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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/12


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「えーっ! ゴッド荒石が1人で悪魔討伐に!?」
 親友で斡旋所スタッフでもある伊勢崎那由香(jz0052)から話をきくなり、綿谷つばさ(jz0022)は声を張り上げていた。
「バ、バカ! あいつ最下級のディアボロ相手に重傷負わされるくらい弱いんだぞ? 何で行かせたのよ!?」
「それが‥‥その時たまたま窓口にいたスタッフの子がまだ新人さんでなぁ。事情もよく知らないまま、『何だか怖くて強そうな人だから』ってOK出してしまってんねん」

 ゴッド荒石――ただでさえ変わり者が多いとされる学園撃退士の中でも、極めつけといっていいほど変人の1人。
 学園に来た頃からどういうわけか「自分は真の神であり、天魔襲来によって乱れたこの世を救うべく生まれた救世主」という妄想に取り憑かれ、自ら人生相談クラブを立ち上げる一方で信者(ファンクラブ会員)を増やすべく日々奮闘する謎の男。
 もっとも撃退士としての実力は限りなく初心者に近いが。
 生徒会の方でも彼の言動については把握していたので、学内に複数存在する各斡旋所にも密かに回覧を回し、「こいつが来たら『迷子のペット捜し』『ご町内の清掃活動』など当たり障りのない依頼をあてがうように」との通達まで出している。

 ところが四国の戦乱など日本全国で天魔との戦いが激化するさ中、斡旋所によっては人手不足故の手違いなどもあり、とある新米スタッフがうっかり悪魔討伐の依頼を斡旋してしまったらしい。
「出発したのはいつ!?」
「ええと、現地に転送されたのが2時間くらい前やな」
「それじゃ‥‥今から助けに行っても間に合わない‥‥」
 つばさはハァ〜とため息をついて肩を落とした。
「あんな奴でも、もう二度と会えないと思うと寂しいのだ‥‥」
「つばさちゃん、泣いたらあかんで。ゴッドは望み通りホンマもんの神様になったんや‥‥正確には仏様やけど」
「うん‥‥せめて安らかに眠れるよう、お葬式だけでもあたし達でなんとかしてやろ」
 って、もう死んだこと前提に話が進んでいる。
「せやなあ〜」
 いったん斡旋所の奥へ入った那由香は『セレモニー同好会・おしながき』とタイトルラベルの貼られた分厚いファイルを手に戻って来た。
 さすがは久遠ヶ原学園。揺り籠から墓場まで、クラブ活動や生徒が起業したサービス業だけで至れり尽くせり、一通り賄えてしまう。
「ホレ、海への散骨からゴージャスな学園葬までよりどりみどりやで〜♪」
「じゃあこれなんかどうかな? 3千久遠のエコノミーコース。FRP製の墓石にミニ骨壺もおまけしてくれるんだって」
「つばさちゃん、それペット葬儀のコーナーや‥‥」
 その時、斡旋所の外から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「‥‥何だろ?」

●斡旋所の外
「きゃああああ! バケモノ!!」
「うわっ、危ねぇ! 下級ディアボロがなぜこんな所に!?」

 建物の外に出たつばさたちの耳に、遠くから口々に叫ぶ生徒たちの声が届く。
 同時に、校庭の一角からドドドドド‥‥と地響きと土煙を上げ何者かが走って来る。
「うわぁ〜〜! 助けてくれぇ〜〜!!」
 ボロボロの道着をまとった身の丈2m近い筋骨逞しい大男。
 伸び放題の髪を後ろで縛り、鬼瓦を面長にしたようなブサ‥‥いや容貌魁偉の巨漢。
 それはついさっきまで死んだと思われた、というか死んだことにされかけていた――
「ゴッド!? おまえ生きてたのか」
「おおネコミミ娘か! ちょうど良い、俺様を助け‥‥」
「このバカヤロー、心配させやがって!」
 嬉し涙を浮かべたつばさが、思わず正面から拳でどやしつける。
「――ぶごっ!?」
 ちょうどカウンターで鳩尾に入り、呼吸困難に陥ったゴッドの巨体はその場で蹲った。
「しかし、よく生きて帰らはったな〜」
 那由香がしゃがみこんでゴッドから事情を聞こうとした、その時。

「ゴッドさん、待って〜!(はぁと)」

 地響きと土煙を上げ、もう1人の人影がこちらに走り寄って来た。
 ゴッドに劣らぬ大男である。
 褐色の肌にボディビルダーもかくやというマッチョボディー。
 アフロヘアに口ひげを立てたその顔は、30年くらい昔の男性化粧品のイメージキャラのごとくくどい。
 背中から広がる黒い翼、先端が鏃のようになった短い尻尾から見て、まず悪魔に間違いないだろう。
 それはそれとして、身に着けているのが黒ビキニパンツ一枚というのはさすがに如何なものか。

「あんた誰や?」
 那由香の問いかけに、立ち止まった悪魔はなぜかググ〜ッと力みマッスルポーズを決めた。
「あら〜ん、自己紹介がおくれました。アタシ、今日からはぐれ悪魔として学園のお世話になりますサヴドゥル・ボリャシアス‥‥ええと長すぎるので、お気軽に『サブ』とお呼び下さいね♪」
 バチっとウィンクすると、特に意味もなく別のポーズで筋肉を誇示する。
「サブ」が差し出した学生証は本物だ。つまり彼も立派に久遠ヶ原の生徒ということになる。
「アタシ、元々人間から魂を奪うなんて野蛮な真似は嫌いだったのよね〜。それでも上司の命令で人間の街へ派遣され、渋々ながら偵察してる、その時に‥‥」
「その時に?」
「あらゆる点でアタシの理想そのものの撃退士様が現れたの。ああ、まさに運命の出逢い! 前世からの赤い糸で小指同士が結ばれたそのお方の名前は――ゴッド荒石様!」

 要するにたまたま討伐に出向いたゴッドに一目惚れしたサブはその場ではぐれを決断。
 逃げるゴッドを学園まで追いかけ、その勢いではぐれ悪魔の認定と入学手続きまで済ませてきたのだという。

「お、おまえら何してる? 早くそのバケモノを‥‥いや悪魔を退治しろ! 俺様の目の前から永遠に消し去ってくれ〜!!」
「あん♪ ゴッド様ってツンデレ〜。恥ずかしがらなくてもいいのよ? 愛の前には性別や種族なんか関係ないんだもの(はぁと)」

 サブの話をじっと聞いていたつばさと那由香が、ゴッドの方に振り向いた。
 それはそれは、良い笑顔で。
「よかったなゴッド! ようやくおまえにも理解者が現れて☆」
「ホンマや〜。こら赤飯炊いて祝わなアカンで〜♪」
「はぁ? な、何を言ってる? 俺様にはそんな趣味は――」
「あ〜〜もう我慢できない! ゴッド様ぁ〜〜アタシの愛のベーゼを受け取って〜!」
 ついに自制が利かなくなったか、サブは翼で舞い上がるやその場でゴッドを押し倒した。
「ひぃぃぃ!? 依頼だ、依頼を出すっ! 誰か俺様を助けてくれ〜!!」

「別にこのままでも全然問題ないと思うけど‥‥まー依頼なら仕方ないのだ」
「せやな」
 つばさと那由香は顔を見合わせ、ゴッドの依頼を告知すべく斡旋所にゆっくり引き返す。
 その背後から、
「い、嫌だぁ! 助けて! なぜ神である俺様がこんな目に‥‥アッー!!」
 まるで断末魔のようなゴッドの悲鳴が響いてくるのであった。


リプレイ本文

●ガチホモ嵐
(たまにこういうイロモノが出てくるよな‥‥割と学園の将来が不安になってくるのは俺だけか?)
 現場の惨状(?)を目の当たりにした向坂 玲治(ja6214) は、もはや依頼の成否以前の問題として学園の将来を深く憂えざるを得なかった。
「なんつーか、こういう悪魔とか天使は見飽きたけれど、需要とかあんのかなー」
 呆れたようにぼやくラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 定期的に涌いてくる筋肉天使だの、がちほもぉのディァボロとか春でもないのに色々お目にかかるのを見るにつけ、天魔界の社会情勢に思いをはせるラファル。
(案外向こうも貧困問題やら、孤独死問題で人間界同様に問題抱えてんじゃないかな?)
 だからといって別に同情する気にもなれないが。
「いや、ホント、もう、全く、興味が無い‥‥」
 その隣で額に手を当てているのは佐藤 としお(ja2489)。
 そもそも何でこんな依頼を受けてしまったのか今となってはさっぱりだが、受けた以上はどうにかしなければなるまい。
(……まてよ、特にどうにかしないといけない訳でもないような気がしてきた)
 撃退士や悪魔という点をひとまず忘れれば、要は男同士のよくある(かどうか知らないが)痴情のもつれなのだ。
 当人同士の個人的問題として放置しておけばいい。
 はい、これにて一件落着!

 ‥‥ということにしたいのは山々だが、仮にも学園内の一角で公然と「アッー!?」だの「ウホッ!」だのやられては教育上誠によろしくない。
 現に校庭の少し離れた場所には小等部の生徒達が集まり、
「なー、あいつらナニやってんの? プロレスごっこ?」
「あ、これ知ってる! ねーちゃんが持ってる薄い本にあんな漫画があったー!」
 などといいつつ物珍しげに見物している。
 やはり学園の風紀上ゆゆしき問題として、然るべき措置を講ずるべきであろう。

 依頼参加者の中にはとしお達の様にどん引きする者がいる一方で、異なる反応を示す者もいる。
「なるほど、片思いの一方攻めですか‥‥悪くありません。むしろ良いですわ」
 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は青い瞳を潤ませながら頷くと、早速取り出したメモ帳に逐一情報を書き込みつつ状況把握に務める。
 パタンとメモ帳を閉じると遠い目で空を見上げ、
「この学園にまた一つ、薔薇の園が生まれる予感‥‥」
(サブくん‥‥あたしには分かるわ、その想い)
 熱い感動を胸に秘めるは歌音 テンペスト(jb5186)。
 花も恥じらう高等部の美少女だが、いうまでもなくガチ百合である。
(性の対象は違えど、ここまで言動が自分に近い人がいるなんて‥‥!)
 依頼主である綿谷つばさ(jz0022)の方へ振り向き、
「ゴッドさんとは親しい間柄と聞いたけど、それってもしかして恋? 彼が違う世界に旅立っても大丈夫?」
「ぜーんぜん。親しいっていうより、単なる腐れ縁なのだ」
「なら‥‥お手伝いしてくれるかな?」
「OK♪」
 それさえ聞けば充分。
 もはや2人の愛を隔てる障害は一切存在しない――歌音的には。

「当事者のはぐれ悪魔はガチホモ」と聞いた紺屋 雪花(ja9315)は、万一の用心として光纏で男の娘化、さらに魔装活性うさ耳ミニスカ燕尾服ニーハイな状態で参上した。
(この姿ならうっかり惚れられる事もないだろう‥‥フッ、俺の美しさは時として罪だからな‥‥)
 一瞬サブの視線が雪花に向けられるも、案の定男の娘には興味がないのかすぐ何事もなかったかのようにゴッドへの攻めに戻る。
 むしろ近くにいるとしおや玲治の方が引いているように見えるが、それはおいといて。
「アイドル見習いらしく、愛を救いにきたよー」
 不穏な空気にはお構いなく、藍那湊(jc0170)も颯爽と登場。
 自らアイドルを名乗るだけあり外見は胸ぺったんの美少女だが、彼もれっきとした男子である。
 サブは再び顔を上げるが、ショタ系もアウトオブ眼中なのかすぐゴッドへ(ry

●神も歩けばホモに当たる
「まあ何にしましても斡旋所前でこれ以上騒動が起こるのもなんですしね。場所を移しましょうか」
 参加者の面子が揃ったところで、しごく全うな提案をしたのは廣幡 庚(jb7208)。
 彼女がこの依頼に参加したのは単に「面白そうだから」という動機だが、その分事態を第3者として冷静に捉えている1人かもしれない。

 だがしかし、興奮の絶頂に達している2人(主にサブ)を如何にして引き離すか?
「イッツ・ショウタイム!」
 雪花はスキルを交えつつマジシャンステッキでマジックを披露。
 伊達に燕尾服を着てきたわけではない。
 レースのハンカチからさっと花束を取り出すや、
「この花は可憐なレディへ‥‥」
 こちらに気付いたサブへと恭しく差し出した。
「アラァン♪ レディだなんて☆」
 ただでさえクドいサブの顔がポッと紅く染まり、両手を頬に添えウットリと花を見つめる。
「なにかお困りですか? 私達で力になれるなら喜んで協力いたします」
「届け、その想い!」
 いつの間に移動していたのか。
 斡旋所2階の窓からしゅばっと飛び出すや、体を丸め回転しながら降下した歌音が颯爽と着地‥‥に失敗してドベっと地面に激突する。
「アナタ、大丈夫?」
 サブは腰を屈め、紳士的に助けの手を差し伸べた。
 その物腰に一片の下心も感じられないのは、まさにホモの鑑というべきか。
「どうやらあたしと同じベクトルのキャラのようね‥‥」
 顔を上げた歌音は、流れる鼻血も気にせず不敵(腐的)な笑みを浮かべた。

 その隙を見て、庚はゴッドの負傷を治療するべく素早く駆け寄った。
 といっても特にケガらしきものはなく、着ている道着がボロボロなのは元からのようだ。
 ただし心に負った傷は深いらしく、顔や首筋のあちこちにサブのキスマークを残したまま、両目は宙を泳ぎ呆然としている。
(こればかりはヒールでも癒せませんね‥‥)
 そう悟った庚はとりあえずゴッドの巨体を引きずりサブから引き離す。

「まずは話し合おう」
(そうだお互い言い分があるだろう、それを聞かないとこの先健全な‥‥そうじゃなくてもお付き合いは出来ないだろう?)
 としおはそう思い、マッチョ悪魔と対話を試みた。
「サブさん、新たな学園の仲間として歓迎しますよ。それはともかく、これから久遠ヶ原で生活するからには住居とか色々考えなきゃいけないこともあるでしょう?」
「そういえば皆さんどこで生活してますの?」
「普通は学生寮ですね。マンション形式から一戸建てまで、生徒により様々ですが」
「ンマッ学生寮! そこにアタシとゴッド様の燃ゆる愛の巣が誕生するのね〜♪」
 既にゴッドと同棲する気満々である。
 ともあれ立ち話も何だから――ということで、撃退士達の一部はサブを学園のカフェテリアへと案内。
 残りの者は意識朦朧としたゴッドを担ぎ上げ、彼が運営する「人生相談クラブ」の部室へと運んでいった。

●┌(┌^o^)┐≡└(┐卍^o^)卍┗(^ω^)┛
「サブさんはとても心の優しい方なのですね。上司の非道に従うしかない苦悶の日々、その美しい心に傷を入れる行為‥‥さぞお辛かった事でしょう」
 魔界での悩みからゴッドとの出逢い、そして学園に来るまでの経緯をサブから聞いた雪花はティーカップを置いてしみじみと慰めた。
「貴方の愛情を否定するつもりは毛頭ございません。むしろ全力で応援します。ただ、相手の方は突然の事で戸惑っておいでのようですし、もう少しお時間を下さいませんか。今の貴方の愛や全てをあの方が受け止められる様にする為に」
「‥‥そうね」
 自重を求める庚の言葉に、サブも涙ぐみハンカチを目に当て頷く。
「思えばアタシの同族がこの星の人達に散々酷い事したんですもの‥‥ゴッド様に嫌われても仕方ないわ」
(いや、この件に関しては全然関係ないと思う‥‥)
 その場にいた撃退士全員がそう思うが口には出さなかった。
「ツンデレには素直になる時間とタイミングが必要なのよ」
 歌音はガチ百合の立場から恋愛指南。
「彼と同棲してめくるめく官(ピーッ!)したいならまずは複数でのデートから。そして暗くなり人気が少なくなってからテイクアウト! それが清純な交際だと確か小学校の保健体育で習った記憶が」
 近頃の保健体育は実に奥が深い。
「とにかく同棲は気が早いですよ! 僕なんて恋人とは手をつないだだけで爆発しそうだというのに‥‥」
 湊も自らの体験を交え説得する。むろん彼の場合はノーマルだが。
「はじまったばかり(でもない)の2人ですし、距離感は大事だと思いますっ」
「愛って耐えることなのね――ならアタシは何時までも待つわ。ゴッド様が私に振り向いてくれるその日まで」
 そこまで聞いた撃退士達は互いに目配せし合った。
 とりあえずサブの方は(ゴッドさえ当てがっておけば)人畜無害、学園に置いても何ら問題はない。
 だとすれば――後はゴッドの決断あるのみ!

 一方、こちらは「人生相談クラブ」部室。
「――はっ!?」
 我に返ったゴッドはそこが自分の部室であることに気づき、
「ふぅ、悪い夢を見た‥‥」
「夢オチで済ませようたってそうは行かないぞ」
 玲治の声にギョッとして周囲を見回すと、既にズラリと撃退士達に囲まれていた。
「ゲェッ! 貴様らは‥‥!?」
「ともあれ、話は聞かせてもらった」
 唖然とするゴッドの肩に、玲治はポンと肩を置く。
「真の神なら、どんな相手でも受け止められるような度量を当然持ち合わせてるよな」
「あ、いや、それとこれとは‥‥」
「良く知りもしない相手の事を否定するような、肝っ玉が小さいやつが救世主なわけないよな」
「むう‥‥」
 そこまでいわれ、「神」としてのプライドと個人の性的嗜好がゴッドの中で激しく葛藤しているらしい。
「なるほど‥‥」
 スマホに耳を当て、カフェテリアのサブ対応班から報告を受けていたとしおが、にっこり笑ってゴッドに振り向いた。
「朗報ですよ! サブさんは本来受け専だそうです。今はゴッドさんが慣れていないようだから攻め役を務めているだけで」
「うわあぁぁぁ!!」
 いきなり生々しい話題を振られ、先刻の悪夢を思い出したゴッドが頭を抱え悲鳴を上げる。
「ファーストコンタクトの鉄則にもあるだろう。交渉が出来なければ食われてしまえと。お前が曲がりなりにも神を名乗るなら広い心で受け入れてやるこったな」
 往生際の悪いゴッドに業を煮やしたラファルが、引導を渡すがごとく告げた。
「そう邪険にしなくても良いんじゃありません? はぐれ悪魔になってまで貴方を追いかけてきたのになんだか可哀想だわ‥‥」
 シェリアは情に訴え切々と語りかける。
 もっとも本音では、
(一目惚れした想い人のために全てを捨てる‥‥萌える展開だわ)
 と別の方向に盛り上がっているのだが。
「そうはいわれてもな‥‥」
「聞くところによればゴッドホモ石さんは人生相談なるクラブを管理しているらしいですね。率先して他人に道を示してあげる人が、どうして自分を好く人を拒絶するんです?」
「何か名前違ってないか!?」
 と、その時。

『荒石よ! 神を名乗るなら何故見た目や性別に拘る!?』

 ゴッドの頭の中に何者かの声が響いた。
「だ、誰だ!?」
 他の者には聞こえない。(ああ、ついに壊れたか‥‥)と憐れむだけで。
『他にも様々な例があるが太陽神アポロンと最高神ゼウスの子ヒュアキントスとの愛を知っているか? 彼らは共に男だ』
(天のお告げ!? そ、そうか‥‥これこそ俺様が神である証!)
『そしてゼウス! 愛する者を手にする為に彼が化けたのは見目麗しい者ではない! 牛! 雨! 雲! 人ですらない! つまり! 神は見た目に惑わされないという事!』
 実をいえばカフェテリアから移動してきた雪花が廊下から忍法「霞声」でこっそり話かけているだけなのだが、ゴッド本人には「天の声」に聞こえたようだ。
「ぐ、むむむ〜‥‥」
 腕組みして何やら悩んでいたゴッドだが、やがて意を決したように顔を上げた。
「俺は救世主、真の神‥‥神は退かぬ! 恐れぬ! 逃げはせぬ! ならばあのはぐれ悪魔ともう一度会ってやろうではないか!」

●愛と凄春の旅立ち
 既に陽も傾き、茜色に染まった学園の校庭。
 それぞれ撃退士達に見守られたゴッドとサブが、夕日を浴びて再会を遂げる。
「ゴッドやおいしさん、貴方も男なら覚悟を決めなさいな♪」
 シェリアにトンと背中を押され、ゴッドもついに腹を括ったか。
「聞けっ迷える悪魔よ! 俺様は真の神にして救世主! 貴様の煩悩もこの胸で受け止めてやろうではないか!!」
「キャ〜〜! ゴッド様ステキィ〜〜!!(はぁと)」
 どどどど‥‥と地響きを立て、黒ビキニブリーフ一枚のガチホモマッチョ悪魔が駆け寄って来る。
 最初は威厳ある表情だったゴッドの顔も、ひたすらクドいサブの笑顔が迫ってくるに連れみるみる血の気を失い――。
「うわぁぁ! やっぱり嫌だ〜!!」
 踵を返して逃げ出そうとしたのとほぼ同時に、湊が投げた紐付きの苦無が足に絡みついた。
 湊としては「うっかりつまづいたゴッドをサブが咄嗟に助ける」というシチュを演出したかったのだが‥‥。
「あれ?」
 結果的に、バランスを崩したゴッドはそのままサブの分厚い胸の中に倒れ込む格好となった。
「イヤン♪ ゴッド様ったら積極的! ん〜ジュテーム! ジュテーム!」
 何か叫ぼうとしたゴッドの口をサブの唇が塞ぎ、そのままぶちゅ〜とディープキス。
 ジタバタ暴れるゴッドを赤子の様に抱え上げ、そのままサブの逞しい背中が校舎裏の山の中へと消えて行く。

「終わりよければ全てよし、か‥‥」
 玲治が呟けば、
「救世主である貴方のいけに‥‥献身は(学園内限定で)広く讃えられるでしょう」
 庚も遠くを見るような目で頷く。
「アディオスッ!!」
「いいコンビになるかもなお2人のこれからを応援するよー」
 としお、湊は手を振って2人の旅立ちを祝福。
「そう、決して同性間の恋愛はおかしなことじゃない‥‥あたしとつばさちゃんのように!」
「え”ー!?」
「あたしの変‥‥いや恋を受け止めて!」
 歌音はどさくさ紛れにつばさを押し倒していた。


 その後、学園側から山中のとある山小屋がゴッドとサブ共用の「寮」として提供された。
 学園内からゴッドの姿も消え「人生相談クラブ」も元の物置に戻された。
 数ヶ月後、山奥に分け入った登山同好会の生徒がゴッドとサブらしき生き物を目撃している。
 腰蓑1つを身につけ、焚き火を囲んで仲睦まじく川魚を焼いて食う2人は、それはそれは幸せそうであったという‥‥。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
美貌の奇術師・
紺屋 雪花(ja9315)

卒業 男 鬼道忍軍
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
星天に舞う陰陽の翼・
廣幡 庚(jb7208)

卒業 女 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA