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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/23


みんなの思い出



オープニング


 ご無沙汰してます。陶子です。
 突然の手紙で、驚かせてしまいましたか? でも、もっと早くこうしておけば良かったと、いまになって思います。ああ、どうして気付かなかったんだろう。どんなことでも、言葉にしなければ伝わりませんよね。私が愚かでした。
 いまから私は、あなたに重大な報告をしなければなりません。
 先日、私は撃退士になりました。
 あなたを殺した、久遠ヶ原の学生になったんです。
 私自身、信じられません。なぜ、どうして、こんな……。
 でも、わかってください。あなたを裏切ったわけではありません。私なりによくよく考えたうえで、撃退士を殺せるのは撃退士だけだと把握したんです。
 もちろん、葛藤はありました。なんで、よりによって久遠ヶ原に……と、いまも思ってます。けれど、話を聞けば聞くほど、あなたの仇を討つには久遠ヶ原に籍を置くのが一番の早道だとわかりました。わからされてしまいました。いわば、これは苦肉の策なんです。
 ただ、入学を決めた一番の理由は、ここが海に囲まれているから。東西南北、どこを見ても海なんですよ。海のない県で生まれ育った私には、信じられない眺めです。
 最近のお気に入りは、朝の砂浜を歩くこと。夜の間に打ち上げられた漂着物が落ちていたりして、そういうのを拾って歩くだけでも飽きません。とりわけ、波に洗われて宝石みたいになったガラスや貝殻は、とてもきれいで……って、こんな話は興味ありませんよね。ごめんなさい。
 そうそう。話が前後するようですけど、私は一ヶ月ぐらい前に覚醒しました。あなたと同じ天界の力を……いえ、あなたの力を使えるようになったんです。これはあなたの遺志を継いで、撃退士を殺せということですよね?
 安心してください。私は全身全霊をもってあなたの遺志を実現すると誓います。たとえ途中で命を落としたとしても構いません。もともと汚れた身ですから、命になど何の未練もありません。いっそあなたが私のもとに来て、ひとおもいに殺してくれるなら……とさえ思います。
 でも、大丈夫です。あなたがこの世にいないことを、私は正しく理解しています。医者も、私を正常だと認めてくれました。だから、この手紙を投函することはありません。天国に住所というものがあれば、それも考えたのですけれど。
 なんだか、よけいなことをつらつら書いたような気もします。手紙は、人を饒舌にさせるという点でアルコールやドラッグに似てますね。もうすこし書きたいこともあるのですけれど、今回は初めての手紙ということで、このあたりにしておきます。
 それでは、また。
 あなたの従者より、敬意をこめて。





 その手紙をしたためた翌日、陶子は生徒指導室に呼び出された。
 アウルが覚醒してからというもの、彼女は毎日欠かさず指導室や医務室に足を運んでいる。
 陶子が撃退士に対して害意を抱いているのは最初から知られていることだから、無理もない。あつかいとしては、人界に下った天魔と同列だ。錯乱状態だったとはいえ一般人を傷つけたうえ公共施設に損害を与えたのだから、処分としてはずいぶん温情があったほうだ。
「……それで、今日は何の話ですか?」
 ぼそりと、抑揚のない声音で陶子は訊ねた。
 机をはさんで座っているのは、教師の臼井。撃退士よりは反感を買わないだろうということで、一般人の彼が陶子の保護担当になった次第だ。おかげで、薄くなりがちだった前髪が、このところ猛烈な勢いで抜け落ちている。教師もラクではない。
「今日呼び出したのは、あれだ。そろそろジョブの専攻を決めてほしいんだよ」
「ああ、それですか……」
「まだ決められないのか? 迷うのも無理ないが、こうしてる間にも他の新入生たちと差をつけられてしまうぞ? 一日も早く一人前の撃退士になりたいんじゃなかったのか?」
「……先生は御存知のはずなのでハッキリ言いますけど、私は撃退士への恨みを晴らすために入学したんですよ? 私が強くなったらまずいんじゃないですか?」
「自惚れるな。いまのおまえなんぞ、この学園の誰にも勝てやしない。それに、おまえが恨みを持ってるのは撃退士だけじゃないだろう? 冥魔退治なら喜んで引き受けると言ったはずだ。正直な話、世界中のどこでも撃退士の数が足りてない。多少のリスクを負ってでも養成しなければならないのが現状なんだよ。まえにも言っただろう?」
「じゃあ教えてください。効率良く撃退士を殺すには、どのジョブにつけばいいんですか?」
「そんなこと一般人の私にはわからんし、知っていたとしても教えるはずがない」
「そうですか……」
 とくに落胆したようでもなく、陶子は短く応じた。
 それを見て、臼井が言う。
「……そういえば以前、おなじような場面に遭遇したな」
「おなじような場面?」
「そうだ。あれも去年の今ごろだった。おまえと同じく、専攻を選ぶのに迷っている新入生がいてな。結局、上級生たちに依頼して『どのジョブが強いか』なんてことを話しあってもらった」
「その報告書には目を通しました。けれど、私の目的からは外れすぎてます。召喚獣なんて目立つもの、暗殺に使えませんし。それに、私が求めてるのは強さだけです。たのしさなんて求めてません」
「じゃあ、そういう方向で依頼を出してみるか?」
「そんなお金、持ってません。ただでさえ、賠償金を請求されてるっていうのに」
「ヒマな学生なら、タダでも集まると思うが……。まぁ今回は特別に先生が寸志を出すことにしよう。ぶっちゃけ、おまえを担当することで特別手当てをもらってるからな。恩を感じてくれてもいいんだぞ?」
「……まぁ、ほかの教師よりは信用してますよ。じゃあ、その会合を見てから専攻を決めるということでいいですか? よければ、もう帰りたいんですが」
「ああ、それでいい。手続きはこっちでやっておこう」
 という会話のすえ、一件の依頼が斡旋所に持ちこまれることとなった。




リプレイ本文




 陶子は、臼井教師についてくる形で教室に入ってきた。
 集まった8人を前に、臼井が言う。
「あー、説明は依頼書のとおりだ。後輩のために、よろしくたのむ」

「おう、よろしくたのまれてやらあ! ばっちりレクチャーしてやるぜ!」
 自信満々に応じたのは、ラファル A ユーティライネン(jb4620)
 だが、陶子は彼女を見ていない。憎悪の篭もった目で、天宮佳槻(jb1989)を見つめている。
 二人の間には、少々因縁があるのだ。──が、佳槻のほうは涼しい顔だった。陶子のことなど、なんとも思ってないのだ。

「まぁトリアエズ、紅茶デモいかがかネ諸君。喉が渇いては話しづらいダロ」
 そう言って、鴉乃宮歌音(ja0427)はカモミールティーをいれた。自家製クッキーも用意済み。
 格好が少々変わっている。全身カラスの着ぐるみで、声もボイスチェンジャーを通しているのだ。
「……ん。これは。なかなかの。クッキー。カレー味は。ない?」
 無茶なことを言うのは、最上憐(jb1522)
 おやつ目当てで参加した彼女は、陶子のことに興味がない。
 ともあれ、陶子と臼井が席に着き、会議は始まった。


 一番手を切ったのは、仁良井叶伊(ja0618)
「あなたは何を求めるのですか? 陶子さんの言うには、単独かつ隠密で効率よく強くなりたいとか。……しかし、単独で天魔と戦うことなど不可能であり、チームの中で自らの役割を効果的に果たすのが普通での意味の『強さ』だと思うのですけどね……」
 その言葉に、陶子は何も応えなかった。
 このままではロクな結果にならないだろうと思いながらも、叶伊は続ける。
「私はルインズブレイドですが、この職は陶子さんの要望からは最も離れた存在ですね。基本的には、個人の資質や経験などが集まって撃退士の『戦士としての価値』を決めるのですが、簡単に力を求めるにはルインズブレイドは向いてないのです。なにせ、役割的に正面切って殴り合いをすることが多いので隠密行動に使える技はありませんし、ほかの職に比べてフラットな能力ゆえに、大量の装備の吟味および強化と、膨大な量の経験値が要求されます。さらには、それらを使いこなす才覚も必要ですし……お手軽に強くなりたいのなら、おすすめできないのですよ」
 そう説明する叶伊だが、内心ではルインズの持つ『撃退士を殺せるスキル』を習得してほしくないと考えていた。
「それで勧めるとしたら……インフィルトレイターですね。くわしくは存じ上げませんので、どうしてもというなら他の人に説明をたのみますが、少々の経験と強力な狙撃銃があれば楽に強くなれますし。……あとは依頼に行って、斥候として色々な物を見てくるのが良いと思います」


 ところが、そこでインフィルトレイターの九条朔(ja8694)が反論した。
「断言しますが、戦闘面において我々は最弱です」
 力強く、淡々とした口調。
 ふだんは無口な朔だが、こうした会議の場では雄弁になることもある。
「このジョブは、攻防ともに頼りなく、命中だけ高くとも無意味です。……射程依存のスキル? そんなもの、射程外を取り続けられるのなら通常射撃で十二分。元来が支援職だから、暗殺など単独での戦闘は、愚策中の愚策。インフィルトレイターの私が言うのだから、間違いありません」
 きっぱりと、朔は断言した。
 陶子は無言で続きを促す。
「暗殺と簡単に言いますが、不意討ちとはいえ熟練の撃退士を一撃で倒せると考えるのは間違いです。……ならば必要なのは、無駄な隠密スキルなどではなく、単独で完結した戦闘能力でしょう。それも、一人で戦うなら攻防ともに高い数値で両立していなければなりません。その点で、ナイトウォーカーは却下ですね。忍軍も破壊力に劣ります。……だから私が推すのは、ディバインナイト。あなたの思想は天界寄りですし、妥当な選択でしょう」
「天界寄り……」
 その一言は、陶子の興味を引いた。
 手ごたえを感じて、朔は続ける。
「ディバは防御が高く、対抗スキルも豊富です。自己回復もこなし、攻撃スキルもCR変動を含めて強力。攻・防・回復のすべてを一人でこなせるディバが、単独戦闘では最強でしょう」
「ふぅん……」
 納得したのかどうか、陶子は何も言わなかった。


「最弱こそが最強って言うだろ。だから最強のジョブはウォーカー以外ねーよ」
 ラファルは、強引に自らの職をプッシュした。
「最弱なのに最強……?」
 陶子が首をかしげる。
 にやりとほくそ笑むラファル。
「そう。ウォーカーの防御は紙切れ同然! だが、不得意な分野で勝負しなけりゃいいだけのこと。隠密系のスキルは豊富だから、闇に伏せて必殺すりゃいいんだよ。そのための火力は十分。なんせ、全ジョブ中最強の攻撃力だしな! それに、スキル解釈の自由度も最強だ。俺を見ろ。ミサイルから光学迷彩まで、なんでもあるぜ」
 実際、ラファルのスキルは非常に自由だった。
 しかし、陶子には興味のないことだ。闇に伏せて一撃必殺というのも、朔の言葉が引っかかって素直に飲み込めない。
 それでも構わず、ラファルは説明する。
「俺は親切だから、効率のいい成長レシピも教えてやる。まずは、防御手段を決めて集中させろ。生き残る手段を多数用意するのはアホだ。隠密系か、防御か、回避か、ひとつに絞れ。とにかく生き残らなりゃ話にならねーからな。そうそう、仲間を盾にするってのもいーぜ。それから、メインにする技を決めて極限まで磨き上げろ。俺の場合、ヘルゴートとナイトミストで物理命中と回避を鍛えてる。スキルはアイテムと違って、強化するのも安上がりだしな。……そして重要なのは、仲間をとことん利用することだ。最弱のジョブが最強たりえるには、通常の方法でかなうわけもない。……っつーことで、かせいだ金は自分のために使いな。依頼をこなせば、いくらでも入ってくるしな」


「……ん。私も。ナイトウォーカーを。推す」
 憐が追従した。
「だよな! ウォーカー最強だよな!」と、ラファル。
「……ん。このジョブは。わりと最初から。攻撃力と。移動力が。ある。お金とか。経験値が。なくても。こっそり撲殺。闇討ち向き。とくに。足音を消すサイレントウォークと。気配を消すハイド&シークが。お手軽に習得できて。便利」
「闇討ち……」
 陶子は、その言葉に惹かれた。
 こくりとうなずき、お菓子を手に憐は説明する。
「……ん。相手が。警戒してたり。特定のスキルで。対処されない限り。大体。うまく行く。無防備な敵に。一撃入れたり。厨房に忍び込んで。カレーを飲んだり。バイキングで。料理取り放題したり。他人の皿から。食べ物を奪ったり」
 やけに食べ物の話が多いのは、憐の趣味だ。
 実際、厨房に忍び込んでカレーを飲むことにかけて彼女の右に出る者はいない。
「……ん。効率的な。強化法は。ラファルの。言うとおり。物理でも。魔法でもいいから。一撃の威力を。高めて。死角からゴスリ。これがオススメ。テラーエリアと。夜の番人を。併用すれば。昼間でも。闇討ち可能。命中は。低めなので、遠距離武器より。大きな鈍器とか。両手持ちの鈍器とか。魔界の鈍器とかを持って。できるだけ。相手に肉薄。確実にゴスリとやるのが。良い。……とにかく。やられる。まえに。やるのが。基本。定跡。セオリー」
 要約すると、不意打ちして鈍器で殴れという話だった。
 たしかに、背後からハンマーで殴られたら堪らない。


「まぁ、ジョブに特性がある以上、最強の判断は難しいわね」
 どこか偉そうな口ぶりで、月丘結希(jb1914)がしゃべりだした。
「あなたの目的にかなうジョブを選ぶなら、ナイトウォーカーや阿修羅、ダアトなんかの火力特化職が正解に見えるかもしれないわね。でも、あたしは陰陽師を推すわ。理由は簡単、火力バカの三ジョブは耐久力が低いのよ。いわば一発屋よね、一発屋。だから他の人間と共闘して弱点を補うか、一撃で決着をつける必要があるのよ。わかる?」
 陶子の反応をうかがうように、結希は視線を向けた。
 言葉は返ってこず、陶子は無言を貫いている。
「見たところ、あんたは他の撃退士と協力する気なんてないんじゃない? 強くなるのに一番なのは、実戦経験を積むことよ。でも、火力バカ一人だけで天魔と戦うのは無理だってわかるわよね? 一発で殺せるような雑魚は、そう多くないわ。そういう連中は、徒党を組んでるのが大半よ。火力にまかせて敵を倒したとしても、反撃で自分も死にましたじゃ無意味よね? それに運良く死ななかったとしても、重症を負えば実戦経験の機会を失うことになるわ。……まぁ自殺したいってんなら構わないけどね?」
 挑発するように言葉を発する結希。
 だが、陶子は何も反論しない。
「もともと、あなたの目的は撃退士を殺せるようになることでしょ? だったら、ある程度の生存能力は不可欠よね。ならばあなたが選ぶべきは、陰陽師以外ないわ。物理火力と魔法火力を備え、魔具魔装の装備力も問題ない。与えたダメージを生命力に変換するスキルや、豊富な状態異常スキル、防御力を上げるスキルもあるわ。器用貧乏なルインズと違って、陰陽師は器用万能なのよ」
 自信満々に言い切る結希。
 この場で唯一のルインズである叶伊は、どこか複雑な表情を浮かべていた。


「正直、こんな会議は無駄のように思うけど……参加した以上、言うだけは言っておこう」
 溜め息まじりに、佳槻は話しだした。
 陶子が、刃物のような視線を向ける。
 無論、そんなことで動じる佳槻ではない。
「僕のおすすめは、単純に火力面から見て阿修羅だね。低レベルのうちから殺傷力を上げるスキルも使えて、先手も取りやすい。弱点と言えば、特殊抵抗が低いことか。ジョブチェンジも考えるなら、アスヴァンで特殊抵抗を上げてから阿修羅って道もありそうだ」
 さらりと説明して、佳槻は話を切り替えた。
「……だが、ある意味どんなジョブより強く、しかもどのジョブとも併用可能なものがある。それは人間の汚さ、狡さだ。……まぁ、汚いなんて言葉で自分を飾っている奴には使えないものだけど。本気で自分の汚さを認めてる奴は、いちいち汚いなんて気にするよりも汚さをどう利用するか考えるものだろう。撃退士の中には、自分がもう使わないからって理由で高性能の装備品をポンと人にあげる人もいるし、強くなるまであれこれ手伝ってくれる人もいる。そういう連中を利用すればいい」
「私は、そんな馬鹿な連中の手は借りない」
 低い声で、陶子が応えた。
「馬鹿? はたしてそうかな? きみは、自分がその人たちに勝てると思ってる? 僕から見ると、きみは本気で強くなる気があるのか疑わしいね。こうやってる内にも、同時期に入学した人はどんどん強くなっていく。撃退士を殺すなら、手段を選んでる余裕はないと思うけど?」
「……っ」
 陶子は何も言い返せず、ギリッと歯軋りした。
 徹底して憎まれ役になることを選んだ佳槻だが、本人に自覚はない。ただ、現実を言葉にしただけだ。そして、現実こそが最も残酷なのである。


「まぁ、そのあたりで」
 見かねたように、間下慈(jb2391)が口をはさんだ。
 その顔を見た陶子の目から、フッと凶暴なものが溶け落ちる。
「陶子さん、ようこそ久遠ヶ原へ! 撃退士になる道を選んでくれたんですね! 歓迎しますよ!」
「……あ、ありがと」
 佳槻との会話のギャップに、陶子は少々とまどった。
「陶子さんが仇討ちのために自分の才能を使うのなら、それでいいと思います。生きる目的は人それぞれ自由ですし。……で、ジョブ選びですね。不意討ちしたいって話ですが、正直どのジョブでも工夫次第で可能です。でも、それで倒せるのはせいぜい一人二人ですし、重要なのは不意討ちで一撃かました『後』でしょう。どうせやるなら、そのまま全滅させましょうよ」
「どうやって?」
「大切なのは、瞬間火力より継戦能力です。具体的に言えば、高い防御と回復スキルを兼ね備えるアスヴァンですね。まず、アスヴァンには不意討ちにうってつけな『コメット』があります。コイツは範囲攻撃ってだけでなく、命中した相手の動きを止められます。つまり、逃がさず仕留められるってわけですね。当然反撃は来るでしょうが、こちらには抜群の耐久力がありますし、先手で主導権を握れば安定して戦えます。……まぁ対撃退士は専門外ですし、あくまで机上の空論なんですが」
「その発想はなかった……」
「もうすこし、お節介焼きの助言を。……どんなジョブにしろ、いずれは仲間が必要になります。そのために、学園生とは表面上だけでも仲良くしておいて損はないです。せいぜい利用してやればいい。あなたにとってはヘドが出るほどイヤでしょうが、復讐のためには殺意を隠すのが上策ですよ。……そして、あなたが信念を捨てない限り、復讐に終わりはありません。だから、あせる必要はないです。いつ始めても一緒なんですから。いまは、静かに力をつける時ですよ」
「わかった。あなたの言うことなら……信じてもいい」
 陶子は軽くうなずき、慈は明るく微笑んだ。


「ソロソロ、なりたいジョブは決まったカナ?」
 歌音が、カラスの翼を広げた。
 おもわずビクッとする陶子。
「いろいろ意見が出たケド、じつのトコロ最強の職業ナンテ無いンだよネ。すべテどこかしら弱点ガある。ドンナ職ヲ選んデモ、最後は生物自身ガ弱点ヲどう埋めるかナノサ。究極的ニハ、転職シマクレバイイ。シカシ、生物独りニ全部詰め込んダって扱えないデショ? 生物には限界あるカラ、タダの器用貧乏に成り下がる」
 陽気な口調でしゃべる歌音。
 バサッと羽を動かすと、荷物をどけるようにして彼は続けた。
「閑話休題。最強ノ職業ハ無いガ、キミの希望に合う職業ナラ、ナイトウォーカーと鬼道忍軍ダネ。どちらも単独デ行動でき、『暗殺』デキル技術ガアル。暗殺に感情はイラナイ。己自身ガ武器ニナル。武器は考えナイ。武器はタダ殺せばイイ。キミにピッタリだと思うガネ。……マア、復讐ヲ完了スル頃にはキミは八つ裂きになってるかもシレナイケドナ? ほら、ヒトは意外と強いカラ。侮った結果が、先の大戦デ死した天使達ダヨ。ここ、キミみたいな奴だけでナク、天魔ヘ復讐スルタメに鍛えてるニンゲンもイルからネ。ドンナ達人デモ、基礎怠ラバ足元掬ワレル。……頑張るんだヨ少女。どんな目的デモ、研鑽を積むのは良いことダ」
 そう言って、歌音はカッカッカッと笑った。




「さて、これで全員の話を聞いたわけだが……進路は決まったか?」
 臼井が問いかけた。
 陶子は目を閉じて、迷わず答える。
「アストラルヴァンガードにします」
「そうか。何にせよ、決まって良かった」
「マーシーのおかげです。そもそも、私の力は天界のもの。この選択以外ないことを、気付かせてくれました」
 陶子は慈のほうを振り向き、「ありがとう」と告げた。
 これが、彼女の復讐劇のプロローグ。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 陰のレイゾンデイト・天宮 佳槻(jb1989)
 非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
重体: −
面白かった!:7人

ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
迫撃の狙撃手・
九条 朔(ja8694)

大学部2年87組 女 インフィルトレイター
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍