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マスター:馬車猪
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/17


みんなの思い出



オープニング

 金属の肌と翼を持つ女性型サーバントが中を舞う。
 民間撃退士としては実力高めの大規模パーティーがアウルの銃弾と炎を浴びせ、サーバントの表情は変わらず人間達の顔は絶望一色に染まる。
 攻撃が直撃したはずなのにサーバントには傷一つついていない!
「退却、退却しろ!」
 背を向けた男女がビームっぽい破壊光線に焼かれ、銃剣型の刃に切り裂かれていく。
 数分後救援が到着した時点でサーバントは撤退し戦死者はでなかったが、多くが重傷を負い今も病院で呻いている。

●創り手側のじじょー
「けーう゛ぃー……びしょーじょ……ぱきゅんきゅーん」
 昨日発売されたばかりのDVDが再生され中のブラウン管に照らされ、幸せそうな寝顔のだ天使・タナ(jz0212)が狭い室内を漂っていた。
「タナ。起きなさい、タナ」
 だ天使より顔とスタイルと地位と武力の面で上回る天使が、なんとなく遠慮を感じさせる手つきでタナをゆらす。
「うん? ……夢だ寝よう」
 優しい上司なんて空想上の存在なのだ。だからこれは夢。サーバント創りで3徹したせいか妙な夢を見るなーと思いながらタナが目を閉じると、麗しい上司様の米神に血管が浮かんだ。
「起きなさい。あなたが昨日完成させたサーバントの件です」
 目が覚めた。
 着地せずに器用に空中で半回転。
 日本式伝統的土下座スタイルで上司と向かい合う。
 上司天使は困惑しながら、それでも初めて見せる申し訳なさそうな態度で事情の説明を開始した。
 上司の上司が素晴らしい出来のサーバントを接収……するだけでなく自分が創ったことにして同僚達に自慢しながら都市攻略戦に投入したらしい。
 下位の者は服従するのが義務とはいえ、いくらなんでも酷すぎる。だからこの使いづらく使える部下に詳しく説明しているのだが、何故か本人は戸惑うばかりでなんでこのひと(天使)嘘ついているのという視線まで向けてきている。
 不審に思って発言を許すと、タナは体を起こして身振り手振りを交えて話し出す。
「あの子達回避機能ないですし耐久性極小ですよ。活躍はできるよう創りましたけど上の方が喜んで使うよーな能力なんてないです」
 つまりどういうことかというと、どんな攻撃でもよいから数発当てれば壊れるし避けられない。
 今活躍中なのは、致命的な弱点がたまたま人間側にばれていないからだ。
「嘘を言うならもう少し……ああ、サーバントに関して嘘は言いませんねあなたは」
 得意げな顔をするだ天使の前でため息をつく。
「この件は忘れなさい。サーバントによる戦果も損失もあの方のもので、私にもあなたにも関係無い。良いですね?」
「えっ、でも」
 創り手としてのプライドで反論しかけたタナに被せるようにして上司が続ける。
「エネルギーの割り当てを増やしてあげますから」
「新作つくれるヤッター!」
 正座で浮かんだまま器用に万歳するだ天使。
 ブラウン管には、敵を切り裂くロボ風美少女の勇姿が映し出されていた。

●戦闘依頼
 都市防衛戦力が壊滅した。
 一度は救援が間に合ったが、現在救援可能な戦力は君達しかいない。
 転送装置を使って至急現場に向かい、敵を撃退、可能なら撃滅して欲しい。


リプレイ本文

●囮
 コンクリートに大穴が開いている。
 太い鉄骨が夏場のアイスのように溶けて固まっている。
「久々の戦場の空気、良いものじゃないけど懐かしい気もするな」
 重い内容でも声に暗さはない。
 緊張感がないのではなく、佐藤 としお(ja2489)は平常心で敵を待ち受けていた。
「あれかな?」
 地平線のあたりに不審な影が見えた。
 鳥にしては形がおかしく、距離も不自然なほど等間隔。事前情報が正しいなら確実にサーバントだ。
「力には自信無ぇけど……コイツとなら!」
 姫咲 翼(jb2064)が拳を天に向ける。
 高ぶる心と極限の集中がアウルを引き出し、紅の光がお洒落なマフラーを揺らして拳に集中、爆発した。
「契約の印を以って来たれ――Set! スレイプニル【凱】!」
 空間が揺らめく。
 ここではないどこかから銀の馬竜が現れ、荒れ果てたコンクリの上に蹄を下ろす。
「仕掛ける!」
 軽く跳躍して馬竜の背に乗り手綱を持って駆け出す。
 体から吹き出すアウルの影響か、翼の瞳は凱と同じ輝く碧に見えた。
 翼はとしおを信頼し、背後には一切意識を向けずにビルの屋上から屋上へ飛び移り派手に動き、遠くからでも気づかれる囮の役割を果たす。
「期待には応えないとな」
 としおはにやりと笑って翼の後を追う。
 遠くに見えていた影は急速に大きくなっていて、既に翼付きの人型であることがはっきりと分かっていた。
 4対8つの視線と4つの砲門に気づいても止まらない。
 間合いを意識して接近経路を選んだため飛んできた光の束は1つだけだ。
 だがその1つが、翼右足と凱の右脇腹の一部を削り、吹き飛ばす。
「確かに……聞いてた通りすげぇ攻撃だなッ!」
 痛みで体が悲鳴をあげている。
「武装憑依――」
 凱は速度を緩めず、歪む視界で真正面を見つめて不敵な笑みを浮かべる。
「竜螺旋!」
『ッ』 
 サーバントは初めて防御の構えをとり、翼主従が繰り出した一撃を弾く。
 そこでようやく、翼持つ少女達は都市への攻撃を一時中断して撃退士に向かうことに決めた。
 としおは殴り飛ばすようにして翼達を遮蔽物の影に移動させる。
 回復術は正常に発動し、不規則になりつつあった翼の呼吸を安定させる。
「無茶をするっ」
 口元には楽しげな笑みが浮かんでいる。
 視線を動かさずに全体を見てサーバントの位置を確認し、軽く舌打ち。
 最後尾のサーバントはとしお達の退路を断つため大きく迂回しようと、つまりは避難がまだ済んでいない場所へ近づこうとしていた。
「これならっ!」
 射程外の承知の上で発砲する。
 どうやら判断力は低いようだ。4体目も進路を変えて他の3体と同様にとしお達に向かって真っ直ぐに向かってくる。
「欲しい物が二つある時は両方とも手に入れる、そんな人間でね……」
 未だ危険な状態の翼を庇い、としおは3つの光の束の前に立ちふさがった。

●助け
 動きの鈍った撃退士に砲門が向けられる。
 虚ろな穴に集まる光は極めて強く、ひょっとしたら下級天使以上の力があったかもしれない。
「こっちです!」
 としおと翼の袖を小さな手がつかむ。
 柔らかな手のひらごしに深い傷が最低限動ける程度に癒されていく。
「助かった」
「恩に着る」
 2人は小さな手に逆らわずにビルの影に引き込まれた。
 深森 木葉(jb1711)は傷のあまりの酷さに絶句する。
 紫の瞳が涙で潤む。
 でも、目を逸らしはない。
「これ以上被害を出さないためにも、止めな……いえ、倒さなきゃ」
 光纏の一部である瑠璃色の蝶が、戦場でも艶やかに輝く黒髪に触れた。
 既に回復術は使い切った。
 2人に下がるよう指示し、木葉は念珠型ヒヒロイカネから大型の魔法書を取り出し機会を待つ。
 木葉の視線の先、背の低いビルが密集した区画を1人の鬼道忍軍が走り回っている。
 足をつけているのは屋上でもビルの間の道路でもなく、垂直にそそり立つ壁だ。
「捕まえて御覧なさい」
 月臣 朔羅(ja0820)は勢いを止めずに方向転換した。
 進路が前のままなら朔羅の足があったはずの空間を光が焼き尽くし、ビルの窓を壁ごと溶かす。
「参ったわ。直接の戦いじゃ勝ち目がないかも……ね」
 視線を前に向けたまま横へ手刀を振り下ろす。
 アウルにより青白い力場がうまれ、今度は手刀が突き込まれると光輪場力場は崩壊しながら電子刃を撃ち出した。
 朔羅を不意打ちするつもりでビルの影から顔を出した金属製少女に命中する。
 翼と手足の動きが目に見えて鈍り、速度に至っては完全に0になる。
「これで2体の足止め」
 ビルから降りて仲間が潜む更地へ向かう。
 2体のサーバントが朔羅を追うが距離は縮まらない。
 サーバントとしては非常識に近い水準の攻撃力を持つこの少女達は、速度に関しては平凡な能力しか無く、わざと速度を緩めた朔羅に追いつくことがなきないのだ。
 1体のサーバントの翼がより尖った形に変わって加速する。
 無理な加速で姿勢の安定は保てず、大振りに振るった高威力銃剣も朔羅に易々と回避されてしまい追い越してしまう。
「さて。前後左右からの波状攻撃はどう防ぐのかしら」
 言葉もフェイントの一部だ。
「えいっ」
 ビルの窓から上半身を出した木葉が、魔法の本にアウルを注ぎ込む。
 可愛らしい声とは逆に生じた現象は凶悪で、淀んだ力が窓の真下に向かい人型サーバントを絡め取った。
「ごめんなさい。前後と上からだったわね」
 停止したサーバントに追いつく寸前に跳躍し、速度と重さを威力に変えて膝を叩き込む。
「どういう……」
 感触がおかしい。
 強力な、それこそ名の知れた天使並みの防御で完全に防がれた感触なのに、サーバントの核が壊れた手応えがある。
 しかし悩んでいる暇はない。
 1体のサーバントはどんどん近づいてくるし、2体のサーバントが麻痺から回復して50メートルほど遅れて追いかけてきている。
 朔羅は全ての体力を使い尽くす勢いで加速する。
 十数秒後。
 少女型のサーバント3体がキリングフィールドに踏み込んだ。

●待ち伏せ
「黒玉の渦よ、すべてを呑み込め」
 夏の空気にに暗色の気配が混じる。
「ジェット・ヴォーテクス」
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)が術を使う。
 先頭を飛行するサーバントに風が向かい、冷たい闇となりその身を冒す。
 朔羅に向けていた砲門の動きが乱れ、動画を繰り返し再生しているような動きで何度もサーバントが首を振る。
「術式でも貫通しないのか」
 一歩後退する。
 至近距離で見れば目が潰れかねない光の束が、グラルスを掠めて空へ抜けていった。
 朦朧として実質的に動きが止まった個体の十数メートル後ろで、残る2体の、無傷のサーバントが強力すぎる武器をこちらに向けている。
「戦いやすい形になってらおうかな……」
 黒い翼を広げ、2体のサーバントから見て横からリアナ・アランサバル(jb5555)が仕掛ける。
 射程ぎりぎりでAL54を抜き、注意をグラルスから逸らして連携を崩すつもりで引き金を引く。
 当たる可能性は限りなく0に近いと思っていたのに、人型サーバントは全く避けようとしない。鉄の肌に命中したアウルの弾丸は目に見える傷を与えることができなかった。
 リアナは小刻みに動いて敵を幻惑しながら射ち続ける。
 グラルスの飛び抜けて強力な術を浴びても顔色一つ変えなかったサーバントが、急に動きを止めて壊れたマネキンか何かのようにその場に崩れ落ちた。
「そういうことか」
 グラルスはひとつうなずいてから、サーバントの砲撃を上回る威力の術を使う。
 虹色の光の柱は動きの止まった1体と健在な1体を貫く。防御を抜けた手応えは全くないけれども、グラルスはが己の仮説が正しさを確信した。
「ちょっと試したい事がある、協力してもらえるかな」
「手数優先だな? やっとくからちょっと休んでな」
 術行使でふらつくグラルスのことは朔羅に任せて綿貫 由太郎(ja3564)が大胆に近づく。
 1体が朦朧から回復し、残る1体は戦力半減に気づいて撤退に移ろうとしていた。しかし2つの足りない頭は由太郎の動きに釣られて戦闘継続を選んでしまう。
 一見風采のあがらないおっさん撃退士に立ち向かう鋼の乙女。
 予備知識無しでこの光景を見たら、襲う側と襲われる側を誤って認識してしまうかもしれない。
「さて……見るからに色物枠なんですけど本当にあれが防衛戦力壊滅したん?」
 ヒヒロイカネから引き出した高威力拳銃を構えて狙いをつける。
 サーバントの肌は鉄っぽいが体の線が極端に艶めかしい。
 青少年の欲望を理想化して立体化したものそっくりだ。
「ん?」
 銃だか砲だか分からない大型の武器が向けられる寸前、由太郎はそれまでのゆったりとした動きが嘘のように高速で横で飛んだ。
 光の柱が由太郎の足をかすめて更地の地面を溶かす。
「そういうことかあ」
 2つめの砲門が、由太郎の回避先を指向していていた。
 これは腕一本覚悟すべきかと内心思っても顔には出さない。
「綿貫さんっ!」
 砲門ではなく砲門横の金属部分に火花が生じて砲門の向きがずれる。
 綿貫は左手を振って桜庭 ひなみ(jb2471)に感謝を表しながら、右手の拳銃で発砲した。
 滑らかな鉄の肌に命中はしても傷はない。
 だがこれでいい。推測が正しければ内部の崩壊が進んでいるはずだ。
「飛べる人とかが追い込みかけてくれるとありがたいかなあ。」
 わざとらしく視線動かしながら銃を撃ち続ける。
 はっとしたサーバントが由太郎の視線の先を見るがそこには誰もいない。
 いるのは少女型サーバントの頭上。
 アウルを限界まで込めた青い矢を作り出したリアナが、淡々と宣告を下す。
「鉄くずになってもらおうか……」
 加速し消える。
 矢は頭頂にぶつかって砕けはしたけれども、サーバントの動きは明らかに鈍くなる。
「そろそろ攻撃再開してくれー」
 返事は声ではなく水刃だった。
 術でも技でもないただの魔力攻撃は、これまで同様サーバントの装甲を抜けない。
 だが、少女の体内では致命的なひびが生まれつつある。
「むう、硬いな……ってあれ」
 当てればいいやという思いで撃った弾が致命傷を与えたことに気付いて由太郎が一瞬にも満たない間戸惑う。
 最後の1体はその隙を見逃さず、短い生涯最高の動きで狙いを定め引き金を引いた。
 引き金を引く直前に砲身の横に着弾したことに気付いていただろうか。
 光の束の狙いはずれて、由太郎の鼻先をかすめて遠くへ消えていった。
「あはは……あぶなかったです、ね……」
 ひなみは安堵の息を吐く。
 銃を構えた小さな両手は緊張で震えている。
 この戦いで撃った銃弾は4発。全て、サーバントが持つ兵器に着弾している。
 もしひなみが1発でも外していたら撃退士の体に反対側が見える穴が空いていたかもしれない。
 でもまだ1体残っている。
 反撃を受けたら致命傷を負いかねないのを覚悟の上で銃を手に向き直る。
 だがひなみの目に映ったのは発射直前の砲門ではなく、背中の翼を向けて全力で逃げ出すサーバントだった。
「逃げるなんて、ひきょうなのです…」
 リボルバーでは射程が足りない。
 ひなみは心の痛みに耐えるため、少しだけずれた黒のベレー帽に触れた。
「確実に当てていけば……」
 ビルの影に逃げ込もうとした少女の行く手をリアナが遮る。
 銃剣を展開して突きかかるが、遅い。
 リアナは翼を畳んで高度を下げ、最後の準備を整えた。
「貫け、電気石の矢よ。トルマリン・アロー!」
 発動した時点で手応えが違った。
 強大な魔力、強力な魔法書、それらにくわえて時の運まで味方した魔法の矢は決定的な威力でもって鉄の肌を砕く。
 致命的な水準で耐久力が欠けるサーバントは、装甲を撃ち抜いた術に耐えきれない。
 胴も四肢も頭も、全てまとめて爆散し形あるものは何一つ残さなかった。
「壊れる前に写真撮っとけばその手の物が好きな人達に売れたかもしれんな」
 由太郎はヒヒロイカネに銃をおさめて肩をすくめる。
「あの。撃退、できました」
 ひなみが連絡を入れると、街の人々の歓声が回線越しに伝わってくる。
 喜びの声はとても大きくて、詳しく説明しようとするひなみの声はかき消され、報告を終えるまで1時間近くかかってしまった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 ねこのは・深森 木葉(jb1711)
 雷蜘蛛を払いしモノ・桜庭 ひなみ(jb2471)
重体: −
面白かった!:5人

雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
大洋の救命者・
姫咲 翼(jb2064)

大学部8年166組 男 バハムートテイマー
雷蜘蛛を払いしモノ・
桜庭 ひなみ(jb2471)

高等部2年1組 女 インフィルトレイター
空舞う影・
リアナ・アランサバル(jb5555)

大学部3年276組 女 鬼道忍軍