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マスター:Barracuda
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/19


みんなの思い出



オープニング


 撃退士のアルバ(jz0341)は、転送先の光景に言葉を失った。

「うわああああ!!」
「ブブブ」
「か、体が勝手に……助けてくれ!」
「ブブブブブ!」

 街を襲ったディアボロによって市民が危険にさらされている。至急応援を請う。
 そんな一報が学園に入ったのは数十分ほど前のことだった。事態を重く見た学園は、すぐさま撃退士の派遣を決定。派遣部隊の一員として参加したアルバは、現地――都心から離れること数kmの市街地へと向かった。

 そこでアルバと仲間たちが見たのは、空を埋め尽くす、大ぶりのネズミほどはある黒蝿のディアボロの、視界を埋め尽くすほどの大群である。
 アルバたちの目の前で、ディアボロは逃げ惑う市民の頭に次々と取りつき、その体を操りはじめた。恐らくはディアボロの能力によるものだろう、操られた市民の体はアウルの光でうっすらと覆われている。
「あいつら、街の人たちを……!?」
 アルバの声が震えた。
 止めなければと、彼女の本能が告げる。
「こいつ!」
 アルバはクイックショットで黒蝿を射抜くと、市民を道端に避難させ、仲間を激励した。
「みんな、気をしっかり持って! ひとりでも多くの人を救助しましょう!」
 だが、学園側の劣勢は明らかだった。数が違いすぎる。最初は戦意旺盛だった仲間たちも、後から後から押し寄せては市民を連れ去っていくディアボロを前に、次第に諦めの色が浮かびはじめた。
「あの黒蠅ども、市民を街の外に誘導している……」
「あっちは、つくばの方角だ。奴ら、市民を操ってケッツァーの根城まで連れて行く気だ――」

 仲間が言い終えようとしたその時、ふいに彼らの周りが影に包まれた。

「え?」
 アルバが異変に気づくのと、仲間の頭上から巨大な「何か」が落下してきたのは同時だった。
「くっ!!」
 地面を揺らす振動をこらえ、土煙を振り払うアルバ。
 数秒前まで仲間がいた場所に視線を送ると、そこに鎮座していたのは――巨大なクマのぬいぐるみである。四肢はアルバの胴よりも太く、立ち上がれば教室の天井に頭が届きそうな大きさだ。下敷きになった仲間は即死だろう。
「敵……だよね」
 問うまでもないことを、恐る恐るアルバが確認すると、それに応じるようにクマが顔を向けた。
「コフー。コフーコフー」
 鉤爪の生えた手で土ぼこりを払いのけると、クマはアルバに狙いを定めて屈みこむ。
 突進の体勢である。
「コフーーー!!!」
「……!!」
 巨大な砲弾と化して猛迫するクマ。反射的に身を切り、紙一重で突進をかわすアルバ。
 直後、派手な衝撃音とともに、クマの激突で小さなビルが傾いた。


 一方その頃。

「あーあ、ほんと他愛ない戦いじゃないの」
 マンションの屋上で、傾いたビルを横目に見ながら、悠然と戦いの見物を決め込む者がいた。幼稚園児といって差し支えないような、幼い子供の姿をした女悪魔である。
「ほらガンバール! さっさと潰すんじゃないの!」
 幼女はモノトーンで統一された軍服型のワンピースを着用し、背中には丸く薄い二枚羽が並んでいた。セミロングの金髪を左右で結わえ、そばかすが散った頬に浮かぶのは、見るからに生意気で性悪そうな眼差し。その両目は、ハエを連想させる青みがかった複眼状になっている。
 先程から彼女が声援を送っているのは、アルバと戦うクマのぬいぐるみ「ガンバール」であった。
「ほらそこ! ああもう、惜しい!」
「ブブブ……」
 篭手をはめた両手で地面を叩いていると、幼女の背後に黒蝿のディアボロが現れた。支配しているのは、小学生くらいの気絶した少年だ。
「あら、その子アウルに覚醒したの? なかなか可愛い子じゃないの」
 眼下の戦いに背を向けると、幼女は少年をひざまずかせ、彼の顔にすっと口をつけた。
「やっと、この体とお別れじゃないの……」
 誇らしげな表情で少年の顔から口を離し、自分の小さな両手をじっと見つめる幼女。
「ふんふん♪ ……ふんふん……」
 それから十数秒ほど無言で立ち尽くした後、幼女は忌々しげに悪態をつき始めた。
「こっっっっっのバカのウスノロの役立たず! やっぱり養殖ものじゃダメじゃないの!」
「ブブ……」
 操っている少年よりひとまわり小さい幼女が送る非難の視線に、ディアボロは震え上がった。
「期待して損したじゃないの。ウジ虫みたいに潰される前に、さっさと失せるんじゃないの!」
「ブブブブー!」
「ふん、とんだポンコツじゃないの。後でチャールストンにたっぷり文句を言ってやろうじゃないの」
 幼女は走り去ったディアボロには目もくれず、真下で繰り広げられる戦いに再び視線を注いだ。
「あの同族、案外しぶといじゃないの。人間に降るなんて、バカな子……ん?」
 その時、ふいに幼女の注意が空へと向く。
「クエー!」
「早かったじゃないの、ドジッター」
 天を仰ぐ幼女の視線の先には、巨大なハゲワシの姿があった。悠々と広げた両翼は、大の男を3人は抱えられそうだ。
「あら、その首に巻いてるものはなに? 見せるんじゃないの」
「クエー!」
 降り立ったハゲワシのぬいぐるみ――ドジッターの首には、小さな筒が括り付けられていた。筒の蓋には、炎を背にしたグリフォンが意匠されている。ヒエマリスが所属する、ケッツァーの紋章だ。


「エンハンブレからの指令? いったい何の用じゃないの?」
 幼女は筒を開け、中の手紙に目を走らせた。
「……はあ? なにそれ。バカじゃないの?」
「クエ?」
 しだいに目つきが険しくなってゆく幼女の表情を、ドジッターが不安そうに眺める。
「『チャールストンよりヒエマリスへ。作戦領域付近にて行動中のザンスカルと合流し、直ちにエンハンブレに帰還せよ。合流後の行動については、ザンスカルの指示に従うこと。なお、これは少将グリマルディからの命令である。 以上』
……ずいぶん、ふざけた手紙じゃないの」
 怒りに震える手で指令書を握りつぶすと、悪魔の幼女ヒエマリスは当り散らすような口調でガンバールに命じた。
「ガンバール! さっさとその同族を叩きのめすんじゃないの!」
「コフー、コフー!」
「面白い、楽しめそうだ、ですって? そんな弱虫相手に手こずるんじゃないの!」
「コフー! コフーコフー!!」
「そうじゃない? 新手が来た?」
 ガンバールの言葉に目を凝らすと、傷つき膝をついた同族の撃退士の前に、ディメンションサークルの紋様が見えた。
「ふん。そういうことは早く言わなきゃダメじゃないの」
 ヒエマリスの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。「天然もの」を手に入れる絶好のチャンスを、逃すわけには行かない。
「ついて来なさい、ドジッター! さっさと奴らを叩きのめして、目当ての『ブツ』もいただいて、ザンスカルと少将サマに煮え湯をがぶがぶ飲ませようじゃないの!」
「クエー!」
 二枚羽を背に、宙に身を躍らせるヒエマリス。両翼を広げたドジッターがそれに続く。

「ご機嫌ようじゃないの、おバカな同族さん」
「おまえ……!」
 返答がわりに飛んできたアルバの銃弾を篭手で弾き飛すと、ヒエマリスは両目の複眼を光らせて笑った。
「同族に向かって随分なご挨拶じゃないの」
「ふざけるな! 皆を元に戻せ!」
「それは出来ない相談じゃないの。お仲間ともどもぶちのめされて、メソメソ泣きながら退場してもらおうじゃないの!」
 ヒエマリスが言い終えると同時に、地面に浮かぶディメンションサークルから、撃退士たちが姿を現した。


リプレイ本文


 白昼の市街地。
 立ち並ぶビルの谷間を、黒蠅に取りつかれた市民たちが群れをなして歩いてゆく。
「た、助けてくれえええ!!」
「誰か! 誰か!!」
 体を操られながら必死に助けを求める人々を、アルバは為す術なく見守るしかなかった。
 そんな彼女の顔を満足そうに眺めるのは、ケッツァー所属の悪魔ヒエマリス。
「いい気味じゃないの。残ってる撃退士はあなただけじゃないの」
「そんな……」
 崩れ落ち、膝をつくアルバを見下ろしながら、ヒエマリスは配下の召喚獣たちに命じる。
「ほらガンバール、ドジッター。おまえ達も笑うんじゃないの!」
「コフー! コフコフコフコフ」
「ウチの――」
「クエクエクエクエ」
「アルバちゃんに――」
「ん? 何者じゃないの?」
「手出ししてんじゃねぇぞコラアアアアアアアアアアア!」
 浪風 悠人(ja3452)がディメンションサークルから跳躍し、眼前の敵に封砲を叩き込む。
「随分活きのいい撃退士じゃないの。お前たち、どくんじゃないの」
 対するヒエマリスは、召喚獣を脇に下げ、両腕の篭手を交差して防御。よろけもせずに封砲を受け止める。
「悠人お兄さん……」
 呆気にとられるアルバの肩を叩いたのは、神谷春樹(jb7335)とエイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
「大きな怪我が無くてよかった。よく頑張ったね。後は僕たちもいるから安心して。もうひと踏ん張り頑張ろうか」
「やあ、アルバさん、お久しぶりですね。 ヴァニタスの皆さんはお元気ですか?」
 さらに浪風 威鈴(ja8371)、阻霊符を発動した川澄文歌(jb7507)がサークルから現れる。
「もう……大……丈夫……。アルバ……」
「もう大丈夫だよ,アルバちゃん。一緒にがんばろう!」
 そんな撃退士たちを見て、ヒエマリスは二枚羽を広げて飛び上がる。
「ガンバール! ドジッター! ヒエマリスの名にかけて、キリキリ舞わせてやるんじゃないの!」
 撃退士対ケッツァー、戦いの始まりである。


「メソメソして退場するのは、そっちなんだから! ぼっこぼこにしちゃうよー!」
 高瀬 里桜(ja0394)がミューズの紋章を掲げ、ドジッターに狙いを定めた。
 紋章の筆先から審判の鎖が飛び、じゃらりと音をたててドジッターの足に絡みつく。
「クエー!」
 いななきと共に光る鎖を振りほどき、上空を旋回するドジッター。麻痺の効果はないようだ。
「なら、これでどうだ!」
 悠人の獄炎珠から、炎弾状のアウルが発射。
 赤い弾道を描いてドジッターの翼に命中し、黒い羽毛が宙を舞う。
 対するドジッターは悠人をじろりと睨むと、振りかぶった翼から羽根を飛ばす。
「威鈴! アルバちゃん! あのハゲワシに狙いを合わせて!」
 アスファルトに突き刺さる羽根の芯を回避しながら、後方の威鈴とアルバに指示を出す悠人。
「任……せて……」
「うん、分かった!」
 照準を合わせ、威鈴はクイックショットを、アルバはイカロスバレットを発射。
 対するドジッターは身を切って反転し、ふたりの弾を回避。
「コフー! コフー!」
 いっぽう地上では、ガンバールが周囲を見回していた。右腕には、うっすら刃傷が走っている。
「コフー!」
 後ろへ一歩とび退がり、両腕で顔を塞ぐガンバール。
 ひゅっと風を切る音が聞こえたかと思うと、今度は左腕に刃傷が走る。
(やれやれ。そう簡単にはいかねェか)
 一撃を放ったのは、ファイエルンを手に、ハイドアンドシークで身を隠した法水 写楽(ja0581)だった。
 写楽ら撃退士側の作戦は、敵を分断しての各個撃破。彼の担当はガンバールである。
(嬢ちゃンにはもう少し、外見相応に可愛らしいヌイグルミをお供に連れて欲しいンだが……ま、無理かねェ)
 写楽は内心で苦笑しつつ、みたび攻撃の機会を伺いはじめた。


 一方、悠人らの後方。
 電柱の上から戦いを眺めるヒエマリスを、エイルズレトラと召喚獣のハート、そして春樹が取り囲んだ。
「こんにちは、お嬢さん。お一人で戦う気ですか? パパかママを呼んでも良いんですよ?」
「こんにちは、おチビちゃん。迷子じゃないの? お巡りさんなら向こうじゃないの」
「おやおや、これは手厳しい」
 攻撃を逃れようと、羽を広げて上空に逃げるヒエマリスを、エイルズレトラが天羽々斬の一閃で妨害。
 背後をハートで塞ぎつつ、ヒエマリスの砲弾を避け、相手の出方を伺う。
(ここで挑発に乗るような単細胞ならどうとでも扱えますが、さて)
 ハートと自分でヒエマリスの前後を囲み、ゆさぶる。エイルズレトラの十八番であった。
 エイルズレトラを攻撃すれば背後からハートが襲い、ハートを攻撃すれば、その背後をエイルズレトラが襲う。
 彼らと春樹の包囲を突破するのは、並大抵では不可能だ。
(物魔ともに防御力がずば抜けて高い。そのうえ再生持ち。恐らくは、召喚獣を別に動かすスキルも持っている)
 挑発を続けながらも、エイルズレトラの心中は冷静そのもの。
 把握した情報をもとに、ヒエマリスの能力にあたりをつけ、さらに情報を引き出すべく挑発を続けた。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言いますが、さて、あなたの鉄砲を僕に当てられるでしょうか?」
「あなた、やるじゃないの。ちょっとした腕前じゃないの」
「光栄です。あなたの腕前も素晴らしいですよ。紙一重で避けるタイミングを測れるくらいに」
 砲撃を回避し、さらに挑発を続けるエイルズレトラ。
 飛び上がろうとするヒエマリスを、再び一閃で妨害する。
「学習しないお嬢さんですねえ。何とかと煙は高い所が好きと言いますが、あなたもその類ですか?」
「……ふうん。そういうことじゃないの」
 この挑発を、しかし、ヒエマリスはため息で返した。
「どうしました? 手加減せず、当てても良いんですよ?」
「その前に、ひとつ質問じゃないの。おチビちゃん」
「なんですか? 僕より小さなお嬢さん」
「この『お遊び』、いつまで続けるんじゃないの?」
「これはこれは……何を仰るかと思えば」
 エイルズレトラは吹き出すと、子供を諭す口調でヒエマリスに語りかけた。
「先程から翻弄されっぱなしのお嬢さん。まさか僕とハートの包囲をいつでも抜けられると、そう仰りたいのですか?」
「当然じゃないの。あなたの戦法、ただの子供だましじゃないの。プップクプーじゃないの」
 ヒエマリスはあっさりと言い放った。
「あなたの相手は飽きたじゃないの。そろそろ向こうの戦いに加勢しようじゃ――」
「悪いけど、そうはさせない。皆が仕事を終えるまで君にはじっくり付き合ってもらうよ」
 そこへ、春樹がアシッドショットを発射。ヒエマリスはこれを篭手で防御。着弾箇所が泡を立てて変色し始めた。
「よそ見をするなら好きにするといいよ。その間に今のをバシバシ当てさせてもらうから」
「あら、面白いスキルじゃないの。なら、これでどうじゃないの?」
 篭手に唇を這わせるヒエマリス。口を離すと、変色した箇所を白い粒が覆っていた。
(動いている? まさか、あれは……!!)
「この子たち、腐ったものは大好物じゃないの。バシバシ撃つといいじゃないの」
 ヒエマリスは光沢を取り戻した籠手で、さっと白い粒――蛆虫を払いのけた。
「ガンバール! さっさとお邪魔虫どもを片付けるんじゃないの!」
「コフー!」
 路上で吼えるガンバールの視線が、前方で戦う悠人らへと向いた。


(前衛から切り崩そうってか? そうはいかねェぜ)
 敵の機動力を殺ぐべく、潜行で身を隠した写楽の一撃が、ガンバールの前足へと飛ぶ。
 だがその刹那――ガンバールの顔が写楽の方を振り返った。フェイントである。
「コフー!!」
(やッべェ!)
 鉤爪でアスファルトを蹴り、写楽めがけて突進するガンバール。ワゴンのような体躯が、猛スピードで迫る。
「バカ熊……よそ見……するな……」
 そこへ威鈴の放った回避射撃の矢が、ガンバールの肩に命中。
 僅かに進路を逸れたガンバールは写楽を跳ね飛ばし、道沿いのビルに激突する。
 写楽の体が宙を踊り、道路に叩きつけられた。
「写楽君、大丈夫!?」
「危ねェ……ありがてェ、助かったぜ」
 口端の血を拭って立ち上がる写楽を、駆け寄った里桜がライトヒールで癒やしていく。
 だが、それもつかの間。二人の周囲をドジッターの巨大な影が覆った。
「クエー!」
 仕掛けたのはドジッター。大きく羽ばたく両翼から、黒い羽が雨アラレと里桜に撃ち出される。
 すかさず悠人が射線を塞ぎ、飛んできた羽根をシールドで弾き飛ばすも、全てを防ぐことはできなかった。
 畳針のように長く鋭い羽の芯が里桜に刺さり、じわじわと腕から血が滲んでくる。
「コフー! コフー!」
 そこへ背後の崩れた瓦礫を吹き飛ばし、再びガンバールが姿を現した。
 ちょうど写楽や悠人たちを、東西からドジッターと挟み込むポジションである。
(挟まれた!?)
 悠人はこの時、ドジッターの攻撃が誘いだったと気づいた。
 ガンバールを守るために後ろを向けば、ドジッターは自分や写楽、里桜を狙うだろう。
 写楽の傷はまだ癒えず、動かすわけにはいかない。かといってこのままでは、背後をガンバールに晒すことになる。
 ガンバールと対峙しているのは威鈴とアルバだ。2人があの突進を食らえば、ただで済むはずがない。
(ここまでか)
 ガンバールとドジッターの視線が、悠人へと向いた。
 悲壮な決意で踏ん張るも、落ちるのは時間の問題だ。
 と――
「やっと背中を見せましたね,ハゲワシさんっ」
 文歌の声が割り込んだのは、その時だ。
 明鏡止水で身を隠した文歌が、ドジッターの背に破魔の射手を発射した。

 悠人へと狙いを定め。
 油断している敵に。
 意識しない背後から。
 文歌、渾身の一撃である。

「クエーーー!!」
 絶叫をあげ、ドジッターの巨体がゆらいだ。
「皆さん,今ですっ!」
 撃退士が、一斉に動いた。
「よーし、いっくよー!」
「……落ちろ……」
 そこへ、里桜のレイジングアタックと威鈴のクイックショットが胴を貫く。
 バランスを崩して通りのビルに激突、そのまま道路に墜落するドジッター。
「とンだオセロゲームだねェ。おっと、逃がさねェぜ?」
 よろめきながら立ち上がり、飛び立とうともがいたところへ、写楽が跳躍。
 ファイエルンがドジッターの翼を切り裂く。
「コフー!」
 そこへ後方から、ガンバールが土煙をあげて迫る。狙いは写楽だ。
 即座に悠人が進路へと割り込み、シールドを展開。腰を溜めて防御態勢を取った。
「行かせるか!」
 衝撃。ガンバールの突進がシールドを突き破り、弾き飛ばされた悠人の体がビルのコンクリート壁に叩きつけられる。
「川澄さん、ドジッターを!!」
 亀裂の入った壁から崩れ落ちた悠人が、声を振り絞って叫ぶ。
「これで,終わりですっ!」
「グェーーー!!」
 文歌の放つ二発目の矢に貫かれ、ドジッターは光の粒となって消えた。


「残った敵は俺達が叩く。アルバちゃんは川澄さんと、街の人達を助けに行って」
「分かりました、お兄さん!」
「はいっ。行こう,アルバちゃん」
 残った敵を仲間に任せ、文歌とアルバは市民の救出に回った。
「アルバちゃん,一般の人に当てないようにクイックショットでよく狙ってね」
「うん、文歌お姉さん」
 抗天魔陣で敵の目を欺きつつ、ディアボロを射抜いてゆくアルバ。
 慣れた動きで市民を担ぐと、ふと背中に文歌の視線を感じた。
「どうしたの、お姉さん?」
「ううん。アルバちゃんもしばらく見ないうちに強くなったみたいだね」
「そ、そう? お姉さんや他の皆に比べたら、まだ全然……」
「ふふっ。最後まで一緒に頑張ろう!」
 赤くなるアルバに微笑みながら、ふたりは市民を救出していった。
「僕達は学園の撃退士です。今助けますから、安心してください!」
「怪我はありませんか? もう少しの辛抱ですよ」
 アルバがディアボロを射抜き、文歌が負傷者を治癒膏で治療。
 こうしてふたりは、時間が許す限り救出活動を継続し、そこそこの数の市民を救出することに成功した。
 それから市民を安全な場所に避難させ、文歌が撃退署への要請を出し終えたころ、仲間からの連絡が入った。
「お姉さん、神谷先輩が替わって欲しいって」
「ありがとう,アルバちゃん。……はい、川澄です」
『神谷です。先ほど応援部隊から連絡が入りました。彼らの遭遇した悪魔が、市民を連れて北に向かっているそうです』
 春樹の緊迫した口調は、今の状況が良くないことを暗に示していた。
「分かりました。急いで追いかけましょうっ。そういえば,ヒエマリスちゃんは?」
『ほとんど手の内は探れなかった。マステリオ君は、何かしら暴けると踏んでたみたいだけど……』
「暴けなかったんですか?」
『……うん。それが……』


 春樹の話は、時間を数分ほどさかのぼる。

「あのバカ、しくじったんじゃないの」
 ドジッターの召喚を解除したヒエマリスは、思わず歯ぎしりした。
「ガンバール、時間じゃないの! 『ブツ』は惜しいけど、撤退じゃないの!」
「お待ちなさい、お嬢さん。大事なことをお忘れですよ」
 ヒエマリスの行く手をダイナモウォークで遮りながら、エイルズレトラが笑う。
 尻尾を巻いて逃げる前に、自分とハートの囲いを抜けてみろ――彼の目は、そう言っていた。
「まぐれ当たりを期待して、砲弾で僕らを撃ち払いますか? それとも、ガンバールの助けを借りますか? 全力移動? 目くらまし? さあ、今この場で抜けてもらいましょうか。言っておきますが、ヒリュウの召喚時間は長いですよ」
「手の内? そんなものいらないじゃないの」
 それから彼女が取った行動は、いたってシンプルだった。
 闇の翼を広げて、上空へと飛び上がる。これだけだ。
「どう? おチビちゃん」
 エイルズレトラとハートを見下ろしながら、ヒエマリスは笑った。
 傍で話を聞いていた春樹は、ヒエマリスの意図が分からない。あれがどうして、包囲を抜けたことになるのか?
 だがその疑問は、次のヒエマリスの一言で氷解した。
「私も召喚獣使いだから知ってるんじゃないの。召喚獣の中には、高い所を飛べない種がいるって」
(――!!)
 春樹の顔が凍りついた。
 ヒリュウが飛べるのは地上10メートルまで。それより上空の敵をヒリュウは追えない。背後を取るなど言うに及ばずだ。
「ほ〜ら。お兄さんの表情、図星じゃないの。おチビちゃんが私を飛ばせまいとした理由、これで説明できるじゃないの」
 話は終わりとばかり、ヒエマリスはパンと手を打ち鳴らした。
「だけど私もおチビちゃんに付き合って、時間を潰しちゃったじゃないの。だから『お遊び』はあなたの勝ちじゃないの」
 ヒエマリスはそう言って手を振ると、撃退士の追撃を振り切ったガンバールと共に去ったのだった。


 ケッツァー所属の悪魔、ヒエマリスの撤退を確認。
 市民救出のため、追跡を続行されたし。

 8人に新たな指令が届いたのは、それから間もなくのことだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
重体: −
面白かった!:9人

『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
法水 写楽(ja0581)

卒業 男 ナイトウォーカー
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師