ニンジャピザ社の業務はヘヴィーだ。なにしろ島内いかなる場所へも三十分以内に商品をとどけねばならず、失敗すれば問答無用の切腹。
この無慈悲きわまる経営方針を打ち出した社長は自らもデリバリーに失敗し、数年前に腹を切った。いまは五人の孫に囲まれて幸せに暮らしている。文脈がおかしい? 気のせいだ。
その、初代社長を引退に追い込んだ張本人こそ、はぐれ悪魔の力士(スモトリ)、テケリリ両国(pizza150)!
この男が切腹に追い込んだニンジャの数たるや、両手の指では足りない。それでも顧客として扱われるのは、シナリオの都合上……じゃなく、ニンジャピザ社の意地と誇りと矜持とプライドだ!
正直そんなものは捨ててくれよと思う、クロス・サン。
この恐るべきモンスタークレーマーへの宅配は、とても彼ひとりで成し得るものではない。だが心配ご無用。彼には心強い味方がいる。メンバーは以下八名!
世にも珍しい清楚な阿修羅、佐藤七佳(
ja0030)
おっぱいが嬉しいほうのクノイチ、月臣朔羅(
ja0820)
おっぱいが残念なほうのクノイチ、エルレーン・バルハザード(
ja0889)
雄っぱ……じゃなくてハーフなクノ……ニンジャ、虎綱・ガーフィールド(
ja3547)
無邪気で無慈悲なインフィルトレイター、飯島カイリ(
ja3746)
二十歳超えの高校生インフィルトレイター、伊藤辺木(
ja9371)
イケメン狼悪魔の、フェンリス・ヴォルフ(
jb2585)
よりによって飛べない天使の、美具フランカー29世(
jb3882)
なんと、八人中三人がニンジャという充実ぶり(?)である!
戦闘依頼はともかく(え?)コメディ依頼なら頼りになるニンジャ!
これはもう、コングラッチュレーション同然だ!
「いいから、早く出発するでござる!」
辺木の用意した頑丈なオカ=モチをかかえて呼びかける、クロス・サン。
すでに注文から三分をすぎていた。前置きが長すぎたのだ。すまん。
「よっしゃ、行くぜぇ!」
威勢良くヴォルフが言い、ニンジャたちは「ガンバルゾー!」と店を飛び出した。一枚のピザをとどけるのにスタッフ九人を動員するという採算度外視のセレブ的ヤケクソ戦術だが、シナリオの都合上……ではなく、全額クロス・サンのポケットから出ているので問題ない。
おとどけ先まで、走って五分。
一同の前に立ちはだかるのは、幅五メートルの水堀と高さ十メートルの石壁だ。跳ね橋はあるが、当然吊り上げられている。
だが、ニンジャにとってはノープロブレム。
ここで言っておこう。すべての撃退士は、忍軍と忍軍でない者に分けられる。すなわち、水上歩行できる者とできない者に!
「さぁ行くわよ」
朔羅が言い、虎綱とエルレーン、クロス・サンが続いた。
スタッ、と水面に降り立つニンジャたち。
グワッ、と襲いかかる、巨大なワニ!
「きゃあっ!?」
「うおっ!?」
予想だにしないアンブッシュ(奇襲)を受けて、あわてて跳びのくニンジャ。なにしろ、襲ってきたのは体長八メートルのクロコダイルだ。へたなディアボロより恐ろしい。
「あはははは。ワニすっごーい」
たのしそうに言って、けたけた笑うカイリ。
「聞いてない! 聞いてないでござるぞ!」
大声で抗議したのは虎綱だ。たしかに彼らは『幅五メートルの水堀』という情報しか得ていない。まさか巨大ワニが待ちかまえていようとは。だって、あとから思いついたんだもん(え?)
だが、いずれにせよ、ただのワニなど撃退士の相手ではない。しょせん出オチの一発ギャグだ。気を取りなおして素早く水面をわたり、石壁にたどりつくニンジャ四人。
ここで、あらためて言っておこう。すべての撃退士は忍軍と忍軍でない者に分けられる。すなわち、壁走りできる者とできない者に!
「さぁて、のぼっちゃうよー?」
エルレーンが先陣を切り、つづいて三人が壁に足をかけた。──刹那
CABOOM!!
「「グワーッ!」」
すさまじい爆発とともに、吹っ飛ぶ四人。
なんと、壁に地雷が仕掛けられていたのである。一般人なら死んでいるところだ。(一般人は壁を走りません)
「聞いてない! 聞いてないでござるぞ!」
ドリフのコントみたいに髪をチリチリにしながら抗議する虎綱。
「あはははは。地雷すっごーい」
おなかをかかえて笑うカイリ。
一方、忍軍たちはまったく笑える状況ではなかった。
「まさか、カベバシリ・ジツが破られるなんて……」
くやしそうに壁を見上げる朔羅。
虎綱がアフロ頭でうなずく。
「まるで暗黒メガコーポの本社めいたセキュリティでござる……」
「ここまでやるなんて、マッポーの世にもほどがあるの」と、エルレーン。
「さすがにカベバシリ対策は万全でござったか……」
「でも地雷をひとつひとつかたづける時間はないの」
「むむ……」
そのとき、ガコーンと大きな音をたてて、跳ね橋が落ちてきた。
「皆、これをわたるのじゃ」と、美具が手招きする。
「どうやったのでござるか?」
虎綱の問いかけに、美具はスレイプニルのウルルウマウマを見せた。
「ひとっ飛びさせて橋を下ろさせたのじゃ。高さ十メートルなのでギリギリじゃったがの」
テイマー大活躍である。ニンジャピザなのに!
堀をわたって門を抜けると、そこには庭園が広がっていた。
ようこそとばかりに襲いかかってくる、体長二メートルのドーベルマンの群れ。あまりの獰猛さに天魔と間違えそうだが、ただの犬である。退治するわけにはいかない。
「ほーら、みんな。おやつの時間よー」
予定どおり、ドッグフードをまく朔羅。
カイリも楽しそうにポイポイ放り投げる。
ところが、番犬たちは見向きもせず彼女らのほうへ突進してくるではないか! 当然だ。訓練された犬が他人からのエサなど食べるはずがない。(こんなときだけシビアに判定)
それを見て、本能的に拳銃を抜くカイリ。瞳が殺気に満ちている。コワイ!
「うわあっ! 撃ってはダメでござる!」
血相を変えて止めたのはクロス・サンだ。
「えー? これ天魔だよね? 殺っちゃっていい系だよね?」
「殺っちゃダメ系でござる! 拙者が切腹する系でござる!」
「そうなの? でもボクが切腹するワケじゃないしー」
さわやか笑顔で、ひどいことを言いだすカイリ。すごくたのしそうだ。
そうこうしてる間に、番犬たちはすぐそこまで迫ってきた。ちなみに訓練された犬は時速80kmで走ることができる。撃退士といえど簡単に逃げられるものではない。
「アバーッ!」
噛みつかれたのは虎綱だ。コンゴー・ジツを使っているとはいえ、あからさまにスゴイイタイ。リアル涙目である。お笑い芸人的には、とてもオイシイ役だ。
「犬っころどもォ! 俺様に食われてぇやつから前に出なあ!」
哮纏し、ウェアウルフの姿で咆哮したのはヴォルフ。
番犬たちは反射的に立ちすくみ、距離をとった。犬は本能的に狼を恐れるのだ。加えて、ヴォルフは悪魔でもある。犬にとって、これほどやりにくい相手はいないだろう。
それでも必死に跳びかかる番犬。しかしヴォルフは涼しい顔で『透過』してしまう。番犬たちは次から次へ襲いかかるが、いずれも結果は同じ。
「ここは俺様が引き受けてやる! おまえら先に行け! あんま時間ねぇぞ!」
面倒な仕事を買って出るヴォルフ。カッコイイ!
ニンジャたちは遠慮なく利用!
リミットまで、残り12分だ!
無事(?)屋敷にたどりついた一同。だが、呼び鈴ブザーボタンを押しても誰も出てこない。無論、玄関には鍵がかかっている。
予定どおり、美具は発煙手榴弾を物陰に投げ込み、「火事だ!」と叫びだした。
辺木もノリノリで便乗し、「火事だー! 炎! 炎がー! ひぃえぇぇ!」などと大騒ぎしはじめる。
正直、『大根』の称号を付与したいほどのトーシロ演技だが、必死さが功を奏したのか。テケリリ両国が150kgの巨体を現した。──ただし、玄関からではなく、屋根を突き抜けて。
そう。彼は悪魔。外の様子を見るだけなら玄関へ行く必要などない。飛行と透過で屋根の上から見れば済む。
そして、火事など起きていないのは一目瞭然。
スモトリは空中で器用に四股を踏みながら、撃退士たちを見下ろした。
「ムハハハハ! ニュービー・ニンジャども! 我が悪魔城へウェルカム・デス!」
いきなり乱射されるマシンガン。
自分でピザを注文しておきながら、おとどけにきた配達員に対して、この仕打ち! 狂気の沙汰と言うほかない! ニンジャになれなかったスモトリの恨みが、彼のソウルをダークなファイヤーでバーニングさせているのだ!
「アバーッ!」
ナカマをかばい、コンゴー・ジツで銃弾を受ける虎綱。とてもイタイ!
「ムッハハハハ! あと9分!」
テケリリ両国は笑いながら屋敷の中へ姿を消した。
「……どうやら踏みこむしかなさそうですね」
冷静に告げたのは七佳である。
「でも鍵がかかってるのよね。壊すのは簡単だけど、そういうわけにいかないし……」
朔羅が言うと、辺木は「俺、『開錠』できるよ!」と手をあげた。
それを見て、カイリが笑いだす。
「あははっ。もう開けちゃった、ほら」
その仕事の速さは、グレートとしか言いようがない。
インフィルトレイター大活躍! ニンジャピザなのに!
「えーとね。これが道順なの」
エルレーンが取り出したのは一枚の紙切れだった。玄関からリビングまでのルートが、ていねいに書き込まれている。
「さすが忍者ですね。あたしも従業員に色々聴いたんですけど、ここまではとても」
感心したように七佳が言った。
紙切れをのぞきこみながら、彼女は疑問を口にする。
「でも、どうやってここまで調べたんですか?」
「ふふ」
得意げに微笑んで、エルレーンは名刺を見せた。『電気保安協会』と書かれている。
「でんきけいとーのチェックするふりして、せんにゅーちょうさしてきたんだよ!」
「へぇー。すごいですね。……あれ? でも……」
なにか言いにくそうにして、首をひねる七佳。
「どうしたの?」と、エルレーンが問いかける。
「それで中に入れたなら、今日も同じ手口で行けたんじゃないかなーって……」
「あ……っ!」
いまごろ気付いたエルレーン。
リミットまで、残り7分!
屋敷に踏みこむと、ダンジョンが待ちかまえていた。
噂では、この広大なダンジョンに足を踏み入れたまま行方不明となったニンジャも少なくないという。
だが心配無用。今回はエルレーンの地図がある! 事前に潜入調査していた彼女のテガラだ!
「あ……? あれ? ちょっと待ってなの。なんか、道順がちがうみたいなの」
不穏なことを言いだして立ち止まるエルレーン。
「どういうことでござる?」と、虎綱。
「まえにきたときとマップが違ってるような……」
「ま、まさか……」
そのまさかである。ここは入るたびに形の変わる『不思議のダンジョン』! 事前調査など無意味なのだ!
「聞いてない! 聞いてないでござるぞ!」
聞いてないことばかりだが仕方ない。だって、あとから思いついたん(略)
だが、現実には不思議のダンジョンなどありえない。この世界はそこまで無茶苦茶ではない。ただ単に、家主が毎日ダンジョンを改装しているだけだ。そのほうがよほど無茶な気もするが。
「厄介なことになったのう。どうするのじゃ?」
美具が問いかけた。
「しらみつぶしに探すしかないかしら」と、朔羅。
「とても間に合うとは思えんのう」
もはやお手上げかと思われた、そのとき。七佳が力強く言った。
「考えてても仕方ありません。手分けして地図を作りましょう。あと六分あります」
言うが早いか、『光翼』を起動させた彼女は凄まじい速度で走り去っていった。そのイダテンぶりときたら、並みの忍軍をはるかに上回るものである。
一瞬、あっけにとられるニンジャたち。
「い、いかん。拙者らも行くでござるぞ!」
クロス・サンが言い、彼らは一斉に駆けだした。
「見つけました。こっちです」
残り一分というところで、七佳はテケリリ両国の居場所をつきとめた。
携帯やスマホで連絡をとりあい、集結する撃退士。
「まさか見つかるとは! ニンジャめ! ニンジャめ! 畜生!」
テケリリ両国はマシンガンを撃ちまくりながら逃げる! あと五十秒逃げきれば、彼の勝ちだ! もう何の勝負をしているのかよくわからない! だから無茶苦茶なリプレイになるって警告したんだ!
しかし、どんなに逃げようと所詮はスモトリ。七佳の足から逃げられるはずがない。壁を通り抜けようとするも、阻霊符を用意していた七佳に隙はなし。まさに阿修羅大活躍! ニンジャピザなのに!
だが、まだ勝負は終わってなかった。
そう、七佳の手にはピザがない!
「クロスさん! 早く!」
七佳は顧客を拘束しつつ、電話をかけた。
「いま行くでござる!」
オカ=モチをひっさげて、無駄スタイリッシュに壁を疾走するクロス・サン。一応、落とし穴を警戒してのことである。
そこへ朔羅が合流し、エルレーンと虎綱も加わって並走しはじめた。
「客は近いわよ、クロス・サン」
朔羅が言い、エルレーンがうなずいた。
「よかった。どうにか、まにあいそうなの」
「スケダチまことに感謝でござる。ユウジョウ!」
「「ユウジョウ!」」
シノビの絆を確かめあうニンジャたち。おとどけ先は目の前だ!
CABOOM!!
「「グワーッ!」」
爆発とともに吹っ飛ぶ四人。
彼らは知らなかった。この屋敷の壁は、いたるところ地雷だらけなのだ! まさにニンジャ殺し屋敷!
「ムハハハハ! コッパミジン! ムッハハハハ!」
テケリリ両国の高笑いがこだました。
残り20秒!
「立って! 立ってください、クロスさん!」
七佳が声を張り上げた。
だがニンジャたちはマグロみたいに転がったまま動けない。
時間だけが容赦なく過ぎた。まさに光陰アローのごとし。タイムイズゼニー。
リミットまで10秒を切った。ニンジャは動けず、七佳もスモトリを拘束しているため動けない。おお、この世にはゴッドもブッダもないのか!?
だが、そのとき。駆け込んできたのは辺木。配達員の仕事で鍛えた脚力を生かし、オカ=モチを拾って猛ダッシュ!
逃げようとしたテケリリ両国を、七佳が押さえつける!
「アイエエエエエ!」
「ニンジャピザです! ご注文の品、おとどけにまいりました!」
辺木がピザを手渡したのは、タイムリミット一秒前。
やった。彼らは勝利した。任務を達成したのだ! おもにニンジャ抜きで!
とはいえ、二度の爆発に巻きこまれたオカ=モチの中身がどうなったかは言うまでもないだろう。クレームは避けられまい。もともと最初から無理難題すぎる任務だったのだ。時間内に届けられただけでもマーベラス!
「もう二度と、こんなショッギョ・ムッジョなバイト、したくないのっ」
エルレーンが言い、その場の全員がうなずいた。
ニンジャの世界は、かくも険しい。