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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:14人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/11/02


みんなの思い出



オープニング

 H県某市に本社を置くアズミ製薬といえば、西日本ではそれなりに知られた有力企業の1つだ。20世紀末から本格化した天魔の侵略により日本経済が大きなダメージを被る中、医薬品の需要から急速に業績を伸ばし、地元のプロ野球チームを買収するほどの羽振りの良さを示している。
 経営者・阿住雄吾の自宅は市内の山の手に築かれた広大な豪邸。
 その豪邸の一室で、雄吾の一人娘で今年17になる沙也加はパジャマ姿で椅子に座り、先刻から卓上のチェス盤にじっと目を落としていた。
「さあ、君の手番だよ」
 テーブルの向こうからかけられた声に促され、細い指先でビショップの駒をつまみ上げる。
「‥‥昨日、主治医を問い詰めてようやく白状させたわ」
 駒を動かし終えてから、沙也加が口を開いた。
「あなたの話は本当だった。保ってあと半年だって‥‥私の命」
「だからいったろう?」
 そういって穏やかに笑うのは、歳の頃14、5の少年。少女のように整った顔立ちだが、その髪と瞳の色は明らかに日本人ではない。
「慰めになるかどうか分からないけど‥‥君の病気は若いほど進行が早い。だから本格的に症状が出ても、苦しむ時間はそう長くないと思うよ」
「ありがとう。でも、女の子を慰めるにしてはちょっとデリカシーに欠けてるわね」
「失敬。人間の女の子の心理には疎くてね」
 自分に手番の回った少年――いや少年の姿をとった悪魔は苦笑した。
 彼は自らを「エルウィン」と名乗っている。「悪魔よりは死神と呼んで欲しい」とも。
 まあ沙也加にとって、今チェスを指している相手が悪魔だろうが死神だろうが大した違いはなかったが。

 ことの起こりは2ヶ月ほど前。微熱と体のだるさを感じ、その日初めて学校を休んだ。
 最初は風邪かと思ったが、熱は一向に下がらず、1日だけのつもりだった病欠はいつしか長期休暇となった。
 大病院で何度も精密検査を受け、また父親の手配で専属の主治医や看護師が屋敷に来て、つきっきりの自宅療養が始まったが、医師達はただ「暫く静養していれば治ります」と言うだけで、病気に関する説明は一切無かった。
 心の中で漠然とした不安が広がりだしたある晩――寝室の壁を幽霊のごとく擦り抜け、エルウィンが現れてこう告げたのだ。
『阿住沙也加、君の命はもう長くない。でも死ぬ前にその魂を僕にくれるなら、君の願いを1つだけ叶えてあげる』

「皮肉なものね‥‥」
 エルウィンが駒を動かす様子を見守りながら、沙也加はため息をついた。
「小さな頃から欲しい物はお父様が何でも買ってくれた。お金持ちや政治家の子女が集まる一流の私学に通って、勉強もスポーツもクラスで一番。手に入らない物、叶えられない願いなんて何ひとつないと思ってた。でももうすぐ死ぬと分かったら、お金だの権力だの家柄だの‥‥これっぽっちも意味の無いものだって気づいたわ」
「誰しもそんなものだよ。ただそれに気づくのが早いか遅いかの違いだけで」
「正直いえば、まだ死にたくない。生きていたい‥‥怖くて怖くて、いっそなりふり構わず泣き叫びたい‥‥でもおかしなものね。死神のあなたとこうしてチェスを指してる間だけ、何だか少しだけ気分が落ち着くの」
「そいつは光栄だね。まあ僕としては‥‥折角知り合ったいいチェス友達とさよならしなけりゃならないのが残念な限りだよ」

 深夜、沙也加が寝室で1人になるとエルウィンは現れる。
 彼女が「願いごと」を決めたかどうか確かめるためだ。
 最初はとりとめもない世間話などしていたが、そのうちお互いチェスを嗜むことが分かり、いつしかチェスを指すことが夜ごとの習慣となっていた。

「で‥‥願いの方はそろそろ決まったかな?」
「色々考えたけど‥‥その、あなたと契約して‥‥」
「ヴァニタスのことかい? それはダメだ。前にも話した通り、僕はもう1人抱えてる。これ以上増やす予定はないんだ」
「‥‥そう。残念だわ」
「おっと、チェックメイトだ」
「詰んだわね‥‥ああ、結局一度もあなたに勝てなかった」
「いや、君も人間にしちゃ筋がいいよ。手加減するのは却って失礼かと思ってね」
「でもいいわ。おかげでようやく願いごとが決まったから」

 寝室の隅で、エルウィンが一緒に連れてきた黒猫が、寝そべりながらじっと2人を見つめていた。

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「H県警から緊急依頼や。野球場がディアボロに乗っ取られそうやで」
 掲示板を見て集まった撃退士達に、生徒会ヒラ委員・伊勢崎那由香(jz0052)が告げた。
「野球場? 観客が襲われたのか?」
「いや、今日は試合がないからお客も選手もおらへん。グラウンドにディアボロの群れがいるのを警備員が発見して通報したんや」
「無人の野球場? 何だって天魔がそんな所を」
 ディアボロが現れたという球場はとある球団のホームグラウンド。オーナーは地元有力企業のアズミ製薬である。
「それはうちも分からんけど‥‥ちょっとこれ見てや」
 那由香は撃退庁のヘリが空撮したという写真を撃退士達に見せた。
 グラウンド上に整然と並んだディアボロらしき影は、総勢16体。
「あれ? この並び方、ひょっとして‥‥」
「‥‥将棋? いやチェスの駒みたいだなあ」
 人気のない球場にディアボロ同士で集まり、いったい何をしでかそうというのか?
 その時、斡旋所の電話が鳴った。
「はい、久遠ヶ原学園で‥‥ああ、H県警さんでっか? お世話になってます〜」
 県警の担当者と暫く会話を交わしていた那由香が、突然素っ頓狂な声を上げた。
「へ? 犯行声明? いったいどういう‥‥はい、はい。ちょっとお待ち下さい」
 那由香は手許のPCを操作しメールソフトを開く。
 県警から動画データが送信され、間もなくそれはPCのモニターからも視聴できるようになった。

『皆さんはじめまして。阿住沙也加と申します』

 デジタルビデオで撮影されたらしい動画に現れた少女の名を聞き、撃退士達は顔を見合わせた。どうやら彼女はアズミ製薬社長の娘らしい。
 続いて沙也加は自らがある病にかかっていること、それは現在の医療技術では100%治療不可能な難病であることを告白した。

『従いまして‥‥私は私自身の意志に基づき、ある願いを叶えるため、自らの魂を悪魔に譲渡することを決めました』

「何だって?」
「正気か、この女!?」
 撃退士達が一斉に声を上げる。

『間もなく私は悪魔に魂を抜き取られ、これまでの人格も理性も全て失ったディアボロと化すでしょう。ですが自分の願いのために災厄を引き起こすことは本意ではありません。ですから‥‥撃退士の皆様に、ディアボロ化した私の殲滅を依頼します。報酬は私の生命保険金から支払うよう、弁護士に手配しておきました』

 間もなく画面が切り替わり、別の少年がにこやかに手を振った。

『やあ、始めまして。それともお久しぶりかな? 僕はエルウィン。いま阿住さんから話があったように、彼女の魂を譲ってもらうことになった。ついてはみんなにちょっとしたゲームに付き合ってもらうよ』

「またおまえか!」
 1人の撃退士が立ち上がって怒鳴る。
 そんなことにお構いなく、画面の中のエルウィンは「ゲーム」のルールについて一方的に説明し始めた。

『‥‥以上。まあ無理に付き合ってくれとまではいわないけど‥‥その時は、このディアボロ達を置いて僕は帰る。後はどうなっても責任持たないからね?』


リプレイ本文

●Opening
 撃退士達が球場一塁側選手入場口からグラウンドに出ると、向かい側にあたる三塁側ダッグアウト前に、ずらりと並んだディアボロ達の姿が目に入った。
 手前には8体のグールが整然と横一列に並び、その後ろにファウスト、ゴーレム、馬に跨がった亡霊騎士が各2体ずつ。
 そして「黒の女王」と悪魔エルウィン。
 後列中央に立つエルウィンを「キング」、黒の女王を「クイーン」とすれば、他のディアボロ達はそれぞれ「ビショップ」「ルーク」「ナイト」「ポーン」とまさにチェスの駒に見立てた布陣だった。

「2年ぶりに会うのか‥‥悪魔♪」
 パーカーを羽織った背中から黒い翼を伸ばした少年に憎悪の対象である別の悪魔の面影を重ね、鴉(ja6331)はニヤリと笑った。
 そしてその隣で馬型ディアボロに跨がる「黒の女王」を一瞬睨みつける。
 頭からつま先まで漆黒の甲冑に身を包み、兜の後ろから伸びた長い髪から辛うじて「女性らしい」とまでは分かるが、その素顔は黒い仮面に覆い隠されていた。
 かつてはアズミ製薬の社長令嬢「阿住沙也加」だった存在。そして県警にDVDで送りつけたメッセージ画像を通して自らの殲滅を望んだ今回の「依頼者」。
「あのお嬢さんのどんな悲劇に付け入ったのかはしらねぇけど、バケモノになったんならヤるしかねぇよなっと♪」
 怒りと復讐心を胸に抱えつつ、この戦いを最高に楽しむつもりだった。
「最後の願いの為にディアボロ化したのに、そのディアボロ化した自分を討ってほしいと依頼を出す? この戦いそのものが彼女の最期の願いなのか‥‥それとも‥‥」
 天羽 流司(ja0366)は複雑な気分だった。
 何の因果か、自称「死神」エルウィン絡みの依頼に参加するのはこれで三度目。
 エルウィンが「死を前にした人間の前に現れ、その魂と引き替えにただ1つ願いを叶える」変わり者の悪魔であること。魂を譲った人間がその「願い」に応じた形でディアボロ化すること。ただし願いの内容によっては必ずしもディアボロ化するわけではないこと――ここまでは分かっている。
 だが今回は、沙也加のディアボロ化の動機となった「願い」の内容がさっぱり分からないのだ。
「阿住さんは、一体何を願ってディアボロになったのでしょう‥‥」
 久遠寺 渚(jb0685)がぽつりと呟く。
「自分の命を賭けて叶えたい願い‥‥それがどんなものなのか気になります。出来る事なら直接聞きたいですが、どうなるでしょうね」
 姫寺 りおん(jb1039)も同感だった。
 本人が自ら殲滅を依頼してきた以上、他者への恨みや復讐の類いではないだろう。しかし「病の苦痛から逃れる」ことが願いだったのなら、わざわざディアボロになる必要もないはず。
(緩慢な死を省みず、何を願ったか?)
 十八 九十七(ja4233)に至っては、それを知りたいがため今回の依頼に参加したようなものだ。
「正義的にディアボロぶっころは当然ながら、興味こそ、興味こそが九十七ちゃんを動かして止みませんの、ええ、はい」
 沙也加本人がディアボロ化してしまった以上、真実を知るのはエルウィンのみ。
 この依頼の最中に、何としてでも知りたい聞きたい聞き出したい。

(みずからディアボロになった挙句、迷惑をかけたくないから討伐してほしいだなんて、馬鹿なんじゃないの)
 シャノン・クロフォード(jb1000)は沙也加に対して内心強い憤りを感じていた。
 表向きはプライド高く毅然として立ち振る舞う彼女だが、実は「戦うこと」が好きではない。
 敵・味方・自身を問わず、「誰か」が傷つくことが嫌なのだ。
 それは自らを傷つける者に対しても変わらない。
(どうせ戦うなら何で病気と闘おうと思わなかったの? あなたほどのお嬢様なら、どんな名医にだってかかれたでしょうに)
 ともあれ、既にディアボロ化してしまった彼女を救う手立てはない。
(あたしはあくまであたしの為、撃退士として依頼をこなして成長するまでよ)
 そう思って気を取り直した。
 もっとも、中には
「自らディアボロになるなんて、奇特な子なのね。まぁそんなの個々の自由な訳だし、別にいいんじゃない?」
 珠真 緑(ja2428)のようにすっぱり割り切る者もいたが。
「どちらにせよ、私はソレを殺すだけなんだから。本人が殺してくれっていうんだから、躊躇する謂れも無いしね」
「まぁ、どうしてそういう願いをしたかは置いておいてだ。依頼された以上、きっちりとチェックメイトを掛けるのが礼儀だろうぜ」
 ウォーハンマーを肩に担いだ向坂 玲治(ja6214)がぶっきらぼうにいう。
「ところでチェスって何だ? ‥‥ま、難しい事はよくわかんねーけど、暴れればいいんだな!」
 あっけらかんと言い切る彪姫 千代(jb0742)は、傍らにいた綿谷つばさ(jz0022)のネコミミカチューシャに目を留め、
「お? 猫耳だ! 俺は尻尾なんだぞ! いいだろ! 動くんだぞ!」
「うわ〜ホントだ☆ どういう仕掛けなの?」
「いやちょいとアウルの力を使ってだな――」
 ‥‥同じ猫科同士、話が合いそうだ。

 そんな中、郷田 英雄(ja0378)は傷痕のある左目を閉じたまま、右目一つでエルウィンの姿を鋭く見据えていた。
(俺は我慢弱い。今日こそ限界を確かめさせて貰うぞ、死神!)
 黒の女王やその他の有象無象など彼の眼中にはない。
 エルウィンとの一騎打ち――それこそが今回の依頼に参加した唯一の目的。
 ただし依頼の方も手を抜くつもりはないが。
(依頼主は自らの殲滅を望んだ。彼女を満足させれば、死神、お前も満足して――俺を満足させてくれるんだろうな?)
「‥‥」
 そんな英雄の様子を、少し離れた場所から影野 恭弥(ja0018)が無言で見やっていたが、やがてその視線は三塁側に陣取った敵の隊列に向けられた。

●Development
 数の上では同じ16対16。
 別に敵方に合わせたわけでもないが、撃退士達も各々のジョブ特性や能力に基づき8×2の横隊を組んだ。

前衛:秋月 玄太郎(ja3789)・ 郷田・ 姫寺・ 向坂・ シャノン・ レン・ラーグトス(ja8199)・ 綿谷・ 彪姫
後衛:十八・ 天羽・伊勢崎那由香(jz0052)・ 久遠寺・ 珠真・ 鴉・アリーセ・ファウスト(ja8008)・影野

 こちらの陣形が整うのを待ちわびていたかのように、ポーン役のグール達が前進を開始した。
「まさか伊達や酔狂でチェス盤のフィールドと駒に見立てたディアボロを用意したわけではあるまい」
 玄太郎は敵の動きを見ながら思案した。
「ある程度は‥‥チェスの定石の手段を踏んできてもおかしくはない」
 彼が想像した通り、早くもビショップ役のファウストは翼を広げて宙に舞い上がり、ナイト役の亡霊騎士はポーンの後に続いて前進している。
 本物のチェスにおいても、これら機動力の高い駒は序盤から積極的に使われこちらを攪乱してくるのが定石だ。
「ぽっ、ポーンって、やっぱり、しょっ、昇格とかするんでしょうか‥‥?」
 渚が不安そうにいう。
 将棋の成り金と同じく、チェスにおいては敵陣までたどり着いたポーンをキング以外の好きな駒に昇格できる。
「可能性は否定できないが‥‥下級ディアボロのグールにわざわざそんな特殊スキルまで与えているかは疑問だな」
 敵の二手、三手先を読むべく、ディアボロ達を観察しながら答える玄太郎。
「いずれにせよ連中を残しておくと厄介だ。数の優位も確保しておきたい」
 先手必勝とばかり流司がファイヤーブレイクを放つ。
 グール達の頭上に出現した大火球が立て続けに炸裂、食屍鬼の群れを焼いた。
 緑も同じくファイヤーブレイクを使用、九十七はグレネード弾を投擲。
 これらの範囲攻撃は敵味方が入り乱れて戦う状況になれば誤爆で同士討ちになるリスクが大きい。ならば序盤の先制攻撃で出し惜しみせず使い切るのが最善手といえよう。
 グラウンド上を攻撃魔法の炎が荒れ狂い、グール達がバタバタと倒れていく。
 さらにアリーセの魔法が大地に働きかけ、地面から剣山のごとく突き出す鋭い土の槍がグールを串刺しにした。
「いくぞー!! ドッカーン!!」
 横から回り込んだ千代の片腕が暗黒をまとうや、凶暴な破壊力を孕んだ闇の拳撃が宙を走り、直線上にいたグール達をなぎ倒す。
「ポーン」達の屍を乗り越え、亡霊騎士が突撃。
 上空からはファウストが遠距離魔法の攻撃を浴びせてきた。
「悪いが、先攻はこっちでいただくぜ?」
 味方の範囲攻撃が一通り収まったタイミングを見計らい、玲治はウォーハンマーを振りかざして敵陣へ突き進んだ。凄まじい飽和攻撃をかいくぐってなおもしぶとく進んで来る生き残りのグールを、当るを幸いハンマーで殴り倒していく。
 そんな玲治の目の前に、岩のごとく固くゴツゴツした肌を身にまとうゴーレムの巨体がぬっと立ちはだかった。
「おっと、通さないってい言っただろうが」
 玲治は渾身の力を込め、ゴーレムの胴体にハンマーを叩き込む。
 皮膚の一部が飛び散り巨体がグラリと揺れるが、岩の巨人は倒れなかった。
 そのゴーレムを狙い、恭弥のアサルトライフルAL54が火を噴いた。
「固そうな皮膚だが、内側はどうだ?」
 被弾したゴーレムの肌にボコっと小さな穴が穿たれる。
 敵の装甲を溶かし、さらに内側から腐敗させるアシッドショット。この攻撃は後になって利いてくるはずだ。
「糞ディアボロには腐れ弾丸がお似合いだぜィ!」
 九十七もまた、もう1体のゴーレムを狙いアシッドショットを浴びせていた。
「――赤眼の太陽」
 鴉が呪文を唱え、その掌に出現した白い弾丸をバヨネット・ハンドガンに装填。
 ゴーレムの頭部を狙い銃撃すると、着弾の瞬間白兎の幻影となって岩石巨人の頭部に食らいついた。
 ほぼ同時に、りおんの召喚したスレイプニルが猛然と突撃をかけた。

 足元に累々と横たわるグールの骸には一瞥もくれず、先陣切って突入してきた亡霊騎士に、大太刀を構えたレンが立ち向かう。
「狩猟者(ハンター)って駒を考えるべきだな」
 馬型ディアボロの蹄を巧みにかわしたレンの太刀が騎士の振り下ろす剣とぶつかり、火花を散らした。
 そこに再び召喚されたスレイプニルが突入。
 奇しくも同じ騎士を象ったディアボロと召喚獣が真っ向から激突する。
 召喚獣が受けたダメージはそのまま召喚者のりおんにもはね返るため、万一に備えて玲治が移動し、リオンの直衛に付いた。
 引き続き亡霊騎士を攻撃しようとするレンの前にゴーレムが割り込んだ。
「邪魔くさいのが‥‥でも関係ない」
 正眼に構えたレンの大太刀から猛牛の突進のごとき衝撃波が迸り、ゴーレムの堅固なボディを貫通する。
 序盤の一斉攻撃の際はあえて温存していた狩技「猛牛の如き衝角の太刀」。
 岩の巨人は地面に2、3歩たじろぐが、それでも拳を振るって反撃してきた。
「しぶとい奴め」
 舌打ちするレン。味方が撃ち込んだアシッドショットが効果を現すまで、まだ少し時間がかかりそうだ。

「敵の駒同士を分断させろ。連携を取らせない方法がいい」
 玄太郎は大声で仲間達にアドバイスを送った。
 彼自身は戦線のやや後方に位置取り、味方の防衛ラインを抜けてくる亡霊騎士やファウストを風と火の忍術書で迎撃していた。
 こちら側に「キング」に相当する駒があるわけではないが、背後に回り込まれては厄介だ。
 既に乱戦状態と化した中、味方の位置と状況を把握に務める。
 ダメージを受けた仲間は下げさせ、回復して戻ってくるまでフォローに入った。

 今回の参加者中唯一のアストラルヴァンガードであるシャノンは貴重な回復役であるが、高い防御を活かしあえて前衛に立っていた。
「身代わりなんて正直貧乏くじだと思うけど、仕方ないよね、適材適所」
 黒の女王も彼女に目を付けたのか、1体のファウストが上空から執拗に魔法攻撃を仕掛けてくる。
 シャノンはなまじよけようとせず、全て受けに徹していた。
 魔法・物理共に、彼女の能力なら回避より防御の方が有利である。
 むろん「死んでも味方は守る!」などというヒーローごっこは願い下げだ。
「何より大事なのは自分の命、当然でしょ?」
 いったんゴーレムから離れた恭弥がアサルトライフルでファウストに対空放火を見舞う。
「飛行系の敵に風魔法が良く効くのはゲームのお約束ですけど‥‥」
 渚も自らのアサルトライフルに鎌鼬のスキルを乗せて銃撃した。
 風の力を孕んだアウルの銃弾がファウストの翼を傷つけ、ビショップ役のディアボロは上空へと待避。
 対空攻撃の傍ら、渚は治癒膏を用いシャノンと共に負傷した味方の回復にあたった。


●Middle game
 乱戦のさなか、エルウィンは地上から僅かに浮き上がり、滑るように戦場を飛び回っていた。
 チェスのルールに従うなら「キング」役の彼を倒せばゲームセットだが、もちろん攻撃を仕掛ける撃退士はいない。
 悪魔に対しては強い敵意を抱く鴉でさえ、エルウィンは無視し仲間達の支援射撃に徹していた。
 黒の女王、その他のディアボロ群との戦闘で手一杯のいま、わざわざ悪魔の参戦を招くのは自殺行為に他ならないからだ。
 エルウィンもまた直接手は出さず、微笑を浮かべて撃退士の戦いを間近で観察している。
(これまでの依頼で、彼は戦闘を見届けることもなく立ち去っている。今回に限ってなぜ‥‥?)
 流司は不思議に思ったが、とりあえず間近に迫った亡霊騎士にスタンエッジを放ち足止めを図った。
 同じくスタンエッジを仕掛けた緑は、武器を水神の太刀「弥都波」に持ち替え身動きの取れぬ「ナイト」に斬りつけた。
「水に還りなさい」
 水の魔力により形成された刃が走り、ディアボロの血と水が入り交じった飛沫を上げる。

「死神」の姿に気づいたアリーセは、戦いの手を休め話しかけた。
「ボクはアリーセ・ファウストだ。宜しければお見知りおきを、素敵な死神さん」
「これはご丁寧に。こちらこそよろしく、美しいお嬢さん」
 外見上は同世代のアリーセに向かい、ちょっとませた仕草でお辞儀するエルウィン。
「キミの事は報告書を読んで知っていたよ。死の間際の願い、終に叶う事のなかった望み。それ自体には興味がないけど、それを形にするキミはとても面白い。興味深いよ」
「それはどうも」
「蝶の翅はとても美しく、最期に奏でる調べはさぞ素晴らしいものだったんだろうね。悲恋の亡霊は在り来たりな愛憎劇でボクの好みじゃなかったけど」
「人は必ずしも綺麗な死に方を選べるわけじゃないからね。不幸なことに」
「まぁそれよりも。今回のゲームお招き頂きありがとう。この場を作ってくれた彼女には感謝しないとね」
「そういってもらえれば沙也加も浮かばれるよ。じゃあ、願わくば君にぜひ美しく幸福な死が訪れますように。もちろん当分先のことだろうけど」
 縁起でもないが、これも死神流の「挨拶」なのだろう。
「そこの糞‥‥じゃない死神さん。ちょいと聞きたいことがありますの」
 銃口を下ろし敵意のないことを示しつつ、九十七が歩み寄り声をかけた。
「何だい?」
「あのお嬢ちゃんは死神さんに何を願ったんですかねぃ?」
「いやあ‥‥女の子のプライバシーだから、ちょっと」
『くォォおぉたァァァアアえェァェァェろォォォァァオォァオァオア!!!!』
 九十七、渾身の発狂巻舌大絶叫。
「あー分かった、分かった」
 さすがにどん引きしたか、エルウィンは苦笑して両手を挙げる。
「沙也加はね、最初は僕のヴァニタスになることを望んだ。でもこれは僕から断ったよ。僕の身分じゃヴァニタスなんかそう何人も養えるもんじゃないしね。で、次に彼女が願ったのは『このままあなたと永遠にチェスを指し続けていたい』――そして取引が成立した」
「永遠に? ディアボロになって?」
「ちょっと違うな。ディアボロはチェスなんか指さないだろ?」
「じゃあこの戦いの意味は‥‥」
「チェスが好きだった彼女の魂を弔うセレモニー。まあもう一つ理由があるけど‥‥それはいずれ分かるよ。このゲームが終わったらね」
 謎かけのような言葉を残し、死神は滑るようにその場から飛び去った。

「‥‥頃合いだな」
 アシッドショットの効果が現れる時間を計っていた恭弥は、目に見えて動きの鈍り始めたゴーレムへの集中攻撃を開始した。
 タイミングを合わせ、渚も炸裂符を投げつける。
 序盤から立て続けに浴びた攻撃のダメージに加え体内から腐食に蝕まれたゴーレムは、力尽きたように跪き、そのまま土塊となって崩れ落ちた。

●Check mate
「ポーン」と「ルーク」は既に全滅。「ナイト」「ビショップ」も残るは1体ずつ。
 もはや配下の者には任せられぬと判断したか、ついに黒の女王が自ら動いた。
 長射程のボウガンを乱射つつ、勇ましく馬を進める。
「いよいよ真打ちのお出ましですねぃ」
 オーバーロードで射程を伸ばした九十七が遠距離からの牽制射撃。
 緑も武器を破魔矢に持ち替え光の矢を射かける。
「よくわからんが、ここから撃てる気がするぞ! バキューン!」
 千代が生み出した目に見えぬ闇の矢、ゴーストアローが女王めがけて射かけられる。
 恭弥はクイーン本体にアシッドショットを撃ち込み、続いてその乗馬を狙い白銀の退魔弾を放った。
 対冥魔用の光弾を受け、馬型ディアボロが苦しげに嘶く。
 敵の駒を減らし、数の上では圧倒的優位を得た撃退士達は徐々に「クイーン」包囲網を狭めていく。
 女王の騎槍が青白い雷光をまとったかと見るや、包囲を破らんとチャージをかけてきた。
 その突撃をシャノンが我が身を盾にして受け止める。
 同時に玲治が庇護の翼を伸ばし、彼女のダメージを肩代わりした。
「おっと、通さないってい言っただろうが」
「しょっ、将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ!」
 渚は女王の馬に吸魂符を投げつけ、吸収した生命を自らのものとした。
 周りを囲まれ集中攻撃を受けながらも、女王は乗馬を荒れ狂わせ抵抗を続ける。
 緑の背後から出現した水乃精オンディーナが、水の防御膜を張りその攻撃を和らげた。
「結局お前も盤上の駒に過ぎなかったって事よ」
(私も‥‥ね)
 エルウィンの方を見やると、死神は配下のディアボロを助けようとする素振りもみせず、じっと戦いを見守っていた。
 女王に向かって駆け寄ったレンが一歩手前で立ち止まると、宙を斬るように振り下ろされた彼女の大太刀から襲爪の如き衝撃波が翔け、敵の甲冑を貫いた。
「逃げられ‥‥ると思ったかい?」
 漆黒の鎧の表面に、音を立てて亀裂が走った。
 勝機とみた英雄がグレートソードを振りかざし突進する。
「全力で臨む!」
 大剣の刀身が紫焔に包まれ、全身のアウル力を切っ先に込めた鬼神一閃の剛撃が、女王の甲冑に深々と食い込んだ。
「黒の女王」は動きを止め、乗馬もろとも大地に倒れ伏す。
 ビシビシビシッ‥‥
 漆黒の鎧に細かなひび割れが広がるや、次の瞬間乾いた破裂音を立て砕け散った。
 撃退士達は鎧の下から沙也加の死体が現れるか――と思ったが、そうではなかった。
「黒の女王」の正体は鎧をまとった女ではなく、その中身を含め金属とも鉱物ともつかぬ黒い結晶の塊だったのだ。

「チェックメイト、これにて一局終了ってな」
 ウォーハンマーを担ぎ直し、玲治は一息ついた。
「貴女は、何を望んでディアボロになったのですか‥‥?」
 黒い破片となって地面に散らばる「女王」の残骸を見つめ、渚が語りかける。
 もし引き継ぐことの出来る願いであれば引き継いでやりたい。
 もはやそれを知る術はないが。
「俺難しい事はわかんねーけど、それで幸せだったのか?」
 千代は首を傾げて問いかけた。

●Stalemate
「約束通り、僕は残ったディアボロを連れて引き上げるよ。どうもお疲れ様」
「‥‥ちょっと待て」
 踵を返して立ち去りかけたエルウィンを英雄が呼び止めた。
「ああ、郷田さんか。まだ何か用?」
 少年が振り返った。
「お前に一騎打ちを申し込む」
「あれ? 僕の討伐依頼も出てたの?」
「依頼とは関係ない。俺とお前、サシでの勝負だ。‥‥他の連中は手出し無用に願う」
 ある程度予想はついていたといえ、ただならぬ事態に他の撃退士達もざわめく。
 どうなることかとハラハラする者。
 いざとなれば英雄に加勢しようと武器を構える者。
 ただ冷静に成り行きを見守る者――反応は様々だが。
「理由を聞いていいかな?」
「俺は俺自身の限界を知りたい。そのためにお前と刃を交える――それだけだ」
「何だ、そんなことか」
 エルウィンは朗らかに笑った。
 特に身構えるわけでもなく、ただ無防備に両手を広げる。
「ならどうぞ。かかってくれば?」
 その言葉が終わらぬうち、英雄は動いていた。
 左眼開眼。闘気開放。
「これが俺の望む道‥‥修羅の道だ!」
 地面を蹴って駆け出しながらグレートソードを投擲し、即座に打刀を出す。
「最高のスピードを以ってお相手する!」
 だが打刀で刺突をかけた先にエルウィンの姿はなかった。
「なにっ!?」
「動きが鈍すぎ。攻撃パターンも見え見え」
 すぐ頭上に、たった今投げつけた大剣を片手で持ったエルウィンが浮かんでいた。
「いっとくけど、僕なんか冥魔全体の中じゃ下っ端の方なんだよ? それでも君の攻撃は掠りもしないし、僕が君を倒すことは造作もない。そもそも勝負にならないよ」
 少年の手の中で、ジュっと音を立て大剣が消滅した。
「――これが今の君の『限界』。満足してもらえたかな?」
「どうかな? 俺はまだ立ってるぞ」
 英雄は武器をリボルバーに持ち替え、悪魔めがけ立て続けに銃撃を浴びせる。
 その銃弾をひらりとかわし、少年は再び地上に舞い降りた。
「はぁ‥‥その辺にしてもらえないかな? 僕にはまだ仕事の続きが」

「お待ち下さい!」

 若い男の声が響き、観客席から1匹の黒猫がグラウンドに飛び降りた。
「エドガー、君はまだ出てこなくていいよ」
「エルウィン様のお手を煩わすまでもございません。この無礼者の始末は、私にお任せを!」
 見かけは何の変哲もない黒猫。だがはっきり人語を叫びながら駆け寄り、一瞬にしてエルウィンの傍らに立った。
「何だお前は? 俺が用のあるのは、この死神1人だ」
「卑しい撃退士風情が、我が主が人間に寛大なのをいいことにつけあがりおって――待ってろ、今すぐ八つ裂きにしてくれる!」
 相変わらず涼しい顔のエルウィンと対照的に、黒猫の両眼は憎悪と殺意にギラついている。
 そのとき英雄の背後から鴉が進み出た。
「付き合うぜヒーロー、この猫の足止めぐらいはしといてやるよっと♪」
 一騎打ちの間は手出しせず見守っていたが、敵の伏兵が現れたとなれば話は別だ。
 武器をリボルバーに持ち替え、黒猫に銃口を向ける。
「おいで猫ちゃん♪ ダークヒーローで良ければじゃれ合おうぜ、っと」
 立て続けにトリガーを引く。
 初手でエルウィンから引き離し、2発目で黒猫自体を狙う。
 その過程で相手の回避行動や攻撃手段を見切るつもりであったが――。
 黒猫の動きは、超人的な動体視力を持つ撃退士でさえ追いきれないほどの速さだった。
 2度目のトリガーを引こうとした時、目と鼻の先に猫の顔が迫っていた。
 振り上げた前足の先から、針の様な長い爪が伸びる。
「――!?」
 とっさに受けたリボルバーがバラバラに寸断され、鴉の顔面に4本の赤い筋が刻まれた。
 血飛沫を上げて仰向けに倒れた若者の胸に、すかさず黒猫が飛び乗る。
「次で終わりだ。その首掻き切ってくれる」
「よせエドガー! 戦闘の許可を出した覚えはない」
 少し怒ったようなエルウィンの声に、黒猫はフンと鼻を鳴らし、不承不承鴉から飛び降りた。
「悪かったね。僕のヴァニタスはどうにも血気盛んで‥‥で、どうするの郷田さん? これ以上ケガ人を出してもつまらないでしょ?」
「‥‥」
「まだだ‥‥まだやれる!」
 右手にハンドガンを握り、左手で顔を覆った鴉がよろよろ立ち上がる。
 拳銃が盾になったことで傷は思いの外浅く済んだものの、流れる血が目に入り完全に視界を奪われていた。
 英雄は武器を打刀に持ち替え、固く握りしめた。
「真剣なる勝負を望む‥‥でなければ、俺は俺の限界を知ったことにならん!」
「‥‥そう。仕方ないね」
 少年の顔から笑みが消え、その片手に刃渡り2mに及ぶ大鎌が出現した。
(あの刃の内側に入り込めれば――)
 一瞬の刺突に賭け、全身に力を矯める英雄。
 だが次の瞬間、背中に受けた衝撃のため全身が硬直した。
「そこまでだ‥‥」
 背後から恭弥がワイヤースタンガンを撃ったのだ。
「これ以上の戦闘は無駄な犠牲を増やすだけだ。俺はただの雇われ傭兵なんでね。割に合わない仕事はゴメンだ」
 同時にエルウィンと英雄の間に割って入ったつばさが、英雄に対して烈風突を見舞う。
 裏拳気味に繰り出した峰打ちなのでダメージは少ないが、その衝撃で英雄の巨体は後方へ弾き飛ばされた。
「分かったでしょ! 同じ撃退士の攻撃もかわせない郷田さんが1人で悪魔と戦ったらどうなるか‥‥もう見てられないよ!」
 鴉の左右からりおんと那由香が駆け寄り、両腕をつかんで強引にエルウィン達から引き離した。
「離せ! 俺はまだ――」
「あかんがな。これ以上続けたら犬死にやで!」
「無駄な血が流れる事は僕の望みではありません。仲間なら尚更に‥‥」
 流司とレンも間に入り、エルウィンとの交渉にかかる。
「阿住さんは『犠牲を出したくない』と僕達に依頼した‥‥これ以上の争いは彼女の遺志に背くと思いませんか?」
「悪いが今回のゲームは終いだ。また次楽しみたいんだろ?」
「いや、こっちは最初からそのつもりだったけど‥‥」
「フーッ!」と毛を逆立てなおも威嚇する黒猫を抱き上げて宥めつつ、エルウィンが苦笑する。
 ふと思い出したように、自らの片手につけていた腕輪を外し、ポンと流司の方へ投げた。
「これは?」
「昔、同じように僕に決闘を申し込んだ撃退士がいてね‥‥彼の形見だよ。よかったら郷田さんに渡しといて」
「‥‥殺したんですか?」
「彼は強かったよ。下手に手加減すればこっちがやられていたくらいに、ね」

 撤退を約束しながら、エルウィン達はまだ球場から去らなかった。
 生き残ったディアボロ達に命じ、地面に散らばった「黒の女王」の破片を集めさせている。
 撃退士達が互いの負傷を応急手当しつつその様子を監視していると、ふいに近づいてきたエルウィンが九十七を手招きした。
「ウン、君らはなかなかいい仕事をしてくれたよ」
 そういって差し出した掌に、握り拳くらいの黒い欠片が乗っていた。
「僕やエドガーの力じゃ、欠片も残さず消滅させちゃうからね。君らなら、ちょうどいい大きさに壊してくれると思ったのさ」
「あ」
 なるほど、と九十七は合点がいった。
 特に感慨らしきものはない。
 疑問が解ければ、彼女はそれで満足だったのだから。

「そういえばチェスなんて久しぶりだったなぁ‥‥」
 戦い済んだグラウンドを見渡し、緑が独りごとのようにいう。
「帰ったら誰か誘ってみようかしら」
「‥‥」
 英雄はその場に座り込み、エルウィンから贈られたという腕輪をじっと見つめていた。
 あの「死神」に死の恐怖を味あわせ、そして殺されたという撃退士の遺品。
 皮肉なのか、それとも「ここまで来てみろ」というメッセージなのか。
 いずれにせよ――。
「あァ、極みには程遠いか‥‥」
 隻腕の戦士は天を仰いで呟いた。

●Endgame
「ふう、やっと出来た」
 とある悪魔の占領地域に立つ洋館の一室。
 黒く小さな結晶を小刀で削っていたエルウィンが、満足したように息をついた。
 回収した「黒の女王」の破片から削り上げたチェスの駒一式。
 卓上に並べた黒い駒の最後の一つ、「クイーン」を置く。
「阿住沙也加、君の願いは叶えた。これから先、僕らは永遠に一緒だ。僕がチェスを指している間はね」
「――エルウィン様」
 部屋の隅に行儀良く座っていた黒猫がふいに声をかけた。
「何だい? エドガー」
「もし私がいなければ‥‥彼女をヴァニタスに選びましたか?」
「さてねえ‥‥仮定の話だから何ともいえないな」
 少年は僅かに思案し、
「ただ、彼女は僕にとっていいチェス友達だった。‥‥それだけは確かだよ」
 そう言うと、エルウィンは完成したチェスの駒を革張りの箱に一つ一つ丁寧に仕舞い込み、パタンと蓋を閉じた。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 終演の舞台に立つ魔術師・天羽 流司(ja0366)
 死神を愛した男・郷田 英雄(ja0378)
 撃退士・秋月 玄太郎(ja3789)
 アンチスピナー・レン・ラーグトス(ja8199)
重体: −
面白かった!:18人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
終演の舞台に立つ魔術師・
天羽 流司(ja0366)

大学部5年125組 男 ダアト
死神を愛した男・
郷田 英雄(ja0378)

大学部8年131組 男 阿修羅
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
撃退士・
秋月 玄太郎(ja3789)

大学部5年184組 男 鬼道忍軍
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
殲滅の黒鎖・
鴉(ja6331)

大学部6年319組 男 インフィルトレイター
Queen’s Pawn・
アリーセ・ファウスト(ja8008)

大学部6年79組 女 ダアト
アンチスピナー・
レン・ラーグトス(ja8199)

大学部7年163組 女 阿修羅
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
シャノン・クロフォード(jb1000)

大学部7年42組 女 アストラルヴァンガード
笑顔の伝道師・
姫寺 りおん(jb1039)

大学部4年52組 女 バハムートテイマー