● 千葉真一(
ja0070)
「新入生諸君、ようこそ久遠ヶ原学園へ!」
真っ赤なマフラーをなびかせて、真一はカメラの前に立った。
その健康的な溌剌さは、トップバッターにふさわしい。
単にID順なんだが、一番手が爽やかで良かった! 本当に良かった!
「ここに来た経緯は、みんな色々あると思う。来たばかりで、撃退士としてどうすれば良いか、やっていけるのかと思うこともあるだろう。……ならば最初は、自分の力を何か人の為に役立てられるよう、がんばってみてほしい。そして出来れば、自分が何のために戦うのか、確たる信念を持ってほしい!」
ここで言葉を区切り、トーンを変えて真一は言った。
「撃退士は命の危険もあるし、決して楽な仕事じゃない。ときには、護った相手に拒絶されることもある。心ない言葉を投げつけられる場合もあるだろう。……それでも、他人に左右されない強い心を持って臨んでいけば、きっと乗り越えられると俺は信じている」
じつにまっとうなメッセージを披露して、真一は締めくくった。
「それと、信頼できる仲間を作ること。これが何より大切だ。新入生のみんな、いつか共に戦える日をたのしみにしてるぜ!」
● 黒百合(
ja0422)
「新入生の皆様はじめまして……黒百合と申します♪」
にんまりと微笑みながら、黒髪の少女が登場した。
一見上品な物腰だが、なぜか口元には血が付いている。
「撃退士として初めて学園の門をくぐり、不安な日々をすごしておられるでしょうが、あなたがたは一人ではありません。自分だけで抱え込まず、気軽に声をかけてくださいね……? 私たちが、親身になって相談に乗りますから♪」
うふふ、とお嬢様っぽく笑う黒百合。
セリフだけ見れば優しげだが、唇からは鮮血がしたたり落ちている。
そこへ、背後から屈強な男が襲いかかってきた。
「訓練中に何をやってる! ふざけるなぁぁ!」
大剣が黒百合の背中を貫いた。
と思いきや、そこにあるのはスクールジャケット。
瞬時に男の横手へ回りこんだ黒百合が、牙のような犬歯をきらめかせて突撃する。
ブシュウッ!
男の首筋から、鮮血が噴き出した。
「げぐ……っ!」
噛まれた箇所を両手で押さえ、ビクビクと痙攣する男。全身に毒が回っているのだ。
カメラが引くと、おなじように苦しみながら七転八倒する撃退士たちが、背景にゴロゴロ転がっている。実戦を模した特訓中なのだ。まさに地獄絵図。
「新入生の皆様、この学園はとても楽しい所です……上級生は優しい人ばかりなので、なんの心配もいりません。学園生活をたのしんでくださいねェ……?」
黒百合がしゃべっている間、背景の呻き声がやむことはなかった。
● 鴉乃宮歌音(
ja0427)
「君は何者にも縛られていない。君の思うようにやるといい」
中性的な白衣姿で、歌音は淡々と告げた。
状況に応じて服装や口調を変える歌音だが、今回は上級生らしく……というより、教師のような姿である。
「これは私が『自由』を推奨する者だから言うことだ。撃退士として依頼をこなすもよし、ちょっと何かできる程度のただの学生であるもよし、戦うも学ぶも遊ぶも恋をするも自由だ。自分が正しいと思う道を探して歩くといい」
もっともらしいことを言ったあと、歌音は小声で「……まぁ他者から見て、その道が正しいとは限らないが」と、付け加えた。
そしてクールな口ぶりで話をまとめる。
「この学園は、天魔も人間も区別なく、すべて等しく歓迎する。謳歌せよ、今を。……君たちの行く末に幸多からんことを」
そう締めたあとで、思い出したように歌音は言った。
「……ああ、そうそう。生活がうまくいくようになるコツ? 『ラヴ』を持ってみればいいんじゃないかな。大事だよ、『ラヴ』は。『ラヴ』に気がつけば『ラヴ』は君の支えになるだろう。……あとは自分で考えてね」
● 下妻笹緒(
ja0544)
見知らぬ人間のメッセージが、心に響くだろうか。
笹緒は、そう考えた。そして導き出した答え。それは、『歌』だった。
そう。『歌』には、ただの『言葉』にはない『力』がある。
というわけで、ニット帽にヘッドフォン、だぼだぼファッションのDJパンダがカメラに登場。ノリノリのビートを刻みつつ、ラップをはじめる。伝えるのは心。願うのは魂の燃焼!
タイトルは『REAL』!
しけた支給品 至急売っ払え
わずかばかりの 久遠掻き集め
購買で買った花束 屋上からブン投げ
脳味噌とろけそうな相談 優等生に丸投げ
屑鉄生み出す 俺達はゴミ製造機
ドンマイ繰り返す 願わくば神の武器
クールに纏えアウル 振り回されりゃアウト
リミット超えた魔具魔装 前のめりに倒れりゃ上等
みごとなライム(韻)を踏んだ歌詞だった。とても即興とは思えない。
タイトルも憎い。風刺が抜群だ。
ポーズを決めてターンテーブルがわりのフリスビーをクルクル回転させる笹緒は、周囲の注目を集めまくっていた。
しかし、こんなREALを突きつけられた新入生は、一体どう思うのか……。
● 雫(
ja1894)
「新入生に一言、ですか……」
無口で無表情な雫は、面倒くさそうに話しはじめた。
「では、心構えをひとつ。……この学園には様々な人がいますし、依頼等で出会ったりもしますから、自分をしっかり保つことが大切ですね……。信念を固く持っておかないと依頼先での出来事や出会いで、信念を揺さぶられたり折られたりして学園を去ってしまうこともありますから……」
そこで言葉を切ったので、終わりかと思いきや。
これだけは言わせてくれとばかりに、雫はキッとカメラを見据えた。
「私も久遠ヶ原に来た当初は、クールで人形めいた冷たさがありました……それが最近じゃクール(笑)状態になって、当初の暗い影なんかすっかり消えてるんですよ!? それもこれもあれもどれも、どこかの誰かのせいです!」
なぜか卍に食ってかかる雫。
「なんで俺!?」
胸倉をつかまれた卍は、困惑するばかり。
「パン戦争では行殺され、妙な作家にはナンパされ、海産物退治では触手プレイを食らい、雪合戦では生き埋め、ペンギンからは一撃死……着々と私のクール値が削られていったんです! 返してください、私のクール値を! なにごとにも動じなかった冷静さを!」
「無理言うなぁぁ……!」
首をガクンガクン揺さぶられながら、卍は悲鳴を上げた。
● エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
「新入生に一言? ふむ、そうですね……」
校内をぶらついているところを亜矢に捕まったエイルズは、まぁ知らぬ顔でもないしと取材に応じた。
「撃退士としての心構えとかは、ほかの誰かが言うでしょうし……。僕から言いたいことは、オンリーワンをめざしてほしいということでしょうか。学園が敷いたレールに沿ってすくすくと成長し、撃退士の王道を歩むのも良いですが、ほかの誰にもマネできない自分だけのスタイルをめざしてくれれば、と思います。たとえば、なんらかの職人をめざしてみるのも良いでしょう。バカの一つ覚えだって、だれにも負けないものがあるのならアリでしょう。とにかく、尖った個性を持つ撃退士になってください。僕が見ていて楽しいですから」
そう告げたあと、エイルズは思わせぶりに軽く頭を下げた。
「僕の特技は、皆さんと依頼をご一緒したときに披露したいと思います。それでは、また」
バサッとマントがひるがえり、カメラの前に広がった。
そのマントが床に落ちたとき、エイルズの姿は跡形もなく消えている。
「え……っ!? わかった、『蜃気楼』ね! これで万引きしてたヤツ知ってる!」
得意げに手を突き出す亜矢。
だが、そこには何もない。
「あいえええ……っ!? なんで!? 忍者なんで!?」
「手品だ、手品。次いくぞ」
あわてふためく亜矢を引きずって、卍は次のターゲットを探しにいった。
● 佐藤としお(
ja2489)
「……? 僕ですか? なんでしょう」
伊達眼鏡をキラリとさせつつ、としおは振り向いた。
「新入生に一言! さぁどうぞ!」と、亜矢がカメラで迫る。
「あ〜、前にもこんな取材受けたことがあったかな。そうですね〜、新入生に一言かぁ……まぁ最初は不慣れで、右も左もわからない僕だったからな〜。う〜ん……。いまでもこの学園のことはわからないことだらけだし、なにかいいアドヴァイスが出来ればいいんだけど……」
めずらしく真剣な顔になって、あごに指を添えるとしお。
そして、考えこみながら言葉を紡ぐ。
「そうですねぇ……生活必需品なんかは、購買に行けば揃うでしょう。ぼっちがイヤなら、思い切って部活に入るのもいいし……。はじめての依頼は不安かもしれないけど、相談卓できちんと話を聴いてれば大丈夫でしょう……」
などと語るとしおだが、その直後に謎の爆発事故が発生!
\ドッカーーン!!/
黒煙を噴き上げ、アフロヘアになったとしおは、なぜか満足げだ。
ひと仕事終えたような顔で、彼は言う。
「……そう、僕が言いたいことはひとつ……『この学園で油断は禁物』ってことさ♪」
テヘペロしたとしおは、「アディオス!」と言い残して走り去るのであった。
● 久瀬千景(
ja4715)
「新入生に一言、か……」
クールな立ち姿で、千景はカメラを見た。
イケメンに弱い亜矢は、撮影に熱が入る。
「この学園が、普通の学園と違うところ……それは言うまでもなく、能力者として天魔と戦うというところだ。注意するべき点は依頼ごとに違うかもしれないが、共通して言えるのは一つ……決して、死ぬな。自己犠牲なんて考えはやめろ。仲間を救い、自身も生きて帰る。そのためなら、先輩や教職の方々も喜んで協力してくれるはずだ」
「いいこと言うね!」
亜矢が相槌を打った。
千景は無表情のまま続ける。
「勉強や運動は人それぞれだが……この学園にはイケメンや美人も多い。いい恋愛がしたいと願う人は多いんじゃないだろうか? 生きてさえいれば、それもかなう。生き抜くことこそが最も大事であると理解してくれ」
恋愛の部分に言及したとき、千景は少しだけ笑顔を見せた。
それを誤解した亜矢が、なにやら言いだす。
「つまり、あたしと恋愛してもいいってことね?」
「は……? そういうつもりでは……」
「言ったじゃない! いい恋愛がしたいって!」
「待て。冷静になれ」
「あたしは冷静よ!」
その直後。亜矢の後頭部に金鎚が突き刺さり、彼女は倒れた。
「悪いな。野良犬にでも懐かれたと思って忘れてくれ」
そう言って卍は亜矢の足首をつかみ、ずるずる引きずっていった。
● 斉凛(
ja6571)
「突撃! となりの喫茶店!」
場面が替わってアッサリ復活した亜矢は、喫茶店キャスリングを襲撃……もとい訪問した。
アンティークな雰囲気ただよう店内。対応に出てきたのは、メイド姿の凜。
「いらっしゃいませ。紅茶はいかがですか?」
「いいわね! お菓子はある?」
「ええ、もちろん。こちらのお席へどうぞ」
というわけで、アフタヌーンティーを満喫しつつ撮影開始。
「この学園には、いくつもの部活があります。中には、こんな素敵なお店も……」
と言いながら、凜は優雅な手つきで紅茶をいれ、ケーキを並べた。
「このチーズケーキおいしいわね。……うん、カレーもなかなかじゃない」
厨房に忍び込んでカレーを食う亜矢。
なぜか卍が慌てて止める。
「この馬鹿! カレーはやめろ!」
「なによ!」
なぜか揉める二人。
その背後で、凜はキラーンと目を輝かせた。
音もなく放たれるアウルの弾丸。
『マーキング』が、亜矢に命中した。
「いま、なにかした?」
亜矢が問いかけると、凜は「いいえ」と首を振った。
そして、話をまとめるように頭を下げて言う。
「喫茶店キャスリングは、いつでもお客様をお待ちしてますわ。新入生の皆さんも、是非お気軽にお立ち寄りくださいね?」
● 賤間月祥雲(
ja9403)
「そこの黒いフードのあなた! メッセージビデオに出ない?」
亜矢が捕まえたのは祥雲だった。
「はんへふは?(なんですか?) へっへーじ?(メッセージ?)」
振り返った祥雲は笹かまを口にくわえ、大量の笹かまが詰めこまれた袋を背負っていた。
あっけにとられる亜矢の前で、ごくりと笹かまを飲み込んで「いいですよ?」と応じる祥雲。
「うーん……新入生へのメッセージですか……。まぁ友達作って、笹かま食べて……たくさん悩んで、笹かま食べて……喧嘩して、笹かま食べて……泣きながら、笹かま食べればいいんです……。おら、くえ、笹かま……」
と言いながら、笹かまを押しつける祥雲。
「あ、うん。笹かまね。パンダの好物だよね」
さすがの亜矢も、ボケにキレがない。
「……あ。意外とおいしい」
亜矢の感想に、祥雲は「でしょう?」と応じた。
「なぜならそれは……作りたての新鮮な笹かま……! 最近、真空パックなんて……あるらしいがボクは認めない……。真空パックなんて……邪道です! 笹かまライフを送れば……悩みなんて全部解決……!」
「そ、そう?」
リアクションに困る亜矢。彼女も色々な撃退士を見てきたが、笹かま中毒というのは初めてだ。
ところで、なぜかカメラのフレーム内に『喫茶店キャスリング』という看板が映っているのだが。ナゼダー(
● 黒井明斗(
jb0525)
「放課後に勉強してる、悪ィ子はいねぇが〜?」
亜矢が適当な教室に踏みこむと、そこには居残り勉強に精を出す学生たちがいた。
その中に顔見知りを見かけて、亜矢はカメラを向ける。
「え? 単位が危ないのかって? ちがいますよ。早めに勉強を進めてるんです」
「なんてクソ真面目な……。まぁいいわ。さぁ新入生に一言!」
「新入生に一言……?」
明斗はネクタイを締めなおし、姿勢を正してカメラを見た。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。いろいろ言われていると思うので、僕からは二点だけ。まず一点め、勉強はしっかりと。二点め。下着は綺麗なのを身につけてください」
「え? どういう意味?」
「勉強は、皆さんが撃退士にならなかったとき必要になります。下着は、戦場で命を落としたとき重要になります。もしも天魔に敗れたとき、装備品は血や泥でグチャグチャです。せめて下着くらいは綺麗でないと、見苦しいです。これが戦死(士)の嗜みというものです」
えらく真面目に戦士の心得を語る明斗。
その表情には、一抹の迷いもなかった。
● 月乃宮恋音(
jb1221)&袋井雅人(
jb1469)
日が傾き、オレンジ色の陽光が教室に差し込んでいた。
だれもいない、ふたりだけの教室。
やわらかな光の中。喧噪は遠く、ふたりの耳には互いの息づかいしか聞こえない。耳をすませば、心臓の音さえ聞こえそうなほどだ。
「袋井先輩……」
顔をうつむかせながら、恋音は訴えるような上目づかいで雅人を見つめた。
潤んだ瞳は黒曜石に似た色で輝き、ともすればその光が涙になってこぼれそうに見える。
「恋音さん……」
雅人は、かわいた唾を飲みこんだ。
やけに鼓動が激しいのは、放課後の教室で二人きりというシチュエーションだからだろうか。いまさら、そんなことで緊張するような関係ではないはず……そう思いつつも、雅人の鼓動は激しくなる一方だ。
ふたりは無言で意思を交わしあい、どちらからともなく顔を寄せていく。
こういう状況だと、むしろ恋音のほうが積極的だ。
じきに二人の吐息が絡みあい、恋音は瞳を閉じて踵を上げる。
そんな彼女の姿を見つめながら、雅人は目を閉じることができないまま唇を──
「……って、うわああ!?」
唇が触れあう寸前。雅人は跳びのいた。
いつのまにか、恋音の後ろに亜矢と卍が立っていたのだ。
「え? えぇぇ……っ!?」
恋音も慌てて振り返る。
「ん? つづきは?」と、ニヤつく亜矢。
その後ろで、卍は肩をすくめている。
「いつからそこに!?」
雅人が問いかけた。
「最初から?」
しれっと答える亜矢。
潜行スキルを持つ彼女たちにとって、隙だらけの二人を盗撮するのは余裕だった。
「まぁとにかく、新入生に一言!」
「みんな! 青春と言えば恋愛ですよ! 失敗を恐れず、おもいっきり! 私たちみたいに恋をしてください!」
ひらきなおる雅人。
一方、恋音は意気消沈気味だ。
それでも、取材を受けたからにはと頑張って発言する。
「そのぉ……久遠ヶ原に来たからといって、戦うことは義務ではないのですよぉ……。事務やオペレータなどの裏方や、各種トラブル対応など、戦場に出ない選択肢もありますぅ……。実際、私も非戦闘要員ですし……」
「とか言ってるけど、ヤバイ級のダアトだからね? 『こんな先輩が非戦闘要員なんて』とか落ち込んじゃダメよ?」
さりげなくフォローを入れる亜矢。
「えとぉ……戦闘の話はともかく……すくなくとも、トラブルには事欠かない学園なので、退屈することはありませんよぉ……」
と言いながら、たった今のトラブルを思い出し、瞳から光が失われていく恋音。
それを見た雅人が、空気を塗りかえようと言葉を発する。
「そうそう、最後にひとつ! 悪いことをしたり、みんなに迷惑をかけると、ラブコメ仮面という奴が来て酷い拷問をされちゃうから、気をつけてくださいね!」
まぁ空気が変わるわけなかった。
ちなみに、この撮影の間ずっと『喫茶店キャスリング』の看板を持った凜が背景に映っていたことを追記しておく。
● 最上憐(
jb1522)
「……ん? 撮影? じゃあ。ついてきて」
憐は亜矢と卍を学食につれていった。
そして、迷わずカレーを注文。寸胴鍋で。
「……ん。代金は。卍が。払う」
「なんで俺が!?」
「……ん。良い映像を。撮るための。必要経費」
「ふざ……! ……いや、わかった。経費は臼井に払わせる! 思う存分飲め!」
華麗に被害を回避した卍は、「はっはっは」と哄笑した。
憐はそんな卍に見向きもせず、カメラ目線でカレーを飲みはじめる。
「……ん。カレーは。飲み物。飲む物。飲料。私の。ところへ。来れば。飲み方を。伝授するよ。カレー代。おごって。くれるなら」
憐の狙いは、世間知らずの新入生や、人界の知識に疎い天魔たちを、カレーは飲み物であると洗脳することだった。
「……ん。このまま。布教すれば。自動販売機に。カレーが並ぶ。日も近い。数の力で。学食や。購買を。すべて。カレー一色に」
その計画がうまくいくか否かは、神のみぞ知る。
ただ、寸胴鍋カレー一気飲みのパフォーマンスは、新入生の度肝を抜くこと必至だろう。
「……ん。歓迎会で。実演しようか?」
寸胴鍋をカラにすると、憐はそんなことを言いだすのだった。
● 月丘結希(
jb1914)
「なに? カメラなんか回して」
学食を出た休憩所で、結希はポッキィをかじりながら携帯端末をいじっていた。
彼女の周囲には無数の仮想ディスプレイが浮かび、映像や文字を流している。
「じつはさぁ」
と、亜矢が説明した。
それを聞いた結希は、乗り気になって話を振る。
「新入生歓迎ビデオ? どんなの撮ってきたの? 見せなさいよ」
カメラをひったくって、映像を確認する結希。
「なにこれ。無難な挨拶ばっかり。まるでインパクトが足りないわ。あたしが改造してあげる」
言うや否や、結希はカメラと携帯端末を接続し、猛スピードで打鍵しはじめた。
「なにするつもり?」
「なにをするのかって? ほら、幻覚魔術を応用すれば、こんな具合にSF風味が簡単に仕込めるの。時代は先取りするものよ」
ディスプレイに投影されたのは、スタイリッシュでサイケデリックな、未来すぎる映像作品だった。たぶん、25世紀ぐらいのセンスだ。なぜか『喫茶店キャスリング』の看板が、あちこちに映っている。
「それはちょっと……」と、亜矢。
「え? こっちのほうがいいじゃない。新入生の度肝を抜けるわよ、久遠ヶ原、未来に生きてんなぁって。……あ、なんで逃げるのよ!」
いつのまにかカメラを奪い返して、逃げる亜矢だった。
● ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「新入生に一言だぁ?」
ラファルは露骨に面倒くさそうな顔をした。
そして、本当に一言。
「おう、歓迎するぜ」
それだけで背を向けるラファル。
彼女に言わせれば、『新入生だろうが転入生だろうが、かりそめにも撃退士候補なんだからほっといてもテキトーに卒業できるだろ。幼稚園児じゃあるまいし、かったりーなー』というところだ。
「まって! もう一言!」
亜矢が追いかけた。
「ああ? よし、天使に会ったら天使をブッ殺せ。悪魔に会ったら悪魔をブッ倒せ。仲間に会ったら仲間をブッ飛ばせ。そして仲直りしろってな」
再び立ち去るラファル。
「どこかで聞いたセリフだな。もうちょい何かねぇのか?」
卍が追いすがった。
「もうテキトーに編集しとけよ……。いいか、とにかく戦え、戦え、戦え。勉強できなくても試験バックれても、天魔さえ倒せば卒業できる。ま、歓迎するぜ」
「あんたなら、もっと面白いこと言えるでしょ?」
無茶振りして後を追う亜矢。
ラファルはクルッと振り返り、光纏と同時に全武装を解除した。
「そんなにコメントがほしいなら、くれてやるぜ!」
ちゅどぉぉぉん!!
「「アバーッ!」」
亜矢と卍、ついでに凜も一緒に吹っ飛んだ。
● 水無月ヒロ(
jb5185)
「吾輩は、午(うま)男爵であるぞ」
スーツ姿でシルクハットをかぶり、葉巻(チョコ)をくゆらせながら、ヒロは登場した。
なぜ、こんな格好をしてるのか? それは、新入生に夢を持たせるため。バラ色の撃退士生活を印象づけようという作戦だ。多少の脚色は必要悪である。
貴族・午男爵に成りきったヒロは、いかに撃退士として成功し、巨額の富と名声を得たかを……そして、いかに高貴で不自由のない暮らしを送っているかを語りだした。
「吾輩は、撃退士として幾多の天魔や蔵倫を打ち倒してきた……。いまでは指を鳴らせばメイドがワインを注ぎ、おかかえのシェフが最高級素材の寿司を好きなだけ握る生活。収入は、撃退士の体験談をもとにした書籍の印税……。自分は指示書を書くだけで、ゴーストライターが全て文章化してくれる。ときに依頼もこなすことはあるが、富や名声はもう充分。いまの吾輩にとって、天魔退治は奉仕活動に過ぎない……。さらに言えば、もうすぐ伯爵に格上げされる見通しだ。無論、ロリな嗜好や酒浸りで日々を送るような自堕落さは微塵もない。……これこそ、世界で最も成功した撃退士、午男爵の暮らしだ……。どうだ、新入生諸君。うらやましかろう?」
うらやましいわ! なんだそれ!
「なんだか耳鳴りがするわね、この部屋。次いこう」
頭をおさえながら、亜矢はヒロの部屋をあとにした。
● 吾妹蛍千(
jb6597)&稲野辺鳴(
jb7725)
「おい、蛍! おまえはアンパンが主食だろ! アンパンは甘い。汁粉も甘い。なら汁粉も主食じゃねぇか!」
「何回言わせるんだ、鳴! 汁粉は餅! アンパンはパン! 意味不明すぎる!」
「意味不明なのは、おまえだ! 汁粉は餅だと? ああ、たしかに餅だとも! だが、餅とパンの間にどんな違いがあるってんだ!? 言ってみろ!」
「な……っ!? 一目瞭然だろ! 餅は餅、パンはパンだ!」
「はっ、トートロジー(同語反復)に堕したか。ここで論理を放棄するとは……てめぇの負けだ、蛍!」
「早合点するな! プラトンのイデア論にもとづけば、ボクらの目に見えるパンは(略」
うん、キリがない上に意味不明すぎるので説明しよう。
この二人は、いつものように第52回『お汁粉は主食か否か』論争中なのだ。
だって、春だからね。春と言ったら汁粉だよ。聞いたことないけど。
「最強はコロッケパンよ!」
ドアを蹴り破って、亜矢が乱入してきた。
「「コロッケパン関係ねぇ!」」
蛍と鳴の声がハモった。
「待て! 最強は焼きそばパンだ!」と、卍。
「「焼きそばパンも関係ねぇ!」」
蛍と鳴の反論が、ふたたび揃った。
……うん、パンの話は置いておこう。
「というわけで、新入生に一言!」
という亜矢の言葉に、鳴が全力で拒否した。
「いやいや、そういうのマジで勘弁してくれ! 考えてみろ! 新入生歓迎会のビデオに般若面のゴツイ男が映ったら、だれだってイヤだ! 俺だってイヤだよ!」
「面を外せばいいだけじゃない?」
「……まぁ、うん」
納得してしまう鳴。
これぞ、コロンブスの卵!(違
というわけで収録開始。……って、ここまで長すぎぃぃ!
「ええと……久遠ヶ原の皆さんは、たいへん個性的で(一部除いて)良い方ばかりです。不安もあると思いますが、ともに頑張りましょう!」
これでいいんじゃないかなと、適当に終わらせる蛍。
続いて鳴のコメント。
「まぁ俺みてぇなサボり魔になるなよ。以上」
さっさと終わらせたかったらしい。
そんなこんなで蛍&鳴は新入生へのメッセージなどというクソどうでもいい話を早々に打ち切り、重大な論争を再開。
「第52回『お汁粉は主食か否か』会議、再開しまーす」
蛍は本気だった。
● ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)
「インタビュー? ええよ〜、なんでも答えるで〜♪」
静かな屋上で、ゼロは全身包帯まみれになりながら酒を飲んでいた。
重体中にもかかわらず、病院を抜け出してきたのだ。
「うーん……新入生に一言なぁ……? あ、美男美女がめっちゃ多いで〜、よりどりみどりやわ〜。あんたの腕次第で、それはもう楽しい日々が待ってるやろな♪ 気がついたらアイドルの彼女とか出来とるしな」
自慢げに言いいながら、ゼロはクールに微笑んだ。
「あいつ、殴っていい?」
と、亜矢が問いかける。
「やめとけ」と、卍。
そんな二人には気もかけず、ゼロは続ける。
「あと、病院の看護師さんとか女医さんと仲良くなっとくと得やな。こんな風にケガしても、すぐ脱走できるからな〜♪」
W重体くらって脱走するのは、レアケースと言えよう。
「ほな、依頼で会ったときはよろしゅうな♪ あぁでも……こんな大人になったらあかんで?」
ニヤリ微笑むと、ゼロはフェンスを乗り越えて羽ばたいていった。
● 篠塚繭子(
jb7888)
「私も編入して半年くらいですが、先輩は先輩ですからね。はりきって心得を教えちゃいますよー」
おっとり口調で、繭子は微笑んだ。
「けど、とくに語れる心得はないんですよねー。……なら、ここは定番の体験談語りです!」
と言って繭子が語ったのは──
・炬燵に引き篭もる狼
・三が日過ぎにやってきたサンタ
・焚き火大好き熊さん
──の三本。
「……うん、みごとに色物ですねー。おかしいですね、血湧き肉躍る戦いを求めて私は学園に来たはず……」
なぜか落ち込む繭子。
だが、復活も早い。
「まぁそれは置いといて。……つまりですね、一口に撃退士と言っても色々な人がいるんです。不安もあるでしょうけど、自分の気持ちに素直に行動するのが一番です。こまったときは私たちをたよってください。いつでも力になりますから」
そう言ったあとで、繭子は「うん、私いいこと言った気がします!」と自画自賛した。
カメラがまだ回っていることに気付き、ハッとなって繭子は言う。
「あ、よけいなこと言っちゃいました。ここカットで、お願いしますねー」
● シグネ=リンドベリ(
jb8023)
「破裂すればァ、このバカップルゥ」
亜矢と卍の姿を見るなり、シグネは言った。
「バ、バカップル!?」
亜矢が顔を真っ赤にして怒りだす。
「だって、いつも一緒じゃないィ……?」
「はァァ!? 死亡判定がほしいの!? 雪合戦の恨み、ここで晴らしてもいいのよ!?」
カメラを捨てて、刀を抜き放つ亜矢。
あまりの殺気に、シグネは一歩引く。
「わかったわよォ。まァ人間関係って色々あるしィ……? で、なに? 新入生に一言ォ……?」
「そうよ! さっさと言いなさい!」
「って言われても、アタシまだ入学して数ヶ月なのよねェ。……まァありきたりだけど、信頼できる仲間を作るのが大事じゃないかしらァ……。この学園って変態が多いけど、根はいい子が多いから、友達はすぐ出来ると思うわよォ……?」
「案外マトモなこと言うわね」
「そォ……? あと、なんか動物多いわよね、生き物から着ぐるみまでェ……毎日がテーマパークみたいよォ? それに、戦わずに遊んでばっかりでも怒られないから、のんびりしたらいいんじゃないかしらァ……?」
「あ、そう! じゃあね! あんたは敵よ! 敵!」
子供みたいに怒りながら、亜矢は去っていった。
● 緋流美咲(
jb8394)
日も落ちて、亜矢と卍は夕焼け迫る校門前に来ていた。
知人を見つけた亜矢は、ダッと走りだす。
「さぁ新入生に一言!」
「……え? これ、まわってるの?」
ぼけーっとカメラを指差す美咲。
亜矢がうなずくと、美咲は顔を引きしめた。
「えー、本当に必要な学びとは!」
バレリーナのようにクルクルッと回転して、美咲はカメラを指差した。
「自分を知ることである!」
言い終えると同時に、逆方向へスピン。
そしてカメラを指差す。
「この学園生活で、色々な自分が見えてくる!」
またしても逆スピン。
バシッと指を突きつけ。
「自分を知ることで、相手も見れるようになる! 進む道が見えてくる!」
一言セリフを言うごとに10回転ぐらいしてるので、三半規管がヤバそうだ。
「不安はあるかもしれないが、どんどん飛び込んでいこう!」
そう言った直後、美咲は平衡感覚を失ってフラついた。
「だ、大丈夫! こ、こんなにフラフラになっても、助けあえる仲間がいる! 信頼できる友がいる! さぁキミたちも、青春の汗ををを!」
よろけた美咲は、豪快につんのめり──
グシャアアン!
亜矢と卍を巻きこんで、カメラを破壊したのであった。
ID順に並べただけなのに、なんとみごとなオチ。
というわけで撮影は終わり、卍が受け取るはずの報酬は憐のカレー代と壊れたカメラの修理費として消えたのであった。