「なんだか、おかしな言い争いが巻き起こってるわね」
見知った顔を見かけて、藍星露(
ja5127)が話に入ってきた。
「星露! あんたの好きな水着はなに!?」
初手から喧嘩腰で問いただす亜矢。
「え、水着……? やっぱり、セパレートとかビキニかなぁ。……いや、だって、ねえ……? トップスとボトムに分かれてないと、体にフィットしないのよ。ワンピースだと、胸にサイズを合わせればお尻や腰がぶかぶかだし。逆に、お尻や腰回りに合わせると胸がきついし……。その点、上下に分かれてれば調整できるもの」
そう言って、星露は見せつけるように胸を突き出した。
制服の上からでも、みごとな巨乳が見て取れる。
「なにそれ! 自慢!?」
亜矢が怒鳴った。
「そんなつもりないわよ……? ちなみにいま、制服の下に指定水着を着てるけど。それだと、こんな感じね」
おもむろに制服を脱ぐ星露。
すると、下から現れたのは学園指定のスク水だ。
しかしサイズが小さく、胸はパッツンパッツンで今にもちぎれそうだし、お尻も食い込み気味。
「ほら、動きにくそうでしょ? やっぱり、水着はセパレートやビキニに限るわ」
うんうんとうなずく星露。
その拍子に、胸もプルンと揺れている。
「でも、これはあくまでもあたしの意見だし。好みは人それぞれ。似合うかどうかの問題もあるわ。あたしに似合う水着でも、矢吹さんに似合うとは限らないし。……結局、各人が似合う水着を着ればいいんじゃない?」
「ぐぬぬ……」
天然の星露は、無意識に亜矢を追い込みまくっていた。
「ねぇ月子! 水着はスク水が正義よね!」
亜矢が救いを求めた相手は、通りすがりの沙月子(
ja1773)だった。
突然のことに戸惑いながらも、月子は答える。
「え、水着……? それぞれ自分に似合うものを着ればいいと思いますけど……? スクール水着って、子供っぽいイメージがありません? 高校三年……もうすぐ大学生ともなると、年齢的に厳しいかなぁって」
「ぬぬぬ……」
「体育の授業なら、競泳用がいいと思うんですよ。いまは色もデザインも色々ありますし、なにより恰好良いですし。女性も男性も、やっぱり似合うものを着てくれたほうが安心しますよね。ほとんど裸なわけですし……。以前、水着モデルをしたことがあるんですけど、あれって着る側と見る側の需要と供給って完全に別なんですよね……」
なぜか遠い目をする月子。
思い出したくない過去でもあるのだろうか。
「結論としては、水着だって服の一種なんですから歳相応のファッションセンスは欲しいです。友達と出かけるのなら、学校とは違う服だと楽しくていいですよね」
ツッコミ属性ゆえ、正論をストレートに投げつける月子。
亜矢は痴呆症みたいに「ぐぬぬ……」と繰り返すだけだった。
「あっ、瞳! あんたは味方よね!? 水着はスク水よね!?」
二連敗の亜矢は、ワラにもすがる思いで御供瞳(
jb6018)に問いかけた。
貧乳どころか絶壁の瞳なら、同意するに違いない!
が──
「ん? 水着ってなんだべ?」
「そ、そこから……!?」
予想外の答えに、亜矢も二の句が継げなかった。
ド田舎で育った瞳は、こじゃれた水着なんてものには無縁。泳ぐときは基本的に一糸まとわぬ姿が習慣なのだ。滝行をするときは、湯あみ着のようなものを纏うらしいが……いまは関係ないので割愛。
「どんな田舎で育ったのよ、あんた」と、亜矢。
「四国の山ん中だぁ。でも旦那様ぁが『裸ではマズかんべー』言うから、褌だけは巻いてるっちゃ」
「褌!? トップは着けないの!?」
「トップ……? それはおいしいんだべか?」
その単語の意味もわからない瞳。なんせ断崖絶壁なので、ブラジャーすら知らないのだ。そもそも瞳は、全裸で泳ぐことに抵抗がない。旦那様ぁに言われたから、褌を巻いてるだけだ。たしかに、凹凸ゼロの滑走路なので、エロさは皆無なのだが。
「うぅ……話がわからねぇべ……。旦那様ぁ、なにかアドバイスがほしいだぁ……」
困ったときの旦那様だのみで、瞳は生霊めいたものを呼び出した。
そして、いつもの幻聴……もとい旦那様の言葉に耳を傾ける。
「おお……旦那様ぁはビキニが好みだべか? オラも、どうせなら都会風なオシャレ水着が着てみたいべ。マイクロビキニとかTバックとか、憧れるっちゃよ」
「はァ!? あんたまで、そんなこと言うの!?」
まさかの裏切りに、亜矢は金切り声を上げた。
「スク水とかワンピースとか、正直ださいっちゃ。オラはビキニで旦那様ぁを悩殺するっちゃよー」
「ぬぐぐ……」
そこへ、ひょいっと乱入してきたのは紅椿花(
ja7093)
「オー、リーペン(日本)の水着文化、知ルできる。素晴らしいスルね! リーペンの水着ナラ、やぱりコレね!」
いきなりスポーンとチャイナ服を脱ぎ捨てる椿花。
すると下から出てきたのは、……サラシと褌!
「ここにも変態か……」
亜矢が溜め息をついた。
「NO! 変態ちがう! コレは、いま流行スルしてるパンドルショーツね!」
実際、その褌は花柄のかわいいデザインだ。
どこかの褌フェチとは違う。
「言いかたを変えたって、褌は褌でしょうが。百歩ゆずって認めたとしても、サラシは水着じゃないわよ」
「水着チガウ? NO! ワタシちゃんと、依頼で海、コレで行くシマシタ。2回も! サラシも褌も最高デス。締めつける調整、自由自在。胸やお尻が大きくなるシテもダイジョブね! ほかの水着みたいに、買い換えるスル必要もアリマセン。ビンボー学生の味方ね!」
「むむ……たしかに、一理あるわね」
「昔のニポーン人も、コレで泳ぐスルしてました。デントー文化ネ! それに、サラシは引っ張るスルして、『ア〜レ〜! ヨイデハナイカ!』ができるデス。これぞデントー、ヨーシキビ! ためしに、引っ張ってみるスルしてもいいネ!」
「そういう趣味はないから! ていうか、あたしの味方はいないの!?」
そこへ、スタタッと駆け寄ってきたのは深森木葉(
jb1711)
「明日羽お姉さまぁ〜。ちょうどよかったのですぅ〜。お借りしていた水着、お洗濯が終わったのでお返ししますぅ〜」
そう言って木葉が明日羽に渡したのは、学園指定の制服だ。
きちんとアイロンがけされて、ぴしっと折りたたまれている。
「木葉ちゃん、好きな水着はなに?」
明日羽が問いかけた。
「好きな水着ぃ〜? 去年はねぇ〜、スカートつきのワンピース水着を着ていたのですぅ。でも今年は、白襦袢なのですよぉ〜。えへへ〜」
「ふぅん? そこは『お姉様に借りた水着が最高ですぅ』って答えるところじゃない?」
「そ、そうでしたぁ〜! でもでも、白襦袢もいいのですよぉ〜。清楚な感じがして素敵なのですぅ〜。泳ぐこともできますし、水垢離や禊にも使えるのですぅ〜。それから、湯着にもできますよぉ〜。もちろん、お着物の下に着ることもできますしぃ〜。海水浴場で、お着替えに困らないのですぅ〜。高級品だとぉ、お洗濯とか大変ですがぁ、自宅洗いできるものもありますしぃ、気楽に着られますよぉ〜」
「そんなにお気に入りなの?」
「そうなのですぅ〜。でもぉ〜、水泳の授業だと着させてくれないのでぇ……、しょぼ〜んなのですぅ……」
「じゃあ、いまここで着てみせて?」
「えっ? お着替えが必要なのですかぁ?」
きょとんと首を傾げる木葉。
明日羽が無言でうなずく。
「わかりましたぁ〜。お着替えしますねぇ〜。……えへへっ〜。どうですかぁ〜?」
慣れた手つきで白襦袢に着替えると、木葉は笑顔で明日羽の前に立った。
「もっと着崩したほうがいいよ? ほら、こうやって……」
さりげなく木葉の襟元に手を入れる明日羽。
「そ、そういうことしちゃ駄目ですぅ〜!」
「木葉ちゃんがかわいいせいだよ?」
「あうぅ……っ」
「変態どもはほっといて、話を進めるわよ!」
亜矢はまだ、スク水最強を訴えるようだった。
が、そこへやってきたのはルミニア・ピサレット(
jb3170)
これまた、まぎれもない変態の一人である。なんせ、この会話を聞いてわざわざ水着に着替えてきたほどだ。しかも身につけているのは、ほとんど紐状態の極小マイクロビキニ。下にはパレオを巻いているが、中身は推して知るべしだ。水泳の授業後なのか、うっすらと塩素剤の匂いがする。連日のプールで、体にはスク水型の日焼け跡があった。
「水着は白マイクロビキニで決まりです! お姉様みたいな巨乳は言うに及ばす、私のようにつるぺただとビキニが体に密着し、白い肌と相俟って遠目には何も着けてないように見えるです♪ スク水型の日焼け跡があるとさらに錯覚を生み、白スク? ビキニ? それとも裸? と三択を迫るです♪」
「そんな三択、どうでもいいわよ……」
亜矢が溜め息をついた。
ルミニアは興奮しながら話を続ける。
「下は……やっぱり白ビキニです!」
顔を赤くしながらパレオを解くと、現れたのはこれまた紐みたいな水着だ。
お尻はほぼ丸出しで、なぜかあちこちにミミズ腫れが浮いている。
「それ、どうしたの?」
と、明日羽が訊ねた。
「あ……これは今朝、おねしょしてお姉様におしおきされたからで……。このように、罰を受けたのが丸わかりになるので、しつけにも効果あるです」
はぁはぁと興奮ぎみに答えるルミニア。
そのまま明日羽に抱きつくと、彼女は言った。
「お噂は聞いてるです。るみるみ、明日羽さんと仲良しになりたいです……」
「私はいいけど、あの怖いお姉さんに怒られるよ?」
「それは覚悟してるです」
「そう? じゃあ手始めにお尻を開発……
「やめろ、変態! これは神聖な議論なのよ!」
亜矢が割り込み、あやういところで蔵倫発動は免れた。
しかし、そんな議論の場に次なる変態が参上!
鼻血を流すことには定評のある、桜花(
jb0392)さんだ。
「偶然話を聞けば、おもしろそうなこと話してるじゃない。私も混ぜてよ」
「また変態か……」
頭をかかえる亜矢。
「私のお気に入りはこれね。普通のビキニだけど、色的に私にあってる気がするんだ」
と言って、桜花は水着姿の写真を見せた。
生着替えを披露するかと思いきや、意外と冷静だ。
「でもさ、どんな水着かいいかをひとつに絞るのは難しいんじゃないかな? 考えてみてよ、たとえば籃さんと同じ水着を木葉やルミニアが着たとして……似合うと思う? かたやナイスバディなお姉さん、かたやつるぺた幼女だよ? ……いや似合うね……なんか、精一杯背伸びしましたって感じが、こう……なんか来るものが……」
目を閉じて妄想する桜花の鼻から、さっそく赤いものが。
「……よし、話を変えよう。木葉の水着を籃さんが着たとして、似合うと思う? ……うん似合うね。サイズの合わないスクール水着……ムチムチ……あぁ、ダメだよ木葉。そんなセクシーなビキニ、木葉が着けたらずり落ち……ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」
勝手に妄想して勝手に鼻血を流し、なぜかトイレに駆け込む桜花。
一体ナニをしに行ったんだ……。
じきに戻ってくると、彼女は再び話しだした。
「ごめんね、席をはずして。……それで、水着の話だけど。だれにでもどんな水着も似合うってことは、わかってもらえたかな? だからさ、こんなことで争うのはやめようよ。……いや、待てよ? どんな水着でもいいなら……私が木葉の水着になってもいいんじゃ!?」
とんでもない結論を導き出すと、桜花は「木葉ー! ルミニアー! 私が二人の水着になるよ!」などと叫びながら二人に抱きついた。
「「はわ……っ!」」
顔を上気させながらも、どこか嬉しそうな二人。
「いいかげんにしろ! この変態ども!」
亜矢の手から手裏剣が飛んで、三人の後頭部に刺さった。
悲鳴を上げて倒れる三人。だが、その表情は満足げであった。
そんな騒ぎの中、満を持して登場したのは下妻笹緒(
ja0544)
「話はすべて聞いた! だが、『好き』という感情は、魂の奥底から迸る熱き心の叫び。スクール水着が好きだという者は、はたして本当に魂がそう言っているのか? だれかが与えてくれたわかりやすいシンボルに、深く考えず同調しているだけではないのか? これはスクール水着に限った話ではない。ビキニでも競泳水着でも同じだ。その形状は、そのスタイルは、その流行は、あくまで誰かが創り出したものであり、君らの内なる部分から現出したものではないハズだ! 言うなれば、きゃらケットだ! できあいの商品を見て、『素敵だな』と言っているに過ぎない! ……勘違いしてもらっては困るが、べつにきゃらケットが、スクール水着が、ビキニが悪いと言っているわけじゃない。それらは優れたクリエイターやデザイナーが手がけた、価値のあるものだ! だが本当に大切なものは! 自分の中の『好き』という感情を最大限に表現したいのであれば! オーダーメイドにコムするしかない!」
一気にセリフをまくしたてると、笹緒は机を叩いた。
おお、なんとさりげない宣伝活動。ありがとうございます。
「……であればこそ、自分は水着界に新たなる風を呼び込みたい。その名も、鯉のぼり水着! そう、端午の節句に飾るアレを体に巻きつけて水着とするのだ。5月のわずかな期間だけ飾るのではなく、夏場まで有効活用。デザインも派手で洒落ている。『やべえ、淡水魚のくせに海に来てるぜ……!』と、ビーチでの注目度もバッチリだ。男性も、女性も、スタイルに自信がある者も、ない者も、皆が鯉になるのだ! 2014年・夏! 水着はここから変わる!」
キメ顔で宣言する笹緒。
その二秒後。
「「それはないわ」」
と、一斉にツッコミが入るのであった。
「いろいろ意見が出たけど……まったく収拾つかないわね」
星露が、溜め息混じりに一同を見回した。
「最初から何も着なけりゃ、こんな争いも起きねぇべ」
と、瞳。
「だからスク水一択でいいのよ! 巨乳は去れ!」
亜矢が怒鳴った。
話が始まったときから、彼女は何も進歩してない。
「ところでパンダさんは、その格好で泳ぐんですか……?」
好奇心に満ちた顔で、月子が訊いた。
「無論だ! こう見えても、パンダは泳ぎがうまい!」
「でも、中身は人間ですよね……?」
「魂はパンダだ!」
肉体もパンダと化してる気がする。
そんな一連の騒ぎを、椿花は笑顔で見守っていた。
サラシと褌を着ている彼女だが、それが絶対No1と思ってるわけではないので、みんなの意見を真剣に聞いているのだ。
「ホント、ニポーン人は水着にコダワリあるネ。コレはもう、リッパな文化よ」
うんうんと真顔でうなずく椿花。
あきらかに間違った知識を学んでいるのだが、彼女がそれに気付く日は来るのだろうか。
ちなみに、この話しあいは夜になっても決着せず、最終的には『おまえら、いいかげんにしろ!』という教師の一言で解散となった。
結局得をしたのは、いつもの変態どもだけ!