.


マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/28


みんなの思い出



オープニング


 とある砂浜に、ナマコがいた。
 天魔ではない。正真正銘、ただのナマコだ。食用にできる種類である。
 どれほどの数か、あまりに大量すぎて判然としない。まさに、砂浜を埋めつくさんばかりの勢いだ。
 なぜこれほどのナマコが大量発生したのか、地元の漁師や生物学者も首をひねるばかり。

 しかし、ごく一部の撃退士は知っていた。
 かつて、この砂浜においてタダのナマコが天魔の濡れ衣を着せられて惨殺されたことを。
 そう。これは、無惨に殺されたナマコの怨念が呼び寄せた怪現象なのだ……かどうだかは定かでない。
 本当のところは、春になって海水の温度が上昇したせいじゃないかな。……って、原因わかってるじゃねぇか。


 ともあれ、この数のナマコを処理するのは容易なことではなかった。
 まぁ放置しておけば勝手に干上がって全滅するのだが、なんせ景観がよろしくない。
 というわけで、例によって久遠ヶ原学園に依頼が寄せられたのである。
 ただのナマコ退治にどうして撃退士が出ていかなければならないのかと思うところだが、しかるべき手続きを踏んで駆除作業をするより久遠ヶ原に依頼するほうが手っ取り早いのだから仕方ない。
 これもまた、人助けである。
 というわけで、ヒマな……もとい、正義感あふれる撃退士たちが、それぞれ浮き輪やビーチパラソルなどをかかえて、颯爽と砂浜へ向かうのだった。




リプレイ本文


 砂浜が ナマコでビッシリ 埋まってた
 いざ勝負と 押し寄せてくる 撃退士


「勝てる……今回は勝てる!」
 まずはトップバッター。
 自信満々に登場したのは、ラテン・ロロウス(jb5646)
 血涙装備の慢心貴族スタイルで参戦だ。
「行くぞ!」
 まずは、あいさつがわりにコメットを一発!
 吹っ飛ぶナマコ。
 お次は友達汁を垂れ流しつつ、ハリセン片手に突撃!
「アバーッ!」
 突如として湧き上がる、ラテンの悲鳴。
 なんと、大量のナマコにまぎれてミミックディアボロが潜んでいたのだ!
 具体的には、疑似餌(ナマコ)を囮にして砂中で待ちかまえていたのである。しかも、ブリッジ状態で! 手足も生えてて妙に長い! これぞ、ナマコの怨念!
 まんまとかかったラテンは、アリジゴクめいて砂の中に引きずりこまれる!
「く……っ! こうなれば……コメット発動!」
 ちゅどおおおおおん!
 ファンブルして吹っ飛ぶラテン。
 なにがなんだかわからんが、いつもどおり!

 ラテンさんがスヶキヨ状態で発見されました……
 残り24人



「いや〜今日は楽しみだなぁ」
 ルンルン気分(死語)で砂浜にやってきたのは、佐藤としお(ja2489)
 彼の目的は、ほかの学生たちとは違う。
 なんと、新作ゲームの発表会を見にきたのだ!
 言ってることがわからない? 大丈夫だ、俺にもわからない!
 無論、同行者はいないぞ! だが、いつまでも忘れないピュアな子供心さえあれば……!
「おお!? なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!」
 一面のナマコ畑を見て、絶叫するとしお。
 彼は、緑火眼や索敵、テレスコープアイなどのスキルを使いまくって視力を上げると、ナマコの位置を正確に把握。次から次へと海に投げ込んでいった。
 そう、これはより多くのNAMAKOを海に投げ込んだ者が勝ちというNAMUCOブランドの新作ゲーム!
 スキルの無駄使いも甚だしいが、としおは真剣だ。ゲーマーとして、NAMUCOに負けるわけにはいかない!
 ──だが、やがて彼も気付いた。重大な勘違いに。
「……あれ? NAMUCOじゃないの? え、NAMAKOだと!?」
 愕然とするとしお。
 次の瞬間、彼は謎の爆発とともに吹っ飛んだ。
「まちがえたーー!」
 ちゅどーーーん!

 残り23人



「そういえば、干しなまこッて高級品なんだッけ?」
 思い出したように、安形一二三(jb5450)は呟いた。
 数年前、東北で暮らしていたとき見かけた干しなまこ。当時の一二三は価格が釣り合ってないだろと思ったものだが、その疑問が今日解決するかもしれない。
 というわけで。パーカーと海パンを着用し、クーラーボックスとポリ袋を用意して参戦。
 そして、おもむろにストレイシオン召喚!
「さァ、なまこを集めろ。雑には扱うなよ? 鮮度が落ちるからな」
 呼び出された竜は、命令どおりに働き始めた。
 そこらじゅうにいるナマコを一箇所にあつめ、ポリ袋に入れたら、クーラーボックスへ。
「……よし、こんなもんだな。いつもお疲れ様だ、アンギャロ。たまには遊んでこいよ」
 一二三の言葉にうなずくと、竜は海に向かって猛ダッシュした。
 一二三のパーカーをくわえたまま。
「うおお……ッ!? 待て待て! 待てェェ……ッ!」
 ざぶーーん!

 ──数十分後。ナマコの群れの中をさんざん引きずり回された一二三は、全身ナマコまみれで浜辺に打ち上げられた。それはまさに、『怪奇! ナマコ男!』状態だったという。
「……なにこれ、デジャヴ?」

 残り22人



「ナマコといえば、干しナマコよね。たくさん獲って、いっぱい作るわよ☆」
 中華料理的な思想で、藍星露(ja5127)は海を見た。
 身につけているのは学校指定の水着だが、サイズが合ってないのか、ぱっつんぱっつんだ。そりゃもう、えらい眺めである。ある意味、犯罪級だ。
「つかまえるときは、一匹ずつ丁寧に。傷がつくと味が落ちるしね☆」
 のんきな発言だが、縮地と高速機動で走る星露は、メチャクチャ速い。
 しかし、彼女はミスを犯していた。
「……あ。獲ったナマコを入れるもの……忘れちゃった」
 よくある(?)失敗だ。
 しかし、ここで星露に名案が。
「まぁ水着の中でいいわよね? 一時的な収納場所だし」
 水着の胸元を引っ張ると、そこへナマコを投入。
 ぬるんと谷間を滑り落ちるナマコ。
「ヌルヌルして、なんかヘンな感じ……!?」
 立ったまま、星露は体をピクンとさせた。
 ナマコはそのまま水着の中を降りてゆき──
「……ちょ! そこはシャレにならないぃ……ひゃっ!? 何か硬く……!?」
 背中を反り返らせて痙攣する星露。(注:ナマコは体を硬くすることができます)
「あっ……」
 甘い声をあげて、星露は砂浜に崩れ落ちた。

 残り21人(え?



「……っ!?」
 なぜか落とし穴みたいな所で、矢吹亜矢は目をさました。
 穴の中というだけではない。全身を十字架に縛りつけられて、身動きできない。
「なによ、これ!?」
「目ぇさめたん?」
 穴の上から見下ろすのは、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
「ゼロ!? なんなのよ、これ!」
「じつはな? このまえのエア花見で俺を狙撃した犯人が見つかってん。……ちうわけで、おしおきタイムや」
 ゼロは大量のナマコを穴の中へ投入した。
「ひぁああああッ!?」
「いい鳴き声やな。でもちょっと声が大きいで?」
 サディスティックに微笑みながら、ゼロは亜矢の口へナマコをつっこんだ。
「んぐ……ぅ!?」
「うまいやろ? 海の恵みやで? ……ああ、もらった花火は返しとくわ」
 亜矢を取り囲むように仕掛けられていた200連発のロケット花火が、一斉に火を噴いた。
「〜〜〜ッ!?」
 声も出せず、全身やけどだらけになる亜矢。
 それを見下ろして、ゼロが言う。
「地獄はまだまだ続くんやで?」
「んんんんん……っ!」
 鼻フックだの何だの、大変な目に遭う亜矢だった。
 自業自得とはいえ、これはひどい。よし、MVPだ!



「今日は、海にやってきたのぢゃ!」
 エアマイク片手に解説口調で登場したのは、Beatrice(jb3348)
 今回は遊びではなく仕事なので、スクール水着を着用。だが、ちょっとおしゃれもしたいので、腰にはパレオを巻いている。
 スク水にパレオとは……アリだな、うん。
「ほほう、これがナマコ。見るのは初めてぢゃが、食べものとは思えんほどグロテスクぢゃのう」
 しげしげとナマコを観察するBeatrice。
 その横から、水無月沙羅(ja0670)が顔を出す。
「これは、マナマコですね。旬の時期ではありませんが、こう見えてなかなかおいしいんですよ」
 Beatriceに無理やり連れ出された沙羅だが、食材を目にすると俄然やる気が出てくるようだ。
 服装は、ふだんどおりの着物に前掛け。風景とまったく合ってないが、これこそ料理人魂だ。
「よし、では早速つかまえてくるのぢゃ」
「はい、気をつけてくださいね。ナマコが集まるまで、私は軽いものでも作っておきます」
 そう言うと、沙羅はBBQの用意をはじめた。

 一方、Beatriceは華麗に光纏。
 地面すれすれを飛行しながら、次々とナマコを収穫していく。
「その身に刻め! 潮騒の目盛り!」
 じぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇ……
 パレオをひるがえして、華麗に舞うBeatrice。
 だれよりも多くのナマコを収穫し、浜辺のヒロインに……!
 だが、いくら収穫してもキリがなく、やがてBeatriceはヒロインどころか疲労困憊。
 しかし、その笑顔に後悔はなかった。



「旬は過ぎているが……まぁ、なんだ。うまい飯のためにがんばりますか」
 あくびまじりに海を眺めるのは、田村庇昌志(jb5325)
 彼の目的は、依頼人の要望どおりナマコをきれいに撃退して、『うまいナマコ料理を食べる!』というものだ。
 そのためには、食材となるナマコをできるだけ良い状態のまま退治したい。
「ま、とりあえず……ナマコ料理めざしてがんばりますかね」
 庇昌志は光纏すると、機械剣S−01を抜き放った。
 おお、ただのナマコにV兵器を使うとは、なんたる男か。素手で十分なのに。
「さぁって、ナマコ料理が待ってるんだ。がんばるっきゃないな」
 よほどナマコ料理が食べたいのか、庇昌志は実に真剣だった。
 機械剣で砂ごとナマコを掘りかえし、獲る! 採る! 取る!
「……しかし、さすがに数が多いなぁ……食べきれるのか……?」
 それは、ちょっと無理だと思う。



「ひゃほーい! 海でござるよ!」
 サラシ&褌スタイルで、エイネ アクライア(jb6014)は高い声を上げた。
 いつものように海へ向かって、
「うぅーみぃーっ!!」
 と叫ぶ。
 なにかのノルマなのか、これ。
「さて。それでは、おつまみ集め……もとい、おつ……お仕事にござる」
 まぁ、おつまみ集めが仕事になるから、言い換えなくてもいいんじゃないかな。
「いざ、この大量のナマコをば。拙者の竜旋で吹き飛ばして一箇所に……って、あれ? な、なにゆえでござる!? いつものように風が集まらぬのでござるよ!?」
 うろたえるエイネ。
 あいにく、コレダーから忍軍に転職してしまった彼女に、その技は使えないのだった。
「ぬがーっ! こうなったら、炎閃で焼きナマコにしてくれるでござるー! ……えーと、焼きナマコってうまいのでござる? いや、きっとうまいでござるよ!」
 などと、異様なハイテンションでナマコを集めるエイネであった。



 砂浜に、一陣の風が吹いた。
 周囲の全てを凍てつかせるような、ひどく冷たい風だ。
 その風に髪をなびかせながら、桐原雅(ja1822)は海を見つめた。
 青い瞳に宿るのは、悲壮な覚悟。
 この場の誰よりも、彼女は真剣だった。
 なぜならば、今日の悲劇を招いた要因を、雅は知っているからだ。
 およそ一年前、雅はこの砂浜で一匹のナマコを惨殺した。仲間たちと寄ってたかって、文字どおり嬲り殺しにしたのだ。罪もない、ただのナマコを。ナマコ型のディアボロなのだと汚名を着せて。雅は、その主犯だった。
「あのときは、子供の夢を壊さないために最善の選択をしたと思ってた……。でも、それがこんな悲劇につながるなんて……」
 自分たちの都合しか考えてなかったことを、雅は後悔した。
 その責任は、取らなければならない。
「……わかったよ。ボクのせいで復讐のダークサイドへと堕ちたナマコたちをこの手で屠り……ボクは、さらなる業を背負う!」
 覚悟を決めると、雅は一匹の修羅と化してナマコの群れに斬り込んでいった。



「うわ! なんじゃこりゃ!?」
 アレス(jb5958)は、一面のナマコ畑を見て驚愕した。
 はぐれ悪魔の彼は、ナマコを見るのが初めてなのだ。
「…………」
 その隣では、カイン・フェルトリート(jb3990)が呆然としていた。
 (`・言・)
 みたいな顔になりながら、なにか凄いのが蠢いてる……と心の中で呟くカイン。
 実際、筆舌に尽くしがたい眺めだ。
 そこへ、元気いっぱいに走ってきたのはニナ・エシュハラ(jb7569)
「海で遊ぶよー! ……って、のたのた動いてるのがいっぱいだー!」
 これでは、遊ぶどころではない。
 というか、もともとナマコ退治の依頼なのである。
「なーまーこー♪ ……っていうか、ナマコって高級食材の一つじゃなかったっけ? 中の国とか、あっち方面で」
 イリヤ・メフィス(ja8533)が、のんびり口調で言った。
 富豪のお嬢様であるイリヤは、わりと美食家なのだ。
 それだけでなく、家が貿易商を営んでいるため金銭にはこまかい。
「よーし、皆で捕獲して漁協さんに出荷するよー!」
 というわけで、ナマコをつかまえて売ることになった。

「ナマコ……それは高級食材……千年以上の歴史を持つうんたらかんたらは置いといて、とにかく高級食材!」
 レイラ・アスカロノフ(ja8389)は、妙に張り切っていた。
「しかも、乾燥ナマコが! 繰り返す! 乾燥ナマコが! つまり! 出荷しやすく! 高値で売れる! 高値で売れる!」
 テンションMAXで繰り返すレイラ。
 ナマコの大群を見てこんなに張り切る人も珍しい。
「さーて、全部つかまえちゃうよー! 地元の漁業を応援だ!」
 真っ先に走って行くレイラ。
 そのあとを、イリヤとニナが追いかける。
 やたら元気な、女性陣3名。

 一方、カインとアレスの男性陣は信じがたいものを見るような目をしていた。
「……え? これ、生き物? 食物? これが? ディアボロでなく? ……これ食うとか、おめぇら勇者かよ……」
 と、アレス。
「…………」
 カインは、言葉を発する余裕もない。
 だが、参加してしまった以上は手伝うしかなかった。
 顔を見合わせて、溜め息まじりに海へ歩きだすカインとアレス。

「ナマコは海水で洗ってから、こっちのコンテナに入れて砂を吐かせてね♪」
 レイラの指示に従って、作業が始まった。
「……え、これさわるの? さわるの?」
 5人の中では一番クールな外見なのに、一番ブルってるアレス。
 でもしょうがない。ナマコってキモいし!
「……ぅぐぐ」
 まるで汚物みたいに、指でつまんだナマコをコンテナに放り投げるアレス。
「それじゃダメ! ちゃんと洗って!」
 レイラの駄目出しが飛んだ。
「え? 洗えって!? 勘弁してくれよ!」
「ダメ! あなたも撃退士なら、覚悟を決めて!」
「……うぬぬ」
 呻き声を上げつつ、すこしでもナマコに触れないよう指先だけで捕まえるアレス。
 だが、そのとき。彼の表情が凍りついた。
「な、なんか出やがったー!?」
 ナマコの口から、内臓がデロッと出てきたのだ。
 これはキモい。
「攻撃したとでも思われたのか……? てゆかマジでキモイぞ、このナマモノ……」
 できるだけキズモノにしないよう頑張るアレスだったが、このままでは彼の心がキズモノになりそうだった。

「……ぅぅ」
 カインも、青ざめながら作業をつづけていた。
 つかんだときの感触も気味悪いし、色も形も何もかもキモい。
 しかし、これは立派な任務。負けるわけにはいかない。
「でもちょっと、この形と色と感触、なんとかしてください……」
 息も絶え絶えになりつつ、がんばるカイン。
 その隣では、ニナが「うお、感触気持ち悪い!」と言いながらも、けらけら笑って作業している。
 そればかりか、
「ナマコっておいしーのかなー。腸は珍味になるんでしょ? 中の国とかは乾燥メインみたいだけど、日本は生を料理だっけ。レシピってなかったかなー?」
 などと言いつつ、おなかをきゅるきゅる鳴らしている。
「そんなこともあろうかと……ナマコ料理のレシピを持ってきました!」
 イリヤが得意げにメモ帳を見せた。
 乾燥ナマコの製法から酢の物の作りかたまで、これ一冊で完璧!
「このレシピによると、コノワタは生で食べてもおいしいそうですよ」と、イリヤ。
「コノワタ! 味見! 味見!」
 ナマコを割いて、麺類みたいに中身を食べるレイラ。
「うーん。さわやかな潮の香り! これぞ海の幸だね!」
 その光景を見たアレスは、貧血を起こして倒れた。
「な……ないわー……あれ食うとか、ないわー……」



 そんな中。下妻笹緒(ja0544)は、悲壮な決意を胸に登場した。
「この怪現象は、まちがいなく世界が滅びる前兆。海を汚し、ナマコを乱獲した人類への罰だ。……やがて、数兆数京という大量のナマコが大地を覆い尽くし、甚大な被害をもたらすだろう。まさに、終わりの始まりだ。……であればこそ、この自分が止めねばなるまい」
 笹緒の懐には、子供のナマコ。すなわちナマ子がいた。
 禁断の技『シンパシー』で読み取ったナマ子の思いを胸に、群れへと歩み寄る。
 ああ、あれだけシンパシー禁止って言ったのに(注:言ってません)
「さぁ、海へお帰り……。私たちはもう、二度とナマコを乱獲したりしない」
 ナマ子をそっと群れに帰し、心から非道を詫びる笹緒。
 すると、それまで真っ赤な攻撃色を輝かせていた赤ナマコたちは、怒りをおさめて青ナマコに……なるわけなかった。
 だって、後ろのほうで虐殺されまくってるからね、ナマコ。
 あと、Ωと違って話が通じないし。
「……よかろう。ならば、この身をもって意思を伝える。世界を救うため、よろこんで犠牲となろう」
 ナマコに覆いつくされた白浜を背に、笑顔で溟海へと沈んでゆく笹緒。
 それは、まぎれもない犬死にであった。パンダなのに。



「なに……これ……」
 予想以上のナマコの山を見て、藤宮真悠(jb9403)は呆然とした。
 そりゃまぁ、一般人が処理できる程度なら久遠ヶ原に依頼しない。
 しかし、とりあえずはナマコの処理だ。
 装備は、水着にレザーグローブ。
「素手でさわりたくありませんしね……」
 ぷるぷる震えながら、真悠はナマコをつまみあげた。
 どう見ても、巨大な芋虫にしか見えない。心の底からキモイとしか言いようのない生きものだ。
「うぁぁああああ……」
 あまりの気色悪さに半泣きになりつつも、まじめにナマコを回収する真悠。
 回収というか、手当たり次第につかまえてポイポイと一箇所に放り投げているだけなのだが。
 ときどきコントロールが外れて誰かにブチ当たっても、気にしない気にしない。なんせ涙で視界がぼやけているので、まっすぐ投げられやしないけど。べつにナマコが顔面に命中したぐらい、撃退士にとってはどうってことないし。
「とにかく、こんな気色の悪い生物は、退治、退治です……っ!」
 ナマコが一匹でも減るよう、真悠は地道に真面目に作業をつづけるのだった。



「ほぅ、これほどとは……夕食には困らんな」
 黒スーツ姿の老紳士が、着物姿の少女をつれてやってきた。
 ものすごい場違い感ただよう服装の二人は、合点承知之助(jb8050)と東風谷映姫(jb4067)
 すごい名前もあったものだが、本名ではない。承知之助は堕天使なのだ。
 などと言ってるたった一行の間に、映姫は褌とサラシだけになっていた。なにかのマジックか。
「ふははは、開放的じゃないですか!」
「む……、負けませんぞ!」
 承知之助は、光纏と同時にジャンプ。クルクルッと10回転して体操選手みたいに着地すると、みごと褌一丁に。
 そして二人は背中あわせにアミをかまえ、スタイリッシュにポーズを決めた。
「まだまだ、衰えてはおらんぞ! さぁ、やりますよ、お嬢様!」
「ええ。撃退士として、全身全霊をもって晩御飯を取りに行きますよ!」
「「いざ勝負!」」
 うおおおおっ、とか声を上げながら、アミを振り回して走りだす二人。
 まるで凶悪な天魔と戦うかのような気迫だが、相手はただのナマコだ。
「景観を乱し、人心を惑わすナマコども! 容赦せんぞ! ぬおおおおおっ!」
 承知之助は、老人とは思えない機敏な動きで次々とナマコを捕らえていった。えらい熱血ぶりである。
「どいつもこいつも、晩御飯のおかずにしてあげます!」
 映姫も、撃退士としての能力をフル活用してナマコを捕獲していた。
 当然というか何というか、持ってきたクーラーボックスはあっというまに満タンである。

「はぁはぁ……これで終わりか……、疲れたな……」
 予備の褌で、額の汗をぬぐう承知之助。
「ふぅ……これくらいあれば大丈夫でしょう」
 映姫も、スペアのサラシで汗を拭いていた。
 が、ふと何かを見つけたように映姫は駆けだす。
「お嬢様、どこへ?」
「友人を見つけたので、遊んできます」
「なんと……さすがお嬢様。元気いっぱいだな……」
 砂浜に腰を下ろして、承知之助は映姫の背中を見送った。



(海か……あのとき私もいれば、彼女は無事に済んだのか……?)
 遠い水平線を見つめながら、桜花(jb0392)はたそがれていた。
 あれは、去年の夏のこと。本来参加するはずの海産物退治に参加できなかった桜花は、その依頼で重体になった変態仲間のことを思い出していたのだ。
 めずらしくシリアスな桜花だが、あいにく彼女のシリアスタイマーは、ウルトラな人のカラータイマーより短い。
「……おお! あそこにいるのはナマコじゃないか! ならば、ナマコごっこをするしかあるまい!」
 よくわからないことを言って、服を脱ぎ捨てる桜花。
 緑色のビキニ姿になると、彼女は「ひゃっはー!」とか叫びながら走りだした。
 説明しよう!
 ナマコごっことは!
 ときには海底を這うナマコのように!
 ときには海岸に打ち上げられたナマコのように!
 永遠這いずりまわる紳士淑女の遊び!
 とても高尚な、上流階級の遊戯だ! 高尚すぎて、桜花以外は手を出せない!

 そこへ走ってきたのは、褌サラシ姿の映姫。
 満面の笑顔で、両手にナマコを持っている。
「桜花さーん! はい、どうぞ♪」
 映姫はナマコを差し出したが、絶賛ナマコプレイ中の桜花は言葉を返すことができなかった。内臓を吐き出したりもできないので、やむなく水着を脱いで投げつける。
 びたーん!
「ふな……っ!?」
 脱ぎたて水着が映姫の顔面に命中して、視界を奪った。
 その隙をついて、桜花がナマコのように襲いかかる!
「映姫ぃぃ……! 愛してるよぉぉ……!」
 全裸状態で映姫を押し倒す桜花。
 こんなに攻撃的なナマコは見たことない!
 続きは蔵倫だよ!



 そのころ。月乃宮恋音(jb1221)は、仕掛け網を使ってナマコを一網打尽にしていた。
 一応、共鳴鼠とかシンパシーとか使って色々やってもみたのだが、ナマコには脳味噌がないので全部ムダだったという。
 だがともあれ、ナマコは獲れた。業者にも渡りをつけてあり、卸先も確保済み。なんでも無駄なく使うのが、恋音の作法なのである。
 だが、しかし。
 恋音のもとへ走ってくる男がいた。
 ブリーフ一丁で、顔面には女性用パンツを着用。その名は、変態……もといラブコメ仮面!
 余談だが、袋井雅人(jb1469)という名前もある。
 彼は颯爽と駆けつけると、どこからともなく三角木馬を取り出した。
 ほぼ全裸なのにどこから出したのかと誰もが思うが、これぞラブコメ仮面マジック!
「むやみにナマコを乱獲してはいけませんよ、恋音さん!」
「え、えとぉ……これはナマコ退治の依頼ですよぉ……?」
「ナマコには、海の水をきれいにするという大切な役割があるのです! 全滅させてはいけません!」
「で、ですけどぉ……全滅させるように依頼されているのですよぉ……」
「なんと嘆かわしい! 恋音さん、あなたはちっぽけな報酬のために地球環境を破壊しようというのですか!?」
「そ……そんなことは、しませんよぉぉ……」
「ええい! こうなれば、体で知ってもらいましょう! 悪い子にはオシオキだっ!」
 理屈を華麗にすっとばして、実力行使に出る変態……ラブコメ仮面。
 手錠>ロープ>三角木馬>鞭打ち
 ラブコメ仮面の、お手軽4段コンボだ!
 フィニッシュの鞭打ちシーンは画面外に見切れてるから、蔵倫的にもセーフだよ!

「はぁはぁ……わかりましたか、恋音さん。ナマコの大切さが。酢の物にして食べてる場合じゃないんですよ」
「わ、わかりましたぁぁ……」
 ぐったりしながら、力なくうなずく恋音。
 おしおきの間、ナマコの話なんか一度もしてなかったけどな。
「わかってくれればいいんです。これで、あたり一帯の海も環境が保たれることでしょう」
 パンツをかぶりながら、さわやかな汗をキラリと輝かせるラブコメ仮面であった。



 さて、こちらは調理班。
 砂浜に設営された、パイプテントの下。
「うわぁ……」
 ナマコだらけの海岸を見て、城前陸(jb8739)は軽く引いていた。
 だが、引いてるヒマなどない。今日はナマコを料理するために来たのだ。事前に調理法も調べ、調理器具や調味料も手配済み。学校指定の制服に割烹着と三角巾をつけて、いざ調理開始!
 まずは、ナマコの頭と尻を切り落として、内臓を取り出す。
 外身は水洗いや塩もみで汚れを落とし、一口サイズに切って刺身や酢の物に。
 内臓は丁寧に洗って、生のままコノワタ汁に。
 なかなかの手つきである。

 その隣では、雫(ja1894)がナマコをさばいていた。
 彼女が作ろうとしているのは、乾物だ。
「高級食材なのに、腐らせるのはもったいないですからね」
 まずは内臓を下処理して、卵巣を干してクチコを作る。
 残った身は塩水で煮てから乾燥させ、イリコにする。
 無論すぐには出来ないので、お持ち帰り用だ。
 それはいいんだが、こんな酒のつまみを一体どうする気だろう。

 調理班では、沙羅も頑張っていた。
 新鮮そのもののナマコを、手早く刻んで酢の物に。
 クチコやコノワタもしっかり取っておいて、食べきれない分は干物にしておく。
 さらに御料理姫の裏技として、なぜか料理番組みたいに『こちらが一週間かけて戻した干しナマコです』的な何かが出てくる。これを使って、柔らか煮や中華炒めを作るのだ! 料理のためなら何でもするぜ!



 そんな喧噪から離れたところで、九渡葛(jb6285)は一人しずかに鉛筆を走らせていた。
 サラシの上に白衣を羽織った葛は、一見すると研究員か何かのように見える。
 しかし実際のところ、彼女は陶芸と絵画が趣味の芸術家だった。
「あたり一面ナマコとは、なかなか見ないものだな……」
 安全な場所にレジャーシートを広げて陣取る葛は、何者にも邪魔されることなくスケッチを続けていた。
 スケッチブックに描かれていくのは、謎の爆発に巻きこまれる撃退士や、十字架に縛りつけられる撃退士。そして、ナマコ料理に精を出す撃退士たち。
 それらに一切干渉することなく、葛は淡々と絵を描き続ける。
 ときどき近付いてくるナマコには、無慈悲なアイスウィップ!
 のたうちまわるナマコの姿を、克明に描写する。
 みごとなマイペースだ。




 ──日が傾くころ。ナマコの大群は、あらかた姿を消していた。
 潮風の中、雅は血まみれになった両手を見つめて呟く。
「ああ……今日一日で、ボクはどれだけの命を奪っただろう。この手で摘み取った命の重さを、ボクは知らなければならない……。どうかボクを赦してくれ、かわいそうなナマコたち……」
 歯を噛みしめて、拳をにぎる雅。
 彼女の周囲には、ナマコの死体が山のように積まれていた。
 ひとりだけ別世界の空気に浸る雅だが、そのとき彼女はようやく気付いた。
 周囲の空気と温度が違う!!
「あ……? え……!?」
 まわりからの視線と、コトの真相に思い至った雅は、顔を真っ赤にして逃げだした。
 穴があったら入りたいぃぃ! と胸の内で叫びつつ、海へダイブ!
 その後しばらく、雅は海から出てこなかった。



「さて、ナマコも大体かたづいたし……海で遊ぶよー!」
 言うや否や、ダーッと走りだすレイラがいた。
 最初からずっと、このテンションだ。
「……ふ。こんなこともあろうかと! 下に! 水着を! 着てきました!」
 すぱーんと服を脱いで、イリヤもダッシュ。
 だが、替えのパンツは持ってないぜ。
「ちょっとまだ肌寒いかな。沖縄あたりだと、もう泳げるのにねー。でも水かけちゃえ。えいっ!」
 イリヤが、レイラに水をかけた。
 そこへニナがやってきて、イリヤに水をかける。
 そして、女子3人による水かけっこが始まるのだった。きゃっきゃうふふ♪
 3人とも全身びしょぬれだが、大丈夫。ニナが全員分のパンツを持ってきている。男子用のパンツもだ! ただし服は知らん! ひでえ!

「……」
 そんな女子たちを眺めつつ、カインは波打ち際で足をちゃぷちゃぷさせていた。
 波が寄せて返すたび、足下の砂が持っていかれるのがくすぐったい。
「イリヤたち、服大丈夫かな……」
 心配そうに呟くカイン。
 もちろん、全然大丈夫じゃない。
「うぅ……あんなもの食うなんて、信じられん……信じられん……」
 アレスは、いつまでも呟き続けていた。




 ──という具合に、撃退士たちの活躍でナマコの群れは消滅した。
 ラブコメ仮面が地球環境地球環境うるさいので、全滅はさせてない。
 依頼人はこれで十分だというので、仕事は終わりだ。

「みな、おつかれだったのぢゃ。かんぱーい!」
 生き残った撃退士たちを前に、Beatriceが乾杯の音頭をとった。
「「かんぱーい!」」
 めずらしく息のあう撃退士たち。
 そして、打ち上げと称した宴会が始まる。
 ナマコ料理だけではない。沙羅がBBQの用意をしてあったので、肉と野菜もたっぷりだ。予算はどこから出たのかと思うが、明日羽に頼んだことにしよう。
 しかも、どういうわけか撃退酒まで用意してある。雫が手配しておいたのだ。
「さぁみなさん、飲みましょう。食べましょう。飲めないとか言う人は、砂浜に埋めますよ?」
 料理中から撃退酒を飲んでいた雫は、すでに泥酔状態だった。
「こ、これは危険なのですよぉ……」
 とか何とか言いながら、つい飲んでしまう恋音。
 それに気付いた雅人も、歯止め役になろうと一気飲み。
 というわけで、いつもの展開に。

「くぁーっ! 仕事のあとに飲む酒は、たまらんでござるな!」
 エイネは、自腹で持ってきた日本酒を飲んでいた。
 つまみは、ナマコのポン酢和えやワタの塩辛。あと、炎閃で炙った焼きナマコ。
「むむっ。焼きナマコ、なかなかの美味でござる。煮てよし、焼いてよし、生でよし。みごとでござるな」
「炒めても美味なのぢゃ」
 と言いながら、Beatriceは沙羅特製のナマコ中華炒めを食べていた。
「しかし、これは……食べきれそうにないな……」
 いまさらのように、庇昌志が言った。
「あー」とか「まぁね……」とかいう応えが、あちこちから返ってくる。
 実際、ものすごい量のナマコだ。珍味というのは、こんな大量に食べるものじゃない。

 そんな撃退士たちを、葛は遠くで黙々とスケッチしていた。
 集中すると食事を忘れるタイプなのだ。
 その背後から声をかけたのは、明日羽。
「絵、うまいね?」
「……べつに、たいしたものじゃない」
「料理は食べないの?」
「おなかへってないし……」
「そう? じゃあ、もう少しここで描いててね? おもしろいことが起きるから」

 巨大なイカ型ディアボロが宴会場を襲ったのは、その一分後のことだった。
 新たな宴の始まりである。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 戦場を駆けし光翼の戦乙女・桐原 雅(ja1822)
 あたしのカラダで悦んでえ・藍 星露(ja5127)
 肉欲の虜・桜花(jb0392)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:14人

パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
和の花は春陽に咲う・
レイラ・アスカロノフ(ja8389)

大学部5年66組 女 阿修羅
海神は繁華を寿ぐ・
イリヤ・メフィス(ja8533)

大学部8年86組 女 ダアト
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
暗黒女王☆パンドラ・
Beatrice (jb3348)

大学部6年105組 女 ナイトウォーカー
心に千の輝きを・
カイン・フェルトリート(jb3990)

高等部2年7組 男 アストラルヴァンガード
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
東風谷映姫(jb4067)

大学部1年5組 女 陰陽師
能力者・
田村庇昌志(jb5325)

大学部6年143組 男 インフィルトレイター
V兵器探究者・
安形一二三(jb5450)

大学部3年109組 男 バハムートテイマー
自爆マスター・
ラテン・ロロウス(jb5646)

大学部2年136組 男 アストラルヴァンガード
新世界への扉・
アレス(jb5958)

大学部4年9組 男 陰陽師
撃退士・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
九渡 葛(jb6285)

大学部6年109組 女 アカシックレコーダー:タイプB
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
遥かな高みを目指す者・
ニナ・エシュハラ(jb7569)

大学部1年59組 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
合点承知之助(jb8050)

大学部7年296組 男 インフィルトレイター
ガクエンジャー イエロー・
城前 陸(jb8739)

大学部2年315組 女 アストラルヴァンガード
飴細工マイスター・
藤宮真悠(jb9403)

大学部5年6組 女 陰陽師