※本ビデオは公開前未編集状態につき、本編シーンとメイキングシーンが混同し一部カオスとなっております。予めご了承ください。
●迫りくる魔手! 狙われた小学校
「はいみんなー、今日の体育はドッジボールやりますよー!」
寒さもだいぶ緩んできた小春日和。
若き女性教師・近衛 薫(
ja0420)は、自らが担任する1年※組の生徒たちをグラウンドに集合させ、授業内容を説明していた。
「男女対抗戦でやりましょう。じゃあ男子は白の帽子を、女子は赤い帽子を被って分かれてくださいねー!」
「ハーイ!」
少し離れた場所から、撮影スタッフのカメラが回っている。
むろんこの場にいる小学生(初等部生)たちは全員撃退士であるが、番組内設定により今は教師役の薫ともども「一般人」ということになっていた。
間もなくチーム分けも終わり、最初の生徒がボールを投げようとした時。
ドバァ――ン!!
校庭の一角で突如爆発が起り、生徒たちが驚いて悲鳴を上げる。
爆発の煙と土埃が静まったとき――。
どこから現れたのか?
そこには異様なコスチュームを身にまとった5人の男女がズラリと並んでいた!
「な、何です!? あなたがたは‥‥?」
怯える教え子たちを両手で精一杯庇い、薫が問い質す。
撮影前、
『わたくしはそこまで上手く演技は出来ませんので‥‥』
と謙遜して教師役を選んだ薫だが、すっかり役になりきった演技はなかなかのものだぞ!
「ふははは! 我らは悪の秘密結社インフェルノン! 世界征服のためにやってきた!」
なぜか原稿用紙で出来た服に身を包む怪人が、両手を広げ高笑いと共に告げた。
ヤツこそはインフェルノン幹部のひとり、ジスウ=セイゲーン!
演じるは七種 戒(
ja1267)。
(ふ、ヒーローに憧れるなど時代遅れ! ナウなヤングはワルかっこよくっ!)
本人もやる気満々である。
それはそれとして、(一部の人間にとっては)何とトラウマなネーミングであろうか?
「なっ‥‥世界征服!? それになぜうちの学園を!?」
「なぜ襲ったのか‥‥いや王道胸アツ! ってだいほ‥‥神のお告げがだな!」
「お約束だし」
身も蓋もないセリフでジスウをフォローしたのはチア服姿の美少女。
鴉乃宮 歌音(
ja0427)演じるドクタークロウ、通称「ドク」である。
「地獄参謀」の異名を取るドクは、怪人生成から不思議薬開発まで、組織を技術面から支える悪の天才女科学者だ!
ちなみに歌音は男だが、今回は髪を解いて女幹部として出演している。
「クロはね、シスタードクロっていうの。ナカヨクしよ?」
自ら名乗ったのはべべドア・バト・ミルマ(
ja4149)演じるシスタードクロ。
その声は無邪気な少女のものだが、シスター服に髑髏の仮面を被り、鎖付きの巨大十字架を抱えた姿はやはり不気味。
前日に戦隊ヒーローや魔法少女のDVDを大量に見て研究、満を持して撮影に挑んだ熱演である。
「やめて! 何だかよく分からないけど、とにかく子供たちに手は出さないで!」
「おとなしく従えば良し、逆らうというならば‥‥行け! 戦闘員ども!」
ジスウ=セイゲーンの号令の下。
『ヒィーッ!』『ヒィーッ!』
口々に奇声を上げ、黒覆面と全身黒タイツに身を包んだ戦闘員たちがワラワラと現れ、子供たちを薫から引き離すや次々縄で縛り上げていく。
「近寄らないで!」
必死に抵抗する薫だが、所詮は一般人女性のか弱さで、子供たちと同じく捕縛されてしまう。
「あぁ〜薔薇の手入れがまだ終わっていないというのに。どうしたものかね」
気怠げに呟くのは、神凪 宗(
ja0435)演じる悪の幹部「薔薇シスト」。
ヨーロッパ貴族風の衣装に加え、襟や袖を薔薇の花弁のごとく赤いフリルで飾ったナルシスト気味の貴公子だ。
(特撮物、か。まさか、出演出来るとは、思わなかった)
本人は内心まんざらでもないが‥‥。
とりあえず指先で前髪をクルクル巻いて弄びつつ、戦闘員たちが小学生を捕縛していく光景を、興味なさげに眺めている。
その傍らに立つセーラー服の少女・九曜 昴(
ja0586)は無言のままでいたが、幹部たちの名乗りが一通り終わると、最後に一言。
「‥‥目的は僕は知らないの‥‥雇われたからには仕事なの‥‥ごめんね?」
どうやら傭兵らしいが、こうして幹部メンバーと肩を並べているからには、彼女も尋常でない「力」の持ち主なのであろう。
「さ、今のうちに」
インフェルノン専属医師も兼ねるドクは幹部たちの健康チェック。
ついでに特性のスタミナドリンクまで配っていく。
さすが世界征服を企む悪の組織、福利厚生も万全だ!
「おまえたち、何者だ!?」
「子供らを放したまえ!」
校庭の異変に気づいたか、数名の男性教師や警備員たち(エキストラの大学部生)が校舎から出て駆け寄ってきた。
「ふっ。人間風情が‥‥生意気な」
「あぁ〜僕らが相手にするほどのこともないね」
「ならあいつに任せよう――出でよ、地獄獣イカゲソラン!」
ドクが片手を挙げて合図するや否や、シュウウウ‥‥と周囲に白煙(注:ドライアイス)が吹き上がる。
その煙の中から、
『ゲソゲソ〜!』
見よ! 身の丈およそ2m、2本の足で大地を踏みしめ、残り8本を長い触手としてうねらせるイカ型の怪人が出現した!
むろん着ぐるみである。
着ぐるみではあるが、生白い皮膚をぬめらせたリアルな造形、アニマトロニクスにより生物的に再現された触手の動きなどは、久遠ヶ原学園特撮同好会とロボット研究会の全面協力により誕生した驚異の怪人スーツだ。
歌音、もといドクはイカゲソランの背後に回り何やら注射を1本打つと、幹部の命令に従い敵を倒すよう簡単な指示を与え、
「頑張ってね」
背中をポンポン叩いて送り出す。
他に用事があるのか、ドクはその場から立ち去った。
『了解でゲソ〜!』
「な、何だこいつは!?」
驚愕に立ちすくむ男性教師と警備員に向かい、触手を振り上げ地獄獣が襲いかかる!
次の瞬間、教師と警備員は軽々と放り投げられて気絶した。
子供たちが顔を覆って泣き叫ぶ。
ああ、このまま罪もない小学生たちは地獄に連れ去られてしまうのか?
●集え若者たち! 正義の為に!
「はぁ〜お腹すいたぁ。早く昼休みにならないかな」
高等部の教室でグーっと鳴るお腹をさすりつつ授業を受けていた緋伝 瀬兎(
ja0009)はふと窓から外を見やり、初等部の校庭で起きている異変に気づいた。
「ん? 何の騒ぎだろ?」
よくよく見れば、見るからに怪しい全身黒タイツの戦闘員、そしてイカに似た怪物が初等部生に襲いかかっているではないか!
正義感の強い瀬兎はカッとなった。
「何よあいつら!?」
普段から持ち歩いている愛用の木刀『不知火』を握りしめると、担任が止めるのも聞かず教室を飛び出した。
同じ頃、授業をサボって屋上に寝転がり、呑気に日向ぼっこしていた高等部生の御伽 炯々(
ja1693)も、地上から聞こえる爆発音や悲鳴を耳にしていた。
「なんかグラウンドが騒がしいな‥‥」
立ち上がって校庭を見下ろし、眼下で進行している異常事態を把握する。
「子供たちばかりかうら若き先生まで! 見過ごせねえな!」
すかさず飛び降りようと――したが、高いところは苦手なので階段を降り校舎内をダッシュで駆け下りる。
彼もまた、愛用の木刀『月下美人』を手にしていた。
廊下でちょうど教室から飛び出してきた瀬兎と出くわす。
「炯々君、君も?」
「ああ。こいつはただ事じゃねえぞ!」
2人して校庭を目指し走っていく。
別の校舎の教室から、やはり騒動を目撃した高等部生・木ノ宮 幸穂(
ja4004)も驚きに目をみはっていた。
「え、なにあの人たち‥‥コスプレ集団?」
だがことの成り行きを見る限り、そんな穏やかな連中ではなさそうだ。
「とにかく、みんなを助けないと」
窓を開き、そのまま校庭へと飛び降りた。
その頃、校庭では――。
「乱暴はいけないの!」
小学生の1人が、捕まえようと伸ばしてきた戦闘員の手をはね除けた。
彼女の名は若菜 白兎(
ja2109)。
最初は他の生徒同様為す術もなく怯えていたが、いよいよ友だちや担任の薫に戦闘員たちが襲いかかるに及び、勇気を振り絞って立ち上がったのだ!
『ヒィ?』
再び両手を伸ばしてきた戦闘員の懐に飛び込み、足を掬って転倒させる!
「甘くみてると痛い目みるの」
白兎は小さな両腕を広げ、先生とクラスメイトを庇うようにすっくと立った。
「せんせー、どうしよう? 若菜ちゃんが殺されちゃうよぉ!」
「大丈夫よ。みんなで助けを呼びましょう! せーのっ!」
何となくヒーローショーの「解説お姉さん」のノリで生徒たちに呼びかける薫。
『誰か助けてーっ!!』
ちょうどそこに瀬兎と炯々が到着。
「子供たちを襲おうなんて何考えてるのよ! ていうかあんたたち何者!?」
木刀を振りかざし、立ちふさがる戦闘員たちをばったばったと殴り倒す。
絶妙のコンビネーションで繰り出される2人の剣は、まさに木刀乱舞と呼ぶに相応しい。
「加勢するよ!」
わずかに遅れて駆けつけた幸穂も、戦闘員たちの間に飛び込んだ。
小柄な体を利した素早い動きで戦闘員を攪乱し、掌底と蹴りで怯ませ、一本背負いで地面に叩きつけた。
その頃になると他の生徒たちも事件に気づいて校舎から出てきたが、屈強の男性教師や警備員たちがイカゲソランの触手で一瞬にして倒される光景を目の当たりにし、ただ呆然と遠巻きに眺めるより他ない。
そんな1人、高等部1年・犬乃 さんぽ(
ja1272)の身にとある異変が生じていた。
普段から「ナンノ」と名付けて肌身離さず持っている愛用のヨーヨーが、突然少年に話しかけてきたのだ。
『さんぽちゃん、僕の話を聞いて!』
慌ててヨーヨーを手にすると、いつの間にか目と口が出来て表情まである。
「え? え? いったいどうしたんだよ、ナンノ!」
ちなみにヨーヨーの顔はCG合成、声はカメラのフレーム外にいる綿谷つばさ(jz0022)が台本を見ながら喋っているのだが。
『詳しい話はあと! それよりヤツらはインフェルノンだ』
「インフェ‥‥ってなに?」
『世界征服を企む悪の組織だよ。さんぽちゃん、仲間と一緒に戦うんだ!』
「わかったよナンノ、急ごう!」
野次馬の輪の中から飛び出すさんぽ。
一足先に戦闘員たちを相手に大立ち回りを演じる瀬兎と炯々、白兎、幸穂らと合流した。
「仲間って‥‥もしかしてこの人たち?」
殴りかかってきた戦闘員の手を取り投げ飛ばしながら、さんぽは尋ねた。
『そう。今まで隠してたけど、君たちは――』
だがナンノが全てを語り終えぬうち、それまでの戦闘員とはケタ違いの強烈な殺気を感じ、さんぽは前方に向き直った。
「ほう、活きの良いのがいるな‥‥ちょっと揉んでやろう!」
数に勝る戦闘員を蹴散らしていく若者たちの姿を目にし、ジスウを始めインフェルノン幹部たちが動き出したのだ。
「アノヒトタチ、クロタチともアソベルかな!」
シスタードクロが十字架を抱えて立ち上がる。
「僕ほどじゃないけど、身を投げ打って人を助けるなんて‥‥美しい!」
天を仰ぎ、何やら陶酔した口調で薔薇シストが叫ぶ。
「あぁ〜僕、あの二人と戦ってみたいな」
一転して冷酷な笑みを浮かべると、腰のエペをすらりと引き抜き、瀬兎と炯々を目指して歩み出した。
「な、何よあんた?」
「やるってか? 負けねえ!」
瀬兎と炯々がタイミングを合わせて左右から木刀で挑み掛かる。
これぞ合体剣技「月下不知火」だ!
だが、薔薇シストは華麗に舞うような動きで2人の剣をかわし。
「――ハッ!」
フェンシング・スタイルでエペによる鋭い刺突を仕掛けてくる。
瀬兎は腕を、炯々は太腿を突かれ、思わず苦痛の呻きをもらした。
「くっ、二人で戦っても駄目だなんて‥‥一体どうすればいいの‥‥?」
「ねぇねぇ、クロともアソンデ?」
あどけない笑い声を上げつつ、シスターが巨大な鎖付き十字架を軽々と振り回して白兎と幸穂に迫る!
2人で十字架を受け止めようとした白兎らだが、予想を遙かに上回る衝撃に弾き飛ばされてしまう。
「おまえ‥‥さっき誰かと話していたな。何者だ?」
ジスウの鋭い視線に捕われ、さんぽはとっさにヨーヨーを背後に隠した。
「まあ良い。我が必殺技、その身でとくと味わえ――シメキリカウント!」
ギギギギ――。
不協和音が鳴り響き、空中に浮かび上がった数字が何かの残り時間をカウントし始める。
「うわあぁ!! なんだよこの圧迫感は!?」
さんぽは頭を抱えて悲鳴を上げた。
彼だけではない。
遠巻きに見守っていた生徒たちの一部も「ああっ、世界史のレポートが!」「校内新聞の記事が‥‥!」「即売会の原稿が〜!」と叫びながらバタバタ倒れていく。
恐るべき無差別攻撃だ!
ついにさんぽも力尽き、俯せに地面に倒れた。
「ごめんよナンノ‥‥ボクらの力じゃ、あいつらに敵わない‥‥」
『そんなことないよさんぽちゃん! だって君たちは――』
●変身せよ! 学園魔法戦隊!
『ボクが選んだフルーツ戦士なんだ!』
「え? いきなり戦士っていわれても‥‥」
『これを受け取って。変身できるよ!』
その言葉と共に。
ナンノから飛び出した5つの光が宙を滑り、地面に倒れ伏していた瀬兎、炯々、白兎、幸穂らの目前へ移動。
それぞれ5種類の果物の形を取ると、再び強い輝きを放って少年少女たちを包み込んだ。
「行くよ、みんな‥‥」
さんぽは自らに託された変身アイテム――チェリーのブレスレットをかざし、心に浮かんだ呪文をそのまま叫んだ。
「完熟! くおん☆フルーツ!」
他の4人も、それに倣い各々の変身アイテムをかざす。
『完熟! くおん☆フルーツ!』
光の渦が5人を包み込み、その服装がみるみる変り始める!(注:CG合成)
最初に変身を遂げたのは瀬兎だった。
そのコスチュームは久遠学園儀礼服に似ているが、色はメタリックな濃い橙色。
「見た目はユニークでも中身はスイート! 太陽の光の果実、クオンデコポン!」
続いて白兎が。
「護りの思いを此処に結実、クオンアプリコット!」
やはり学園儀礼服がベースだが、白地に淡い橙のライン、リボンも同色に変り、杏の花飾りのついた帽子を被った愛くるしいその姿は、どこか魔法少女を思わせる。
次は幸穂。
「豊かな緑の果実、クオンメロン!」
彼女がまとう学園儀礼服は、目にも鮮やかな新緑の色だ。
そして炯々。
「深夜の赤色巨星クオンドラゴンフルーツ、略してクオンドラゴンF!」
儀礼服の色は燃えるような赤だ!
最後にさんぽ。
「二つの果実は絆の証、赤い炎の果実クオンチェリー!」
ビシっとヨーヨー(ナンノ)を構えキメ!
そのコスチュームは真っ赤な――魔法少女風だ。
(って衣装さん、何でスカート!?)
恥ずかしさのあまり絶句するが、撮影中ということもありグッと堪える。
「むっ、いかん!」
クオンチェリーの姿を見たドラゴンFが小さく叫んだ。
同じ戦隊で色が被ってしまったのだ。
「ならばもう一段階上を見せてやる‥‥!」
ナンノに頼んで新たにゴールデンドラゴン(別品種)のアイテムをもらい、2段階変身!
「深夜の黄金巨星、クオンドラゴンF再誕!」
ドラゴンFの儀礼服が金色に輝いたところで、全員の変身完了。
『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ、大地の恵みに導かれここに誕生!』
一同がポーズを決め、声を揃えて名乗りを上げると、背後で爆発が起り五色の爆煙が立ち上った!
「奇跡だわ‥‥平和を願うみんなの祈りと、大地の意志がシンクロして、正義の戦士たちを誕生させたのね!」
胸の前で手を組み、カメラ目線で薫先生が叫ぶ!
「可愛いね」
近くの校舎屋上に潜み、密かに地上のライブカメラで戦況をモニターしていたドクが微笑した。
地獄参謀の名は伊達ではない。
こうしている間にも、ドクはネットを通してこの事件を日本中にリークしていた。
これも世間と他組織への宣伝である。
何だかんだいっても知名度さえ上げてしまえば、インフェルノンに取り入ろうと密かに資金提供を申し出る悪徳企業や政治家も現れることだろう。
「組織の運営ってお金かかるのよ」
時を同じくして、別の校舎の窓から戦闘を眺める少女がいた。
「あの実って、不思議効果あったんだぁ」
高等部の羽鳴 鈴音(
ja1950)は、ポケットをまさぐり数日前に偶然拾ったライチの実を見つめた。
「これ食べたら‥‥私も魔法少女になれるのかな?」
しかしごく平凡な女子高生である彼女に、まだ戦いに加わる勇気はなかった。
「くおん☆フルーツだと‥‥ふ、名も知らぬような雑魚に何が出来るというのだね?」
何やらフラグっぽいセリフを口走りながらも、ジスウが配下に突撃命令を下す。
生き残りの戦闘員はむろんのこと、今度はイカゲソランも加わり魔法戦士たちに襲いかかった。
まずはクオンメロンが手にしたショートボウを構える。
「メロンショット!」
叫びと共に放たれた矢は先端がメロン型。
さらに空中で無数に分裂すると、流星群のごとく敵陣に降り注ぎ、戦闘員達をバタバタと薙ぎ倒していく!
クオンデコポンの掌に、魔法の力でデコポン型爆弾が生み出された。
「こいつがあたしの武器か? くらえっ、デコポンボム!」
立て続けの爆発が校庭を揺るがし、戦闘員はほぼ全滅だ!
『俺様はこいつら下っ端とは違うでゲソ〜!』
残るイカゲソランが突進すると、8本の触手を振り回し、魔法戦士たちを弾きとばす!
「アプリコットレイン!」
クオンアプリコットが叫ぶや、魔法の雨が優しく降りかかり仲間たちの負傷を癒やしていった。
「戦うのとか本当に怖いの。でも‥‥だからって何もしないでいるのは、もっといやなの」
続けて白兎は呪文を唱え、空中に出現した魔法の盾・アプリコットシールドがイカゲソランの触手攻撃を阻む!
「イカはイカらしく海に還りなさい」
ショートボウを近接戦用のトンファーに変化させ、クオンメロンは跳躍して強烈な打撃をイカ怪人に叩きこんだ。
今や魔法剣と化した「月下美人」を構え、クオンドラゴンFは薔薇シストに雪辱戦を挑んでいた。
「すげえ! さっきとは動きもパワーも断然違う!」
「ぬうっ‥‥」
見違えるようなドラゴンFの剣さばきに、次第に押されていく薔薇シスト。
「く、貴様シメキリが怖くないのか‥‥!?」
「正義の心に〆切りなんかない!」
おそらく世界中の漫画家・小説家・ライターたちが一度は言ってみたいセリフをジスウに言い放つと、さんぽ、いやクオンチェリーはイカゲソランの方へ向かった。
その手に握られた柄の両端から赤いレーザーソードが伸び、魔法武器「チェリーブレード」がスタンバイする。
「子供達はボクらが護る‥‥チェリークロスイン・パルス!」
赤いレーザーの軌跡がX字を描いてイカ怪人に刻まれた!
『ゲッ‥‥ゲソォオオオオ!!』
ばったり倒れ、イカ大爆発。
このままヒーロー側の圧勝かと思われたが――。
●インフェルノンの逆襲! 大ピンチ魔法戦隊!
「なかなかやるな‥‥と誉めてやりたいところだが。我らの力、この程度と見くびってもらっては困る」
ジスウが不敵に笑い、ドクから渡されたドリンク剤をグイっと飲んだ。
他の幹部たちもそれに倣う。
成分は不明だが、何らかのパワーアップ効果を有する魔法薬であろう。
薬剤を飲み干した幹部たちの体から、よりいっそう邪悪なオーラが立ち上った。
「むー、チョーシにノッちゃダメなの!」
シスタードクロの小柄な体を黒いドロドロした光纏が覆い、その影から幾つもの泡が浮いては弾ける。
「どっかーん!」
増幅したパワーで振り回す十字架が、アプリコットシールドを粉砕し白兎を打ち据えた。
「きゃあ!?」
少女は地面を転がり、純白の魔法服が泥に塗れる。
「お遊びはこれまでだね! 受けるといい、僕の必殺技を――フィール・シュタッヘル!」
体勢を立て直した薔薇シストが、先刻とはケタ違いのスピードで、エペの切っ先を幾百本にも分かれた剣山のごとくクオンドラゴンFに突き立てた!
「ぐぅっ! やはり幹部クラスになると一筋縄ではいかないな‥‥」
「今なら‥‥言いに行ける気がするっ!」
ジスウ=セイゲーンが両腕を胸の前で組み、一瞬かがみ込んだと見るや。
ドバァーン!!
大爆発と共に変身した!
「くらえ! ゲンコウマダデスカー!?」
一瞬にしてお堅いスーツ姿となったジスウ(というか素の戒)が、いつの間にか復活した戦闘員たちと共にヒーロー側に肉迫!
『先生、原稿まだですかー!?』
『もう〆切り1週間過ぎてます!』
『印刷所じゃ輪転機止めて待ってるんですよー!!』
おお、何と怖ろしい精神攻撃であろうか!?(一部の人間にとって)
『復活ゲソォーッ!!』
ドクが注射した魔法薬の効果か、再生したイカゲソランが以前にも増して凶暴化した触手を振るう!
一方、それまで無言のまま戦いを傍観していた昴も、おもむろに動いた。
「‥‥ダークチェンジ」
暗黒のオーラが昴を包み込み、次の瞬間、少女の姿は露出度の高い黒のドレス、黒のブーツ、長手袋へと変っていた。
頭には黒の丸帽子を被り、その手には鈍く銀色に光る大型拳銃。
「僕に変身させるなんて‥‥やるね」
眠たげな表情のまま、ニヤリと笑う。
彼女が拳銃を構えると、その背後上空に無数の同じ拳銃が出現した!
「戦闘員は‥‥勝手によけてね? 巻ぞえとか‥‥知らないの」
――全弾斉射。
「危ない!」
殺到する無数の銃弾を前に、フルーツ戦士たちは子供たちを庇うため、自ら盾になるより他なかった。
全員が重傷を負い、その場に倒れた。
「みんな‥‥ごめんなさい‥‥なの」
シールドを砕かれ、もはや癒しの魔法すらままならぬアプリコットが、地面に横たわったまま悔し涙を流す。
「せんせー! みんな負けちゃったよう!」
「まだ諦めちゃダメ! みんなで応援しましょう! せーのっ!」
『頑張れーっ! くおん☆フルーツ!!』
「ふっ、今さら世迷い言を‥‥」
勝ち誇ったインフェルノン幹部たちと再生イカゲソランが、悠々と子供たちに迫る。
だがその時。
「ちょっと待ったーっ!」
何処からかかけられた声と共に、反対方向から降り注いだ無数の銃撃が幹部たちの足を止めた!
●凄絶魔砲バトル! 少女たちは弾丸で語り合う!
「――とぅっ!」
3階の窓から飛び出した鈴音が、空中で一回転するや、ひらりと校庭に舞い降りた。
それまで息を呑んで戦況を見守っていた彼女だったが、魔法戦隊のピンチを前に、ついに自ら参戦を決意したのだ。
既に変身を終えたその姿は、果物のヘタが付いた丸帽子を被り、白い儀礼服に可愛らしいフリルをあしらった、魔法戦士というより魔法少女。
さらにその手には、握り部分にトリガー、先端が銃口になった魔砲杖「レイシングハート」が握られている。
「魔砲は今日も絶好調! 甘く白き果実! くおん☆ライチ! 参! 上!!」
「むう。まだ仲間がいたのか!?」
動揺する幹部メンバーを尻目に、1人昴のみが、すっと前に進み出た。
「へぇ‥‥そっちにも魔砲少女‥‥いたんだ‥‥。楽しくなってきた‥‥かな」
何と! 敵味方に分かれながら、彼女らは同じく魔法少女ならぬ「魔砲」少女だったのだ!
「そうみたいですねぇ。‥‥と、その前に」
呪文を唱えながら一振りしたレイシングハートから星屑のような光が振りまかれ、地面に倒れた仲間たちの傷をたちまち癒やしていく。
「くおん☆ライチ‥‥君は?」
「私に勇気がなかったばかりに出遅れてしまい、ごめんなさい」
さんぽたちに向かい、ペコリと頭を下げる鈴音。
「でも、もう1つだけワガママいわせてください。彼女は‥‥あの魔砲少女は私が引き受けます!」
再び魔砲杖を振ると、今度は鈴音と昴、2人を取り巻く空間が魔法結界に包まれた。
「ここは外部の時間と空間から隔絶した閉鎖結界です。ここなら誰にも迷惑はかかりません」
「一騎討ち‥‥望む‥‥ところ」
「本当は、同じ魔砲少女であるあなたと戦いたくありません。でも、多分言葉で何を言っても聞き入れてはもらえない‥‥でしょうね?」
「当然‥‥僕ら魔砲少女にとって‥‥砲撃だけが、コトバ」
それを合図のように、2人の少女はすかさず背後に飛び退き間合いを取る。
魔法結界の中、少女たちの背後空間に、互いの銃をスケールアップさせたような巨大な魔砲が無数に出現。
『ファイヤァ――ッ!!!』
双方の魔砲が一斉に火を噴く。
まさに全力全壊(誤字にあらず)の砲撃戦である。
だが、飛び交う砲弾の一発一発が少女たちの心のカケラ。
そう。これは「魔砲バトル」という名のオ・ハ・ナ・シ☆
魔砲少女たちだからこそ可能なコミュニケーションなのだ。
「なかなか‥‥やるね‥‥僕の技受けてもらうの‥‥。深紅に流れる奔流、ミラアンタレス!」
昴の操る魔砲群から放たれた赤い魔砲収束光線が、鈴音の心臓めがけて飛んで行く!
「負けません! ライチォンバスター!」
ほぼ同時に、鈴音は差し違え覚悟で必殺技のトリガーを引いた。
凄絶な放火の応酬は、いつ果てるとも知れず続く。
だが魔砲バトルが長引くにつれ、自ずと少女たちの心の会話も深まった。
『なぜ‥‥あなたは、その力を悪のために使うのです?』
『‥‥何の話?』
『え?』
『僕‥‥ただ、求人誌の広告見て‥‥バイトに応募しただけだよ?』
『‥‥‥‥あの〜』
とりあえず砲撃を続けながらも、インフェルノンの目的について説明してやる鈴音。
ふいに、昴は自らの砲撃を停止した。
「‥‥なかなかやるの‥‥、そうなんだ悪者だったんだ。僕は雇われただけで‥‥知らなかったの。悪者は‥‥やだな、そっちにつくの」
「じゃあ、私たちの仲間に?」
「‥‥うん。なっても‥‥いいよ」
●目覚めよ第7のフルーツ戦士! これが僕らの最終決戦!
魔法結界の中では数十分に及んだバトルも、通常空間ではほんの一瞬の出来事だ。
結界が解かれ、2人の魔砲少女が仲良く手をつないで戻ってくる姿を目にして、敵も味方も唖然とした。
「そんな、君が裏切るなんて!」
狼狽する薔薇シストの方を見やり、眠たげな顔のままあかんべをする昴。
「ああ、やっぱりダメだったか」
屋上から戦況をモニターしていたドクタークロウも呟いた。
もっともその声にさして失望はない。
「ま、キミのやりたいようにやればいいさ」
どうやらこの事態も、ドクにとっては「想定内」に過ぎないのか?
ナンノから新たな光が浮き上がり、昴の傍まで飛んでいくと、それはクロスグリの実となって彼女の掌に落ちた。
「真の僕の力、目覚めるのっ!」
穢れなき光が昴を包む。
彼女の帽子の色が、鈴音とお揃いの白に変った。
「クオンクロスグリ、魔砲の力を悪に向けるのっ、騙されたお返しなのっ!」
いや騙されてないけど。
「広域魔砲、デネブカイトスくらうのっ!」
再び空中に現れた無数の魔砲から、今度はインフェルノン陣営に向けて砲撃が降り注ぐ。
この範囲攻撃で戦闘員たちは呆気なく吹き飛んだ。
新たな仲間、くおん☆ライチ、そしてクオンクロスグリを迎え、総勢7名となった魔法戦隊は改めて全員で集合ポーズを取った。
『学園魔法戦隊くおん☆フルーツ、大地の恵みに導かれここに集結!』
さんぽはインフェルノン幹部たちをビシっと指さした。
「お前達の手に絶対世界は渡さない。見ろ! これがボク達の絆の力だっ!」
ライチとクロスグリの魔砲が合体。
さらに他の戦士たちの武器も次々合体し、巨大魔砲と化して宙に浮かぶ。
「みんなで協力すれば、その力は何十倍にもなるんだ!」
クオンデコポンが叫ぶ。
『完熟☆フルーツバスケット!!』
全員のかけ声と共に、7名を象徴する果実型の光が螺旋を描いて敵陣へと放たれた。
『そんなバカなゲソォ――!?』
悲痛な叫びを残し、再生イカゲソランが木っ端微塵に爆発。
他の幹部たちもその余波で吹き飛ばされた。
「私は何度でも蘇るうう!」
エコーを残しつつ飛んでいくジスウ。
「すごいすごーい!」
なぜか吹き飛ばされながらはしゃぐシスター。
地面にドベっと落ちた薔薇シストは、
「これで勝ったと思うな! 次に会った時が君たちの最後だ!」
お約束の捨てゼリフと共に撤退。
校庭の隅まで何とか逃れた彼らは、予めドクが手配した偽装痛バスに乗り込み逃走した。
「オネーチャンタチ、またアソボーね? ばいばーい」
窓から身を乗り出し、シスターが無邪気に手を振る。
一方、ドクはハンドルを握りつつ、
「良い暇つぶしになりそうだね」
にこやかにいう。
イカゲソランは倒されたものの、体内に仕込んだデータ収集用チップは回収済みだった。
「助かりました! えっと‥‥」
「くおん☆フルーツです」
礼を述べる薫に、変身を解いたあとも颯爽と答えるさんぽ。
「終わった、の?」
張り詰めた緊張の糸が切れたように、ペッタリその場に座り込む白兎。
「でもあいつら、このまま引き下がるかな?」
首を傾げる炯々に対し、
「よーし、こうなったらチーム結成だね! ヤツらが何度来たって、またぶっ飛ばしてやろうよ!」
瀬兎が提案し、全員が快諾。
「これからよろしくね」
幸穂がにっこり笑い、改めて仲間たちに挨拶した。
「戦ってる間は夢中だったけど、やっぱり戦うのは怖いの」
ようやく起き上がり、洋服の土埃を払いながら白兎がいう。
「でも‥‥皆と一緒なら頑張れるかも」
かくしてインフェルノンの野望は砕かれた。
だがいつまた、彼らの魔手が学園に伸びるか分からない。
学園のため、子供たちの未来のため、戦えくおん☆フルーツ!
世界に平和が訪れる、その日まで!
<了>