●斡旋所
普段は撃退士達が依頼を受けるこの場所にて、撃退士達は各々持ってきた工具やビニールシート等の道具を持参してやってきた。
彼らはこの場所で依頼を受けに来たのではない。そう、来るべき天魔とは別の脅威、自然災害の四天王の一つである台風にこの斡旋所が吹き飛ばないように抗わせる為に、補修作業をやる為に彼らは来たのだ。
この斡旋所で役員補佐をやっている水無月は、そんな補修作業をこれからやってくれる撃退士達に挨拶をし、参加してくれた事に感謝した。
「お忙しいところお手伝いに来てくれてありがとうございます!」
「困っている人を見捨てるなんて出来ないからな、大船に乗ったつもりで任せな!」
赤いマフラーを首に巻いている少年千葉 真一(
ja0070)は胸をドンっと叩いて意気揚々と豪語する。
「千葉さんが言ってくれましたけど、困っている人を助けるのも撃退士のうちですから」
千葉に続いて女神のように微笑みながらシシー・ディディエ(
jb7695)も優しく言った。
「へへっ シシーの言う通りだな。さてっと、取り敢えず全員集まったみたいだし、早速役割分担の話でもしようぜ。何だか天候も不安定で若干やばげだし…… 確か俺が外で、直人は中だったよな?」
「そうだ」
火影が確認をする為に直人へ聞くと、彼は頷いて肯定する。
そして、彼は続けて五月七日 雨夏(
jc0183)や新柴櫂也(
jb3860)達にもどこの担当をするか尋ねた。
「雨が降る前に屋根と窓は何とかしないとな。っという事で俺は外をやるぜ」
「外は早めに補修しておかないといけないからな、私も外をやろう」
千葉と鳳 静矢(
ja3856)はすぐにそう答え、日下部 司(
jb5638)もそれにならうように頷く。
シシーもヒリュウを召喚して手伝って貰うため、外の方を申し出た。
「ほう、ほとんど外か」
「人数が外に多少偏るのは問題ないから大丈夫な筈さ」
直人が千葉の答えに「それもそうだな」っと頷いた。
大体の役割分担が終わり、次に水無月がお昼に何を食べたいのかを笑顔で注文する。
すると、千葉は顔を輝かせてすぐにハツラツとした声で「カレー大盛り一つ!」っと言った。
「食事無料なんですか?有難う御座います。それじゃあ、カレーとスパゲッティにシチュー、食後にショートケーキとコーヒーをお願いします」
「はい、かしこまりました!」
丁寧に注文した日下部に水無月は 元気よく笑顔で答え、注文をした二人の食事のメモを取る。
こうして、あらかた準備や用事を済ませて。
「それじゃあみんな、今日一日頑張ろうぜ!」
千葉が音頭を取り、全員一丸になって「おー!」っと掛け声を入れて、早速補修作業が開始された。
●AM10:00〜12:00
「この屋根って、この人数に耐えられるんでしょうか? 歩くたびに嫌な音がしているんですが……」
「確かに後一人でも上ったらアウトだろうな」
「これってほとんどの屋根板腐ってね? 白ペンキで誤魔化してたみたいだけど思い切っり剥がれてボロボロの箇所があるんだが」
「補修っというより改装した方が早そうだよな……」
日下部、鳳、千葉、火影の順にそれぞれ上った時に立派に腐っている屋根の感想を呟く。
一歩でも動いたら板を突き破って下へ落ちる、まるで薄氷の上を歩いているかのような感覚を四人は味わっていた。
「えっと。これは屋根が耐えられそうにないので俺は下の窓際の補修に回ります」
日下部は四人っという人数に軋む屋根を見て、無理だと判断し、仕方なく壁の補修をする為屋根から降りる。
「くっ! 一人の優秀な味方が失われてしまった……!」
「あいつの意志は俺達が受け継ごう」
「それが残された俺達の補修人生を賭けた宿命(さだめ)だからな」
「いや、俺は死んでませんが? っというかやけに壮大な設定ですね……」
千葉の演技の入った台詞に鳳が乗り、おまけに火影も付け加える。それに対して下へ降りていた日下部が冷静に突っ込んだ。
そんな感じで馬鹿をやりながらもすぐさま仕事に戻るや
「すまないシシーさん、先に四人分の木材を頼む!」
っと、火影はすぐに下で待機しているシシーに頼み、ヒリュウを通して木板を運んでもらう。
人数分渡った所で、そして、道具を持った外担当の四人は補修に取り掛かった。
「ん〜、板を打ち付けるだけだと厳しいか。ビニールシートを張り付けた方が良いかもな」
千葉の呟きに、鳳はすぐに彼へ事前に持ってきておいたビニールシートを手渡す。
「ほら、そうだろうと思って用意しておいたぞ」
「お、ありがとう!」
彼から貰ったビニールシートを受け取り、千葉は感謝しながら先ほど板を打ち付けた箇所へと貼り付ける。
鳳もビニールシートを木材と屋根の間に敷きこんで打ち付けるっという千葉とは違うやり方で補修した。万が一補修した箇所の隙間を水が伝っても、屋内に透過しない様に工夫しておく為だ。
「急ごしらえだがとりあえず雨漏り自体は防げるだろう」
そんな感じで、三人は外れそうな板を打ち付けなおしたり、足りない木材等をヒリュウに運んでもらいビニールシートを貼り付けたりしながら屋根の補修を順調に進める。
下の方では、日下部は水無月に壁に釘を打ち込む許可を貰うと、窓に木の仕切りを打ち込んで飛浮物での窓の破損を防ぐように勤める。彼は複雑な構造にせず、土台を取り外せば全体が取れるように工夫して台風後に景観を損なわないように注意しながら自分なりに作業を行った。
中を担当している直人と新柴の二人はまず先に、内側から窓ガラスが突風などで割れないようにする為の補強を行う為にガムテープを貼って補強し、壁や天井に空いている穴などを補強する。
それから、補強した場所が目立たないようにペンキ塗り等をしたのだった。
ちなみに、中では厨房からのカレーやスパゲティ等の料理の良い香りが漂い、直人は素直に
「良い香りだな、昼が楽しみだ」
っと新柴に言い、彼も頷いたのだった。
「そうだな」
●昼休み
「みなさーん、お昼ですよー!」
水無月の元気な声が合図に、皆は一度作業を中断させた。
外組の五月七日達六人は昼になって益々雲行きが怪しくなってきたのを若干心配しつつも、中へ入る。
鳳は水無月に天気の様子から雨が降り出しそうっという事を伝え、それから。
「せめて外は早めに補修せねばな、休憩は後で取らせてもらうよ 」
っと言った。
しかし、彼女は去ろうとした彼の手を取ると、微笑みながら首を振って優しく否定する。
「それは駄目です鳳さん。誠意は凄くありがたいのですが一人だけ休憩無しで働いていたら鳳さんは疲れるだろうし、それに、外で働いていたお昼を取ってる方達が食べ難くなっちゃいます。ここは大人しく私の淹れた珈琲でも飲んじゃって下さい!」
そう言うと、彼女は笑顔で鳳の手を取って半ば強制的にそっと座らせ、鳳は未だ天気が心配に思いつつも諦めて苦笑しながら彼女に付き合った。
彼を説き伏せて(?)水無月は安心すると、完成した料理を運ぼうと並べた料理を持った時、シシーが彼女に近づいて配給のお手伝いを申し出た。
水無月は「ここの斡旋所の補修をお手伝いして頂いてるのに申し訳ないです!」っと首を横に振ったが、彼女が、
「お仕事をしたっと言っても、ほとんどヒリュウが頑張ってくれているので、 それなりしか、疲れてはいないですから」
っと少し目を伏せて言うので、水無月は良心の呵責に負けて配給のお手伝いをさせる。
その時にじっと鳳から見られたがわざとらしく咳払いをして彼女は見なかった事にしたのだった。
「思ったより手間掛かるな。でも、それだけ飯が美味いぜ」
「そうですね、疲れてる分甘いものが特に美味しく感じられます」
千葉が大盛りのカレーを一瞬で平らげ、日下部も食後のショートケーキを食べ終えて二人でそう感想を言い合う。
「お替り、どうですか?」
「頼む」
「ありがとう」
水無月が食べ終わった皆の食器を片付けている間、シシーが珈琲を飲み終えた新柴や鳳に微笑みながら聞き、彼らからカップを受け取ってお替りを淹れたりする。
そんな感じでお昼は終了した。
●13時〜17時
休憩が終わり、外担当の六人は少しペースを下げて慎重に作業に取り掛かった。
何故なら、鳳が危惧していたが、雨が今にも降りそうなぐらい雲がどんよりとしておりおまけに風が強くなっていたのだ。
だが、もう屋根はほとんど終わっており、残すは窓と壁のみ。その壁も、一人とは言え日下部が休憩までの間にやっており、半分まで終わっているが。
千葉は屋根にある程度目途が付くと、段ボールに水一杯の2Lペットを重しに入れて防水テープ止めしたお手製の土嚢の準備をし、それを火影と二人で協力してブロックのように積む。
これで、完璧に屋根は終わりだ。
鳳は割れ飛びそうな窓ガラスの箇所に外側から木材でカバーして補修し、内側から新柴に協力してもらって、余ったビニールシートの一つであるレジャーシートをガラスに張る形で保護する。
万が一ガラスが割れた場合に飛び散らない様にする為だ。
「レジャーシートなど、こういう厚めの丈夫なシート類はこういう使い方もあるんだ」
「へぇ、てっきり鳳さんはお昼にピクニックのようにお外でご飯を食べるのだと思っていました」
「全く違う」
鳳の説明にシシーは感心して、以前自分が思っていた事を率直に言うと、彼は冷静に否定した。
「念には念を入れとくか」
千葉は窓の外枠に板を打ち付け、古くなっている物には内外の両側からガムテで止める等をした。
外の作業があらかたペンキ塗り以外終わり、雨が降り始める前に終われた事に安堵した外組は、斡旋所の中へ入った。
中では、以前直人と新柴が壁の補修作業を続けており、外での作業が無くなった六人は早速手伝いへと入る。
「台風の風は強さが馬鹿にならないしな、この隙間も埋めておこう」
鳳は外と同じようにシートでの保護をしたり、壁のヒビ等から隙間風が若干入ってくるのを見つけるやその場所にシートは使い切ったので、タオルを代用して風を遮った。
●作業終了
全ての補修作業が終了した時、作業時間はまだ一時間近く残っていた。
補修された窓を叩く風はその強さを増していて、もし作業が手間取れば予想以上に時間を取られていただろう。
「皆さんのおかげで台風が乗り切れそうです、本当にありがとう!」
水無月は満面の笑みで嬉しそうに手伝ってくれた全員へ頭を下げて感謝する。
それから、シシーに頷いてカウンターの裏から人数分の袋を持つと、頑張ってくれた千葉達に一人ずつ手渡しで渡す。
「これは一体何だ?」
新柴が不思議そうにそう尋ねると、シシーが微笑を浮かべて、
「お互いお疲れ様でした。という事で水無月さんと一緒にケーキを作ったのです。良かったら是非食べてください」
っと優しく落ち着いた声で言った。
「うおおおお、頑張って良かったぜ! ありがとう!」
「貰ったものは頂かないわけにはいかないな、ありがとう」
「いいのか? ……ありがとう」
「ありがとうございます、お昼も美味しかったので是非とも食べる時が楽しみですね」
「おお、マジか!? ありがとうなシシー、水無月!」
「慰労か、こういうものも良い物だな。ありがとう二人共」
袋を頂いた千葉、鳳、新柴、日下部、火影、直人の六人はそれぞれがそれぞれの反応で感謝する。
「それで早く終わったし、台風が来る前に解散でもいいですがどうしますか?」
参加者を伺う水無月に、一同は暫し沈黙する。
外の雨風は、能力者にとって恐れるものでは何ら無いが……。
「このまま過ぎ去るまで、問題が起こらないかの確認が必要だな」
そう言ったのは鳳だった。
「だな。しっかりやったけど、急造だしなっ!それで、何かあったら寝覚め悪いし」
「作業予定時間、つまり依頼の時間はまだ終わってないとも言える」
「なんだ、皆そのつもりだったのか」
次々と同意する声が続く。
「という訳ですので、もう少しお邪魔していていいですか?」
最後にシシーが代表して尋ねられた斡旋所の受付は、一瞬戸惑い、遠慮と表情を変え、最後は笑顔で宜しくお願いしますと頭を再度下げたのだった。
それから暫く後。
台風一過、スッキリと晴れた夜空に星が瞬いている。
今回共に撃退士として戦ったのではなく、ただの一般人として働いた皆はお互い言葉を交わした後やがて解散し、帰路に着く。
台風を無事に耐え切ったあの斡旋所は、またいつもの通り撃退士達に依頼を伝え、彼ら撃退士達は斡旋所で受けた依頼をこなす事になのだろう。
そう思うと、彼らは普通の人として普通に災害対策をした今回は、何だか新鮮な感じがしたのだった。