.


マスター:ちまだり
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/22


みんなの思い出



オープニング

「ただいまー」
「ちょっと香澄、こんな時間まで何やってたの? 晩ご飯は?」
「外で食べた」
 夜遅く帰宅した少女は、そういうなり母親の顔も見ず階段を昇り、制服のまま自室のベッドに寝転がった。

「ったく‥‥うぜぇんだよ、親も先公も」

 ぼやきながらスマホを取りだし、寝転んだまま操作し始める。
 特に電話をかけるわけでもなく、ただ暇つぶしのゲームサイトや情報サイトなどを漫然と覗いていた。
「ん? ナニよこれ」
 どこから飛んだのか分からないが、いつの間にかスマホの画面にはおどろおどろしいフォントで「死神の館」なるタイトルが映し出されている。
 どうやら怪談かホラー系のサイトらしい。
「しにがみぃ? ダサっ」
 苦笑いしつつも画面を切り替えなかったのは、タイトルのすぐ下にある1行が目に留まったからだ。

『あなたには誰か呪い殺したい相手がいますか?』

「‥‥」
 そのまま「入室」をクリックすると、黒一色の背景に白い文字というシンプルなテキスト画面で詳しい説明が表示される。

『当サイトの管理者は本物の霊能者です。古来から伝わる呪いの秘術により、あなたにとって殺したいほど憎い相手を呪殺します。もちろん現在の法律で呪殺は犯罪とはみなされません』

「じゅさつ?」
 特にオカルトに詳しくない彼女には、せいぜい藁人形に五寸釘を打つ丑三つ参りのイメージくらいしか思い浮かばなかった。
(でも‥‥確かに犯罪にはならないわよね。それで相手が死んだって、呪いのせいなのかどうかなんて調べようがないんだから)
 少女の脳裏に、ふとクラスの担任教師の顔が浮かんだ。
 四十代のベテラン教師だが、日頃から自分を目の敵のようにして口うるさく説教してくる鬱陶しいオヤジ。少なくとも彼女自身にはそう思えた。
(マジでウザいわあの先公‥‥いっそ呪い殺せばスカっとするかもね)
 だが後に続く説明を読み、少女は眉をひそめた。

『料金は一切頂きません。ただし人を呪い殺す以上、相応の対価が必要となります。それはあなた自身の魂――ですから、ご利用はくれぐれも慎重にお願い致します』

「ナニよそれ? こっちの命も取られちゃうんじゃ全然割に合わねーじゃん」
 がっかりしつつも画面をスクロールすると、呪いたい相手、そして依頼者の氏名と住所などを記入するフォーマットが現れた。
「くだらねー! こんなのイタズラに決まってるわ」
 第一、こんな怪しげなサイト主に自分の個人情報を知らせるなんて冗談でも願い下げだ。
 もう画面を切り替えようとした指先が、寸前で止まった。
「奴の住所なら‥‥クラス名簿で分かるわね」
 学習机から取り出した名簿を見ながら担任教師の氏名と住所、呪いたい理由などを入力する。
 そして、依頼人の情報欄には同じ名簿から適当に選んだ別の女子生徒の名前と住所を書き込んだ。
「ま、どーせイタズラだろうし。もしホントに死んだって、あたしは関係ないもんね♪」
 クスクス笑いながらスマホの電源を落とすと、少女はパジャマに着替えて布団に潜りこんだ。

 だが彼女は気付いていなかった。
 一見悪趣味なジョークで作られたようなそのサイトにアクセスした時点でスマホにネット回線からスパイウェアが侵入、スマホの持ち主――すなわち少女自身の個人情報をほぼまるごと盗み出していたことに。

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「えーと西日本のある街で発生してる連続失踪事件について、警察から捜査協力の依頼が出てるんやけど‥‥」
 生徒会ヒラ委員でオペレータも兼ねる伊勢崎那由香(jz0052)が、教室に集まった撃退士たちに資料を配りながら説明した。
「私たちに依頼が来たってことは、やっぱり天魔絡みなの?」
 撃退士の1人が口にした質問に、那由香は首を傾げた。
「それが‥‥まだよく分からへんねん。今年に入ってから老若男女色んな人たちがもう10人失踪しとるんやけど、いなくなる時は2人の人間が1週間以内の単期間に相次いで姿を消しとる。その繰り返しや」
「2人セットで失踪? その2人って何か関係あるのか?」
「一応、顔見知りのケースが殆どやな。たとえば一番最近に失踪した森田香澄って女子高生の場合、クラス担任だった中山浩二さんが姿を消した3日後の放課後に学校を出たのを最後に行方知れずになっとる」
「その2人、特別に親密だったのかしら? 教師と生徒の駆け落ち‥‥なーんて、まさかとは思うけど」
「いや〜逆やな。こういっちゃ何やけど、森田さんは普段から生活態度に問題が多い生徒で、担任の中山先生としては当然厳しく注意する。‥‥他の生徒から見ても犬猿の仲だったそうやで」
「うーん‥‥」
 一通り事件の概要を聞かされた撃退士たちは考え込む。
 確かに奇妙な事件だ。失踪者の安否を思えば一刻も早く解決するべきだろうが、ただでさえ日本の各地で天魔との激しい戦いが続いている今、わざわざ自分たち撃退士が乗り出すほどの事案だろうか?
「もう少し情報はないのか? せめて天魔の介在を匂わせる証言とか‥‥」
「天魔が関係しとるかは分からんけど、近頃現地の中高生達の間で妙な噂が流れてるそうや」
「噂?」
「その‥‥スマホからアクセスできる『呪いを請け負うサイト』って話やねん」

 サイトの名前は『死神の館』。そこにアクセスし、呪い殺したい相手と自分の名前を入力すれば、サイトを管理する霊能力者が本当に呪殺してくれるのだという。
 ただし人を呪わば穴2つ――依頼した人物もまた、呪いの対価として自らの魂を捧げなければならない。
 もっともそれは今のところネットや口コミを通して広がった噂の域を出ず、また地元県警サイバー課による懸命の捜査にも拘わらず、未だ『死神の館』の存在は実証されていないという。

「その噂が本当だとして、何で天魔がそんな回りくどい真似を? 人間を襲うならディアボロやサーバントを使えば済む話なのに」
「その通りやなぁ」
 普段はおっとりした那由香の表情が一段と曇った。
「実は‥‥警察の人らは、犯人として天魔より人間、つまりうちらと同じアウル能力者を疑ごうてるらしいんや。この学園に依頼が来たのも、多分それが理由やと思うで」
 学園生徒――撃退士たちの表情が一様に険しくなる。
 万一この事件の裏にアウル能力を悪用する人間が拘わっていた場合、撃退士に対する一般人の心象を一段と悪化させることは間違いないだろう。
「とにかく、ここで議論してても始まらないわ。今すぐ現地に飛んで私たち自身の手で調べましょう」
 女子生徒の言葉をきっかけに、撃退士たちも思い思いに席を立ち、出発の準備に取りかかった。


リプレイ本文

「‥‥やれやれ面倒さぁね」
 見かけは平和そのものの小さな町を駅ビル出口にあたる陸橋の上から見渡し、九十九(ja1149)はため息を漏らした。
「犯人がアウル保持者にせよ天魔にせよ、手掛かりが少ない状況からの調査とか手間さねぇ‥‥」
「人を呪わば穴二つってねぇ。まあ遊び半分でやっちゃう気持ちもわからなくはないけど」
 神喰 茜(ja0200)が長く伸ばした赤髪を揺らし首を傾げる。
「呪いの対価は自らの魂って、死神っていうより悪魔の契約だよね。アウル能力者の犯行を疑ってるって恒久の聖女事件も関係してるのかな」
「直近で悪魔の活動が活発化しているし、奴らの活動が懸念されるけどまずは先入観無しで調査だね」
 天羽 伊都(jb2199)が提言する。
「呪いなんて、ああああるわけないじゃないですかぁ〜」
 やや声を震わせるのははぐれ悪魔の神雷(jb6374)。
 悪魔が呪いを否定するのも妙であるが、彼女は非科学的なものは信じない主義なのだ。
(だって怖いから‥‥)
 なんて口が裂けてもいえないけど。
「天魔もネットを使う時代か。まァ、人間臭さがあるな」
 郷田 英雄(ja0378)は既に犯人が天魔であると目星をつけている。
 ここまで完璧な犯行が人間の手で可能だろうか?
 もっとも天魔がわざわざ人類のネットワークを研究しているとも思えないので、協力者の人間がいる可能性もあるが。
「確かに天魔が負の感情を集めるならば適しているかもしれません」
 穏やかな口調でリアン(jb8788)が意見を述べた。
「ただ‥‥非効率なのも確か。これはやはり調査が必要ですね‥‥」
「死神というと彼を思い出しますが、彼は死んだんですよね」
 彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)が呟いた。
「彼」――エルウィン。自ら「死神」を名乗り、死期の迫った人間に近づくと魂と引き替えにその相手の願いを叶えてやっていた変わり者の悪魔。
 だがそのエルウィンも、ほぼ1年前に四国の戦闘で死亡した。皮肉にも人類側に味方し、かつての戦友である騎士悪魔デスマルグに斬られて。
「模倣犯というやつかの〜」
 やはりエルウィンとの関連を推測したハッド(jb3000)は、斡旋所に依頼し、過去に彼が出現した地域をリストアップしたデータをスマホに送信してもらっていた。
「『死神の館』『対価は自らの魂』――確かに奴の手口をなぞっているようだな」
 あの戦いで自らエルウィンを看取った英雄が、低い声でいう。
「だが『呪殺』ここに決定的な差異がある。これは自分と奴は違うという自己主張だ」
(奴を知っていてこんな回り諄い事をしそうな悪魔‥‥)
 一瞬、英雄の脳裏にエルウィンと同じ銀髪に赤い瞳を光らせた女悪魔の姿が過ぎるも、現段階では憶測の域を出ないので口には出さなかった。
「何れにしても、捨て置くわけにはいくまいて〜」
「とりあえず地元の警察署に行きましょうか?」
 彩の提案を受け、一行は陸橋の階段を降りて町へと向かった。


「この市内に撃退署はありません。ご覧の通り治安の良い後方地域ですから」
 応接間で撃退士達にお茶を勧めながら、事件を担当する中年の刑事がいった。
 地元撃退士の動向を尋ねた、リアンの質問に対する答えである。
 ごく希に野良ディアボロが侵入してきて騒ぎになることもあるが、その場合は市長判断で久遠ヶ原学園に討伐依頼を出すのが通例だという。
(ここに常駐する撃退士はいない。つまり撃退士の犯行ではない‥‥?)
 リアンは考え込んだ。
 もっともアウル能力者の適性をもった人間が必ずしも撃退士になるわけではないから、まだ天魔の仕業と断定するのも早計だが。
「ご存じの通り現在の法律で『呪殺』は犯罪とみなされません。ただし天魔の魔力や撃退士のアウル能力となれば話は別です。詳しい原理は不明でも、現実に人間を殺すだけの効果が実証されているわけですから」
 そこまでいって、村上と名乗る刑事は慌てて両手を振った。
「――あ、いや、決して撃退士さん達を疑っているわけではないのです。ただ『死神の館』とかいうサイトがいくら怪しくても、本署として対応できるのは精々サイバー課くらいなので‥‥」
「なるほど。ま、警察が『呪いのサイトについて知りませんか?』なんて聞き込みはし辛いよね」
 納得した様に茜が頷く。
「事件が起きる前くらいにこの辺りの地域から転居してきた人間はおるかの〜?」
 スマホに保存していた例の地域データを示し、ハッドが尋ねた。
「ではプリントアウトして、市役所の方へ問い合わせましょう。少々お待ち下さい」
「俺はこの事件が始まる前からこの街と周辺地域で起こった事件や事故について知りたい。天魔関連に限らず洗いざらいな」
 英雄の要請は内線電話を通して担当部署へ伝えられ、20分ほど後、ハッドの要請と同じくファイリングされて女性署員の手で応接間に届けられた。
 まずエルウィンの出現地域は専ら同じ西日本で近いといえば近いが、ここ1年程の間にその地域から引っ越していた者は見当たらなかった。
 そして事件・事故は他の後方地域と同じ頻度で発生していたが――。
「ふん。確かに天魔絡みの事件は少ないな」
 分厚い書類をパラパラめくっていた英雄の目がとあるページに留まった。
 若い女性が別れた元カレに追い回されたストーカー事件。女性が何度アドレスを変えてもスマホに脅迫めいたメールが送られ、挙げ句の果て引っ越し先に刃物を持って押しかけた男は張り込み中の警官に逮捕されたという。
 一見、今回の事件とは全く無関係に思えるが。
「この男‥‥どうやって女のメアドや転居先まで突き止めたんだ?」
「ああ、この事件ですか? こいつプロのハッカーを雇って、被害者女性のスマホに違法プログラムを仕込ませて‥‥要するに乗っ取ったんですよ、彼女のスマホを」
「乗っ取り?」
「いくらメアドを変えても個人情報が丸見えですからね。しかも最近の携帯やスマホにはGPSが内蔵されてるから本人の居場所まで‥‥全くタチの悪い犯行です」
 男が逮捕されたことで事件は解決したものの、共犯者のハッカーは本名すら分からず未だに捜査中だという。
「そんなことができるのか‥‥」
 英雄を始め、撃退士達は驚きと共にこの事件を記憶に留めた。

 必要な情報を一通り聞き終え、ここから先は各人が別行動となる。
「こちらのサイバー課でPCとネットをお借りできますか?」
 彩は村上刑事に尋ね、了承を得ると仲間達に向き直った。
「私は夜までこちらで待機、みんなの集めた情報をまとめて速やかに共有できるようにするわ」
 他の撃退士達もこれに同意。出先で得た情報はリアルタイムで彩のスマホに送るよう約束した。


 リアンとハッドが向かったのは市内の高校。
 最初に失踪した2人の少女はこの高校のクラスメイト同士。そして(現段階で)最後に失踪したのもここの女子生徒と担任教師。
「偶然かもしれませんが、失踪者10人中4人がこの高校の関係者とは、何かの因縁を感じますね」
「例の噂の出所も、案外この高校かもしれんの〜」
 授業が終わり、校門から下校の生徒達が出てくるのを待って、リアンは聞き込みを始めた。不審を抱かれないよう撃退士の身分と、失踪した4人について調査していることを明かした上で。
「えっ撃退士? 本物?」
「うっそ〜、初めて見た!」
 この町では珍しい撃退士、しかも映画俳優もかくやという美貌の持ち主であるリアンの周囲にたちまち女子生徒の人だかりが出来る。
 対するリアンもとっておきの笑みを浮かべつつ、始めに失踪した2人について少女達に尋ねた。
「知ってるー! あの2人、クラスの男子を取り合ってすっごく仲悪かったしねー」
「やっぱりアレだよ、『死神の館』に名前を書いて‥‥」
 こちらから聞くまでもなく、問題のサイト名が出た。
「それってネットの掲示版か何かですか?」
 素知らぬふりで尋ねるリアン。女子生徒達が口々に答えた内容は、事前に警察から提供された情報とほぼ同じものだった。
「ふうん‥‥その噂、この学校から広まったのですか?」
「ただの噂じゃないよ! うちらの友達でも結構見た子いるよ? えーと、ミキちゃん!」
 名前を呼ばれた少女が、おずおずリアンの前に出た。
「あの、一ヶ月くらい前の夜中、うちでスマホいじってたらいきなり‥‥あ、もちろん怖いからすぐ切っちゃいましたけど」
「よければ、ちょっとスマホを貸して頂けますか?」
 リアンは受け取ったスマホを操作し過去の閲覧履歴をチェックした。
 ミキがアクセスしたという日にちと時間から割り出し、「死神の館」と思しきURLにアクセスを試みるも。
 画面に表示されたのは「not found」の素っ気ない文字。
(毎回URLを変えている? 天魔というより人間のハッカーのような小細工ですね)

 その間、ハッドは最後の失踪者である森田香澄のクラスメイトを捜し、失踪直前の彼女の様子を聞き出していた。
 その結果、担任教師の中山浩二が失踪したその日から、明らかに香澄の様子がおかしかったことが判明。
「もう顔なんか真っ青で。それで何度も私の席に来て聞くのよ、『何か変わったことなかった?』って」
 女子生徒の1人が証言した。
「おぬしは香澄んの親友だったのかの?」
「ううん、そんなに仲良くなかったよ? あの子ちょっと怖いから避けてたくらいなのに‥‥そういえば、何で私の心配してたんだろ?」
 そこまで聞いて、ハッドにも概ね事情が呑み込めた。
 憎い相手を呪殺して欲しい。だが「代償にお前の魂を差し出せ」といわれ、素直に自分の名前を書き込むものだろうか?
(それでクラスメイトを身代わりに‥‥香澄んも浅はかな真似をしたものよの〜)
 しかし実際には香澄自身が姿を消した。「死神の館」管理人はフォームへの入力と関係なく、スマホ所有者の個人情報をまんまと抜き取っていたのだろう。


「ねぇねぇ、呪いのサイトて知ってるぅ?」
 中学の下校時間。神雷はきゃぴきゃぴのJCを装いながら、校門から出て来た生徒達に尋ねて回っていた。
(我ながら頭痛い‥‥でも依頼のためです!)
 生徒達の反応は様々だった。
「そんな噂は聞いたけど‥‥私は見たことないなぁ」
「友達の友達が見たって聞いたけど‥‥」
 茜は少し離れた場所に立ち、神雷を見守っている。
 正確には神雷から聞き込みを受けた生徒の反応を。
「そんなの知りません!」
 とある女子生徒が、少し怒ったような声で否定した。
 外見からしていかにも気弱そうな少女である。
 神雷の目配せを受け、茜も進み出た。
「本当は何か知ってるんじゃないですか?」
「大丈夫だよ。何を話してもここだけの秘密にするから」
 2人の撃退士に詰め寄られ、少女は半べそで立ちすくんだ。
「‥‥私をいじめるグループのリーダー格が、どうしても許せなくて‥‥」
 彼女もある夜スマホで「死神の館」を発見し、つい相手と自分の名前を入力してしまった。
 暫くはビクビクしながら待っていたが、その後何も起こらないので「やっぱりイタズラ」と思い忘れかけていたという。
「事情は分かりました。もし何か身の危険を感じたら、ここに相談して下さい」
 久遠ヶ原学園のアドレスを記したメモを神雷が差し出すと、少女はひったくるように受け取り、そのまま走り去っていった。
「死神様はお客を選ぶのでしょうか?」
「さあね〜。数が多すぎて手が回らないだけかも」


 九十九は単独行動で駅前繁華街を中心に聞き込みを行っていた。
 彼のターゲットは主に不良とかヤンキー、俗に「裏側の住人」などと呼ばれる連中。
 だからこそ警察からは入手出来ない様な情報が得られるかもしれない。
「あんだ、てめぇは〜?」
 路地裏にたむろっていた不良達が、ガンを飛ばされたと思ったのかまだ何も聞かないうちに絡んでくる。
 だが十分ほど後には「適度な肉体言語の交流」及び忍法・友達汁の効果で、九十九は彼らから「アニキ!」と呼び慕われる存在となっていた。
 聞けば、不良達も確かに「死神の館」の噂を知っていた。
「でも俺たちゃ呪いなんか興味ないっス。気に食わねえ奴がいれば直にシメるっスから」
「‥‥確かに、皆さんはどちらかといえば呪われる側さねぇ」
 それを聞いた不良達の顔色がたちまち青ざめる。口では強がっても、やはり呪い代行サイトという得体の知れない存在への恐怖心があるのだろう。
「他に、最近になって変わったことはありますかぁ?」
「そういや、近頃イタチの野郎がやけに羽振りがよくなってるスね」
「イタチ?」
「あ、もちろん本名じゃないっス。他人のPCやスマホから個人情報を抜き取って、業者に高値で売りつけるケチなハッカーでさ。最近大口のお客を見つけたようで、よく高級店で遊んでる姿を見やがります」
(ハッカー‥‥か)
 警察で聞いたストーカー事件を思い出し、九十九は不良達から「イタチ」と呼ばれるハッカーの年齢や容姿、よく利用する店などを聞き出した。


「やれやれ、安楽椅子探偵も楽じゃないわね」
 警察署のサイバー課。仲間達から集まった情報を逐一書き込んだノートを広げ、彩は大きく伸びをした。
 今日一日だけでかなりの情報が集まった。「死神の館」が実在し、少なからぬ人数がアクセスしていることも判った。
 ちなみに警察のPCから検索しても何もひっかからなかったところからみて、「死神の館」はスマホ・携帯からのみ閲覧可能なサイトらしい。
 だが現状、犯人が天魔であるという決定的な証拠に欠けるのだ。
 失踪した人々が本当に「死神の館」を利用したかも定かでない。
「さて、どうやって鼠を巣から誘いだすか‥‥」
 思案にくれていると、スマホのコールが鳴った。
 伊都からの着信だ。
『大変です彩さん! 他のみんなにも至急連絡して下さい!』


「死神の館」の存在を追った仲間達に対し、伊都は別のアプローチ、すなわち失踪者達の足取りを追っていた。
 警察の捜査資料を頼りに失踪者が最後に目撃された場所まで出向き、そこから拉致された場合人目につかなそうな公園や下水道を調べ、また不審な車両がいなかったか近辺の住民への聞き込みも行う。
 だが犯人も証拠が残らないよう工作したのか、日中これといった収穫はなかった。
 既に日暮れ近くなり、改めて最初に失踪した女子高生が通学路として使っていた道を歩いていると、いつしか両側に樹木が生い茂る林の中に入っている。
(女の子が一人歩きするには、ちょっと危ない場所かな)
 そんなことを思いながら周囲を見回すと。
 見つけてしまったのだ。
 昼間通った時にはなかったもの――木陰に倒れた制服姿の少女を。
 急いで駆け寄り、軽く首に触れたが既に脈はない。
 その場で警察署の彩に通報、また救急車を呼ぶ。

 その後の捜査で少女の身元は最初の失踪者であること、また司法解剖の結果死因は「悪魔に魂を抜き取られたこと」が判明した。

(続く)


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
死神を愛した男・
郷田 英雄(ja0378)

大学部8年131組 男 阿修羅
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
明けの六芒星・
リアン(jb8788)

大学部7年36組 男 アカシックレコーダー:タイプB