●久遠ヶ原学園〜校舎内
「それじゃあ皆さん、今夜はよろしくお願いします」
控え室として借りたとある会議室。
オカ同部長・向井啓一は、依頼で集まった生徒達に深々頭を下げると、自らは会場準備のため屋上へと戻っていった。
「こういう夢のあるイベントって好きですよ」
機材やコスチュームをチェックしながら、レイラ(
ja0365)が楽しげにいった。
「天魔が普通に徘徊する世界だからといって、UMAや宇宙人を全て否定してしまうのは少し世知辛い気がします」
「宇宙人か‥‥未知の物には夢があって良いな」
酒井・瑞樹(
ja0375)は既に日暮れ時近い窓の外を見やった。
いわゆるUFOや宇宙人についてはテレビの胡散臭い特集や児童雑誌程度の知識しかなかったが、オカ同部員や見学者達を楽しませるためにも相応に頑張ろうと思う。
「こういう事には慣れていないが、よろしく頼む」
本番時にはコンビを組む予定のRehni Nam(
ja5283)(レフニー ナム)に声を掛けた。
「にゅ、こちらこそなのですよ♪」
にっこり微笑むレフニーだが、ふと思い出したように、
「前にも似た様な依頼があったよーな‥‥? 報告書読んだだけですがって、なっ、何をするだァ――――ッ!? くぁwせdrftgyふじこlp」
おお、なんということか?
突如として数名の黒子達が部屋に乱入。彼女を何処かへ連れ去ってしまったではないか!
すぐに戻って来たが、その目はどこか虚ろ。
「イライヲスイコウシマス。ワタシハケモミミウチュウジン‥‥」
「この機会を利用して、ついでにウサギの着ぐるみを布教するっすよ!」
持参のフワモコなウサギスーツを着込んで張り切るのは大谷 知夏(
ja0041)。
「宇宙人‥‥とはいってもいろいろあるわよね‥‥」
啓一から資料として借りた古本『いちばん詳しい! 宇宙人大図鑑』をパラパラめくりながら、簾 筱慧(
ja8654)は自分が演じる宇宙人の構想を練る。
宇宙人が実在するか否かはさておき、彼女のスイカ大の爆乳は紛れもなく宇宙サイズといえよう。
「宇宙は広いですからね〜、どこか遠い星で、僕らと同じように暮らしている生命体があるかもしれませんよね〜というか、あってほしいな〜って思います!」
ワクワクしたようにいう露草 浮雲助(
ja5229)。
「だって、想像するだけで面白いし、本当に会えたら楽しいじゃないですか〜! 今日は楽しみにしてくれている皆さんのためにも、盛り上げていこうと思います〜!」
中にはさらに一歩踏み込んでいる者もいる。
「宇宙人にコンタクトを取ろうとする、って、すっごい素敵なことですよね!」
きらきらした瞳でそう熱く語るレグルス・グラウシード(
ja8064)は、きっとオカ同側の人間であろう。
その傍らで、因幡 良子(
ja8039)は自らの宇宙人名を思案していた。
「妄想宇宙人バラクレー‥‥いえホモクレー? うん、これで行こうっと」
やがて時計の針がイベントが開演の午後6時に近づくと、支度を済ませた生徒達は、宇宙人役1番手の筱慧を控え室に残して屋上へと向かった。
●校舎屋上
『♪べんとら〜、べんとら〜、すぺーすぴーぷ〜♪』
一般参加者達が見守る中、先代部長の荻窪綾子、啓一、その他5名の女子生徒からなるオカ同部員達が手を繋いで輪となり、呪文を唱和しつつグルグル回っている。
イベントのオープニングを飾る『UFO召喚の儀式』だ。
「やっぱり呪文はお約束のアレなんですね‥‥」
レイラはデジタルビデオカメラでその様子を撮影していた。
よく見れば、召喚の輪の中にはちゃっかり良子も混じってたりするが。
「ボイジャーのゴールデンレコードとか、ロマンですよね!」
参加達にホットココアを振る舞いながら熱く宇宙への夢を語り合っていたレグルスが、
「ああっ! あれは!?」
ふいに夜空の一角を指さし叫んだ。
(――よし!)
参加者の視線が上空に向けられた瞬間を狙い、レイラは隠し持ったフォグマシンのリモートスイッチをONにする。
バシュウ――!!
屋上入り口付近を派手なスモークが押し包み、その中から現れた人影は‥‥!
「私は自由浮遊惑星『バクニューダ』からの使者‥‥」
筱慧である。
見た目はほぼそのまんま、ただし両手に宇宙人っぽく指先を隠す手袋をはめていた。
「大変っす! ホントに宇宙人が現れたっす!」
ウサスーツ姿の知夏が大袈裟に驚き、他の生徒達も息を呑んだ。
「地球にはどのような目的でいらしたのでしょうか?」
オカ同を代表して尋ねる綾子に対し、
「世界に誇るという、日本のオタク文化を実際に感じるために来ました」
一般参加者、とりわけ男子生徒の熱い視線は、専ら筱慧‥‥もといバクニューダ星人の爆乳に注がれていたが。
「あ、あのっ! ちょっとモミ‥‥いやコンタクトしていいですか!?」
「ぜ、ぜひ第4種接近遭遇を‥‥!」
「お客様、宇宙人に触らないでください!」
どっと押し寄せる男子生徒達を、オカ同部員達が両手を広げ押しとどめる。
その後方では、やはり一般参加者の女子生徒達がコンクリート床に手を突きがっくり項垂れていた。
「‥‥負けた‥‥!」
「しかたないわ‥‥相手は宇宙人だもの‥‥」
バクニューダ星人の方はといえば、どちらかといえば地球人の女の子の方に興味があるのか、オカ同の特に可愛い女子部員に目を付け次の休日ショッピングのお誘いをかけたりしている。
そろそろ頃合い、と見たレイラが再びフォグマシンを作動。
「地球の皆さん、ごきげんよう‥‥」
手を振りながらスモークの中に消えるバクニューダ星人。
そのまま控え室に戻り手袋を外した筱慧は、
「さて、ちょっと仮眠でもとろうかな」
用意したシュラフの中に潜り込むのだった。
「呼ばれて飛び出て、にゃにゃにゃにゃ〜ん!」
バクニューダ星人出現の興奮も冷めやらぬ会場に再びスモークが焚かれ、その煙の中から髪を結い上げた頭に猫耳を装着し、黄色地に金魚柄、赤い帯を締めた和服姿、目には赤のカラコンをはめたレフニーが飛び出した。
「イミモメク星、地球語に訳せば、ケモミミ星からやって来たニャフニーだにゃん♪ 地球の皆さん、こにゃにゃちわ〜☆」
相方として頭に揃いの猫耳を付けた瑞樹も登場。
「私はケモミミ星人なのダー」
ちなみに「ケモミミ(kemomimi)」をひっくり返して「イミモメク(imimomek)星」というのがネーミング由来。
綾子から地球来訪の目的を訊かれ、
「前に地球に行った友達が、地球のお魚さんが美味しかったって言ってたのにゃ! 他の星に行く理由なんて、それだけあれば十分にゃ!」
「でしたら、ぜひこれをお召し上がり下さい」
これは予め打ち合わせておいた啓一が、お盆に乗せた蒲鉾やはんぺん、魚肉ソーセージといった練り物盛り合わせを恭しく差し出す。
「ほんとは新鮮な生のお魚が好きだけど、この際にゃんでも嬉しいにゃ♪」
お供えの練り物を爪楊枝で美味しそうに食べるニャフニーに、今度は一般参加の生徒達がおそるおそる質問を始めた。
「あのう、何で宇宙人なのに和服なんでしょうか?」
「にゃー、この星には『郷に入りては郷に従え』っていう言葉があるって聞いたのにゃ」
「尻尾はないんですか?」
「ちゃんとあるにゃーよ。邪魔にゃから足に巻きつけてあるのだにゃ☆」
瑞樹の方も生徒達に囲まれ質問攻めに遭っていた。
「その猫耳、本物ですか? 何となく付け耳みたいに‥‥」
「昔の事は忘れる、先の事は判らないのがケモミミ星人なのダー!」
一通り質問に答え、お供えの料理を賞味したニャフニーの周囲でまばゆいばかりの光がきらめいた。
「帰る時はこれがお約束だって友達が言ってたのにゃ〜」
「さらばなのダー!」
揃って手を振りながら、光の中に消えていくケモミミ星人の2人。
「うっ‥‥!?」
その時、突如として知夏が苦悶の表情を浮かべ、バッタリ床に倒れた。
何事かと一斉に振り向く生徒達。
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに駆け寄ったオカ同部員の目前で、無表情となった知夏がむっくり起き上がった。
「――月の裏側に住むウサウサ星人ウサ」
「宇宙人が大谷さんの体に憑依したわ!」
綾子が叫ぶ。事情を知ってる啓一と違い、彼女の場合はどこまでも本気だ。
「イエス。ウサウサ星人の肉体はデリケートだから地球の重力に耐えられないウサ。我々とよく似た姿の少女がいたので、一時的に体を拝借したウサ‥‥うぅ!?」
「どうしました!?」
「‥‥月と地球の間に電波を飛ばすのは大量のエネルギーが必要ウサ‥‥このままでは通信が途絶えるかもウサ」
「いけない! ウサウサ星人さんにエネルギーの補給を!」
慌ててオカ同部員達がお盆で運んできた料理やお菓子を無造作にバクバク詰め込む知夏に、生徒達がインタビューを始める。
「地球には何のために?」
「みんなにウサギの着ぐるみを広めに来たウサ」
無表情のまま、ウサスーツをアピールする様にクルリと一回転。
「月では‥‥やっぱりみんなで餅つきしてるんですか?」
「さっきまでついてたウサ」
「ちょっと私にも憑依してもらえます?」
「はぁ〜? 電波が乱れてよく聞こえかったウサ」
その場のノリとアドリブで答え続ける知夏であったが。
(そろそろ間が持たなくなってきたっすね)
「あっ、電波が呼んでるウサ!」
屋上の水道タンク目指しダッシュで駆け出した。
「え? ちょっと待って――」
思わず後を追おうとした生徒達の足が止まる。
物陰に隠れたウサウサ星人と入れ替わるように、タンクの上に異形の怪人が現れ、宙高くジャンプしたと見るや床に着地した!
大きな巻き貝を背負い、褐色のかたつむりスーツから両手両足を伸ばして立つその姿は――。
「こ、これは『かたつむり星人』に違いないっす!」
タンク裏を一周して引き返した知夏が叫ぶ。
演じているのは手洗いを装い席を外したレグルスであるが。
「あれ? ウサウサ星人さん?」
「何のことっすか? 知夏っすよ」
「でもさっきまで‥‥」
「よく覚えてないっす!」
一方、かたつむり星人に近づいた綾子は慎重にコンタクトを試みていた。
「どこから来たんですか?」
「‥‥」
かたつむり星人は無言のまま右手を差し上げる。
人差し指の先に光が灯り、空中に文字を描いた。
『FROM SPACE』
おおっ――っと生徒達がざわめいた。
「目的はなんですか?」
『SIGHTSEEING』
「どこに行きたいですか?」
『KYOTO! TEMPES!』
「京都は‥‥いま天使との戦争で観光できないのです」
『THAT’S TOO BAD』
しょんぼり肩を落とし、トボトボと出入り口の方へ去って行くかたつむり星人の姿に、思わず生徒達も涙する。
タンクからイベント会場に引き返した生徒達が見たのは、鼻から上をマスクで覆った謎の人物が背中の大きなリュックから取り出したお菓子や食料をガツガツ食っている光景だった。
「大食い銀河出身の大食い星人です〜。美味しい物を求めて地球に来ました〜、よろしく!」
大食い星人=浮雲助が笑顔で挨拶した。
「まあ。先程のケモミミ星人やウサウサ星人さんといい、宇宙人の皆さんは食欲旺盛でいらっしゃるのね。こちらのも、ぜひどうぞ」
綾子から会場のドリンクや料理を勧められ、
「あ、どうも〜」
上機嫌で食いまくりながら、オカ同部員や他の生徒達から「久遠ヶ原グルメ情報」を聞き取る大食い星人。浮雲助に戻ってから回ってみるつもりだろう。
その時会場の一角が大きくざわめいた。
「こ、これは‥‥!?」
既に様々な「宇宙人」を見て来た綾子ですら驚きに目を見張る。
見よ! まばゆい輝きの中から4足歩行の宇宙人が現れたではないか!
具体的にはこんな姿→ ┌(┌ ^o^)┐
蜘蛛のごとく素早く這い寄った「それ」は前足(?)に持った缶コーヒーを掲げ、器用に一口飲んだ。
「私は妄想宇宙人ホモクレー」
「そのお姿‥‥ネットでよく拝見するような‥‥」
「各地で同類が活動してるからそれじゃないかな? 私の好物は男同士の恋愛だが、同類には女性同士の恋愛が好きなユリクレーとか雑食のカプクレーとかいる」
蜘蛛型スーツを着込んだ良子、いやホモクレーはコーヒーを飲みつつ淡々と語った。
「この惑星の腐女子と呼ばれる存在は男性同士の恋愛を愛し常に欲している。彼らの為なら大枚を叩きどんな苦しみも乗り越える‥‥」
「いわれてみれば‥‥」
「非生産的な彼らの魅力はすばらしく、まだ私はそれを事細かに語る資格を有していない。ただこの惑星の男の娘は‥‥イケる」
啓一以外のオカ同部員(全員女子)は、ウンウンと真顔で頷きながら熱心にメモを取っている。
「どうも主食のラヴ臭を感じてやってきたのだけれど心当たりは無いかな?」
ホモクレーは専ら綾子と啓一の周囲をカサカサ這い回りながら尋ねた。
「(ちょ、因幡さん!)」
「?」
赤面して慌てる啓一。綾子の方はきょとんとしているが。
「むっ。別座標に新たなラブ臭を検知!」
四足歩行でササっとその場を離脱、ホモクレーは出入り口へ駆け去った。
続いて蹴破るような勢いでドアが開かれ、黒スーツ・黒ネクタイに黒いサングラスをかけた人物が飛び込んで来た。
女性ながらスラリとした長身。
何となくレイラに似ている‥‥いや本人だが。
「静粛に! 私は宇宙捜査官『R』」
「その服装‥‥もしやあなたは、メンインブr」
「この近辺に凶悪な宇宙犯罪者が潜伏しているという通報を受けました」
「ええっ!? 何て恐ろしい」
「ここでは宇宙人の集会が行われているのですか? 危険なので、そろそろ解散することを勧告します」
「やむを得ませんね‥‥」
綾子以下、オカ同部員達も渋々同意した。
「では今夜のことは『我々』と君たちだけの秘密ですよ?」
Rがわずかにサングラスをずらすと、その瞳から猛烈な閃光が走る。
思わず顔を覆った生徒達が再び目を開けた時、もはやその姿はなかった。
宇宙人の召喚は終了したものの、屋上では引き続きオカ同のホストで新入生歓迎会が続いていた。
「実は本物のUFOが映ってたりして‥‥」
撮影した召喚儀式をカメラのモニターでチェックするレイラ。
密かに戻って来たメンバーも、何食わぬ顔で一般参加者に戻り、他の生徒達と天体望遠を覗いたりUFO談義に花を咲かせている。
瑞樹は持参した粉ふきいも、ポットに入れた熱いポタージュを差し入れ。
「人数的に、二人一皿で頼む」
部員の1人にそういって、啓一が綾子と一緒に食べられる様に計らった。
「お疲れ様、部長さん。これからオカ同をよろしくね」
熱々の粉ふきいもを2人で食べつつ、綾子が啓一に微笑んだ。
「は、ハイ!」
緊張気味に頷く啓一の前で、彼女は瞳を輝かせ星空を見上げた。
「楽しみだわ‥‥来年はどんなイケメン宇宙人様が来るのかしら♪」
「せ、先輩‥‥」
「大変だろうが‥‥後は自力で頑張れ」
物陰から見守りつつ、啓一の恋の成就を願う瑞樹であった。