「第一回コスコン、開幕ぢゃ!」
Beatrice(
jb3348)が宣言すると、会場は歓声に包まれた。
変態明日羽の主催によるコスプレ大会ということで、かなりの観客が集まっている。
ちなみにBeatriceは、進行役が必要だからという理由で急遽(アドリブで)司会役になった次第。
「では一番! 秋雲照(
jb9844)なのぢゃ!」
「うおおおおお! うううおおおお! おうおうおおおおお!」
狂気じみたテンションで舞台に飛び出してきたのは、白菜の着ぐるみをまとった男。
いや、全身白菜だから性別わからんけど。ご当地キャラとして人気の高い、フナバシー的なあれだ。
そう、茨城は日本最大の白菜生産地! 照は、はくさいっしーというパチモンで勝負に出たのだ!
「うおおおお! みんな野菜食ってるか! 野菜は! 体にいいんだぞおおおううおおお!」
ガックンガックン体をゆらしながら、野菜をPRする照。
美男美女を見ようと集まった観客からは、ブーイングの嵐だ。
「うるせぇー!」
「ひっこめー!」
「浅漬けにすんぞー!」
だが、これぞ照の思いどおり。
あえて出オチを担当し、場を暖める狙いなのだ。
「う゛お゛お゛お゛お゛! みんな白菜食うっしー! 茨城の近郊農業をささえる農家の人に感謝して、野菜を食うっしー! うおうおおおお!」
照は白菜やネギ、トマトなどを客席に投げ込んだ。
つぶれるトマト。突き刺さるネギ。異臭を放つニンニク。
観客は大騒ぎだ。
「うおおううおおおおーー! 野菜ぃぃ! 野菜食えっしいぃぃぃぃぃ……」
最後まで絶叫しながら、照はスタッフに引きずられてフェイドアウトしていった。
「えらい勢いぢゃったのう。さて、点数は?」
「ん? 私は何も見なかったよ?」
「そう言うと思ったのぢゃ。では次!」
審査員がひどいのは当然だが、司会もわりとひどい。
紅貴子(
jb9730)がステージに出てくると、薔薇の花びらがひらひら舞い落ちてきた。
きれいな演出だが、そういう技があるわけではない。単に、ペットの白蛇が天井から吊り下げられた籠をゆらしているだけだ。
いや待て、天井? この会場は屋外のはず……。
まぁいいか。屋外だって天井ぐらいあるさ!
それはともかく、貴子が扮しているのは『はあとの国のアリス』の女王、ビバノレディだ。
そのたたずまいには、優雅な気品と妖艶な色気が漂っている。それでいて、どこか純粋で残虐な空気をそなえる女王。貴子にはピッタリのキャラだ。
「妾は、可愛くて素直な子が好きじゃ。妾に票を入れぬなら……お前の首をはねてしまうよ?」
蠱惑的な微笑みを浮かべて、明日羽を見つめる貴子。
その頭上では、けなげな白蛇が涙ぐましい努力をつづけている。
「これ、私が一人で採点する方式だよ?」
明日羽も笑って応えた。
「ならば、良い点数をつけるのじゃ」
「90点ぐらい?」
「ふむ。悪くはないのう」
とりあえず、貴子が暫定一位に。
明日羽に好かれたって意味ないし……と思い、桜花(
jb0392)は適当なコスで参加した。
キャラは、『アブラゼミの鳴くころに』の、双子の片割れ。緑髪ポニテなので、素のままでもコスプレ度が高い。だが、そんな緑髪おじさん桜花の目的は他の少年少女たちのコスプレ姿をたのしむこと! なので、自分自身のステージングには興味ナシ! とりあえず舞台に立ったものの、アピールする相手は年下の少年少女ばかりだ。
「もっと直球投げればいいのにね……?」
だれに言うでもなく、独り言を呟く明日羽。
その後も桜花は、着物を着たりサラシを巻いて極道プレイングしたりと適当に頑張ったが、点数は低かった。
4人目の深森木葉(
jb1711)は、わりと普段どおりの服装で出てきた。
よく見慣れた、薄紫の矢絣模様の小袖に、紫の女袴。その上に純白のフリフリエプロンをつけている。胸には木葉型の名札が貼られ、『このは』と手書きされていた。頭には黒猫耳のカチューシャをかぶっているが、それも珍しくはない。
「ごきげんよう。明日羽おねえさまぁ」
木製の丸盆を胸の前にかかえて、ぺこりとお辞儀する木葉。
これは、猫耳和風メイドのコスプレだ。
「今日は何になさいますかぁ〜? ご注文をどうぞぉ〜♪」
「木葉ぁぁぁ! かわいいよぉぉぉ!」
狂ったような勢いで乱入してきたのは桜花だ。
「桜花ちゃん!?」
「木葉ぁぁぁ!」
怒濤の勢いで押し倒されてしまう木葉。
これは犯罪なのでは……。
「木葉ちゃんは譲らないよ?」
明日羽が指を鳴らすと、駆けつけたスタッフが桜花を引きずっていった。
「木葉ぁぁぁぁ……」
白菜の人と同じようにフェイドアウトしていく桜花。
ああ、実弾(カネ)の前には愛など無力なのか!?
「えと、あのぉ……本日はありがとうございましたぁ〜」
ぺこっと頭を下げて、なにも見なかったことにする木葉。
しかし、退場の間際に彼女は思い出した。お友達から聞いた、明日羽が喜ぶという特別メニューを。
「えっと〜。明日羽おねえさま、特別メニューで『お持ち帰り』があるのです。お持ち帰りなさいますかぁ〜?」
本人は意味を知らずに言ってるが、これはヤバイ。
無論、明日羽がことわるはずもなかった。
というわけで、木葉は明日羽の膝の上にご案内。
採点を忘れてるが、実質優勝なので必要なかろう。
さて。月乃宮恋音(
jb1221)は、どこかの探偵……というか、あまり探偵っぽくない衣装で登場。助手である『なめこ』のぬいぐるみをつれて、ステージへ。そのまま、とくにアピールするでもなく会場を見つめている。
「恋音ちゃん? なにもしないの?」
明日羽が詰問した。
「あ、あのぉ……これは……」
「なに?」
「は、恥ずかしいのですけれどぉ……『おさわリーナ』という探偵のコスプレで……」
「ああ、さわってほしいってこと?」
「そ、そういうわけでは……」
「大丈夫だよ? 私よりうまく恋音ちゃんをいじれる人なんて、いないからね?」
明日羽は席を立つと、ステージに上がって恋音を抱きすくめた。
衝撃的な百合映像に、客席からは歓声と怒号が湧き上がる。
なにしろ恋音は、久遠ヶ原では有名な学生なのだ。一部では、教授とか魔王とかおっぱいとか呼ばれている。それがなぜ、明日羽のような変態と交流を持っているのか。
まぁ一言で言うなら、これは需要と供給の関係。
でも、公衆の場ではほどほどにね! 蔵倫が黙ってないよ!
「へっ、おもしれ―じゃねーか」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)も、大会に参加していた。
審査員が明日羽というのが正直どーかと思うところだが、まぁいーかといつもの調子で無視。変態は放置に限る!
「いくぜ! 第一段階! ジプシーデンシャァァ!」
ヘルゴートで機械化したラファルは、映画パシフィック●●の対怪獣用人型兵器になって登場! 念のため言うが、電車ではない。
「ガオオオオン!」とアピールしたところで、玉繭を使ってキャストオフ!
次のコスは雷電!
『知っているのか雷電』ではなく、金属ギアRのキャラだ。
足の指で刀をつかんで、器用に演武を披露するラファル。
そして最後は太刀『松風』を抜き放ち、贄殿遮那に見立てつつ赤髪ロングのウィッグをかぶり、灼眼の少女に変身!
「祐次のバカー!」
などと怒鳴りつつ、舞台を駆け去るラファルであった。
「せわしない舞台ぢゃったのう」
「最後のは良かったよ?」
「では何点なのぢゃ?」
「70点ぐらい?」
「なにか、別のところを見ておらんか?」
そんなラファルに対抗しようと、玉置雪子(
jb8344)も三段階モードで挑戦。
今回は本気だ。いつもは遊んでばかりだが、今日は本気! 本気と書いてマジ!
というわけで、まずは豪快にアホ毛を生やし、バールのようなものっていうかバールそのものを持って、SAN値ピンチのBGMにあわせて登場!
「いつもニコニコ、あなたの隣に這いよる混沌、ニャルラトホテプ……です☆」
クトゥルフ神話には著作権ないから、名前が出せる! イアイア!
次に雪子が選んだのは、マジ天使なヒロイン。天魔的な意味の天使ではなく、別の意味の天使だ。名前は出せないが、麻婆豆腐大好き。どこかの神父じゃないぞ。
天使顕現exeで頭上に天使の輪を浮かべ、「ハンドソニック」と呟きながらカッターナイフを活性化させる雪子。
どうやら、ハンドソニックの再現方法が思いつかなかったらしい。
「正直スマンカッタ……カッターなだけに」
この駄洒落が本気だと……!?
それはともかく、三段階目はア●ギ!
血を抜かれる麻雀やってる人じゃなくて、ボーキサイトをドンブリで食うほうの人だ。
封天人昇exeを発動した雪子の髪は、真っ黒に。
くわえて赫燕を活性化すれば、立派な空母に変身。
「一航戦、ア●ギ! 寝ます!」
寝てどうする!
「ラファルには負けんと言っておったが、どうするのぢゃ?」
「どう見ても負けてるよね? ……いや、案外いい勝負?」
「どこを見ておるのぢゃ」
「まぁ引き分けね?」
次に登場したのは、雁久良霧依(
jb0827)
学園屈指の変態である彼女は、今日も変態PRに余念がなかった。
演じるのは、アニメ『キャッチ・ザ・スカイ』に登場するバグアリーク。霧依と同姓同名のキャラだ。
まぁそんな説明は置いといて、一言で言えば素肌に直接燕尾服を羽織っただけの変態コスである。胸がはちきれそうっていうか、多分はちきれる。
「ミーはリーク。気高きバグア貴族である! 今日は貴様ら猿どもに、バグア貴族のネギ作法を披露してやろう!」
言うや否や、霧依は手にしたネギを尻にあてがい「Fooooooo!!」とか絶叫しながらブッさした。
無論、ただのネギではない。自宅にあった怪しい玩具を改造した模造ネギだ。
刺さったと同時に、仕込まれたモーターが作動して先端が激しく円運動!
ウィィィンというモーター音を響かせつつ、霧依は小天使の翼で飛んでいった。ごていねいに、タウントで注目を集めるのも忘れない。
「トンじゃうわあああ!」
恍惚の表情でステージ上を飛行する霧依。
いつもどおりの変態ぶりに、明日羽も100点をつけるのだった。
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)は、恋音をつれて登場した。
ナンパ師の彼は、かわいい子が大勢いるので妙に張り切っている。
演じるキャラは、幽遊のアレ! 腐女子に大人気のアレだ!
当然恋音が演じるのは、相方のアレ! いや、相方ちゃうけど!
赤いウィッグをつけて茨の鞭を手にしたジェラルドが客席に微笑みかけると、黄色い声援が湧いた。
一方、恋音は真っ黒なコートに妖しいマスク。トリートメントはバッチリだ。
キャラ的にジェラルドが牙鳥だろと思うが、ともあれパフォーマンス開始。
ちゅどおおおおん!
いきなりステージが爆発した。
さては、ゴル……ラファルのしわざか!
いや違う。これは演出だ。恋音が爆薬を起動させたのである。これで髪にキューティクルを与える作戦だ(違
爆煙が晴れたとき、そこには妖狐の姿になったジェラルドが血まみれで立っていた。
そして名シーンが始まる。
「爆弾を支配し、創り出す妖怪か……。支配者級(クエストクラス)とあえたのはうれしいが……お前は殺すぞ」
「死ぬのはお前だ」
ふたたび、黄色い歓声。
でも、このネタがわかる人って若くはないよね……。
「ほれ、明日羽。採点せんか」
「男には興味ないよ? まぁ恋音ちゃんが出てるから、131点ね?」
「あきらかに別のところを見ておるな……」
コスプレ大会と聞いて、アレクシア・フランツィスカ(
ja7716)は当日に飛び入り参加した。
「コスプレ……それは祭典の華……。こんな日のため無駄にあげた裁縫スキルの真髄を見るがよい!」
え。当日いきなり衣装が用意できるのかって?
無論だ! アレクシアは、いつか友人たちをレイヤーにしてやろうと手ぐすね引いて待っていたのだ! 手作りの衣装など、山ほどある! というわけで、友人たちの意思は無視して参加を強行!
「シア、また何か妙な依頼をとってきたの?」
問いかけたのは、ツェツィーリア・エデルトルート(
ja7717)
「妙とは失礼な。立派なコスプレ大会だ!」
「コスプレ……? ああ……」
どこか諦め顔で納得する、ツェツィーリア。
「ふぅん。コスプレでミス●とか、シアの趣味全開ね。リーアちゃん、こういう大人になっちゃ駄目よ?」
真顔で忠告したのは、ダナ・ユスティール(
ja8221)
それを聞いたリーア・ヴァトレン(
jb0783)は、無邪気に問いかける。
「ねぇシア、なんで人数分のサイズぴったりの衣装持ってるの〜?」
「おまえたちに着せるためだ! 異論は受け付けない!」
完全に開きなおる、暴君アレクシア。
「リーアちゃん、もう一度言うわ。こんな大人になったら駄目よ?」
ダナは真剣な顔で繰り返した。
そして最後にアレクシアが声をかけたのは、エリス・ヴェヴァーチェ(
jb8697)
「ははぁ……コスチュームプレイって、そういうの?」
携帯ゲーム機をピコピコさせながら、エリスは気だるげに言った。
「そうだ。5人で参加することは、もう確定している。さぁいくぞ!」
「あら……もう行くの? それじゃあ遊びに行こうかしらねぇ……」
というわけで、5人はステージ裏の更衣室へ。
さきほど誰かが言ったとおり、用意された衣装はミス●のコスだ。
某MMORPGの、猫族である。
「猫耳猫尻尾〜♪」
やたら楽しそうに着替えているのは、リーア。
衣装はハジャ・ゾワ●だ。無論、巨大な三叉槍も用意済み。
「……なぜか胸のサイズぴったりなんだけど、いつ測られたのかしら……」
エリスは、ナナー・ミー●の衣装を身につけながら、いぶかしげに呟いた。
「ふ。裁縫スキル110を甘く見るな」
恐ろしいことを言いだすアレクシア。
そこへ、ジャコ・ワーコンダ■の衣装をまとったツェツィーリアがやってきた。
「ねぇ、シア。これボディラインばっちりすぎるんだけど……」
「裁縫スキル110を(略!」
そんなこんなで、じき彼女たちの出番が訪れた。
首謀者のアレクシアは猫社長に扮装し、族長ツェツィーリアと泥棒エリスをつれてステージへ。
猫族3人がいっぺんに登場したので、『わかってる』観客たちは喝采を浴びせた。
「さぁ揃ったねぇ。お〜しッ! んじゃあ、ぼちぼち始めるとすっかネェ! 御破算で、願いましては〜♪ ……ん? そこは不思議そうな顔してるけど、どうしたのかねェ?」
問いかけながら、ニヤリと微笑むアレクシア。
社長のなりきりプレイなのか、素の口調なのか判断つかない。
「珍しい顔がお目見えだ。ところで、ここはどこだい?」
ツェツィーリアは胸を強調するように腕組みしながら、首をかしげた。
「ここはコスプレ会場よぉ。知らないで来たのぉ?」
おなじく腕組みして胸を持ち上げながら、エリスが答えた。
あごに手の甲を当てて、見下すように下ナメアングルでポーズを決める。
「へぇ、そうかい」
そう答えて、ガンつけるようにエリスを睨むツェツィーリア。
「なぁに? あたしに説明させておいて、なんのお礼もできないのぉ? 『ありがとう』ぐらい言えるでしょぉ? マナーを知らないのぉ?」
「はっ、マナー? くだらないね」
「口でお礼が言えないなら、モノでお礼してくれてもいいのよぉ? ちょっと、鞄の中を見せてみなさいよぉ」
強引に鞄を奪おうとするエリス。
「ああ? あたしをなめてんじゃないよ。無理やり奪うつもりなら、力ずくで追い払ってやるよ」
ツェツィーリアは啖呵を切って凄んだ。
かなりの気迫だが、そんなことで引っ込むナナ……エリスではない。
「じゃあ、マナーってものを教えてあげるわぁ」
エリスの右手が、すばやく動いた。
『ぶんどる』発動!
「な……っ!?」
器用に上着を剥ぎ取られてしまうツェツィーリア。
「あらぁ、いい眺めよぉ?」
「やられっぱなしってわけにはいかないね!」
宣言どおり、ツェツィーリアは力まかせにエリスの服を脱がしにかかった。
「ちょっとぉ、それは反則でしょぉ!?」
「うるさい! だまって剥かれろ!」
ステージ上で、どたんばたん暴れる二人。
客席からは「もっとやれー」などと声援が飛ぶ。
そんな二人をよそに、ダナとリーアが遅れて登場した。
そして、マイペースに会話をはじめる。
「ほんま、学園はドケチやわ。ウチらの報酬、もうちぃと勉強してもろたら、天魔なんざピッピッと羽根むしってまとめて、こんがり丸焼きにしたるんやけどな〜」
担いだ槍を肩でトントンさせながら、リーアが言った。
わかってる観客たちが、ドッと笑う。
「どぅ、にぁう、この衣装? んにぃ? ミケ様、化けてんじゃなぃにぁりん。これで一般人たちをもえもえにさせたりぁ平常心を失うにぁろ? ミケ様の高等戦術にぁりん」
団長ミケ様のコスを身につけたダナも、的確にウケを取りに行く。
そのあとで、ようやく服を奪いあってる二人に気付くダナ。
いつのまにやら、ツェツィーリアもエリスも、えらい格好になっている。
「そういう趣向にゃり? にゃあミケ様も負けられにゃいん」
ダナは盛大に勘違いすると、「そりゃーーっ!」とか叫びながらエリスのスカート()をめくった。
「うわぁ……っ!? なにすんのよぉ!」
「それパンツじゃにゃいん。怒ることにゃいんー」
すっとぼけるダナ様。
「ナナーたち、ええ格好やなぁ。ぼちぼちええとこ、見せとこか!」
そーれと言いつつ、後ろからエリスのスカート()をめくりあげるリーア。
「ちょ……っ! これは見世物じゃないのよぉ!?」
「怒ることないやないかぁ、サービスやでサービス。なにやってもゼロ久遠なんが世知辛いけどなぁ」
そんなドタバタを、アレクシアは冷静に盗撮していた。
盗撮っていうか、堂々とカメラかまえてシャッター音を響かせまくってた。
「これは高くうれそうだねェ。傭兵は稼いでなんぼだからねェ」
さすが猫社長。勝手に友人たちを参加させてパンチラショットをゲットしたうえ、金にするとは。あこぎすぎる。
そんなアレクシアの手口に気付いた一同は、ようやく冷静さを取りもどして我に返った。
「おや、終いかい? まだ稼ぎたりないけどネェ……次、行くよ! 次ッ!」
そう言って、アレクシアは仲間を引きつれステージを降りるのだった。
「以上、猫軍団ぢゃ! 拍手!」
Beatriceが言うまでもなく、会場は拍手の嵐だった。
明日羽も満足げに、『600』と採点している。
「それは、ひとり120点という意味ぢゃな?」
「ん? ぜんぶで600点だよ? 優勝するには、ひとりでこれを抜いてね?」
「無茶言うのう……」
「あの……これは何なのでしょう……」
喧噪冷めやらぬ中。きわどいレオタード姿で登場したのは、水葉さくら(
ja9860)
周囲をおどおど見回す彼女は、状況がわかってない。部活動中に会場付近をうろうろしてたら、参加者と間違われて舞台に上げられてしまったのだ。『え……!?』って感じだが、久遠ヶ原にはよくあるアクシデント!
「これはコスプレ大会ぢゃ! 優勝めざして頑張るのぢゃ!」
Beatriceが激励した。
しかし、さくらは困惑するばかり。
「た、大会!?」
「そうぢゃ。ポーズを決めてアピールせい!」
「ポーズ!? アピール!? で、では新体操の演技をすこし……。こ、こうですかぁ……?」
持っていたリボンをくるくるさせて、ステージを跳ねまわるさくら。
だが、慣れない舞台のせいか、あるいは天然のせいか、リボンを足に絡ませて転んでしまう。
リボンで自らを拘束して尻を突き出す姿は、なかなかのエロさだ。
「「ひゃっはー!」」
観客たちが沸騰する。
「す、すみませんん! よくわかりませんけれど、ありがとうございましたぁぁ……!」
さくらはリボンを絡みつかせたまま、頭をぺこぺこさせて退場するのだった。
次のレイヤーは、蓮城真緋呂(
jb6120)
綺麗なだけや可愛いだけのコスプレは皆やるだろうと考えて、彼女は変わった手を打った。
熱狂の中。出てきたのは、ランニングシャツ(ノーブラ)に半ズボン姿のFカップ女子高生!
背中にはリュックを背負い、手には安物の傘。小脇にはスケッチブックをかかえている。長い髪はまとめて、首の後ろに下げているのは麦わら帽子。スピーカーからは、『野に咲く〜♪』とかいう歌が流れだす。
こ、これは……! どこから見ても、裸の太将!
意外すぎるコスプレに、明日羽も唖然だ。
そこへ、とどめを刺すように真緋呂が訴えかける。
「お、おかあさんから、死ぬまぎわに、『おなかがすいたら、出会った人たちからおむすびをもらって食べるように』って……い、言われたんだな。お、おむすびがほしいんだな」
「ちょっと……ちょっと待ってね?」
あまりのことに、うつむいて笑いを噛み殺す明日羽。
この悪魔を本気で笑わせるとは、天才すぎるぞ真緋呂。
その後、明日羽の指示で恋音と木葉がおむすびを作り、真緋呂だけでなく希望者全員に配ったのであった。
「お、おむすび、すごくおいしいんだな」
とか言いながら塩むすびをぱくぱく食べる真緋呂は、とても幸せそうだった。このぶんだと、Gになる日も近い。
ちなみに点数は『枠外』だったが、真緋呂はおむすびのほうが嬉しいだろう。
さて。盛り上がる客席の中にも、コスプレしている者たちがいた。
城前陸(
jb8739)は、太陽戦隊の赤い人の格好をしている。
絵に描いたようなヒーローだ。こんなときでもないと着られないコスチュームなので、機会を活かしてヒーロータイムを満喫。もっとも、こんな衣装をなぜ持っていたのかは謎だ。
しかし、どうせなら普通に出場すれば良さそうなものだが……妹に見つからないよう、目立つのを避けたのだろうか。
ともあれ、陸は観客としてコスプレショーをたのしんでいた。
だが、できればヒーローとして参加してほしかった……。
おなじく客席でカメラをかまえているのは、鴉乃宮歌音(
ja0427)
『運営スタッフ』と書かれた腕章をつけて、レイヤーを撮りまくっている。
さりげなくベヨネ●タのノレカに扮装しているが、わりと日常的な服装なので誰もコスプレと気付かない。この季節にマフラーというのが少々目立つが、久遠ヶ原には一年中赤いマフラーを巻いてる人も少なくないので、とくに人目を引くこともなかった。
長いマフラーをひるがえし、持ち前のイニシアチブと身体能力を活かして、あらゆる角度からベストショットを試みる歌音。全身像とバストアップは、かならず確保。女性の胸や太腿なども、逃さずフィルムに収めていく。パンチラなどのハプニングは、当然のように激写。男女関係なく、無差別絨毯爆撃だ。
だが、そこらのカメラ小僧と違って歌音は、パンチラだろうとパンモロだろうと奇声を上げて喜んだりはしない。ただ淡々と、機械のようにコスプレ写真を撮るだけだ。どこかの猫社長みたいに、それで金儲けしようとも思ってない。ストイックにもほどがある。
しかし、これが歌音なりの楽しみかたなのだ。
「おっと、次はわらわの番なのぢゃ」
思い出したように、Beatriceは解説席を出ていった。
ひそかにコスプレ女王の座をめざす彼女は、伝統芸能の早着替えで勝負!
まずは、黒い喪服にロシア帽をかぶって登場。だれでも一目でわかる、銀河列車のヒロインだ。自慢の金髪を活かす作戦である。
お次はセーラー服にチェンジ。髪をツインテールにすれば、これまた有名な美少女戦士に。
「月に代わっておしおき……なのぢゃ!」
だが、そこまでやって面倒になってきたBeatriceはぞんざいなパフォーマンスで、某大食い剣士や魔法少女(タイトルつながり!)に変身し、某ラブコメ漫画っていうかエロコメ漫画の殺し屋になったあと、〆で巨乳魔法少女にチェンジ!
その直後、頭上から襲いかかってきたドラネコ天魔(作りもの)が、Beatriceの頭部を食いちぎった。
突然の天魔の襲撃に、会場は騒然。
だが心配無用。これは手品だ。
死んだと思わせて、最後に虎縞ビキニで頭にツノをつけて復活するBeatrice。
「ティロ・フィナーレ、ぢゃ♪」
そのキャラ、完全に髪の色ちがう。
「突然やけど、うちはギター演奏が趣味で特技やねん。……で、コスプレやろ? となったら、やることはひとつ! 『けーおん!』のコスプレしまーす! んで、ひとりじゃサマにならんし、月乃宮クン手伝ってぇなー!」
という感じで、黒神未来(
jb9907)は強引に恋音を引き入れた。
未来の役は、天然主人公。恋音は、超絶ポエマーだ。
二人分の制服も用意し、茶髪ボブのカツラも、黒いタイツも身につけた。無駄に高いレスポールも手に入れたし、レフティ仕様のフェンダーも……は無理だったので、右利き用のベースの弦を張り替えた。ふつう音楽室に左利き用のベースなんてないよ! ていうか未来が左利きなんだから、自分でベースやればよかったのに!
ともあれ、ふたりは舞台に上がって演奏開始!
未来のギターだけ生。ほかはカラオケ用のテープだ。……弦張り替える必要なかったな。
そして演奏する曲目は……ふわふわごはん!
お粥みたいだな!
しかし、このライヴは名案だった。会場は大盛り上がり。明日羽もゴキゲンだ。
結局アンコールに応えて3曲演奏すると、未来は客席に向かって「みんなありがとー!」と叫んだ。
ほっとした様子で舞台を降りようとする恋音。
そこへ、未来がスッと足を出した。
「はわ……っ!?」
ずべたーーん!
ベースを持ったまま、盛大にスッ転ぶ恋音。
めくれたスカートの下から、もろに縞々パンツが!
「いやああああああ!!」
恋音の悲鳴は、学園中に響きわたった。
「……というわけで、いよいよ最後の一組ぢゃ! 600点は無理ぢゃろうが、健闘を祈るのぢゃ!」
Beatriceが発破をかけて、登場したのはスク水を着た3人。
夜雀奏歌(
ja1635)、カナリア=ココア(
jb7592)、緋流美咲(
jb8394)だ。
奏歌と美咲は、スク水の上にセーラー服を羽織っている。
さらに、3人とも太くて長いモノを股に挟んでいた。
そう、これは『艦れこ』のコス! 股に挟んでるのは魚雷型エアクッションだ!
中央に立つのは、イ58に扮した奏歌。
「海の中からこんにちはー! ゴーヤだよ!」
その右側で恥ずかしそうに立っているのは、イ168の美咲。
「イ168よ。……な、なによ、言いにくいの? はぅぅ……じゃ、イムヤでいいわ。よ、よろしくね……っ! はぁはぁ……」
やけに呼吸が荒いのは、わざとサイズの小さい水着を身につけてきたせいだ。これによって動くたび水着が股にくいこみ、胸ははちきれそうで呼吸するだけでも苦しいという責め苦が味わえるのである。
「はぁぅぅ……司令官んん……♪」
なにもしてないうちから、ビクンビクンしはじめる美咲。
なんと直球な変態か。
3人組の左端に陣取るのは、イ19のコスプレ……っていうかスク水に『イ19』のゼッケンをつけただけのカナリア。触角みたいなリボンがキュートだ。
「はーい! イ19なの! そう、イクって呼んでもいいの!」
ドヤ顔でスク水の肩紐をはずすカナリア。
見れば、奏歌と美咲も胸を強調するポーズをとっている。
いつもは残念な奏歌のおっぱいだが、今日はメロンパン……じゃなくパッドで調整済み。露骨な詐欺だが、許してやってくれ! こうしなけりゃ、奏歌にはイ58程度の胸さえ再現できないんだ! 内心ほかの二人に嫉妬して暴走ぎみだが、しかたないんだ!
「ふぅん? それだけじゃ逆転できないよ?」
明日羽が笑った。
しかし、そんなことは3人も先刻承知。
ここで舞台袖から運ばれてきたのは、高さ5mはあろうかという巨大水槽だ!
「ああ、すごい請求書の正体はこれ?」
納得したように、明日羽がうなずいた。
「はーい! イク、行くの!」
言うや否や、カナリアは闇の翼で舞い上がり、急降下して水槽に飛びこんだ。
ドバアアアアン!
盛大に飛び散る水しぶき。
そのあとから、ハシゴを上った奏歌と美咲が続く。
そして水槽の中で繰り広げられる、イチャイチャ百合空間!
これは、MSの……もとい、明日羽の琴線を直撃だ!
そんなイチャイチャアピールを終えた3人は、浮上して水槽のふちにもたれかかった。
濡れた水着! 貼りつくセーラー服! 強調されるおっぱい!
カナリアは「ふふぅ〜、スナイパー魂がたぎるの♪」などと言いながら、エアクッションを胸の間に挟んでペロペロ。そんなスナイパーは世界のどこにもいないが、観客の心を撃ち抜いてるのは間違いない。
しかも、そんなことをしてるそばから水着の肩紐がちぎれだした。
「こんなんでイクを追い込んだつもりなの……? 逆に燃えるのね!」
破れやすいように自ら細工しておいて、小芝居を打つカナリア。
そして、じゃれつくように見せかけて奏歌と美咲へ襲いかかる。
当然のように、あっさり破れてしまうスク水。
「ああ……っ! 機能美にあふれる、明日羽てーとく指定の水着が〜!」
涙目で叫ぶ奏歌。
フリーダムだな、この子たち!
「それで、提督は誰と遊びたいの?」
リボンをぴこぴこさせながら、カナリアが訊ねた。
「そうでち! てーとくは誰と遊びたいでち!」
奏歌が質問をかさねる。
「そんなに私と遊びたい?」
明日羽はボードに『999』と採点して席を立つと、木葉をつれて水槽へ向かった。
左手には木葉の手を、右手にはスタンガンを持っている。
それを見た瞬間、美咲はイヤな予感に襲われた。
「あ、あの、司令官……? あんまり痛くはしないでね……?」
「ん? 気持ちよくしてあげるだけだよ?」
にっこり微笑む明日羽。
その後、感電失神して鎖で縛り上げられた3人がどんな目に遭ったか。
それを書くのに、12000字は少なすぎる。
ともあれ。華麗な(?)逆転劇で大会を制したのは、彼女ら潜水艦娘!