●昼 屋敷の客間
「どうぞ、依頼よりもお早いご到着ですね? 撃退士達殿」
執事は微笑みながら現在椅子に座っている昼の内にやってきた撃退士達と、自分の主に茶菓子と紅茶を配っていた。
「少し気になる事がありまして、早めに幾つか執事さんに聞いておきたい事があるのです」
撃退士の一人である彩・ギネヴィア・パラダイン(
ja0173)はメガネの奥の瞳を鋭かせながら、丁寧に執事へ質問をする。
「ほう、私にですか? 」
「四点だけ質問させてください、まず一つは依頼をより成功させやすいように昼に調査を始めても大丈夫でしょうか?」
「そうそう、俺も調査を先にやりたくて早めに来たんだ! 決してお茶菓子を先にもらいたくて来たんじゃないぜ!」
「我も是非、今からの調査を要求する。地図があれば貰いたいのじゃが」
彼女が執事から頂いた紅茶を飲みつつ、話を進めようとした時、活発な少年花菱 彪臥(
ja4610)と不思議な雰囲気を持つ年寄り口調の少女アヴニール(
jb8821)も話に加わる。
執事は突然会話に加わった二人にも落ち着いて笑顔で対処した。
「えぇ、依頼を確実に達成出来るのであれば調査は問題ありません。森は広いので私が案内しましょう。地図もすぐお渡しします」
彼は撃退士三人にそう頷いて答えると、今まで一言も発して居なかったこの屋敷のお嬢様がおずおずっと口を開いた。
「あの…… 私も付いてきて…… いいかな? 人に任せて自分だけ寝ているなんて嫌よ」
「構いませんよ、お嬢様、だけどくれぐれも体調が優れない場合は私に連絡してくださいね」
「分かってるわ、ありがとう」
お嬢様は執事から外出許可をもらい、優雅に微笑む。
二人の会話が終わった所で、ギネヴィアは質問の続きを口にした。
「それでは二つ目の質問、私達が戦うのは天魔ですが、その天魔らしき姿を近くで目撃等をしましたでしょうか? 」
「いえ、真夜中に木々の茂っているあの場所を立ち入るのは危険ですので、使用人にも夜は立ち入らせないようにしていました。それのせいで、今の事態になってますがね」
「なるほど、それでは三つ目に入ります。もし仮にですが、相手が天魔でない場合は私達は相手を倒せません。私達はあくまで天魔を倒す撃退士なので」
ギネヴィアが事務的にそう発言すると彼は少し困ったように苦笑して、彼女の立場を理解して頷く。
「それは少々困りますが、まあ、天魔で無かった場合は別のハンター等に任せるとしましょう」
「理解頂いて助かります。これが最後の質問ですが、一体どんな足跡なのでしょう? 何故、六本足だと分かったのです?」
「えぇ、あくまで憶測なのですが、どうも足跡は左右等間隔にそれぞれ三本分。しかも、深さと大きさはどれも均等で、歩いていたというより立っていた時に付いたのであろう跡でしたから。それゆえ依頼にその情報を書かせて頂きました」
「分かりました。質問に答えて下さりありがとうございました」
彼女の質問に答えきると、執事は「いえいえ」っと微笑んだ。
●昼敷地内
「おぉ、すげぇ綺麗だな!」
屋敷のお嬢様によって木々が茂っている森林に案内された撃退士達。
木々の葉から太陽の光が差し込んでいる、美しい自然の光景に花菱は目を輝かせて感嘆した。
「ありがとう、私のお気に入りなのよ」
お嬢様の案内によって、地図に描かれているルートを歩き、やがて全部を回った。
彼女の丁寧なナビによって、地理を理解した撃退士達は早速調査を開始する。
「それじゃあ、足跡を調べてねぐらを突き止めに行くぜ! あ、そうだ。 道すがらテープ目印にして木に巻き付けておけば、夜来た時に探しやすいよな」
「そうね、私も最初は迷ってばっかりだったわ。執事のおかげで助かったけど、この場所に慣れない人達には目印は必要よ」
「よし、テープも巻いたし、戦いやすいようにランタンも設置したぜ、へへへ」
「事前に目印となるポイントをもらった地図に書き込んだから、真夜中、皆が集まった時に見せるのじゃ」
それにしても……
アヴニールは花菱の手伝いをするお嬢様を見て、ふと思った。
(……然し、執事付きのお嬢様か。 我付きの執事は元気にしておるじゃろうか…… 早く、会いたいのう…… 否、元気にしておればそれで良いのじゃ……)
●真夜中、敷地前。
依頼に記載された時刻になり、撃退士達は全員揃った。
戦闘に備えて、執事とお嬢様には屋敷で待機しているよう言い、今は撃退士六人しか居ない。
「ほれ、これが地図じゃ。重要な場所はポイントしておいたぞ」
「そうか、それはありがたい」
「事前に方位磁針を持ってきておりますので、これでますます迷う事は無さそうですね」
「流石アヴニールだな」
アヴニールの地図に女の子のような中性的な顔をした(だが男だ)鴉乃宮 歌音(
ja0427)はクールに感謝し、前者よりも更に女の子レベルが大幅アップしている緑色のリボンを蝶結びにした(だがおと……こ?)暗闇対策にコングニショングラスを装備している鑑夜 翠月(
jb0681)は安心したように微笑み、アヴニールと親しい感じの、どこか近寄り難い雰囲気を漂わせる剣崎・仁(
jb9224)はぼそっと呟き頷くという三者三様の反応を示した。
「それでは皆、早速天魔を探そう」
「敵のねぐら探してもどこにも無かったんだよなぁ…… まあ、迷わないように木にテープを巻けたからいいけどよ」
「足跡はB地点にあるんだよな…… 敵が居る可能性はそちらの方が高いだろう。俺とアヴニールはB地点から捜索する」
「それならば私達もB地点から捜索をしよう、別れるのはあまり好ましくない」
鴉乃宮は剣崎にそう提案する。
アヴニールと剣崎は思う事があったのか、少し考えるも、お互いに目配せをして彼の提案を頷いて受け入れた。
「我は探しやすいようにナイトスコープを使いつつ、空から偵察する」
アヴニールはそう言うと、背中に真夜中の暗闇に溶け込むような翼を出現させ、空高く飛翔する。
「阻霊符を発動する」
剣崎は隠れているであろう、天魔に奇襲されないよう阻霊符を展開。
「お、気が利くじゃん!」
「それでは剣崎を先頭に私達は地上で敵をくまなく探すぞ」
「了解です」
「はい」
各々、探索を始める準備が整い、早速探索を始めたのだった。
●敷地内、B地点
「ふふふんふっふっふ、ふっふ〜ふ、ふっふふ、ふっふ〜ふ♪」
ギネヴィアの某有名アニメの鼻歌をBGMに探索を進める一行。
ランタンが所々に灯っている真夜中の森、っという陰鬱で明るいが何とも不気味な雰囲気を醸し出しているこの場所で鼻歌を歌う。
その音楽は案外マッチしており、しかも花菱もその鼻歌に参加するものだからまるでハイキングのようだ。
「静かに」
しかし、その和やかなハイキングは二行目にして終わりを迎えた。
事前にナイトビジョンを使用している鴉乃宮が人差し指を口に当てて合図する。
ガサガサっと音がし、こっそりとその音の方へ忍び寄ると、そこにはずんぐりっとした体長が5mはあり、足は左右に三本ずつの何かが花菱とお嬢様によって設置されたランタンの火によって照らされている。依頼で推測されていた通りの天魔の姿があった。
アヴニールも天魔の姿を確認しており、四人の居る位置の上空で待機する。
剣崎は他のメンバーに目配せをし、皆はそれぞれ天魔にバレないように動きながら位置についた。
●戦闘
全員の準備が整い、まず先手は剣崎が片足を狙って奇襲攻撃をした。
だが、剣崎の放った一撃は奴が運の悪い事に狙っていた足を動かした事によって、外れてしまう。
天魔は飛んできた弓矢を視認し、すぐに飛んできた方角から剣崎の方へ顔を向けた。
奴の顔は牛のような顔をしており、剣崎に威嚇する時の鳴き声も、「グモォォォォ!」っという、牛のそれだ。
牛の顔と蜘蛛のような身体をした天魔は、剣崎に近づこうと足を動かす。
だけど、その前に撃退士達が一斉に動いた。
「なるほど、牛の頭に蜘蛛の身体をした天魔か」
鴉乃宮は冷静に納得すると、手に持っている弓で剣崎が狙っていた片足を狙撃。今度は命中し、天魔の撃たれた足から血が飛び出した。
「援護しますね」
風が吹いていないにも関わらず風をまるで衣のように纏わせて、以前よりもアウルが高くなっている鑑夜は手の平にアウルを凝縮させ、それを牛鬼にぶつけた。
「モ゛ァァアアアア!!!」
片足を射抜かれた時よりも、鑑夜の魔法攻撃を喰らった天魔は大きく身をよがらせ、悲痛な叫び声を上げる。
どうやら効果は絶大だ。
「私は奴に近づきますので、足止めよろしくお願いします」
メガネを外したギネヴィアは先程のハイキングの時とは別人のように、表情を引き締めて一対の剣を持って走る。
「了解じゃ」
「任せろ」
アヴニールは空から彼女の事を気づいていない天魔に、銃を構えて発砲し、天魔の身体に穴を穿つ。
そして、彼女の攻撃に合わせて、剣崎も弓を放つ。狙いは、一度外した血を垂れ流しているあの片足だ。
次の攻撃は命中、更に狙われた足は二つ目の矢創を作り、紫色の液体を吹き散らす。
天魔は空から奇襲してきたアヴニールの方へ顔を向け、その人を一飲みに出来そうな口を開けて、咆吼した。
「ぬっ!?」
「アヴニール!」
アヴニールは突然の相手の咆哮に対処できず、大きな声量による攻撃で、若干聴覚の感覚がおかしくなった。
「あんにゃろ、良くもアヴニールを! 喰らいやがれ!」
花菱は鑑夜のように、手の平にアウルを込めると、それを敵に向けて投げつける。
だが、天魔は「おっと二番煎じは良くないぜ? あんちゃん?」っと言いたげに、身を引いて回避する…… っが、躱した瞬間、鴉乃宮から再び、既に二度射抜かれてある片足をまた攻撃されてしまう。
「今から範囲魔法をします、なので巻き込まれないよう注意してください!」
鑑夜はそう言うと、即座にアウルを込め始める。
「先程は良くもやってくれたのう、はぁ!」
アヴニールは天魔の頭に大剣を空中から急降下して叩き込む。それから、範囲魔法に入らないようにその場から離れた。
「これはプレゼントです」
ギネヴィアは天魔の身体に剣を叩き込み、素早く離れる。
すると、敵は地面にまるで身体が縫い付けられたように動かす事が出来なくなっていた。
「これで最後だ」
剣崎が弓を放ち、矢を三本もの矢が突き刺さっている足に当てる。
足はその瞬間、度重なるダメージによってもぎ取れた。
天魔は片一本の足を失い、大量の血を噴水のように噴出させ、苦悶の声を上げる。
敵は足を一本を失い、動きも悪くなっていた。
牛鬼はギネヴィアを追いかけようと足を動かすが、影を縫い付けられている為、全く動けない。
鴉乃宮は動けない天魔に遠距離からサンダークロスボウで攻撃し、相手の体力を削る。
「クロスグラビティ!」
鑑夜が技名を叫び、敵に向かって両手の平をかざしたその時天魔の頭上から禍々しい色をした逆十字架が落ちる。
天魔にぶつかると逆十字架は消滅した。
敵は徐々に身体の態勢を崩していき、まるで重い物が身体に乗っかているように、重圧を感じている。
そこに、アヴニールが雷の剣を具現化させて、天魔に向かって落下。雷の剣を叩き込んだ。
敵は自分の身体に流れる電撃に悶絶し、更に悲鳴を上げる。
ギネヴィアはアヴニールと入れ替わる形で、天魔に接近、二振りの剣で切り裂く。
「もう少しだな」
剣崎は弓から銃に武器を切り替えて、集中力を高めた一撃、ストライクショットを撃つ。
彼の攻撃は一直線に向かい、当たる筈だった。だが、敵は自分の手近にあるもぎ取れた足を盾のように使用し、これを回避。
だが、攻撃を回避したにも関わらず、剣崎はニヤリと笑った。何故なら……
「俺の攻撃を今度こそ喰らいやがれ!」
花菱が彼に続いて魔法攻撃したからだ。もう、回避手段の無い天魔はそれを身体に喰らい、絶大なダメージをもらう。
しかし、攻撃はそれだけではない。
「アディオス」
「なのです」
鴉乃宮がサンダークロスボウを、そして、鑑夜がアウルを溜めた魔法攻撃を立て続けに天魔へ命中させ、華麗にフィニッシュを決めたのだった。
●エンド
屋敷の客間。
「……っという事だ」
「なるほど、牛のような頭を持ち、蜘蛛の身体をした天魔ですか…… さながら、妖怪の牛鬼のようですね」
鴉乃宮の調査を纏めた報告を聞き、執事はポツリと呟いた。
「それでは、これで私は帰らせてもらう」
「えぇ、報告ありがとうございます、あ。折角ですから私が淹れる紅茶をお飲みください、新鮮な茶葉を仕入れてますよ」
「茶菓子はあるのか?」
「勿論でございます」
執事は笑顔で答えると、鴉乃宮にお茶と菓子を振る舞い、依頼を終えた彼をもてなす。
本当は早く帰りたかった鴉乃宮だったが、彼の淹れた茶と菓子をもらい、心の中で満更でも無かった。