※当番組はフィクションです。実在するいかなる個人・団体・天魔とも関係ございません。
●久遠ヶ原学園〜昼休み
「だからぁ、この時期はやっぱり桃だと思うのよね、あたしは」
緋伝 瀬兎(
ja0009)はバナナをもぐもぐ食べながら、スマホに向けて熱く語っていた。
『桃はまだ早いんじゃないかな? ボクはさくらんぼが美味しいと思うよ』
画像会話モードで液晶画面に映るのは犬乃 さんぽ(
ja1272)。
「アハハー。さんぽ君は自分がチェリーだからそう思うんじゃない?」
『そ、そんなことないってば‥‥』
ちょっと赤面してくちごもったさんぽの顔が、ふいにプツンと消えた。
「もしもし? さんぽ君、どうし‥‥あれ? 圏外になってる」
瀬兎が顔を上げ周囲を見回すと、教室や廊下で、他の生徒たちもそれまで使っていた携帯やスマホの通信が突然途切れたことに困惑している。
「いったいどうなってるの‥‥?」
妙な胸騒ぎを覚え、瀬兎は小声で呟いた。
「まさか‥‥あいつらが、また?」
●集え! 新たなる戦士たち
「おかしいなあ、どうしたんだろ?」
同じ学園内の中庭。
瀬兎との通話が途絶えたさんぽも、自分のスマホを見つめ怪訝そうに呟いていた。
そのとき。
『大変だよさんぽちゃん!』
腰の専用ホルダーに収めた愛用のヨーヨーが話しかけてきた。
「ナンノ?」
『インフェルノンの反応だ。奴らがまた何かを企んでるよ!』
「はいカットォー!」
TV局内の某スタジオ。
先に撮影されたビデオ画像に合わせてヨーヨー「ナンノ」の声をアテレコしていた綿谷つばさ(jz0022)は、防音ガラスの向こうで番組スタッフが出すOKサインを目にして、ホッとしたように台本から顔を上げた。
ちなみに前回は予算不足のため、現場で直接声をアテていたが。
「そんな、みんなが居ない時に‥‥」
呆然とするさんぽ。
かつて共に戦った戦隊の仲間たちは、現在世界各地におけるインフェルノン支部の暗躍を阻止すべく久遠ヶ原を離れ活動している。
同じ学園内に残っているのは、彼と瀬兎だけだ。
「しかたない、緋伝ちゃんとボクだけでも戦おう!」
ナンノからインフェルノンの地獄パワーを強く感じる場所を聞くと、さんぽは瀬兎のいる教室へと駆け出すのだった。
果たして、悪の魔手は既に久遠ヶ原へと伸びていた!
「きゃあああ!!」
島内商店街の一角で、スイーツの材料を買い物中だった水無月沙羅(
ja0670)と友人のつばさ(ナンノと2役)は地面に座り込んで悲鳴を上げた。
「閃く白衣と煌めく筋肉! ドクタァァァァフィィィンリィィィィルッ!! 参上よん★」
白衣の前をガバっとはだけ、至る所にタトゥーを施した逞しい上半身、黒のビキニパンツ一丁という際どい格好で腰をフリフリするのはインフェルノン幹部Dr.フィンリル!
ロリと筋肉をこよなく愛するマッチョでオカマなマッドサイエンティストだ!
演じるはJungo(
ja8030)。
(まぁ‥‥あれだ、俺が少女を襲ってるとこから始まるんですね解かります)
「見つけたぞ、この変質者めっ!」
「公然猥褻罪で逮捕する!」
住民の通報で駆けつけた警官たち(大学部生エキストラ)が、警棒を抜いて取り押さえにかかるも――。
「ホイホイ出てきちゃって良いのかしらぁん? アタシは男でも襲っちゃうのよ★」
「あっー!?」
突如、画面に咲き誇る薔薇の画像がインサート。
次の瞬間には、ズボンを脱がされた警官たちがみな両手で尻を押さえ、苦悶の表情を浮かべ地面にうつ伏せとなって倒れていた。
「うほほっ♪ それじゃ邪魔もいなくなったところで、お嬢ちゃんたちもア・ソ・ビ・ましょ★」
「嫌ぁーっ! こっち来ないで変態!!」
ああ、このまま少女たちも悪の毒牙にかかってしまうのか!?
「待てい!」
商店街のちゃんこ料理屋の戸がガラっと開き、覆面姿の大男が飛び出した。
なぜかその肩には寸胴鍋を抱えている。
「久遠ヶ原を守るヒーローは、くおん☆フルーツだけではないぞ! 美味さは強さ! 正義の味方チャンコマン参上!」
(ここで目立ってチャンコマンを学園公認ヒーr‥‥いや頑張ってヒーローを演じさせてもらう!)
密かな野心を胸に抱きつつも、チャンコマンこと阿岳 恭司(
ja6451)はカメラに向かい颯爽と見得を切る。
「あらぁ‥‥何だか面倒そうなのが出て来たわねぇ。ならこちらも手下を呼んじゃうわよぉ〜、出でよ落ち武者御前!」
ウオォーーンンン‥‥
不気味な叫び声と共に空が暗雲に覆われる。
一条の稲妻が閃き、鎧兜に般若の面、血まみれの日本刀を携えた怪人が現れた!
「怪人め! 食らえ、チャンコパーンチ!」
チャンコマンの必殺パンチが炸裂、刀を振りかざし斬り掛かってきた落ち武者御前を弾き飛ばした!
「ちょっと待ったー!」
何処からともなくかけられる声。
見よ! 商店街アーケードの上に並んだ3つの影を!
久遠ヶ原学園生徒の與那城 麻耶(
ja0250)、cicero・catfield(
ja6953)、折原スゥズ(
ja7715)だ!
「何よぉ、アンタたち?」
『完熟! くおん☆フルーツ!』
アーケードを蹴って飛び降りた3人の姿が光に包まれた!
麻耶が右手を上に掲げ、
「燦々と降り注ぐ日差しが如く! 今こそ輝け情熱の光! くおんーん‥‥ぱっしょん!」
ciceroは胸のケルト十字を握り締め、
「父と子と聖霊の御名において‥‥クオングレープ!」
スゥズの爆乳がたゆんたゆんと上下に揺れる。
「2つの胸の膨らみは、溢れる正義の証拠なの! クオンメロン!」
それぞれ赤紫、青紫、緑のコスチュームに変身した3人がビシッとポーズを決めた。
『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ、大地の恵みに導かれここに誕生!』
ちょうどその時、さんぽと瀬兎も現場に到着。
「あの子たちは‥‥?」
『これはクオン粒子反応‥‥新しい仲間だよ』
「あたしたち以外にも、フルーツ戦士がいたのね?」
ナンノの言葉に目を見張る2人。
その間にも、ヒーローたちと落ち武者御前の激闘は続いていた。
「しゃぁあーいにんぐぅっ! めーごーさー!」
リングコスチューム風衣装に身を包んだクオンパッションの拳が閃光を放ったと見るや、そのまま拳型の光弾となって怪人の鎧に叩き込まれる。
クオングレープの投げナイフが鎧の継ぎ目に深々と突き立った。
「あ、痛かった? ごめんねぇ、でも‥‥ざまぁw」
『おろろぉ〜ん!』
言葉にならぬ咆哮を上げ、落ち武者の亡霊は日本刀を振り回して反撃。
だがその刃を、クオンメロンが掲げた盾ががっちり受け止めた。
「邪悪の凶刃より友を護る正義の盾、メロンシールド!」
盾は固いが、コスの下からはち切れんばかりのスゥズの胸は柔らかくぼよよんと揺れる。
何だか乳揺れシーンが多いけど、これは大きなお友だち向けのサービスだ!
新生くおん☆フルーツ&チャンコマンの集中攻撃を受け、さしもの落ち武者御前もついに力尽きくずおれた。
残るDr.フィンリルに迫るヒーローたち。
正義の勝利は目前と見えたが‥‥。
「ふぅ‥‥この程度の奴らに何手古摺ってるの?」
戦いを遠巻きに見守る群集の間から、買い物袋を手に提げたゴスロリドレス姿の美少女がつーっと歩み出た。
「あらぁん、チェリーちゃん来てくれたのぉ〜」
その言葉とは裏腹に、フィンリルの顔は(ちっ、厄介なのが来ちまったぜ)といわんばかりにしかめられている。
彼女(?)こそはインフェルノン幹部の1人、「鮮血少女」の二つ名を持つブラディ☆チェリーだ!
ちなみに演じる御手洗 紘人(
ja2549)は男であり、劇中のチェリーも「実は男」という設定である。
「ったく、使えない犬ねぇ」
「犬じゃねぇっ! 狼ダっ!!」
ロリと筋肉大好きのフィンリルにとって、ショタと女っぽい男は大の苦手だ。
そのため同じ組織に属しながら2人は犬猿の仲である。
「大体どこ行ってたのよぉ? 作戦行動中に勝手に姿消してっ」
「まーまー。お買い物も済んだし、あとは軽ーく終わらせちゃいましょ?」
ニヤリと邪な笑みを浮かべ、チェリーはヒーローたちに向き直った。
「うふ☆ 初めまして。そして‥‥さようなら☆」
その片手に漆黒の大鎌が召喚される。
「鮮血☆サラダバー!」
鎌の切っ先を地面に突き立てるや、目前の大地が盛り上がり火山のごとく噴火した!
先に倒された落ち武者御前とは桁違いの攻撃力である。
熱風に煽られ、雨あられと降り注ぐ火山弾に打たれ、思わずたじろぐヒーローたち。
その一瞬の隙を衝いて――。
「オラオラオルゥラァァァ!」
フィンリルの片手から怪しい光線が飛び、チャンコマンを撃った!
「うおおっ!?」
寸胴鍋を取り落とし、苦しげに両手で顔を覆うチャンコマン。
だがやがて顔を上げると‥‥。
「クックック‥‥! 悪さは強さ! ダークチャンコマンだ!」
ああ何ということであろうか?
チャンコマンの覆面が黒く染まり、トレードマークの寸胴鍋さえいつの間にか禍々しい装飾が施されているぞ!
「きしし‥‥、洗脳は『Dr.』の称号を持つ者の特権っ!!」
「そんな‥‥チャンコマン! 目を覚まして!」
麻耶=パッションはやむなくシャイニング・メーゴーサーを繰り出すが、彼女の拳から放たれた閃光鉄拳はダークチャンコマンの鍋に弾かれてしまう。
「ふははは! 効かんな〜!」
お返しとばかりダークチャンコマンが突進、
「食らえ、暗黒乱闘!」
両足に黒いオーラをまとわせたケンカキックがパッションを蹴り倒す!
「――っ!」
パッションはひとたまりもなく地面に叩きつけられた。
「技が‥‥効かない!? そん‥‥な‥‥」
ブラディ☆チェリーの猛威に加えヒーロー仲間の裏切りを目の当たりにし、くおん☆フルーツは大ピンチだ!
「待て!」
インフェルノン幹部たちの目が、近隣の雑居ビルに向けられた。
ビルの屋上に立つのはさんぽと瀬兎。
「完熟! くおん☆フルーツ!」
屋上から飛び降りた2人の体を光の渦が取り巻き、地面に着地したときには既に変身を終えていた。
「二つの果実は絆の証、赤い炎の果実クオンチェリー!」
「見た目はユニークでも中身はスイート! 太陽の光の果実、クオンデコポン!」
それぞれ赤と橙色のコスチュームに身を包んださんぽと瀬兎がポーズを決める。
「きみたちは!?」
驚くciceroに対し、
「やほー初めまして‥‥って挨拶は後、今は一緒に戦おう!」
ウィンクしながら、瀬兎は魔法の小型爆弾デコポンボムを両手一杯に召喚、敵にめがけまとめて投げつけた。
「あいつら、先代幹部と戦った‥‥ちっ、まだ久遠ヶ原に残ってたのねぇ!」
忌々しげに顔を歪めるフィンリル。
対照的にチェリーは退屈そうにあくびなどしている。
「あ〜あ、めんどくさい。ねえ、今日は用事だけ済ませてさっさと帰ろ? ワンちゃん」
「だーら犬じゃねぇーってッ!!」
毒づきながらも、フィンリルは最初に襲おうとした少女たちに歩み寄り。
「どけっ!」
つばさを突き飛ばし、その背後にいた沙羅を魔力で眠らせると、小柄な少女の体をひょいと肩に担ぎ上げた。
「あっ!?」
「しまった!」
にわかに動揺したパッション・グレープ・メロンが後を追おうとするも、チェリーの鮮血☆サラダバーが再び大地を爆発させ、その土煙に紛れ悪の幹部たちは行方をくらましてしまった。
●裏切りのバラード! 女スパイは妖しく嗤う
戦闘が終わった後、商店街を離れ変身を解いた「くおん☆フルーツ」新旧のメンバーたちは、とりあえず学園内のカフェテラスに集まり改めて互いの自己紹介、そして今後のインフェルノン対策について話し合った。
「でも何であいつら、沙羅ちゃんだけをさらったんだろ?」
瀬兎が先刻から抱いていた疑問を口にした。
「何か心当たりはない?」
「‥‥」
麻耶、cicero、スゥズの3人はしばし躊躇うように目配せしあっていたが、やがて意を決したように切り出した。
「実はあの子‥‥沙羅ちゃんも、私たちと同じフルーツ戦士なの」
「え、4人目がいたんだ?」
麻耶の告白に、驚いて目を瞬くさんぽ。
「ただし、彼女は変身できても俺たちのように戦うための魔法は殆ど使えない。その代わり、俺たちの負傷を回復させたり戦闘力を強化する支援系魔法、それに天才科学者並みの頭脳を与えられているんだ」
「これは機密事項ですけど‥‥」
スゥズが声をひそめると、ぶりゅんと胸を揺らして身を乗り出した。
「いま、学園のロボット研究会と共同で、K☆Fをよりパワーアップするため『秘密兵器』の開発を進めています‥‥水無月さんは、そのプロジェクトリーダーだったのです」
「そうか! 奴らの目的は、水無月ちゃんをさらって秘密兵器の完成を妨害すること‥‥!」
ぐっと拳を握るさんぽ。
取り急ぎロボ研の開発チームに事態を報告、今後の対応を打ち合わせる――そう言ってスゥズが席を外した後、残ったメンバーは引き続き新たなインフェルノン幹部、そしてダークチャンコマンへの備えについて話を進めた。
「‥‥あれ?」
最初に異変を察知したのは麻耶だった。
窓ガラスの向こうに広がる広大なキャンパス。
そこで一群の生徒が集まって列を作り、何かプラカードを掲げて練り歩いている。
生徒たちが手にしたプラカードには『くおん☆フルーツは平和の敵!』『インチキヒーローに騙されるな!』などと書かれ、要するに彼らはフルーツ戦士たちの久遠ヶ原追放を叫んでデモを行っていたのだ。
「みんな‥‥いったいどうしちゃったの?」
一同は急いで店内から外へと出るが、一般人の生徒たちに手出しすることはできない。
ちなみに全員目の下に黒い隈が入ってるのが非常に怪しいが、そこはあえてツッコまないのがお約束だ!
「あなたたち、何やってるの! 彼らは正義の味方なのよっ!」
その時、校舎から飛び出した若い美人教師が生徒たちに叱責を浴びせた。
「でも先生、くおん☆フルーツがいるから、妙な怪人や怪物がこの島に攻めてくるんですよ。あいつら疫病神だ!」
「それは誤解です。いいから、馬鹿な騒ぎはやめてみんな解散しなさい」
「‥‥あの人は?」
「いま高等部に教育実習生として来てる雁行 風音(
ja8372)先生。どこで聞いたのか私たちの正体を知ってて‥‥秘密兵器開発プロジェクトにもアシスタント志願して参加してるよ」
「俺は反対したんだがな。ただ折原君と仲が良くて、彼女が『自分が責任を持つ』と言い張るから、仕方なく‥‥」
「私も何だか信用できないなー、あの先生。人を疑うのは嫌だけど‥‥何かこう、悪い予感がするんだ」
「ふうん?」
さんぽと瀬兎は首を傾げた。
だが、彼らはまだ気づかない。
渋々散っていく生徒たちの背中を見送る風音の口許に、何かを企むかのような薄笑いが浮かんでいることに。
(ど、どういうこと‥‥?)
ロボ研の開発ルームを訪れたスゥズは、予想外の光景に絶句していた。
本来ならIDカードを持たない者は入室不可能な開発ルームに多数の生徒たちが踏み込み、無造作にロッカーやデスクの引き出しを開けて機密情報を漁っていたのだ。
ロボ研の開発スタッフたちは皆ロープで縛られ、気絶したまま床に転がされている。
「やめてください! ここは部外者立ち入り禁止ですよ!!」
「ウフフ‥‥無駄よ折原さん」
「雁行さん!?」
はっとして振り向くと、そこには全身を黒のレザースーツに包んだ風音の姿が!
「彼らは既に洗脳済み。つまり私の忠実なお人形さん♪」
その言葉通り、目の下に怪しい隈を浮かべた生徒たちは虚ろな無表情のまま、黙々と室内を荒らしながら、重要そうなファイルやCD−ROMなどを手当たり次第ジェラルミンケースに詰め込んでいく。
「雁行さん‥‥あなたは一体?」
風音は妖しく微笑んだ。
「改めて自己紹介するわ。私はまたの名をダークミラージュ。インフェルノンの‥‥まあ雇われスパイってとこね」
生徒たちから盗んだデータの詰まったケースを受け取ると、ミラージュはウィンクと投げキスを残して踵を返す。
「待って! 信じていたのに!」
風音との会話に気を取られている隙に背後から忍び寄った生徒たちが、一斉にスゥズへと襲い掛かった。その力は一般人のものとは思えない!
「だめ‥‥行っては‥‥だめ‥‥」
両手を拘束されたため変身も出来ず、スゥズは身動きも取れぬまま縛られていく。
乳だけはゆっさゆさとふんだんに揺れていたが。
●戦慄! バイオソルジャー計画
地底深くに築かれた悪の牙城、インフェルノン日本支部。
その一室で、拉致された時と同じ着物に割烹着といういでたちの沙羅が虚ろな表情で端末を操作している。
「へえー、結構マジメに働いてるじゃない☆」
沙羅の様子を背後から見守り、ブラディ☆チェリーが感心するようにいった。
「キシシシ‥‥アタシの洗脳魔法は完璧よん★」
「洗脳ついでに何かやらしーことしてないでしょうね? このロリコンオカマ」
「ば、バカなこといわないで! そんな真似したら、アタシが大魔王様にお仕置きされちゃうわよっ」
「‥‥よねぇ。全く厄介な話だわ。よりによって、地獄大魔王様の娘がくおん☆フルーツのメンバーだなんて」
チェリーの口から明かされた驚愕の事実!
何を隠そう、沙羅こそがインフェルノン首領の娘、その名もプリンセス☆ピーチなのだ!
だが数奇な運命により、本人はその記憶を封印され「普通の女子高生」として生活していたのだが。
彼女の天才的な頭脳は魔法ではなく、父親たる地獄大魔王から受け継いだものであり、今回Dr.フィンリルに狙われた理由でもあった。
「で、この子の才能を利用して何させるわけ?」
チェリーの問いに、フィンリルはニタリと笑って研究室の一角を指差した。
一般家庭にあるのと変わらぬガスコンロの上で、見た目普通の圧力釜が火にかかっている。
「あの中で煮えてるのはアタシが開発中のバイオスライム。取りついた人間の遺伝子を変異させ、お手軽に強化兵バイオソルジャーに変える優れものよん。いま試作品をダークミラージュに貸してるけど、完成の暁には久遠ヶ原学園の生徒どもを全てバイオ兵士に仕立てて世界征服の尖兵に使ってやるわっ! ケヒャヒャヒャ!」
噂をすれば影。オートドアが開き、ミラージュが帰還した。
「ちょろい仕事だったわ。はい、奴らが開発中の秘密兵器のデータ」
「アラごくろーさま★ でもアタシはバイオ工学専門だから、ロボット関係ならあの子に任せた方が早いわね〜」
フィンリルに呼び出され、白衣の少女――兜みさお(
ja2835)が入室した。
「このデータの分析お願いね。明日の朝までに大至急よっ」
みさおはインフェルノン兵器開発部門のスタッフ。戦闘員や怪人よりは格上だが、幹部たちには顎で使われる何とも不遇な立場だった。
「畏まりました。ところで、今月の報酬の件なんですが‥‥」
「ああコレね。街で買ってきてやったわよ。有難く思いなさい☆」
思い切り尊大な態度で、チェリーが買い物袋から取り出したプラモの箱をみさおに放り投げた。
「こ、これ違います! 私がお願いしたのは蒸気戦士デゴイチの――」
「アレは売り切れだっていうから適当に選んできたの☆ 何か文句ある?」
(ひ、ひどい‥‥)
山のような仕事とパチモンのプラモを抱えて自分の研究室へ戻ったみさおは、力なく肩を落とした。
「好きなだけロボットの研究をさせてやるっていうから組織に入ったのに‥‥上司はオカマと女装男子。ろくなお休みもなく妙な兵器を作らされて、おまけに給料代わりに支給されるのはコレジャナイロボばかりだなんて!」
『兜みさお。ここは君が居るべき場所じゃない』
「――誰?」
驚いて顔を上げたみさおの目の前に、天井から光り輝く果実がゆっくり降りてくる。
「これは‥‥ブラックベリー?」
●決戦! フルーツオー発進せよ!
事態は急展開を迎えていた。
秘密兵器のデータをダークミラージュに奪われたその翌日、今度は「インフェルノンから脱走してきた」という少女が久遠ヶ原学園へ転がり込んできたのだ。
最初はK☆Fメンバーたちも半信半疑だった。
しかし彼女の持ち込んだデータが盗まれたものと完全に一致すること、そして何よりナンノがその少女――みさおから強いクオン粒子反応を感知したことで、彼女の言葉を真実と認めざるを得なかった。
久遠ヶ原に来たその日から、みさおは拉致された沙羅の代役として秘密兵器開発プロジェクトに加わった。
データ分析で秘密兵器の全貌を知り、その存在にすっかり魅せられた彼女は「これは私の手で完成させます!」と不眠不休で開発に打ち込んだ。
食事を取るのも開発ルーム。
輝く振掛けお握りをクールな仕草で食しつつ、
「戦士たちの強さの秘密くおん☆ふりかけ黄金果実王味‥‥渋いです」
スポンサー商品をしっかりアピール。
「彼女のおかげで計画の遅れを取り戻せた。秘密兵器の完成も間近だな」
頼もしげに頷くcicero。
だが麻耶の表情は冴えない。
「でも沙羅ちゃん、それに洗脳されたチャンコマンを一刻も早く助け出さなくちゃ‥‥」
そのとき、瀬兎とさんぽが開発ルームに駆け込んできた。
「大変よ! インフェルノンが学園に直接攻め込んできた!」
「あの幹部たちだけじゃない。水無月ちゃんやチャンコマンも一緒だ!」
「裏切り者が1人そっちに逃げ込んだでしょ? 返してもらいましょうか」
両手を腰に当て、高飛車な口調でブラディ☆チェリーが告げた。
その背後にはDr.フィンリル、ダークチャンコマン、ダークミラージュ、虚ろな表情の沙羅。さらには洗脳されバイオスライムで強化された生徒たち数十名が控えている。
「逆らうなら、この学園を今すぐぶっ潰しちゃうわよぉ? 生徒自身の手でね☆」
「私なら逃げも隠れもしません‥‥完熟! くおん☆フルーツ!」
自ら悪党どもの前に進み出たみさおの体を光の渦が取り巻く。
次の瞬間、変身した彼女は黒いセーラー服と黒苺飾り付のチョーカーをまとい、その手には大剣「黒壊剣」が握られていた。
「何にも染まらぬ黒き意志‥‥クオンブラックベリー」
「ナニよ!? アンタ、いつの間に――」
驚くフィンリルを尻目に、他のフルーツ戦士たちも次々と変身。
K☆Fメンバー6人の勢ぞろいだ!
「しゃらくさいわね! おまえたち、やっておしまい!」
チェリーの命令の下、怪しい隈を浮かべた生徒たちが戦闘員のごとく襲いかかる!
みさお=ブラックベリーは彼らにくおん☆花火を投げつけた。
大量の煙が煙幕となってバイオ兵たちの目をくらまし、その隙に素早く間合いをつめると次々首元峰打ちで気絶させていく。
「凡人は逃げなさい‥‥殺されたい?」
「あなただけは許しません!」
敵の中にミラージュの顔を見るなり、メロンがメロメロナイフを抜いて向かっていく。
だがその隙に横合いからフィンリルの束縛魔法を受けてしまった!
「あうっ!?」
手も足も出ぬまま敵の攻撃に晒されるメロンをグレープが救援に走る。
「グレープショット!」
クオン粒子の力を宿した光のナイフを乱れ撃ちのごとく投げ、バイオ兵たちをまとめて倒した!
相手も学園生徒だけに、ショックで昏倒させる程度に加減しているが。
一方、クオンチェリーとデコポンはブラディ☆チェリーと対峙していた。
デコポンボムで牽制、チェリーブレードで斬り込むチャンスを窺うが――。
やはり鮮血☆サラダバーの威力の前に前進を阻まれてしまう。
「ブラディ☆チェリー、なんて強さなの‥‥あと名前ちょっと紛らわしい‥‥」
ぽそりと呟き、瀬兎が横目でさんぽをチラ見。
「ちょ! 一緒にしないでよ!?」
『諦めないで、さんぽちゃん、瀬兎ちゃん‥‥さぁ唱えて超熟! と』
ヨーヨーからナンノの声が響く。
その声に従い、二人は声を揃えて叫んだ。
「「超・熱!!」」
2人を中心に、ひときわ眩い光の粒子が渦巻く!
見よ、華麗なる二段階変身!
「スーパー☆クオンチェリー、今ここに再誕!」
「同じくスーパー☆クオンデコポン、ここに再誕!」
それぞれ白と赤、黒と橙を基調にした新コスチュームに身を包んださんぽと瀬兎がポーズを決めた。
『完熟! 超☆フルーツバスケット!』
「きゃあああ!?」
合体必殺光線を浴びたブラディ☆チェリーが堪らず後方に弾き飛ばされた。
「思い出して! 博士はクオンピーチ‥‥K☆Fの頭脳なんです」
乱戦の中、ようやく沙羅の元へたどりついたみさおが、その肩を揺する。
「くおん‥‥ぴーち?」
虚ろに呟く少女の体が、みさおの放つクオン粒子エネルギーに反応。おもむろに目の焦点が合った。
「完熟! くおん☆フルーツ!」
次の瞬間、変身を遂げた沙羅は白衣姿に。
「愛と勇気と知性で世界を癒す! ぴちぴち桃色お肌が自慢なの――クオンピーチ!」
ピーチの両手から迸る癒しの波動が、傍らのダークチャンコマンを包む。
「うおおっ!?」
一瞬苦しげに顔を覆った男の覆面と寸胴鍋が元の色に戻った。
「はっ!? 俺はいったい‥‥それに何だ? 今までにないパワーを感じるぞ!」
復活したチャンコマンの体をクオン粒子の輝きが包む!
「空に輝く正義の流星! 星の光の果実! クオンスター!」
チャンコマンからクオンスターへの2段階変身。
その覆面と寸胴鍋が黄金色に輝いた!
新たに召喚したスターハンマーから繰り出す必殺技「スターブレイク」が、群がるバイオ兵たちをバッタバッタとなぎ倒すぞ!
「先輩! それにスターも!」
歓声を上げるパッションも、己の裡に新たな力が湧き上がるのを覚えた。
「いっくよーっ! ‥‥しゃぁいにんぐぅ‥‥うぃざぁーっど!」
クオン粒子エネルギーが脚部に集中、猛加速で放つ膝蹴りがフィンリルに炸裂!
「なっ‥‥!?」
ようやくダメージから立ち直ったブラディ☆チェリーは我が目を疑った。
いつの間にか洗脳した2人が正気に戻り、相手は8人に増えている。
おまけにバイオ兵たちは皆気絶して地面に倒れ、その顔から隈が消えて元の学園生徒に戻っているではないか。
「ちょっとフィンリル、何とかしなさいってば!」
「煩いわねぇ。こんなこともあろうかと、ちゃんと奥の手は取ってあるわよっ!」
フィンリルは急に戦いの手を止め、呪文と共に奇妙な踊りを始めた。
「ドドスコスコスコ×2ラブ注入っ! ブルァァァァァァァ!!」
ゴゴゴゴ‥‥
突如地鳴りと共に大地が割れ、先日倒されたあの落ち武者御前が、身の丈50mの巨大怪人として復活した!
『オロロォ〜!』
恨みの念も凄まじく、長大な日本刀で高層棟の校舎(ミニチュアセット)を一刀両断!
「すご〜い☆」
強力な援軍に喜ぶブラディ☆チェリーだが、はっと我に返ると。
「あんな切り札があるなら何で最初から使わないのよ? おかげでチェリーのお洋服、汚れちゃったじゃない。気の利かない犬コロね!」
「イヌじゃねェーッ!! ちったぁそのウゼェ口閉じてろやこの男女ッ!!」
「‥‥今、男って言った? ワンちゃん??」
チェリーの目が不気味に据わる。
かくしてインフェルノンの幹部2人は、戦闘も放り出して激しい罵り合いを始めた。
「カマーズ歪みねぇです」
ブラックベリーは冷ややかに悪態をつき。
「しかしうちの幹部たちはどうも悪い意味で癖強いわね」
ダークミラージュが肩をすくめる。
「報酬はもう頂いたし、この辺が潮時か‥‥じゃ、後はみんな頑張ってねっ♪」
ウィンクと共に煙幕を張り、謎の女スパイは何処かへ姿を消した。
その間にも落ち武者御前は暴れ回り、周囲の校舎を破壊していく。
ああ、今日が久遠ヶ原学園最後の日となってしまうのか!?
「皆、諦めちゃ駄目だよ。正義を諦めない限り、魔法はきっと力を貸してくれる」
巨大怪人の脅威を前に立ち尽くす仲間たちをデコポンが励ました。
その時、メロンが携帯する光信機に入電が。
「ロボ研より連絡。秘密兵器が完成しました!」
「いよいよあれを使う時がきたか‥‥」
「まだテストもしてませんが‥‥一か八か、やりましょう!」
ブラックベリーが決断し、全員の合体魔法で地下ドッグに格納された「秘密兵器」を召喚。
『来い、クオンマザー!』
ドドドド‥‥
暗雲を振り払うがごとく、上空に巨大母艦クオンマザーが出現!
次の瞬間、8人のフルーツ戦士は転移魔法により母艦操縦室(別セット)へとテレポートしていた。
「発進許可! 起動します!」
オペレータ席についたメロンが起動ボタンON。
『完熟トランスフォーメーション、完成フルーツオー!』
重厚な金属音と共に母艦が変形、身長50mの巨大ロボット「フルーツオー」となって地上に舞い降りた。
「待ってましたぁ! 最初から出せ!」
興奮の余り演技も忘れて叫ぶみさおだが、監督からNGが出て撮り直し。
完成直後でまだ兵器も搭載していないフルーツオーのため、ピーチが素早く攻撃アプリをアップロードする。
フルーツオーの背中から翼が広がった。
同時に衛星軌道上に置かれた巨大魔具「レインボーソード」を召喚、翼の太陽光パネルからエネルギーチャージで完熟完了!
「極限突破! リミットブレイク」
ピーチがパスワードを入力、最終奥義発動だ!
巨大ロボは太陽を背景に大きく飛翔、七色の大剣を落ち武者御前に唐竹割で振り下ろした!
『完熟剣☆一刀両断彗華割り!』
ズバーーンッ!!
真っ二つにされた巨大怪人の体が左右に倒れ、大爆発。
「おのれ〜K☆F、またしても‥‥!」
「‥‥最悪‥‥チェリーもう帰る!」
チェリーがフィンリルにがっちりヘッドロックを極めたまま、インフェルノン幹部たちは撤退していく。
かくして悪の野望は再び打ち砕かれた。
ありがとうK☆F、さらばK☆F!
秋の特別編でまた会おう!(ぇ
<了>