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マスター:茶務夏
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:9人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/02


みんなの思い出



オープニング


 ファズラ(jz0180)は、その夜最後の巡回に出ていた。
 自身は象型ディアボロの背に乗り、周囲には案山子めいた雑役用ディアボロを数体従える。
「止まるぞよ」
 ある一軒家の前で象を止める。おからや乾パンや缶詰などを手にした案山子たちを従えて、中に入る。
 住んでいるのは、子供二人に中年男女二人、そして老爺一人だ。
 居間、と呼ぶらしい部屋のソファに、ぼんやりと座る四人。それらの前に案山子が餌を置いて行くと、のろのろとした手つきで食べ始める。まだ自力で動けるのだから、これらは放置しておいて良い。
 問題は、ここにいない一人。
 奥の、畳が敷かれた部屋。布団に寝そべり、虚ろに宙を眺める老人。いい具合に魂が抜けかけている。
 収穫の時だ。
 老人を案山子に担がせて、ファズラは引き返す。
 と、他の家人たちとすれ違おうとしていた案山子の動きが止まった。
 老人の着ている服の裾を、小さな女児がひしと掴んでいる。
 生気の欠けた、まともな判断力などとうに失われている目で、しかし、老人のことをじっと見つめている。
 ファズラは服のポケットから鋏を取り出すと、裾を大きく切り取った。女児はそのまま力なく腕を垂らし、案山子は改めて老人の移送を始める。
 こんな経験は初めてではない。無理矢理引き剥がして老人か孫を怪我させたら、その分ファズラの収穫量がわずかとは言え減ってしまう。それが何より耐えられない。
 家を出ると、東の空がかすかに白くなっていた。

 ゲート近くの病院。その中の安置所に、今日の収穫物である合計四人が横たわる。
 ファズラは各人の顔に白い布をかける。
 それが終わると、両手を合わせて言った。
「いただきます、ぞよ」
 この国の挨拶。己が食らう生き物への敬意と感謝の念を表するというこの言葉を、ファズラはなかなか気に入っている。
 そして作業を開始した。

 ファズラの家系に長く伝わる技、魂を限界まで搾り取るための技術を駆使する。この一手間をかけるかかけないかで、同じ数の人間を利用しても、最終的なエネルギー収穫量はかなり違ってくる。
 没落貴族の出で戦闘は苦手な自分が、武を誇りがちなこの一軍の中で、准男爵の地位を得られるくらいには。
 完遂するとともに、四人の肉体から魂が飛び出してゲートへ飛んで行った。ファズラは一息つく。これで今日のノルマは果たし、仕事は終了。
 ここからは、実益も兼ねた趣味の時間。
 すでにディアボロへ変容している四体をどう改良してやるか、ファズラは唇を舐めつつ思案し始めた。



 豆腐屋の近所のスーパー、その冷凍室から山下穣二は抜け出すと、きっちり扉を閉める。透過能力を使えばこんなことをする必要もないのだが、あれは自分が人間でないことを自覚させられる能力なので、あまりやりたくない。
 日課を終えて、店に戻り、穣二は豆腐を作る。
 作り終わった後、ちょうど戻ってきたファズラに穣二は豆腐を差し出した。
「うむ、今日もうまいぞよ!」
「はあ」
 穣二の生返事は気にせず、上機嫌なファズラは言う。
「今日は、ディアボロを撃退士どもにけしかけてくるぞよ」
「‥‥いつもと言い方が違いますね」
「今回のは、明白な力不足や欠陥品ではないぞよ。実戦経験を積ませたいぞよ」
 そしてファズラは楽しげに、新しく作ったディアボロの説明を始める。
「ゆえに、おぬしにも仕事があるぞよ。もし倒された場合は‥‥」
 話を聞かされ、穣二は顔をしかめる。
「俺の仕事は豆腐を作ること、ですよね? そんなことやって腕が千切れたりとか酷い怪我したら本業ができなくなると思うんですが」
「わらわのヴァニタスは今のところおぬしだけだからしかたないぞよ。こういう仕事を任せる二体目が欲しいなら、戦闘特化型として作ってやるぞよ?」
「いや、そんなの話が違うだろ!?」
「口のきき方に気をつけるぞよ」
「‥‥それは、勘弁してください。俺が行きます」


「栃木西部でディアボロが出たとの匿名通報がありました。ライオン型が一体と、禿鷹型が八体だそうです」
 スランセ(jz0152)が、集まった一行に説明する。
「皆さんが第一陣ということで、二種類のディアボロがどんな能力を持っているかわかりません。匿名通報で場所も近いということで、この前の山下と名乗るヴァニタスがまた関わっているのかもしれません。どうか気をつけてください」

 現場は、雑木林にほど近い空地。午後の曇り空の下、まるで撃退士たちを待ち構えていたかのように、一体の獣と八体の鳥がそこにいた。姿形はモデルの動物と変わらないが、動物ではありえない一団の統率ぶりが、天魔のしもべであることをはっきりさせていた。
 特に目を惹いたのはライオン型ディアボロだ。
 両目を瞑り、しかし迷いない足取りで、こちらへ向かって来た。


リプレイ本文


「あれ? 意外に弱い?」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)の「Spirale di Petali」が、最初に無造作に近づいてきた禿鷹を捉えると、螺旋を描く花弁が朦朧状態に陥らせ動きを止めるどころか、そのまま倒してしまった。
 だがディアボロたちは怯む様子もなく、次々押し出してくる。
 中央の獅子がこちらへ向かって来たのを見て、ソフィア同様後衛の黒百合(ja0422)も動いた。
「一体だけ別個体を入れるなんてェ‥‥何かありますよ! 注意して下さい! て言ってるようなものじゃないのさァ♪」
 今回の彼女の役割は、スナイパーライフルによる狙撃手。目を瞑ったまま進み来る獅子をスコープに捉えると、躊躇なく引き金を引く。
 と、近くにいた禿鷹の一体が獅子を庇った。アウルの弾丸に貫かれ、これも簡単に動きを止める。その屍を踏み越え、獅子は悠然と近づいて来る。
「ずいぶん統率が取れてるみたいだね」
 ソフィアの呟きにクラウディア フレイム(jb2621)が応じる。
「最近やったことのある、げえむ、とやらでの定番では、あの獅子は位置取りからみて指揮官スキル持ちと見えるのう。例えば特定の命令を出せるとか、そばにいるだけで能力強化とか」
 クラウディアは、堕天後にロボットシミュレーションを嗜んでいる模様。ゲーム内のパイロットスキルなどを参考に獅子の役割を類推する。
「どんな能力かはっきりわからないのが厄介ではあるけど、戦いながら探っていくしかないか」
「空を飛ぶだけでも面倒ですが、他にも何かあるかもしれませんしね」
 ソフィアが応え、別の禿鷹への攻撃を外したクリフ・ロジャーズ(jb2560)が会話に加わる。
(スランセさんも言ってたけれど、俺も通報者は穣二さんだと思うしな)
 その場合、禿鷹もただの雑魚ではあるまい。彼の主である悪魔は、変なディアボロを作る。
「まあ、空には空じゃろう」
 ということで、今回の一行九人中五人を占めるはぐれ天魔のうち、四人はあらかじめ飛行能力を発動させ、禿鷹よりも高い高度を取っていた。
「囮になるので射撃組はしっかり狙い撃つのじゃぞ。わらわに当てたら罰として高級な酒を所望じゃ!」
 酒を愛する堕天使は、幼い容姿で豪快に笑った。
「おー‥‥旅で行った、サバンナを思い出す感じなのだ!」
 フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は陽気に言いつつ、青いアウルでスノーボードを形成。それに乗った彼女はとてつもない移動力を活かして移動、敵陣を大きく迂回し回り込む。獅子はそちらへ少し顔を向けたが、正面の一行に向き直り、呼応するように残る禿鷹も前進を始めた。
 アサルトライフルでメレク(jb2528)が、破魔弓でティア・ウィンスター(jb4158)が、同じ禿鷹に狙いを定めたが、どちらも紙一重でかわされてしまい、堕天使二人は手早く意見を交わす。
「生命力が低いだけで、能力的には標準的なディアボロと大差ないという感じでしょうか」
「だとすると、数の多さが恐ろしいが‥‥」
 ティアの言葉が途中で止まる。
 禿鷹の一体が、獅子を庇い黒百合に撃ち落とされた禿鷹の死体を丸呑みにしていた。
 その直後、そのディアボロは体を一回り大きくする。
「死肉を貪る‥‥醜悪な!」
「大きくなったのは、パワーアップということかな? 共食いで強くなるとは、悪趣味かつますます厄介だね」
 吐き捨てるように呟くティアにソフィアが返す。
「迂闊に倒せば別の個体にそれを食われて強化の材料にされるということか」
 シィタ・クイーン(ja5938)が剣をマシンガンに持ち替えて連射。
「‥‥‥‥」
 闇の翼で飛翔するはぐれ悪魔のヴォルガ(jb3968)が上空から、シィタの攻撃をかわしたばかりの禿鷹に斬りつけるがかわされる。
「じゃが、全軍でこちらに向かって来る以上、応戦しないという選択肢もあるまい」
 クラウディアが機械剣で彼らの作った隙を突き、大きな傷をつける。

 続くソフィアの雷霆の書による攻撃はかわされた。
「また庇われるかもしれないけどォ、それはそれで一匹減らせるってところかしらァ?」
 黒百合の読みは当たり、近くの禿鷹が獅子への狙撃を再びカバー。
「これでどうなのだ!?」
 背後に回り込んだフラッペがリボルバーで獅子近くの別の禿鷹を狙ったが、後ろに目があるごとく回避される。それらの光景を見てクリフはふと思う。
「もしかすると、あれもライオンの特殊能力でしょうか‥‥」
「目が利かぬゆえに却って知覚が発達というのもよくある話じゃな。そして周りを飛ぶあれらはさしずめライオンの漏斗(ファンネル)かの?」
 クラウディアの推量が正しければ、獅子と禿鷹たちは、別個の個体というよりは獅子とその付属ユニットと考えるべきか。
「とにかく、動きを止められないかやってみます」
 地上にいる中では唯一人、敵群に突出する勢いで前に出て放つ、氷の夜想曲。クリフを中心に、睡魔を伴う冷気が広がり、獅子と二体の禿鷹を襲った。
 と、意外な事態が起きた。
 獅子の動きがまごついて、回避どころではない。禿鷹二体も、フリーズしたようにその場に留まり、いずれも易々と冷気に包まれていく。
 睡眠こそ抵抗されたが、先ほどクラウディアが攻撃した禿鷹を落とし、もう一体と獅子にもダメージ。
「これは‥‥」


「昔捨てたディアボロ連中よりひどい欠点じゃないか?」
 やや離れた茂みに隠れているヴァニタスは、つい独りごちる。
「だからこそ、お嬢も最初から死体の回収とか言ったのかもなあ」
 回収して再改造すれば、今回の経験を踏まえてより賢くなるのだとか、そんなことを言っていたが。
「それにしても‥‥あれ、コスプレか?」
 ヴォルガの、骸骨剣士のような姿には動揺を隠せない。冥界出身の悪魔なら、あるいはあんな姿もありうるのだろうか。
 ともあれ、穣二は戦況を観察し続ける。
 今飛び出した悪魔の兄ちゃんは、この前の豹の時にも来ていて話相手になってくれたな、などと考えながら。


「範囲攻撃には弱いってことかな?」
「処理落ちという奴かのう」
 ソフィアとクラウディアが推測する。思考が一つ、攻撃に対応すべき体が三つ、ゆえに反応が鈍ったか。
「どうやら糸口は見つかったけど‥‥」
 ソフィアが範囲攻撃「Fiamma Solare」の準備をするうちにも事態は進む。
 先ほどクリフに傷を負わされた禿鷹が、ソフィアの撃ち落とした屍を食べる。すると大きくなったばかりか、全身の傷もきれいに消えてしまった。
 そして奥では、こちらへ向かっていた禿鷹が、わざわざ引き返してまで黒百合に落とされた屍を貪る。
「倒しかけていても、死骸を食われれば回復ということか」
「そして死骸の捕食は、こちらへの攻撃よりも優先される強化策なのでしょう」
 ティアに答えたメレクが、近くで屍を食い終えた直後の個体を撃つが、外してしまう。シィタの追撃が当てたが、生命力が増したか大した痛手にはならない。
 ティアやクラウディアら飛行班は、狙われることを厭わず動き、献身的に仲間の盾になろうとしている。
 しかし獅子に操られる禿鷹たちは、それとは別の論理で動かされていた。
 最初に巨大化した禿鷹が、クラウディアやメレクら滞空している前衛を無視し、一旦降下するとクリフを襲った。先ほどの範囲攻撃で獅子の怒りを買ったゆえか。
「くっ!」
 軽くないダメージ。やはり能力的には侮れない。
「禿鷹の処分はなんとかしようぞ。お主らが頭となる獅子を潰せれば、勝機も見えてこよう!」
 地上班に呼びかけつつ、クラウディアが剣を振るい、先ほど傷をつけた禿鷹への集中攻撃を仕掛ける。
「空は貴方たちだけのものではありません!」
 ティアの矢は外れたが、回避したところを狙っていたかのようにヴォルガが一太刀浴びせる。

「行くよ!!」
 ソフィアのFiamma Solareが炸裂、獅子と周囲の三体を、太陽のごとき光が襲う!
 ダメージを受けていた巨大化個体と、共食いしていなかった個体が地に落ち、もう一体の巨大化個体と獅子もかなりのダメージを受ける。
 ただ、その一体はすぐさま、巨大化していた屍を食って、今度は人間並みに巨大化。挙げ句、傷も回復。
「これ以上死骸を食わせちゃ駄目だね」
「なら、これでどうだろうか」
 ソフィアにシィタが応じ、マシンガンの連射を、食われなかった小さい屍へ。機関銃から吐き出されたアウルの弾丸が、捕食不可能なまでに破壊する。
 これで残る禿鷹は、都合三体分を食った個体と、撃退士から見てやや奥にいる一体分を食った個体。死骸は少し離れたところにあるクリフの仕留めた一体。
「そろそろ肉の盾もなくなってきたみたいねェ?」
 行動直後の禿鷹を動かす術まではないらしく、黒百合の銃弾がついに獅子を捉えた。連続攻撃とはいかなかったが、敵は激痛に身をよじらせる。
 直後、フラッペが奥の巨大化個体へ銃撃、今回は見事命中した。
 クリフは戦場を見渡す。手前の獅子と人間大の禿鷹、そして奥の禿鷹。残る三体の敵は範囲攻撃の射界にすべて収められる。
 本来なら後衛へ下がりたい負傷。しかし範囲攻撃は今回特に有効な手であり、もし睡眠に陥らせられれば一気に勝てる。
「眠らせます!」
 クリフはさらに前へ出て、二度目の氷の夜想曲を放った!
 冷気が周囲を包み、奥の禿鷹は狙い通り眠りに陥ってぽとりと落ちる。
 だが、獅子は眠りに就かなかった上、直後に反撃。
 クリフに突き出してくる爪。回避も及ばず斬り裂かれ、意識が刈り取られた。


「おいおい兄ちゃん、大丈夫かよ‥‥」
 穣二は思わず口走る。
 戦闘でディアボロがどれだけ倒されても気にならなかったのに、撃退士側が倒れるのを実際に見るのはこれが初めてで、ひどく動揺させられていた。


 メレクはクリフの横に降り立ちつつ、眠らされた禿鷹をアサルトライフルで確実に処理する。しかし、唯一生き残っている巨大禿鷹にこれを食われたら台無しだ。倒すか、死骸を破壊するか。
「ここで全滅させるがよかろう! あちらの小さい死骸を食われても面倒じゃ!」
「そうですね、長引くほどこちらに不利となる‥‥!」
「私も同意する」
 クラウディアが斬りかかる。空を薙ぐが、後続のティアが苛烈に射掛け、ヴォルガがクラウディアらとの包囲状態を利用して着実に斬りつけ、ダメージを積み重ねていく。
 しかし巨体はまだ落ちそうにない。

 黒百合は、戦況を素早く観察した。
 タイミング的に、獅子も最後の禿鷹も動きが早い。今、先手を取れそうなのは、自分とソフィアくらいか。さらに、獅子はまだすぐに倒せそうにない。
 ならば自分が禿鷹を落とし、ソフィアのSpirale di Petaliで獅子を朦朧状態にしてもらえれば、綱渡り気味だが、まだ気を失っているクリフへの追撃は避けられる。
 仲間があの禿鷹へ与えたダメージ、自分が与えられるダメージ、累積でだいたい四体分ほどになるはず。
 瞬間的に判断し、黒百合は銃口を空の標的へ。
 確かに射抜き、期待通りの手応えがあり、しかし、禿鷹はまだ力尽きなかった。あの屍食いは単純な加算よりもさらに生命力を増していたのかと推測するが、少し遅い。
「‥‥まずったかしらァ」
 禿鷹をこれ以上回復させるわけにいかない以上、ソフィアはFiamma Solareを使う他ない。灼熱がようやくすべての禿鷹を滅ぼす。
 だが、焼かれ怒り狂う獅子は、まだ生きている。
 手近な標的であるクリフに向かう。メレクが庇おうとするが、それを回り込んで回避し、横たわるクリフへ、口を開けて凶悪な牙を剥き出しにし――


(止まれ!)


 獅子の動きが、急ブレーキのかかったように止まる。不自然な挙動。
 その好機を見逃さず、槍に持ち替えたティアが突く。さらにフラッペが、クラウディアが、ヴォルガが襲う。
 最後にメレクの銃撃が顔面に炸裂すると、白く濁った眼球を大きく見開いて絶命した。


「ご迷惑をおかけしました」
「いや、勝利に大きく貢献したと思う」
 気絶から回復したクリフが謝ろうとすると、シィタが制した。
「ふぅっ‥‥今回も中々、HardなRunだったのだ!」
 フラッペが息をつくと、前回の依頼で受けて回復していなかった傷が痛んだ。もし敵に群がられていたら危なかったかもしれない。
「片づけるとしましょう」
「手伝おう」
 メレクが準備しておいたシートでディアボロの死体を包んでいく。ヴォルガもそれに加わった。
 一方、はぐれであっても悪魔に隔意を抱くティアは、クリフやヴォルガを避けるように一人で再度空に浮かんだ。
「基本的にあの獅子が指揮を担っていたのでしょうが‥‥」
 最後の動きは説明がつかない。ヴァニタス級の敵が潜んでいないかと考え、空から探す。


「やっぱ俺、ヴァニタスとか向いてないんだろうな」
 そもそもヴァニタス向きの人間が、あまりいるとも思えないが。
 穣二はついさっきの自分の行為を思い出す。
 はぐれ悪魔に襲いかかろうとした獅子を、強制的に止めてしまった。どの道負けてはいたろうが、これは悪魔に対する一種の背信ではあろう。
「ごまかすしかないけどよ」
 ファズラには少なくとももうしばらくは、うまく頼り続けないとならないのだ。
 そのためには、獅子の死体回収を果たしたいのだが‥‥。
「丁寧に片づけちゃってるよ、おい」
 彼らが去った後に獅子を拾って撤退と考えていたのに、メレクたちの姿にその気も萎える。無理矢理突っ込んで奪うのもありかもしれないが、どうしたものか。
 悩みながら空を見上げ、天使の少女と目が合った。


「ヴァニタスです! 逃げようとしています!」
 ディアボロの死体に黙祷していたクリフは、ティアの声を聞くや、傷をおして駆け出す。黒百合が隣に並ぶ。
「ゆっくりオハナシして、悪魔のこととか聞き出したいのにィ‥‥せっかちねェ」
 数十メートル先に、中年男性の走る姿。クリフは切り替えておいた意思疎通のスキルを使った。
(穣二さん、穣二さん。俺は、この前もお会いしたはぐれ悪魔のクリフ・ロジャーズです!)
 駆ける背中がびくりと動く。
(話がしたいんです。危害を加える気はないので止まってくれませんか?)
 でも止まらない。語りかけながら追う。
 穣二の話を報告したら、彼と悪魔の居場所について「そんな地名聞いたことがない」と返されたこと。
(あなたとは敵同士ですが、嘘なんかついてるようには思えなかった。そして先日、別の依頼で明らかになったんです!)
 極めて大規模な認識の封印。それによって隠されていた地。
 群馬。
(あなたの言っていたのもグンマでしたよね?)
 穣二は白い軽トラに走り寄る。「山下豆腐店」と書かれたそれに乗り込む際、クリフと視線が合った彼は肯いた。
 長らく放置され、虐げられていた者の、深い諦念の表情。
「俺は!」
 声に出して、叫ぶ。
「あなたを、あなたたちを、助けたい!」
 それに応じる声は、小さく、平坦で。
「ヴァニタスでも、死人でも、か?」
 軽トラは、県境の向こうへと猛スピードで走り去った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 太陽の魔女・ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)
 無尽闘志・メレク(jb2528)
 天と魔と人を繋ぐ・クリフ・ロジャーズ(jb2560)
重体: −
面白かった!:4人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
アーミークイーン・
シィタ・クイーン(ja5938)

大学部5年161組 女 阿修羅
無尽闘志・
メレク(jb2528)

卒業 女 ルインズブレイド
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
獅子と禿鷹の狩り手・
クラウディア フレイム(jb2621)

高等部1年28組 女 アストラルヴァンガード
遥かな高みを目指す者・
ヴォルガ(jb3968)

大学部8年1組 男 ルインズブレイド
獅子と禿鷹の狩り手・
ティア・ウィンスター(jb4158)

大学部5年148組 女 ディバインナイト