●作戦会議
真夜中、人魂の群れによって光り輝く墓場が見える入口で、火影と六名の撃退士達は集まって作戦会議をしていた。
黒髪の青年、火影はその際、自前で持ってきたMP3プレーヤーに入っているホラー単曲作業用BGM「貴方の心もドッキドキ☆ヒュードロドロ」を流す。
真夜中の墓場で、やけにロックテイストなお化け屋敷等に流れるBGMが鳴り始める。
褐色に近い小麦色の肌の快活な性格をしたローマ出身の女の子。ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は墓と火影を交互に見ながら何か言いたげにぼそっと呟いた。
「お墓でこんなに騒がしくしてちゃダメだよね。静かにしてもらわないと」
その隣では、気弱そうな少女、緋桜 咲希(
jb8685)が少し震えるように喋る。
「うぅ……な、なんで墓地なんかに沸くんですかぁ。でも、墓地より廃病院とかの方がもっと怖いかもぉ」
「全くだ、でも、俺のBGMで少しは雰囲……」
「でも、なんか数が多くて怖くないかもぉ?」
「あらぁ?」
緋桜のそんな怖いのか怖くないのか曖昧な答えに、火影は少しオーバーリアクション気味にこける。
そんな二人の漫才っぽい光景を見つつ、短髪の両サイドの髪だけは顎の辺りまで伸ばしているサングラスから垣間見える鋭い眼光をした西條 弥彦(
jb9624)は、心の中で。
(あー、この眩しさじゃ『ヒュードロドロ』って言うのは似合わないなぁ、まあ別に効果音いらないけど)
っと思いつつ、咳払いして改めて口を開く。
「取り敢えず、今回の作戦は墓石を壊さず、地道にローラー作戦で敵を倒す。それで良いか?」
彼が言葉を発した瞬間。
西篠のサングラスから覗く鋭い瞳の効いた睨みと威圧の効いた声により、性格が小動物な緋桜は怯えてしまった。
「ひ、ひぃ!」
そんな彼女の怯んだ姿を西篠は見て、全体的にキツイ印象があると割と自分でも分かっている為、溜息を吐く。
「すまん、わざとじゃないんだ」
「い、いえ……」
●戦闘準備。
「さてと、全員準備はOK?」
目的の場所にたどり着いて、日下部は一度振り返って皆に準備が整ったか聞いた。
ボーッとした表情の仄(
jb4785)を含めた五人も全員頷き、各々武器を手に、位置に着く。
「それにしてもマジですげぇ数だな」
火影は集まった人魂達の眩しさにげんなりとすると、西篠が「火影さん、これを使って下さい」っと言い、サングラスを彼に渡してくれた。
「サンクス! 西篠!」
火影はサングラスを渡してくれた西篠に感謝し、それを早速装備する。
陶磁器のような透き通る白い肌と眠た気にも見える大きな瞳を持ち、まるで人形のような容姿を持つ少年、一ノ瀬・白夜(
jb9446)も火影と同じく、サングラスを装備し、ふとしみじみと心の中で思う。
(人魂…… 読んで字の如く、ホントに人の魂が見えれば良いのにね…。 そしたら、僕の母親のことも…何か分かるかも知れないのに)
●戦闘
「これだけいると、どんどん倒してかないと時間掛かっちゃいそうだね」
金色のオーラで身を包んだソフィアはそう呟くとLe Ali di Magaと呼ばれる魔法を使い、背中から鮮やかな翼を具現化。飛翔すると、素早く手近の人魂にIl Tuono di Soleと呼ばれるまるで太陽のように輝く雷を放った。
雷を喰らった人魂は一瞬で消滅、跡形も無く消え去る。
日下部も彼女に負けず劣らず、比較的数の少ない人魂の下へ駆けるや、ダブルアクションの自動式拳銃で対象の敵に狙いを定めるや引き金を引いて銃撃した。
彼の攻撃は見事命中し、弾丸は敵の身体を貫いて、人魂は消滅。
いきなりの敵からの奇襲で人魂達は二匹の同胞を失い、動揺(?)し、若干震える。
火影も作戦通りに孤立している人魂に向かって走り、素早く斧を叩き込む。
だが、人魂は前回の二人とは違い消滅する事なく振り向き、逆に反撃した。
彼は辛うじて避ける事に成功し、肝を冷やすも、すぐさま黒い翼を背中から具現化させて飛翔した西篠が彼の援護に入り、指でコインを弾くように風の玉、流のルーンを反撃した人魂に飛ばして命中させる。
人魂は二度目の攻撃を喰らい、まるで風に揺られて消えるロウソクの火のように消滅した。
「ひぃぃぃぃぃ! 来ないでぇぇぇ!」
一見変化の見えない光纏に身を包んでいる緋桜は近づいてくる人魂に怯えながらも、手に持っている人魂よりも不気味な大鉈をブンっと振る。
だが、豪快に振られた大鉈を人魂はゆったりとした速度で見切り、躱してしまう。
「そんな遅い動きじゃいつまで経っても追いつけないよ」
ソフィアは不敵な笑みを浮かべながら近寄ってきた人魂に雷を放ち、瞬殺。
彼女は魔女としての力を壊してはならない墓石があるため、ある程度押さえつけられているがそれでもその力は圧巻の一言だ。
黄金のオーラを纏い、飛翔しながら雷を放つ姿は天空神ゼウスを彷彿とさせる。
だが、そんな彼女の近くに人魂が忍び寄る。
人魂はゆったりとした速度で彼女に近づき、攻撃準備をする…… っが、その瞬間。力を溜めていた人魂は一瞬にして消滅した。
見ると、その人魂の背後には、銃口を先程人魂の居た場所へ突き立てている日下部が居た。
「丁度いい」
黒い翼で飛びつつ一ノ瀬はそう呟くと、直線上に並んでいる人魂二匹に向けて、燃え盛る炎を真っ直ぐと走らせた。
彼の火遁は狙い違わず、二匹を焼き尽くし、消滅させる。
「人魂なのに燃えるんだね……」
「ほら、あいつの炎は青だからさ、きっと身体は氷のように冷たいから消えたんだと思うぜ」
あと一歩で若干巻き込まれそうになっていた火影は震えながら軽口を叩くも、一ノ瀬は彼をサングラス越しから一度じっと見るや、スルーして別の敵へと向かって飛んでいった。
緋桜は半泣きになって怯えながらも、もう一度大鉈を振り、今度こそ人魂にその豪快な一撃を叩き込む。
すると、大きな一撃を喰らった人魂は真っ二つに裂かれ、「ボッ」という、虚しい音を奏でて消滅した。
順調にローラー作戦により、敵が着実に、確実に減っていき、やがて、サングラスが必要に無くなるまで人魂の数が減少する。
そろそろ周りが暗くなってきた時、火影と緋桜以外の四人はフラッシュライトを使って視界を確保した。
「ふ、ウふフふ」
「ん? どうした?」
日下部が突然の緋桜の笑い声に彼女の方へライトを向ける。
「アはハハ、マダ居ルんだ……どレから殺そウかナァ……ネぇ、微塵切りデいい? そレトも潰サれるノガお好みィ?」
緋桜は手に持った大鉈をずる……ずる……っと引き摺るように持ちながら、不気味な笑顔で暗闇の中ライトアップされる。
いつの間にか彼女の恐怖度がMAXへと溜まっていたのだろう、バーサーク化してまるでホラー映画の金字塔の殺人鬼ジェイ…… 別人のようだ。
身体からは光纏の効果だろう、身体から黒い霧が吹き出し、瞳が真紅に輝いている。
「ぎゃあああああああ!!」
人魂が少なくなり、暗くなってきた墓場にいきなりの真打登場で、日下部では無く火影が絶叫し、泡を食った。
敵と戦っていた西篠と一ノ瀬は突然の悲鳴に振り向き、すぐさま叫んだ彼の下へと飛ぶ。
「おい、どうし……」
西篠はそう声を掛けた瞬間。
その姿を見た。
赤い瞳をし悪鬼のような姿で、自身の身体より圧倒的大きな戦槌をいつの間にか装備して、人魂に向けて振り回す彼女の姿を……
「……何があったんだ?」
西篠の困ったようなボソッとした呟きに、一ノ瀬は首を傾げて無表情で答えるのだった。
「さぁ……?」
●帰路
五人の活躍により、数分も掛からずに残りの人魂達も無事、墓石や怪我等の被害無く駆除し終えた。
火影は手伝ってくれた五人に感謝をし、全員帰るのを見送ると、自分も学園へ帰る為に帰路を歩いていた。
彼は持っていたBGMをノリノリで聴きながら夜道を歩いていると、たまたまそこにフラッシュライトを使って歩いている一ノ瀬を発見し、走って彼の隣へ行き、馴れ馴れしく肩を組んですぐに話しかけた。
「よう、一ノ瀬! そんな一人で寂しそうに帰るなよ! どうせだし、一緒に帰ろうぜ」
「……?」
一ノ瀬は突如やってきてしかも、肩を組んだ彼を無表情で見る。雰囲気的にきっと「一体何なんだ?……」みたいな空気をうっすらと流しているのだが、生憎火影は分かっていなかった。
「HAHAHA、こんな真夜中に子供を一人で帰らせるのは危険だしな、まあ今さっき一ノ瀬を見てから気づいたんだがな」
「ふぅん……」
「ところでさ、この俺の持ってきたパーフェクトなBGM…… どう思う?」
「ださい……」
「ひでぇ」
そんな感じで、軽くあしらわれながらも火影は一方的に彼へ話しかけ、ぺらぺらと喋り続ける。
一ノ瀬は若干、彼をうざいっと感じながらも黙って火影のお喋りを聞かされ続けるのだった。