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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/20


みんなの思い出



オープニング

 九州北東部に突き出た国東半島、その北部の付け根付近にある豊後高田市は人口こそ2万余りと少ないが、この地域における最大の人類側都市であり、対天使軍の最前線の1つでもある。
 天使アムビルとその使徒ヒルコ(jz0124)、巨竜ゲリュオンの侵攻を退け市街地防衛に成功してはや半年。
 戦いに勝利したとはいえ、依然として市の東部に存在する大天使ベテルギウスの両子山大ゲートから送り込まれるサーバントの襲撃は後を絶たず、南部の杵築市を中心とした広い地域は「杵築の独眼竜」こと侍かぶれの天使ハイデルの占領下にある。

「幸いハイデルの軍勢に今のところ北上の気配は見られません。彼のゲートは南に離れた杵築城にあり、結界の外側で新たに占領した地域の統治に力を注いでいる模様です」
 豊後高田市撃退署の会議室で、情報担当の国家撃退士が報告した。
「‥‥となると、やはり問題は東部の天使軍の動向だな。その前に‥‥神志那署長の安否に関して何か新しい情報は?」
「いえ。残念ながら‥‥」
 幹部署員の質問に、撃退士は悄然とかぶりを振った。

 豊後高田市撃退署長、神志那麻衣(かみしな・まい)。
 巧みな作戦指揮で先の戦いを勝利に導いた功労者であるが、久遠ヶ原学園からの援軍も含めた撃退士部隊が出撃中に使徒・厄蔵(jz0139)が撃退署を奇襲、彼女を拉致されてしまった。
 当初、撃退庁は天使軍が麻衣を人質にして何らかの「要求」を突きつけてくるものと考え警戒していたが、奇妙なことにその後も敵側からは何の音沙汰もなかった。
「戦死したアムビルの報復」という見方もあったが、そもそも厄蔵が撃退署を襲った時点でまだあの戦いの決着は着いておらず、彼が何の目的で麻衣をさらったのかさえ未だに不明だ。
 本庁からは神志那署長の救出が絶望的な以上、彼女を「戦死」扱いとし速やかに新署長を任命するよう促されていたが、現地の撃退署ではこの指示に承服できない者も多く、副署長を臨時の「署長代理」とすることで未だに形の上では麻衣を「署長」として扱っている。

「まさか、ヒルコの身代わりに使徒化されたなどということは――」
「あり得ません!」
 副署長の言葉に、撃退士達が口々に叫んだ。
「撃退士としては引退したといえ、神志那署長がアウル能力者であることに変わりありません。そしてアウル能力者が天魔による感情や魂の吸収に極めて強い抵抗力を有していることは署長代理もご存じでしょう?」
「うむ、確かにな」
 これには副署長も同意せざるを得ない。
「だが、脅迫や洗脳で『協力者』にさせられている可能性ならあるのでは?」
 別の幹部署員がいいにくそうに切り出した。
「たとえそうだとしても、神志那さんに限って我々人類を裏切るなんて考えられません。もしそんなことを強制されたとすれば、おそらくあの人は‥‥」
 自決するだろう――という言葉を、撃退士の1人はすんでの所で呑み込んだ。
「神志那署長の件はさておき‥‥あの防衛戦から半年が過ぎて天使側もそろそろ何らかの動きを見せる頃だ。特に両子山方面への偵察を強化する必要はあるな」

 豊後高田市東部とベテルギウスの両子山ゲートの間には、かつてアムビルが管理する中規模ゲートが存在した。主を失いゲートは放棄されたが、すぐに消滅するわけではなく、しばらくは空間の歪みから野良サーバントを生み出し続けるだろう。
 そして天使側がいつまでもこのゲート跡地を放置しておくとも考えにくい。

「本署だけではとても人手が足りませんね‥‥久遠ヶ原に応援を要請すべきでしょう」

●久遠ヶ原学園
「豊後高田市の偵察依頼‥‥参加したいんですが」
 斡旋所の窓口におずおず顔を出した夜見路沙恵(jz0303)の顔を見て、オペレータ兼雑用係の伊勢崎那由香(jz0052) は驚きに目をまるくした。
「沙恵ちゃん!? うわぁ、久しぶりやなぁ。元気にしとった?」
「はい、おかげさまで‥‥」

 ヒルコ(夜見路沙奈)が死亡して以来、沙恵を巡る状況はめまぐるしい動きを見せていた。
 まず国東における撃退士人質事件で救出された1人、原田吾郎がマスコミに対し沙恵の父・夜見路茂明ディアボロ化事件に関する真相を洗いざらいぶちまけたのだ。
 夜見路姉妹への罪悪感か、それとも仲間達に見捨てられた意趣返しなのかは分からない。
 さらに署長の麻衣が(拉致される直前に)撃退庁に提出していた意見書もあり、今度こそ撃退庁も重い腰を上げざるを得なかった。
 再調査委員会が設置され、吾郎を含む5人の撃退士や当時の上司達が召喚され連日「尋問」といってよいほど厳しい事情聴取が続けられた。
 その結果、該当依頼が使徒ヒルコを誕生させた直接の因果関係は否定しつつも、『速やかに殲滅すべきディアボロを徒に時間をかけて虐殺した事は被害者たる夜見路氏とその遺族を侮辱し、ひいては撃退士に対する社会的信用を著しく貶めた不当な行為である』との見解が公表され、上司も含め事件の関係者たちは全員降格、減俸、あるいは左遷などの内部処分を受けることとなった。
 沙恵に対しては謝罪と共に多額の示談金が提示されたが、彼女は謝罪を受け入れつつも示談金の受け取りは頑なに辞退した。
「あたしは誰も恨んでませんし、訴えるつもりもありません。このお金は‥‥天魔災害でご家族を亡くした人たちのために役立てて下さい」

 そして半年。
 沙恵は久々に学園撃退士として斡旋所に姿を現した。
「ホンマにええんか? 依頼は日本中から出てるんやで。無理に辛い思い出のある国東へ行かんでも‥‥」
「もう大丈夫です」
 双子だけに顔かたちはヒルコと瓜二つの、しかし喜怒哀楽のはっきりした少女は吹っ切れたように微笑んだ。
「国東で天使に苦しめられている人たちを助けたいんです。沙奈ちゃんの犯した過ち‥‥それに妹を助けられなかったあたし自身の罪を償うために」


リプレイ本文

「中等部の夜見路沙恵(jz0303)です。どうぞよろしくお願いします!」
 学園儀礼服をまとった華奢な少女が、同行する仲間達に向かいペコリとお辞儀した。
「沙恵ちゃん久しぶり」
 およそ半年前、彼女と共にヒルコ(jz0124)討伐の依頼に参加した犬乃 さんぽ(ja1272)が心配そうに声をかけた。
「あれから色々大変だったと思うけど、元気してた? もう大丈夫?」
「はい。おかげさまで‥‥ようやく気持ちの整理がつきました。犬乃さんは如何でした?」
「ボク、うん、もう元気だよ」
 にこっと笑って頷くさんぽ。
「沙恵ちゃんみたいに忍龍も召喚出来る様になったんだ、今回は同じジョブ同士、カバーしあって行こうね」
「わあ、本当ですか? 楽しみです!」
「久々の依頼参加ですよね? 道中には野良サーバントも出るようですし、くれぐれも無理は禁物ですよ」
 レイラ(ja0365)も優しくアドバイスした。
 既に幾度かの依頼を共にしてきた沙恵は、レイラにとって妹も同然の存在だ。
「はいっ。皆さんの足手まといにならないよう頑張ります!」
 元気よく答えてから、沙恵はメンバーの中に亀山 淳紅(ja2261)を見出し、小走りに駆け寄った。
「亀山さんもお久しぶりです。今回もよろしくお願いしますね!」
「‥‥ああ、こちらこそよろしゅうにな」
 微苦笑を浮かべて答えつつも、淳紅の目には沙恵の明るい表情が、却ってどこか無理をしている様に映っていた。
(ほんまは‥‥自分の顔も、見たくなかったのかもなあ)
 それが任務だったとはいえ、自らの双子の妹を味方の撃退士に目の前で殺された。
 沙恵の心に刻まれた深い傷が、半年ばかりで癒えるとは思えない。
 それでも依頼は依頼。メンバーの中には今回が沙恵と初対面になる者も多い。
 この場でヒルコの件に触れることはあえて避け、淳紅は仲間達と共に移動用の車両へと向かった。

 あちこちがひび割れ、雑草が頭を伸ばす荒れ果てたアスファルト道路を、9人の撃退士を乗せた高機動車(HMV)が車体をガタゴト揺らしながら東に向かって走る。
 陸自払い下げの人員輸送車だが、特別な武装や装甲があるわけではない。屋根の幌を外してあるので、敵と遭遇すれば乗員の撃退士達が直接応戦することになる。
「何もないことを祈りたいが、そうもいかねぇだろうな」
 車上から遠く前方を見やり、向坂 玲治(ja6214)は誰にいうともなく呟いた。
 この先に、かつて天使アムビルのゲートとその結界に支配された町があった。
 ゲート自体は主を失い既に廃棄されているが、廃棄後もしばらくの間は空間の歪みから野良サーバントを生み出し、そして別の天使が派遣されて新たなゲートを生成するのも時間の問題であろう。
 野良サーバントの襲撃はもちろん、最悪の場合ゲート跡地で新手の天使軍と出くわすおそれすらある。
「神志那署長、まだ捕まったままか‥‥」
 ハンドルを握る淳紅の隣席でナビゲーターを務める君田 夢野(ja0561)がいった。
「強い決断を下せるあの人は嫌いじゃなかった。MIA(戦時未帰還兵)のまま放っておきたくない」
「そやなあ。今回の依頼にも署長さんの救出は入ってないし‥‥撃退署が戦力不足なのも分かるけど、ちと薄情すぎるわ」
「吉良峰時々(jz0186)と厄蔵(jz0139)の策略にはめられたわけだしな。奴らの鼻を明かす意味でも助け出したいところだが――」
 夢野の言葉はそこで途切れた。
 道路の両脇、そして上空から複数の影が近づいて来る。
 大きさや輪郭からして野犬や鴉のようにも見える。だがよくよく見れば、肉色の粘土を塗り固めたようにグロテスクな怪物ども。
 付近を徘徊していた野良サーバントがHMVの存在に気付いて襲ってきたのだろう。
「さっそくのお出迎えですね」
 車両後部から身を乗り出し周囲を撮影していた黒井 明斗(jb0525)がデジカメを純白の洋弓に持ち替え、追いすがってきたサーバントの1匹に矢を放った。
 アウルの矢を鼻面に受けたサーバントがギャンと悲鳴を上げて転倒する。
 ゲート跡から自然発生した彼ら野良サーバントは、自分達以外に命ある存在を嗅ぎつけると見境なく襲って来る。知能も戦闘能力もさほど高くないが、どれだけの数がいるか知れないだけに、集まって来る時間を与えてしまうと厄介な敵だ。
「天使め、死んだ後まで面倒をかけてくれるな」
 アデル・シルフィード(jb1802)も頭上から襲いかかる鳥型サーバントを大剣で一刀両断に切り捨てた。
「こんな所で雑魚の相手なんかしとる場合やない。飛ばすで、みんなしっかりつかまっとれや!」
 仲間達が車の行く手を遮るサーバントどもを魔具で排除している間、淳紅は思い切りアクセルを踏み込んだ。

 十分ほど後、野良サーバントどもを何とか振り切ったHMVは街道で停車した。
 数百m先にはかつてアムビルが統治した小さな町が見える。
「やれやれ、どうにもキナ臭いな‥‥」
 玲治がいう通り、人影は全く見えない替わり、中小型サーバントと思しき異形の生き物が廃屋や廃ビルの間をうろつき回っていた。
 ここからは一部の撃退士が車を降り、二手に分かれて行動することとなる。
 すなわち徒歩で町に潜入し、ゲート跡とその周辺を調べる偵察班、そしてその間わざと派手に走り回り野良サーバントを引きつける囮班。
 ただし袋井 雅人(jb1469)はそのどちらにも加わらず、単独で偵察班に先行し敵戦力の有無やその位置情報を後続の二班に伝える「斥候役」を志願していた。
「よし、どうやらスマホは通じるようですね‥‥では皆さん、私は一足お先に出発します」
 情報収集用のデジカメや使い捨てカメラ、それに大きな空の麻袋を担いだ雅人が仲間達に告げた。
「出来る事だけをしてくれよ‥‥あれだけの数と質、君とて無事で済むとは限らんのだから」
「ご安心下さい。いざという時の逃げ足には自信がありますから」
 心配そうなアデルの忠告に、親指を立てて笑う雅人。
「袋井さん、その袋は何に使うんですか?」
 不思議そうに小首を傾げ、沙恵が尋ねた。
「あの町で大勢の方が亡くなってますからね。依頼とは直接関係ないですけど、せめて遺品の回収もできればと思いまして」
「‥‥」
 全力移動で町の方角へ駆け去って行く雅人を見送っていた淳紅は、ふと沙恵が青ざめた顔で俯いているのに気付いた。
「あそこで大勢の人達が殺されたんですよね‥‥アムビルと、そして沙奈ちゃんのために」
 ヒルコが直に手を下したかどうかはともかく、ゲートから収奪された感情エネルギーがアムビルを通して彼女の糧となったことは間違いない。
「沙恵ちゃん‥‥」
 淳紅は意を決して声をかけた。
 自分は囮班、沙恵は偵察班。最悪、ここが今生の別れになるかもしれない。
「君の望みを何一つ守ってあげられんかったこと、謝らせてほしい」
「そんな‥‥あたしだって分かってます。あそこで助かっても、沙奈ちゃんは久遠ヶ原で人間として扱ってもらえたかどうか‥‥そしてあの人の行為で沙奈ちゃんが『救われた』ことも」
「かもしれん。でもな、自分は認めたくなかったんや」
「亀山さん?」
「それでも、それでも! 彼女に生きて痛みと向き合って、君と笑ってほしかった。何度あの時に戻っても自分はきっと彼女が死を選ぶことを許さへん。ほんまどーしょもない身勝手で愚かで――」
 耐えきれず頭を抱え込み、淳紅はその場に蹲った。
「ずっと謝りたかった。勝手でごめん。辛い想いさせてごめん。沙恵ちゃんごめん、ごめんなぁ‥‥」
「亀山さんのせいじゃないですっ!!」
 大声で叫ぶと同時に、紅に変色した沙恵の瞳から涙が溢れ出した。
「悪いのは全部あたし‥‥初めて厄蔵がうちに来たあの晩、沙奈ちゃんを殴ってでも引き留めていれば‥‥!」
「落ち着いて、沙恵ちゃん」
 背後から歩み寄ったレイラが、泣きじゃくる少女を静かに抱きしめる。
「彼女のことは私が責任を持って守ります。亀山さんは、どうぞご自分の任務を」
「すんません‥‥」
 ちょうどその時、撃退士達のスマホに雅人からの第1報が入った。

『いま町の入り口にいます。サーバントの数は思ったより少ないですね』

「さて、件の跡地にあるのは宝の山か、開けてはならぬパンドラの箱か‥‥」
「確かめてやろうじゃないですか。今なら偵察班が潜入するチャンスです」
 アデルの言葉に明斗が頷き、囮班の撃退士達は素早くHMVに乗車した。
「悩むのは大いに結構だ。死んで尚忘れられていないのは、彼女にとっては嬉しい事だと思う」
 再び運転席に着いた淳紅の肩を、夢野がポンと叩いた。
「だが、悩むのなら前向きに悩め。彼女を救えなかった後悔じゃなくて、彼女の為に何が出来るかを考えるんだ。それは、どんな鎮魂歌よりも彼女の魂を救う」
「‥‥おおきにな」
 友の言葉で気を取り直した淳紅がエンジンを始動させる。
 アクセルを踏み込み急発進させるや、カーステから大音量で音楽を流し、同乗の仲間達に玩具の花火を打ち上げさせる。
 騒音に気付いた野良サーバント達が一斉にHMVを狙って動き出し、偵察班の撃退士達はその隙に町への移動を開始した。

「そらそら、早く来ないとどっか行っちまうぜ」
 玲治は手を叩いて怪物達を挑発し、車の周囲まで引きつけたところで銀色の拳銃からフォースを乗せた銃弾を撃ち込み弾き飛ばした。
『こちら囮班、現在の状況を連絡する』
 夢野は偵察班との連絡役を務めつつ、頭上に群がる鳥型サーバントを大剣でなで切りにする。
 HMVの車体は非装甲なので、下級サーバントといえども体当たりを喰らえばただでは済まない。そのため明斗はシールドで円形盾を活性化し、車両に接近するサーバントを食い止め続けた。
「借り物なんでね。そうそう壊すわけにいかないんですよ」

 囮班が奮戦している間、偵察班の4人は首尾良く町へ潜入し、先行していた雅人と合流を果たした。
「残念ながら、生存者は残っていないようですね」
 遺品と思しき腕時計を拾い上げ、雅人が麻袋に収めた。
 アムビルの性格からして一般人に慈悲を与えたとは思えない。町の住人は残らずゲートに呑み込まれたか、両子山の大ゲートに移送されたのだろう。
 自らもデジカメで周囲を撮影しながら、さんぽは沙恵と共に召喚獣による索敵を行った。
「沙恵ちゃん、ボクは忍龍をあっちから飛ばすから、沙恵ちゃんはそっちから‥‥」
「はい!」
「臨兵闘者‥‥在前! 出でよ忍龍」
 2体のヒリュウが召喚され、それぞれ主の指示に従い町の奥へと飛んで行く。
「さてと、これからどう動く?」
「資料によれば、この町には占領前まで撃退士の駐屯所があったそうです」
 思案するアデルにレイラが提案した。
「もし自分が神志那署長の立場で、さらわれた途中でここに立ち寄ったなら、撃退士にゆかりのある場所に何らかの手がかりを残すでしょう」
 いわば撃退士としての直感である。
「そうだな‥‥この際行ける場所はできるだけ回ってみるか」
 だが移動を始めて間もなく。
「ちょっと待って。忍龍が敵を見つけた!」
「あたしのヒリュウもです!」
 町の入り口付近にいた野良サーバントどもは囮班がうまくおびき出したものの、今まで奥の方の廃屋に潜んでいた連中が人の気配を嗅ぎ取って姿を現したのだ。
 その数は20体近く。
「ちぃっ!」
 アデルと雅人が剣を構え、さんぽとレイラも沙恵を庇う体勢で身構える。

 次の瞬間、耳をつんざく轟音と共に閃光が走り、撃退士達は思わず腕で顔を覆った。

「何だ――?」
 ようやく視界が戻ると、周囲の野良サーバントどもは落雷に撃たれたかのごとく黒焦げとなり全滅していた。

 バサッ――。
 黒く大きな影が頭上を過ぎる。
「ドラゴン!?」
 地上20mほどの低空を悠然と旋回するのは、まごう事なきサーバントのドラゴン。
 豊後高田で討たれたゲリュオンに比べると一回り小さいものの、それでも優に翼長20mはある。
「何でドラゴンが私達を‥‥?」
 意外な成り行きに戸惑う雅人が周囲を見回すと、ふと視線の先にサーバント以外の人影を発見した。
 そこは、まさに今向かおうとしていた撃退士駐屯所跡。
 風雨に晒され廃墟と化した駐屯所玄関前に、若葉色のレディスーツに身を包む細身の人影が立っていた。
 かつて国東関連の依頼に参加した撃退士のうち何人かは「彼女」の顔に見覚えがある。
 いやそうでない者も、左手の片手杖で体を支えて立つ女性が何者であるか、すぐ察しがついた。
「わざわざ豊後高田市からご苦労様。そういえば町の外で戦っているお仲間さんもいるようね。折角ですから呼んできたら如何です? 野良サーバントどもは私の『友人』に片付けさせましょう」
 駆け寄ってくる撃退士達を見回しながら、女は眼鏡の奥の瞳を細めた。

 5分ほど後、車で町に入ってきた囮班を加えた9人の撃退士が女を取り巻いていた。
 野良サーバントは彼女の言葉どおり、ドラゴンが放った雷の範囲攻撃で残らず焼き尽くされていた。
「彼は雷竜グロリアス‥‥大天使ベテルギウスに仕えし四聖竜が1頭。もっとも火竜ゲリュオンが討たれてしまったので今は三聖竜ですわね」
「俺は交響撃団団長、君田夢野だ。コッチが名乗ったんだ、名乗り返してもらおうか」
「元豊後高田市撃退署長、神志那麻衣。これでよろしいですか?」
 かつてアムビル討伐依頼の際、署長としての麻衣を直に見た夢野の目に、外見上彼女は「本物」と映った。
 だが、なぜ拉致されたはずの麻衣がここにいるのか?
 しかもサーバントの竜を従えて。
「こんな所で一体何を‥‥って、どうして? 何で天使の味方してるの? ちゃんと答えてよっ!」
 さんぽの詰問を受け、麻衣は微苦笑を浮かべた。
「さあ、何から話したものか‥‥ともかく今の私は天使陣営に属する立場。洗脳でも脅迫でもありません。自分自身で考え、判断した上での選択です」
「まさか‥‥使徒に!?」
「いいえ、まだ人間のままですわ。そうですね‥‥とりあえずプロフェッタ(預言者)とでも名乗っておきましょうか?」
 上空を旋回するグロリアスを見上げ、
「少なくとも今、この場で皆さんと戦うつもりはありません」
「それは有り難いな。こちらも単なる偵察任務だ。野良サーバント以外の敵とやりあう予定はない」
 夢野は手にした大剣をヒヒイロカネに収納した。
「写真を撮ってもいいですか? これも任務ですから」
 デジカメを構えた明斗に、
「ご自由に」
 やはり微笑して頷く。
「そうそう。お手数ですが、私の後任の撃退署長にこれを渡して頂けませんこと?」
 麻衣はスーツのポケットから一通の封書を取り出し、撃退士に手渡した。

 その後撃退士達は無事に帰還し、偵察任務は成功に終わった。
 だが麻衣が天使側に寝返ったという事実、そして彼女からのメッセージにより、豊後高田市は半年間の平和を破られ、再び天使軍の脅威に怯える悪夢の日々が始まろうとしていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Blue Sphere Ballad・君田 夢野(ja0561)
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
重体: −
面白かった!:6人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
魔を祓う刃たち・
アデル・シルフィード(jb1802)

大学部7年260組 男 ディバインナイト