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マスター:茶務夏
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/14


みんなの思い出



オープニング

●映像研究部アニメーション班
「文化祭終盤の上映を目指して作品を作っているアニメーション班を手伝って欲しい」
 夜十時。ドア脇に『えいけん!』の看板がかかる久遠ヶ原学園映像研究部のプレハブ小屋で、依頼主の部長が口を開いた。
「ああ、君らに絵を描けと言うわけじゃない。明日から三日間ほど別棟で寝ずの作画作業に入る彼らの世話をして欲しいんだ。脚本担当が、完成前に赴いた戦闘依頼で重傷を負い五日間意識不明だったせいで、以後のスケジュールが押してしまってな。詳しいことは班長に聞いてくれ」
 言いながら、横に立っていた小柄な少女を指し示す。ショートカットの少女はぺこりと頭を下げた。

●メンバー構成と、懸案事項と、期待について
「明日の朝からの丸三日間で残りのシーンの作画を完成させられれば、以降の作業はスムーズに運ぶはずなんです。使い回しや止め絵で工夫して最低であと1500枚必要ですが、2000枚を超えられたら完成度はかなり高くなると思います。どうかよろしくお願いします」
 湯舟と名乗った班長は説明を始めた。
「アニメ班の作画要員は四人なのですが、今回は非常事態なので制作進行の私と新人の遠山も作画に回ります。そのために生じる雑用部分の穴を、皆さんに埋めていただきたいのです。基本的には、眠りかけてる人間を起こしたり、食事を作ったり、コンビニへ飲み物などを買いに行ったり。あ、完成した動画の回収や整理は、仕上げ担当のグループの子たちが毎日午前九時に来てやってくれますのでご心配なく」
 そして湯舟はホワイトボードにペンを走らせた。

野田(大学一年男子・画力A)‥‥120・120・120
湯舟(大学一年女子・画力C)‥‥90・90・90
猪俣(高校三年男子・画力B)‥‥100・100・100
中込(高校二年男子・画力B)‥‥三日間で300
葛西(高校一年男子・画力A)‥‥150・150・125
遠山(高校一年女子・画力S)‥‥60+?・60+?+?・60+?+?+?

「現時点で予想される、眠らずにやり遂げた場合の、六人の今後三日の作画枚数です。
 野田は今回の作画監督で、絵が上手く、気合が入り、責任感もあります。そんな彼でも時に屈してしまうのが睡魔の恐ろしさです。
 猪俣は、非常に安定しています。眠ってしまわなければどんな環境でも着実に一日100枚仕上げるでしょう。ただし安定し過ぎていて、それ以上の枚数は期待できません。
 中込は逆に乱高下が激しいです。150・75・75になるか、80・180・40になるか、それとも40・60・200になるか。三日間のトータルで考えれば、眠らせなければ300枚くらいとは見込めますけれど。
 厄介なのが葛西です。逸材ですがメンタルがまだ弱く、たぶん三日目、音を上げて逃走にかかるでしょう。過去の経験から考えるに、すぐさま捕まえて気絶、もとい、寝かしつければ、四時間ぐらいで復帰できると思います。彼を取り逃がすとしばらく戻って来なくて、かなり困ります。
 そして遠山は、礼儀正しいし真面目だし根気強いし絵が上手いしといいとこずくめなんですが‥‥アウルに覚醒して日が浅く、数年の経験を積んでいる他の部員と比べて自分の手が遅いことに縮こまってしまっている段階です」
 ちなみに一般人なら一流と呼ばれるアニメーターで一日40枚ほどなんですよ、と知識を披露してから彼女は付け足す。
「なので気に病むよりも、描いて慣れてコツを掴むこと、自信を取り戻すことが大切で‥‥今回の地獄をきっかけに、伸びてくれるのではという期待があります」

 彼女に導かれてプレハブの部室を出る。
 夜の闇に沈む中を少し行き、最近足の速い泥棒が出ると噂の地域に入ると、別棟があった。なぜかこちらは一戸建てだ。
「昔のアニメ班OBに裕福な育ちの人がいたようで、建ててもらった家を卒業時にアニメ班に寄付してくれたそうです。それはさておき」
 湯舟は家に入るとまず階段を昇る。
「二階にあるトイレ以外のこれら三部屋が作画用の部屋です。四人が作業できる大部屋一つと、設備が整った個室が二つ。個室は防音ですし集中できて効率が上がる人間が多いですが、大部屋の方が捗る葛西みたいな子もいますね。さっきの数字は大部屋での作業時なので、うまく個室を活用できれば作画枚数は上乗せできると思います」
 一部屋ずつドアを開けていくと、個室の一つで少女が絵を描いていた。
「うわ! 遠山、今夜は敢えて寝ろって言ったでしょ!?」
「で、でも、私、のろまですから、他の方より時間をかけないと迷惑をかけちゃいますし‥‥」
 腰まで届きそうな黒髪の自信なさげな少女が弱々しく答える。
「明日から七十二時間、嫌になるほど描けるんだから、今は少しでも寝てそのための体力を養っておきなさい! ほら、こちらの方たちが面倒見てくれるから、挨拶!」
「よ、よろしくお願いします‥‥」
 湯舟に叱られた遠山はか細い声で挨拶し、君たちに頭を下げつつそそくさと帰って行った。
「驚かせてすみません。入部したての頃は、おとなしいけどおしゃべり好きだったんですが‥‥」
 そして湯舟の案内は改めて一階へ。
「皆さんの調理・食事・仮眠・休憩・入浴・トイレなどはこちらでお願いします」
 一階には、居間とダイニングキッチン、寝室二つと書斎、風呂とトイレ、資料や機材・過去の制作物などをしまう物置がある。
「食事がおいしいと多少はペースも上がるかもしれません。全員、コンビニの菓子パンやおにぎりには飽きていますから。
 集合は明日の朝九時。よろしくお願いいたし、ふあ、‥‥失敬、この二日ほど寝てないもので」
 最後に欠伸しそうになりつつ、湯舟は頭を下げた。


リプレイ本文

●一日目
(徹夜三日間‥‥お手伝いできることがあれば)
 今回が斡旋所で引き受けた初依頼である美森 あやか(jb1451)は静かに決意する。それは同様の立場であるアリシア・レーヴェシュタイン(jb1427)とエナ(ja3058)も同じ。
(やるからには、完成させたいですよね‥‥やっぱり)
 エナは昨夜からトラブル対応をあれこれ考え、若干寝不足気味だ。
「修羅場、ねぇ」
 元美術部員の虎落 九朗(jb0008)は、コンクール間際に絵が完成してなかった時の焦燥を思い出す。
(あん時の絵、入賞にゃかすりもしなかったなあ‥‥)
 苦い記憶を封じ、作画メンバーが打ち込めるように頑張りたいと思う。アニメ作画の経験はないので、料理やその他雑用担当だが。
「三日間で、か。こっちはできるだけ環境を整えないとね」
 似たスタンスなのがソフィア・ヴァレッティ(ja1133)。故郷イタリアの料理を得意としつつ、買い出しや見回りもこなすつもり。
 一方、鴉乃宮 歌音(ja0427)は自分の役割をひたすら料理に絞る。
「軍事における炊事の訓練と同等、かな」
 疲労した者を支える栄養豊富な物、士気高揚を図れるくらい美味であればなお望ましかろう。


「さて今日から三日間、よろしく頼むよ」
 別棟の一階リビングで作画メンバーと顔を合わせ、黒田 圭(ja0935)が挨拶する。これから戦場を共にする仲間たち。信頼関係を築きたい。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 野田と湯舟を筆頭に、きちんとした挨拶が返ってくる。
「これが三日間の献立だ。嫌いなものはないと思うが、要望があれば以降反映させるのでよろしく」
 歌音がメニューを示すと作画班から驚きの声が上がる。
「うまそう‥‥」
「気合入ってるなあ‥‥」
 葛西が唾を飲み込む横で、中込も感嘆した。


 個室には猪俣と中込に入ってもらい、圭が大部屋を基本に居眠りを見張る。アリシアは歌音の調理や下ごしらえを手伝い、あやかとソフィアは今後必要な物の買い出し、エナと九朗はトラブルに備え待機。
「あ、コンビニに行くならこれをどうぞ」
 エナがあやかにメモを渡す。記されているのは、やや見慣れない名の飲み物各種。
「これは?」
「近くのコンビニ数軒の、新発売の飲み物です。猪俣さんがこういう物がお好きらしくて」
「事前に作っておいたんですか? ありがとうございます、チェックしていけばダブることもないですね」
 依頼を受けた昨夜の帰り道、エナは一人で作業しておいた。その努力を悟り、あやかはありがたく思う。
「長丁場ですし、エナさんも今のうち休んでおいてくださいね」
「は、はい」
 エナは赤い瞳を細めて柔らかく微笑んだ。


「あちっ! でも美味い!」
 葛西がアジフライにかじりついて叫び、その勢いのままご飯を頬張る。
「熱い汁物もやっぱりいいなー」
 猪俣がしみじみと豚汁を啜った。
 初日昼食は、アジフライと豚汁。サクサクの衣に包まれた青魚はふっくらした食感と旨味を保ち、小骨まで丁寧に抜かれ食べやすさも文句なし。具がふんだんに投入された汁は、肉も野菜も柔らかく、一方で豆腐はほどよい硬さ。そして炊き立てのご飯はつやつやと光り、食欲をそそる湯気を漂わせた。
「ごっそさん! うまかったっす!」
「ごちそうさまでした。ありがとう」
 中込と野田が、ものの数分で食べ終えると、そそくさと二階へ上がって行った。猪俣と湯舟も後に続き、二度おかわりした葛西も立ち上がる。
「遠山、行くぞ」
「ご、ごめんなさい、もう少ししたら行きます‥‥」
「お前食べるのも遅いんだなあ」
 悪気はなさそうな葛西の口調。しかし遠山は表情を強張らせる。
「‥‥」
 食べ終えてとぼとぼと階段を昇る遠山を、アリシアはじっと見つめる。
「まだ改善の余地はあるか」
 きれいに平らげられた食器を片づけつつ、歌音は呟いた。


「スイートポテトに鼈甲飴に焼き芋です、召し上がりたい方はお一つずつどうぞ」
 おやつの時間。あやかが作ったお菓子を抱え、本人とアリシアが部屋を回る。小皿に小さく作り分け、作業の合間に食べやすい工夫をした。
 あやかが個室に入ると、CDラジカセからアニソンが流れる中、中込が作画をしている。
「中込さんは辛いものお好きですよね、こちらいかがですか?」
 角切りの焼き芋にハバネロパウダーをまぶした一品は、辛い物好きの眼鏡にかなったようだ。
 一方アリシアは大部屋で遠山に話しかけた。
 本来アリシア自身も気弱だ。だがそれだけに遠山にはどこかシンパシーを感じ、彼女が自信を持てるよう関わりたかった。
「あの‥‥絵、お上手、ですね」
 声をかけるきっかけではあるが、その感想には偽りなどない。魔法少女の変身シーンを描くその手の動きは、当人とは正反対に力強く、紙の上に可愛らしくも凛々しい姿を産み出していた。
「え‥‥でも‥‥」
「髪のなびき方とか、凄いです。本当に風が吹いているみたい」
 アニメや漫画に詳しいわけではない。目の前の絵を褒めることしかできない。
 しかしその素朴な賞賛は、内気な少女の心に届いた。
「あ‥‥ありがとうございます‥‥」
 不器用なやり取りはその後もしばらく続いたが、葛西が小皿を乱暴に置いた音で終わる。
「食べ終わったんで、片づけ頼んます」
「は、はい」
「それと、ここでしゃべるのはちょっと勘弁っす。気が散るんで」
「ご、ごめんなさい‥‥」
 湯舟が顔をしかめ、野田は困った顔になるが、主張自体は正論だった。


 夕飯はカレー。だが作画班を呼ぶよりやや早く、歌音は盛りつけを始める。
「冷めちまわないですか?」
 怪訝そうな顔で手伝う九朗に肯く。
「うん、少し冷ます」
 降りてきた面々は、今回もよく食べる。希望者にはあやかの作ったトンカツもついてボリューム満点だ。
 昼よりも手早く食べ終えた一同を見送りながら、歌音は九朗に説明した。
「彼らは料理をじっくり味わいたいわけじゃない。短時間での食べやすさまで考慮しないとな」
 そんなせわしなさの中ではあるが、アリシアは遠山と再び話していた。
「その、私‥‥アニメとかコミックとか、よく知らなくて‥‥よかったら、教えて下さいますか?」
「は、はい!」
 遠山がずらずらと並べる名前を、アリシアはメモに取っていった。


「あ、夜食はどうですか? おにぎりやお餅やうどんとか色々準備できますけど」
 トイレに立った湯舟に、見回りを手伝っていたあやかが問うと、湯舟は首を振る。
「これ以上食べると眠くなりそうで‥‥でもありがとう。皆さん料理が上手で、おかげで予想以上に作業がはかどってます」
「なら、よかったです」
 あやかは安堵の笑みを浮かべた。


 一日が経ち、ソフィアたちは完成した動画のまとめも手伝った。これをスキャンしてパソコンで着色や編集をしていく。
「野田さん132枚、湯舟さん99枚‥‥事前に聞いてたより多いね。食事がおいしかった効果ならうれしいけど」
 一方、猪俣は情報通り100枚。中込の60枚は少ないが、波があるというし今後に期待か。
「葛西さんは155枚です。食事は喜んでくれてたと思いますけど、私が大部屋でしゃべってしまったから少しペースを落としてたような‥‥」
 肩を落とすアリシアに圭は笑う。
「でも遠山さんの83枚って、アリシアのおかげだろう? 合計629枚。頑張っていこう」


●二日目
 歌音やあやかたち料理担当は相変わらず快調。朝食のトーストやウインナーの軽い洋食も、昼食の炒飯も、おやつのアップルパイやクッキーなど(中込には、胡椒をきかせたタルトフランベ=ベーコンと玉葱のピザ)も、いずれもアニメ班の胃袋を満足させ彼らの気力を充実させていく。
 さらに夕食には、ソフィアがパスタを披露した。歯応えがうれしいアルデンテに、個々人の希望を反映した各種ソースがよく絡み、美味の連発に慣れつつあるはずの一同が、今回もむさぼるように食べていく。


 そんな中、見回り中心な圭とエナも地道に奮闘していた。
「あ! すんません」
「いやいや」
 そっと揺り起こされて跳ねるように起きる葛西へ、圭は穏やかに返す。作画メンバーが頑張っていることは間近で見ていて百も承知。
(こちらが眠たい顔を見せるわけにはいかないよな)
 最年長の意地であくびも噛み殺し、圭は足音を消して見回りに努めた。
「このCDはどうでしょう? 買い出しがてらレンタルしてきたんですが」
 個室ではエナが中込に新譜を勧めて喜ばれる。事前の予習と、彼が好んで流す曲調を研究した甲斐があった。
 廊下に出ると、遠山が大部屋から出てきたところ。
「どうしました?」
「動画机の蛍光灯が切れて‥‥」
「あ、予備があるはずですよ」
 連れ立って物置へ。作業に支障をきたさない数分のことではあるが、エナはその間に遠山へ積極的に話しかけた。前日の夕食以降、食事のたびにアリシアと親しげにしゃべる姿を見ていたのだ。
「病院だと本を読んだりビデオを観たりしかすることがなくて‥‥体調がいい時は絵を描いてましたけど」
 覚醒前は病弱だったという遠山は、その分漫画やアニメに特に詳しい。エナは予習で得た知識で応対しつつ聞き役に回り、遠山は楽しそうだった。


 深夜、見回りの担当は圭だった。ソフィアが作ったピッツァを夜食に配って回り、個室へ向かう。
 大部屋に詰め、個室を回るのは一〜二時間に一回。ここまではそれでうまくいっていたが。
「い、猪俣くん」
「あ‥‥やばい」
 どんな状況でも一定のペースで描き続ける。それが売りの猪俣が、動画机に突っ伏して眠りこけていた。
「もしかして‥‥」
 隣の部屋に駆け込むと、アニソンが流れる中で中込も睡魔に囚われている。
「しまった!」


「野田さん、湯舟さんは変わらずですね」
「猪俣くん96枚、中込くん58枚は俺の責任だなあ。疲れの蓄積も考えるべきだった」
「でも一時間ほどしか寝てませんし、見回りの頻度を上げれば済む話ですよ」
 あやかが圭を慰める。
「葛西さんは165枚、遠山さんはさらに伸ばして99枚で、今日の合計649枚。1500枚は大丈夫そうですね」
「ここまで来たら2000枚、越えて欲しいなあ」


●三日目
 撃退士は強靭だ。回復力もあるから、腱鞘炎など恐れずに何十時間も絵を描き続けられる。
 だが眠気を消し去れるほど強くはない。
 手伝いに来た圭たちは交代で仮眠を取れる。焼鮭など和風の朝食を終えた今は、あやかやエナらが寝ている。しかし作画班はそうはいかない。
 一番深刻なのは、事前に湯舟が警告した葛西だった。
「葛西くん」
「う、うう‥‥」
 圭が揺り起こすと、恨めしげな眼で睨まれる。
 絵を描く葛西の手つきはしっかりしているし、雑な線で妥協などせず修正する。絵を描くのがひたすら好きだということはこの三日で圭もよく理解した。
 それでも、創作意欲と眠気は別物なのだ。
(そろそろ、かな)
 圭は一階へ降り、買い出しに行こうとしていたソフィアを止め、そちらは歌音に代わってもらった。
 九朗に声をかけ、ともに二階へ。
 大部屋に戻ると、憔悴した顔で立ち上がりこちらへ向かおうとした葛西と目が合った。
 すると少年は方向転換、ベランダへの窓を開け、すぐさま飛び降りる!
「ソフィア!」
「了解!」
 圭が下を見れば、待機していたソフィアの異界の呼び手で拘束された葛西の姿。そして、圭の横を通り、湯舟が飛び降りる。
「寝なさい!」
 阿修羅による鳩尾への一撃を受け、昏倒する葛西。
「ありがとうございます。四時間ほどすれば復帰できるかと」
 葛西を肩に担いで屋内に入る湯舟が、居合わせたアリシアに声をかける。
「よければ、もっと遠山と話してもらえます?」


「これは二度目の変身シーンなんですけど、この時主役の女の子は、最初の変身とは違って強敵との戦いを控えてるんです。その覚悟と決意を表情に漲らせたくて‥‥」
 最低限の目標1500枚は昼過ぎに超えた。追加で描き足すシーンを野田と湯舟が指定し、遠山らがそれに取り掛かる。
 遠山は、アリシアとエナに自分の描いているシーンを説明しながら手を動かす。一昨日に比べてその動きは早い。手馴れてきた上にのびのびしている。
「何だか、夢みたいです。自分がこうして一日に何十枚も絵を描けるようになるなんて、しかもそれがアニメになるなんて、昔は思ってもいなかったから」
「はい」
 最初に会った時より明るくなったことを喜びつつ、アリシアは相槌を打つ。
「このシーンって、あのアニメを踏まえたんですか?」
 遠山が野田に問う名は、アリシアもエナも知らない。それどころか、野田すら観ていなかった。
「‥‥お前、やたら詳しいからな」
 ソファで寝ていた葛西が、少し気まずくなった場の空気を破るように起き上がった。
「あ‥‥」
 縮こまる遠山へ、葛西は動画机に向かいながら口を開く。
「別に悪かねーんだよ。俺たちもアニメは好きだけど、遠山ほど詳しくなくて‥‥‥‥だから、俺、自分が先輩面できる作画枚数の多さで威張ろうとしてた。ごめん!」
 絵を描きつつ、しかし大声での謝罪。
「話、しててもいいよ。遠山のあんな楽しそうな声、初めて聞いた。ありがと」
 アリシアたちに言い、葛西は一心不乱に鉛筆を動かし始めた。


 鍋やシチューの夕食を終え、ラストスパート。
 猪俣はひたすら安定したペースで。三日目になって大爆発した中込は驚くほどの勢いで。野田は丁寧に速く。湯舟は画力の影響が出にくい場面を率先して。葛西は遅れを取り戻すようにがむしゃらに。遠山は難しいシーンをアリシアたちと会話しながら楽しげに。
 九朗は部屋をこまめに往復しつつ作画メンバーの仕事を眺める。
 明日考えていることがあり、「頑張って終わらせろ。そうすればきっといいことがある」などと言うつもりでいた。が、ニンジンなど必要ない。
 満足のいく形での完成こそが、彼らにとっては一番の褒美なのだから。



 午前九時。一同は野田と湯舟を手伝い完成枚数を数える。猪俣らは誰憚ることなく眠りに就いていた。
「野田さん湯舟さんは変わらず。猪俣さんは100枚。中込さんは‥‥凄いですね、240枚!」
「葛西くんは四時間寝たけど138枚か。遠山さんは今日も伸びて116枚」
「ええと、今日は825枚で、三日間で‥‥2103枚!」
「ありがとうございます、本当に‥‥!」
「遠山のことも、感謝します」
 仕上げ班に原稿を託すと、作画メンバーを代表する二人は七人に礼を言う。疲れきり、しかしやり遂げた者の顔だった。
「この後用事はないですよね?」
 あやかの確認に、二人は当然首を振る。
「なら、皆さんここで休んでてくれませんか? 打ち上げしたいんです」
 ソフィアが明るく言うのを聞きつつ、返事も待たず九朗は出発する。資金は七人で報酬を出し合い、目指すは精肉店。
 スープやご飯やパンは歌音たちがうまくやる。アリシアもドイツ料理を遠山にご馳走したいと乗り気だ。
 そしてメインは、自分が焼くステーキ!
「待ってろよ‥‥」
 九朗ははりきって駆け出した。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: それでも学園を楽しむ・エナ(ja3058)
 迷える作画者の導き手・アリシア・レーヴェシュタイン(jb1427)
 腕利き料理人・美森 あやか(jb1451)
重体: −
面白かった!:6人

ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
地道な見守り・
黒田 圭(ja0935)

大学部7年36組 男 インフィルトレイター
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
それでも学園を楽しむ・
エナ(ja3058)

卒業 女 ダアト
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
迷える作画者の導き手・
アリシア・レーヴェシュタイン(jb1427)

大学部2年300組 女 ナイトウォーカー
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード