「というわけで、さあ行くわよ!」
「なにが『というわけで』なんだかな……」
メモ帳片手に突撃する亜矢を、卍がしぶしぶ追いかけた。
イベントの企画を学生たちに丸投げするという、この計画。はたして成功するのか?
● 陽波透次(
ja0280)
廊下の隅で、猫きぐるみを着てアシモンのぬいぐるみを作っている男がいた。
首から下げているのは、『アシモン係』と書かれた画用紙。
「く、暗いわね」
一瞬ひるむ亜矢だが、目的を説明して取材開始。
『イベントの企画ですか……。夏なので涼しいイベントはどうでしょう』
透次は画用紙で筆談をはじめた。
『たとえば肝試し。お化け役と探索役に分かれ、夜の校舎で……。スキルを使えば色々と怖い演出もできますし、盛り上がると思います。吊り橋効果とか吊り橋効果とかで、友達をゲットできるかも……』
「肝試しね。いいかも」
『あとは、スカイダイビングバトルなんてどうです? パラシュートぶち抜かれて全速落下とか、超ゾクゾク! 僕生きてる!(涼やかー)ってなれそうですよね。落下の風圧で、おっぱい感触とか』
「あんた、カートレースでそれやって事故ったでしょ」
『事故りましたが、後悔はしてません! どうですか、スカイダイビングバトル!」
「絶対無事で済まないわよ、それ」
『あの感触のためなら、僕は重体も辞さない覚悟です!』
「ま、まぁ考えてみる」
● 下妻笹緒(
ja0544)
「あ、パンダだ。ちょっといい?」
笹緒を見つけて、亜矢は駆けだした。
「……ふむ。イベント案を募っているのか。ならば知恵を貸そう」
「さすが園長」
「いいか? イベントと言えば、いつも決まってスポーツだレジャーだグルメだエロだと遊んでばかり。たしかに、たまにはハメを外すのも良い。しかし、常時それでは人間堕落する一方だ。……であればこそ自分は、久遠ヶ原学園のためになる、至極まっとうなイベントを提案したい。……その名も、『新しい校歌をつくろう』! コレだ!」
「校歌?」
「そう、校歌だ。そもそもこの学園に、校歌は存在するのかしないのか。存在するのであれば、一体どんな歌詞なのか。すべては不明。そこで新しく校歌を作ってしまおうというのが、このイベントの趣旨だ。集まった面子がひとりワンフレーズずつ歌詞を考え、それらを強引につなぎあわせて一つの歌にしようという、斬新な企画!」
「ぐぐればわかるけど、校歌はあるわよ」
「なにっ!? ……ならば、その校歌を上回る歌を作るのだ! そう、いまこそ皆の心をひとつに!」
「ちょっと無理があるかなぁ。また今度ね」
● 龍崎海(
ja0565)
「そこのお医者さん。アンケートいい?」
海の姿を見かけて、亜矢は話しかけた。
「アンケート?」
「そう。どんなイベントやりたい?」
「ふむ……」
海は少し考えると、答えを口にした。
「この時期なら海がいいかな? 海と言えば、やっぱり泳ぐことだよね。純粋に水泳で勝負するってイベントは今まで見たことない気がするから、それをやってみたらどうかな」
「たしかに、真剣な水泳バトルって見ないわね」
「だろう? でも普通に泳ぐんじゃ面白くないし、トライアスロンとかどうだろう。攻撃以外のスキル使用OKってのは、撃退士らしいと思うんだ」
「あぁ、結構たのしそうね」
「それから、たまには撃退士らしく本気でバトルもやりたいな。矢吹さんたちにそういうのを求めても無駄かもしれないけど、個人的に倒しておきたい相手もいるし」
「バトルねぇ。都合よく敵が現れるとは限らないけど、覚えておくわ。じゃあまたね」
メモをとると、亜矢は次の取材相手をさがしにいった。
● 鷺谷明(
ja0776)
「ほう……イベントの企画、か」
説明を聞いた明は、にやりと微笑んだ。
「では、闇鍋はどうかな? 闇鍋。ぶんかまつより続く、久遠ヶ原の伝統だよ?」
「なんて季節はずれな……」
「なにを言う。鍋に季節などない。一年中、いつでも、どこでも、だれとでも、鍋。これが久遠ヶ原の流儀だ」
「酔狂ねぇ。……でも、闇鍋っても色々あるじゃない?」
「変に手を加える必要はない。超巨大鍋を用意して、参加者それぞれが好物を持ち寄り鍋に入れるという、オーソドックスな形式で良い。会場は完全な暗闇として、暗視鏡などの持ち込みは不可にしよう。どうしても装備したいなら、隠して持ってくること。ただし見つかったら罰ゲーム。これでいこう」
「どうせみんな、まともな食材持ってこないわよ?」
「それもまた一興……。そして闇鍋は繰り返される。覚えておけ、闇鍋はフォーエバー。エターナル。エンドレス……!」
「どんだけ闇鍋好きなのよ……。まぁ近いうちにやるから待ってて」
「期待しておく」
● 夜雀奏歌(
ja1635)
さかのぼること数日前の、クラブ棟。
その一室で、3人の学生が向かいあっていた。
平等院、明日羽、そしてメロンパン中毒の少女である。
「おねがいです。もうすこし、身長とか……綺麗になりたいのです。平等院さんの力で、なんとかなりませんか?」
「そんな薬は既にあるぞ」
「あれではなくて……。完全に望みどおりの姿になれる薬……作れませんか?」
「ふ。よかろう。この平等院に、二度の失敗はない!」
というわけで、試作品が完成したと聞いてメロンパン少女は本日ふたたびクラブ棟にやってきたのだ。
ちなみに、友人を2人つれてきてある。
そこへ手渡されたのは、『薬』ではなく『箱』だった。
「箱……?」
少女たちは顔を見合わせた。
「そう! 前回の薬を改良してガス状にしたものが、中に充填されている。開けてみるがいい!」
平等院に促されて、おそるおそる箱を開ける3人。
ボフン……ッ!
真っ白な煙が立ちこめた。
見れば、依頼人の少女は身長が半分に、全身包帯の少女は全身筋肉のマッチョボディに、日本刀を携えた少女は幼児退行して「あーうー♪」言っていた。
「……ふむ、これではまだ、なんとも言えんな」
と、平等院。
「もっと大勢で治験したら?」
明日羽が提案し、恐怖(?)の実験が再び……!
● エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
「そこの手品師! 一時停止!」
エイルズを見つけて、亜矢は駆け寄った。
「なんです? いま急いでるんですが」
「すぐ終わるから! あんたのやりたいイベントを教えて!」
「やりたいイベント、ですか。……というか、これまで行われてきた数々のイベントを振り返るに、よく考えると一つだけ、まったく結末が付かず宙ぶらりんで放り出されていて、気になってるものがございます」
「え。なにそれ」
「それはズバリ、海獣王●ジラです。あれ、たしか、ほったらかしで野生を謳歌してますよね? どうにかしたほうが良くないです? このまえ海に遊びに行ったとき、好き勝手に暴れまわってましたけど、その場に大勢いた撃退士は誰も戦おうとしてませんでしたよ? 大半の人は、●ジラが暴れまわってるのを横目にグースカ寝てる始末。……いや、僕はウニボロを倒すのに忙しくて……すみません、時間がないのでここまでです! また今度!」
そこまで言うと、エイルズは全力で走り去った。
● 浪風悠人(
ja3452)&浪風威鈴(
ja8371)
「そこのふたり! ちょっといい?」
次に亜矢が捕まえたのは、悠人と威鈴だった。
説明を聞いた二人は、おもわず顔を見つめあう。
「イベントの企画だって。威鈴、なにか思いつく?」
「イベント……なにか良いの……あるかな……」
ふだん自分から何か提案することなど滅多にないため、困惑する威鈴。
なにか答えなければと思い、彼女は必死で提案を絞り出す。
「……参加者全員で、着ぐるみを着て……どれが一番かを選ぶっていうのは……どう、かな……?」
「着ぐるみコンテスト? いいわね」
うなずきながら、亜矢はメモ帳に書き込んだ。
「あとは……山で野鳥観察とか……」
「山はいいね! ついでにキャンプはどうかな? あと、植林の林業体験とか」
悠人が、威鈴の提案を後押しした。
「キャンプ……鹿とか猪のお肉に、山菜ごはんとかで……猟師のごはんを、作ってみたり……」
「いいね。あと、山ってけっこう天魔が出没するから、登山客の安全のために俺たちが見回りとか。天魔だけじゃなく、熊なんかの害獣も警戒しておきたいね。遭難者防止で、道や標識の安全確認をしたり、地図や山小屋を作ったり……」
「山で怪我してる……動物の保護とかも……」
「山だけじゃなく、海もいいよね。漁業体験したり、ダイビングとかヨットとか……潮干狩りも楽しいかも。……あ、川もいいな。川べりで水遊びしたり、魚を釣ったり、カヌーで渓流下りとか……」
「待って待って! 提案多すぎ!」
意見を出しまくる二人を、亜矢が止めた。
「あれ。多すぎました? 畑や田んぼのお手伝いなんかも考えたんですけど。天魔の襲撃で荒らされた地域の復興も兼ねて」
「地味だけど、撃退士のイメージUPになるわね。ついでに、あたしのイメージもUP」
勝手なことを言ってメモする亜矢。
「夏だから……海でも、山でも……自然とふれあうイベントが……いいと、思うの……」
威鈴が言い、悠人が「うんうん」とうなずいた。
「了解。とりあえず山ね。海は飽きたし」
メモ帳に大きく『山』と書いて、亜矢は去っていった。
● 桝本侑吾(
ja8758)
「そこのバッシュ兄さん。ちょっと時間くれる?」
亜矢が話しかけると、侑吾は眠そうな顔で振り向いた。
「……俺が参加したいイベント? そりゃ飲み会だろ。よくあるとか言うかもしれないけれど、結局そういうのが一番需要あるんだよ。定番ってやつだな。だいたい、宴会は春夏秋冬いつでもできるもんだ。交流もできるし、状況と行動次第ではカオスにもなる。そういう意味でも、自由度が高いのがいいな」
「飲み会なんて頻繁にやってるじゃない。それに、あたし未成年だからさぁ」
「未成年には撃退酒があるだろ? それに、いつでも飲み会イベントがあるようなことを言うけれど、案外ないもんだぞ。いま教室に、どれだけそういう依頼が並んでるんだって話だ」
「言われてみれば、そうね」
「だろう? あとは、酒類が多ければ完璧だな。たとえば利き酒なんかもいい。……ん? 俺が酒飲みたいだけだろって? そのとおりだ。なにが悪いんだ。……まぁ、非情さが出るようなイベントでもいいけれどさ」
単に酒が飲みたいだけの侑吾であった。
ある意味、一番ただしい。
● ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)
「話は聞いたよ。ネタ切れでも遊びたいとは……うん、元気だね♪」
ジェラルドが声をかけてきた。
「出たわね、ナンパ師。聞いてたなら話が早いわ。さぁ提案して」
「そうだねぇ……では、王道こそ盛り上がる、ということで……武闘大会はどうだろう。何回かに分けて、久遠が原で一番の脳筋……もとい、戦士を決める……とかね♪ 実力者も多いし、盛り上がるんじゃない?」
「直球だけど、名案かも」
「……あ、ボクは審判か司会で。美男美女が死力を尽くして悶える姿を見ていたいな♪ ヴァイオレンスとエロティシズムは、エンターテイメントの基本だよね☆」
さらっと言って、さわやかに微笑むジェラルド。
そして、思いついたように彼は続ける。
「そうそう。楽器やボーカルできる人も多いから、音楽祭もいいかもね♪ 歌詞を作るのも悪くないし……そういう場はナンパもしやs……盛り上がって仲良くなれるしね♪」
「結局、ナンパが目的なのね」
溜め息をつく亜矢。
しかし、武闘大会というのは心惹かれる企画だった。
● 月乃宮恋音(
jb1221)&袋井雅人(
jb1469)
「次は、あの変態カップルね」
気の進まない顔で、亜矢は二人に話しかけた。
「……おお……こんにちは、ですよぉ……」
「こんにちは、亜矢さん! 今日は何の依頼ですか?」
応じる二人に、亜矢は状況を説明した。
「やってみたいイベント、ですかぁ……。でしたら、例のサプリを使ってぇ……治験を兼任したイベントを開くのは、どうですかぁ……?」
おずおずと提案する恋音。
亜矢は「はぁ」と溜め息をつく。
「あんたは、そんなに校舎を破壊したいの?」
「そ、そういうわけでは……。ただ、個人的に平等院さんの実験に協力してましてぇ……色々な種類の薬が、たまってきているのですよぉ……。その中には、『半動物化』や『異性化』など……ほかのイベントと組み合わせられるものがあるのでぇ……たとえば、『異性化』+『コスプレ』など、色々できるのですよぉ……」
「変態どもが喜ぶだけよね、それ」
「そ、そんなことはないと……思いますよぉ……」
「まぁ一応、平等院に訊いておくわよ。……で、変態仮面は提案ないの?」
亜矢が雅人に話を振った。
待ってましたとばかりに、雅人の目が輝きだす。
「よくぞ聞いてくれました! 私が希望するイベントは、ずばり『SMコンテスト』ですよ!」
「はァァ!? そんな企画、とおると思ってんの!?」
「ええ、なんの問題もないはずです! なぜだか数多の変態というか、SとMが集まってしまった久遠ヶ原! その中でも誰が『キング・オブ・ヘンタイ』なのか、明日羽さん主催及び審査員で決めましょう!」
「却下よ! 却下! そんなの、蔵倫の嵐でしょうが!」
「いいえ! 私が提案するのは、いたって健全なSMコンテスト! どこまでも健全! 200%健全ですよ!」
「優勝筆頭候補のあんたが、なに言ってるの!?」
「やればわかります! きっと健全なSMコンテストが……!」
「あるわけないでしょ!」
「みんなを信じましょう!」
「いちばん信じられないのが、あんたらなのよ!」
「そんな! たしかに、時折少々Hなことはしますが……」
「『時折』でも『少々』でもないから!」
この不毛な議論は、30分以上に及んだという。
● 最上憐(
jb1522)
議論が終わったところで、亜矢の袖を憐が引っぱった。
「……ん。話は。聞いた。私は。カレー戦争を。提案する」
「カレー戦争?」
「……ん。どのカレー料理が。一番かを。決める」
憐の説明によると、内容はこうだ。
参加者はそれぞれ、自分が一番だと思うカレー料理を用意する。それを敵対勢力の口にねじこんで無理やり食わせ、信仰が崩れたり、物理的に崩れたり、満腹になったりしたら脱落。こうして、最後の一勢力になるまで戦うバトルロワイヤル。
「……ん。勝っても。負けても。カレー食べ放題。すごく。良いイベントだよ? カレーなら。水分も。塩分も。栄養も。補給できて。いまの。季節に。ピッタリ」
「パン戦争のカレー版ね。人が集まるかなぁ……」
「……ん。なんなら。カレー鍋。一気飲み。大会とかでも。良いよ?」
「徹底してカレーね」
当然だ。カレーを求めない憐など、憐ではない。
「……ん。アンケートに。答えたので。なにか。食べ物を。所望する」
「じゃあ、このコロッケパンで」
「……ん。カレーコロッケパンは。ない?」
「ないない。じゃあね」
● ルミニア・ピサレット(
jb3170)
「『皆で称号をつけあうイベント』希望なのです!」
亜矢の話を聞いて、ルミニアは答えた。
「ん? どういう意味?」
「称号がほしい人は多いのです。だから、みんなで称号をつけあえば、みんな幸せになれるのです。ただつけるだけだとつまんないので、称号を前半と後半に分けて参加者はそれぞれを考えて提出するのです。そしたら後半部分だけを自分の称号にして、つぎに前半部分の称号をシャッフルしてから、ランダムに後半部分とくっつけるです。うまく綺麗な称号になれば最高♪ そうでない場合も♪ 『気高き』『女騎士』ならいいですが、『にぎりが臭い』『女騎士』とかだと……くふふっ」
「名案だけど、それは無理。大人の事情があるのよ」
一件の依頼で付与できる称号の数には、上限があるのだ。
「しょぼーん、なのです……。るみるみ、一生懸命考えたのにです……」
「どうせエロいイベントを提案してくると思ったけど、予想外だったわね」
「じゃあ、いまからエロいイベントを考えるです!」
「そういうのはいらないから。またね」
● ロシールロンドニス(
jb3172)
「次は、あの子ね。今度こそエロだろうけど……」
亜矢の予感は当たるか否か。
「イベント案ですね。お世話になってる女性から、これを預かってきました」
封筒から紙切れを取り出すと、ロシールは文面を見て赤面した。
「ええと……こ、これを読むんですか……読むんですよね……うう……」
「内容は想像ついたから、読まなくてもいいわよ?」
「読まないと折檻されてしまいます……。では読みますね。ええと……変なディアボロを作る悪魔がいますよね。参加者は全員が同じ弁当を食べたんですが、その中にそいつが作った『寄生虫型ディアボロ』の入った弁当が紛れていまして。放っておくと、全身の穴という穴から成長したディアボロがでろりんと……」
「それ、作り話よね?」
「わかりません……。僕はただ、書かれたものを読んでるだけです。では続きを……。敵はステルス性能が高く、通常の検査では検出できないため参加者は2人組になり、特殊なセロファン型V兵器を……お、おたがいのお尻にペタンと……! もちろん、し、下着を脱いでお尻を見せ合わないといけないんです! 検査のためです! えろくないんです!」
真っ赤な顔でヤケ気味に言い切るロシール。
そのとき既に、亜矢の姿はなかった。
● シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)
「そうですわね、新しい依頼を考えるのも面白そうですけれど……わたくしは原点回帰を願って、パン戦争の再戦を希望いたしますわ」
高貴な口調で、シェリアは答えた。
「どうせカレーパンには勝てないわよ?」と、亜矢。
「ご心配無用。パン戦争といっても、以前のように物理押しの血生臭い戦いとは違いますもの。愛するパンを自ら創作し、一番おいしいパンを競うのですわ。当然、審査員は味のわかる方に務めてもらいますわよ?」
「つまり、あたしね?」
「それは、ご一考いただくとして……。普通に作るだけでは観客が退屈でしょうから、職人さんはコスプレするというのはどうかしら? 名付けて『パン戦争アナザー なりきりパン職人編!』」
「パン作りとコスプレって、共通点ゼロよね」
「いいえ。いまどきのパン職人には、ビジュアル性も要求されるのです。審査の評価ポイントは、味や外見、栄養バランスからコスパまで、ことこまかにチェックしますわ。コスプレの完成度も重要ですわね。……そう、戦争は変わったのです……」
ふいに、遠い目をするシェリア。
パン戦争で彼女がどういう目に遭ったかを思い出せば、そんな表情になるのも無理なかった。
● ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「おめーら、たいがい仲いいよな。まだ結婚しねーのかよ」
などと冷やかし交じりにからかうのは、最近MVPの出ないラファルさん。
「なに言ってんの、この爆弾魔! 卍は敵よ!」
「そうやってムキになるのがなー」
「はァ!? ちょっと卍! なにか言ってやってよ!」
「そういうのはスルーしとけよ。さっさと取材しようぜ」
卍は亜矢と違って冷静だった。
ラファルは怪しげな笑みを浮かべて言う。
「俺はイベント用に最高の企画を持ってるんだが、それを教える前にいっちょ、この書類にサインしてくれねーか?」
「……って、こりゃ婚姻届じゃねぇか!」
「ちっ、認識障害が通じなかったか」
まるで悪びれずに舌打ちするラファル。
「認識障害くらったって、サインなんぞしねぇよ! ……って、おい! 亜矢! なにサインしてんだ!?」
「ここにサインすれば100万円って……」
「認識障害かかってんじゃねぇ!」
あやうく難を逃れた卍。シャレにならん。
「ついでだから、卍もサインしちまえよ。ふたりとも高校生だし、結婚しちゃえばいーじゃん。そうすりゃ、おふたりさんの結婚式イベントができるぜ? 盛大に祝ってやるからよー。な?」
「『な?』じゃねぇよ! 勝手に入籍させようとするな! 恐ろしいヤツだな、ったく……」
卍は冷や汗をぬぐいながら、亜矢を引きずっていくのだった。
● シエル・ウェスト(
jb6351)
「イベントの提案ですか……。では、祭りでいきましょう。その名も、チーズ転がし祭りと乳牛祭り!」
「なにそれ」
シエルの提案に、亜矢は首をかしげた。
「説明しましょう。チーズ転がし祭りとは、丘の頂上から転がしたチーズを追いかける祭りです。走ってる人も転んで転がり、大惨事。もっとも、撃退士だとそれじゃあ面白くないので、丘ではなくアホみたいに高い山の頂上から転がしましょう。……うん、重体すごそうですね(小並感」
「どうせなら、崖の上から転がせば?」
「おお、それは名案ですね!」
というわけで、崖の上からチーズと撃退士を転がす……っていうか落とすことになった。
「では次。乳牛祭りですが……これは、道中にある1リットル牛乳を2回に渡って飲みながら走る祭りです。当然、走者の大半が吐きますね。撃退士の場合、3リットルの牛乳を6回ほど飲みましょうか。リバースしまくりで、モザイクがかかりそうですね」
他人事みたいに言うシエル。
「それ開催したら、あんた参加するの?」
「もちろんですとも」
にっこり微笑むシエル。
絶対ウソだな……と思う亜矢であった。
● 一川夏海(
jb6806)
夏海は、自身が経営するメイドバー『ホワイトライ』で暇そうにしていた。
店内は貸し切り状態。すなわち客ゼロ。
営業中ゆえ、メイド長スタイルだ。
そこへ現れたのは、亜矢と卍。
「突撃アンケートよ! さぁ答えて!」
「……ああ? なんだってェ? どんなイベントが見たいか、参加したいかだってェ? ……ンだよ。客じゃねェのか」
「もしかしたら、客になるかもしれないわよ。さぁ張り切ってどうぞ!」
「なりそうには見えねェが……まァいいや。アンケートか、そうだなァ……」
立派な胸を見下ろして、夏海は答えた。
「……そうだ。こいつは嘘だ、大嘘なんだ。じつは俺は男で、俺が見てるこいつも美味しい美味しい肉まんなのさ。だが、もしもそれが本当だったら俺はご機嫌なんだがなァ。……つまりだ。魔法みてェに性転換できる薬か何かを準備して、異性を何人落とせるかってのやらねェか? メイド長からの、つまらねェおねがいさ」
「性転換とか女装したがる人、多いわねぇ」
「訊かれたから答えたんだぜェ? できねェのかよ」
「需要は高いから、考えておくわ」
● 江沢怕遊(
jb6968)
「おー、やりたいイベントなのですか? 女そ……じゃなくて、甘いもの食べたいのですよ♪」
ハイテンションで、怕遊は答えた。
「いま、『女装』って言いかけなかった?」と、亜矢。
「そ、そんなことは言ってないのです! ボクはスイーツ祭りを希望するのです! でも、もし他の人がやりたいと言うのでしたら、その……女装なども……」
「ここにも女装癖の変態か……」
「『癖』ではないのです! 『趣味』なのです!」
「どう違うのよ」
「クセと趣味は違うのです!」
「説明になってないけど、つまり女装イベント希望なのね?」
「ちがうのです! ボクはスイーツ食べ放題祭りを希望するのです! でも、そのついでに女装するのもいいんじゃないかなーと思うだけなのです!」
「あー、はいはい。そのうちやるから」
「ええっ!? やったあああ! おおっぴらに女装できるのですぅぅぅ!」
「つくづく変態ばかりね……」
本日何度目かの溜め息をつく亜矢だった。
● カナリア=ココア(
jb7592)
「ここに、ひとりの悪魔がいた……。だが、色々やっても撃退士を倒せない。彼は疲れてウォーターソファに腰掛けた……そして空を見てぼんやりと……だんだん眠く……。はっ! 危ない危ない! ……いや、待てよ。ふと彼は思いついた。このソファのような、人を骨抜きにする、ひんやりスライムを作ったらどうだろうと……!」
「ちょっと待って? それは独り言?」
唐突に始まったモノローグを前に、亜矢は素でツッコんだ。
が、かまわずカナリアは続ける。
「だが出来上がったのは、一見ふつうのウォーターソファで、落ちてきた髪の毛とかを吸収し『その生物の姿』に変わるスライムだった! 戦闘能力はないけど、見た目によっては撃退士が戦いにくいかもしれない……そうだ、そうに違いない! そう考えて、スライムを街の家具屋に解き放つ悪魔であった……」
「つまり、そういうディアボロと戦いたいってことね? あたしには無理だけど、運が良ければ……?」
「依頼名は、『良いソファ入荷しました』……。よろしくね……?」
「いや、よろしくされても……」
とまどうしかない亜矢であった。
● 紅香忍(
jb7811)
忍は学食のすみっこで、塩をオカズに白米をチビチビ食べていた。
「……この時間……学食閉まる前……残り……大盛り……してくれる……」
貧乏暮らしの忍にとって、このサービスは逃せないのだ。
全部は食べきれないので、残った分はタッパーに詰めて持ち帰る。
「……これで、2日分……幸せ……」
そこへ、亜矢が声をかけた。
「米と塩だけって……。まぁいいわ。アンケートに答えて」
「……アンケート? ……貸し?」
「貸しでも何でもいいわよ。さぁ答えて」
「……イベント……提案……?」
忍は少し考えて、答え始めた。
「……恵まれた人……背景が強力な人……多い……。全部捨てさせ……身ひとつで……サバイバル……。3000久遠での準備もなしで……どこまで汚く生きるか……くくくっ」
「つまり、手ぶらで無人島にでも行ってサバイバル競争しようっての?」
「……その、とおり……金持ちには……負けない……」
「まぁまぁ面白そうね。でもあんた、肉とか野菜も食べたほうがいいわよ」
そう助言はするが、おごったりはしない亜矢であった。
● 川内日菜子(
jb7813)
「遠巻きで何度か見てきたが、あんたたちは学生らしいことをほとんどしていないのだな」
話を振られて、日菜子はそう言った。
「してるじゃない! 海水浴とか、料理大会とか、凧揚げ会とか!」
「どう見ても遊んでいるだけだ。たまには学生らしく、ボランティア活動でもしてみてはどうだ? たとえば清掃ボランティアとか……まあ、あんたたちのことだから、ヘドロディアボロとかスクラップサーバントとか、面倒なものをひっかけてくるのだろうが……」
あきれ顔で言う日菜子。
否定できないのが、亜矢たちの現実である。
「……ところで、ラルを見かけたか?」
「さっき、向こうのほうで会ったわよ」
亜矢が指差した。
「そうか、ありがとう」
と言いつつ、亜矢が指したのとは正反対のほうに歩いていく日菜子。
なにやらラファルに釘を刺されたのか、今回は一人で行動したいようだ。
ラファルはまたとんでもないこと(爆破的な意味で)をしでかすのだろうなと呆れつつも、亜矢たちに警告はしない。しても無駄だろうという、一種の諦めだ。もっとも既に危機一髪の目に遭わされているので、警告は無意味だったが。
● 城前陸(
jb8739)
「あ、陸! ちょっといい?」
図書館で自主勉強中の陸を見つけて、亜矢は突撃した。
「図書館では静かに……」
「ごめんごめん。なにかやりたいイベントない?」
「イベント……。みんなで勉強会をしてみたいですね。お菓子食べながらワイワイと……関数とか化学式とか、わからないところを教えあうのは楽しそうです」
「あたしが楽しくないから却下!」
「そうですか……。では読書感想文の発表会とか……。原稿用紙1枚で、一番おもしろく紹介できた人が優勝という感じで。課題図書としては……バロン・ド・ギューさんの新作でどうでしょう。ためしに書いてみませんか、感想文」
「そういうの苦手なのよ、あたし」
「書いてくれたら、コロッケパン2週間分をおごりますよ?」
「乗った!」
「即決ですね……」
「感想文なんて、テキトーに書けば済むじゃない」
「では、これを読んで感想文を」
陸が持ってきたのは『罪と罰』だった。
「ギューの本じゃないの!?」
「それはまだ図書館にないので、かわりにこれを」
「詐欺よ、詐欺!」
「だましてなどいませんよ……? しかし矢吹さんは、反応もかわいいですよね」
「そ、そう? 陸もかわいいよ」
おだてに弱い亜矢は、こうして『罪と罰』を読むハメに。
● ロンベルク公爵(
jb9453)
「出た、鳩! 自称吸血種の鳩!」
公爵の姿を見つけると、亜矢は走っていった。
「私は鳩ではない!」
「まぁいいから。またアンケートに答えてよ」
「ふむ……。やってみたいイベントか……」
豆をぽりぽりしながら考える公爵。
じきに、彼は言った。
「すまぬな。考えてみたが、ひとつしか思いつかん」
「十分十分。さぁどうぞ」
「では……『珍獣選抜』というのはどうだ? 多くの人外PC(変人的な意味でも)が集う中で、最もイカレ……もといイカした者を選ぶ大会! 『真の珍獣王』の称号を求めて競いあう、神聖()な祭りだ!」
「本当にイカレた人が集まりそうね」
「かまわぬ! 我こそは!と思う者……おまえイケるんじゃね?と推薦された者……せっかくだし?と思って集まった者に、己の珍獣たる魅力を全力でアピールしてもらうのだ。会場は体育館でよかろう。審査員は5人程度。審査はポイント制で、審査員1人につき10ポイントが与えられる。これで1位を決めるのだ! 珍獣王に、私はなr……おっと、だれか来たようだ……」
最後まで豆をぽりぽりしながら、そそくさと逃げだす公爵であった。
「……で、やりたいイベントはあったのかよ」
卍が亜矢のメモ帳を覗きこんだ。
「うーん。いますぐコレってのはないわね」
「女装してカレー闇鍋を食いながら、装備ナシでスカイダイビングしつつ、●ジラを倒して感想文を書くってのはどうだ?」
「いいわね! それで決まりよ!」
「マジか」
「あたしは、やると言ったらやる女よ!」
というわけで鼻息荒くイベント申請したところ、速攻で却下された亜矢であった。
以上!