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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/21


みんなの思い出



オープニング

●四国〜香川県丸亀市
 400年の歴史と高さ日本一の石垣を誇る丸亀城。
 丸亀市の歴史遺産にして同市観光の目玉でもあるが、その日城内を含む観光施設内からは人影が消え失せていた。
 天守閣の上空に巨大な蠅型ディアボロ多数の出現が確認され、自治体や警察から緊急避難警報が発令されたからである。

「う〜ん見晴らしもバツグン。ゲート開放の場所にはうってつけね。ウフフ♪」
 本丸(城の天守閣がある場所)から丸亀市街を見下ろし、海からの風に吹かれながら、悪魔マレカ・ゼブブは気持ちよさげに目を細めた。
 昆虫の複眼と触覚を模した奇妙な髪飾りと背中から生えた黒い翼を別にすれば、歳の頃12、3のあどけない少女。今時の女の子にしてはやや地味なワンピースドレスだが、つい1週間ほど前までは戦闘時を除き素っ裸で行動していたことを思えばよく進歩したといえるだろう。
 本人にいわせれば「原住民の文化に合わせてやってるだけ」ということになるが。
「今日からここがアタシたちのお城よ〜♪ いいでしょ?」
「はあ‥‥でも何でこの城なんですか?」
 背後に付き従うパンクファッションの若者、ヴァニタスの壬図池鏡介(みずち・きょうすけ)が不思議そうに尋ねた。
「ゲートを開くのはどこでもいいってわけじゃないの。地脈とか方位とか‥‥まぁ色々面倒な条件があるのよ。その点、ここはその条件をほぼ全部満たしてる。誰だか知らないけど、この城を建てた人間はよほど優秀な魔法使いだったのね」
(魔法使い? ‥‥そんなの昔の日本にいたっけ?)
 おそらく当時「陰陽師」と呼ばれていた呪術の専門家が築城に協力したのであろう。
 マレカも鏡介も、そんなことは知る由もないが。
「それはともかく、ここじゃ目立ちすぎやしませんか? すぐに例の撃退士どもが押しかけてきますぜ?」
「ふふん♪ 望む所よ。こっちはちゃ〜んと迎撃の準備を整えてるんだから」
 城の上空には大バエの群が飛び回り、二の丸、三の丸にはそれぞれ半魚人を配置してある。
「‥‥そして何より心強い味方はこの石垣ね」
 マレカは身を乗り出し、日本の城の特徴ともいえる扇状の曲面を描く石積みの壁を指さした。といっても飛行や壁走りのスキルを持つ撃退士なら容易に突破できそうであるが――。
 少女の片手に武骨なアサルトライフルが出現する。
「奴らがノコノコこの壁を登ったり飛んで来たらいい的よ。残らず撃ち落としてやる」
 鋭い牙を覗かせ、愛くるしい少女の顔がその本性ともいうべき残忍な悪魔の笑いに歪んだ。
「なるほど。守りは完璧ってことスね」
「そっ。それに万一本丸までたどり着かれたって最後の『保険』を用意してあるしね」
 マレカと鏡介が振り返ると、そこに座らされた30名ほどの老若男女が怯えた表情でこちらを見上げていた。
 逃げ遅れてマレカに捕らえられた観光客や施設の職員達だ。
「撃退士どもがここまで来て邪魔だてするようなら、アンタこいつらを1人ずつ始末なさい。奴らがビビったところで掃射をお見舞いしてやるから」
「ええぇ〜俺が?」
「文句あるぅ?」
「い、いえ」
「というわけで、今回撃退士どもはアタシが引き受ける。アンタは責任持って人質どもを見張ってなさいよ?」
「オスッ! お任せ下さい!」
(今回は高見の見物か‥‥こりゃ気楽だぜ)
「自分は戦わなくていい」と知った途端、鏡介は打って変わって強気になった。
 大股で人質の方へ歩き出すと。
「オラア! テメーら、おとなしくしてろよ!? 逆らうやつぁ片っ端からシメっからなゴルァ!!」
 マレカに対する卑屈な態度とは一転、虎の様な形相とドスの利いた声で脅す。
 手にした大きめの布袋を開き、
「とりあえずスマホとか携帯とか持ってる奴は全部これに入れろ! 隠したりするとマジぶっ殺すぞ!!」
 人質達が慌ててバッグやポケットからスマホ、携帯、タブレットなど取り出し次々と袋に放り込む。
 鏡介の目が、人質の中にいる1人の少年に留まった。
「おいそこのガキ! 俺の話聞いてねぇのか!?」
「え?」
 小学生くらいと思しき少年は不思議そうに顔を上げた。
「これ、スマホじゃなくてゲーム機だよ?」
「あんだとぉ?」
 取り上げてよくよく見ると、確かに某有名メーカーの携帯ゲーム機。液晶モニターにはファンタジーRPG風のゲーム画面が表示されている。
(ちっ。近頃のガキは高いオモチャで遊びやがって‥‥俺ンちじゃこんなの買ってもらえなかったってのに)
 子供時代のトラウマに忌々しく舌打ちしつつも、ゲーム機を少年に返す。
「――まっ、これくらいならいい。ただしうるさくすんなよ?」
「OK。音声OFFで遊ぶから」
 鏡介は知らなかった。
 そのゲーム機には通信機能があり、少年の遊んでいたのはネット上のキャラを介して他のユーザーとコミュニケーションできるMMOだということを。

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「また四国で冥魔事件や‥‥香川県の丸亀城が悪魔に占領されよった」
 生徒会ヒラ委員・伊勢崎那由香(jz0052)が憔悴しきった顔で撃退士達に告げた。
 無理もない。ここ数日、四国各地から一斉に冥魔絡みの依頼が寄せられ、生徒会や斡旋所の関係者は寝る間もないほどの忙しさだ。
「犯人は悪魔のマレカ・ゼブブ。目的は‥‥おそらくゲート開放やろな」
 那由香が卓上に広げた城の見取り図を覗き込み、撃退士達の表情が一様に曇る。
「やばいよ、これ‥‥」
 空から近づけば30匹近い大バエの集中攻撃が待っている。
 それに比べれば城の周囲に分散配置された半魚人の方が与しやすい相手といえるが、その場合一番高い本丸にいるマレカから丸見えとなる。彼女が銃器の扱いに長けたスナイパータイプの悪魔であることを考えればこれは自殺行為だ。
 それでも百人くらいの戦力で攻めればどうにかなりそうだが、あいにく各地で同時発生した悪魔達のゲート開放を阻止するため既に多数の撃退士が出動、いま集められるメンバーは限られた数でしかない。
「でもな、一応こっちに有利な材料もあるねん。まずこの城には抜け道があるそうや」
 これは市観光課からの情報。かねて丸亀城には「二の丸の井戸とお堀をつなぐ抜け道がある」という伝説が残されていたが、実は本当にあるらしい。悪戯や窃盗目的に悪用されないよう厳重に部外秘となっていたが。
「うまくやれば、少なくとも二の丸までは敵の目を欺いて潜入できるってわけね?」
「そうや。あともう1つ、本丸に32人の人質が監禁されてて‥‥そのうちの1人が、偶然お城見物に行ってた学園生徒、つまり撃退士や」
 初等部5年、大伴アキラ。撃退士としては新人ながら、冷静に状況を判断し、自分がプレイしていたネットゲームを介して密かに学園へ情報提供を続けている。
「今の所アキラ君は無事やけど、もし撃退士の正体がマレカ達にばれたら‥‥」
 最悪の事態を想像し、撃退士一同も思わず息を呑んだ。
「撃退庁と学園の方針として、マレカのゲート開放阻止はひとまず諦めて周辺住民の避難を優先することに決まっとる。京都の六門陣とちごうて悪魔単独のゲートなら後で破壊することもできるわけやし‥‥ただ、人質にされた32名は何としても助けなあかん」
 那由香は改めて撃退士達を見渡した。
「難しい依頼やけど‥‥何とかアキラ君と協力して、やり遂げてくれん?」


リプレイ本文

●四国〜香川県丸亀市
 市の中央に位置する亀山(標高66m)の上に築かれた丸亀城。
 3段の石垣の上に優雅な天守閣がそびえ立つ、同市の象徴ともいうべき歴史遺産であるが、いま周囲の亀山公園はゴーストタウンのごとく人影が絶え、城の上空には牛ほどの図体を持つ不気味な大バエの群が飛び交っていた。
「城に篭もりハエを使う悪魔か」
 その光景をお堀の外側に沿った道路上から険しく睨み、獅童 絃也 (ja0694)は呟いた。
「バアル・ゼブル『気高き主』あるいは『高き館の主』を気取るつもりか、まぁやってる事は小悪党そのものだが」
 現在城を占拠中の悪魔はマレカ・ゼブブ。
 絃也の言葉通り「蠅の王」の2つ名で知られる著名な悪魔バアル・ゼブブに似た名前だが、関連性は不明。そもそもバアル・ゼブブに限らず、人類側の神話・伝説に登場する天使や悪魔が現実に地球を侵略している天魔のうちに存在しているのか、たとえ同名を名乗る天魔がいても「同一の存在」とみなしてよいのかさえ、現在諸説あってはっきりしないのだから。
 判明しているのは武力系統の悪魔で階級は兵士、銃器の扱いに長け遠距離からの狙撃を得意とする、撃退士でいえばインフィルトレーターに近いタイプの敵であるということくらい。
「まさか、城攻めをこんな少人数でやることになるとは思わなかったわね〜」
 救出作戦に参加するメンバーを見回し、雀原 麦子(ja1553)は出陣前の景気づけとばかり缶ビールをグビっと一口飲んだ。
 現在、丸亀城に限らず四国の複数箇所で悪魔たちが同時多発的なゲート生成を図っている。それだけでも大事だが、問題は一連のゲート生成がいわば「陽動」であり、四国のどこかに「本命」となる大規模ゲート生成が予想されることだ。
 そのため撃退庁や久遠ヶ原学園も各地のゲート対策に加え、来たるべき「本命ゲート」生成を阻止するため多くの戦力を割かざるを得ない。
 この丸亀城に派遣できた撃退士も辛うじて10人。学園側としては、この際マレカによるゲート生成阻止は断念し、本丸に監禁された人質32名の救出を最優先とする苦渋の決断を下していた。
「本命ゲート」の展開さえ阻止できれば、残る小規模ゲートは各個撃破が可能――との判断からである。
「丸亀城が‥‥ハエの屋敷になるなど‥‥!」
 人類の貴重な歴史遺産を踏みにじるがごとき悪魔の所業に、柊 朔哉(ja2302)は怒りを隠せない。
 一刻も早く奪還したいところであるが、上空には大バエ、二の丸・三の丸には半魚人と多数のディアボロが配置され、しかも一番見晴らしの良い本丸にはスナイパーのマレカが陣取っている状況下では城に近づくことすら困難と言わざるを得ないだろう。
「とりあえず現在の状況は‥‥と」
 雨野 挫斬(ja0919)は携帯型ゲーム機を取り出し、とあるネットゲームのサイトにアクセスした。
 オーソドックスなファンタジー世界を舞台にしたMMO。ネットを通し何千名というユーザーがコミュニケーションできる多人数同時参加型RPGである。
 そのゲームユーザーの1人に、32人の人質中唯一の撃退士・大伴アキラがいた。
 といってもアキラはまだ10歳の初等部生で、撃退士としては初依頼を済ませたばかりの新人。正体がばれればたちまち殺されてしまうだろう。
 だがその危険を覚悟の上で、彼はネットゲームのPCを通じ密かに学園側へ現場から情報提供を続けているのだ。
 挫斬がアカウント登録したPCがゲーム世界のとある酒場に入ると、カウンター右端の席にナイトのキャラがいる。このナイトのPLがアキラだった。
『気分はどう?』
『まあまあだね。Vは呑気に煙草吸ってビールなんか飲んでる。回りにはマグロが5匹ばかり』
 他のユーザーが見ても何の話か分からないだろうが、「V」はヴァニタスの壬図池鏡介、「マグロ」は半魚人型ディアボロを指す暗号である。
 現在、アキラを含む人質は本丸の一角に集められ、鏡介の監視を受けている。
 特に縛られたり暴力を受けたりといった虐待は受けていないそうだが、5体のディアボロに周囲を固められては生きた心地もしないだろう。
『姫はいずこに?』
『今はお城の屋根に乗ってる』
「姫」=マレカ。天守閣の上から配下のディアボロ達を見張っているのだろう。
 ディアボロは近くに撃退士を発見すれば襲って来る。すなわち、彼らの動向を観察していれば、自ずと侵入者の存在も察知できるということだ。
 たった10人という戦力で乗り込むのは無謀を通り越して殆ど自殺行為とも思えるが、撃退士側には秘策があった。
 丸亀城にはかねて「秘密の抜け道がある」という伝説が残されているが、この抜け道は実在していたのだ。具体的には二の丸の一角にある井戸とお堀を結ぶ地下道。
 もしマレカが土地勘のある悪魔なら、警戒して井戸を埋めたててしまったかもしれない。
 だが幸い彼女はつい最近地球に来たばかりで、人類の文化に疎い。配下の鏡介も地元の人間ではないから、抜け道の伝説自体知らないだろう。
 マレカ側の戦力にしても、城ひとつを守るに充分とは言い難い。そのためかディアボロ群を三の丸から内側へ集中させているようだ。
 その証拠に、お堀の外側にいる撃退士達に大バエが向かって来る気配はなかった。
「今回現れた敵‥‥センスが絶望的な露出癖があった虫幼女悪魔と下着泥棒のロリコンヴァニタス、だったか?」
 咲村 氷雅(jb0731)も遠くにそびえる天守閣を見上げていた。
 彼にとってはマレカも鏡介も初対面の敵。関連の報告書にはざっと目を通しているものの、これといって関心もないし、正直どうでもいい。
 氷雅の胸にあるのは、先日別の依頼で失敗したことへの苦い思い。
 そのリベンジを果たすまでの己の強化と資金稼ぎこそが、今回の依頼への参加目的であった。
 

●潜入開始!
 撃退士達はまず「陽動班」「救出班」の2班に分かれた。

 陽動班:久井忠志(ja9301)、九条 朔(ja8694)、柊 朔哉、ラグナ・グラウシード(ja3538)、番場論子(jb2861)
 救出班:咲村 氷雅、雨野 挫斬、雀原 麦子、オーデン・ソル・キャドー(jb2706)、獅童 絃也

 陽動班が先発して抜け道から二の丸へ。ディアボロやマレカの注意を引きつつ時間を稼ぎ、その隙にやはり抜け道から潜入した救出班が本丸へ突入し人質を奪還。
 口で言うのは容易いが、両班のどちらがしくじっても失敗は確実という難易度の高いミッションである。だがこれが現在取り得る最善手といえよう。
「じゃあそろそろ行きましょうか? 人質救出のため、全力を尽くしましょう!」
 論子が仲間達を促し、まずは陽動班の5名が装備を確認後、お堀へと飛び込んだ。
 抜け穴の入り口は堀の水面下3mほどの場所にぽっかり口を開けていた。撃退士の体力ならば、素潜りで難なくたどり着ける場所だ。
 縦横2mほどの抜け穴に潜りこむと、間もなく頭が水面から出た。周囲は真っ暗闇の空間。ラグナが懐中電灯で周囲を照らすと、そこから先はちょうど地下下水道のようなトンネルとなっていた。
「なるほど、お堀の水面と二の丸の井戸の水位は同じ‥‥つまりこのトンネルを進んで行けば、二の丸の井戸の真下まで行けるという仕組みか」
 丸亀市観光課から提供された部外秘の見取り図を思い出し、ラグナは感心したようにいう。
「築城した当時の武将が非常時の脱出口として作ったものでしょうけど‥‥まさか400年後に、こうして私たちが利用するなんて夢にも思わなかったでしょうね」
 水から上がった朔は、濡れないようヒヒイロカネに収納していたスナイパーライフルを召喚した。
 陽動班5名は前後を警戒しつつ地下通路を進んだが、幸いディアボロの待ち伏せはなかった。どうやらマレカ側は本当に抜け道の存在に気付いてないようだ。
 やがて暗闇の先に、上方から差し込む一条の光が見えた。
 井戸の真下へ着いたのだ。
 石積みの井戸の内壁にはゴツゴツした凹凸があるので、撃退士ならばフリークライミングの要領でよじ登っていけるだろう。
 問題は、後に続く救出班が攻撃に晒されないよう、いかに敵の目を欺くかにある。

●二の丸の戦闘
 一番手として、論子が光の翼を広げ、井戸の中から浮上した。
 周囲を確認すると、少し離れた場所を数体の半魚人がのそのそ徘徊している。
「意外に警戒が緩いですね……」
 おそらく「地上からの攻撃ならば一番下の三の丸から攻めてくる」と判断したマレカは、大部分の半魚人をそちらに配置したのだろう。
 論子の合図を受け、残りの4人も次々と井戸を登って二の丸に降り立った。
 その頃になると、撃退士達の姿に気付いた半魚人がこちらに向かって来る。
 さほど知能の高くないディアボロに「井戸の抜け道から敵が侵入した」などという複雑な思考はできない。ただ視界に人間らしき生き物を捉えたので、主であるマレカから受けた命令に従い襲って来たというだけのことだ。
 半魚人が遠距離から放ってくる水鉄砲の攻撃をかわしつつ、陽動班の5名は素早く井戸から離れ、本丸を中心に円を描くようなコースで移動を開始した。
 しばらく走ったところで、その場を警備していた別の半魚人どもと出くわした。
 彼らも撃退士の姿を見るなり反応し、一斉に水鉄砲を撃ってくる。
 振り返れば、井戸の近くにいた連中も残らずこちらを追いかけて集まっていた。
「……頃合いだな」
 忠志は外堀で待機中の救出班に状況を報告、自らはトライデントを構えて戦闘体勢を取った。
「参りましょう」
 朔哉がその細身に似合わぬ戦斧ゴライアスを振りかざす。
 言葉こそ静かだが、彼女の胸中では悪魔への怒りが燃え盛っていた。
(人質は、絶対に助ける。そのために、私は目の前の敵を倒さなくては‥‥!)
 アウルの光に輝く戦斧を薙ぎ払い、先陣切って突っ込んで来る半魚人の頭部をざっくり断ち割った。
 ラグナのツヴァイハンダーFEの刀身が陽光に煌めき、忠志の三つ叉槍が閃光のごとく突き出される度、半魚人どもの血飛沫が上がり、マグロのようなディアボロは1体、また1体とその場に倒れていく。
 その頃になると上空の大バエどもも地上の侵入者に気付いたか、数匹が高度を下げて腐食液を浴びせてきた。
 撃退士の魔具や魔装に降りかかると酸の如く徐々に蝕み、防御力を削いでいく厄介な攻撃だ。
 朔がライフルの銃口を上げ、対空射撃を大バエに浴びせる。
「雑魚に用はありません。私の相手は‥‥」
 その先の言葉を呑み込み、少女はひたすらトリガーを引き続けた。

●冥魔の狙撃兵
 天守閣の屋根に立ち、マレカ・ゼブブはじっと空を見上げていた。
 上空を飛び交っていた大バエの一部が獲物を見つけたように降下していく。
 視線を下げると、二の丸でディアボロ群とやりあう撃退士達の姿が見えた。
(たった5人? それにあいつら、あれだけ守りを固めた三の丸をどうやって突破してきたのかしら)
 外見はあどけない幼女の姿をとった悪魔は小首を傾げる。
 念のため三の丸、そして周囲の亀山公園を見渡すが、敵の後続部隊らしきものは見当たらなかった。
「ま、いーわ。飛んで火に入る夏の虫‥‥ってね」
 身にまとっていたワンピースドレスが消滅し、一瞬全裸となったマレカの体を黒い魔装の鎧が包む。その両手に長銃身のアサルトライフルが出現した。
 対天使突撃銃エンジェルバスター。形こそ人類の自動小銃に似ているが、悪魔専用の魔具らしく禍々しい装飾が施され、その銃身にはこれまでに仕留めてきた天使の数が撃墜マークのごとく刻まれている。
「楽しい楽しい、狩りのお時間よぉ♪」
 愛銃に軽く口づけすると、マレカは黒い翼を広げて天守閣から飛び降りた。

 次々と襲いかかる半魚人と大バエを相手に奮戦していた陽動班を、突如凄まじい弾幕が襲った。
 上空の大バエに隠れる形で、小さな影が素早く空中を移動する。
 その度に激しい銃弾の雨が問答無用で降り注ぎ、ただでさえ腐食液で防御の落ちた撃退士達の生命をみるみる削っていった。
「‥‥現れましたね」
 予想どおり出現したマレカに狙いを定める朔だが、射程が届かず悔しげに唇を噛む。
 マレカは人類側V兵器の射程を計算した上で、自らは安全圏からのアウトレンジ攻撃に徹するつもりらしい。
 ともあれ彼女をこちらの間合いに引き込まない限り、一方的になぶり殺しにされるだけだ。
 論子は光の翼、忠志は小天使の翼を広げて宙へ舞い上がった。
「あら? アンタ確か‥‥」
 見覚えのある忠志の姿に、マレカが一瞬銃撃を止める。
「誰かと思えば貴様か。また会ったな」
「いつぞやは部下が世話になったわねぇ。今日は『主』としてきっちり落とし前つけたげるから、覚悟なさい」
 ニヤリと笑ってライフルを構え直すマレカの出鼻を挫くように、
「この城の新たな主・マレカ殿よ! 聞いてくれ!」
 地上からラグナの大音声が空中に響き渡った。
「な、何よ?」
「貴殿を誇り高き精神を持つ、崇拝に値する悪魔とお見受けし、お願いする‥‥無辜の民、人質を返してくれッ!」
「はぁ?」
 呆れたように肩を竦めるマレカ。
「いったい何を言い出すかと思えば‥‥そういわれて『ハイそうですか』って素直に返すおバカさんがいると思って?」
「むろんタダとはいわん。貴殿のゲート作成は邪魔しないと約束しよう」
「ふ〜ん」
 マレカの口許にずる賢い笑みが浮かんだ。
「なら、まずはそっちから先に撤退したらぁ? 城の外まで出たのを確認したら、人質も解放してあげる‥‥かもね♪」
 これにはラグナも返答に窮した。
 いま自分達が撤退すれば、マレカは再び本丸に引き返す。そこで救出班と出くわせば、全てはぶち壊しだ。
「答えられない? ハッ! そんなこったろうと思った!」
 容赦ない弾幕攻撃が、再び撃退士達を襲う。
「ちっ‥‥所詮、悪魔といえども子どもは子どもか! 話にならんわッ!」
 時間稼ぎの交渉はこの辺りが限界だろう。
 小天使の翼を広げ、ラグナは飛翔して行く手を阻む大バエどもに斬りかかった。
「なめるな! こっちはアンタたちが生まれるずっと前から、戦場で天使どもとやりあってんのよっ!」
 逆上したマレカが、銃を撃ちまくりながら迫ってくる。
「ぐうっ」
 咄嗟に瞬間非モテダークサイドを発動し必至に耐えるラグナ。
 だが1発銃弾を食らうごとに確実にダメージは重なり、目の前が霞んでくる。
(侮辱だろうが、面罵だろうが‥‥私には、ちっとも痛くないッ! なぜなら私は盾‥‥人々を護る盾なのだからッ!)
「何よそのキモいオーラ!? おまけに血涙なんか流しちゃって――さてはアンタその歳で童●ね! キャハハハ!」
 ――ブチッ。
 ラグナの頭の中で、何かが音を立てて切れた。
「うおぉぉぉ!!」
 大剣を振りかざし吶喊。
 間合いに飛び込んだところで、 
「消し飛べ、リア充どもッ!」
 非モテの憤怒を昇華した涙のごとき白い光波が一直線に飛び、マレカを後方へ弾き飛ばす。
「きゃっ!?」
 防御陣を展開した忠志はわざと目立つ動きでマレカの注意を引き、論子は横合いの死角から遠距離魔法攻撃。
 だがすぐさまフルオート射撃の返礼を受ける。「銃弾」とはいってもV兵器同様実体化した魔力の塊なので、マレカの生命が尽きない限り弾切れもあり得ないのだ。
「くっ! 容易に近寄ることはできなそうだ‥‥」
 悔しげに叫ぶ忠志。
 だが彼らは苦戦しているように見せながらも、実はマレカを井戸から引き離すべく巧みに誘導していた。
「‥‥?」
 マレカはふと己の射撃の命中率が急に下がったことに気付いた。
 朔が地上から放つ回避射撃で彼女の弾道を逸らしていたのだ。
「射程外からの狙撃だって、タイミングには癖が出る。‥‥その癖は、前に大体掴めた。なら、そらす程度は無理じゃない」
 同じスナイパーの存在に気付いたマレカが、自ら地上へと降下する。
「マレカ・ゼブブ‥‥久しいですね。前に会ったのは、香川のマンションでしたか」
「あの時、やけに腕のいい狙撃兵がいると思ったけど‥‥アンタだったのね」
「こちらの手の届かない位置から狙撃‥‥相変わらず見事でした。流石、と言うべきですか」
「敵に届かないなら弾を撃つか――考えたわね。こりゃますます人質を返すわけにはいかなくなったわぁ」
「ええ、交渉なんて最初から当てにしてません。‥‥私は、貴女を取ります」
「気に入ったわ。アンタ、名前は?」
「‥‥九条 朔」
「アハハハ! 憶えとくわよ。ただし獲物としてね!」
 2人の狙撃手は互いに銃口を向け合い、真っ向から凄まじい弾丸の応酬が始まった。

●救出班、出動!
 陽動班が死闘を繰り広げいる間、忠志から連絡を受けた救出班5名もお堀の抜け道を通り二の丸に到着していた。
 周囲を見回すと、幸いディアボロの姿はない。
「よし。急げ!」
 絃也の合図で撃退士達は一斉に本丸の石垣目指して走り出す。
 石垣の高さはおよそ8m。
 挫斬はゲーム機を通し、アキラに鏡介の注意を引くよう要請した。
『うん。やってみる』

「お兄ちゃん、僕トイレ行きたいよー!」
「はぁ? おまえ男だろ、その辺ですませちまえ」
「やだ恥ずかしい! 大きい方だもんっ」
「あのなぁ‥‥」

 オーデンは闇の翼で、それ他の者達はフリークライミングの要領で素早く石垣をよじ登る。
 トイレトイレと騒ぐアキラに気を取られた鏡介は気付かない。
 なまじ感情などない分、護衛の半魚人の方がいち早く動いた。
 最初に本丸に降り立ったオーデンが大剣ヴァッサーシュヴェルトから衝撃波を放ってディアボロの出鼻を挫く。
「まずはこいつらから片付けないとな」
 幻蝶・黒でディアボロの視界を奪った氷雅はシルバーマグWEの強装弾を撃ち込む。
「噴(ふん)っ!!」
 大地を踏みしめることで頸力を乗せる歩行法、いわゆる「震脚」でディアボロに間合いを詰めた絃也が闘気を解放、拳撃や肘打ちといった通常の拳法に加え、腰を支点に上体を上下左右に振り、両腕を風車のように振り回す連続攻撃――劈掛拳を駆使して半魚人を蹴散らす。
 仲間達が半魚人と戦いこれを牽制している間隙を衝き、麦子と挫斬は縮地を使い一気に鏡介の方へと接近した。
 ようやく事態を把握した鏡介が、慌ててアキラを含め人質を身辺に集めた。
「く、来るんじゃねーっ! 一歩でも近づいたらこいつらの命はねーぞ!!」
 人質にチェーンソウを向け、必死の形相で怒鳴る。
 実に分かりやすい反応である。
「おひさ〜。一緒にパンツ選びして以来ね♪」
 まずは顔見知りの麦子が親しげに挨拶した。
「パンツ‥‥?」
 人質の男女が怪訝そうに鏡介を見つめる。
「ばっバカ! こんなトコでそんな話出す奴があるかっ」
「つれないわね〜。ならぶっちゃけて話しましょ。人質解放してくれない?」
 表情こそにこやかだが麦子の目は笑ってない。
 返答次第ではこの場で戦闘も辞さず――全身から殺気のオーラを立ち上らせている。
「バカいえ! ンなことしたら、俺が後でマレカ様にお仕置きされんだろが!」
 どこまでも我が身可愛さの鏡介である。
「だから、マレカちゃんのゲート生成には目をつむってあげる。私達の任務は人質の救出だけなんから」
「まさか‥‥?」
「ホントよ。マレカちゃんには、『頑張って戦ったけど、人質だけ取り返されちゃいました』って謝っておけばいいでしょ?」
「‥‥」
 鏡介にとっては願ってもない話だ。正直人質などどうなっても構わない。撃退士が撤退して無事ゲートを生成できれば、後は何とでも言い訳が立つ。
 だが数秒後、男は首を横に振った。
「いやいやいや! 嘘に決まってる! どうせ人質を取り返したら攻撃するつもりだろ?」
 その時、一通り半魚人を片付けたオーデンが話に割って入った。
「『撃退士どもがここまで来て邪魔だてするようなら、アンタこいつらを1人ずつ始末なさい』‥‥でしたかね?」
「な、なぜそれを!?」
「撃退士の中には『意思疎通』というスキルを持つ者もおりましてね、ある程度遠くでも、お話が出来るのですよ」
「なんだ‥‥と?」
「さあ、問題です。この中に、何人撃退士がいるでしょう?」
 鏡介は額に汗を浮かべ、人質32名をまじまじと見つめた。
 実際にはアキラ1人だけだが、一度疑い始めると何だか全員が撃退士のように見えてくる。
「わ‥‥分かった、取引しようぜ。この中から10人だけ解放してやる。それでおまえらが本当に撤退したら、後の連中も返すってことでどうだ?」
(せこい‥‥!)
 撃退士一同の呆れ顔に気付いたか。
「文句あっかぁ!? 10人だろうが30人だろうが命の尊さに変わりねーだろが!」
 どの口でいうかこの男は。
「――とはいえ人質の中に一般人が多いのは事実。ここで貴公と戦えば、犠牲を出さないのは難しいでしょう」
 オーデンはなおも粘り強く交渉を続ける。
「どうです? 我々の受けた命令は、人質の救出だけ。そちらが人質を解放して頂けるなら、我々は大人しく撤退しますよ」
「うむむ」
「ああ、こちらが裏切る可能性? そうすれば貴公等は攻撃してくるでしょう? 悪魔とヴァニタス相手に、犠牲を出さずに戦う自信はありませんね」
 大袈裟に肩を竦めるオーデン。
「命令失敗の罰は『一週間おでん抜き』だそうです。一週間もおでん無しでは、生きている意味さえ失ってしまいそうです。嗚呼‥‥、恐ろしい」
「いや俺もおでん好きだけど‥‥それほどかぁ?」
 ちょうど天守閣の反対側から、しきりに銃声が轟く。こうしている間にも陽動班はマレカやディアボロを引きつけるべく戦い続けているのだ。
「‥‥ねぇ、あなた人質を傷つけた瞬間に私達に解体されるって解ってる?」
 進まぬ交渉に苛立った挫斬が、鏡介に向けて一歩近づいた。
「アナタの道は二つ。人質と一緒に心中するか、人質を解放して助かるか。好きなほうを選びなよ。ただし、面倒だから10秒経ったら私は人質無視してアナタを解体するね! キャハハハ!」
 鏡介は愕然とした表情で挫斬を凝視した。
 互いの実力差がどうこうといった次元を超えた、ある種の「狂気」を彼女の瞳の中に見てしまったらしい。
「10、9、8、7、ろ」
「うぎゃぁぁぁこっち来んじゃねぇ――ッ!!」
 緊張に耐えきれず、先にキレたのは鏡介だった。
 チェーンソウを振り上げ、なぜか人質ではなく撃退士めがけ切りかかって来る。
 最初の標的にされた挫斬が咄嗟に偃月刀で受け止め、麦子が大山祇で斬りつけると――。
『うわっやられた〜!!』
 何となく棒読みっぽい叫びと共にばったりその場に倒れた。
「‥‥はあ?」
 あまりの呆気なさに、麦子は目を丸くして近づいた。
 鏡介は俯せに倒れたまま、
(しっ! しっ!)
 と言いたげに掌を振っている。
 ‥‥わざとらしい。
「それならまあ、遠慮なく♪」
 最後の半魚人を倒した他の撃退士達も集まり、もはや鏡介の方には目もくれず人質を引き離した。
「よく頑張ったな‥‥あと一踏ん張りだ」
 氷雅がアキラの頭を撫で、ラグナから託されたカイトシールドを渡す。
 まだ先は長い。これから一般人31名を連れての脱出行が始まるのだ。

●解放への道
 二の丸では陽動班の死闘が続いていた。
 傷ついた仲間達への回復スキルを使い果たし、自らも深手を負いつつも、朔哉はなお群がるディアボロを相手にゴライアスを振るう。
「やらせません! 倒れる、ものですか‥‥!」
 雨のごとく降り注ぐ腐食液に全身を蝕まれても。
 マレカが乱射する弾幕に射貫かれても。
「圧倒的な力に媚を売る事は簡単ですが、それは力に生かされている証‥‥!」
 逆しまのロザリオから放った闇の刃で頭上の大バエを撃墜し、そこで力尽きたように倒れるも、すぐ斧槍を支えに立ち上がり、周囲の敵を睨みつけた。
「私は生きます、自分の脚で、例え茨の原野を進む事になっても!」
 一方撃退士側も、地上に降りたマレカを包囲し、銃弾の雨をかいくぐって徐々に攻勢を強めていった。
 ハンズフリーのスマホから「人質救出」の報せを受けた忠志は、最後の時間稼ぎのため三つ叉槍を構え差し違え覚悟の刺突をかける。
 マレカが飛んで離脱できないよう、論子は既にボロボロの体にむち打って上空に留まり、ひたすら魔法攻撃を繰り返す。
 肩に銃弾を受けた朔は倒れながらも反撃のトリガーを引いた。
「はっ! どこ狙って――ぐっ!?」
 見当違いの方向に打たれた銃弾は石垣に跳ね返り、跳弾となってマレカの脇腹に命中していた。
「外した、とでも思いましたか? ‥‥こういう当て方もあるんです」
 体勢を立て直し、素早く悪魔の少女に駆け寄る。
 間合いを詰めたところで魔具を2丁1組の拳銃ツインクルセイダーに持ち替えた。
「‥‥ここまで距離が詰まれば、その大物は取り回しづらいでしょう」
 よろめくマレカに至近距離からの銃弾を浴びせる。
「なかなかやるじゃない‥‥」
 マレカのライフルが消え、その両手に拳銃とサバイバルナイフが出現した。
「それでこそ地球に来た甲斐があるってモノよぉ!」
 双方零距離での銃撃戦。
 さらにナイフの斬撃を浴び、ついに力尽きた朔が倒れる。
 だがマレカの方も全身朱に染まり、その動きは目に見えて鈍っていた。
 上空からは増援の大バエが近づいてくる不気味な羽音。
 その時、忠志が槍を縦に持ち替え左右に振った。
「救出班、脱出完了」の合図である。
 それを契機に、撃退士達は一斉に後退を開始した。
 身動きできない朔を、自らも傷だらけの朔哉が助け起こし。
 なお追いすがるディアボロに対しては、ラグナと忠志が殿となってその攻撃を食い止めた。
「撤退? 何で急に‥‥」
 撃退士達の動きに不審を覚えたマレカは、やがてハッとしたように舞い上がり、本丸へと急いだ。

 本丸に引き返したマレカが見たのは、半魚人5体の死骸と地面に座りこんだ鏡介の姿。
「このスカタン! 何で人質逃がしちゃったのよ!?」
「いや〜面目ないっす。俺も抵抗したんですが‥‥」
 口でいうほどダメージを受けているようには見えない。
「アンタ‥‥まさか、命惜しさにあいつらと‥‥」
 殺意に目をギラつかせライフルを構える主に対し、鏡介は悪びれもせず答えた。
「ちょちょ、待って下さい。おかしいと思いませんか? 三の丸にあれだけの半魚人を置いて守らせてたのに、奴らはまるで魔法みたいに二の丸から現れた‥‥なぜでしょうかね?」
「――!」
 鏡介の言葉の意味を悟ったマレカは、慌てて石垣の端に駆け寄り二の丸を見下ろした。
 さっきまで交戦していた5人の撃退士が、次々と井戸の中に飛び込んでいく。
「あんな所に抜け道が‥‥」
「でしょ? いや俺もそれを確かめたくて、わざと奴らを見逃したってわけです」
 半分は嘘である。暇つぶしに読んだ観光ガイドでちらっと目にした「抜け道伝説」のコラムを思い出し、必至でひねり出した言い訳だった。
(ふぅ。まさか本当にあったとはなぁ‥‥)
「ヤバかったわ‥‥もしゲート生成の呪文詠唱中に、あの抜け道から奇襲されてたら‥‥」
「ディアボロに追撃させますか?」
「ほっときなさい。あの井戸さえ封鎖すれば、今度こそこの城は難攻不落の要塞になる‥‥それを思えば、人質30人なんて安いものよ」
 そこまで言って、マレカはがっくり地面に膝を突いた。
「マレカ様!?」
「鏡介‥‥悪いけど‥‥アタシを天守閣まで運んで。一刻も早く、ゲートを生成しなくちゃ‥‥」
「大丈夫ですか? そんな体で」
「心配ない。その分の魔力は残してあるわ‥‥でも、これでアタシは暫く動けない体になる。後のことは‥‥任せたわよ」
「は、はいっ」
 魔装が消えて裸になった主に自分のレザージャケットを掛けてやると、鏡介は彼女の小さな体を抱え上げた。
 最後の命令を下して気が緩んだのか、マレカはいつしか眠りに落ちている。
(こうして眠ってりゃ、可愛いもんなんだけどなぁ)
 最後まで我が身を盾にしてディアボロを食い止めていたラグナと忠志が井戸の中に姿を消すのを眺めた後、鏡介はマレカを抱えて天守閣へと向かった。

●エピローグ〜広島・悪魔占領地域
「『蠅姫』から念話による通信がありました。『門は開かれた』と」
 部下の女悪魔から報告を受け、デスクの上に両足を投げ出し酒を飲んでいた上司の悪魔は満足そうに頷いた。
「上出来だ。あいつをわざわざ最前線から呼び寄せた甲斐があったぜ」
 外見上は二十代後半の若い男。野戦服に軍靴という出で立ちだが、長く伸ばした蓬髪、鼻の下に蓄えた口髭のためか、軍人というよりは海賊の親玉のごとく粗野な雰囲気を漂わせている。
「ですが‥‥彼女の消耗も相当激しいと思われます。直前の戦闘で重傷を負った体でゲートを生成したのですから」
「だろうな。増援のディアボロを送ってやれ。ヴァニタスの野郎には『守りを固めて籠城しろ』と伝えとけ」
「それだけですか? てっきりデスマルグ様ご自身が出陣するものと‥‥」
「今回の作戦を仕切ってるのはレディ・ジャムだ。陽動とマレカのゲート展開で義理立ては充分。後は彼女のお手並み拝見と行こうじゃねぇか」
 意外そうに問う部下に答えると、ウォッカの瓶を煽る。火を点ければ燃え上がるほど強い酒も、彼にとっては喉を潤すジュースのようなもの。
「この戦い、どっちに転んでも四国は大荒れになるぜ。俺達の出番はその時だ‥‥『果報は寝て待て』ってことさ」
 飲み干した酒瓶を魔法で消滅させながら、悪魔騎士の男は歯を剥いてニタリと笑った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 夜のへべれけお姉さん・雀原 麦子(ja1553)
 茨の野を歩む者・柊 朔哉(ja2302)
 迫撃の狙撃手・九条 朔(ja8694)
 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
重体: 茨の野を歩む者・柊 朔哉(ja2302)
   <悪魔マレカ・ゼブブとの交戦により>という理由により『重体』となる
 KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
   <悪魔マレカ・ゼブブとの交戦により>という理由により『重体』となる
 迫撃の狙撃手・九条 朔(ja8694)
   <悪魔マレカ・ゼブブとの交戦により>という理由により『重体』となる
 永来の守護者・久井忠志(ja9301)
   <悪魔マレカ・ゼブブとの交戦により>という理由により『重体』となる
 炎熱の舞人・番場論子(jb2861)
   <悪魔マレカ・ゼブブとの交戦により>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
迫撃の狙撃手・
九条 朔(ja8694)

大学部2年87組 女 インフィルトレイター
永来の守護者・
久井忠志(ja9301)

大学部7年7組 男 ディバインナイト
新たなるエリュシオンへ・
咲村 氷雅(jb0731)

卒業 男 ナイトウォーカー
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
炎熱の舞人・
番場論子(jb2861)

中等部1年3組 女 ダアト