、飲み物の差し入れ付きである。
……え? マジ? だれこれ。アカウント乗っ取られてない?
「そうねェ……私は『火炎放射器』なんておすすめしてみようかしらァ。あれはいいわよォ? 室内とかの狭閉鎖空間では制圧力高いしィ……トーチカとかの固定目標も簡単に制圧できるわァ……。おまけに、見てて綺麗だしねェ……♪」
「は、はぁ」
「それにさァ……燃料を浴びせられて火達磨になって転げまわる姿って、見てて愉快じゃないのォ……♪ とくに、人間みたいな知能を持ってる天魔だったら、かわいいい悲鳴を上げてドブネズミみたいに地面を転げまわりながら必死に火を消そうとするのよォ……♪ それでねェ、真っ黒に焼け焦げた死体を蹴るとさァ……焼けた部分だけ剥がれてピンク色の肉が見えるのォ……とても綺麗よォ。これが本当のレアって焼きかたなんだァ、ってさァ……♪ 真っ黒に炭化した死体も、抽象作品みたいで楽しめるしィ……♪」
うん、いつもの黒百合だった。
もう話の途中から、新入生ドン引きである。
「あ、ちょうど使わない火炎放射器持ってたから上げるわァ……。アウルなんて使わない本物のほうだったら、もっと楽しめるのにねェ……残念だわァ。……まァ、火炎瓶でもファイヤーダンスを拝見できるけど……日本だと法律上面倒なのよねェ……」
物騒なことをぶつぶつ呟く黒百合。
このあと新入生は強引に火炎放射器を渡されて、途方に暮れるのだった。
「私は今、非常に憤っている!」
黙ってなりゆきを見守っていた川内日菜子(
jb7813)が、突然声を上げた。
なにごとかと、注目が集まる。
「ただひたすら強さや効率、あるいは浪漫を求めるのも結構。それはあんたたちの得物だからな。……だが、魔具は玩具ではない。いわば己の身を預ける命綱だ。個人の価値観でどうこうしていい代物ではないことくらい、あんたたちもわかっているだろう? どの武器がいいか悪いか、決めるのは私たちではない! 新入生自身だ!」
「すみません。つい先輩たちに頼ってしまって……」
「いいんだ。あんたに責はない。ちょうど私も、ディバインナイトの戦術を学ぼうと思っていてな。ここに一通りの演習用武器が揃っている。いい機会だから、練習につきあってほしい。私はひたすら盾で受け防御をするから、剣でも槍でも好きな物で攻撃してくれ」
「え……ここでですか?」
「常在戦場! 購買を天魔が襲う可能性もあるんだ! さぁ武器を取って打ち込んでこい!」
「なんか、このリングが効果不明です」
「ん? そうか……テイマーのスキルを取らなくては意味がないのか。……はぁ、気は乗らないが仕方ない。私が召還獣役をしよう!」
「あの……え……?」
困惑する新入生。
この無茶振りは初心者には厳しい。ていうかMSにも厳しい!
「おいおい、ヒナちゃん。少年が困ってるじゃねーか」
「なにを言うんだ、ラル! いまの私は召喚獣だぞ!」
「撃退酒でも飲んでんのか? また焼肉のときみてぇなコトになっても知らねーぞ」
「そっ、その話はやめろ! 古傷が疼く……! たのむから忘れたままにさせてくれ!」
「へぇー? あのときのビデオ映像もあるんだぜー?」
「うっ、うわあああああっ! なかった! そんなものはなかった! 私は何もしてない! してないんだああああっ!」
錯乱する日菜子。
一度やらかすと後々までずーっと言われ続けるという典型である。
あの人どうしたんだろ……という目を向ける新入生。
そこに、下妻笹緒(
ja0544)がやってきた。
「パ、パンダ!?」
「うむ、いかにも私はパンダだ。……少年に問いたい。たとえば、ジャイアントパンダしかいない動物園があったとする。どうかね。地球最高のラブリーアニマル、ジャイアントパンダ。たしかにそれが10頭も20頭もいたとすれば、それはそれで繁盛するだろう。しかし長期的な目で見れば、一部のパンダ愛好家しか楽しめないものになる。老若男女すべての人が楽しむためには、象も、ライオンも、猿も必要なのだ」
「あ、はい……」
「つまりは、そういうことなのだ。たとえば剣が最強だという結論が出たとしても、近接攻撃が有効ではない相手、軟体ゆえに斬撃が効かない相手などなど、剣が真価を発揮しない場面はいくらでもある。学園に入ったばかりのころは、だれもが自分ひとりで戦うものと思いこみがちだが、そうではない。自分の足りない部分は、だれかがフォローしてくれる。と同時に、だれかが持っていないものを自分がカバーする。それが撃退士というものだ。ゆえにベストな武器選択とは『他人が使っていないもの』となる。オンリーワンな魔具をチョイスし、いままでになかった連携を決めることが重要なのだ」
「は、はぁ……」
「そこで私がオススメするのは、このクーゲルシュライバー! 支給品でもらえるボールペンだが、戦闘中に情報をメモできるという至高の一品。この学園にも、ボールペン使いはそう多くはいないだろう。戯曲リシュリューでも語られているとおり、ペンは剣よりも強し! 武器の性能にたよらず、修練を続けることで見えてくるものがあるはずだ。入学祝いに一本進呈しよう」
一気に持論をぶちかますと、笹緒はクーゲルシュライバーを渡してクールに立ち去るのだった。
ここまでの流れを見て、ついに桜花(
jb0392)がブチ切れた。
「みんな、好き勝手言ってくれちゃって……ひとつ勘違いしてない? その武器を使うのは、新入生のこの子なんだよ!?」
怒鳴りながら、少年を抱き寄せる桜花。
ああ始まったか……みたいな視線を日菜子が向ける。
「とくに、そこのドリルマニア! 経験も実力もない少年に、そんな馬鹿でかくてクソ重いもの持たせるつもり!? そりゃ武器は強いほうが良いよ? でもいきなりドリルなんか持たせて、動けなくなったりしたらどうするのさ? 武器を使うどころか武器に振りまわされるのがオチだよ? だったら、いくら弱くてもナイフやピストルのほうがマシ! 刀や楽器の強さは私も認めるけど……刀は使いこなすのにコツがいるし、楽器は使いどころを見極めないと味方も被害を受けるから、結局『おめぇ邪魔すんな』ってなるのがオチ!」
熱弁をふるいながら、新入生の顔を胸に押しつける桜花。
これは、10歳の少年にとって刺激が強すぎる。
「でも大丈夫。安心して。撃退士になったばかりの君が、ひとりで強敵と戦うようなことはないから。もしそうなっても、経験豊富な撃退士が君を援護するよ。久遠だって、依頼を受けてれば自然に溜まっていくから。君はただ自分を鍛えていけばいいんだよ」
まじめなことを語りながら、少年の頭を胸にぐりぐりする桜花。
「だから私は、これをあげる。プロテクトシールドとオートマチックS-01。……え、しょぼい? いいんだよ。扱いやすい武器だから。盾だって、君が強くなるまでの間しっかり守ってくれる。私の思いが、きっと君を守るよ!」
その直後、少年は脳天から蒸気を噴いて倒れた。
そして、うわごとのように唇を動かす。
「はわ……わかりましたぁぁ……ぼくガンマンになりますぅぅ……」
こうして久遠ヶ原に、新たなインフィルトレイターが生まれた。
結論! 最強の武器はおっぱい!