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マスター:茶務夏
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/11/07


みんなの思い出



オープニング

●不審過ぎるペンギン
 県境を流れる川は、平野をよぎる穏やかな流れだ。この町の河川敷は広く、少年野球のグラウンドなどがところどころに設けられ、土手は朝夕にはランニングや犬の散歩をする人が目立つ。
 その夕方、下校した中学生の少年が愛犬を連れて土手を歩いていると、立ち止まった愛犬が川に向かって唸り声を上げた。
 何かと思ってそちらを見れば、川べりに近い草むらの中にペンギンが一羽立っている。
「何でこんなとこにペンギンが?」
 水族館から逃げた? でもこの近くに水族館なんて聞いたこともない。
 と、少年はひょこひょこ歩き始めたペンギンが何か不自然なことに気づいた。
 歩いていても、足元の草がまったく動かない。
 少年は川とは反対側に土手を駆け降りると、震える手で携帯電話を取り出した。

 ちょっとした依頼をこなし、仲間と別ルートで学園への帰路についていた撃退士二人が、その河原のすぐ近くにいた。偵察および可能ならば討伐ということで、二人は現場へ向かう。
「ま、野良一匹なら充分倒せるだろ」
 そろそろ中堅と名乗れるくらいには経験を積んでいる先輩が、隣を歩く初心者に言う。
「お前は一般人の避難をよろしく」
「はい!」
 戦闘前に異界認識で確認したが、紛れもないサーバント。
「それにしても‥‥力が抜けるなあ」
 大きさから骨格から、普通のペンギンを完全なまでにコピーした姿。何が目的なのか、夕暮れの秋空の下、虚空をぼんやり見つめながら河川敷をペタペタ歩くその様子に警戒心を抱き続けるのは難しい。
 スタンプハンマーを取り出して近寄る撃退士は、それでも用心に、多少距離を置いてアウルのナイフを投げる。
 すると。
 ペンギンの姿が消えた。
「?!」
 いや、消えたかと見紛うほどの高速回避。しかも逃げるでなく、こちらへ間合いを詰めて翼で手刀のごとく斬りかかる。
 浅からぬ傷を負い、撃退士の胸から血飛沫が上がった。
「あ――」
「増援を!」
「は、はい!」
 一人や二人で勝つのは困難と瞬時に悟り、新人へ声を張り上げる。元より大きく離れていた彼は携帯電話を取り出す。
 転移装置を使っても五分かかるか十分かかるか。ヒールなどで粘り続けてもそれまで保つとは思えない。この速さから逃げきれるとも思えない。ならば勝ちを得るには倒すしかない。
 ハンマーを振るう。しかし上体を逸らされ、あるいは飛び跳ねられ、簡単にかわされる。反撃を食らう。
「ちょこまかと‥‥」
 だが素早い相手との実戦経験くらいは積んでいる。大振りをやめ、コンパクトに。素早さを重視しているということは、たぶん装甲自体は脆いはず。
「お前は来るな!」
 視界の隅に駆けつけようとする新人を捉え、命じた。
「で、でも」
「二人じゃろくな連携も取れない。来られても余分に血が流れるだけだ。それよりもこいつの能力や動きをよく見て、俺がしくじった時に後続へしっかり伝えてくれ」
 ヒールで傷を癒やす。その間も翼で斬られる。何度かそんなことを繰り返しつつも、痛みに耐え、集中力を高め、当てることに専念する。
 着地点を狙った一撃が、うまく敵を捉えた。軽い手応えながら大きく吹き飛んでいく。
「やった‥‥?」
 新人の願いにも似た言葉は、簡単に跳ね起きたペンギンの姿に砕かれる。
「素早くて硬いって、反則だろうが‥‥!」
 突進してきたペンギンの嘴に腹を貫かれ、戦っていた撃退士は意識を手放した。

●対岸の会話
「どうだい? ラッキーヒットはたまにある。ゆえに敏捷性だけでなく装甲も高めておいたのさ。そして攻撃力も備えてあるんだ」
 二人の男が、数百メートル先の対岸から、川向こうの戦闘を双眼鏡も使わずに観察している。作り物めいて陽気に誇らしげな青年の言葉に、友人である少年が応じる。
「確かに、偵察用としては破格の能力かもしれん」
 青年よりも老成した口調で少年は語る。実際、少年の方が数百歳は年上なのだ。
「特に自慢なのはコストの低減でね。大型サーバントなら腕一本にもならない程度の素材量で、あれだけの機能を実現させてみせたわけだよ。まあ量産が難しいのが課題だけれど」
 だが世代の差というものか、青年がこの世界に長逗留して人間にかぶれたからか、彼の着眼点は時々少年の理解を置き去りにする。下僕の『コスト』やら『量産』やらを気にするこの感覚は、さっぱりわからない。
 それでも少年は、友人の求めるものを示してみせた。すなわち、豊富な実戦経験に基づく批評。
「敢えて問題点を挙げるとすれば‥‥」
 少年が続けた言葉を聞き終えると、青年は大仰に肩を竦めた。
「もちろんそこは理解しているさ。だからこそ、あの程度でも実戦で通用するかのテストを今からするわけでね」
 少年は首を傾げた。
「『今から』?」
「上位のディアボロ一体ならまだしも、撃退士一人を倒したくらいでテストになるわけないだろう? 彼らの本領はチームによる連携なんだし。ほら、うまい具合にやって来た」
 青年は対岸の土手の辺りを指差した。急いで避難し土手の向こうに消えていく一般人たちとは逆に、土手を降りて川辺へ近づいてくる数人。
「そうだなあ、陽が地の端にかかったら、引き揚げさせるとしよう。それまでに彼ら全員を戦闘不能に追い込めたら大成功というところだね。まあこっちが負けるかもしれないが」
 地平線へもうすぐ沈もうとしている夕陽に照らされ、青年は微笑んだ。

●狩るか狩られるか
「ペンギン型サーバントは撃退士一人を戦闘不能にすると興味を失ったようにその場を離れ、またのたのたと歩き始めて今も川沿いをゆっくり進んでいます」
 救援要請をした新人さんが、サーバントが離れたのを見て先輩を救助、病院に運んだそうですのでそこはご安心を、とオペレーターの少女は付け足す。
「撃破できれば一番いいですが、川に入られたらたぶん逃げられてしまい追跡しようもないでしょう。不安は残りますけれど、それはそれでやむをえない事態かと」

 少し離れた場所に転移してから現場までの道中、サーバントの情報などとともにそんなことを言われはしたものの。
 到着した今、目の前にいるペンギンは逃げる素振りなどまるで見せず、撃退士たちを睨むようにして身構え、明らかにターゲットとして捉えていた。


リプレイ本文


 日没迫り、夕焼けが染める河原。肌寒い秋風がそよぐ中、撃退士たちを待ち構えて佇むペンギン型のサーバント。どうにもシュールな光景ではある。
「これは‥‥本当にペンギンさんにそっくりですわね」
「なんだか、あの外見ですと気が抜けそうになりますね‥‥」
 土手を降りながら呟くクリスティーナ アップルトン(ja9941)に、後ろ髪の一房を指先で弄りつつ鑑夜 翠月(jb0681)が応じる。
「このペンギンさん、当然、川を泳いできたんです‥‥よね? ペンギンさんって、淡水でも大丈夫なんでしょうか‥‥?」
「鳥類なので、海水淡水の別はなく大丈夫らしいです」
 水葉さくら(ja9860)の問いに生真面目に答えるは、アーマースーツに身を包んだ純白のエリクシア(jb0749)。
「ペンギンさん、こんな所で暑くはないんでしょうか‥‥」
「いや、あのな、そもそもあいつサーバントだからな?」
 さくらの二度目の発言に思わず突っ込みを入れてしまったのはアナスタシア・チェルノボグ(jb1102)。ロシアの魔法使いの家系なのに現在のジョブは陰陽師、美少女なのに口調はがさつな男言葉、しかも主武器はアサルトライフルによる物理攻撃と、自身が突っ込みどころ満載な彼女をしても放置できない天然ぶり。
 そんな軽口を叩き合いながらも、相手が一対一で撃退士を軽々と戦闘不能に追いやった強敵であることを忘れる者などいない。
「速くて堅い相手か、厄介ね。突破口でもあればいいんだけど」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)の言葉は、全員を代弁していた。救援要請に応じて駆けつけたものの、一行は相手の弱点を見出せていない。
 素早い上に、攻撃を当てても弾く硬さ。こちらへの攻撃力も高い。一見完璧。
 だが、そんな都合のいい話などあるまい。どこかに何か弱点はあるはずなのだ。
「そこのペンギン! あたいが来たからにはもう自由にさせないわ!」
 可愛らしい姿にも何ら動じぬ雪室 チルル(ja0220)が、堂々宣言し。
「最悪、敵の撤退までが作戦の目標ですが、逃がさずここで撃破しましょう」
 エリクシアが決意を述べ。
「久遠ヶ原の毒りんご姉妹、クリスティーナ・アップルトンが華麗に登場ですわ」
 クリスティーナがいつもの口上を述べつつ光纏、阻霊符を発動。
 戦いが始まった。


 七人はペンギンを三方から囲んで位置取った。正面にさくらとチルル、フローラ。右後方にクリスティーナとアナスタシア、左後方にエリクシアと翠月。それぞれ誤射の恐れがないポジションだ。
「え、えと‥‥た、短足さん、ですぅ〜!」
 正面班のさくらがまずは挑発。人を嫌うことなど無縁な彼女の拙い悪口はともかく、スキル自体は効果をきちんと発揮してペンギンが彼女に視線を固定する。
 と、瞬時に間合いを詰めて翼で斬りかかってきた!
「速えな!」
 アナスタシアが思わずこぼす。事前に話は聞いていても、目の当たりにすると予想を超えてさらに速い。
 それでも、心の準備ができているさくらが対応しきれないほどではなかった。リブラシールドを構え、受ける。
「これくらいなら、大丈夫、です」
 完璧に防げるわけではなく、わずかながら傷は負う。しかし無視してよいレベル。
「行くわよ!」
 正面からチルルが大剣でいの一番に斬り込み、フローラも杖を振るう。
 右からも同時に、クリスティーナがキャノンナックルから拳状のアウルを撃ち出し、アナスタシアがアウルの銃弾を連射する。
 サーバントはそのすべてをかわしきってみせたが、そこまでは想定の内。
 回避した先を狙い、左からエリクシアが突撃銃で狙い、翠月が魔導書を用い呪文を放つ。
 だが。
 それらも残らず回避されてしまった。
「‥‥凄くすばしっこいですね」
 翠月が改めて噛みしめるように言う。
「動きは単調だ、見極めろ、俺たちならやれる!」
 自身にも言い聞かせるように、アナスタシアが獅子吼した。


「回りくどい手を取るものだな。まだわかっていないということか」
 川の対岸、少年が戦闘を眺めながら隣の友人へ話しかける。
「戦闘経験の浅い者が多めだね。だが‥‥」
 一方の青年は、楽しげに笑った。
「見る見る動きが良くなっている」

「ゴーストバレット‥‥当たりました!」
 数度目の連携、翠月の魔法攻撃がペンギンをついに捉えた。
「魔法攻撃には弱いってわけじゃなさそうね!」
 ダメージを受けても装甲が防いだか平然とした様子のペンギンを見て、場合によっては魔法攻撃用の装備に切り替えるつもりだったチルルはフランベルジェを握り直す。
「ならば、愚直に当て続けていくしかないようですね。翠月さんのゴースレバレットも私のストライクショットも切れましたし、ここからはクリステイーナさんたちの班が追撃ということでお願いします」
 エリクシアが銃を構える。
「こ、こっちへ来るですぅ!」
 さくらがすでに三度目となるタウントを使う。惹きつけつつ敵の弱点を探るが、まだわからない。
 そこへ突っ込むサーバント。だが、それまでの翼による斬撃とは違い、それは嘴による突撃!
 シールドを弾き、さくらの腹部へ嘴が突き刺さる。
「水葉さん!!」
「わ、私は、まだ大丈夫です」
 翠月が叫ぶが、さくらはきっぱりと言い、嘴を掴もうとすらする。ある意味今は、動きが封じられている好機。だが一手遅く、その手をすり抜けた敵は機敏な動きを取り戻す。
「あーもう! ちょこまかと逃げるんじゃないわ!」
 チルルが、フローラが、エリクシアが、翠月が攻める。
 俊敏にかわすペンギン。だがその動きはすでに把握されつつあった。
「タン、タタン…タン」
 ずっと冷静に動きを見ていたアナスタシアは、指先でリズムを刻む。
「タッタタン…」
 あたかも楽譜を読むように。
「Такие сроки!(このタイミング!)」
 アウルの銃弾が、ペンギンを撃つ。その軽い身が空中に吹き飛ぶ。
「まだまだ、続きですわ!」
 クリスティーナが追撃をかける。空中ではかわしようもなく、コンパクトに振り抜いた拳から発したアウルがペンギンを捉える。
 地面に倒れ、しかし簡単に起き上がるペンギンは相も変わらずの無表情。動きにも変化はない。
「当てるには当ててもこの装甲の硬さ‥‥疲れますわね」
「それでも、今は二連続で当てられました。重力無視の無限機動をおこなうような相手でない以上、今後も隙はあります」
 エリクシアがクリスティーナの苛立ちを抑えるように冷静に述べる。
「私たちは連携を取って戦っています、この強みを活かせばきっと勝てるはずです」
 まだペンギンへのタウントは有効で、傷を押さえているさくらに向かってくる。
 盾を構えようとしたさくらを制し、チルルが前に出た。
「交代よ、氷盾!」
 フランベルジェを中心に氷結晶の盾が生じる。嘴は貫いてくるが、その勢いは大ダメージには程遠い。
「さて、上手くコントロールできるようにがんばらないとね」
 チルルへ攻撃を仕掛けた瞬間を狙い、フローラが襲う。対応力は高く容易にかわされるが、そこは承知の上。敵の回避方向を制限し、続く仲間の攻撃を当てやすくするための攻撃。
「好き勝手に動かさせはしないわよ。後に繋げないとならないからね」
「こちらも参ります」
「はいっ」
 エリクシアと翠月がそれに倣う。有効なスキルはもはやなく単なる通常攻撃だが、ペンギンの回避を意図した方向へ導くには充分。
 そして待ち構えるのはボクシングのごときファイティングポーズをとるクリスティーナ。
「ジャブを制する者は世界を制しますわ!」
「いや、あんた別にジャブで制するタイプの世界は目指してないよな?!」
 アサルトライフルを構えつつもクリスティーナに突っ込みを入れざるを得ないアナスタシア。何となく自分と似た匂いを感じていたのだが、そんな彼女も隙あらばボケる類の人間であるようだ。
「ワン・ツー!」
 肘を脇の下から離さぬ心構えでえぐり込む様に連打。そのうち一撃がサーバントをのけぞらせる。
 アナスタシアが同時に撃つが、こちらはかわされた。
「動くんじゃねえよ! 弾が外れるだろ!」


「びっくりするくらい良く当てる。いい連携だねえ」
「だが、当てるだけでは勝てまいよ」
 青年の言葉に少年がむしろ顔をしかめる。「開発者」なのに、彼はサーバントへの思い入れというものがほとんどない。
「こちらは攻めきれず、あちらも倒しきれず。この調子だと引き分けっぽいね」
 西に目を向けると、太陽は地平線へ今にもかかりそうになっている。
「もうすぐ時間だ」

 すでにタウントは効果が切れ、側面班にも攻撃は向かいつつある。それぞれ前衛に立つクリスティーナがシールドで、エリクシアが急所外しで対応しているが、危険水域に達しつつある。
 どうにか陣形を仕切り直した今回は、久しぶりに正面班へ攻撃が来た。
「ここは私が行くわ。って、やっぱりきついわね‥‥!」
 嘴の連打が重なり、一行の中では特にタフなチルルもちょっと危ないことになっている。代わりにフローラが前に出て攻撃を受け、乾坤網でダメージを軽減した。
「あたいを本気にさせたわね! もう容赦しないわ!」
 なかなか当たらず、それでも先ほど連携の中で一太刀食らわせたチルルだが、当てることを最優先した剣は装甲の硬さを突き抜けるには至らない。
 イライラしながらチルルは脚を狙って機動力を削ごうとするものの、ペンギンの短い脚は部位破壊を簡単に許すものではなかった。
「それにしても、弱点は何なのかしら」
 さっきチルルに斬りつけられて宙に浮いた時に、フローラは横からの攻撃ではダメージを与えにくいのかもと推測して上から叩きつけてみた。だがダメージとしては大差なかったようだ。
「あ、当たってください〜」
 さくらが射程の長い魔法の鞭・ダイヤモンドダストで攻撃するが、当たらない。
 翠月が当てられず、エリクシアの銃撃は当たったものの相変わらず軽微なダメージという印象。
 背後に位置したアナスタシアが陰陽道の技・吸魂符をアレンジしたルーンヌイ・スヴェートを発動する。
「月光の槍よ‥‥敵を射貫け!」
 しかしそれすらも、直撃する寸前でかわされてしまった。
「鳥目と言いますし、暗くなったらあまり見えなくなったりするのかしら‥‥」
 自身も攻撃をかわされたクリスティーナが呟く。
 と、それに答えるように、ペンギンが動いた。
 陽が暮れたら帰りますよ。
 そう言わんばかりに。
 敵である七人を無視し、背を向け、川へ向かってとことこと、のんびり歩く。
 あまりに予想外の行動に、一瞬固まる一同。
 だがそれは紛れもない好機。
 すぐさま攻撃に転じる七人の中、一番行動が早かったのはさくらだった。
「まだ終わりじゃない、です!」
 傷をおして、しかし精緻な鞭の一撃が放たれ、サーバントの背を打つ!
 それもまた、装甲を貫くほどではない軽い攻撃。
 けれども。
「‥‥あら?」
 動きの止まった敵にクリスティーナが不審の声を上げ。
 ペンギン型の奉仕種族はその場にくったりと倒れ伏した。
 あまりに拍子抜けの幕切れに言葉を失う一行の中、フローラが口を開く。
「もしかして、こいつの弱点って‥‥」


「生命力、さすがに低すぎたかな?」
 対岸で青年が肩を竦めた。
 相手の攻撃が当たってしまえば、防御力が高かろうとダメージは微量ながら蓄積していく。普通のサーバントなら無視できる損傷でも、生命力を低くする代わりに他の能力を高めた今回のサーバントには致命的だった。
「かわせれば良かったんだがあんなに当てられるとはね。少し見込みが甘かった」
 少年が別方向からも指摘する。
「まあ、撃退士相手だからこれだけ粘れたとも言えるがな。下級ディアボロには却って倒されやすかろうよ」
「そりゃまたどうして?」
「あの嘴の一突きを、一体がわざと食らいそのまま抱え込む。別の一体がそいつもろとも、装甲を貫けるような渾身の一撃をぶち当てる。それで終わりだ」
「なるほど、となると使いどころが見つからないな。じゃあやっぱり失敗だったということで、また次のを考えないとねえ」
 青年は簡単に言ってのけた。
「いや、改良すればそれなりに使えると思うぞ?」
「そういうの、面倒でね。君が作りたいならどうぞご自由に」
「我はその手の才はないのだがな。真似てももっと凡庸なものにしかならない」
 ぼやきながら少年は歩き出す。
「あれ、何か用事でも?」
「神器の件だ。メラクにも招集はかかっているだろう?」
 メラクと呼ばれた青年はどうでもいいとばかりに首を振る。
「ああ、あれね。僕は行かないよ。そんな暇があるなら次の技術開発だ」
「だろうな。お前を指揮系統に組み込んで喜ぶ奇特な上官もあるまいし、妥当な判断だ」


「エネミー、ダウン。クリア、ですね」
 サーバントが活動を完全に停止したことを確認し、エリクシアが皆に告げる。
「何はともあれ‥‥皆さん、お疲れさまでした」
 翠月が仲間を見回して礼儀正しく一礼。
「どうだ! あたいたちの勝利よ!」
 スキルで負傷を自力回復したチルルが、地に突っ伏したペンギンに勝利のポーズをしてみせる。
「‥‥でもなんでこんなのが出たんだろう?」
「そうですね‥‥こんなところに、しかも一体だけ」
 チルルと翠月が鏡合わせのように小首を傾げる。
「ゲートなどがあるわけでもありませんし‥‥何の目的だったのでしょう」
 周辺を念のために捜索したクリスティーナも疑問を呈す。
「この辺は天魔どちらの勢力圏からも離れてるわ。破壊活動目的でもなかったようだし、強いて推測すれば、撃退士たちとの戦闘が狙いとか? それにしても撃退士を殺すことが目標でもなかったようだし‥‥例えるなら新型機の実戦テスト?」
 フローラは首を捻る。
 囮として序盤の攻撃を一手に引き受けていたさくらに、アナスタシアが声をかけた。
「さくら、大丈夫か? 早く病院に行こうぜ」
「ご、ご心配おかけしてすみません‥‥」
 この期に及んで控えめな少女を支えながら、仲間たちに後を託してアナスタシアは歩き出す。
 夕焼けが夕闇に変わりゆく中、今回の戦闘について考える。貢献はできたと自負するが、反省点も多い。
 少女はそっと雪だるまの髪飾りに手に当てて。
「お姉ちゃん、もっと強くなるからね‥‥」
 誰にも聞こえぬよう、心の中で呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: エレメントマスター・水葉さくら(ja9860)
重体: −
面白かった!:5人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
エレメントマスター・
水葉さくら(ja9860)

大学部2年297組 女 ディバインナイト
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
ナイトブレイカー・
純白のエリクシア(jb0749)

大学部5年110組 女 インフィルトレイター
期待の撃退士・
アナスタシア・チェルノボグ(jb1102)

大学部9年195組 女 陰陽師
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師