久遠ヶ原の斡旋所には、日々さまざまな依頼が並ぶ。
半分以上は天魔退治だが、中には猫カフェの手伝いみたいなユルい依頼もある。
その日に公開された依頼も、かなりユルユルだった。
「なんや、この依頼! 焼肉食べ放題!? しかも報酬までくれるんか!?」
大声を上げたのは、黒神未来(
jb9907)
こんなん参加しないわけないわと、一番手で名乗り出る。
「偉い人は言いよった。一番うまい肉は、おごってもらう肉やて。でもうち、焼肉にはちょっとうるさいで? うちの舌をうならせられるかいな?」
なにしろ味王を自認する未来なので、味にはうるさい。うまいものを食べたときのほうがうるさいのは問題だが。
「出演料もらって焼肉食べ放題! これ受けよう!」
その依頼書を見るや、音羽千速(
ja9066)は目を輝かせた。
育ち盛り食べ盛りの小学6年生にとって、焼肉食べ放題は魅力的すぎる。
「でも、俺たちだけだと宣伝用の絵にはきつくないか?」
応じたのは、黒崎啓音(
jb5974)
こちらも、育ち盛りの小学6年生だ。
「うーん……ボクたちと同じぐらい食べられる人というと……」
「心当たりは何人かいるな」
「そうだね」
などと会話を交わす二人の後ろから、音羽聖歌(
jb5486)が声をかけた。
「なにやってんだ? おもしろい依頼でも見つけたか?」
「あ、ちょうどいいところに。これ、一緒に参加しようよ」
と、千速。
聖歌は兄弟でも一番の大食漢だ。こういう依頼では、たよりになる。
「焼肉食べ放題? 妙な依頼もあったもんだな。……おい、智美。おまえも参加しないか?」
「ん? 俺も一緒で良いのか?」
聖歌に問われて応じたのは、礼野智美(
ja3600)
彼女も、かなり食べるほうだ。
「大丈夫だ、おまえなら男同士の先輩後輩関係で通る」
と、聖音。
基本的にフェミニストの彼だが、智美に対しては女扱いしてない。
「よし、これで4人。一応宣伝の依頼だし、これぐらいの人数のほうが映えるよね」
啓音が言い、彼らは4人で参加することになった。
本当のところ啓音は憧れの女性を誘いたかったのだが、食も細いし旦那が止めるだろうなーと考えて、泣く泣く諦めたのである。男はつらいよ。
さて、食べ放題当日。
「JOJO亭で食い放題……。いいねぇ。CM見て、一度行ってみたいと思ってたんだ」
鐘田将太郎(
ja0114)は、カナロアと一緒に店へ向かっていた。
ふだんは米大好きな将太郎だが、今日は日本酒を飲む気満々だ。
「よぉ、ホントにタダなんだよなぁ、海魔の姉ちゃん? あとで金払えって言われても、1円も払わねぇからな?」
「そんなんウチかて払えへんわ! ウチの食費は1日200円やで!?」
「お、おお。そうか」
言葉を失う将太郎。
いまここに、財布を持たず焼肉屋へ突撃する無課金タッグが結成された。
「あのぉ……こんにちは。その節は、お世話になりましたぁ……」
以前チームを組んだ撮影スタッフを見つけて、月乃宮恋音(
jb1221)は声をかけた。
身につけているのは、牛の着ぐるみ。
「おお、あなたは牛のお嬢さん。いやぁ例のCMは好評ですよ」
「そうですかぁ……今日も頑張らせてもらいますねぇ……」
「それは是非!」
「あのCMは、本当に凄かったですねー。おかげで食べ放題にも参加できて、感謝感激なのですよ」
袋井雅人(
jb1469)が、話に割り込んだ。
「いえ、そんな大したことは……。ところでぇ……今日は撃退酒というものを持ってきたのですよぉ……。最近、久遠ヶ原で開発された飲み物なのですけれどぉ……」
そう言って、恋音は大量の撃退酒を取り出した。
これは、体内のアウルを迷走させて酔っ払い状態にする薬品だ。
効果を知っている撃退士たちが、待ってましたとばかりに持っていく。
「もちろん私もいただきますよ! 焼肉で一杯やりましょう!」
と、雅人。
「はい……。焼く係はまかせてくださいねぇ……。先輩は、おいしそうに食べることに集中してください……」
「では遠慮なく! せっかく食べ放題なのだから、栄養バランスを考えて野菜も食べますよ! ついでにデザートも!」
そんな調子で、もりもり食べる雅人。
しかし、飲めば飲むほど真面目なキャラに!
「やってきました、焼肉食べ放題……!」
三木本美穂(
jb1416)は、お祈りするみたいに手を組んで、瞳をキラキラさせた。
妙にテンション高めなのは、この日のために1週間前からアメ1個しか食べてないせいだ。
あまりの空腹でふらついているが、大丈夫なのか。
「ではさっそく……お肉やぁああー!」
喜びのあまり、関西弁で突撃する美穂。
すべてセルフサービスなので、肉を持ってくるのも焼くのも一人でやらねばならない。網の交換もだ。
女子のソロ焼肉は少々ハードルが高いが、仲間は大勢いるから大丈夫!
「まずはタン塩ですよね。次にカルビ。野菜も食べたいところですが、まずは肉です!」
満面の笑顔で肉を焼き、ほおばる美穂。
一週間絶食した甲斐あって、肉の味がよくわかる!
「これはおいしい……おいしすぎやああ……!」
感動のあまり、関西弁になっていることにも気付かないありさまだ。
しかし、勝負は始まったばかり。閉店時刻までのペース配分を考えつつ、美穂の焼肉バトルが幕を開ける!
「とりあえず、ビールとタン塩だな」
タダ肉とタダ酒に呼ばれた気がして、桝本侑吾(
ja8758)も店に来ていた。
好き嫌いのない侑吾だが、焼肉屋の定番は守っておきたいところである。
そう。焼肉で最初に焼くのはタン塩。それが正しい作法だ。
ほどよく焼けたところで口に入れれば、じゅわっと広がる肉汁の味。
そこへビールを流し込めば、それはもう至福の一瞬!
でも「プハーッ」とかやらずに、侑吾は淡々と品定めをはじめる。
「さて、早速だが日本酒に移るか。この時期だから冷やだな。肉に合わせるのなら辛口がいいけれども、ここはどうなんだろうか」
見れば淡麗辛口の吟醸酒があったので、それを選択。
あとは、全種制覇の勢いで肉を持ってきて焼きまくる。
「ん、うまい。この特上カルビは、いくらでもいけるな」
ぼんやり呟きつつ、水みたいに酒を飲む侑吾。
今日は普通の酒なので、いくら飲んでも酔いやしない。
たちまち積み上げられてゆく、皿の山と一升瓶。
「いい肉は、炙る程度がおいしいよな」
と言いながら、超レアでカルビを口に入れる侑吾。
こう見えて、じつはグルメなのだ! 焼く時間がもったいないからではない!
そのころ、如月優(
ja7990)は物凄い勢いで肉を喰っていた。
彼女がこの依頼に参加したのは、腹を満たすためではない。
肉を食べれば胸が大きくなるからだ!(注:個人的な思い込みです)
「カルビも…うまい……」
「ハラミも…うまい……」
「タレも…なかなか……」
「しゃべるのも…もどかしい……!」
狂気じみた呟きをもらしつつ、淡々と肉を貪る優。
なにかの決意を胸に秘めたその様相は、ただごとではない。
「……って、優がめっちゃ食べてる!? こっち食べる余裕ないレベルなんだけど!?」
イリヤ・メフィス(
ja8533)が、冷静に突っ込んだ。
そもそも優に誘われて参加したイリヤだが、相棒の圧倒的な食欲を前に唖然とするばかり。
「なにを怯えているのか知らないが……その乳がけしからんのだから仕方ない!」
謎の言いがかりをつける優。
ふだんはおっとりした性格の彼女だが、貧乳コンプレックスを刺激されるとブチギレてしまうのだ。
「いや、乳って関係ないわよね……?」
「関係は大ありだ! 見るがいい、その巨乳を! あちこちにいる巨乳を! あの巨乳を! とにかくあの巨乳を! あやかるには、がっつり食べるしかない、そうだろう!?」
錯乱しながら肉をほおばる優。
「えーと。胸がおっきくなる前に、おなかがおっきくなるんじゃないかなぁ。脂肪的な意味でも。……い、いやまぁほら? もしかすると胸にだけ集中するかもだけど?」
ナチュラルにケンカを売って死亡フラグを立てていたことに気付き、必死で回避するイリヤ。
「というか、野菜も食べようよ! なんで肉ばっかりなの!? てゆか、なんで食べ放題依頼に来たのかな!?」
「牛にまつわる店は、胸が大きくなると……風の噂的なもので、聞いたからな……! 胸に入っているのは脂……そう、脂……! 親父! トントロ山盛りで!」
カッ!と目を輝かせる優。
でもセルフだから、持ってくるのはイリヤの仕事だ。
「ええい! 負けてなるものですかー!」
ここでついに、イリヤが本気を出した。
両手に箸を持ち、金網の隙間を利用して肉を焼き、喰らう!
一方、優は肉をほとんど焼かずに喰っていた。
「牛肉は…半生が……最高だ」
真顔で呟く優は、もう色々ダメだった。
そんな彼女の様子はバッチリ撮影されており、『JOJO亭の焼肉を食べれば、こんな貧乳もみごとな巨乳に!』などと、インチキな宣伝に利用されてしまうのであった。
という具合に賑わう店内だが、ナナシ(
jb3008)は一人で肉を焼いていた。
そう、彼女もボッチ客の一員。
ある調査によれば、ボッチ女性の焼肉屋行きは相当な難易度を誇るらしい。
が、歴戦の勇者であるナナシにとっては、さしたる問題ではない。
学園に来て2年近いのに友達は少ないけど、そんなことは気にしない! 大天使だって、ひとりで倒すぜ!
4人がけのテーブル席を1人で占拠したナナシは、かたっぱしから肉を焼き、食べまくる!
少量ずつ食べることで、メニュー全制覇が目標だ。
非常事態にそなえて、愛用の戦鎚も横に置いてある。ぬかりはない。
幸せそうに肉をほおばるナナシは、とてもソロ戦士とは思えないほど輝いていた。
そこへ、撮影班が登場。
「こんにちは。今日はおひとりですか?」
「えっ? あ〜〜……あれよ、うん。この焼肉屋には、女性一人でも入れる気軽さがある。そういうことをアピールするのも重要だと思うわ!」
マイクを向けられて、必死で答えるナナシ。
みごとな切り返しだが、ぼっちはぼっち!
同時刻。華麗に焼肉を満喫するBeatrice(
jb3348)も、孤独なぼっち……もといソロ焼肉戦士だった。
だが、彼女には友達がいないわけではない。宣伝のためにはグルメな解説と画面映えする美女が欠かせぬだろうと考えて参加したのだ。断じて、焼肉食べ放題に釣られたわけではない! 断じて!
「別に焼肉を食べに来たワケじゃなく、お店の宣伝のために来たのぢゃ!」
地の文だけでは足りず、セリフでも主張するBeatriceちゃん。これぞツンデレ。
「ほれ、撮影班。こっちへ来るのぢゃ。美しい妾が、エレガントに宣伝してやるのぢゃ」
「あ、はい」
言われたとおり、撮影スタッフが寄ってきた。
カメラを前に、Beatriceは解説しながら肉を焼き、食べまくる。
「うん、うまい肉ぢゃ。いかにも肉って肉ぢゃ」
解説になってるのか、これ。
だが、調子に乗りすぎてテーブルが肉だらけに。
「とんでもないことになってキタ! 焼肉は段取りが肝心。焦がさずに焼くのぢゃ!」
あきらかにペース配分が乱れているが、もしかすると大食い大会と勘違いしてるのかもしれない。いや確実に勘違いしてる。
「撮影されるだけで焼肉無料とは、なんと気前の良い店なのでしょう」
と言いながら、平田平太(
jb9232)はすみっこの席に陣取った。
座っていても始まらないので、まずは肉を調達だ。
「セルフサービス、なかなか見ない形式ですね……。しかし人件費をおさえたせいか、なかなか良い肉をそろえているようです」
とりあえず一通り味を見ようと、カルビ、ミノ、ハラミ……色々すこしずつ皿に取る。
そして席に戻り、いざ開戦。
たちのぼる煙。とろける脂。泡立つ肉汁。
こんなもの、うまいに決まっている。
「はふはふ……うん、おいしい肉、肉肉だ、うん、どれもおいしい」
うまいものを食べると、皆そろって語彙が貧困になるようだ。
しかも、平太は重大な事実を忘れていた。
「しまった、ごはんもセルフか! ここで立つと、肉が焦げてしまう……!」
焼肉といったら白い飯だろうが……。
でも、肉をストレートで食べても十分うまい。
次は忘れずに白飯をよそってきて、肉と一緒に……
「くー、うまい! やはり日本人なんだなぁ……」
しみじみと語る平太。
それを撮影するスタッフたちは、うんうんとうなずくのだった。
ソロ焼肉戦士たちが、孤独な戦いを強いられる中。
未来もまた、ひとりで肉に立ち向かおうとしていた。
「ロースやカルビがうまいのは当然やねん。店の実力が見えるのはホルモンや!」
というわけで、レバー、ミノ、ハツ、マルチョウ、ハチノス、ギアラ、さらに一番好きなシビレと、各種そろえて味見……と行きたいところだったが、あいにくJOJO亭にはミノとレバーしかなかった。まぁホルモン屋じゃないしな。
「なんや、品揃え悪いなぁ。……まぁええわ。せっかくの食い放題や。全力で食ったる!」
ごはんは食べず、肉、肉、サンチュ。そして、肉、肉、サンチュが未来のポリシー!
「うん、これはええミノや。まずいミノはゴムみたいやからなあ」
うなずきながら肉を食う未来。
おお、ここにも孤独なグルメの人が。
そんな焼肉祭りの中、円城寺遥(
jc0540)は席にも着かず片付けを手伝っていた。
不良っぽい身なりだが、汚れたテーブルを拭いたり、あいた皿を返却口に運んだりと、店員みたいな働きぶりだ。
「あんな撃退士もいるんですねぇ」
撮影スタッフが、感心したように呟いた。
あえてインタビューには行かず、マメに働く姿をカメラに収める方向らしい。
店の宣伝にはならないが、撃退士のイメージ向上にはなりそうだ。
とはいえ、皿の片付けだけでも重労働。なんせ、鯨飲馬食という言葉にふさわしい人が何人もいる。
こんな役を買って出た遥は大したものだが、すなおに焼肉食べてたほうが……
「いや〜。お肉が食べれて報酬がもらえるなんて、素晴らしい依頼だね」
不破十六夜(
jb6122)も、多くの参加者と同じ動機で参加していた。
「久遠ヶ原って、ときどき謎の依頼が来るわよね」
応じたのは、矢吹亜矢。
「このまえは散々だったし、気晴らしにどうかな〜と思って誘ったんだけど……迷惑だった?」
「え、全然。焼肉大好きだし」
「ならよかった。さっそく食べよう」
というわけで、卍も含めた3人での焼肉祭りが始まった。
十六夜が好んで食べるのは、コブクロやハチノスなどのホルモン系。しかも撃退酒つきだ。
「ここって良いお店だと思うけど、壁に飾ってある石仮面が気になるんだよねー」
などと言いながら、大声で笑う十六夜。
どうやら酔ってきたらしく、「亜矢さんのストリップショーが見たいなぁ」とか言い出す始末。
亜矢も亜矢で完全に酔っぱらってるので、「よーし、やったるわよ」と躊躇なく脱ぎ始める。
「おいこら! その貧相なモノをしまえ!」
卍が怒鳴った。
「だれがまな板よ!」
「グワーッ!」
亜矢の手から無数の手裏剣が飛び、卍を蜂の巣にした。
つづいて、十六夜のスタンド攻撃。
「乙女の柔肌を覗こうなんて、無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!」
「アバーッ!」
こうして卍は、またしても病院送りに。
そんな騒ぎから離れたところで、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)と川内日菜子(
jb7813)は普通に焼肉をたのしんでいた。
だが、ラファルの辞書に『普通』などという言葉はない。というより、最初から辞書など持ってない。
普通に飲み食いしてるフリをして、撃退酒をラッパ飲み。
さらに、日菜子のジュースにも撃退酒投入。
やがて、そこには二人の酔っぱらいが出来上がっていた。
「ひなちゃんのパイオツかいでー!」
酔った勢いでハクスラもといセクハラに及ぶラファル。
なんと、いきなり全裸になるという直球セクハラだ!
「お、おお、ラル……」
規律と道徳を重んじる、普段の日菜子はいなかった。
そう、彼女は酔っぱらうと愛欲を求めて暴走してしまうのだ!
ああ、この子もついにキャラ崩壊か……。ラファルとつるんでる時点で、いずれこうなる運命だったが……。
「いくぜ、ひなちゃん! 奥義・真空おっぺがしカーニバル!」
すごい技名を叫び、両手に箸を持って突撃するラファル。
説明しよう! 真空おっぺがしカーニバルとは!
時間がないから、また今度!
しかし、今日の日菜子はいつもの日菜子ではなかった。
「愛の力が、私の内なる力を目覚めさせた……!」
とか言いながら、軽々とラファルの攻撃を回避。
そして意図的に魔装コストをオーバーすると、生命力をわざと減らして『想いの力』を発動!
そこから放たれるのは、渾身の炎打蹴!
「グワーッ!」
全裸で吹っ飛ぶラファル。
なんか見えてはいけないものが見えてる気がするが、大丈夫! いつものあれで見えてないよ! 見えてない見えてない!
「ラル……おとなしく私のものになれえええっ!」
なぜか持ってた手錠を取り出すと、日菜子はラファルの手足を拘束した。
「珍しく積極的じゃねーか、ひなちゃん」
「ラルが……ラルが悪いんだぞ! 男らしく責任をとれ!」
「俺、男じゃねーけど」
「だまれ! 今日という今日は、好きにさせてもらうぞ! まずは『あーん』しろ! 私の手から焼肉を食べるんだ!」
「せっかく俺の自由を奪ったのに、そんなんでいいのかよ」
「く……っ。千里の道も一歩からだ! さっさと『あーん』しろ! 私の育てた愛情あふれるカルビを、思う存分食べさせてやる!」
「はい、あーん」
「よ、よし……いくぞ!」
ここから閉店まで、ずっと日菜子のターン!
やったね!
「おい、聖歌。それまだ生焼けだぞ。……こら千速。焼き肉用の肉を焼かずに食べようとするな。……それと啓音。野菜も食え野菜も」
年長者としての気配りをしつつ、智美は智美なりに焼肉を堪能していた。
生で肉を食べようとする聖歌と千速にはツッコミをいれ、野菜を食べない啓音の皿には野菜をつっこむ。そんな作業をこなしながらも、きっちり肉を食べるのは忘れない。
「大丈夫大丈夫、牛肉だし問題ない。……だが千速、豚肉は火を通して食え。危ないだろ」
自分のことは棚に上げ、千速の箸から肉を奪い取って金網に押しつける聖歌。
たぶん撃退士なら生で食べても大丈夫だが、万が一ということはある。
「はーい。……って、啓音も肉と一緒にピーマン食べろよ、生玉葱よりは食べれるだろ」
しっかり焼いた豚ロースを食べながら、啓音の皿にピーマンをぶちこむ千速。
肉大好きな啓音は正直なところ野菜など食べたくないのだが、聖歌や智美が見ている以上は食べないわけにいかない。やむなくニンジンやシイタケは食べていたのだが……ピーマンは無理だった。
「……」
どうにかごまかそうとして、そっとピーマンを金網にもどす啓音。
だが──
「啓音! ピーマンをもどすな! 食えないわけじゃないだろ!」
「う……」
あっさり聖歌に見つかってしまい、啓音は固まった。
たしかに食べられないことはないが、苦手なものは苦手なのだ。
やむなく何枚もの肉でピーマンをつつみ、口へ放りこむ啓音。
「た……食べたぞ。これで文句ないよな?」
本当はピーマンよりもタマネギのほうが苦手なので、それを食べろと言われないよう啓音は必死だった。
「よし、えらいぞ」
と言いながら、聖歌は凄い勢いで肉を食べている。
焼くのが追いつかないほどだが、ほとんど生で食べてるので問題はない。(
そんな和気藹々(?)焼肉パーティーの中、千速は「のどがかわいたなー」とジュースを取りに行った。
そこには、ふつうのドリンクバーに混じって撃退酒が並んでいるではないか。
「これって……」
興味本位で手をのばす千速。
そこへ、智美の声が飛んだ。
「撃退酒は禁止! おまえら、これが宣伝用の依頼だってことを忘れるな!」
新年会の惨劇を経験した者として、酒癖のわからない者に飲ませる気のない智美。
「は、はーい」
千速はビクッと手をひっこめて、すなおに麦茶を取った。
なんせ、智美を怒らせると後が怖い。
「そうそう。若いからって無理したら、のちのち差し障るしな」
なんだかんだで、毎度面倒見の良い智美。
セルフの肉を持ってきては焼き、持ってきては焼き。サンチュでくるっと巻いては、千速と啓音の皿に置いていく。
「依頼中はともかく、平時は食事と睡眠しっかりとれよ。栄養バランスも考えて、肉と野菜を一緒にな」
「……それで言うと、依頼で飛びまわってるおまえは、かなり取れてないことになるぞ」
聖歌が冷静に指摘した。
「問題ない、相談中は無理してないからな。ときには、こんな依頼もあるし」
笑顔で答える智美は、いつになく満足げだった。
「いっぱい食べて、大きくなる! がんばって大きくなる!」
煙の立ちこめる店内に、涙目で肉を貪る少女の姿があった。
名前は、夜雀奏歌(
ja1635)
なにを大きくしたいのか……それは彼女の名誉のためにも言えない。
言えないが、奏歌の視線が緋流美咲(
jb8394)の胸に注がれているのを見れば、一目瞭然。
「ところで美咲さんは、お肉食べないのです? ……はっ、すでに十分すぎるほど大きいから食べる必要がないという自慢ですかっ!?」
「ち、ちがいますぅ……。これは修行! 修行なのです!」
なんの修行なのか……それは美咲の名誉のためにも(ry
まぁ一言で言えば、ドM道の修行だ。……って、言っちゃったよ。
「私は食べないので、このお肉をあげますね。たくさん食べて、大きくなってください♪」
自然に胸を張りながら肉を差し出す美咲。
奏歌は「く……っ」と唇を噛みながらも、明日のために焼肉を食いつづける。
「じゃあ、おかえしに……奏歌の大きなソーセージをあげる♪」
太くて長い立派なソーセージが、美咲の口元に突きつけられた。
それでも美咲は食べようとしない。そう、これは修行なのだ!
「あぅっ! あぅぅぅ……!」
撃退酒を飲みながら、怪しい声をもらす美咲。
彼女は肉を金網に置いては、脂を流して焼け縮むのを見て、それを自らの肉体と重ねて妄想しているのだ。
「ああ……お肉が悶え苦しんでる……! はぅぅ……!」
すでに火が通った肉を、箸で持ち上げては下ろすという作業をつづける美咲。
そのたびごと、肉はジュゥゥッという音をたてて焼け焦げていく。まるで火炙りの刑だ。
「ひと思いにはイかさない……意識を保ちながら苦痛を与えられるのです……はぁぅ……」
美咲が自分の肉を焼く日は近そうだな……。
「ううう……。胸ある人は良いですよね……! その胸をよこせー!」
いつのまにか撃退酒を飲んだ奏歌は、『ハグ揉み魔』と化して美咲に飛びかかった。
「はぁぅぅ……っ! ダメですぅぅ……っ!」
「こ、この、極上メロンパンのような感触……! こんなもの……こんなもの……っ! 私によこせえええっ!」
荒ぶるアホ毛。
美咲はソファに押し倒されたまま、ドMの快楽に溺れるのだった。
「焼肉たのしみだね、映姫」
「うん。たのしみだね〜、桜花〜♪」
桜花(
jb0392)と東風谷映姫(
jb4067)は、手をつないでやってきた。
おお、久遠ヶ原でも屈指の変態であるこの二人が、最初からタッグを組んでくるとは……蔵倫終わったな。いや、俺のMS生命が終わったな。
さておき、ふたりは隣同士に座ると普通に焼肉をはじめた。
あーんしたり、あーんされたり。桜花は映姫の指をぺろぺろしたりしてるが、その程度だ。
いたって健全! 桜花に至っては、鼻血さえ出してない。
う……うそだ! 流した鼻血の量イコール経験値の桜花が!
でも大丈夫! 本番は撃退酒を飲んでから!
「なんだか暑くなってきたなぁ……」
とか呟いて、上着を脱ごうとする桜花。
しかし、それより少し早く! 突進してきたのは、江沢怕遊(
jb6968)!
「え、怕遊? なにか、いつもと様子が……」
言いかけて、桜花は気付いた。怕遊が酔っぱらっていることに。
じつは怕遊ちゃん、『おー、食べ放題ですよ♪』と喜んで参加したものの、デザートの種類が少ないことにショックを受けてヤケジュースとばかりに飲んだものが、撃退酒のカクテルだったのだ。
しかも、今日の怕遊は一味ちがう。以前の彼は酔っぱらっても誰かに抱きつきたがるだけだったが、先日の依頼で目覚めてしまったのだ。──そう、他人を強引に異性装させる喜びに! 撃退酒の力で欲望が解放された怕遊は、いつものおかえしにと桜花を選んだのだ。
「おー、覚悟です桜花さん! 今日こそ、受け責め逆転! きっと男装も似合うのです!」
発言がカオスってるが、酔っ払いだから仕方ない。
しかし、異性装させるということは相手の服を脱がすことでもあって、色々やばい。
けれど、怕遊に邪心はないのだ! ただひたすら異性装させたいだけ! 罪のない変態だ!
いくぜ、怕遊のターン!
と思った直後、桜花は勝手に脱いでいた。
だって暑いし。
「お、おおーー!?」
予定外の展開に、とまどう怕遊。
だが、桜花にとっては計画どおり!
「ねぇ怕遊。ここにいるってことは、お肉好きなの? 私も好きだよ〜♪ ねぇ……私のお肉も、食・べ・て?」
「ふわぁぁぁ……っ!?」
生乳を押しつけられて、奇声をあげる怕遊。
「どうしたの、怕遊。あそこのカメラさんも、ドラゴン相手に頑張ったんだよ! きみがおっぱいに怖気づいてどうするの! さぁ!」
「はわぁぁぁ……っ!」
そんな混沌状況を、さらに混沌へ突き落とすべく、やってきたのは山里赤薔薇(
jb4090)
彼女は焼肉食べ放題に釣られて参加したものの、面識のない人が多くて動けずにいたのだ。
しかし、絶望的な空腹感が彼女を動かした。
なんと赤薔薇は、みずからの額に『肉』と書き込むや、桜花たちのテーブルへダイブしてきたのである。
「ひゃっほう〜〜〜!! 肉だ肉だ肉だ肉だぁ〜〜〜!!」
どうかしてるとしか思えないテンションで、肉と言わず野菜と言わず、なにもかもをコンロにぶちまける赤薔薇。
それを生焼け状態のまま、タレもつけずにかっこむ。
「ひょおおおお!! うめえええええ!!」
うまいはずないだろ……なにかクスリとかキメてないか、この人。
それとも、ふだんからこのテンション??
「そこの女の子たち! 肉はうまいな! サイコーだよなああ!?」
「お、おお……」
怕遊はすっかり酔いが醒めていた。
なんてこった。撃退酒で気分アゲアゲだったのに、シラフの赤薔薇に負けるなんて!
「よーし! お近づきの記念に、焼肉を百倍おいしく食べる方法を伝授しよう! こうして、こう……」
「ふぬえええ……っ!?」
ヘッドロックをかけられて、額に『肉』と書かれてしまう怕遊。
さらに生焼け野菜を無理やり喉に突っ込まれて、窒息KO!
こ、これはひどい。
おかしいな……赤薔薇のプレイングには『人に迷惑かけないように頑張る』って書いてあるんだけど……目の錯覚か?
しかし、上には上がいる!
毒(変態)は毒(変態)をもって制す!
「プッハー! 撃退酒おいしいですね〜! さあ〜て、狩り(おさわり)の時間ですよ〜♪」
映姫は赤薔薇の背後に回りこむと、おもいきり抱きついた。
もちろん、どさくさに紛れておっぱいを揉むのは忘れない。
「赤薔薇ちゃ〜ん、たのしんでる〜? おねえちゃんと遊ぼ〜♪ 百合百合にしてあげる〜♪」
「うえーーーい! ネーチャン、ビールビール! ぶはぁ!!」
まるで意に介さず、ジョッキをあおる赤薔薇。
って、あなた未成年……いや、ノンアルコールだよな、いまのは!
しかし、その直後。
豪快に後ろへひっくりかえった赤薔薇は、映姫を押し潰しつつ失神!
「んどぅふふふ……少年少女3人が、目の前で気絶……。これは来た……私の時代来たでぇぇぇ!」
全身の穴という穴から鼻血を噴き出して光纏する桜花。
この続きは、とても書けない。
「この肉うまいわー。日本酒も最高やー」
「ごきげんだな、海魔の姉ちゃん。ほら、もっと飲め」
将太郎は一升瓶をかかえて、カナロアのドンブリに酒を注いだ。
カラになった瓶が何本も散乱しているが、ふたりとも酔った様子はない。
積まれた皿は塔みたいになってるが、まだまだ食べそうだ。
そこに、恋音と雅人がやってきた。
「えとぉ……こんにちは、カナロアさん。撮影のときは、お世話になりましたぁ……。一杯いかがですかぁ?」
「おお、これに注いだって」
と、ドンブリを突き出すカナロア。
恋音は一抹の不安を抱きながらも、なみなみと撃退酒をそそぐ。
「よし、いくでえ」
躊躇なく一気飲みするカナロア。
「あふえ……? あふえへへ……」
カナロアの手から、ゴツッとドンブリが落ちた。
なにかとんでもないことが起きる予兆。
一瞬後、カナロアの両腕が触手と化して恋音に襲いかかった。
「え、ええ……っ!?」
「ウチ、人間の女の子が好きやねんー。たっぷりかわいがったるでぇー?」
「そ、そんなぁぁ……っ!?」
荒れ狂う触手!
蔵倫大爆発!
やったね恋音! 誕生日おめでとう!
「カナロアさん、おちついて! 冷静になってください!」
毅然とした態度で、止めに入る雅人。
「男は引っ込めやー」
枝分かれした触手のひとつが、すぱーんと雅人を薙ぎ飛ばした。
「アバーッ!」
窓をブチ破って飛んでいく雅人。
ああ、恋音の運命やいかに! 見ればわかるけどな!
「よくわからねぇが……あの海魔の姉ちゃんに飲ませたらダメらしいな」
冷静に状況を判断する将太郎。
彼は静かに席を移動し、安全な場所で焼肉と酒を堪能するのだった。
そんなこんなで、とくに波乱もなく閉店時刻となった。
機能停止してる人が数名いるが、命に別条はない。
ところどころ存在するR18シーンも、編集で削除されるだろう。
まちがっても一般に公開されることはないから大丈夫!
今後とも、JOJO亭をよろしく!