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マスター:茶務夏
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/10


みんなの思い出



オープニング


「悪魔ってあんな大変なんだね」
 図書館から本を借りてきた八津華は、義父の穣二に言った。家に帰った際にちらりと様子を見たファズラ(jz0180)は、休憩のつもりなのかぼろきれのように床に転がっていて、今にも過労死しそうだ。
「元々手が遅ぇんだよ。魂を他の悪魔より多く抜き取るのも、強いディアボロを作るのも、どっちも手間かけてるからできることだってのに、質を保って数を増やそうとしたら、そりゃ時間を余計に費やすしかないわな」
「でもまだ足りなくて、ゲート結界が詰まりかけの排水口みたいなことになる、と」
 かつて義父が言っていた言葉を繰り返す。
「アバドンの結界が壊れてからは県境のディアボロ増強。みどり市が解放されてからはそっちとの境界も防衛線を厚くして、しかもそれがこっちと西の飛び地と二つ。おまけに前橋への増援も‥‥こりゃこなすのが土台無理だよな」
「そもそもどうして悪魔が市町村ごとに律儀に区分けしてるの?」
「知らんけど、あれじゃねえか? 下手に分配しても全員納得はさせられなくて揉めるから、元からの境界線をそのまま使う、とか」
「だとしたら、悪魔もずいぶん人間臭いね」

「沼田市も落ちたらしいぞよ。ろくでもない奴ではあったが、最後まで逃げずゲートを守ったらしい」
 豆腐を食べに来たファズラが、食べ終えるとしんみりした口調で言った。他の悪魔が使い魔で連絡でもしたのか。
「ともあれ切り替えねば。これで飛び地の北の防衛線も考えねばならなくなった‥‥いやいやいや、領域全土を気にかけているトゥラハウス様はもっと苦慮なさっておられるはず。これしきのことで泣き言を言うわけには‥‥」
「お嬢」
 穣二がやや強めに声を出す。ビクンとしたファズラは驚いたような目で穣二を見る。
「飛び地へ行くぞ。昨日買って来た薬を配給しなきゃならないし、収穫物を受け取りたい」
 みどり市を挟んだ桐生市の広大な飛び地。そちらにも住民と避難民がかなり生き残っている。ファズラは彼らに農業をさせることで、領地内の食料自給率を高めていた。
「しかし、わらわは」
「行くぞ」
 有無を言わせず、穣二はファズラの首根っこを掴む。八津華も後に従った。


「悪魔が倒されて、沼田市が解放されました!」
 君たちにスランセ(jz0152)がうれしそうに告げる。
「これで前橋市や渋川市、桐生市西の飛び地などの攻略がしやすくなると思います。ただ」
 言葉を区切ると真剣な顔で君たちを見た。
「それら境界の中央には赤城山の広い山麓があり、ここに新手のディアボロが出るという偵察報告があります。そこで、皆さんには赤城山の調査をしてほしいんです」


「面倒なことになっとるのう」
「すんません」
「いや、うぬの気遣いは、わかっとるので‥‥」
「え、何だって?」
「何でもないわ!」
 山下豆腐店の軽トラは、ガソリン満タンで西の飛び地の北西、赤城山山麓へ向かう。助手席にファズラ、荷台に八津華。秋晴れの空の下、八津華は大の字に寝そべって陽光を満喫しつつ、車内の会話を聞く。
 飛び地の住民代表に会った際に直訴されたのだ。赤城山の方から見たことのないディアボロが出て、住民たちをさらっていくと。
「赤城山は緩衝地帯ゆえどの勢力もディアボロを置くべからずとトゥラハウス様が決めたぞよ。それを破るとは‥‥」



「来た来た、待ってた甲斐があったぜ」
 山麓に向かう平原、瓦礫が点在する中に、一人の男が立っていた。よく見れば周囲には人型のディアボロが点在している。どうやら軽トラの動きは監視されていたらしい。
「ニスタリヤとか言ったか。後から召集されたからとて先駆者の資源を横取りするなど言語道断。この所業、トゥラハウス様に報告させてもらうぞ」
 窓をわずかに開けてファズラが言った。呼ばれた青年は、逆立てた金色の髪を振り乱して大笑する。
「何言ってんだお前。俺に指示なさったのがトゥラハウス様だよ!」
「!」
「人間を抱え込むだけ抱え込んで、収穫はちんたらしてるお前に、トゥラハウス様はお冠だ。前橋の防衛にディアボロも欲しいってことで、仕事の早い俺をご指名なさったって寸法よ。出くわしたら下剋上しても構わないと仰せだったぜ?」
 言葉と同時、周囲から数百体のディアボロが現れ、四方と上空から軽トラを取り囲もうとする。さらにニスタリヤの足元が盛り上がり、体長十メートルはある大ムカデが出現した。
「そんな‥‥いや、しかし、これほどの独断専行が見逃されるはずも‥‥」
 呆然とする准男爵をよそに、八津華は会話の最中に仕込んでおいた爆弾を爆発させた。三つの誘爆が後方のディアボロを残らず吹き飛ばして退却路ができる。
「どう見ても悪者だし、やっちゃっていいですよね?」
「てめえヴァニタスか? たった一人で何が――」
 前に出て、悪魔を巻き込んで八方奔雷! 魔法攻撃は少し自信がなかったが、雑魚は面白いように倒れていく。
「い、一撃で八十体近くだとぉ?!」
 せせら笑おうとしていたニスタリヤの声が裏返った。朦朧も入れたはずなのにと八津華は首を傾げるが、詮索よりも倒さねば。
 しかし。
「てめえらはそいつを抑え込め!」
 ニスタリヤは叫ぶと、自身は大ムカデの頭部に乗って軽トラを追い始めた。翼を出して追おうとする八津華だが、上空に雑魚が群がり飛行は困難。
 しかも軽トラはいつもよりスピードが出ていなかった。
「こんな時に不調?! とにかく、義父さん後は頼んだわよ!」


 近くで爆弾が炸裂し、猛烈な雷が走り抜ける。瞬く間に戦場のど真ん中に放り込まれ、瓦礫に隠れる君たちは肝を冷やす。
 八津華は周囲に敵しかいないと思って、範囲攻撃の大安売りをするつもりらしい。雑魚ディアボロのごとく一撃死とは行かなくとも、何発も食らっていい攻撃ではない。
 しかしこれは、彼女の能力を探る好機かもしれない。
 千々に乱れる思考の中、君は別グループのことも心配する。
 ファズラと新手の悪魔が向かった先にいるはずだが、大丈夫だろうか?


 荷台に召喚した黒豹が電撃を放つ。悪魔たちに当たったが、敵の動きは止まらず、逆に悪魔の放つ炎の矢に撃たれた黒豹は動きを止めて路面へ転がり落ちる。
「忘れておった‥‥あやつ、強くはないが状態異常にかなりの耐性があって、麻痺も朦朧もスタンも石化も睡眠も効かんぞよ。恐らくムカデも同じ耐性を付与されておる‥‥」
「マンモスとか出して力押しすればいいじゃないですか!」
「何を出しても麻痺されて通り過ぎられればそれまでぞよ。あのムカデ、微妙に足が速いから後ろから追いすがるのも難しい」
 ニスタリヤの放つ火箭が軽トラを襲う。ファズラの防護魔法によりそんなものはかすり傷だが、それでも追いつかれたらまずい。ディアボロの群れに嬲られて引きずり出されることだろう。
 ファズラが悩んでいると、後方のニスタリヤが両手にバス停の標識を抱えていた。
 それをこちらへ放り投げる!
 車体を越えて、前方の路面に突き立つ二本の標識。今の軽トラなら無視できたかもしれないが、穣二は人間の時の感覚で急ブレーキをかけてしまう。
 再発進の前にムカデが追いつくのは確実だった。


 君たちが身を潜めている方向へ、ファズラたちの乗る軽トラが突っ込んできて急停止した。その後ろに迫る、大ムカデと悪魔ニスタリヤ。
 八津華の近くにいるはずの別グループも心配だが、まずは目の前の問題にどう対処するかを決めなければなるまい。


リプレイ本文


(私も下手したらこうなってたんだよね)
 自身の一撃で簡単に吹き飛ぶディアボロたちを眺めて、八津華は感慨に耽る。ヴァニタスとディアボロ、あるいは今なお生きる人との差を分けたのは、たぶん些細な運。
 かぶりを振り、また雷を放った。



「ディアボロ対ヴァニタス?!」
 目の前の光景に、松永 聖(ja4988)は驚きを隠せない。
「見事な無双だな‥‥」
 派手な立ち回りに感心するのは桝本 侑吾(ja8758)。
「八津華嬢に加勢しようと思いますが、いかがですか?」
「どちらも敵に回してはこの窮地を脱せない、ということでしょうか」
 オーデン・ソル・キャドー(jb2706)の提案に夏野 雪(ja6883)が問う。四人が隠れている瓦礫がまだ無事なのは、奇跡とすら言えた。
「悪魔たちが向かった先には翡翠殿たちがいるはずです。彼らの救援も急ぎたいですしね」
「さっきの話を聞いた限りじゃ、あの三流悪魔がもし悪魔のお嬢さんに成り代わったら、桐生市の生き残りがたちまちみんなディアボロにされそうだしな」
「とりあえずは好戦的な方を相手取るわよっ! 何だか気に食わないしね」
 侑吾と聖はすぐ賛同し、黙考して雪も肯いた。
「敵の敵は‥‥どちらであろうと構いませんね。交渉はお任せします」



「おーい」
「とうっ!」
「あ」
 爆弾を炸裂させた直後の八津華に侑吾が声をかけ、少女の真ん前に翼を生やしたオーデンが現れる。翼はともかく、マスクはまだ微妙に慣れない。
「おおっ、これは偶然ですね、八津華嬢ではありませんか」
「お、お久しぶりです」
「ああ、引かないでくださいよ? おでんマスクは私の愛情表現なのです。そう、おでんへの愛は出汁の旨味の如く深いのですよ」
「お、おでん、好きなんですね」
 群がる雑魚を雷で蹴散らすが、面識のあるオーデンや侑吾は識別する。オーデンも封砲で雑魚を退治。
「覚えてるかな、って名前教えたっけ? 桝本侑吾」
 大剣を振るいながら、八津華の隣に立った侑吾が名乗った。
「この間の礼もあるし、俺たちも手伝うよ」
「お礼のために赤城山まで来て隠れてたの?」
「いたんだからしかたない。俺たちも仕事なんでね」
「ゆっくりお話したいところですが、別の仲間が悪魔と出くわしそうでしてね。すぐ行きたいものの、お嬢さんを残して行くのも気が引けます。早く終わらせるため、少々お手伝いしたいのですよ」
「微妙に恩着せがましいなあ」
 ぼやきながらも、敵対の気配はない。侑吾の合図で、聖と雪も合流した。
「べ、別に助けたくて助けるんじゃないんだからねッ!」
 聖が髪をなびかせて走り、闘気解放による素早い動きで回避。空飛ぶ敵には交響珠や鎖鎌で挑む。
 八津華は思わず訊ねていた。
「ツンデレさん?」
「デ、デレてなんていないし!」
(何だか‥‥敵って気がしないなあ。普通の小学生って感じ)
 もしこの子がピンチの時は庇ってしまいそう、そんな風に聖は考える。
「夏野雪。参ります!」
 背に盾を負う雪は、ヴァルキリージャベリンや流星で攻撃しつつ回復もこなす。敵の攻撃は魔具のプロスボレーシールドで防御。
「その背中の盾は使わないの?」
「天魔には効かぬので。しかし一族の誇りゆえ持ち歩いています」
「なるほど。かっこいいですね!」
 感嘆した様子の八津華はただの一般人のようで、雪は少し調子が狂う。
(‥‥余裕の違いもあるのでしょうね)
 回避能力が異様に高い。撃退士たちがかわしきれない攻撃を、見たところ一度も受けていない。
 肩を並べて戦いつつ、情報収集にと八津華を観察していた侑吾も密かに舌を巻く。
 この雑魚は、回避は楽だし当たっても軽傷。しかし生命力は低めながら、撃退士たちが一撃で倒せるほどではない。
 だが八津華の範囲攻撃は、命中すれば必ず落とす。ファズラ製ディアボロに近い技と見当はつくが、瞬殺なので特殊効果までは定かでない。
「おでんさん、そこどいて!」
 空へ上昇する八津華に雑魚も続く。追おうとしたオーデンが、声をかけられ退避。
 反転した少女の口から咆哮が放たれ、六メートルの立方体エリアに入っていた雑魚が跡形もなく消え失せた。
「妙な展開になりましたが、貴女の力量を知っておくのは無駄ではないでしょう」
 オーデンも静かに目を凝らす。



 残り少ない敵を倒しつつ侑吾が言う。
「終わったら、悪魔のお嬢さんのところに行くんだろ? 同行するよ」
「それは無理。全力で飛ぶから」
「では『ここは俺たちに任せて先に行け』といきましょうか。ただその前に」
 オーデンは問うた。
「貴女は何かを考えながら戦っているようですね」
「え?」
「敵をどう縊り殺すか悩んでるのですか? それとも戦う理由、とかでしょうか」
「‥‥前者はなし。理由はファズラさんのため、てのは割り切ってるんだけど」
 しばし、言葉を切る。
「小さい頃は撃退士に憧れてたのに、私がやってること、桐生市で生き残ってる人からすればどう見ても悪の手先で‥‥ングッ?!」
 侑吾は八津華の口に飴玉を放る。口が塞がり目を丸くする少女に言う。
「今やってることは、桐生市の生き残りを守る行為なんじゃないか?」
 何ヴァニタスを励ましてるんだと内心で苦笑しつつ。


 光信機を通じて、悪魔らの会話はこちらの六人も聞いていた。
 ゆえに軽トラ急停止後の動きは早く、すぐ飛び出すと軽トラを庇うようにムカデの前に立つ。
「まァ、邪魔な連中は叩き潰すだけよねェ」
 機先を制した黒百合(ja0422)は得物を持ち替え、問答無用でムカデの頭部ごとニスタリヤを散弾で撃った。
「何だてめえら‥‥痛ェ!?」
 物理に弱い悪魔にはいきなり痛いダメージ。
「自分はキイ・ローランド(jb5908)。君は?」
 軽トラは仲間に任せ、年若いディバインナイトはムカデの前に立つと悪魔に訊ねた。
「ああン? 撃退士の小僧なんざに名乗る意味があるか!」
「なるほど、無名な悪魔。語る名もないほど下っ端か」
「ッ、ふざけんな!」
 タウントこそ無効だったものの、言葉の挑発は簡単に効く。

 軽トラの運転席側にはクリフ・ロジャーズ(jb2560)、助手席側には翡翠 龍斗(ja7594)が近寄る。
「あー、クリフさんか」
「何簡単に窓開けてるぞよ!?」
「このままだとあの悪魔にいいようにされそうですし、共同戦線を張りませんか?」
 穣二に軽く礼をすると、クリフは話を持ち掛ける。
「人間やはぐれと助け合えと?」
「奴らに追われているお前たちは、主に切り捨てられたのではないか? ならば、互いに生き残るため協力するのは悪い話でないはずだ」
 渋るファズラに、龍斗も交渉を図る。
「俺たちを、学園を利用しろ。当面は保護という扱いになろうが、反攻作戦が発令されればお前たちは主の元へ無傷で辿り着けるだろう」
 話を聞くうち、ファズラから力が抜ける。この金髪朱眼の優男、ファズラを使い魔か何かと勘違いしているらしい。一地域を預かる准男爵が、飼い主に捨てられたペット扱い!
 怒りは湧かない。ニスタリヤの言に続いてのこの扱い、ただ己の矮小さを痛感させられる。
「ここからは、お願いだ」
 だから、声の調子が変わったことに驚いた。
「今を生きるために、手を貸してくれ」
 龍斗は頭を下げる。そこには相手を尊重する誠実な意思があった。
「ここで下剋上されたら、あなたも桐生市の人たちもただでは済みません。利害は一致してますし、今だけ手を組みましょう」
 クリフも真摯に言う。
「ぶっちゃけると。こんなろくでもない横槍と裏切りで、あなたたちを潰されたくないというのもあるんですけどね」
 たぶん、本音。逸らしたファズラの視線は穣二と合った。豆腐屋も首を縦に振る。
「‥‥わらわたちは、車を降りるつもりはない」
 今もかけ続けている防護魔法が最大の命綱。それを手放せるほど愚かにはなれない。
「いいですよ。代わりにディアボロを召喚してくれませんか。負担なら無理しなくてもいいですが」
「一体ぐらいは造作もない。‥‥彼奴らの攻撃を引き受けて、かわせるかと思う」
 荷台に白虎を出現させた。
「強力な援軍だ。手を出すなよ」
 龍斗が仲間に声をかけつつ「静動覇陣」を使う。クリフはヘルゴート。
 ファズラはニスタリヤの特徴を伝えた。

「これは言わば悪魔との取引かの?」
 鍔崎 美薙(ja0028)は愉快そうに笑う。ファズラらとは何の因縁もないが、今は最善を目指したい。
 白虎が気を惹くように敵を襲う。しかし悪魔は癒しの風で自身とムカデの傷を癒やすと空へ、ムカデにはキイを襲わせた。
 無数の肢を蠢かして迫る巨大ムカデが牙を剥く。キイの傷は軽いが、朦朧としてしまう。
「ムカデであれば、毒は当然か」
 美薙は龍斗に聖なる刻印。
 その傍で紅葉 公(ja2931)はムカデの頭にライトニング。ファズラによればバッドステータスが効かないらしい。真っ向勝負で、折を見て味方との連携を活かすしかないだろう。
「それにしても、どうしてこういう状況になっているのでしょうか」
 侵略しに来て仲間割れとはおかしなものだ。



「さっきはよくも!」
 ニスタリヤが黒百合に火矢を撃つ。しかし狙いは甘い。
「空蝉使うまでもないわねェ」
「お前という悪夢を断つ」
 龍斗はムカデの横合いに回り込むと鬼神一閃。ブロウクンナックルが硬い外殻を打ち砕く。頭部を挟み龍斗と反対側に回ったクリフは魔法攻撃。まだ沈みそうにはない。
「飛べば届かないと思ったァ? 残念でしたァ」
「合わせます!」
 空へ向けて黒百合が撃ち、公がタイミングを揃えて翼へ狙い澄ましたライトニング! ニスタリヤは散弾の雨に打たれると同時に、翼に電撃を受けて損傷する。
「まとめて潰せ!」
 ムカデが長大な図体で撃退士を押し潰しにかかる。まずは隣接する龍斗。
「龍斗さん!」
 しかしクリフのナイトアンセムが彼の身を包み、回避!
 ムカデは弧を描くように動き次に黒百合を目指すが、これも空蝉いらず。
「さあ、反撃開始といこうか」
 回復したキイがヴォーゲンシールドで攻め、美薙はクリフに刻印。



「こっちの方が面倒かしらァ」
 大鎌に再度持ち替えた黒百合がムカデに放つは「爛れた愚者の御手」。頭部を貫通した直線の一撃は、尾にも当たって吹き飛ばす!
 身をくねらせるムカデへ白虎がこれ見よがしに攻撃。そちらへ噛みつきにかかるが、スキル「残像」により完全回避。
「何勝手に動いてやがる!」
 空で喚くニスタリヤを、公のライトニングが襲う。反撃の火矢を回避。
 スキルの再使用や切り替え。ムカデへ攻撃を重ねるが倒れない。



 黒百合と龍斗の攻撃が決まり、ムカデの胴がさらに短くなる。ニスタリヤは歯軋りし、地表近くに降りて己と配下を癒やす。
「待ってましたよ」
 そこを狙うはクリフのファイアワークス。敵をまとめて焼きにかかる。
「くそったれ!」
 悪魔はムカデに、かわしづらそうな相手を襲わせた。公と美薙が胴体の下に潰されて身動きが取れなくなる。キイや白虎が攻撃するがまだムカデは落ちない。
「お嬢、ちっと出ます」
「な?!」
 穣二が車から降りると、手の中にバットを出してムカデに詰め寄りぶん殴った。身を震わせると動かなくなる。
「助かりました!」
 クリフたちが礼を言いながら二人を救出する。



 黒百合が悪魔の直下へ移動し射程に収めると、口からアウルを放つ。強烈な威力の「破軍の咆哮」は、手駒を失った悪魔を敗走させるに充分すぎた。
「覚えてやがれ!」
 一目散に逃げたいが翼が痛む。回復してからやや上昇。もう一、二発なら食らっても。
 そんな思惑は、予想していなかった上空からの一撃に砕かれる。
「いっけえ!!」
 全力飛行で合流した八津華。振りかぶった金棒のフルスイングが脳天を直撃し、地表に叩きつけて脱出不能なほどの深い穴を穿つ。
 その後は単なる作業だった。


「龍斗さま、ご無事で何よりです」
「雪こそ、大きな怪我がなくてよかった」
 恋人たちは互いの無事に安堵する。
 だが二人の世界に入る前に、龍斗は車の助手席から出ないファズラに提案した。
「学園に来るなら、今回の件を報告し悪い扱いにならないようにする。来なくてもしかたないが‥‥せめて、少しでいい、情報をくれないか?」
「立場もあろうし、今寝返るのは難しいじゃろう」
 美薙が口を挟む。
「それでも、そなた等と共闘ができたこと、何よりの成果と思うがの」
 美薙の快活な言葉に、准男爵は顔を背けつつも、ぽつりと言った。
「わらわと八津華たちは、県庁への招集には応じん」
 自分の問いへの回答と知り、龍斗は頭を下げた。ふと軽トラの文字を見て、さらに話しかける。
「お前豆腐が好きだったりするか?」
「‥‥嫌いではない」
「もし気が変わって学園に来たら、何件か紹介するさ。そちらの親父さんの作るのが好きだというなら強制はしないがね」

「な、何で顔変わってるの‥‥」
「戦闘で汚れましたのでね。紳士のたしなみです」
 玉子マスクに替えたオーデンは、がんもどきマスクを弄びながら、穣二とその陰に隠れる八津華に話しかける。
「いつか穣二殿の作ったがんもどきを食べてみたいものですね」
「お、お待ちしてます」
「あの悪魔のお嬢さん絡みは本当に賑やかだ」
 やり取りを見て侑吾は苦笑した。

「これからどうします」
 クリフがファズラへ窓越しに訊ねた。黙る相手に重ねて問う。
「准男爵ファズラ。あなたも悪魔ならわかっているはずだ。これは何かの間違いではなく、トゥラハウスの故意。あなたは下剋上されても構わないなどと言い捨てる者に、これからも忠義を尽くせますか?」
「非力なわらわを引き立ててくださったのはあの方ぞ。‥‥義理は果たす」
 その目はすでに何らかの決意を固めているようだ。
「桐生市は好きですか?」
 最後にクリフは訊いた。ファズラがどう思っているか知りたかった。
「うぬは鶏小屋に何かを思うか?」
 それを耳に挟んだ聖は気色ばみ、公は沈んだ顔になり、キイはそんなものかと受け流し、黒百合は笑い。
 クリフは、なおも見つめ続けて待った。
 沈黙の中、ファズラは絞り出すように言った。
「‥‥鶏の鳴き声とでも思わねば、やってられぬ」
 それは、とても弱々しい呟き。人を資源と信じて疑わないなら、出るはずのない声音。
 准男爵はクリフから顔を背けヴァニタスに呼びかける。
「穣二、八津華、帰るぞよ! まずは飛び地に引き返し、」
 ファズラは「大声で」穣二と八津華に以後の行動を語ると去っていった。



 その夜、桐生市飛び地内にいた大量のディアボロは二手に分かれて動き出した。

 一方は、収穫された食材を背負い、桐生市と飛び地に挟まれたみどり市の狭い領域を一気に走り抜け、桐生市に入り込むと飛び地へは帰らない。

 前橋市及び伊勢崎市との境界に着いたもう一方は、ただひたすら境界を守った。
 まるで、人を悪魔の、悪魔を人の、領域へ攻め込ませぬように。
 ディアボロの去った飛び地は、すぐさま適切に対処した撃退士たちが奪還し、領域内にいた大勢の一般人は無事救出された。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 優しき魔法使い・紅葉 公(ja2931)
 盾と歩む修羅・翡翠 龍斗(ja7594)
 天と魔と人を繋ぐ・クリフ・ロジャーズ(jb2560)
 おでんの人(ちょっと変)・オーデン・ソル・キャドー(jb2706)
重体: −
面白かった!:7人

命掬びし巫女・
鍔崎 美薙(ja0028)

大学部4年7組 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト