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マスター:ちまだり
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:14人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/03/12


みんなの思い出



オープニング

 物心ついた頃から、私はこの病院にいた。
 そして14歳になった今でも、病室のベッドから離れられぬまま毎日を過ごしている。
 せめてもの慰めは、ベッドが窓際にあったから、ほんの僅かだけど病室の外を覗けたこと。
 ベッドから見上げる、白い壁に四角く切り取られた小さな空――。
 それだけが、この14年間私と世界をつなぐ景色だった。

 ある晩のこと。
 ふと近くに人の気配を感じて瞼を開けた私が見たのは、ズボンのポケットに両手をつっこみ壁に寄りかかった男の子だった。
 歳は私と同じくらいだろうか? 人形のように綺麗な顔の、外国人の少年だ。
「やあ。こんばんわ」
「‥‥誰?」
「君たち人間が『天魔』と呼ぶ存在――といえば、分かってもらえるかな?」
 天魔のことなら知ってる。TVのニュースでよくやってるから。
 てっきり怖い怪物ばかりだと思っていたのに、目の前の男の子は、私たち人間とどこも変わらない姿だ。
「なら、あなたは天使? それとも悪魔?」
「うーん。どちらかと聞かれれば悪魔の方かな?」
 少年は苦笑いした。
「でも僕自身は冥界の出身だし‥‥むしろ『死神』と呼んで欲しいね」
「死神‥‥さん?」
 ――確かに、今の私を尋ねてくるのに、いちばん相応しいお客様だわ。
 私は思わずクスリと笑った。
「私の命を盗りに来たの?」
「まあそういうことになるけど‥‥今はまだ獲らない。君だって、今すぐ死にたいわけじゃないだろう?」
「そりゃあそうよ」
「今夜はとりあえず挨拶に寄っただけさ。起こして済まなかったね」
 それだけいうと、少年はくるりと背中を見せた。
 窓の方に伸ばした細い指先が、魔法のようにガラスを擦り抜けていく。
「あ、あの‥‥!」
「何だい?」
「もし怖いことしないなら‥‥また来てくれる? 寂しかったのよ、話し相手がいなくて」
「そうだね。また遊びに来るよ」
 少年の体全体がすうっと窓を擦り抜ける。
 次の瞬間、窓の外には、蝙蝠のような黒い翼を開いて飛び去っていく「死神」の姿が見えた。


「エルウィン様も相変わらずお戯れが好きですな」
 深夜の高層ビル街。病院を見下ろすビルの屋上に腰掛けた少年の肩に、ひょいと飛び乗った黒猫が、人語で話しかけた。
「あの娘の魂がご所望なら、すぐに奪ってしまえば良いものを」
「やろうと思えば簡単だけどね。ただ『力ずく』っていうのは僕の趣味じゃないのさ」
「では如何なさるおつもりで?」
「今夜会って分かったけど、あの子の命はもう長くないし、本人もそれを悟ってる。なのに、彼女はまだ希望を捨てていないんだ」
「希望‥‥ですか?」
「99%の絶望に抗えるほどの、僅か1%の希望‥‥僕はそれを知りたい」
 少年は黒猫の頭を撫で、穏やかに微笑んだ。
「それが何にせよ、僕にとっては‥‥最高のご馳走になるだろうから」


「301号室の綾瀬さん‥‥もう長くないんですって?」
「らしいわよ。手術しようにも体力が保たないだろうって、主治医の先生が仰ってたから」
「ご家族には連絡したんでしょ? なぜ誰もお見舞いに来ないのかしら」
「あら知らないの? 綾瀬さんのご両親、とうに離婚したのよ。あの子の医療費をどちらが負担するかで押し付け合いの裁判になって‥‥結局父親が払うことになったけど、本人は迷惑がって見舞いにも来ない。冷たいわよねえ」
「よしましょうよ、こんな場所で‥‥聞こえちゃうわよ?」

 ――聞こえてるわよ。
 あの看護師たちは知らないのね。
 生まれてこの方ろくに身動きもできない私だけど、耳だけはすごくいいの。


「決めたわ。私の魂‥‥あなたにあげる」
 それは何度目の晩だったかしら?
 いつものように真夜中、病室に遊びにきたエルウィン――彼がそう名乗ったの――に、私は告げた。
「いいのかい?」
「私なんか、生きてたって何の役にも立たない。それどころかお父様の重荷になるだけ‥‥それなら、いっそ‥‥私の命で誰かが喜んでくれるなら。それが悪魔でも、死神でも」
「‥‥」
 エルウィンはすぐには答えず、じっと考え込んでいる。
「どうしたの? 私の魂じゃダメ?」
「そんなことないさ。ただ、何かお礼をしなくちゃと思ってね‥‥君には、何か叶えたい願いはないのかい?」
(健康な体になること)
 一瞬浮かんだその考えを、私はすぐ振り払った。
 これは魂を代償にした願い事だから。私はゾンビになるつもりはない。
「なら‥‥蝶になりたい」
「蝶?」
「そうよ。いつもその窓から眺めて思ってたの‥‥一度でいいから蝶になって、あの空を自由に飛んでみたいって」
「‥‥なるほど。そういうことか」
 独り言のように呟くと、エルウィンは私の枕元にそっと顔を寄せてきた。
「分かったよ。君のその願い――きっと叶えてあげる」

 私が初めて、そして最期に体験したキス。
 それは氷よりも冷たい、死神の舌の感触だった。

●久遠ヶ原学園〜斡旋所
「H県の病院から緊急依頼。病院の屋上に天魔が現れたそうや」
 受付け係の伊勢崎那由香(jz0052)が、FAXされた書類を見ながら撃退士たちに告げた。
「幸い避難が早くて、患者と医者、それに職員の人らはみんな脱出したそうやけど‥‥入院患者の1人、綾瀬美紀さんゆー14歳の女の子が安否不明や」
「逃げ遅れたのか? くそっ、すぐに助けねえと!」
 撃退士たちがざわめく中、室内のFAX機がカタカタ音を上げ、新たな用紙を吐き出す。
「撃退庁のヘリが空撮した写真やな。‥‥な、なんやコレ!?」
 那由香が驚きの声を上げる。
 写真を覗き込んだ他の撃退士たちも、同様に首を傾げた。

 病院屋上を撮った写真の中で、まず目を引くのは、中央付近に転がる長さ5mほどの茶色い楕円形の物体だった。
 喩えていえば、蝶の蛹(さなぎ)にそっくりだ。
 巨大な「蛹」の周囲を守るかのように、ミイラ男のようなディアボロの群れが立っている。
 だが、何より撃退士たちを困惑させたのは――。

「蛹」のすぐ傍に立ち、カメラを見上げるように微笑する14、5と思しき少年の姿だった。


リプレイ本文

●屋上の少年と消えた少女
 転移装置により現地へと移動した撃退士たちは、予め待機していた県警の機動隊バスに乗り込み、パトカー先導で病院への移動を開始した。
「今回は死守命令ではなく殲滅戦ですか‥‥悪魔かヴァニタスがいるのにこの人数ということは、上層部は『あの少年』が戦闘に関与する気がないと判断しているのでしょうかね?」
 バスのシートに腰掛けたアーレイ・バーグ(ja0276)が、皮肉混じりに呟く。
 実際、撃退庁や学園の生徒会でも「敵」の目的を図りかねていた。
 ただ現状では積極的な攻撃を仕掛けてこないことから、撃退庁側もとりあえず少年を徒に刺激するのは避け、取り巻きのディアボロ、及び新種ディアボロの「蛹」と思しき物体の殲滅を優先しつつ様子を見よう――という方針なのだろう。
「本来なら常に最悪の状況を想定して、必要充分な戦力を準備するのがセオリーですが‥‥まあ仕方ありませんね。仮にあの少年が悪魔なら、たとえ熟練撃退士を数十人投入しても太刀打ちできるか分かりませんし」
 半ば諦め気分でため息をもらす。
「屋上に蛹か‥‥奴は一体何を考えている?」
 天風 静流(ja0373)もまた、依頼斡旋所で見た写真から、悪魔側の意図について思案を巡らせていた。
 もし例の「蛹」が予想通りディアボロのものだったとして、それを羽化させるのが、なぜあの病院、そして屋上でなければならないのか?
「本当のところは、蛹を作った本人に聞いてみるより他ないか‥‥」
 これまでの行動から判断する限り、少年の姿を借りた天魔は人間と見れば見境なく襲いかかる「戦闘狂タイプ」とは異なるらしい。状況しだいで交渉とまではいかずとも、ある程度言葉を交すことは可能かもしれない。
「まあ話し合いでどうにかなる相手でもないだろうが‥‥それでも有益な情報を引き出せるなら、それに越したことはないからな」
「この男の子、悪魔かヴァニタスだよね。いいなぁ‥‥斬りたいなぁ‥‥」
 撃退庁のヘリが空撮した病院の屋上写真を眺めつつ、神喰 茜(ja0200)はしみじみと独りごちた。
 かつて彼女を襲い、アウル発現の切っ掛けを作った相手はシュトラッサーだが、たとえ悪魔側だとしても、人型天魔の姿を見るだけで茜の体内に流れる「人斬り」の血が疼く。
「もっとも今の私の力じゃ、首を獲るにはちょっと難しい相手‥‥か」
 ひとたび戦闘となれば剣鬼と化す茜も、勇気と無謀の違いは心得ている。
 決して油断は出来ないが、今回はこちらからの手出しは控えようと決めた。
 いずれにせよ、現場である屋上に着けば「獲物」には事欠かないのだから。
「この物体は見るからに蛹‥‥ってことは蝶か蛾が生まれるんだよね。いつ生まれるかは判らないけど、その前に周りのミイラ斃しちゃおう♪」
「まずはこのマミーたちをどうにかしなければなりませんね」
 写真に映るミイラ型ディアボロの群れを見つめ、エリス・K・マクミラン(ja0016)もその点に同意を示す。
「もっとも蛹の方は‥‥例の少年がいる限り、下手な手出しも出来ませんか」

「行方不明の子は大丈夫かな‥‥」
 金網が張られた機動隊バスの車窓から病院の方角を見やり、御伽 炯々(ja1693)は心配そうに呟いた。
 幸い避難が早かったため殆どの医師や看護師、入院患者、その他病院職員たちは無事脱出に成功したが、その中で入院患者の1人、綾瀬美紀という14歳の少女が未だに安否不明だという。
「無事が確認できていない女の子について、その後何か情報はありますか?」
 ネコノミロクン(ja0229)は、同乗する私服刑事に尋ねた。
「現在、我々も手を尽くして捜しておりますが‥‥何せ病院側も大混乱で、聞き込みもままならない有様ですからねぇ」
 難しい顔つきで、刑事が腕組みする。
「判明しているところでは、綾瀬美紀さんは生まれつき心臓に重い障害を抱えていて、ベッドから起き上がることもままならぬ容態だったそうです」
「それじゃあ、自分で避難することもできないじゃないですか? 病院側は彼女を置き去りにしたんですか?」
「いえ。朝方警備員が屋上にいる天魔の群れを目撃し、担当の看護師が真っ先に避難させようと病室に駆けつけたそうなんですが‥‥その時には、もうベッドはもぬけの殻だったとか」
「つまり、天魔に捕われた可能性が高い、というわけですね‥‥」
 少女の運命を案じ、撃退士たちの表情が一様に暗くなった。
「‥‥綾瀬さんのご家族の方は?」
 亀山 淳紅(ja2261)の質問に対し、
「我々からも一応連絡を取ってみたのですが‥‥父親は仕事で海外出張中、母親は転居して住所もろくに判らない有様でしてね」
 これまた苦い顔で、刑事が答える。
「そんな‥‥実の親やろ?」
「それが、ご両親は既に離婚されたそうで。色々と複雑な事情があったようですな」
「‥‥なんかめんどくさそうな事になってきたな」
 前髪をかきあげ、ボソっという御暁 零斗(ja0548)。
「きっと、ボク達が助けに来るの待ってるもん、早く行かなくちゃ」
 犬乃 さんぽ(ja1272)は拳をぐっと握り締めた。
「そやな。このままじゃあんまり可哀想やで!」
 淳紅も力強く頷く。
「‥‥まずは敵の殲滅、捜索はそれからだな。間に合うと良いが、しかし‥‥」
 竹林 二太郎(ja2389)の脳裏を、一瞬不吉な予感が過ぎる。
(ディアボロ群の中に蛹と少年‥‥蛹‥‥まさか、な)
 だがあえてこの場で口にすることはなかった。

●木乃伊たちの壁
 病院の少し手前で降車した撃退士たちは、ディアボロの襲撃を警戒しつつ、人気のない病院へ入ると階段を昇って屋上を目指す。
「建物の中にも伏兵くらいいるかと思ったが‥‥こうも無防備だと、逆に薄気味悪いぜ」
 ナックルダスターで固めた拳をビシっと掌に叩きつけ、真龍寺 凱(ja1625)が吐き捨てるようにいう。
「でも油断は禁物ですよ。相手は悪魔だけに、何を企んでいるか分かりませんし」
 鴉守 凛(ja5462)は手元に召喚したツーハンデッドソードを構え、注意深く周囲を見回す。
「いざというときの治療は俺が引き受ける。大船に乗った気で戦ってくれ」
 アストラルヴァンガードとして回復役を担当、また医療にも多少の心得はある地領院 徒歩(ja0689)は、仲間たちを安心させるように肩から提げた救急箱を示した。
「しかし悪魔だかヴァニタスだか知らねえけど、あのガキなんだって屋上に居座ってるんだろうな? 人間狩りが目的なら手下のディアボロにやらせときゃいいのに」
 おそらくは一同が感じているであろう疑問を口に出し、梅ヶ枝 寿(ja2303)が首を傾げる。
「‥‥ま、すぐご本人に会えるんだ。嫌でも分かるか」
 炯々はがらんとした院内を見渡しながら、今ここにいない美紀に向け語りかけた。
「後になっちゃうけど絶対探し出すからね」

 間もなく最上階の屋上部屋に到着すると、まず炯々が進み出てドアノブを握った。
「鍵は‥‥かかってないな」
 背後ではネコノミロクンがリボルバーを、アーレイが魔導書を構える中、炯々がドアを開ける。
 目映い陽光が一同の視界を照らした。

 数名の撃退士が素早く屋上へと走り出て状況を確認。
 広々とした屋上の中央付近に、身の丈2m近い逞しい体に包帯を巻き付けたマミーが8体、ズラリと横並びに立っている。
 そのすぐ背後には、黒いフードマントを頭からすっぽり被った小柄なディアボロが4体、まるで幽霊のごとくユラユラと左右に動いていた。
 さらにその後方に、小山のごとく横たわる巨大な「蛹」。
 その蛹に背中で寄りかかる姿勢で立ち、例の少年がいた。
 カジュアルなシャツの上にパーカーを羽織り、両手をズボンのポケットに突っ込んでいる。
 色白で端正な顔立ちを別にすれば、見かけはごく普通の人間、中学生くらいの少年だ。
 少年は屋上に現れた撃退士たちの方を一瞥したが、すぐ興味なさそうに視線を逸らすと、何かを待ちわびるかのような表情で青空を見上げた。
 代わりに動いたのは、少年のすぐ手前にいた9体目のマミー。
 他のマミーと違い鉄兜と腰布を身につけたそのミイラ男は、いわばマミーたちのリーダー格といったところだろう。
 片手に持つ鉄槍を高々掲げ、リーダーが何やら意味不明の言葉で叫ぶ。
 直後、8体のマミーたちは数mの間隔を置いたまま横1列に前進を開始した。
 
 撃退士たちも直ちに臨戦態勢を取る。
 彼らのいる場所から「蛹」までは、ディアボロ群を挟んでおよそ百m。
 いずれにせよ、あそこまでたどり着くためには目前のミイラどもを片付ける必要がある。
「さてと‥‥攻撃に特化した私の能力‥‥何処まで通用するでしょうかね」
 前衛のマミーたちが射程に入ったところで、まずアーレイが魔法書を掲げて球雷状の魔法攻撃を放った。
 ほぼ同時に、ネコノミロクンがリボルバーによる射撃を開始。
 アウルの力を具現化させた球雷と銃弾を受け、マミーたちの巨体が揺れる。
 鈍い音と共に包帯が千切れ飛び、その下から茶褐色に干涸らびた皮膚がのぞく。
 が、ミイラたちの前進は止まらない。
「‥‥さすがにグールよりはしぶとそうですね」
 これは事前に予測できた状況なので、他に対マミー戦を担当する6名が前進し、各々1体ずつのマミーを受け持つ形で攻撃を始めた。
「雑魚相手に時間かけてられないのよ!」
 色濃い殺意と凶気に濡れた打刀の白刃を閃かせ、茜がマミーの巨体へ斬りつける。
 反撃に繰り出される敵の拳をかいくぐり、少女は自ら抜き身の刃と一体化したがごとく、容赦なく2の太刀、3の太刀を浴びせかけた。
 その度マミーの胴体に深々と裂け目を刻むが、乾いた皮膚からは1滴の血も零れない。
(物足りないなぁ‥‥ミイラだからしょうがないけど)
 そんなことをちらりと思ったりもする。

「病院が使われへんと困る人がいーっぱいおんねん! 出てってもらうで!」
「ここは神聖な病院だ! おまえら天魔風情が踏み込む場所じゃない!」
 淳紅と徒歩は、共に一歩距離をおいてスクロールによる魔法でマミーを攻撃。
 淳紅は美紀の安否が気がかりだし、医師の家系出身の徒歩としては、病院を踏み荒らすディアボロが許せなかった。
 ショートソードを構える二太郎は、初手から出し惜しみせずスマッシュを使用。
 アウルの力を注ぎ込まれ攻撃力を増幅した片手剣をマミーの胴体に深々突き立てるや、そのまま横に薙ぎ払うように切り裂いた。
 二太郎の視線が、マミーのすぐ背後にいる黒衣の敵に向けられた。
 フードマントからわずかにのぞく顔や手足は干涸らびたミイラのものだが、その体躯はマミーのおよそ半分と小柄だ。
(まるで魔術師みたいな格好のディアボロだが‥‥まさか?)
 その予想は的中し、黒衣のミイラ「ユリン」は両手の間に暗黒の塊を発生させたかと見るや、魔法攻撃として放ってきた。
「――うっ!」
 ツーハンデッドソードを振るってマミーと交戦していた凛が、闇弾を肩に受け顔をしかめる。
「射線に身を晒すのは危険ですね」
 凜は大剣を構え直し、前傾姿勢を保ったまま勢いをつけてマミーの正面から懐へ飛び込んだ。
 目前のマミーを盾として利用する作戦である。
 至近距離からミイラ男の拳を受けて衝撃に歯を食いしばるが、魔法攻撃の的になるよりはマシと割り切り、臆することなく叩きつけた大剣の切っ先がマミーの背中まで貫いた。

 マミーの背後を素早く左右に駆け抜けるようにして、撃退士たちを闇弾で狙い打ちにするユリンに対し、零斗、さんぽ、炯々、寿が反撃に出た。
 ただし俊敏な呪術師のミイラを1対1で追い回すのは愚策だ。
 彼らはユリンの動きを目で追いつつ、じっと機会を窺った。
 マミーとマミーの間に一瞬姿をかいま見せたユリンを狙い、零斗がスキル「迅雷」を発動。
 アウルの力を脚部に集中し、爆発的なスピードでユリンに肉迫するや、変則的に軌道を変えてトンファーの連打を叩き込む。
 ほぼ同時に、別のユリンを標的に炯々はショートボウの矢を放ち、寿は苦無を投擲して、零斗が足止めした個体と重なる位置へと追い込んだ。
「今だ! 行け、犬乃ぉ!」
 その機を逃さず、さんぽが猛ダッシュ。
「さぁ、お前の相手はボク達だ!」
 芝居の忍者のごとく、スクロールをくわえて印を結ぶ。
「烈火炎刃タツマキフレイム!」
 瞬間、巻物が燃え上がるように真っ赤に輝いたと見るや、そのまま炎の蛇となって長く伸び、2体のユリンをまとめて焼いた。
 マミーリーダーが苛立ったように槍の石突きでドンと屋上の床を叩く。
 リーダーの叱責を受けたのか、ユリンたちは互いに距離を取ろうとして右往左往を始めた。
「おっと。逃がさねえぜ!」
 寿がさんぽの火遁で手傷を負ったユリンを追撃、一気に距離を詰めスキル「石火」を発動する。
 体内で燃焼したアウルが彼の動きを加速。そのエネルギーは苦無の攻撃力に転化され、弱ったユリンにとどめを刺した。

 激戦のさなか、静流と凱もあるチャンスを待っていた。
 何体かのマミーが倒れ、敵の防衛ラインには大きく穴が開いている。
「こういうのは頭を潰すのがセオリーだよな」
 静流と示し合わせ、マミーたちの間を擦り抜けリーダーを狙う。
 1体のマミーが反転して妨害を図るが、その前にエリスが立ちはだかった。
「貴方達の相手は私達です。行かせませんよ?」
 他の仲間たちとも連携しつつ、鉤爪を振るって敵の体に突き立てる。
 焦ったようにユリンが放つ闇弾は、淳紅が自ら盾となって防いだ。
「たまには矢面に立つぐらいのことせんとなぁ」
 仲間たちが下級ディアボロの足止めをしている間、静流と凱はリーダーをその攻撃圏に捕らえていた。
「先手必勝――あとに本命が控えてる以上、時間は掛けられない」
 静流の繰り出したハルバードとマミーリーダーの鉄槍が激突、火花を散らす。
 その間、横から回り込んだ凱はリーダーの巨体に思う存分拳と蹴りを叩き込んだ。
「おっと。私も混ぜてよね?」
 自らが受け持っていたマミーを屠った茜も、打刀を振りかざして参戦する。
 石火を発動、攻撃力を高めた白刃が銀色の軌跡を描いてリーダーの脇腹を切り裂いた。
「そろそろマジでいくぜ? ミイラのクセして調子に乗んなよ」
 勢いよく上着を脱ぎ捨てた凱の背中では、黒竜のタトゥーが神々しい応龍に変化し、今にも自ら天へ駆け上りそうだ。
 ハルバードによる刺突、斬撃と多彩な攻撃を浴びせていた静流が、斧部分を巧みに用いてリーダーの足を払った。
 仰向けに倒れたリーダーに再び立ち上がる余裕を与えまいと、茜の斬撃と凱の蹴撃が降り注ぐ。
 やがてマミーリーダーは力尽きたように動きを止めた。

 指揮官を失うことで徐々に統率を失い、行き当たりばったりの戦闘を始めたマミーやユリンに対し、距離を詰めたアーレイがエナジーアローを発動、魔法の威力を増幅した薄紫色の光の矢を打ち込む。
「指揮系統を失ってはもはや烏合の衆‥‥ここから先は残敵掃討戦といったところね」
 彼女にとって今回の依頼における個人目的は、いわば腕試し。自分の攻撃能力がどれほどのものか実戦で確認したかったのだ。
 そしてアーレイの言葉通り、生き残りのミイラたちが全滅するまでそう時間はかからなかった。

●死神エルウィン
「もう終わったのかい? 案外早かったね」
 ディアブロ群を排除し、蛹へと近づいてきた撃退士たちの気配を察したか、初めて少年はこちらに振り向いた。
「‥‥おまえは何者だ?」
 ハルバードを油断なく身構え、静流が低く静かな声で問う。
「もう見当はついてるだろう?」
 ちょうど撃退士たちと蛹を隔てる位置まで歩み出ると、少年の背中から蝙蝠を思わせる黒い翼が広がった。
「君ら人間が悪魔と呼ぶ存在。名前は‥‥まあ人の言葉で発音するならエルウィンでいいよ」
 覚悟していたとはいえ、予測していたうちでも最悪の敵を前に、撃退士たちの肩に重圧がのしかかる。
「戦わないんですか‥‥。それとも‥‥その中身が貴方の武器ですか‥‥?」
 マミーとの戦いで負った怪我の痛みを堪え、凛が尋ねた。
 自らは戦わず蛹だけを護る少年へ、まだ物足りぬといった感情がある。
「別に君らとことを構えるつもりはないんだ。その証拠に、病院にいた人間には誰ひとり手出ししてないだろう?」
(よく言うぜ。おまえさんのお陰で患者たちは大迷惑だ)
 徒歩は苦々しく思ったが、あえてエルウィンは無視し、この時間を利用してライトヒールで負傷度合いの高い仲間から優先に回復させていく。
 ネコノミロクンも協力し、一行は対マミー戦のダメージから順調に回復を遂げていった。
「いま『誰ひとり』といったな?」
 炯々は思わず声を上げていた。
「入院患者の中で、1人だけ行方不明の女の子がいる。おまえの仕業じゃないのか?」
「一体何を企んでるんだっ、大人しく綾瀬ちゃんを返せっ!」
 指をビシっと突きつけ、さんぽも叫んだ。
「綾瀬美紀のことかい?」
 一瞬、エルウィンは言葉を選ぶかのように小首を傾げる。
 だがすぐ向き直ると、
「――あの子の魂は僕がもらった。もちろん本人も同意の上でね」
 まるで天気の話でもしているかのようにあっさりした口調。
 だがその場の空気は凍り付いた。
 そんな中、零斗は敵意のない証として武器を降ろし、引き続き少年への質問を続けた。
「同意だと? 彼女が自分から魂を差し出したっていうのか? なぜ?」
「簡単な話さ。あの子は自分の死期が近いのを悟っていた。だから魂と引き替えに、僕にある願いを叶えて欲しいと頼んだ」
「何だったんだ? 彼女の、最期の願いは」
「『蝶になりたい』。蝶になって自由に空を飛びたいってね」
 エルウィンは半分だけ振り返ると、愛おしげに蛹を見上げた。
「‥‥だから僕は、彼女を蝶にしてあげた」
「おいおい。それってディアボロの蝶モドキってこったろ?」
 荒々しい声で凱が質す。
「よう‥‥お前、何がしてえの? なんで綾瀬美紀をディアボロ化した? なんで守ってんの?」
「それは仕方ないよ。僕は悪魔なんだし、この方法でしかあの子の願いを叶えてやることができなかったんだから」
「はっ! 要するにてめぇの自己満足じゃねえか!」
「何で‥‥何で、あの子じゃなきゃあかんかったの?」
 肩を震わせながら、淳紅は問いかけた。
「病院なら、他にも似たような人ぎょうさんおるはずやのに‥‥」
「この世界に来てから、僕は悪魔として数え切れない人間の魂を奪ってきた。でもその中に、99%の絶望に追い詰められてもなお1%の希望を捨てられない人間の存在を知ってから‥‥力ずくで魂を奪うのは止めた。今では美紀のような人間を捜して、あちこちうろついてるよ」
「‥‥これは、優しさなん?‥‥それとも‥‥」
「たぶん違う。強いていえば‥‥君ら人間が、僕らから見れば何の価値もない石ころを『宝石』と呼んで大切に扱う、その行為に近いんじゃないかな?」
「人の死を天魔の生に変える――君はまさに終焉と再生の象徴、死神のようだね」
 ネコノミロクンの目には、少年の姿がタロットカード大アルカナ13番――あの不吉なカードの図柄と重なって見えていた。
「そうそう。僕も本当はそう呼んで欲しかったのさ。冥界の生まれだしね」
 さも嬉しげに少年が微笑んだとき。
 ドクン。ドクン――。
 蛹全体が脈打つように蠢き始めた。

●舞い上がるユメ
 羽化が始まる。
 エルウィンとの会話は撃退士たちに回復の時間を与えてくれた代わり、蛹の方にも羽化までの時間稼ぎを許してしまったようだ。
 ベリベリッ!
 おもむろに蛹の上部が裂け、粘液に濡れた色鮮やかな蝶の羽根――ただし翼長約8mの――が広げられた。
「へぇ、結構きれいだねー」
 茜は感じたそのままを素直に口にした。
 それ以外、特に死神への憤りも、美紀への同情もない。
 彼女にとって美紀の件は既に終わったことであり、それを知ったからといって何をするでも、できるでもないのだから。
「へえ。君もそう思うかい?」
「まあ斬ることに変りないけどね」
「それはお好きにどうぞ。これで彼女との約束は果たしたから」
 そういうなり、エルウィンは黒い翼を動かさぬまま、音もなく上空に浮き上がった。
「この羽根が綾瀬美紀の希望なら、残りの部分は彼女が14年間抱えてきた絶望と憎しみ――僕はそちらの方には興味ないんだ」
「あ、ちょっと!」
「何だい?」
「今は勝てないだろうけど‥‥君を斬る時を楽しみにしておくよ。その首、洗って待っててね♪」
「それは面白そうだねえ。じゃあ、縁があればまた会おう」
 それだけ言い残すと、エルウィンは後も見ずに急上昇し、何処かへと飛び去った。

 屋上に残された撃退士たちの目前で、蛹を破ってディアボロの本体が這い出す。
 いかに羽根は美しくとも――やはり粘液に塗れた巨大な昆虫は、見ているだけで吐き気を催す醜い怪物に過ぎない。
「はじめまして‥‥。大丈夫‥‥喋れなくても伝えあえる事はありますから‥‥」
 優しく言葉をかけながら、凛が大剣の切っ先を向けた。
(そんな姿に変っても‥‥あなたは幸せなんですか?)
 ショートボウに矢をつがえ、かつて綾瀬美紀だった怪物に狙いを定めたとき、炯々は一瞬ためらいを覚える。
 だが、
「――すまない!」
 ストライクショットを発動し、アウルの力で形成された鋭い一矢を巨蝶に向けて放った。
 胸の辺りに矢を受けた巨蝶が甲高い悲鳴を上げ、羽ばたきながら舞い上がった。
 羽化したとはいえ、まだ完全に成長しきったわけではないのだろう。
 コンクリート床から2mばかりの空中をヨタヨタと飛んでいる。
 凱は高々と跳躍、頭部を狙って渾身の回し蹴りを見舞った。
 ディアボロの巨体が空中でグラリと揺れるが、すぐバランスを取り戻すと、撃退士たちを目がけて速度を上げつつ宙を滑る。
「来るぞ! 散開しろ!」
 徒歩が警告を発するも、一瞬遅く、滑空してきた巨蝶の羽根が撃退士たちをなぎ倒した。
「あれが奴の技か? みんな、一箇所にかたまらず敵を包囲するんだ!」
 仲間たちに呼びかける一方、自らスクロールを構える徒歩の内心は怒りに煮えたぎっていた。
 ただしその対象はあの死神ではなく綾瀬美紀。
(お前だけは許しておけない俺の敵だ! お前は生きる事を諦めた。自己犠牲だか有効活用だかどうせ助からないだとか家族間の複雑な事情だか知らんが、それでも生き汚く生きない奴を俺は許さない! まだヴァニタスになった方が同情してやれたぜ!)
 彼の怒りがアウルの力に転化されたかのごとく、ひときわ強く輝く光弾が敵胴体の中心部に向けて突き刺さる。
(ああイライラするイライラするどうせ呼ぶなら警察経由じゃなくて人としての依頼で呼べよくそっ)
 アーレイは滑空攻撃の的にならないよう距離を置き、ギリギリの射程から魔法攻撃を続けた。
「まともに殴られたら一撃で戦闘不能になりかねませんしね。攻撃力の代償に直接防御力は捨てていますし」
 逆に相手の飛行能力が(今のところ)ショートソードの間合いのうちに留まっていると判断した二太郎は積極的に敵の懐に飛び込み、羽根を狙って果敢に刺突をかける。
「完全に飛べるようになったら手が付けられない。墜とすなら今のうちか」
 同じく巨蝶が未成長体であると判断した凛は「小天使の翼」を発動。神々しい純白の翼が広がり、彼女を上空へと舞い上がらせた。
 巨蝶の真上に達すると、再び滑空攻撃の態勢に入った敵の頭部を目がけ、逆手に持ち替えた大剣で渾身の刺突を見舞う。
 ディアボロの巨体が大きく傾いた。
 そのまま屋上に墜落、頭部に突き立てた剣ごと放り出された凜も諸共にコンクリート床に叩きつけられる。
「‥‥苦しいですか‥‥。私も‥‥痛い‥‥同じですねえ‥‥」
 大量の粘液をまき散らしながら巨大な羽根が床を叩き、巨蝶は再び舞い上がろうと懸命に羽ばたく。
「ごめん、でもそんな姿で君を大空には羽ばたかせられない‥‥忍法シャドー☆バインド! 忍影招来、GOシャドウ」
 さんぽが「影縛の術」を発動、敵の影を屋上の床に縫い止めた。
(死は誰の身にも必ず訪れる――)
 ネコノミロクンは思った。
(美紀ちゃんは病と闘い死ぬ運命を捨て、ディアボロとなる運命を選んだ。それだけのこと。可哀想とは思うけれど、だからと言って見逃すわけにはいかない)
 リボルバーを構え、身動きのとれない巨蝶を狙い立て続けにトリガーを引く。
「――俺は自身の存在理由のため、闘うだけだ」
「蛹ン中で我慢して念願の空なんだろけど‥‥悪ィな」
「飛べるようになられたら困るのよ!」
 寿と茜はタイミングを合わせて両サイドから接近、共に石火でアウルの力を注ぎ込んだ苦無と打刀で斬撃を浴びせる。
「堪忍な‥‥でもこれしか救ってあげられる方法がないんや!」
 既に覚悟を決めた淳紅が、側面からスクロールの魔法攻撃を羽根の根元に打ち込んだ。
「ごめん、でも‥‥悪魔を空に放つ事はできないんだ」
 さんぽ自身もロングニンジャソード(ツーハンデッドソード)を召喚すると、総攻撃の輪に加わった。
(綾瀬君、君を責める理由は誰にも無い。だが――)
 駆け寄った静流は槍斧を振り上げ、頭部めがけて上段から叩き降ろす。
「その羽、潰させてもらいます」
 予め練気方陣でアウルの力を溜めていたエリスがファイアバースト発動。
 黒炎のごときオーラに包まれた鉤爪で巨蝶の羽根に斬りかかると、無数の小爆発と共に片羽根の1/3を毟り取った。
 ようやく影縛りから逃れた巨蝶は、窮鼠の反攻とばかり低空飛行で半円を描きつつ撃退士たちを弾き飛ばす。
 その勢いで屋上の端を目指す巨蝶に、再び小天使の翼で飛翔した凜の大剣が、そして屋上から迅雷の力で跳躍した零斗のオーバーヘッドキックが、絶妙のタイミングで上下から挟撃した。
「泡沫の夢は見られたか‥‥だが、それもこれで終わりだ」
 マミーとの戦闘中、あるいはエルウィンとの会話まではどこか状況を楽しんでいた零斗も、今は髪をかきあげ冷酷な狩人のごとく追撃の手を緩めない。
「俺はお前が悪いとも思わない‥‥同情できる面はあるが、それでも天魔に対価を払って得た願いなど俺は認めない‥‥だから『悪』はお前の最後の願いを認めない俺自身だ」
 屋上の端から離陸する一歩手前で、巨蝶は前のめりに墜落。
 そしてそこに、再び練気方陣によりアウルの力を練るエリスが待ちかまえていた。
「黒き炎よ、爆ぜろ!」
 黒いドレスとは対照的なブロンドヘアをなびかせ、黒炎のオーラをまとったエリスが突撃――暗雲の中に閃く雷光のごとく、小爆発がディアボロの巨体を包み込む。

 泣き叫ぶ少女のような、甲高くも哀しげな断末魔の咆吼が撃退士たちの耳を打った。

 片方の羽根を完全に失い、頭部も胴体もボロボロになった巨蝶は、それでも最後の力を振り絞って飛び立つと、晴れ渡った蒼穹を目指すが――。
 途中で力尽き、真っ直ぐ屋上へ落下した。

「おやすみ、美紀ちゃん。今度こそ、安らかに‥‥」
 既に元型を留めぬほど破壊されたディアボロの亡骸を前に、ネコノミロクンは静かに瞑目した。
「綾瀬ちゃん、せめて魂だけでも自由に空飛べてるかな」
 泣きそうな顔で空を見上げるさんぽの肩を、やはり目に涙を溜めた淳紅が無言で抱き締める。
「ディアボロでない普通の蝶になれたら良かったのでしょうけれどね‥‥」
 ポツリともらすアーレイ。
(ああイライラする! 畜生! 畜生! 畜生!)
 やり場のない苛立ちを胸の裡に押し込め、徒歩は甲斐甲斐しく傷ついた仲間たちの応急手当にあたった。
 そんな徒歩の手当を受けつつ、炯々はぼんやりと宙を見つめている。
「なあ‥‥俺たち、これであの子を救ってやれたのかなあ」
 凱は脱ぎ捨てた己の上着を拾い上げ、袖を通しながら、
「境遇には同情するが‥‥行動までは理解できねえよ」
 誰にも聞こえない大きさの声で小さく叫んだ。
 その一方で、凜は足を引きずるようにして亡骸に近づき、千切れた羽根の一片を己の胸に抱いてやった。
「‥‥どうでしたか? 生まれて初めて‥‥飛んだ空は‥‥」
 それは幻覚だったのかもしれない。
 だが最後の瞬間、朽ち果てつつも天空に舞い上がった巨蝶の姿に、確かに願いを叶えて微笑む少女の面影を見たような気がしてならなかった。

 それぞれにうちひしがれた仲間たちの姿を見やりながら、二太郎は思う。
 自分たちにもっと力があれば、もっと良い結果を手繰り寄せられたのではないか、と。
「‥‥力があれば何でも出来る等とは欠片も思わんが、想いだけでは何も為せぬ事も確かか‥‥もっと、強くならねばな」
 あるいはちっぽけで独り善がりな、自分以外の誰に聴かせるわけでもない誓いの言葉かもしれない。
「しかし、俺がこれから進む道の第一歩になるのかもしれない」
 顔も知らぬ1人の少女が、その魂を引き替えにしてでも目指そうとした大空を見上げ、二太郎は小さく呟いた。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: BlackBurst・エリス・K・マクミラン(ja0016)
 撃退士・天風 静流(ja0373)
 ヨーヨー美少女(♂)・犬乃 さんぽ(ja1272)
 Kill them All(男限定)・真龍寺 凱(ja1625)
 孤独のバンダナ隊長・御伽 炯々(ja1693)
重体: −
面白かった!:17人

BlackBurst・
エリス・K・マクミラン(ja0016)

大学部5年2組 女 阿修羅
血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
くず鉄ブレイカー・
ネコノミロクン(ja0229)

大学部4年6組 男 アストラルヴァンガード
己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
疾風迅雷・
御暁 零斗(ja0548)

大学部5年279組 男 鬼道忍軍
遥かな高みを目指す者・
地領院 徒歩(ja0689)

大学部4年7組 男 アストラルヴァンガード
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
Kill them All(男限定)・
真龍寺 凱(ja1625)

大学部5年145組 男 阿修羅
孤独のバンダナ隊長・
御伽 炯々(ja1693)

大学部4年239組 男 インフィルトレイター
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
学園の先輩・
竹林 二太郎(ja2389)

大学部6年149組 男 ルインズブレイド
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト