●復活のK☆F!
校庭の一角、息を呑んで事態を見守る学園生徒達の耳に、何処からかグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)の熱いナレーションが響き渡った。
『強敵・賞金稼ぎ軍団の前に絶体絶命のK☆F。そして校舎の上に現れた影は、果たして敵か? 味方か?』
「――待てっ!」
校舎の屋上に立った一人、緋伝 瀬兎(
ja0009)が愛用の木刀『不知火』を構えた。
「見た目はユニークでも中身はスイート! 太陽の光の果実、クオンデコポン!」
「今日も魔砲は絶好調! 甘く白い果実! くおん☆ライチ!!」
魔砲杖レイシングハートを携えた羽鳴 鈴音(
ja1950)も名乗りを上げる。
「美味さは強さ! 正義の味方チャンコマン参上!」
寸胴鍋のマスクを被り、颯爽とマントを翻すのは阿岳 恭司(
ja6451)‥‥いや久遠ヶ原のヒーロー・チャンコマンだ!
「――またの名を空に輝く正義の流星! 星の光の果実! クオンスター!」
三人は屋上から飛び降り、大地に降り立ったときは既に変身を終えていた。
『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ、大地の恵みに導かれここに誕生!』
歴代フルーツ戦士の出現に、悪の組織もざわめいた。
「くおん☆フルーツ‥‥前にちらりと見た時は、まだ青い果実って感じだったけど、そろそろ食べ頃‥‥かな?」
賞金稼ぎの一人、桐原 雅(
ja1822)が値踏みするような視線を送る。
「新手ですか‥‥最初に戦った3人は弱くてお話になりませんでしたの」
並行宇宙から来た悪魔、ユーノ(
jb3004)は気怠げに髪をかき上げた。
「彼らはどれくらい戦えるんでしょうか? お手並み拝見としましょう」
「少しは歯ごたえあるといいんだけどね」
報酬より戦闘そのものが目当ての高峰 彩香(
ja5000)も、武器を弄びつつ新手の戦士達を見守った。
「前にもこうやって助けた事あったっけ‥‥つばさちゃん?」
「チャンコマン!」
まだ一般人だった頃、危ないところを助けてくれたヒーローとの再会に、クオンアップル=綿谷つばさの顔が輝く。
『ヒィーッ!』『ヒィーッ!』
全身黒タイツ姿、青竜刀や鉤爪で武装したインフェルノン戦闘員が群れをなしてK☆Fメンバーに襲いかかった。賞金稼ぎ達は「とりあえずの様子見」といった風で後方に待機している。
くおん☆ライチの魔杖が火を吹き、数名の戦闘員をまとめて吹き飛ばす!
砲火をかいくぐり突撃してきた敵を迎え撃つのは、クオンデコポンの木刀とクオンスターのプロレス技だ。
20名近い数で襲いかかった戦闘員軍団は、数分と経たぬうちに戦闘不能となり地面に倒れ伏した。
その間、つばさの応急手当を受け意識を取り戻した湊ヒカリ(jz0099)、夜見路沙奈も各々クオンバナナ、クオンザクロに変身。
『これで新旧のフルーツ戦士6人が揃ったぞ! さあ力を合わせてインフェルノンを撃破だ!』
●迫り来る魔手!
6人の戦士がいざ反撃と体勢を整えた、その時。
ドゴォ――ン!!
爆音と共に学園の各所から火の手が上がった。
悲鳴を上げて逃げ惑う生徒達に、壁や床から吹き出す毒ガスがさらなる追い打ちをかける!
「うふふ‥‥ちょうど時間通り」
遁甲の術を解きほくそ笑むのは賞金稼ぎ、宇宙の外道ニンジャ黒百合(
ja0422)だ!
「何てことを‥‥罪もない生徒達に」
くおん☆ライチが呆然として呟く。
助けに行こうにも、悪の軍団を目の前にして身動きがとれない。
「あらァ、正義の味方が一般人のピンチを無視するのォ、助けないのォ‥‥助けを呼んでいるのに見殺しなんて酷い人ねェ‥‥この悪魔ァ‥‥」
「くっ‥‥!」
一陣の風が吹き、薔薇の花弁を吹雪のごとく舞い上げたと見るや、そこに欧州貴族風の衣装に身を包む神凪 宗(
ja0435)が立っていた。
「あぁ〜力なき正義は虚しいものだね」
手にした一輪の薔薇をすっ‥‥と瀬兎に向けて投げる。
「あっ! お前は‥‥薔薇シスト!」
「久しぶりだね、クオンデコポン」
「鮮血☆サラダバー!」
K☆Fメンバーの鼻先で大地が盛り上がり、火山のごとく爆発した!
地底から湧き上がるマグマに赤く照らされ、御手洗 紘人(
ja2549)が妖しく嗤う。
「ゲェーッ! ブラディ☆チェリー!?」
「あはは! スターちゃんったらチェリーが恋しくなったの?」
その後方では、
「今時奇声を上げて突っ込むだけなんて流行らないから。さあみんなこれ読んで」
『ヒィ〜?』
鴉乃宮 歌音(
ja0427)こと悪の科学者ドクタークロウ(ドク)が、過去のK☆Fとの戦闘データを「戦いのしおり」にして増援の戦闘員達に配る。その分厚さたるや辞書並み、これだけで充分凶器になりそうだ!
「こんな所まで来たんだから、楽しませてよね」
戦場に現れたインフェルノン歴代幹部を尻目に、ついに闘争心を押さえ切れなくなった彩香が進み出た。
片手に装備したスネークバイトに魔力を充填、フルーツ戦士達めがけ振り抜きざまに黒い光の衝撃波を放つ。
「へぇ‥‥これは少しは楽しめそうですの」
歴代フルーツ戦士の戦闘力に興味を覚えたユーノは黒い翼を広げて空に舞い上がるや、上空から雷を落として攻撃を開始した。
「我、ここにあり。明日に立つのは我らか貴方がたかだ!」
賞金稼ぎのヴェス・ペーラ(
jb2743)が高らかに名乗りを上げる。
恍惚の表情でウイングクロスボウを撫でると、唇を三日月の形に吊り上げて引き金を引いた。
弩弓から放たれた矢はヴェス自身の念動力によりジグザグ軌道を飛び、ありえない角度からフルーツ戦士を狙う!
「何て威力なの‥‥」
己の魔砲杖にも匹敵する魔弓の威力に、鈴音は思わず息を呑む。
対抗するべく頭上に2門の魔砲を召喚。ちなみに1門は仲間の魔砲少女からの預かり物である。
「ライチォン――」
だがトリガーを引く直前、エネルギーチャージの隙をついて黒百合の大鎌ハイパーデブルブリンガーが振り下ろされた!
「ああっ!?」
「必殺技の最中は攻撃しない? そんなルールだれが決めたァ、あはははァ!」
「くおん☆ライチ‥‥残念ながらあんたの弱点は解析済みよ!」
ブラディ☆チェリーが薄笑いを浮かべ。
「いでよ地獄獣グルメゴロ! やっておしまい!」
『うぉ〜っ!』
現れたのは一見サラリーマン風の咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)‥‥だがその正体は胃袋の中に無限の大宇宙を抱えた最強の地獄獣だ。
『誰から食べて欲しいのかなーぁ』
黒百合の攻撃で地面に倒れたライチの側へ接近するや。
「えっ‥‥?」
ぱくり。一口で呑み込んでしまった。
『ウマー。ジューシーィ』
「むっ、いかん!」
救援に向かおうとするクオンスターだが、チェリーの指揮する戦闘員部隊に阻まれてしまう。
「あらぁどこ行くのぉ〜? チェリーと遊んでくんなきゃイヤ☆」
当るを幸い、襲い来る戦闘員どもをチャンコパンチでなぎ倒すスターだが。
ただでさえドクからの情報提供を受けた敵、しかもスター自身の戦法を熟知したチェリーの采配により徐々にスタミナを削られていく。
「思った以上に粘りますのね。ここまできた甲斐があったというもの」
さらに上空からはユーノの雷が降り注ぎ、思うように動きが取れない。
「血華☆チェリーウィップ!」
チェリーの手に生じた魔力の雷が、鞭状に伸びてクオンスターを撃った。
その時――。
「助太刀いたす!」
影手裏剣が飛び、黒猫の着ぐるみに身を包んだ謎の忍者が大太刀を振るい乱入した。
「おおっ、君は!」
彼の名はカーディス=キャットフィールド(
ja7927)。一般生徒として学園に通う昼間の姿は世を忍ぶ仮の姿。その正体は人知れず猫達と平和を護る黒猫忍者だ!
かつてクオンスター=チャンコマンに助けられた過去があり、ピンチを見かねての助太刀であったが。
「邪魔する奴はまとめて血祭りよ☆」
血華☆チェリーウィップの攻撃を受け、たちまち窮地に立たされてしまう。
「先輩!?」
先代戦士達の元に駆けつけようとしたクオンアップルの前に雅が立ちふさがった。
「君の相手はボクだよ」
「何者よ!?」
「そうだね‥‥『アストライア』とでも名乗っておこうかな」
名乗りを上げた賞金稼ぎの姿は、コートにサングラス姿と凛々しい気配。
ただし猫耳・尻尾がその印象を可愛らしくしているが。
同じく猫耳を付けたアップル=つばさに目を付けたらしい。
一見冷凍マグロとしか思えない、だがマグロ以外の何かで出来た大剣を豪快に振り回し、アップルを寄せ付けない。
「ちょっと本気を出させてもらうよ」
闘気解放、さらに薙ぎ払いの一撃!
地面に弾き飛ばされアップルの意識が一瞬飛んだ。
やはり駆け寄ったデコポンの行く手を、ボロボロの黒マントを羽織ったフロスト(
jb3401)が遮った。
「あなたとなら楽しく斬り合えそうです。‥‥いざ、尋常に勝負」
素早く間合いを詰めて斬りかかってきたフロストの小太刀を、デコポンは咄嗟に不知火で受け止めた。
「くっ、強い‥‥よし超熟!」
悪魔の剣士を倒すべく、瀬兎はパワーアップを図るも。
「‥‥えっ超熟化できない? 何で!?」
戸惑うクオンデコポンにフロストが容赦なく刺突をかける。
戦闘を楽しむため地球に来た彩香にとって、敵であれば誰でも構わない。強ければなおのことよしだが。
たまたま目の前に居合わせたクオンザクロに対しても容赦なく挑みかかっていく。
「‥‥」
セーラー服の少女が手にしたワンドを振ると、思いの外強力な攻撃魔法が飛んできた。
「まだまだ、こんなんじゃあたしは倒れないよ!」
全身に風をまとった彩香は一瞬で急加速、目にも止まらぬ斬撃を加える。
ザクロは僅かに顔を歪め、無言のままくずおれた。
インフェルノン幹部「カーマインオーガ」こと鈴原 りりな(
ja4696)にとって今回の作戦は不本意だった。
日本支部の有力幹部ドクタークロウを慕う彼女にとって、極東エリアから派遣された大幹部Dr.デモスはただでさえ煙たい存在だ。あまつさえよそ者の賞金稼ぎを雇って戦うなど、日本支部メンバーにしてみれば屈辱以外の何物でもない。
とはいえ、ここで反抗してもドクの立場が悪くなるだけなので不承不承参戦しているが。
「賞金稼ぎ‥‥せいぜい利用させてもらうよ」
フリル服の鬼少女が空へと舞い上がる。
戦闘員と交戦するクオンバナナを狙い、上空から狂気じみたオーラの攻撃を仕掛けた。
警戒したようにショートソードを構えたバナナめがけ急降下。
「あはははっ! これで壊してあげるよ!」
両手をクロスしてオーラを放つ必殺技「紅月夜ノ爪」が閃く。
「うわあああ!?」
大ダメージを受けたバナナが地面に倒れ伏した。
「ちょっと代わって下さい。彼女に挨拶したいのでね」
薔薇シストが声をかけるとフロストは一瞬不服そうな表情になったが、雇い主の顔を立てるように無言で引き下がった。
「まあ本音をいえば君達が賞金稼ぎと相討ちになってくれればありがたいのですが‥‥私とて日本支部幹部。少しは働かせてもらいましょう」
「何度来たって負けないよ!」
再び相まみえた敵幹部と対峙し、クオンデコポンが険しい顔で木刀を構える。
「ふっ。私があれから遊んでいたとでも思いますか‥‥ローゼスハリケーン!」
男の周囲から無数の薔薇の花弁が舞い上がる。だが次の瞬間、それは超小型爆弾と化してデコポンに襲いかかった。
「うっ‥‥!」
ダメージに耐えかね、地面に片膝を突く瀬兎。
『凶悪なインフェルノン幹部、そして賞金稼ぎの前に一人また一人と倒れていくK☆F‥‥最後の光が失われた時、世界はこのまま闇に閉ざされてしまうのか!?』
●新世代フルーツ戦士誕生!
「いけない。くおん☆フルーツの皆がこのままじゃ負けちゃう‥‥!」
息を呑んでK☆Fとインフェルノンの壮絶な戦いを見守る学園生徒達の中にみくず(
jb2654)の姿があった。
一見、ごく普通の女子高生。だが魔法の力を持つ者なら、彼女の狐耳・狐尻尾に気づくであろう。
何を隠そう彼女は異世界の住人。フルーツ戦士の力の源、魔法の果実の主である『大地の女神』の依頼により、この世界でK☆Fのスカウトマン兼アドバイザーを務めているのだ。
「新しい仲間‥‥さらなる新戦士が必要だよ!」
みくずは首に提げたペンダントを握りしめた。新戦士候補に近づくと光り輝く魔法のアイテムである。
さらに魔法で姿を消したみくずは行動を開始した。
「やれやれー! そこだ、ボディだ!」
K☆Fに声援を送っていた生徒の一人、六道 鈴音(
ja4192)は己の手の甲に紋章が浮き上がり光り出したのを見て驚いた。
「これは!?」
「何という事じゃ‥‥あのくおん☆フルーツがやられるとは‥‥!」
同じく戦いを見つめていた叢雲 硯(
ja7735)も、すぐ目の前に大きな緑色の光が浮かぶのに気づいて目を丸くした。
その時アマチュア歌手で学園アイドルの三善 千種(
jb0872)は、戦場から少し離れた校庭のミニステージで歌を披露していた。
「おや、何か騒がしいですねぇ‥‥あれが噂のインフェルノンですかぁ」
歌を中断した千種の目前に光が輝く。
「んー、なんだろうこの宝石‥‥」
怪訝そうに見つめる彼女の頭に、みくずの声が響いた。
「くくく‥‥K☆F全滅も時間の問題じゃのう」
後方の安全地帯。魔法の水晶玉から戦場を俯瞰するDr.デモスが歯を剥いて笑う。
「勝った後は賞金稼ぎに適当な報酬を払って追い返せば、手柄は我が輩の独り占め。この調子で出世すればいずれ組織を牛耳るのも時間の‥‥何ぃ!?」
水晶玉の中で、事態は意外な展開を見せていた。
『完熟! くおん☆フルーツ!』
何処からともなく上がった複数の声に、インフェルノン幹部・戦闘員・賞金稼ぎは怪訝そうに周囲を見回した。
既にフルーツ戦士達は力尽きて大地に倒れている。
悪の勝利は目前と思えたが――しかし!
「久遠ヶ原に香る黒き宝玉・クオンカシス!」
黒のコスチュームに身を包み、颯爽とポーズを取るのはレイラ(
ja0365)だ!
「クオンブルーベリー、参上!」
「クオンマンゴー、ここに参上っ☆」
鳳 静矢(
ja3856)、そして夫の肩車に乗った鳳 優希(
ja3762)だ!
「くおん☆が燃えれば皆が萌える! くおん☆パーシモン爆誕!」
ズビシィッとインフェルノンを指差しポーズを決める鈴音だ!
(あれ‥‥私柿なの?)
「クオン☆キウイ。覚悟完了でござる‥‥」
黒猫魔法忍者☆になって復活したカーディスだ!
ちなみにキウイはマタタビ科の果物だぞ!
「豊穣の緑の光、くおん☆メロン! 戦いはパワーじゃー!」
巨大な魔法のハルバードを構えた硯だ!
「くおん☆ラズベリー華麗に見参☆ ですよっ」
アイドルらしく紫ベースの舞台衣装をまとった千種だ!
「歌って踊れるマジ天使☆ だけど悪者には容赦なくお仕置きしちゃうよ♪ くおん☆プラム!」
セラフィ・トールマン(
jb2318)、アメリカからの参戦だ!
「かわいいはせいぎ、ましゅろはかわいい、だからましゅろがせいぎで主役っ! フルーツのおひめさま、くおん☆ストロベリーとうじょうだよ!」
白ロリゴスに身を包んだ真守路 苺(
jb2625)だ!
上空には彼らをここまで導いてきた魔法の果実が光を放っている。
果実から一筋の光が走るや大地に倒れた戦士達の負傷もみるみる癒やされ。
新たに誕生した9名を加え、フルーツ戦士達は改めてポーズを決めた。
『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ、大地の恵みに導かれここに誕生!』
背後でドドーン! と七色のスモーク爆発。
「しゃらくさいわね! グルメゴロ、こいつらみーんな食べちゃいなさい!」
『りょおかーい』
チェリーの命令を受け、グルメゴロがのっそり近づく。
大口を開いた地獄獣に向かい真っ先に駆け寄ったのはパーシモン。
「完熟☆パーシモンスープレックスホールド!」
グルメゴロの背後を取って抱え上げ、すかさずジャーマンスープレックスホールドを極める!
「わん! つー! すりー! かんかんかんかん」
ゴング音まで自分で叫びフォールを取った。
『ゴホッ!』
大地に頭から叩きつけられたショックでグルメゴロが咳き込む。
その瞬間、先程呑み込んだくおん☆ライチをポンと吐き出した。
「‥‥まさか宇宙を旅してくるとは思わなかったですよぉ〜」
鈴音は冷や汗を拭い、再び構えたレイシングハートをチェリーに向けた。
その頭上でダブル魔砲の砲口に光の粒子が収束。
「アクセルチャージャー起動!! ‥‥くらえ☆デカディメントスマッシャー!!」
リミッター解除した魔砲&魔砲杖の斉射がチェリーを襲う。
「きゃああっ!?」
吹き飛ばされたチェリーに対し、クオン☆キウイが猫影手裏剣☆烈! で追い打ちをかけた。
「やったわねぇ〜‥‥パワーアップがあんた達だけの特権だと思ったら大間違いだよ!」
自ら闇の力を解放し、ダークネス☆チェリーへと進化。
「あはは! 綺麗に吹き飛ばしてあげるよ! 散華☆チェリーブロッサム!」
両手に魔力を集中するなり、周囲の敵味方構わず無差別攻撃を放った。
威力は強大だが、チェリー自身の防御力を犠牲にする危険な自爆技だ。
「自爆には自爆を‥‥」
何を思ったか、ブルーベリーはおもむろにマンゴーの体をつかんでジャイアントスイング風にぶんぶん振り回し始めた。
次の瞬間、夫の手を離れた優希は放物線を描いて敵陣へと飛び込んだ。
「行け、優希!」
「とりゃああああああああああああああああ、大炸裂なのですよぅぅぅぅ☆」
敵陣のまっただ中で色とりどりの花火が一斉に上がる。最後は優希の顔をモデルにした大輪が花開いて戦闘員多数を撃破。
運悪く上空にいたユーノも撃墜された。
これぞ合体必殺技「完熟☆マンゴー的大花火」。
大炸裂の直後、ブルーベリーがすかさず敵陣に突入、妻を抱え上げた。
「よし、よくやったな優希‥‥撤収だ」
「‥‥うむ、してやったりなのでしたなの☆」
生き残りの戦闘員が退路を塞ぐも、
「喰らえ‥‥我が必殺!『完熟☆ブルーベリーバード!!』」
大太刀から飛び出した紫色の大きな鳥形の光が敵を薙ぎ払い、静矢は優希を抱えたまま戦場を駆け去る。
「まあ‥‥最後にこれだけ戦えたら、満足ですの‥‥」
傷ついた翼を庇いつつ、ユーノもその場から立ち去った。
「さーて、私も混ざってやっちゃいますかねぇ」
新体操選手のごとくかざされたくおん☆ラズベリーの手から、くるくると螺旋を描いてラズベリーリボンが伸びる。歌って踊りながら戦えば、リボンの先が鋭利なナイフとなって戦闘員を切り裂いた。
その傍らでは、
「ましゅましゅましゅろの、ストロベリー☆タイム」
同じく新体操のリボンを武器にしたくおん☆ストロベリーが軽やかに舞いつつ戦闘員を倒していく。リボンが振られる度、その周囲に星の様な光が煌めいた。
「うふふ♪ 月まで吹っ飛ばしてあげますっ☆」
可憐な笑みを浮かべ、くおん☆プラムが戦闘員の間合いに走り込む。
敵の懐に飛び込むやいなや、
「完熟☆サマーエンジェルストライク!」
説明しよう。サマーエンジェルとはスモモの品種の一つ。その名を冠したプラムの必殺技は‥‥渾身の腹パンだっ!
ボゴッ!
『ヒギィィ!?』
悶絶して蹲る戦闘員。
「もうっ、動いたら楽に逝けませんよぉ?」
ドガドガドガッ! 呻き声を上げる戦闘員にダメ押しのヤクザキック。マジえげつねぇぜプラム!
「まずは一人目、ですっ☆」
次々と戦闘員を蹴散らしていく新生代フルーツ戦士達に、ヴェスのクロスボウから放たれた矢が襲いかかった。
念動力で制御される矢は、一度かわしても空中で反転し幾度となく食らいつく。
「我が秘術、破れるものなら破ってみよ!」
ラズベリーとストロベリーがタイミングを合わせてリボンを伸ばし、空中で矢を絡め取った。
「むっ」
すかさず次の矢を番えようとするヴェス。
「その隙、見逃しません!」
クオンカシスが素早く間合いを詰める。
「完熟☆カシスストリーム!!」
大太刀に黒き疾風を纏わせ強力な突きを繰り出した!
「‥‥無念」
弱点を見抜かれダメージを負ったヴェスは、悪魔の翼を広げて戦場から飛び去った。
「正義の味方なんてのはねェ、勝者が決める事柄なのよォ‥‥勝てば正義ィ‥‥♪」
大鎌を振り回し、黒百合はなおも暴れまわる。
しかし先刻とは勝手が違っていた。
ラズベリーとストロベリーのリボンに動きを封じられ、 カシスとプラムの近接攻撃に気を取られた隙を衝かれ。
「大地の怒りと乙女の祈り、受けるがいいのじゃー!」
くおん☆メロンの必殺技「くおん☆エメラルドブレイカー」が炸裂。
緑の輝きを放ちながらハルバードを振り下ろす渾身の一撃だ!
「くっ‥‥この借りはいつか倍にして返す!」
手傷を負った黒百合は悔しげに戦場から離脱した。
クオンデコポンは不知火を構えてフロストと対峙していた。
(さっきは一人で頑張ろうとした。それじゃ駄目なんだ)
――仲間を信じなきゃいけなかった。
(でも、今ならきっと‥‥)
「超・熟!! スーパー☆クオンデコポン!」
瀬兎の体が光に包まれ、コスチュームが黒と橙を基調にしたデザインに変わる。
「何故です? さっきは超熟化できなかったのに」
驚くフロストに対し、
「仲間を信じて諦めなければ‥‥魔法のパワーは無限大だぁっ!」
フロストの手から小太刀が弾け飛んだ。
「私の負けです‥‥さあとどめを」
「必要ないよ。君のおかげで大切なことが分かったから」
「‥‥仲間‥‥信じる‥‥それが魔法の秘密なのですか‥‥?」
賞金稼ぎの少女は自問自答しながら戦場を立ち去った。
(ほう)
その様子を、少し離れた場所から眺めていた薔薇シストが感心するようにため息をもらす。
「ええ〜い何をしておる! 不甲斐ない!」
水晶玉を睨み付け、デモスが毒づいた。
K☆F新戦士の参戦をきっかけに戦況は一変、頼りの賞金稼ぎまでもが次々と敗れていく。
「いかん! このままでは我が輩の責任問題に――」
背中にちくっと微かな痛みを覚え、慌てて振り返る。
そこに注射器を手にしたドクタークロウが立っていた。
「責任追求を免れる方法を教えましょう。貴方ご自身が戦うことです」
ドクの片手に握られた黄金林檎を見てデモスの顔色が変わる。
「そ、それは‥‥貴様、裏切ったか!?」
「とんでもない。これは大魔王様のご意志です。極東エリアの同志を中心にセクハラ等数々の不祥事について告発が」
「な、何を馬鹿なっ」
「そうそう、秘書のビアンカ嬢からメッセージですよ」
スマホを取り出し動画メールを再生。
『セクハラは重罪です。さようなら博士』
「‥‥っ!」
老人は苦しげに胸を押さえた。
今注射したのは、ドクが研究中の「禁断の果実」から搾り取った果汁だ。
「組織って大変なのよ」
デモスの呻きが次第に人間離れしていく。その体もまたグニャリと輪郭が崩れ、不気味に膨張を開始した。
●悪魔博士最後の挑戦!
「この世に正義がある限り‥‥希望の光は‥‥決して消えたりはしない! 超・熟!」
クオンスターの体を目映い光が包んだ。
コスチュームの色が全身金色に変わる!
「スーパークオン☆スター、今ここに再誕!」
新必殺技・スーパースターパンチがダークネス☆チェリーに炸裂だ!
「完熟☆キウイ烈斬!」
同時にクオン☆キウイも必殺技を叩き込んだ。
たまらずチェリーが倒れ込む。
「負ける? チェリーが? こんな奴らに‥‥? そんなの認めなぁい!」
どこか遠くから重い地響きが近づく。
『デモデモデモ〜』
人とも獣ともつかぬ咆吼が轟き、巨大な地獄獣イカデモスが出現した。
「アレが出てきたって事は、戦況は不利って事か」
その巨体を見やり、カーマインオーガが呟く。
「ボクは退かせて貰うよ。命拾いしたね? あはははっ!(デモス、君はここで壊れてしまえばいいんだ)」
それをきっかけにオーガを始めインフェルノン幹部達の撤退が始まった。
反対に、
『グルグルグルメ〜!』
イカデモスと共鳴したのか? 復活したグルメゴロが巨大化!
『ああ、このまま2大地獄獣の手により久遠ヶ原学園は破壊されてしまうのか? 続きはCMの後で!』
(CM終了)
『大丈夫、こんな時こそフルーツオーの出番だよ』
みくずの声がみんなの心に語りかけた。
ドドド‥‥
不意に日差しが陰り、天空に巨大母艦クオンマザーが飛来した。
母艦は空中で変形、巨大ロボ「フルーツオー」に変形。
「完熟トランスフォーメーションじゃー!」
くおん☆メロンを始め、一部のフルーツ戦士達はテレポートでフルーツオーに搭乗した。
一方くおん☆ストロベリーは自分用のロボット「イチゴオー」を召喚。イチゴオーを操縦し、フルーツオーの特殊パーツとして合体した。
『デモデ〜モ〜!』
イカデモスが攻撃用の触手を伸ばす。
しかし。イチゴオーの存在により、どこを狙うかショートケーキの苺の如く迷っているではないか!
フルーツオーが巨大剣レインボーソードを抜く。
時を同じくしてライチの魔砲2門が合体。それを中心にフルーツ戦士達の武器が次々集結・合体していく。
『完熟剣☆一刀両断彗華割り!』
『完熟☆フルーツバスケット!!』
2つの必殺技がイカデモス、グルメゴロにそれぞれ命中、2頭の地獄獣を粉砕した!
学園入り口に数台の大型バスが到着した。
「今日の作戦はここまで。みんなお疲れ様」
運転席から顔を出したドクが呼びかけ、撤退した幹部・賞金稼ぎ・戦闘員達を収容していく。
「まだまだ駄作だね」
掌中の黄金林檎を弄びながらドクが苦笑する。
「やはり賞金稼ぎ程度ではこの位が限界でしょう。くおんフルーツ達よ。また何れ会おう」
シートに腰掛けた薔薇シストはじっと目を閉じた。
「良い感じに熟れてきてるね。でも、まだまだ物足りない‥‥本当の完熟はこんな物じゃない筈」
雅は冷凍マグロを鞘に収め、自分の足に装着した脚甲を軽く叩く。
「ボクの本当の得手はこっちだから‥‥」
「今度は、楽しませてもらえるかな?」
バスの窓から学園の方を振り返る彩香。
『みんなの力のおかげだね!』
喜びと感謝に溢れたみくずの声を心の中で聞きながら、変身を解いたフルーツ戦士達は青く晴れ渡る大空を見上げた。
『こうして学園の平和は無事に守られた。しかし平和を脅かす者が現れる限り、彼らは戦い続けるだろう』
こちらはグラルスの声。最後まで熱いナレーションをありがとう!
「! お歌歌うの忘れてた!」
イチゴオーから降りてきた苺が愕然となる。
「くおん☆フルーツ」のOP・EDを歌うことが彼女の密かな野望だったのだが‥‥残念。
その後キャンパスの一角では、学生カフェでのほほんとマンゴージュースを飲む優希と、一緒にブルーベリージュースを飲む静矢の姿が目撃されたという。
<了>