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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/09


みんなの思い出



オープニング


 四月の久遠ヶ原は、新鮮な香りに包まれている。
 まだ学園の空気に染まってないフレッシュな新入生の姿が目立ち、そんな新入生たちをクラブに勧誘する先輩たちも少なくない。年に二度、四月と九月にだけ見られる光景だ。

 そんな空気の中、新入生のカップルが仲良く歩いていた。
 どちらも高校生だ。なにごとか楽しげに会話しながら、笑いあっている。
 これといって変わったところのない、どこにでもいるようなカップルだ。
 が、男のほうは少々特殊な事情をかかえていた。
 というのも、先日強引に入部させられたクラブが──

「おう、そこの新入部員。今日も殴(や)ろうぜェ?」
 ふたりの前に現れたのは、黒髪の女子高生だった。
 身につけているのは、足首まであるスカートに、着崩したセーラー服。まるきり、昭和時代のスケバンだ。
 このヤンキー娘の名は、鮫嶋鏡子。三度の飯よりケンカが好きな、典型的脳筋──というより、全身筋肉みたいな女である。

「やるって、いますぐにですか……?」
 新入生の男──モブ男が訊ねた。
「たりめェだろ。そういう規則だって教えたろーがよォ」
「でも、いま彼女と一緒なので……」
 あわてるモブ男。
 だが、となりのモブ子は無邪気に「ケンカするの? 見てみたーい♪」などと煽るのであった。
「よォし、決まりだな」
 鏡子はポキポキと指を鳴らした。


「じゃあ行きますよ? レディー、ファイト!」
 モブ子の合図で、ケンカが始まった。
 鏡子とモブ男は同時に光纏し、なんの小細工もなく正面から突撃する。
 もちろん、新入生のモブ男に勝ち目などないのは明らかだ。それでも、無策で突進してくる鏡子に対してカウンターをあわせるのは不可能ではない。
「おらァああああああ!!」
 鏡子は、ほんとうに何も考えず殴りにいった。
 その気魄に圧倒されそうになりながらも、モブ男は絶妙のタイミングでカウンターを繰り出す。
 バキィィッ!
 モブ男の右ストレートが鏡子の顔面をとらえた直後、
 ドグシャアアアアアッ!
 鏡子の右フックが、モブ男の側頭部を打ち抜いた。
 横ざまにブッ倒れ、地面を三回ぐらいバウンドして、動かなくなるモブ男。
「今日もいいパンチだったぜ。じゃあまたな!」
 手の甲で鼻血をぬぐうと、鏡子は爽やかな笑顔を残して立ち去るのだった。




 翌日。チョッパー卍のもとを鏡子が訪ねた。
 この卍という男もまた時代錯誤なヘビメタ野郎なので、二人そろうと異様なレトロ感が漂う。
「よお、卍ィ。ちょっとツラ貸せよ」
「なんだ? 麻雀か? ギグか? どっちも気分じゃねぇんだが」
「いや、ケンカだ。ケンカしようぜ?」
「もっと気分じゃねぇよ! ひさしぶりに顔見せたとたん『ケンカしようぜ』は、ねぇだろ!」
「冗談だッつーの。……まぁケンカするなら、してもいいけどよ」
「しねえって言っただろ!」
「わかったわかった、大声出すなよ。まァちょっと来てくれや。時間はとらせねェ」
「……ったく。すぐに終わらせろよ?」
 なんだかんだで付き合ってしまう卍なのであった。


 つれていかれた先は、とある部室。
 ドアのプレートには、なにも書かれてない。
 卍が部屋に入ったとたん、鏡子はドアを閉めて言った。
「よく来たな、ここは久遠ヶ原ファイトクラブだ。さァ、入部届を書け」
「……まず、事情を説明しろ。聞いたところで、書くわけねぇけど」
 卍は肩をすくめて溜め息をついた。
「事情ってもなァ。……まぁ一言で言やァ、部員が足りねェから協力してくれッつー話だよ」
「ふつうに部員を集めりゃいいだろ。俺はおことわりだ。ミュージシャンなんでな。指を故障したくない」
「どうやっても、部員が集まらねェんだよ。たまに入っても、みんなすぐに抜けちまいやがる」
「……だいたい、どういう部なんだ? まぁ名前からして察しはつくが」
「おう、よく聞いてくれた。ここに、部の規則がある。読んでみろ」
 そう言って、鏡子は一枚のプリントを見せた。

1、部員は、いつでもどこでも他の部員からのケンカを買わなければならない。
2、ケンカは己の肉体のみで行うこと。武器防具および攻撃魔法は禁止。
3、使用可能なスキルは、近接戦闘と自己強化のみ。透過、飛行、回復等は禁止。
4、バッドステータスを与える行為は一切禁止。
5、ケンカを売る際は正々堂々ハッキリと。不意打ち禁止。倒れた相手への攻撃も禁止。
6、その他、空蝉などのシャバイ行為は全部禁止。

「……阿修羅のためだけにあるようなルールだな」
 と、卍が言った。
「あァ? もともと、阿修羅のために作った部なんだ。問題ねェだろ」
「その時点で相当に人を選んでるってこと、わかってんだろうな……?」
「わかってるッつーの」
「本当にわかってんのかよ……。で、いま部員は何人いるんだ?」
「あァ、いま残ってるのはアタシだけだ。……いや、半年ぐらい前までは大勢いたんだぜ? くだらねェ依頼でヘマこいて、おおかた使徒に殺されちまッてよォ」
「特攻しすぎなんだよ、おまえらは」
「しょうがねェだろ。死んででも殴りに行くのが阿修羅の仕事なんだよ」
 無茶なことを言う鏡子だが、阿修羅100人に訊いたら50人ぐらいはYESと答えるかもしれない。
「つーか、昨日まではもう一人いたんだけどなァ……。四日連続で殴ったら、『ついてけません』とか抜かして退部しやがんの。マジ根性ねェよな」
「四日耐えただけ、えらいと思うぜ……?」
「考えてみりゃ、ダアトにしちゃあ根性あったほうかもなァ」
「ダアトかよ! なんでこんな部に入っちまったんだよ、そいつ! 自殺志願者か!?」
「ふだん遠距離で戦ってばっかりだから、近接戦闘の修行に……とか言ってやがったな。まァちょっとは修行になったんじゃねェの?」
 あっはっはっはと高笑いする鏡子に、反省の色は微塵もなかった。

「……まぁアレだ。この時期だと、クラブの説明会とかやってるだろ。ああいうのに出ればいいんじゃねぇの?」
 投げやり気味に、卍が言った。
「ああいうのは、どうも苦手でよォ……。アタシは口下手だからさァ。わかるだろ?」
「口下手というより、単に口が悪いだけだろ」
「ンなこたァわかってんだよ。だから、手ェ貸せっつーの。仮入部でいいからよォ」
「冗談じゃねぇ。だいたい、おまえみたいな超攻撃特化の阿修羅しかいない喧嘩クラブに、だれが入るってんだ? 気の毒なダアト君みたいに、毎日毎日おまえにボコられるだけじゃねぇか」
 それを聞いたとき、鏡子がパンッと手をたたいた。
「……あっ、そうか! わかったぜ! ようするに、新入生でも安心して殴れるようなヤツを部員にすりゃァいいんだ! だろ?」
「その生贄君がまず、おまえに殴られてやめるだろ……。もう面倒だから、いっそ依頼に出せよ。で、仮入部の部員を何人か集めりゃいい。それなら、説明会でも一応は形になる。それぐらいのカネは持ってんだろ?」
「ああ、ここんところ麻雀で負けナシだからな」
「脳筋のくせして賭けごとだけは強ぇからな、おまえ」
「アタシが勝ちすぎて、麻雀部の部員も少なくなってきてんだよなァ……。そっちもどうにかなんねェかな。……しかし、そうだな。斡旋所で人数あつめるッつーのは、名案かもしれねーわ」
 鏡子に皮肉は通じなかった。
 ともあれ。こうして今日もまた、じつに平和な(?)依頼が斡旋所に持ちこまれるのであった。



リプレイ本文




 説明会当日。鏡子率いるファイトクラブの面々は、体育館に集まった。
 多くの体育会系クラブがひしめく中。彼らは人目を引いていた。なんせ、いつでもどこでも殴りあうという部活なのだ。どれだけイカれた集団なのかと、注目を浴びるのも無理はない。


「おー、ずいぶん集まってるじゃねーか」
 笑顔で周囲を見回すのは、銅月千重(ja7829)
 筋肉質な外見はいかにも殴りあい向きだが、意外なことに彼女は救急班。本日唯一の、貴重な回復要員だ。しかも、痛がっている相手を治すのが好きというサドっ子。
 書道にも通じており、看板や横断幕に揮毫したのも千重だ。猛々しい筆勢はまさに『ファイトクラブ!』という感じで、よく目立っている。
「この看板はイイ感じだよな」
 と、鏡子が言った。
 いつもどおりのスケバンスタイルだ。
 千重がしげしげと見つめて言う。
「うーん。まさに絶滅危惧種だねぇ……。いや、なんでもないよ」
「古くさいッてのか? この制服はなァ、先輩の形見なんだよ」
「形見ねぇ……」
 その先輩って昭和何年生まれなのかと思う千重。
 だが、鏡子の生き様には自由を感じてもいた。どこか自分と似たところがある。
「こんなクラブを作ったり、依頼に出したりするのは、仲間を失った寂しさをまぎらわせるためかい?」
 千重が直球を投げた。
「あァ? 単なるヒマつぶしだよ」
「へぇ……。でも、部員を死なせたことに繋がる行動は見直してもいいんじゃない? 天魔を見たら即特攻とかさ」
「いいんだよ。アタシらは、スリルをもとめて撃退士やってんだ。危ないからって闘牛士をやめるヤツいねぇだろ?」
「闘牛士より、ずっと危険だと思うけどねぇ」
 あきれ気味に言いながら、出番を待つ千重だった。


「この観客の前で、殴りあいですか……たのしみですねぇ……」
 眼鏡を光らせながら、神雷(jb6374)は微笑んだ。
「しかしまぁ……いまさら言うのも何だが、極端な部活だよな」
 と、月詠神削(ja5265)が苦笑する。
「たしかに、正直すすんで入りたくはありませんよね……。でも強くなるには、こういうクラブも必要なのかもしれません」
 おっとり口調で応じたのは、幸宮続(jb9758)
「殴りあいクラブ、シンプルでいいじゃないか。見るのは好きだよ」
 と、千重が同意する。
「殴りあい、ですか……いやはや、なんとも野蛮で度しがたい……ですが、大好きです」
 不敵に微笑むのは、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 奇術師の彼としては畑違いの依頼だが、これもまた一幕のショーだと割り切っている。
「小細工なしの殴りあいかぁ……。うん、たしかに気合は入ってるよね。でも、天魔相手に正面突撃ってのは……」
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)も、苦笑するばかりだ。
 ともあれ、そろそろ彼らの出番である。
 ちなみに、参加者一同から提案されたルール改変は、すべて不採用だった。



「おまたせしました。次はファイトクラブの皆さんです」
 執行委員の説明が入り、9人の部員は舞台に出ていった。
 司会は、続と姫月亞李亞(jb8364)
「おまたせしました、皆の衆! 僕たちが久遠ヶ原ファイトクラブだ! いまから始まるのは、我が部の通常活動にして最大の華、小細工抜きの殴りあいだァ!」
 アウトローな空気を放ちながら、続がマイクをにぎった。
「「おおおおお!」」
 熱い喚声が返ってくる。
 見るからに、頭の悪そうな連中ばかりだ。
 そこへ、亞李亞が入り込む。
「こんにちは! うちの活動内容は、パンフに書いてあるとおり! みんなで楽しく殴りあう、健康的なクラブなの! いつでもどこでも殴りあい! まずは、この二人のケンカをどうぞ!」

 舞台の左袖から、神削が出てきた。
 すかさず、続の紹介が入る。
「高等部3年、月詠神削! 学園上位レベルのルインズだ! 座右の銘は『勝てば官軍』! そんな男でも、我らがファイトクラブでは正々堂々と殴りあうぜェ!」
 その紹介に、神削は小さく肩をすくめた。
 彼が参加したのは、自分より実力が高い撃退士と戦えるチャンスだったからだ。実際、神削ほどのレベルになると自分より強い相手はなかなか見つからない。説明会の協力というのは建前だ。

 受けて立つのは、雫(ja1894)
「対戦相手は、小等部5年の雫だよ! 神削と比べたら大人と子供だけど、こう見えても学園トップレベルの阿修羅だからね! 知ってる人も多いんじゃないかな?」
 亞李亞が紹介すると、客席から「雫ちゃーーん!」という声が飛んできた。
 そんな声援を受けながら、雫は無表情で神削と向かいあう。
 冷静に見ると、男子高校生と女子小学生がステゴロのケンカをしようとしているわけで、道徳的に問題がありそうな……というか、シュールすぎる光景である。

「では第一回戦! レディ……ファイッ!」
 続の腕が振り下ろされて、殴りあいが始まった。
「では……本気で行く」
 神削はリスクを承知で『アーク』を発動した。
 同時に、雫は闘気を解放。先手を奪って、『徹し』で殴りかかる。
 盾が使えないため、神削はそれを真正面から受けた。
 雫の拳が、ドボッと神削の腹にめりこむ。
 内臓が破裂しかねない、強烈なボディブローだ。
「ぐ……っ!」
 体勢を崩されないよう踏ん張り、『キープレイ』を使いつつ反撃の拳を繰り出す神削。
 これも、雫の腹部に命中した。
 しかし、返しで飛んできたボディフックが、神削の足を止めさせる。
 ふつうなら、この時点で悶絶KOだ。が、ここで神削が根性を見せて反撃した。
「ケンカは、倒された時じゃなく自分が折れたとき負けるんだよ……っ!」
 しかし、その拳は空を切った。
 雫は最初からカウンター狙いだったのだ。
 腕をとられた神削の体がフワッと浮き上がり──
 ドバアン、という音とともに、背中が床に叩きつけられた。きれいな一本背負いだ。
「そこまで! 勝者、雫!」
 亞李亞の声が上がり、雫は神削に向かって一礼した。
 わああっ、と観客が沸きかえる。

「おうおう、派手にやったなぁ」
 千重が出てきて、神削にヒールをかけた。
 どれだけケガをしても部員が治すという宣伝だ。
「やはり強いな……」
 意識を取りもどした神削は軽く笑って、雫と握手した。
 その爽やかな姿に、客席からは拍手の雨。
 すかさず亞李亞がマイクをにぎる。
「みんな見てた? 正々堂々と殴りあうのは楽しいのよ。自分の力の限界に挑戦することができるの。自分より強い人に挑戦すれば、強くなる方法を学べるし、同等の人と戦えばお互いに切磋琢磨できるの。もちろん、見学することもできるんだから。小細工のない殴り合い、たのしんでみたくない?」
 新入生たちが喚声を張り上げる。
 なかなか悪くない反応だ。



「さあ、第二回戦! 幻惑の魔術師(マジシャン)エイルズレトラの登場だ! 超絶回避で、どんな攻撃もよけてみせるぜ! 部の規則で空蝉禁止だが、あたらなければどうってことはない! いざ出陣!」
 続の紹介と同時に、エイルズがマントを羽織って登場した。
 観衆の目が集まった瞬間、バッと腕が振り上げられて、紙吹雪のようにトランプがばらまかれる。
 その演出に、「おお……っ」という声が上がった。
「お相手するのは、雫だよ! 連戦がんばってね!」
 亞李亞が言い、雫は無言でうなずいた。
「すみませんね、雫さん。でも、せっかくなら一番強い人と戦ってみたいので」
 と、エイルズ。
「かまいません。私からすれば、修練になるので」
「ありがとうございます。……でも正直に言えば、今日は負けにきたんです。この僕を、派手に、盛大にぶっとばしていただきたい。……まあ、ただでは負けませんけれどね!」
 そして、ケンカが始まった。

 まずは、雫が闘気を解放。
 エイルズはカウンターを狙い、横へ回りこむ。
 しかし雫が攻撃してこないのを見ると、シフトチェンジして逆サイドへステップ。一瞬の死角をついて、ダブル・アップを発動。
 渾身の右ストレートと左のハイキックが、雫をとらえた。どちらも致命傷ではないが、良い手ごたえだ。
 そのダメージをものともせず、雫が殴り返す。
 ゴォオオオッ!
「ぅわ……っ!」
 うなりをあげる砲弾のようなパンチを、エイルズは紙一重で回避した。
 そして、ここぞという的確さでギャンビット・カードを撃ち込む。
 これも命中。突き立ったカードが爆発して、血煙が散った。
 もしや勝てるのでは……とエイルズが思った、次の瞬間。
 ゴシャアアアッ!
 なんでもない普通のパンチが、エイルズの側頭部を打ち抜いた。
 盛大に吹っ飛び、床の上を五回転ぐらいして倒れるエイルズ。

「そこまで! 勝者、雫!」
 亞李亞が言い、千重が走ってきた。
 回復魔法を受けながら、エイルズが言う。
「まさか、素手で一撃KOとは……。末恐ろしいなんて言葉では生ぬるいですね。すでに、十二分に恐ろしい……。でも、たのしかった。またいつか、殴り愛たいものですね」
「はい、ぜひ。……それにしても、装備なしで戦うと純粋に自分の成長や強さがわかりますね。野蛮な行為だとは思いますけど……自分たちが天魔と戦うだけの兵器ではなく、こんな馬鹿げたことを思いつき実行する子供だということも認識できました」
 エイルズと雫は握手して、体育館は再び拍手に包まれた。
 そこへ、続がセリフをはさむ。
「さあ、一日も早く撃退士として働きたくてウズウズしてるキミも! 体力には自信ないけど気合だけは負けないというキミも! 我が部の門を叩けば、天魔の一撃にも怯まないリーサルウエポンへと生まれ変わることうけあいだ!」
 スーサイドウエポンの間違いではないかと、だれもが思ったという。



「さぁ、どんどんいくぜ! 第三回戦、ファイター入場!」
 続の司会で、鏡子が登場した。
「ここにおわすは、我らが部長! 可憐な容姿ながら、屠った天魔は数知れず! 紅蓮の双拳、鮫嶋鏡子先輩だ! 全員沸けぇぇぇい!」
「「わああああ!」」
 それなりの歓声が沸いた。
「声が小さぁぁぁい!」
「「うおうおおおおおおおおおっ!!」」
「うるせェェェェ!」
「「なんだとコラアアア!」」
「あっ、ちょっと! ものを投げるのはご遠慮ねがいます! ごめんなさい! ごめんなさい!」
 空き缶や屑鉄が飛んできて、続は逃げだした。

 かわって亞李亞が、対戦相手を紹介する。
「部長と戦うのはジェラルド! 一見チャラそうなイケメンさんだけど、殴りあい大好きな熱い魂の持ち主だよ!」
「紹介ありがとう、子猫ちゃん」
 ジェラルドは、白スーツにネクタイ姿で現れた。
 はたから見ると、完全にホスト対スケバンの構図だ。
「ボクらの戦いに、無粋な合図はいらない。さぁはじめよう」
 ジェラルドの全身から、血煙のようなオーラが湧き出した。
 同時に、鏡子も紅蓮の闘気を噴き上げる。
「いくぜ、ナンパ野郎! おらああああッ!」
 いつもどおり、鏡子は何も考えず殴りに行った。
 応じるジェラルドは色々と小細工を考えたが、結局有効な手は打てず、実力勝負に持ちこむことに。
 ヒュッ、とジェラルドの脚が一閃して、鏡子の足下を払った。
 出足をくじく、ローキック。紳士の彼としては、女子の顔面を殴るなど出来ないのだ。
 だが鏡子は止まらず、全体重をのせた拳がジェラルドの胸板に叩きこまれた。
「ごふ……っ!」
 心臓が背中から飛び出しそうな強打。
 並みの阿修羅なら一撃で沈むところだが、ジェラルドは耐えた。
 髪を翻しながら、彼は冷静に逆転の手を考える。
 そして選んだのは、『Kiss of Death』
 文字どおり、キスによって生命力を奪うオリジナル技だ。
 ジェラルドの右手が、するっと鏡子の頭に、左手が腰へと回り、一瞬のうちに唇を奪っ──
「なにしやがる、テメェェェ!!」
 強烈なチョーパン(頭突き)が、ジェラルドの顔面に炸裂した。
「グワーッ!」
『受身』で大袈裟に吹っ飛ぶジェラルド。
 だが、ダメージを軽減してもなお、彼は立ち上がれなかった。
「おいコラ! ふざけんな! 殴りあいの最中に、キ、キスだと!? 責任とれ、おい!」
 顔を真っ赤にしながら、ジェラルドの胸倉をつかんで揺さぶる鏡子。
 その怒りようは凄まじく、部員全員で抑えなければならないほどだった。
「いやぁ……やるねぇ……。小細工の通じない、圧倒的な力……。この部では、そういうものが得られるのかも……しれないね……」
 そう言い残して、ジェラルドは気絶した。



「えーーと、予想外の事故が起きたけど、もう一戦やろうね♪ 次の部員は神雷。文学少女の意外な一面が見られるよ」
 亞李亞が言い、神雷は本をかかえて舞台に上がった。
 制服に黒スト+眼鏡という格好である。
 彼女はマイクを取ると、観客に呼びかけた。
「そこの方、私と戦ってみませんか? なにごとも、体験するのが一番ですよ」
 指名された高校生は、「本当に殴っていいの?」などと言いながら、舞台に出てきた。見るからにゴツい男だ。
「ルールはわかりますね? シンプルに殴りあうだけです。では行きますよ」
 神雷は眼鏡と本を鏡子に預けると、素早く光纏した。
 そのまま、助走をつけて殴りかかる。
「いきなり!?」
 有無を言わさず殴られた方はたまったものではないが、久遠ヶ原ではよくあること。
 バキイッ!
 体ごと突っ込む神雷のパンチが、男の頬をとらえた。
「あっはぁ♪」
 たのしげに微笑む神雷。
 だが、その拳は軽すぎた。
「俺の番だ!」
 男の反撃が、神雷の腹部に叩きこまれた。
「げふ……っ!」
 体を折って、よろめく神雷。
 あきらかに、男のほうが強い。
「なんの……力がすべてではありません……」
 神雷は男の胴体に両脚をからめると、後ろ向きに引き倒した。
 男が上にのしかかる形だ。一見神雷が不利だが、さにあらず。
 倒れた次の瞬間には、三角絞めが決まっている。
「どうですか、女子中学生の太ももは。天国に昇りそうでしょう?」
 クスクス笑う神雷。
「あばばァあああ……☆」
 男は極上の笑顔を浮かべながら、文字どおり昇天。
 JCの太もも、おそるべし!

「ちょっとやりすぎた……?」
 冷静になって青ざめる神雷。
 だが、そこへ。
「うおおおお! 俺も! 俺も!」
「その脚で、締め落としてくださいいい!」
 次々と男たちが上がってきて、壇上は大混乱に陥った。
 いくらなんでも、神雷ひとりで相手できるわけがない。
「よーし、かかってきな、バカども」
「私も手伝います」
 鏡子と雫が、ポキポキと指を鳴らした。
「「ひぃいいい(悦)」」
 片っ端からブン殴られる、変態男子たち。
 というわけで、体育館に血の雨が降ったのであった。




 こうして説明会は無事(?)終わり、20人ほどの生徒が仮入部した。
 だが、その大半は女子に殴られて喜ぶ変態ばかりで、たちまち退部を言い渡されたという。
 結局、正式部員は5人しか集まらなかったが、鏡子は満足だった。
 そう。たのしい殴りあいの日々が戻ってきたのだから。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 永遠の十四歳・神雷(jb6374)
 阿修羅四天王・幸宮 続(jb9758)
重体: −
面白かった!:5人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
海に揺れる月を穿つ・
銅月 千重(ja7829)

大学部9年185組 女 アストラルヴァンガード
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
妹ひとつで全てが解決・
姫月 亞李亞(jb8364)

大学部6年153組 女 阿修羅
阿修羅四天王・
幸宮 続(jb9758)

大学部2年38組 男 阿修羅