「マジかマジか……マジでやんのかよ……」
ずらり並んだV家電を前にして、桃原由汰(
jb5011)は頭をかかえた。
「家電製品でディアボロ退治……。なんというか……ふざけてるようにしか思えないのですが……」
沙夜(
jb4635)は困惑気味だが、だれもふざけてなどいない。これは、れっきとした依頼であり、新型V兵器の実地試験に他ならないのだ。──そう! だれもふざけてなどいないwww!
「それにしても電化製品を武器にするなんて……。よく考えついたよねー」
ヒマワリのように明るい笑顔を見せるのは、涼風燦(
ja0340)。口にくわえたロリポップがやたらと似合う、十四歳(外見)の大学生である。もう開きなおっているのか、やけにたのしそうだ。
「とりあえず、私はこれ使ってみようかなー」
笑顔満面で燦が選んだのは、V電子レンジだ。
それを見た沙夜はしばらく考えて、
「ディアボロを洗濯する機会なんてそうそうないでしょうから……うん。私これにします」
と、V洗濯機を選択。(ナイス駄洒落!)
そして由汰は普通に新生活でも始めるような感じで、ナチュラルに炊飯器を手に取った。
「やっぱ、なにはなくとも炊飯器だろ?」
いったい何が『なにはなくとも』なのか不明だが、たしかに生活を送る上で炊飯器は重要だ。
もっとも、天魔退治に炊飯器が必要かどうかは審議の余地がある。「天魔が現れただと? よし炊飯器を持って出撃だ!」とは、普通ならない。MS歴の短い私でも、それぐらいはわかる。天魔退治に炊飯器を持っていく撃退士は、おそらく、きっと、かなり、レアだ。(世界初と言い切れないのが怖い)
そもそも、なぜ家電品とV兵器をミックスしてしまった?
あらためて考えてみるに、心底わけわからん依頼である。参加してしまった撃退士たちには同情を禁じ得ない。
さて。そんな彼らに目もくれず、ひとり淡々と液晶テレビに語りつづけているのは、ウキグモ・セブンティーン(
ja8025)。
頭にブラウン管テレビをかぶった人間が液晶テレビと会話している光景は、シュールきわまりない。研究所のスタッフも唖然である。
だが、ウキグモは真剣だ。彼にとって、すべての機械、無機物は大切な存在。彼ほど家電品を愛している男は、そうそういるものではない。
だって、テレビを頭にかぶってるんですよ? ちょっと、だいぶ、かなり、すごすぎる。世界は広い。マジで。最初は何かの見まちがいかと思いましたからね、私。
「皆はこんな家電で何ができるのかなんて言ってるけども、きみたちだからこそできる闘いかたがあるはずだ。それを私とともに探していこう。私はきみたちを信じている。きみたちは、やればできる子だ。さぁ、隠された力を見せておくれ」
熱心に語りかけるウキグモの表情は真剣だ。(表情見えないけどな!)
そんな彼の心に打たれたのか、物言わぬ液晶テレビもついに心を開いて──くれるわけないだろ! ただのテレビですからね、これ! いや、ただのテレビじゃなかった。V兵器の液晶テレビですからね!
しかし、それでも一心に語りかけるウキグモ。その態度は真摯かつ情熱的。天魔退治に行って液晶テレビとトークした撃退士も、かなりのレアものだろう。
でも、この液晶テレビは隠れた力とか持ってないと思うから、鈍器として使えばいいんじゃないかな……。といっても暴力は苦手らしいし……。うん、場面を切り替えよう。そうしよう。正直すまんかった。
「ぜぇ……ぜぇ……こんな重いもの、実戦で使えるのか……?」
息を切らせながら冷蔵庫を背負って歩くのは、文銀海(
jb0005)。
容量650リットルの大型冷蔵庫は、重量130kg。撃退士といえども、かなりの負担だ。戦闘が始まるまでヒヒイロカネに収納しておけば、重量はそのままでもサイズ的にはラクになるのだが、忘れているのだろうか。それとも足腰の鍛錬か。あるいは引越しのバイトでもしたいのかもしれない。
「しかし、兵器こそ妙ちくりんなものだが、戦闘なんだから全力でやらないと……」
ズシンと砂浜に置かれる冷蔵庫。なにかの現代アートみたいな光景だ。あえてタイトルをつけるなら、『冷蔵庫と海』だろうか。って、そのまんまだな。『老人と海』みたいな感動を狙ったんだけど。
「さあ、戦闘開始だ……」
銀海は冷凍庫のドアを開けると、無造作にヒトデディアボロをつかまえてポイポイ放りこんだ。
斬!新!
こんな戦闘スタイルが、かつて存在しただろうか。冷蔵庫でディアボロを退治するとは、『革新的』の一語に尽きよう。まったく、今日はレアな光景の連続だ。なにしろ前代未聞のV家電シリーズ運用試験という任務なので、無理もない。
「これが、最新鋭の冷蔵庫を使用した秘策。その名も『Freezing☆ヒトデ作戦』だ!」
決め台詞っぽく、ドヤ顔で言い放つ銀海。とてもわかりやすい作戦名だが、もうすこしマシな名前を思いつかなかったのだろうか。とりあえず、ドヤ顔で言うようなことではない。だがイケメンなのでOKだ!
「花粉症を予防しつつディアボロ倒せるとか、なにこれ、超素敵!」
ノリノリでV空気清浄機を選んだのは、伊藤辺木(
ja9371)だ。
最大風量毎分9立方メートルを誇る大型空気清浄機は、重量20kg。だが、撃退士にとって大した重さではない。すくなくとも冷蔵庫よりはラクだ。
「よーし、まずはフタで波に乗ろう。耐水性とか耐久性とかサーフィン性とかがわかる」
意味不明なことを言いだして、海へ突撃する辺木。その手にあるのはサーフボードじゃないんだぞと忠告したいが、プレイングに書いてあったので仕方ない。
しかしそれにしても、空気清浄機でサーフィンUSAとは。いったい何をどうすれば、そんな発想が生まれてくるのだろうか。だって電化製品ですよ、これ。チャレンジャー精神あふれすぎだろう。爆発したスペースシャトルみたいな運命をたどる未来が見えるようだ。
「ぎゃああああ!」
海に入ったとたん、当然のように感電する辺木。そりゃそうだ。
撃退士史上にも非常にまれなケースなので、ちょっとダメージ判定が難しいんですが、『スタン』は与えておいて間違いなさそうですね。そしてスタンを食らうと泳げないので、必然的に溺れますね。ナムアミダブツ。
どうやら総合的に見て空気清浄機の耐久性には問題なかったが、辺木の耐久性に問題があったようだ。早急な改善が望まれる。
いや、問題があったのは耐久性でなく頭脳のほうかもしれない。なぜ空気清浄機でサーフィンしようなどと考えてしまった!? おいしい見せ場を作りおって!
さて、ハードコアな無謀サーファーは置いといて次に行こう。
鳴海鏡花(
jb2683)と小田切翠蓮(
jb2728)は、それぞれドライヤーと布団乾燥機を選択。
「ナマコの次はヒトデでござるか。拙者、海の生き物に縁がありすぎでござる……」
「ナマコの次はヒトデとな? そのうえ、V家電? どんなときにも遊び心を忘れぬ狂人……いや強靭なる精神力。儂が思うていたよりも、人類は余裕があると見える。ほんに頼もしきことよ……!」
このふたりは、つい最近ナマコ型ディアボロを退治する任務で顔を合わせたばかりである。ナマコの次はヒトデ。複雑な心情にもなろうというものだ。棘皮動物つながりで、次はウニ退治だろうか。考えておきます。
「では、まいろうかの」
「おう!」
架空戦隊ゲキタイジャーのノリで突撃する陰陽師二名。
鏡花は『光の翼』で飛行しながら、ヒトデをドライヤーで乾かす作戦だ。すごく普通! ──普通!?
いっぽう、翠蓮は布団乾燥機をセットした布団の中にいそいそと潜りこむ! スタッフの目を意識して、つねにカメラ目線をキープしながらだ! そして和服をはだけつつ、妖艶かつスタイリッシュにヒトデを誘いこむ! こうしてヒトデを乾燥させ退治しようという、孔明も真っ青な策略なのだ! 悪魔めいた色香が、砂浜に妖しく匂い立つ!
えーと。ちょっと待って。どういう作戦なの、これ。書いててワケがわからないよ!
結果から言うと、予想どおりというか、残念ながらというか、ヒトデは誘惑に乗らず、作戦は失敗! あたりまえだ! もうやだ、この人たち!
そんな残念な仲間をよそに、黙々と洗濯機をまわしつづけるのは沙夜。
ヒリュウに敵をつかまえさせ、ドラム式洗濯機の中へ放りこんだあとはスピード洗濯モードでぐるんぐるん回転するヒトデを鑑賞。みごとな水責めの刑だが、効果のほどは不明だ。
そして洗濯が終われば、スピード乾燥。この熱風責めは、かなり効いている。
こうかは ばつぐんだ!
「ちゃんと効いてるようですね。フフッ……洗濯機で始末されるなんて可哀想なディアボロですねぇ……」
ほかほかに乾燥したヒトデ型ディアボロは、完全に虫の息。V洗濯機の性能あなどりがたしといったところだ。これなら口うるさい主婦撃退士にも好評に違いない。研究所のスタッフ一同大喜びである。
しかし、乾燥済みのふかふかヒトデを取り出そうと沙夜がふたを開けたとき。
虫の息だったヒトデが消化液を発射。なんと、沙夜の胸元に命中! たちまち溶けはじめるゴスファッション! スタッフ一同大喜びだ! ひゃっほう!
「……自殺志願のヒトデですか。そうですか」
にっこりと笑みを浮かべながら、80kgの洗濯機を頭上高く持ち上げる沙夜。そのまま、ものすごい勢いで振り下ろされた洗濯機が、ヒトデを木っ端微塵に粉砕!
そう。これこそV家電シリーズの正しい使いかただ。あらゆる家電は鈍器に成り得る。そして、どんな天魔もたいていは『レベルを上げて物理で殴ればいい』のだ! 暴力こそジャスティス!
そのとき、遠くでチーンという音がした。
燦が電子レンジでディアボロを仕留めたのである。取り出されたディアボロは溶けたバターみたいな消化液まみれで、じゅわじゅわと煙を噴き上げている。おせじにも食欲をそそらない光景だ。
「うわぁ……。キモ……」
顔をしかめる燦。
そこへ、今度は炊飯器のアラーム音が鳴り響いた。
「おいしく炊けましたー♪」
どこかで聞いたような電子音声。
由汰がワクテカしながら炊飯器のふたをあけると、そこにはツヤツヤに輝く白飯が!
天魔退治の最中に米を炊くとは、見上げた料理人魂である。いや料理人はどこにもいないけど。というか、V兵器で米を炊くなんて、なにか間違っているとしか思えない。ぜんぶMSのせいですね。なにもかも申しわけない。
「うわぁ……。おいしそう……」
燦がやってきて、炊飯器をのぞきこんだ。
ヒマをもてあました沙夜も、おいしそうな匂いにつられてやってくる。胸元の谷間が非常にけしからんことになっているが、描写しなければ問題ない。おっぱいよりごはんだ! なにを言ってるんでしょうか、このMSは。
「蒸らしなんていらねぇ! むしろそのほうが熱いぜ! 召し上がれ!」
意気揚々と、しゃもじでごはんをよそう由汰。
おお、まさか炊きたてホカホカごはんでディアボロを始末しようとは! 斬新にもほどがある!
しかし、残念ながらヒトデはごはんを透過! わすれてるかもしれませんが、こいつら一応天魔ですからね! ただのごはんが通じるわけないだろ! じゃあなんでV炊飯器なんか作ったんだって? 知るか! なんなんだよ、この依頼!(逆ギレ)
「そういえばこいつら、天魔だったんだよねー」
いま思い出したような顔で、燦が言った。
「くそっ。せっかくおいしく炊けたのに!」
しゃもじ片手に悔しがる由汰。だが、おいしく炊けたかどうかは、ディアボロ退治に関して一切、まったく、これっぽっちも、影響を与えない。だから、すなおに鈍器として使っておけばよかったんだ! レベルを上げて物理で殴れって、えらい人が言ってただろ!
「このごはん、どうしようか……」と、由汰は肩を落とした。
「食べればいいんじゃない?」
当然のことのように燦が答える。
「そうか! そうしよう!」
そんなわけで、炊きたてごはんの塩おむすびが振る舞われることになった。
その味は、まさに絶品!
なにしろ、このV炊飯器。超音波圧力IH方式を採用し、内釜にはプラチナナノ粒子をコーティングした、職人手作りのプラチナ真空釜。炊飯器業界に革命を起こした、超々高級炊飯器なのである! その実力は折り紙つきだ!
「これ、おいしいー」
「ほんとだ。マジでうまい」
ディアボロ退治をほったらかして、おむすびをほおばる撃退士たち。
まさに、おむすび無双!(なんだそれ)
そんな、『海岸でピクニック気分のランチタイム満喫なう』な撃退士数名をよそに、鏡花は黙々とヒトデディアボロを乾かしつづけていた。
なにしろ、ウキグモは液晶テレビと永遠に談話なう。(テレビはしゃべれないぞ!)
辺木は空気清浄機でサーフィンをこころみ溺死なう。(チャレンジャー!)
翠蓮は乾燥機をセットした布団袋の中で乾燥なう。(お肌に悪いですよ!)
由汰、燦、沙夜、銀海の四名は、おむすびなう。(塩おむすびは正義!)
というわけで、まともに戦ってるメンバーは鏡花だけなのだ。
まぁ彼女ひとりでも余裕で撃退できる相手なので、任務達成に問題はないのだが。
ただひとつ問題があるとすれば、いまの鏡花はほとんど素っ裸の状態であるという事実だった。消化液を浴びても気にせずVドライヤーの運用試験をつづけていたためである。
人界知らずの堕天使ゆえ、常識や羞恥心を持ちあわせていない鏡花は、おっぱい丸出しでヒトデ退治に取り組んでいる。だがひとつ悔しいのは、彼女の胸が非常に残念だという事実!
いわゆる『 極! 貧! 乳! 』というやつである。
なにしろ本当におっぱいが残念な事態に陥っているので、研究所スタッフも鏡花が女性だと気付かない始末。スタッフどころか、撃退士たちも気付いてない。ひどい話だ。
「ふむ……。このVドライヤー、なかなかのパワアでござるな」
どこまでもマイペースにディアボロ退治をつづける鏡花。最後の一匹をしとめたときには、完全にすっぽんぽんだ。だれか気付いてあげてください、彼女が女性だということに!
でも誰ひとり気付かないまま、任務終了。
とりあえず、V家電シリーズの実力は証明されたのだ。
そして今回の運用試験では、以下のような改善案が得られる結果となった。
・V液晶テレビに人工知能を搭載し、ユーザーとおしゃべりできるようにする。
・V空気清浄機には『本品でサーフィンしないでください』と注意書きをくわえる。
・V布団乾燥機には『乾燥袋に入らないでください』と注意書き。
・V炊飯器には『本品で炊いたごはんは天魔の透過能力を打ち消せません』と注意書き。
・唯一の武器として開発されたVチェーンソーが選ばれなかった事実を踏まえ、かわいいデコレーションをほどこすなどして主婦層にアピールする。