○合コンとは戦場である
撃退士達が集まった会場。そこはこの夏を恋人とともに過ごそうと集まった参加者たちが、気合の入った衣装と気合の入った表情で挑んでいた。そのため会場は一見すると和やかであるものの、緊張感が張り詰めていた。
「格闘合コンクラブが主催・・・何が起こっても対応できるようにしないとな」
全体が見渡せるよう、会場隅のテーブルでドリンクを手にしたきらきら☆非モテ道・若杉 英斗(
ja4230)
は、依頼の内だと小さく息を吐くと、グラスを口元に近づけつつ、視線を鋭くする。
「・・・あの、すいません。今おひとりですか?」
(「時代よ、俺に微笑みかけろ!!」 『理想郷!』)
そして周囲に危険がなく、むしろカップルが成立し始めている状況を確認すると、彼の思考は瞬時に脳内に移行する。今、若杉の頭の中では、25人もの絶世の美女が、彼を巡って争いを繰り広げている真っ最中である。
・・・よって、彼の眼光にひかれたのか、それとも手持無沙汰だったのか、声をかけてきた女性に彼が気づくことはなかった。
「おや、レディ。どうされました? よろしければ私とでもご一緒しません? ・・・おや、それは残念ですね。また次の機会にお願いいたします」
声をかけても返事のない若杉に引き気味であった女性に、お菓子な街の神父さん・エルディン(
jb2504)がにこやかに声をかけるが、すでに気分がうせてしまっていたのか、女性はその場を離れてしまった。
「若杉さん、楽しまれていますか?」
「・・・見事なまでの非モテ力ですね」
立ち去る女性とを視界の端に、エルディン水本みどり(
jb4933)は、理想郷を使った反動で呆けている若杉に話しかける。
「はぁ〜〜〜。 まあ、非モテ騎士友の会、そんな風に呼ばれていた事もあったからね。なかなかうまくはいかないものだよ」
今度は大きく息を吐き、苦笑いをする若杉。表情には一種あきらめの感情も浮かんでいる。
「非モテ騎士友の会?!」
「・・・知っているのですか? エルディン?」
「はい」
『非モテ騎士友の会』
その源流は久遠ヶ原学園時代にさかのぼる。
時に「ディバインナイト」の神聖なるその名において、学園内のリア獣滅殺をはかった論客集団がいた。
非モテを極めんとする数名、そこに若杉はいた。精鋭の揃ったその集団は、その発信力と謎の非モテオーラをもって、どんな堅牢なるカップルに対しても挑戦し、そして敗北していったという。
カップル成立が隆盛を極めたその当時、非モテ騎士が生まれたのも当然の成り立ちであった。
※参考文献『民蔵書房刊 非藻手秘話』
閑話休題
「いやーーーー。こういうみんながいるところで歌うと気持ちがいいものですねエイネさん。・・っと、ちょっとお手洗いに失礼します」
「うむり。いい歌唱だったでござる!」
つい先ほどまで解説をしていた状態から変わり身早く、カラオケで演歌を一曲たしなんだエルディンは、歌い終わると笑顔を崩さないままそそくさと離席する。彼と一緒に歌っていた三千里・エイネ アクライア (
jb6014)は手を振って彼を見送ると、歌唱の様子を写真にとっていたマインスロワー・ゲルダ グリューニング(
jb7318)と共に、並んでいる料理に箸をのばす。
「エイネさんとっても綺麗でした! 歌っている姿、新鮮です」
カメラを胸に、興奮気味に話すゲルダ。よほどいい写真がとれたのか、それとも先ほどたべたにくじゃがの味が良かったのか、その顔はすっかりほころんでいる。
「いやいや、たいしたことはないでござるよ。後ほど時間があればエイネ殿もぜひ・・・むっ! この肉じゃが、絶品でござるな! ほかの料理とは一段レベルが違うでござる!」
絶賛されて少々照れ臭かったのか、頭を横に小さく動かしながら否定するエイネであったが、肉じゃがを口に運んだ瞬間目を見開く。
合コンという性質上、食事はどうしても簡素になっていき、花より団子ならぬ、団子より花といった、クラッカーであったり、袋から開封しましたといった食べ物であったりが並ぶテーブルの中で、テーブルの中央に盛り付けられた肉じゃがだけがひときわ異彩を放っていた。
まだかすかに湯気を放つジャガイモは箸をつけた瞬間に小さく身がくずれ、あたたかな香りを彼女たちに届ける。出汁のきいた味は、どこか懐かしさを感じさせた。
「食事には力を入れない会だとは思っていたが、なかなかどうして、いい料理人がいるではないか」
エイネはゲルダとともに、自分で持ってきた山鳥の塩釜焼きと交互に肉じゃがを食すと、料理人に対して賛辞の言葉をおくる。
果たしてこの料理を作ったのは誰だったのか?
「ええか、出汁を熱し過ぎるんやないで。風味が損なわれる!」
厨房から聞こえる、どこかで・・・作戦相談中に聞いた声。
その料理は、愛、駆逐ッ!・紫 北斗(
jb2918)が厨房で作っていた。彼は参加者たちに少しでも気分よく帰ってもらおうと、この日のために食材を仕入れ、かつて板前修業した腕をリハーサルで取り戻し、厨房に入るや髪をまとめて帽子をかぶり、清潔感をもって調理をおこなっていた。
「あの・・・一応今回は参加者として来られているのですから、会場に行かれたほうがいいのでは?」
「フッ、気にするな! こうして料理の腕をふるうこと、それが俺の喜びでもある!」
北斗は料理にやりがいを出している。参加者も間違いなく喜んでいるが、当然合コンどころではない。彼はこの会場に来てから一言も異性どころか参加者とも会話をおこなっていなかった。
彼の汗が厨房に滴る間にも会は進んでいった。
●すぐわかる! 水本先生の合コン講座!
「ふぅーーーー。しかし彼女ができないのはどうしようもないとして、なんで誰も声をかけてこないんだ」
開始当初と同じく、壁にもたれかかったままの状態で独白する若杉。
理由は女性が近づくたびに、奇跡的タイミングで彼が妄想の世界に突入してしまうという非モテの星の賜物だからなのであるが、当の本人としては不届き者の狼藉がないとすれば、せめてパーティーに来た土産話だけでも持って帰ろうとしたが、なかなかどうして、少なくとも彼の意識的にはこれまでストライクゾーンどころかそもそも球が飛んでこない。ノーチャンスである。
「お悩みのようですね。若杉さん」
突然の声に若杉がビクリとする間もなく、彼の隣で料理を片手に立った水元は、彼の方を向くでもなく、小さく囁く。照明の関係か、彼の眼鏡が小さく煌めいた。
「お困りとあれば、私が仕入れた必勝の合コンテクニックをお教えいたしましょう」
「な、何? いいのか?!」
この場ではライバルであるはずの水本からの提案に驚く若杉。「敵に塩を送る」ではないが、同じ撃退士の仲間として、声をかけられるとは彼にとってまさしく渡りに船といえた。
「いいですか若杉さん、声をかけられない原因・・・理由は簡単です。合コンとは、いじられてなんぼなんです」
「いじられてなんぼ?!」
復唱する若杉。
「考えてみてください。話しかけるにはきっかけが必要です。ですが初対面の相手に共通の話題などあるわけがありません。とはいえ、相手の特徴を指摘して話題にすることなど地雷を踏みに行くことと同義です。それならば、敢えて自分にいじられる・・・話題となるような隙を作ること。それがなければ恋人をみつけられることはおろか、話しかけられることすらおぼつかないでしょう」
この会場に来る前に検索した知識を水が流れるように披露する水元。若杉は目から鱗が落ちたといわんばかりに、手を叩いて納得する。
「そうだったのか。撃退士生活も長くなってきて、気づいたら隙がなくなっていたんだな」
「・・・きっとそうです。そこでひとつ提案なのですが、敢えてつっこみやすい隙をつくり、なおかつ格好いいという印象を与えられやすい姿、ロックでワイルドな姿はどうでしょう? ノースリーブの革ジャンにギター持参で派手に決めましょう! この暑いのに革ジャンです!」
「そうすれば、ラッキーチャンス、スタートするかな?」
「します!」
がっつりと腕をぶつけ合い、互いの健闘を祈念する2人。
その後光の速さで該当の衣服を若杉は購入し、会場に突入したが、結果は・・・察していただきたい。
ただ、ゲルダのカメラのフラッシュだけは、まぶしく瞬いていたことをこの場では述べさせていただく。
●お色直し・仕切り直し
「どうもー。エルディンさんのいとこのエルディーナでーす」
「ゆかりっていいます〜。ゆかりちゃんって気軽に呼んでくださいねっ☆」
合コンパーティーの開始から一時間あまり、エルディンと北斗は、やや停滞した会の雰囲気を和ませようとしたのか、それとも単純に楽しもうとしたのか・・・事前に衣装とメイクセットを用意しているあたり、そしてエルディーナことエルディンに至っては説教をサボって関係者に蹴りを入れられて腰をおさえながらも衣装替えをやめなかったあたり、変化の術を使った北斗は北斗であれほど熱中していた料理に一区切りをつけて参加したあたり、後者のような気もするがとにかく、先ほどまでとは大きくイメージチェンジをしてきた二名は、会をより盛り上げようと、初対面という設定のほかの撃退士につとめて明るく声をかけていく。
「おぉっ! おなかまがふえてうれしいでござる! ぜひ一緒に歌いましょうぞ!」
先ほど果敢にもロシアン寿司に挑み、悶絶した影響か少々目を赤くはらしたエイネは、新しい乱入者に目を輝かせると、手を引いてカラオケへと赴く。
「エルディーナさんもゆかりちゃんも素敵です! そこっ、水に濡れた状態でせくしーぽーずもお願いしますっ!」
ゲルダは壇上に上がった三人に瞳を煌かせ、カメラを連射する。水本と事前に通じ、さも演出かのように水を新人二名にかけることで、セクシーさを演出するおまけつきである。
ちなみに、突如あらわれた新人二名・エルディーナとゆかりちゃんの着替えならぬ変身の様子まで激写していたようだが、それは心ある運営主催者に没収された。
「みんな、きょうは私たちのライブにあつまってくれてありがとーー!」
「うぉーーー! ヘリウムガス忘れたーーーー!」
壇上で手を振りながら、見事な裏声で歌唱を披露するエルディーナと、変身しているのでスタイルは完璧だが声について失念していたゆかりちゃん。
二人の声が轟いたとき、会場は覆い尽くさんばかりの拍手に包まれたのであった。
●戦いの終わりに
「合コンかぁ〜。次もあったら参加してみるか…。若杉さん」
「ああ、非モテは貫くが、参加すること自体は悪くない」
「☆良い出会いがあると信じて――!」
パーティーが終わり、北斗と若杉、そして参加した撃退士たちは、夕焼けの中に駆けていったのであった。
一説にはゆかりちゃんがダンスの前後で複数の男性から熱烈に迫られたそうであるが、
参加した撃退士の中で恋人ができた者は・・・いなかったそうである。
完