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マスター:ちゅーん
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/13


みんなの思い出



オープニング


「突如として現れた大きな白いドーム! その大きさは元々ここにあった小さな公園をすっぽりと覆ってしまっています。周囲は厳戒体制を敷かれており、何台もの装甲車が止まっております! あれが何なのか、未だ情報は分かっておりません!」 
 ニュースリポーターは真っ白な糸で構築された繭のような物体からある程度離れた距離に立ち、カメラに向かってそう叫ぶ。彼女の前には「これ以上前に進まないように」という意味が籠もった黄色いテープが敷かれている。大勢の報道陣と野次馬がテープの前に立ち、突如現れた白いドームを取材し、見物していた。
 リポーターの話は続く。
「しかし、ここ最近この周辺では悪魔の目撃情報が上がっており、その関連性が疑われております! 調査のために撃退士による侵入が計画され、現在その準備がされています……あ、撃退士たちです! 六人が繭の中へと入っていきました! この繭は一体なんなのか、彼らが――きゃあああああああ!」
 撃退士たちが入った直後に響いたのは断末魔の叫びと爆音であった。野次馬は悲鳴を上げながらその場から逃げるが、カメラマンは仕事の使命からか逃げずにカメラを回し続けた。周囲が混沌とした状況の最中、そのカメラが捉えたのは、慌てて逃げてきた撃退士の腹部を何かが刺し貫いた光景であった。真っ赤に染まった突起状の何か――。しかしそれが何なのかは分からない。大穴の開いた腹部の内がくっきり見える。直後、お茶の間のテレビは即座に映像を差し替えられた――。


「ゆゆしき事態です」
 久遠ヶ原学園の女性事務は冷静に状況を報告する。
「確認されている情報は限られています。撃退士の一人は死亡。三人が重傷を負い、任務は失敗。撤退して、怪我人は病院へと収容されました。撃退士の一人についていたカメラの映像記録には、前を走っていた撃退士が突如、突起状の何かによって脇腹が貫かれている映像が映っており、赤く着色された形状から爪、それも昆虫やそれに近いものでした。糸は堅く、並の刃物では切ることもままなりません。刃先にダイアモンドが含まれているチェーンソーを駆使してなんとか糸を採取し、DNAを調べたところによると、糸は蝶や蛾の幼虫によるものではなく、蜘蛛のものと類似しているという結果が出ました。さらに一帯は学園が悪魔の目撃例があったとして注意を払っていた区域であり、これらの情報から蜘蛛型のディアボロであると判断されました。
 さて、この蜘蛛型のディアボロと目されるモノですが、映像と撃退士の証言から判断する限り目視での観測が不可能である可能性が非常に高いです。また襲撃の際に予兆となる音をよく訓練されているはずの彼らが聞き取れなかったことから、音による観測は精密な機器を用いない限り不可能であると推測されます。無論、その機器は微細な音を拾う関係上大型なものが必要なレベルであり、実戦には不向きであることを伝えなければなりません。
 蜘蛛の巣はドーム状となっており、元々は都営の公園がありました。付近はマンションが並んでおり、蜘蛛の巣は今も拡張され続けているとの報告が入っています。できる限り早い解決が望まれるでしょう。
 非常に難しい案件ですが、都心で生活する者たちの安全のためにも奮って参加していただくようお願いします」


リプレイ本文


 侵入と同時に六人の撃退士は二人ずつに分かれて散開した。天河 真奈美(ja0907)が提案した作戦である。100メートル前後のドームの中で効率よく水を撒くためなのと、スキル『生命探知』を持つ者が二人いるためだ。より効率よく探知するために、六人の撃退士は各々行動する。
「さて、どう出てくるかねっと」
「それよりも破壊優先させて下さいよ、逸鬼さん」
「まぁ……蜘蛛が出てこなかったらな……」
「はぁ……」 
 軽口を叩き合いながらドームの中央へと走るのは月詠 神削(ja5265)と逸鬼(jb6567)のペアだ。二人が負っている役目は中央にある水飲み場、及び消火栓を破壊するためだ。非常に危険の伴う役目のため、足が早い者と、襲われても臨機応変に対応できる者として選ばれた。
「水道発見」
 言うなり、月詠は破壊した。
「蜘蛛の襲撃、なし、か。つまらねぇ」
「いいから早く壊してくださいよ」
 終始軽口を言い合いながらも、二人は役目を忠実に果たし、迅速に破壊することができた。
 天河の他にも生命探知が使える者としてアサニエル(jb5431)がいる。アサニエルは永連 璃遠(ja2142)とペアを組んでいる。アサニエルが生命探知をし、永連が消防署から運良く借りられたホースを使って水を撒く、という役割をそれぞれが担っている。周囲は水によってどんどんぬかるみ、水たまりが出来ていく。すでに持ってきていたポリタンクの水をバラマき終わった後、アサニエルは生命探知を行った。
「どれどれ、あんまりシャイなのも考え物だよ」
 そう言いながら手をかざす。これがアサニエルの生命探知のやり方である。
「どうですか?」
「んー、さすがに広いさね。そう簡単には発見できんよ。まぁ、もう一方もいるし、そのうち見つかるとは思うさね」
 といい、チラリともう一人の探知使いへと目を向ける。天河は目を閉じ、精神を集中させて蜘蛛のいぶりだしを行っていた。
 天河とペアを組んでいる真龍寺 凱(ja1625)もまた同じホースを使って水を撒いていく。彼はカラーボールを割りながら放水することで水に色を加えていた。他にもトリモチと香水も用意している。いつ襲われても大丈夫なように心の準備も出来ていた。
「(けど、相方は不安で仕方ないようだがな……)」
 一見、平静に探知をしているように見える天河だが、唇が若干震えていることに真龍寺は気づいていた。だからと言ってそれを指摘するほど野暮ではない。彼女なりに戦っていることを、真龍寺は知っているのだ。
 また、彼女は探知する際に目を瞑ることを公言している。防御を他の者に任せるのは仕方ないとはいえ、不安に違いあるまい、と真龍寺は思った。
「(ま、いざとなれば……)」
 ある決心をしつつ、淡々と水を撒いていった。


 準備は怒濤の勢いで完了していく。現在、直径100メートルあるドームの内部でぬかるんでいるところはない、というところまで来た。水を撒き終えた後は、各々警戒しつつ、ドームの中を歩き回っていくだけだ。準備の最中、蜘蛛に襲われることは全くなく、おかげで作業は順調に完了した。
 であるからこそ、6人は違和感に気づく。
「静かすぎるさね……」
「そう、ですね。ここまで順調に進んでますが……」
 アサニエルと永連はそう呟き、
「おかしい。水撒きが終わったのに、未だ誰も襲われないとは……奴は好戦的であるはずだ」
「土はぬかるんではいるが、足跡一つ、水たまりには波紋の一つも出てやしねぇ。……なにか、イヤな予感がするな」
 月詠と逸鬼は周囲を警戒しながらも、同じ胸騒ぎを抱く。
「どういうことだ? まさか俺たちがそうこうしている内に、蜘蛛は巣から出て行っちまったってんじゃねぇだろうな?」
「そんなはずは……水を撒きながら探知もしてましたし。でも、実際に探知には引っかかってない……一体どこに? アサニエルさんと一緒に探知していたから、ドームの中はもう調べ尽くしてるはずなのに……。少なくとも地上には――あ!」
 天河はハッとし、顔を上げる。
 奇しくも、アサニエルもまた頭上に手をかざしていた。
『天井!』
 二人が同時に叫ぶ。
 瞬間、真龍寺と永連はホースを天井に向け、放水した。
「現れやがったぞ!」
 水を弾き、着色されて蜘蛛の全貌が露わになる。
 蜘蛛の大きさは全長5、6メートルはあろうか。八本の鋭い爪のついた足、口元生えている牙は1メートルはあるだろう。そんな大きな蜘蛛が天井から足を離し、撃退士めがけて飛びかかってきているのだ。
「し、審判の鎖!」天河は衝動的に虚空から鎖を呼び出した。
「天河! ッチ!」 
 天河の突発的な行動に舌打ちしながらも、アサニエルはここがチャンスであると判断した。反応が遅れたことを利用して、挟む込むように審判の鎖を放つ。二方面からの時間差攻撃だ。これならば捕らえられる! と誰もが思ったが、蜘蛛の思わぬ行動に驚愕した。
「ハリウッド映画じゃないさね!」
 蜘蛛は体勢を変えて糸を打ち出した。打ち出された糸が壁にくっつくやいなや、振り子運動によって垂直に落ちていくだけの軌道は旋回の形に変わった。蜘蛛は空中において方向転換を行ったのだ。審判の鎖は不発に終わり、遠心力が乗った勢いのままに再び襲いかかってくる。
「回避!」
 そのかけ声に反応し、狙われた天河と真龍寺はその場から跳躍する。
 蜘蛛は見た目とは裏腹に柔らかく着地し、直後再び大きく跳躍した。
「――っぐ!?」
 襲われたのは真龍寺だ。鋭い爪が四方から襲いかかり、真龍寺の全身が血に染まっていく。
「クソが!」
 拳を振るう。が、それが当たることはなかった。蜘蛛は細やかに跳躍を繰り返し、真龍寺の死角に潜り込んでは攻撃を繰り返す。爪による攻撃は鋭く、致命的な一撃は受けていないものの、真龍寺は防戦一方にならざるを得なかった。奇しくもそれは真龍寺が行おうとしていたヒットアンドアウェイの戦法であった。
「クソがぁぁぁあああ!」
 一方的な攻撃に真龍寺は吠える。だが攻勢へと転じられない。
 そこに飛び込んできた影がいた。
 月詠だ。
「ッシ!」
 彼はワイヤー状の武器を振るい、蜘蛛めがけて攻撃を仕掛ける。
 しかし、
「クソ!」
 直前、再び蜘蛛は不可視の存在と化した。目標を見失い、ワイヤーは空しく虚空を薙ぐ。近くに真龍寺がいたために十全に攻撃が発揮できていなかったのも事実だが、しかしそれでも今のタイミングで攻撃を当てられなかったのは厳しかった。
「これじゃ、アイツにも……!」
 悔しそうに顔を歪め、月詠はワイヤーを広範囲に振るう。しかし、手応えはなかった。『挑発』と『注目』のスキルを使えど、蜘蛛は月詠に攻撃を仕掛ける様子がなく、また膝をつき呼吸が荒い真龍寺にも攻撃を仕掛ける様子がない。
「落ち着け! アサニエル、天河、生命探知!」逸鬼が叫ぶ。彼は周囲を見渡し、ぬかるんだ土を観察して蜘蛛の場所を特定しようとする。
 しかし、
「やってるさね! でも、どうにも動き回ってて、捉えきれないさね!」
「わ、私もです! あっちこっち行ったり来たりで……!」
「チィ!」
 グショグショになった土が時折大きく弾ける。しかしそれは断続的で、どうやら踏み場として壁も利用しているようだった。
 生命探知ができる二人の撃退士は目をせわしなく動かし、懸命に蜘蛛を捉えようとした。捉えよう、捉えようと二人は生命探知のスキルに集中していく。
 そこに……隙ができた。
「――え?」
 次に天河が蜘蛛を捉えた時、蜘蛛は――天河のすぐ後ろにいた。
「天河!」
 察知したアサニエルが天河の名を呼ぶが、蜘蛛の一瞬の隙を突いた絶妙なタイミングは、最早天河は反応することもできないであろう、と彼女を思わせるのに十分なものであった。
 ――ズドン、と目を背けたくなるような、重たい音が響く。
 しかし、その光景に誰もが目を見張った。
「……え?」
 振り返った天河は、目の前の光景に声を詰まらせる。
「な、んで……」
「勘違い、するなよ……。コイツは自己犠牲じゃねえ。俺の自己満足だ……!」
 真龍寺が蜘蛛の攻撃を受け止めていた。蜘蛛はその牙を用いて攻撃したようであり、真龍寺の真龍寺の腹部から背部にかけて牙が貫通していた。その先端からは血が滴っている。
「し、真龍寺さん、ち、血……!」
「なァに……こんなもん屁でもねぇよ……。それより、さ……」
 彼は全身から血と汗を流しながらも、ニヤァと不敵に笑った。
「確か蜘蛛の呼吸器官ってのは……腹にあったよな。……悶絶しやがれ……!」
 真龍寺は蜘蛛の頭をガッシリと掴みながら、強烈な蹴りを蜘蛛の腹部にへと喰らわせた。
 ――ピギィィィィィィィィ!
 蜘蛛は激痛からか、断末魔を上げながら身を捩らせる。蜘蛛が暴れることにより、彼の傷口も広がるが、真龍寺は痛みに呻き声は上げるものの、蜘蛛の頭をガッチリと抱え、己の血を塗りたくった。
 直後、真龍寺は叫んだ。
「今だ、やれぇぇぇええええええ!」
「よくやった!」
「任せろ!」
 駆けつけた月詠と逸鬼が飛び込み、透明化しつつある蜘蛛に攻撃を加える。火の粉のようなアウルを撒き散らしながら逸鬼は胴体に一撃を加え、月詠の『神速』によって威力が増した斬撃により、蜘蛛の腹部から血が噴出する。
 しかし、蜘蛛はまだ生きている。どころか、必死に逃れようと真龍寺に鋭い爪を突き刺す。それでも真龍寺は決して蜘蛛を逃がさず、壮絶な笑みで蜘蛛を真っ正面から睨みつけていた。
「天河! アサニエル! 俺ごと縛れェ!」
「え、で、でも……!」
 戸惑う天河。そこに響く声。
「審判の鎖!」
「アサニエルさん!?」
「いいからアンタもやりな! 男の意地を無駄にするつもりかい!?」
「――ッ! ……し、審判の鎖!」
 二つの鎖が、蜘蛛と真龍寺を縛り上げる。真龍寺は「それでいい」とばかりに口の端をつり上げる。
 蜘蛛は逃れようと一層もがく。が、最早動くことすら叶わない。その間にも月詠と逸鬼が連撃を加えていく。
「闘気解放!」
 そして中性的な声が響いた。静かだが、秘められた闘志を感じさせる声に、真龍寺はフッと笑った。
「チェックメイト、だな」
 止めに、永連が蜘蛛の胴を切断した。
 蜘蛛は耳から脳が揺さぶられるような絶叫を上げ、絶命した。


 アサニエルが手を周囲にかざしながら、蜘蛛の死体にまで歩いていく。もう一匹いるかもしれない、ということで、月詠、逸鬼、永連も警戒しつつドーム内部を巡回している。
「……もう一匹は、いないようだね」
 三人が歩き回るのを止め、互いに頷いているところで、アサニエルは手をかざすのを止め、蜘蛛の死体を見やる。
「全く……無茶苦茶な男さね」
 蜘蛛の頭に抱きつくようにして、真龍寺は倒れていた。
「し、真龍寺さん!?」
「慌てるんじゃないよ、天河。単に失神してるだけさね。あの絶叫を間近で浴びたんだからそりゃ気絶もするわね。とはいえ出血が多い。手当したいから牙から抜くのを手伝っておくれ」
「は、はい」
 アサニエルと天河の二人によって、真龍寺は牙から引き抜かれる。直後、抑えていたものがなくなり、真龍寺の腹部と背部から血が流れ出す。全身傷だらけの真龍寺だが、牙の一撃は一際ダメージが酷かった。
「わ、わ、血が!」
「だから慌てるんじゃないよ。あんたもヒール使えるだろ?」
「あ! は、はい!」
 慌てて、天河は穴の空いた背部にヒールをかける。その表情は真剣だ。
「全く……そう簡単にくたばるようなタマじゃないよこいつは」
 アサニエルは苦笑しながら、腹部にライトヒールをかける。損傷がヒドいのは侵入口である腹部よりも激突の衝撃が走った背部の方だ。蜘蛛が痛みで暴れた時も、腹と頭をくっつけるようにして固定していたために、背部の方がより傷口が広がっている。傷口が大きい分、内部にヒールが届くのは背部の方だ。細胞に直接影響するため、余り過剰に施すとそれはそれで問題となる。腹部はライトヒールで十分であると彼女は判断した。
 ふと、場にそぐわない花の香りがアサニエルの鼻腔をくすぐった。
「なるほど、これがタネかい」
 真龍寺の懐から砕けた香水の瓶を取り出す。
 探知技能を持っていない真龍寺が蜘蛛の場所を瞬時に特定し、天河を庇うことができたのは蜘蛛が匂ったからに違いない。真龍寺は事前に、探知の際に一番隙を見せる天河の側にまで近づき、一番匂った時に飛び出したのである。蜘蛛は姿は消せど、匂いは消せなかったようだ。
 チラリ、真龍寺の顔を見て、一層苦笑を深める。
「案外、気絶したのは絶叫のせいじゃなくて、安心しきって気を緩めちまったからかもしれんね」
 失神している真龍寺は――穏やかな笑みを浮かべていた。
「ま、とりあえず、敵討ち完了ってね」
 フフフ、とアサニエルは笑った。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
天河 真奈美(ja0907)

大学部6年91組 女 アストラルヴァンガード
Kill them All(男限定)・
真龍寺 凱(ja1625)

大学部5年145組 男 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
逸鬼(jb6567)

大学部5年102組 男 鬼道忍軍