●作戦会議
「それでは皆さん、頑張って天魔をコテンパンにやっつけちゃって下さいね、応援してます!」
依頼当日。水無月の声援を背に、斡旋所から出発してそれぞれ依頼場所に時間内に集まったそれぞれ六名の撃退士達は、今回の依頼である『足の生えた鯉』を殲滅する為の作戦会議を開いていた。
「自分とマルゴット殿が囮役として通学中の子供を装いながら一般人が入ってこないか警戒しつつ池の周りをうろつくで御座る! 上手く誘導出来たら殲滅組に後はお任せするでござるな!」
忍者っぽい口調をした長いマフラーを首元に巻いている少年、静馬 源一(
jb2368)は力強く自分達が囮役になるっと宣言し、眼帯を付けた金髪の少女、マルゴット・ツヴァイク(
jc0646)もこくりっと頷く。
ちなみに静真は余裕な表情をしているが、両足は採掘機みたいにガクガク地面を削っていた。
(人々に仇なすナマモノめ、成敗してやるで御座る!主に自分の仲間たちが!)
威勢の良い(?)心情と身体が反比例しているが、それでも囮役を自分から買って出る程実力があり、また勇気がある。ただ、ビビリなだけである。
「特に誰も異論は無いようですし、それでは早速作戦開始としましょうか」
そうメガネをクイッと指で少し持ち上げ、彩・ギネヴィア・パラダイン(
ja0173)は自前の釣具を引っ提げて答えた。
「……それは?」
どこか人形めいた感情の乏しい銀髪の少女、Spica=Virgia=Azlight(スピカ ヴァルジア アズライト)(
ja8786)はそれぞれ仲間達に人数分の無線機を渡しつつ、彩の持っている釣具について尋ねた。
「囮作戦も良いですが、鯉と言えば鯉釣りですよ、きっと餌に釣られて入れ食い間違い無しです。なので、私はちょっと別の場所で待機してますね」
彩はそう冷静な口調で言うと、そそくさっと絶好な釣りポイントへ向けて単身出発してしまう。
それを見た明るい少年、天羽 伊都(
jb2199)は清々しい笑顔で、
「僕は彩さんの場所で待機するよ、丁度戦っても良さそうだし」
っと、先程彩が向かった釣りポイントの方へ指差したのだった。
「自分も異論は無いで御座る」
●作戦開始
ヴァルジアはCode:S.W.(陰影の翼)を使用し、背中から銀色の翼を出現させ、浅橋から空を舞う。
それから、現在通学中の学生っといった感じで囮役として池の周囲を歩く二人と、水面を移動しながら確認しつつ、先程配っていた無線機で連絡を取り合った。
それから、数分もしないうちに水面に変化が現れた。
「索敵中…… 魚影確認、数は、三」
ヴァルジアの報告に、一ノ瀬・白夜(
jb9446)達の背中に緊張(?)が走る。
そして、彩の持った竿に力が入る。
「索敵完了…… 他にも魚影…… 三、三…… 三…… 三匹一組で行動している、みたい、全員静馬達のとこへ、向かってる……」
「了解で御座る! 全員戦闘準備を頼むで御座る!」
彼はハッキリとした声でそう命令し、マルゴットを連れて少し池から距離を離しつつも、周りを確認しつつ前進する。
マルゴットは前を歩く静馬が頼もしく見え、尊敬を込めて呟いた。
「静馬は、すごいね……。いつもと、同じみたい」
●戦闘
大きな水しぶきを上げ、静馬曰くナマモノが囮役の二人に釣られて陸地に上がってくる。
ナマモノ(鯉)には依頼通り、美しい脚線美を放つ生足が付いていた。
(何を、考えて……脚、つけたのか……)
ヴァルジアはそんな事をボーッと思いつつ、スナイパーライフルを構えた。
「ロック完了…… 砲狙撃戦、開始……」
彼女はスナイパーライフルの引き金を引き、銃口から火が吹き出す。
ヴァルジアの放った弾丸は鯉の無防備な背中を貫き、鯉は「いやぁん」っという、何故かオカマのような悲鳴を上げて陸地に打ち上げれた魚の如く、痙攣して絶命した。
(そして、何で、オカマ……)
ヴァルジアは天魔の鯉に色々と疑問を感じるも、あまり深く考えないようにした。
どうせ、やることは一つなのだ。
「やっぱりこいつらはナマモノで御座ったか」
静馬はどっかで読んだ覚えのある漫画に出てくるキャラを頭に思い浮かべつつ、近づいてくる鯉からマルゴットと一緒にダッシュで逃げつつ頷く。
「彩さん、敵が向こうで現れたみたいですよ! 案外近いですから応援に行きましょう!」
「いや、絶対にここにいるはずなんですよ、近ければ尚更な筈」
天羽は釣りをする彩を動かそうと、彼女に声を掛けるが、彼女は竿を持ったまままるで座っている金剛力士像みたいに微動だにしなかった。
「落ち着いてくださいアモウ、大丈夫、ちゃんと釣れますって…… ほらっ」
彩が落ち着いた声でそう言うと、本当にウキが沈み、ピンっと釣り糸が張ったっと思ったらぐぐぐっと水中に引っ張られる。
彼女はこの時を待っていたと言わんばかりにメガネの奥の瞳を光らせると、素早く釣竿を力強く引き、活きのいい鯉(一応天魔です)を一匹釣り上げた。釣り上げられるとき、鯉の脚線美が晴天の青空の下、太陽にの光によって良く光っていた。鱗はテカっていた。
天羽は驚くも、すぐに戦闘態勢を取り、釣り上がって陸地に上がった釣り針で口が血だらけになっている鯉と切り結んだ。
彩も流石に戦闘になると、竿を置き、それから武器を構えて天羽の援護をする。
彼女は天羽を生足を巧みに操って襲っている鯉を横から二振りの剣で素早く横切りにし、鯉を三枚におろした。
「おぉ! 格好良いで御座る、彩殿! って、ぎゃあああああ! よそ見していたら大量に来たで御座るぅぅぅぅ!!」
静馬とマルゴットの近くに恐ろしい勢いで涎を垂らしながら迫ってくる鯉の群れが池から飛び出して来ており、静馬は驚愕して叫ぶ。
彼は自分のやるべき事を果たす為に恐怖で震えながらもマルゴットと共に、彩と天羽の近くまで走った。
彩は大量に迫ってきた鯉の群れを見るや、囮役の二人に離れるように指示した。
「今から呪縛陣を使用します! 巻き込まれないように離れてください!」
「りょ、了解で御座る!」
静馬はマルゴットの手を引き、彩の範囲攻撃に巻き込まれないように全力疾走で左前方へと逃げる。
すると、途中で鯉達はまだ足が付きたてなのか静馬達が方向転換をした為、一時停止するや彼らの方角へと身体の向きを変えようとする。
その止まっている今絶好の機会を逃す彩では無かった。
彼女は素早く指で印を結び、結界を鯉の群れに向けて展開する。
彩の結界は鯉の自由を奪い、鯉達は金縛りにあったかのように束縛されて動けない。
「団体様ご案内ですね〜♪切り方はどういう希望がお好みですか?」
天羽は動けなくなった鯉の群れに、ノリノリで刀を構えて斬りかかる。
彼は狙いを定めた最初の一匹を袈裟斬りにし、それから二撃目で身体を貫いて倒した。
彩も負けず劣らず、最初の一撃で二匹目の鯉の足を斬り飛ばすや、左の剣で今度は胴を捌いて絶命させる。
更には、鯉達の背後には空を飛びながら黙々と狙撃をする死神ヴァルジアの姿があり、既に引き金に指を掛けていた。
「ロック…… 発射…… 」
彼女は淡々と呟き、引き金を引いて銃から轟音を響かせる。
ヴァルジアの狙った獲物は身体に大きな穴が穿たれ、口から泡を吹き出して叫び声をあげる事もなくその魂をこの世から手放す。
「……標的、沈黙」
そんな戦いに余裕のある三人以外に、一人だけ緊張で生唾を飲み、身体を固くしている者が居た。
先程まで静馬と一緒に囮役をやっていたマルゴットだ。
彼女は姿形があの時のディアボロとは違うが、ディアボロと対峙した時の未だ忘れられない恐怖を思い出して、一瞬足が震える。
それでもこの半年間の訓練を思い出して、彼女は震える手でぎゅっと銃を握りしめた。
「無力だった頃の私とは、違う、から……。」
それから彼女は、向かってくる一匹の天魔に向かって銃を構えて心を落ち着ける為にひと呼吸深呼吸する。そしてキリっと目の前の動けないで悶える敵を見据え、無力だった頃の自分と決別する為の意味も込めて銃の引き金を引く。
「いやぁん!」
一発目では天魔は死ななかった。
だが、一度引き金を引いた彼女にはもう迷いが無く、引き続き二発、三発っと連続で発砲。
マルゴットの連続射撃によって、身体が穴だらけになり、鯉は悲痛なオカマ叫びを響かせながら倒れる。
「確実に、息の根を止める……。誰かが、犠牲になる前に……。」
最後にもう一発、倒れた鯉の頭に狙いを澄ませた一撃を叩き込んで、彼女の言葉通り鯉の息の根は止まった。
ほとんどの仲間が撃退士によって殺され、勝ち目が無いと思い恐怖で静馬かそれ以上に震えると、池の中へ逃げようとUターンし始める。
しかし……
「おっと、そうはいかないよ!」
鯉達が逃げる事を想定していた天羽は人の良い笑顔で磁場形成っという技を用い、足と地面の摩擦抵抗を無くして速く動くや逃げようとした鯉を逃すまいと退路を経つ形で回り込んで来た。
鯉達は俗に言う「しかし まわり こまれた!」 の状態だ。
「ロック、されてるから…… 逃げ場は、あの世……」
しかも、背後からはそんな不気味な事を言う死神が居て、また一匹の哀れな仲間の命を刈り取る。
静馬は仲間達が天魔と一方的な蹂躙という名前が先に付く戦闘をしている間、作戦エリアに一般人が入ってこないかどうか鯉が外に逃げていかないかを注意しながら動いていると、近くで撃退士とは違う何者かの影が見え、すぐにそこへ走る。
「そこのお方! 今ここは天魔が居て危ないで御座る! すぐに立ち去るで御座る!」
「え? 天魔ですって?…… 参りましたね、どうりで警察が多い筈です」
執事服の青年は釣具を持ちながら嘆息すると、それから静馬を見て頷き、笑顔で礼をした。
「本当はお嬢様にここの立派な鯉をお見せしたかったのですが致し方ありませんね、ご忠告ありがとうございます。すぐに退散しますね」
彼はそう会釈をした後、来た道を引き返していく。
静馬はほっと一安心し、それからまだ戦闘を続けている仲間達の下へと戻ったのだった。
●戦闘終了
数分後。容易く戦いを終えた撃退士達はその後、まだ池に鯉がうろついていないか一通りパトロールする事にした。
もしまだ倒しそこねていたら再び一般人に被害が行き、自分達も依頼を達成出来ていない事になるからだ。
「む、今水のはねた音がしたで御座る!?」
見ると、水中には黒い魚影が写っており、すぐにヴァルジアはスナイパーライフルを構える。
だが、スコープを覗いてその魚影を見てみmると、足の生えていないただの鯉だった。
「普通の、鯉……」
「そ、そうで御座るか…… 良かったで御座る」
「仕事も安全に終わった事ですし、私はもう少しまったりと釣りでも楽しみます」
「彩殿はそればっかで御座るなぁ」
そんな感じで撃退士達はのんびりとした会話をしながら、パトロールを終わらせる。
各々、後は自由に行動し、それから今回の依頼達成を静馬とマルゴットの二人が斡旋所に報告しに向かった。
「お疲れ様です! はい、良かったら作っておいた苺のショートケーキと飲み物をどうぞ♪」
水無月は帰ってきた二人にケーキといつもの珈琲…… では無く、オレンジジュースを笑顔でグラスに注いで振る舞う。
「かたじけないで御座る!」
「……ありがとう」
二人は彼女のもてなしに感謝をし、それから一連の報告を彼女に伝えた。
「や、やっぱり足が…… どこかで見たような既視感がありますけど…… 何だったかしら?」
「あのナマモノは誠に強烈でござった…… 色んな意味で」
「うん…… だけど、静馬はそれでも余裕そうで、凄かった……」
「えっ……? い、いやー、マルゴット殿にそう言ってもらえて嬉しいで御座るな! あはは!」
静馬は少し照れ隠しなのか、手を頭にやって「あははは」っとわざとらしく高笑いして、ケーキを食べ始めた。
彼が食べ始めると、マルゴットも少しずつだがケーキを食べる。
水無月はその光景を微笑みながら和やかに見守るのだった。
こうして、一時期学生や近隣住民を困らせていた生足の生えた鯉は居なくなり、鯉釣りスポットの池は再び釣り師が訪れる平和な場所になった。