【悲報】久遠ヶ原玉入れ大会、血の惨劇に【虐殺】
在校生が投球技術を競う『バトル玉入れ大会』が昨日、当校第九グラウンドで開催された。本大会は、先月おこなわれた『夏の大運動会』の余興として矢吹亜矢が主催。男女あわせて22人の撃退士が参加し、紅組13名、白組9名に分かれて争った。
人数で勝る紅組は試合開始前から勝利ムードだったが、戦いが始まると事態は一変。白組主力による攻撃が、紅組を圧倒する幕開けとなった。その後は白組内部で仲間割れが発生するなどのトラブルを含みつつも、試合は終始白組の一方的な展開に。紅組メンバーは次々と戦闘不能に陥り、制限時間終了の笛を聞くことなく全滅した。
試合後、白組リーダーのチョッパー卍は『メンバーに恵まれた。玉入れで戦おうとした紅組に対して、白組は最初から殲滅が目的。戦う前から勝敗は明白だった。それにしてもパンダが邪魔だった』と語り、笑顔を見せた。
なお会場となった第九グラウンドは整備のため、現在立ち入りが禁止されている。第二回大会は未定。
9月某日。校内新聞のスポーツ欄に、このような記事が掲載された。
これで試合結果はわかったから、もういいよな?
……え、ダメ? 紅組がボコられるところが見たい? サドいなあ。
では仕方ない。はじめよう、玉入れという名の虐殺ゲームを!
まずは、チーム分け。
【白組】
チョッパー卍(metal4649)
高瀬里桜(
ja0394)
黒百合(
ja0422)
雫(
ja1894)
月詠神削(
ja5265)
桜花(
jb0392)
月乃宮恋音(
jb1221)
袋井雅人(
jb1469)
ナデシコ・サンフラワー(
jb6033)
【紅組】
矢吹亜矢(ninja250R)
下妻笹緒(
ja0544)
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)
深森木葉(
jb1711)
ナナシ(
jb3008)
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
不破十六夜(
jb6122)
戒龍雲(
jb6175)
ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)
Unknown(
jb7615)
九鬼龍磨(
jb8028)
咲魔聡一(
jb9491)
土古井正一(
jc0586)
「やった! こっちのほうが4人も多い! これがあたしの人望よ!」
チーム分けの結果を見て、亜矢は大喜びだった。
「おまけに、12人中8人が男! キタわね、完全なモテ期が!」
なにか盛大に勘違いする亜矢。
結末がわかってるだけに、喜べば喜ぶほど痛々しい。
「あー、喜んどるところアレやけど。俺は亜矢を訴えることにしたで」
唐突に、ゼロが切り出した。
これはまさしく、寝耳にミミズだ。
「はぁ!? どういうことよ!」
「おまえは俺が重体だったときに花火で狙撃したやろ。ヘタすりゃ俺は死んでたんやで? まさに鬼畜の所行や」
「あんただって、あたしを火炙りにしたりしたでしょうが!」
「寒そうだったから温めてやっただけやろ。ありがたく思えや。それに、関西人のコミュニケーションは暴力とかも言うとったな。あれはツッコミいうて、暴力とは違うで? つーわけで、この二件について法廷で白黒つけようや」
「関西人うんぬんは牛でしょ!」
「おまえと牛の連帯責任やな。示談にしたけりゃ、久遠と経験値をよこさんかい」
ゲス顔で無茶なことを言いだすゼロ。
うん、玉入れしろ。
そんな腹黒ドS悪魔とは正反対に、木葉が無邪気な笑顔で話しかける。
「こんにちわぁ〜。いつも明日羽お姉さまのお味方しちゃってますので、今回は亜矢ちゃんのお手伝いをするのですよぉ」
「よしよし、木葉はかわいいわね」
亜矢もつられて笑顔になり、木葉の頭を撫でた。
「えへへ〜。よろしくなのですぅ〜。勝利めざして、がんばりましょう〜」
「もちろんよ!」
ああ、木葉の運命やいかに!
「退院おめでとう! すぐ再入院なんて事態にならないといいね!」
不吉なことを、さらりと言う聡一。
「あら、あんたは綱引きの……」
「そう。あのときの仲間だよ。一緒に引きずられた仲として、今日は全力で支援するからね! 敵は何をしてくるかわからないから、十分に気をつけて!」
卍も引きずられ仲間だが、いまは忘れてるようだ。
「ボクも、今回は亜矢さんのために頑張るよ」
と、十六夜が言った。
彼女は、綱引きで亜矢たちを引きずった側だ。
「口だけじゃないでしょうねぇ?」
「烙印とかで支援するよ。みんなほど強くないから、それぐらいしかできないけど……綱引きのお詫びも兼ねて、全力で戦うよ!」
さわやかに微笑む十六夜。
ああ、こんな子がレベル40阿修羅に撲殺されるなんて……。
「ねぇ、ちょっと考えたのだけれど……これ結局、『飛行は有利』っていう問題点は変わってないよね?」
言ってはいけないことを、龍磨が冷静に指摘した。
そこで不意に思いついたのは、ひとつの可能性だ。
「……はっ! まさか卍くんと亜矢ちゃんは空を飛べる人……すなわち天魔もしくはハーフだったのかー!?」
大真面目に言う龍磨。
「あたしは人間だけど、大丈夫よ。飛行なんて撃ち落とせばいいんだから」と、亜矢。
「なるほど! 暴力はすべてを解決するわけだね!」
「そのとおりよ!」
まぁ暴力ですべてを解決されちゃう側なんだが……。
そこへ、白組の里桜が近付いてきた。
「ねぇねぇ。この玉入れって、亜矢さんが考えたんだよね? マトが動くなんて、とっても面白そう! そんなの考えつく亜矢さんって、天才だね!」
「そ、そう? 子供のころやったのをアレンジしただけよ」
「でも、みんな盛り上がってるじゃない? 人数だって紅組のほうが多いし。さすが亜矢さん!」
えらいベタ褒めだが、もちろん作戦だ。
外見はふわふわ少女なのに、やることは黒い。
「参加するからには、優勝めざして頑張りましょう!」
えいえいおーとか言いそうな勢いで、龍雲は声を張り上げた。
彼は真剣に、勝利を狙っている。この日のために、わざわざ正一と投球練習までしてきたほどだ。
「ん〜。移動玉入れねぇ〜。昔やったことがあるような、ないような……」
などと呟く正一は、外見年齢40過ぎのオッサンだが、一応天使である。
つまり飛行できる! 実際有利!
「まぁそれなりに頑張らせてもらおうかね。戒君と連携の練習もしてきたし。二人で妨害して優勝めざすぜ!」
「僕らの力を見せてやりましょう、正一さん!」
「おう!」
盛り上がる、龍雲と正一。
スマン。本当にスマン。大半は黒百合と雫が悪いんだ。俺は悪くないんだ。
そんな紅組チームの中で、笹緒はひとり涙を流していた。
「そう。玉入れというのは本来魂入れであり、己の魂をまるごとぶつけるソウルフルな競技であることは言うまでもない。いつもちゃらんぽらんの矢吹と、万事やる気のない卍が、まさかこの競技に手を出すとは……。ああ、学園の教育は間違ってなかったのだ……!」
舞台俳優みたいな身ぶりで、おおげさに感動する笹緒。
いつも本気の男だが、今日は輪をかけて本気モードだ。
そう! パンダに秘策あり!
最初に言ったとおり負けるけど、秘策だけはあり!
「すっかり浮かれてやがる、あの馬鹿。こっちのメンバーが見えてねぇのか?」
亜矢の様子を見て、卍は冷笑した。
たしかに白組は人数で負けてるが、黒百合、雫、恋音といった大量破壊兵器を擁している。ついでに言うと、卍自身も相当な戦闘力だ。
「あはァ、たのしみねェ……全力で遊んであげるわァ……」
そう言って、黒百合は巨大な槍に頬ずりした。
玉入れだっつってんのに、初手から殺る気満々である。
なんせ、『玉入れを後回し』にして、『一人も逃さずに駆逐』する予定だからな。
「卍さん、逃げないでくださいね? 一応、今日は味方ですから」
無表情で大剣を抜くのは、先日レベル40になった雫。
こっちは黒百合よりひどい。なにしろ、玉入れの『た』の字もない。『後回しにする』とかの一言さえなく、玉入れガン無視で紅組を滅殺することしか考えてない。
なぁ玉入れしようよ、雫……。これ完全に、対天魔用のガチ戦闘プレイングじゃん……。
「見た感じ、あきらかに白組のほうが危険人物が多いですよー?」
言わなくてもわかることを、あえて口にするのは雅人。
「うぅん……たよりになりそうな顔ぶれですねぇ……」
白組の陣容を見て、恋音がうなずいた。
「恋音も、たよりになる一員ですよ! 今日は私も真剣に戦いますからね! 私たちの『絆』の力を、みんなに見てもらいましょう!」
「はい、がんばりましょうねぇ……」
「でも油断は大敵ですよ! いつものパターンだと、急に裏切り者が出て第三勢力出現! とかも有り得ますからね!」
「そうですねぇ……。気を引きしめて行きましょう……」
大丈夫、第三勢力とか出てこないから!
そんなヒマさえなく、すぐ終わるから!
「ああ……木葉と一緒に戦いたかったなぁ……」
などと呟きつつ口元から白い液体をあふれさせているのは、完全変態の桜花さん。
エロいことを想像してはいけない。ただ乳酸菌飲料を飲んでるだけだ。健全!
「こっちには私がいるの! 勝てたら桜花さんの好きにして良いので、がんばって勝とうなの! (>ω<)」
ナデシコが、チアガールコスで声をかけた。
手にはポンポン。どう見ても、玉入れする気がない。
「す、好きにしていいって……それは、私の部屋に連れ込んで、チア服着せたままベッドに押し倒して、まずは軽いキスから入って、服の上からおっぱいを……」
以下5000字ほど、AVの脚本みたいな戯れ言が続く。
なんつー約束しちまったんだ、ナデシコ。GJ!
ともあれ。両軍はグラウンドの東西にわかれて、開始の笛を待っていた。
しかし、ここは久遠ヶ原。まっとうに玉入れしようとする者は少ない。
「さて……ゲームが始まる前に、ひとつ忠告しておこうかな♪」
さわやか笑顔で前に出てきたのは、ジェラルドだった。
その手には、一本のギターが握られている。
「おい! そいつぁ俺のストラトじゃねぇか!」
卍が怒鳴った。
「うん。そのとおり。部室に置いてあったのを、ちょっと拝借してきたんだ」
「ただの泥棒じゃねぇか!」
「いやいや、無断で借りただけだよ。もちろん、すぐに返すさ。ただ……きみがあんまり暴れると、壊れちゃうかも?」
「ザッケンナコラー!」
「まぁまぁ、よく考えてごらんよ。そもそも、この勝負って君が望んだものじゃないでしょ? 負けたっていいじゃない☆」
「ぐぬぬ……」
たしかに、ジェラルドの言うとおりだった。卍が戦う理由など、ひとつもない。しかも、ギターを盾にされては……。
「だったらァ……人質ごと、すりつぶしてあげるゥ……♪」
黒百合が突撃して、オンスロートをぶっぱなした。
卍のギターなど、彼女にとってはどうでもいいことだ。
「え……そう来る……!?」
不意を突かれて、なすすべなく倒れるジェラルド。
もちろん、ギターは木っ端微塵だ。
「無念……。これが、魔王軍……か……」
卍のギターを道連れに、ジェラルドは脱落した。
魔王様、なにもしてないけどな。
──という具合に、尊い犠牲(ギター)を出しつつ、戦いが始まった。
試合開始前に黒百合が攻撃してるけど、とくにペナルティはない。
『開始前に攻撃してはいけない』なんてルールなかったしな。
さて、開始と同時に動いたのは里桜。
敵陣のド真ん中で、シールゾーンを発動だ!
そう! 無駄に亜矢を持ち上げて警戒心を解いておいたのは、この作戦のため!
「こ……っ、この性悪女!」
スキルを封じられて慌てる亜矢。
彼女だけでなく、周囲にいた紅組メンバーも『封印』をくらっている。
「ふふふ……スキルの使えない亜矢さんなんて、ただの馬鹿だね」
にやりと笑って審判の鎖をぶちこむ里桜。
からみつく鎖が、亜矢の動きを封じ込める。
だが、里桜は間違っていた。亜矢は、スキルが使えてもただの馬鹿なのだ。
あと、もうひとつ間違ってることがあった。いくら敵のスキルを封じても、囲まれて殴られたら終わりってことだ。
亜矢の周囲にいたのは、聡一、龍磨、木葉、ラファル、十六夜、龍雲、正一の7名。
この全員からタコ殴りにされて、里桜は脱落した。残念。狙いは良かったんだが……。
とはいえ、開幕直後に敵チーム数人を足止めできたのは大きい。
そんな、玉入れ大会とは思えないバイオレンスな幕開けの中、もうもうとした白煙がグラウンドをつつんでいった。黒百合の投げた発煙手榴弾と、ラファルのスモークディスチャージャーのせいだ。おかげで、ひどく視界が悪い。おまけに卍も亜矢も潜行やら見切りやら色々と付与されてるから、見つけるのも一苦労だ。
この一見地味な煙幕攻撃に対して、両軍とも打つ手がなかった。というか、だれひとり煙幕対策(黒百合対策)をしてなかったので、めくらめっぽう玉を投げるしかない。
両陣営から乱れ飛ぶ、赤と白の玉。
だが、あきらかに白側のほうが少ない。だって、黒百合と雫は玉入れする気ゼロだし、ナデシコはポンポンふりまわして応援してるだけだからね。──でも、参加してるならまだ良い。神削なんか、開始早々グラウンドの外に出て行っちまったよ! 実質、白組でマトモに玉入れしてるのは卍をふくめて4人だけ! こんな状況で玉が入るワケねえ! はたして、神削の置いていった小細工は通じるのか!?
混乱の中、笹緒は冷静に己の考えを実行に移そうとしていた。
「人の魂は、いくつも存在するわけではない。だれしも平等にひとつだけ。なればこそ、投げるチャンスも一度きりというのが正しい姿。いくらでも投げられると思うから、油断が生まれる。賭けるべき機会は一度で良いのだ。いまこそ私は、この一投に全身全霊をこめる!」
白煙の中から姿を見せた笹緒は、着ぐるみの中に大量の赤玉をつめこんでパンパンに膨れあがっていた。
そして卍の姿を見つけるや、天に届かんばかりのハイジャンプ!(注:ただのジャンプです)
天高く舞う笹緒の全身を、太陽の光がキラキラと照らし上げる!
「行くぞ! これがパンダちゃん流魂入れ!」
次の瞬間、笹緒の姿が消えた。
瞬間移動を発動したのだ。
「うお……ッ!?」
突然の奇襲を受けて、あおむけにひっくりかえる卍。
そう、笹緒の『移動』した先は、卍の背負っているカゴだったのだ!
「おいコラ! 重いだろーが!」
「私は正しい玉入れを実行しただけ。なにがあろうと、私がここから出ることはない!」
カゴにすっぽり収まったまま、断言する笹緒。
想像してみてほしい。186cm140kgの巨漢を背負って走る場面を。いくら撃退士でも、これはキツイ。
「なんなんだ、このゲーム」
ぼやきながらも、試合をつづける卍。
この時点で、笹緒の持ってる玉の数だけ紅組がリードした。
さて、人数で勝る紅組だが、もうひとつ白組を上回っていることがあった。
それは、航空戦力の充実。白組で飛行できるのは黒百合だけなのに、紅組では8人もいる。これを活かさぬ手はない。
というわけで、ナナシは玉を入れた袋をサンタみたいに担いで卍の頭上からまきちらしていた。
さすがにこれは避けきれない。
「いくよー、卍くん」
ナナシと同じく、龍磨も風呂敷に玉をつつんで上空からバラまく作戦だ。
試合開始前に彼が指摘したとおり、やはり空からの攻撃は強力。
実際、卍は笹緒を背負って逃げるしかない。
さらに、ゼロは闇の翼で飛翔しながらスナイパーライフルの弾丸に玉をくくりつけて射撃している。
なんだか無理のある行動だが、コメディだし大丈夫! まちがっても戦闘シナリオでやらないように! まぁ戦闘シナリオで玉入れすることは滅多にないと思うけど! ついでに、ときどき玉をつけずにそのままブッ放してるけど大丈夫! 弾丸はほとんど笹緒に当たってるけど、気にするな! なぁに、かえって耐久力が鍛えられるさ!
「弓の速度は、一般人でも時速200キロに達する……さらに自由落下の速度が加わるんだ、空気抵抗を差し引いても、普通に玉を投げるより速度は上のはず!」
と言いながら、聡一も空から攻撃していた。
矢に玉をくくりつけて、『予測攻撃』で命中率を上げつつ弓で射る作戦だ。
「これは別に反則じゃないよね?」
などと言いながら、『ついうっかり』通常の矢を放つ聡一。
「グワーッ!」
笹緒の脳天に、矢が突き刺さる。
「あ、ごめんうっかりしてた」
棒読みする聡一。
さらに、屑鉄の付いた矢まで降ってくる。
カキーン!
「グワーッ!」
なんと、屑鉄をくらって墜落したのは聡一のほうだった。
桜花が散弾銃で撃ち返したのだ。
「やったのです! さすがです!」
ナデシコがポンポンを振りまわした。
なぜか胸が膨らんでいるのは、玉をつめこんであるせいだ。
「白組の勝利のため……ナデシコの(体を手に入れる)ためにも、私は全力をつくすよ!」
きりっとした顔を見せる桜花。
今日の彼女は、ひとあじ違う!
いやスマン、いつもどおりだった!
「では、玉を投げるのです。ここにいっぱい『もって』きました!」
と言いながら、両腕で胸を押し上げるナデシコ。
「はぁぁ……っ! か……かわいいよ、なでしこぉぉぉ!!」
「はわああああっ!」
ナデシコの胸元に頬ずりして、押し倒す桜花。
あとはわかるな?
「おぉ……では私たちも、真剣に玉入れをしましょう……」
「ええ、やりましょう! いま、私たちの想いをこめて……絆・連想撃!」
雅人の手から、玉が投げられた。
ただの玉だが、撃退士が全力で投げれば──
「グワーッ!」
顔面に玉をくらった龍磨は、もんどりうって墜落。
さらに、恋音のライトニングが的確にナナシとゼロを撃ち抜いて、紅組の航空部隊を壊滅させた。
ちなみに卍に向けて撃たれた弾丸や弓矢は、大半が笹緒に当たってる。
カゴの中でグッタリした彼は、すでに意識不明の状態だ。動物園でよく見るよ、こういうパンダ。
色々ひどいが、それでも現時点では紅組のリード。
というか、紅組のカゴにはまだ一個も入ってない。
「けけけ。いまの俺様がCR0とは、お釈迦様でも気づくめー」
いつものごとく、邪悪な笑みを浮かべるラファルさん。
彼女は、イヤというほどの縛りプレイにかえって闘志を燃やしてしまう、イカしたナイトウォーカーだ。
ぶっちゃけラファルにとっては、亜矢も卍もどうでもいい存在なのだが、CR差で有利というだけで今回は亜矢の味方をしている。
スモークディスチャージャーと光学迷彩で身を隠していた彼女だが、そろそろ動かないとジリ貧じゃね?と気付き、打って出ることにしたのだ。
「くっくっく……はあーっはっはっは! 我は大悪魔ラファル! 愚民ども、我を崇めよ!」
高笑いしながら、『封魔人昇』で悪魔変身するラファル。
これでCR+1になり、CR差を利用して卍に玉を……玉をいっぱい……
「わざわざ目立ってくれて、ありがとうねェ……?」
すかさず黒百合が飛んできて、吸血幻想を叩きこんだ。
生命力は大して減ってなかったが、気分の問題である。
「アバーッ!」
玉を二つ投げただけで、ラファルは沈んだ。
ついでに言うと、その玉も笹緒に当たってる。
『オッパッピーな具合にねじ込む』って話だけど、オーシャンパシフィックピースでいいのかな……。それとも、公共の電波で言えないほう……? どちらにせよ、意味がわからんけども……。
「卍ちゃ〜ん、待ってくださぁ〜い。動くと玉が入らないのですぅ〜」
真っ白な煙の中を、木葉は必死に走っていた。
両手に玉を持ち、着物の裾をなびかせながらである。えらく走りにくそうだ。
「動かなけりゃ、移動玉入れにならねーだろーが!」
怒鳴り返す卍。
こちらもこちらで、カゴの中にパンダの死体が入ってるので大変走りにくい。
「待つのですぅ〜。え〜〜い!」
てとてと走りながら、ぽーんと玉を投げる木葉。
その直後、なにかにぶつかって木葉はスッころんだ。
「うう……っ、くすん」
涙目でうずくまる木葉。
いまにも泣きそうだが、大丈夫か。
しかし、事態はそれどころではなかった。
なんと。倒れた木葉の上に、息を荒げた変態がおおいかぶさっているではないか!
正体はもちろん桜花……ではなく、雅人!
「これは失礼しました、木葉さん! いわゆる不可抗力、ラキスケですよ!」
まじめな顔で言いわけしながら、なぜか木葉の胸をまさぐる雅人。
どさくさにまぎれて、なにをする気だ。
「こ、木葉に何をするだァーーッ! ゆるさんっ!」
ナデシコを小脇に抱えながら、桜花が突撃してきた。
そして炸裂する、135mm対戦ライフル。
一応味方なので、発砲はしない。銃床でブン殴るだけだ。
「くらえ! デスペラード殴打!」
「こ、これは不可スケぇぇぇ……っ!」
バギィィッ!
よくわからない悲鳴を上げて、雅人はグラウンドの外まで転がっていった。
「大丈夫!? へんなことされてない!? お姉さんに見せて!」
雅人の10倍ぐらいの勢いで、まよいなく木葉の胸を揉む桜花。
「ふえええ……っ!? 大丈夫ですぅぅ……っ!」
「こ、これは、血!? 血が出てるよ、木葉!」
それは雅人の血だぞ、桜花。
まぁわかっててやってるに違いないが。
「これは今すぐ治療しないと! 出血多量で命が危ないよ! 玉入れは中止して、私の部屋に緊急搬送ね! 恐怖の新聞によれば紅組は全滅だから、白組の勝ちということでナデシコの体も自由に! 三人で、朝まで仲良くお医者さんごっこだよ! でふひひひひひひ!!」
こうして桜花は、両脇に木葉とナデシコを抱えて疾風のごとく立ち去るのだった。
「え……っ?」
乱戦の中で、ふと亜矢は気付いた。
気付いてしまった。
白組の投げてくる玉に、『試合後、コロッケパンと交換できます』と書いてあることに。
「どういうこと……? もし玉を百個あつめたら、コロッケパン百個と交換できるの?」
真剣な顔で考えこむ亜矢。
冷静に考えれば罠だが、久遠ヶ原では『もしかしたら』ということもある。
「そうよね。これは罠っぽいけど、ちがう可能性もある。負けない範囲で玉をあつめておくのは間違いじゃないはずよ……!」
慎重に馬鹿げた結論を出すと、亜矢は落ちている白玉を拾ってカゴに入れ始めた。
その様子をグラウンドの外から眺めているのは、早々に試合を捨てた神削。
「ふ……狙いどおり。これで白組の勝利は確定。簡単な勝負だったぜ」
ふつうなら通じるはずのない策だが、相手の知能を見抜いた上での作戦だ。これはみごと。
無論、コロッケパンと交換などするはずもない。すべてインチキだ。
「まぁこのぶんなら白組の勝利は確定だろう。あとで揉めるのも面倒だし、とっととこの場を離れるとしよう。矢吹の悔しがる顔を見られないのは残念だが……勝負では、だまされるほうが悪いのさ……!」
鬼畜めいたことを言いながら、クールに立ち去る神削。
彼の発想力は未知数だ。
一方そのころ、紅組所属のザコキャラ(Unknown)は……
玉入れをするでもなく、戦闘するでもなく、応援するわけでもなく、淡々と飯を食べていた。
だって、カゴ役の二人は速いわ強いわ、奥義まで使うわで、張り合う気ナシ。
「フェェ……奥義コワイヨォ……」
とか棒読みしながら、お茶をすすって弁当を喰う。
ときどき銃弾や弓矢などの流れ弾が飛んでくるが、冷静に弁当を食べながら回避。
おまえは何をしにきたんだと言いたいが、こういうキャラなので仕方ない。
しかし、これは敵を油断させるための演技。
最後の最後に、逆転の秘策を披露する予定なのだ。
まぁ予想どおり失敗するんだけどね……。
マイペースなUnknownをよそに、玉入れ大会は佳境に入ろうとしていた。
実際は始まった瞬間から佳境だったのだが……黒百合たちを自由にさせたら、なにもしないうちにリプレイが終わっちゃうんだよ! すこしは手加減してくれ!
というわけで、紅組陣地では黒百合の範囲攻撃が炸裂しまくっていた。
燃えさかる劫火。乱れ飛ぶ影の刃。
巻き上がる土埃と発煙筒の煙で、なにも見えやしない。
「これはひどいな……」
堕天使の正一も、久遠ヶ原流の玉入れ大会には言葉を失っていた。
彼は相棒の龍雲と協力して亜矢のカゴを死守しているが、ぶっちゃけ白組から玉が飛んでこないのでやることがない。ともかく、卍を狙って玉を投げるのみだ。
「まさか、こうなるとは……。しかし、僕には手があります!」
そう言うと、龍雲は『春一番』を発動した。
突風が吹き、煙幕を押し流して視界をクリアにする。
ついでに風で玉を運んだり、敵の玉を押し流したりと、一石三丁だ。
しかし、視界が良くなるということは相手からも見やすくなるわけで……
「そこにいたのォ……? いまラクにしてあげるゥ……♪」
黒百合が、大槍をふりかざして襲いかかった。
「く……っ。させませんよ!」
「カゴは私たちが守る!」
あくまでも玉入れに殉じようと、立ちはだかる龍雲と正一。
そこへ、容赦なくオンスロートが命中。
「「グワーッ!」」
無数の刃に切り刻まれて、二人は倒れた。
一体これのどこが玉入れ大会……。マジすまん……。
その煙幕の中を、雫は自己強化しながら手当たり次第に攻撃しまくっていた。
さきほど撃墜された龍磨や聡一たちも、なすすべなくとどめをくらってリタイア。相手によってCRを変動させながら戦う徹底ぶりで、反撃の糸口を与えない。攻撃が当たると、ほぼ一発で終わる。マジひどい。
「たまには羽目を外して、力を振るうのも気持ちが良いものですね」
無表情で呟く雫。
わりとしょっちゅう、羽目はずしてるだろ……。
そんな雫の前に、ゆらりと立ちふさがる人影ひとつ。
十六夜である。彼女らは実の姉妹だが、不幸なことに互いの身元を知らない。
そして二人とも小学5年生なのだが──十六夜のほうが遙かに大きい。身長ではなく胸囲が。
「そこの貧乳、覚悟しろ〜!」
遊び半分でサンダーブレイドを放つ十六夜。
だが、雫は本気だ。
「乳即斬!」
すれちがいざま、雫の大剣が一閃した。
バシュウウウッ!
血煙とともに、崩れ落ちる十六夜。
「うう……っ。なんか、理不尽な理由でやられた気がする……」
「つまらぬものを斬ってしまいました……。しかし、いま蹴散らした子はどこかで会ったような気が……。そして、なぜでしょう。とても気分が晴れやかに。……まるで、昔年の恨みを晴らしたかのような……?」
パチリと剣をおさめて、雫は軽く首をひねるのだった。
試合開始から、わずか2分。混戦の果てに、紅組の生き残りはナナシと亜矢の2人となった。
一方白組は、黒百合、雫、恋音、卍の4人。
カゴに入れた玉の数は紅組のほうが遙かに多い……というか笹緒がひとりで9割がた入れたわけだが、敵全員を戦闘不能にしてしまえば玉など入れ放題。やっぱり、ガチ戦闘に玉入れで対抗するのは無理だったんだ。だって、ロンゴミニアトLV15とか、フランベルジェLV15とかで殴ってくるんだぜ? 玉入れの玉で、どうしろってんだよ……。
「えとぉ……もう降伏しませんかぁ……?」
戦況を見て、おずおずと恋音が打診した。
「なに言ってんの! まだ負けてないわよ!」
怒鳴り返す亜矢。
それを見た恋音が、「できれば、やりたくなかったのですけれどぉ……」と言いながらコピー用紙を取り出す。
「なにそれ」
「こちらは、亜矢先輩の小学生時代に書かれた作文ですねぇ……。それと、お兄様から『秘密の話』も伺って参りましたぁ……。降伏しなければ、これらをネットに公開する手はずですぅ……」
「そんな脅迫に屈すると思うの!?」
「では、『秘密』をこの場で暴露しますが、よろしいですかぁ……?」
「やってみなさいよ!」
「えとぉ……亜矢先輩は中学2年生のとき、卍先p
「うWAAAあああああっ!!」
錯乱した亜矢の手から、無数の手裏剣と刀とドラムスティックが飛んだ。
ズドシュッ、と恋音の眉間に突き刺さるドラムスティック。
恋音、無念の脱落。脅迫作戦失敗!
「交渉決裂ですね」
雫が大剣を抜いた。
「く……っ」
ギリッと歯噛みするナナシ。
並みの相手なら、単独で3人を相手にしても勝てる自信はある。が、今回は相手が悪すぎた。
「ならば……三十六計逃げるにしかずよ」
ナナシは亜矢をロープでくくると、闇の翼を広げた。
そのまま、亜矢をぶらさげて空へ舞い上がる。
「なる○ど君も言ってたわ。逆転の発想こそが、勝利への鍵だと。……そう、常識では敵のカゴに味方の玉を入れるのが普通。でも、敵の玉が味方のカゴに入らなくても勝利よ。このまま時間切れまで逃げさせてm
「まるで遅いわよォ……?」
ズドバシュウウウッ!
すかさず追撃した黒百合の手で、ナナシも亜矢も叩き落とされた。
と同時に雫の『時雨』が二人を血祭りにあげて、試合終了。
こうして、紅組は全滅した。
……いや、まだ1人残ってる。Unknownだ。
ここまで彼が身をひそめていたのは、この瞬間のため!
白組の玉をかぞえるとき、カゴから玉を奪い取って食べてしまう作戦だ!
「ここだ……! いま、このタイミング……吾輩なら行ける!」
ハイド&シークとサイレントウォークを使い、そっと亜矢に近付くUnknown。
そして白組メンバーの隙を突き、カゴから玉を……
「いらっしゃァい。見つからないと思ったァ……?」
黒百合が、Unknowの右肩をぽんと叩いた。
「あなたに恨みはありませんが……ここで眠ってください」
雫の手が、Unknowの左肩に置かれる。
このあと彼がどうなったか、言うまでもない。
今度こそ、試合終了!
「しかしまぁ……。おまえら、玉入れって知ってるか?」
荒廃したグラウンドを前に、卍が問いかけた。
「もちろんよォ……敵を皆殺しにして、カゴを奪う競技でしょォ……?」
「逃げるカゴを追いかけるという説もありますが……動けなくしてからのほうが確実ですし」
当然のように答える、黒百合と雫。
久遠ヶ原は今日も平和だ。