.


マスター:Barracuda
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/20


みんなの思い出



オープニング


 シマイ=マナフの敗北から数日後。

 種子島北西の海中に展開したゲート内で、朱叉嘴はコアを介して魔界にいる伴侶に連絡を取っていた。
「シマイが死んだ、だと? ……そいつは本当か?」
 太い男の声と共に、紺碧のコアが白く明滅する。声色には、半信半疑の色があった。
「ああ、間違いないよ。騎士様は『死んだ』」
 朱叉嘴は確信の表情を浮かべて言った。

 彼女はシマイが討たれた現場に居合わせたわけではない。
 だがつい先ほど、彼との連絡用に預けておいたディアボロから、シマイの敗北を裏付ける情報がもたらされたのだ。

 ヴァニタスのリーンが戦死し、楓もまた、主であるシマイと決別したこと。
 シマイの立てこもった結界が、撃退士との戦闘で失われたこと。
 冥魔側の本陣が陥落し、島の北部が撃退士の手に落ちたこと。

 これらの事実を繋ぎ合わせれば、シマイの敗北は火を見るより明らかだ。まずシマイは生きていまい。
 よしんば生きていたとしても、これだけの失態を犯した彼に、魔界で返り咲く望みなどあるはずもない。
 それ故に、朱叉嘴は断言したのだった。

「騎士シマイは『死んだ』」――と。

 シマイが敗れた以上、撃退士達は島に残る冥魔勢力の徹底的な掃討を行うはずだ。
 幸い朱叉嘴のゲートの位置を学園側は知らないようだが、発見されるのは時間の問題だろう。

「大将が落ちたなら、長居する理由もあるまい。もう潮時だろう、戻って来い」
「ああ、そうするよ。それにしても……」
 明滅するコアにくるりと背を向けると、朱叉嘴は眼前のディアボロたちを見つめた。
「残念だねえ。もう少しで、この『新型』のテストも終わるところだったのにさ」
「ほう。そいつが? 見たところ、今までの奴と大して変わらんようだが」

 朱叉嘴と男の目に映るのは、大剣を手にした3体の魚人である。
 2メートルほどの身長を誇る、サメのようなボディ。体の両側から生える、水かきのついた手足。
 男の言葉通り、その外見は今までの魚人型ディアボロと大差ない。せいぜい武器が銛から剣に変わったくらいだ。
「あんた、悪いけど少しだけ帰りを待っておくれよ」
 朱叉嘴がコアに向き直って言った。
「騎士様を下した奴らの力が、どの程度かを知っておきたい。先々、戦うこともありそうだからね」
「仕方のない奴め。熱くなりすぎるなよ」
「ふふ。心配無用さ、旦那様」

 通信を終えた朱叉嘴は、ほどなくしてディアボロ達と共に出撃した。


 数刻後、種子島本部。

「三連沢さん、西之表に展開してる撃退士から連絡だ。例のでかいサカナが、また浜辺に現われたって」
「なに、奴が?」
 部下の星野睦美から連絡を受け、三連沢 時雨の顔がふいに険しくなった。
「ようやくシマイを下したというのに……数はどの程度だ」
「3匹。何だか、これまで戦ったサカナとは全然違うって言ってる。武器も、スキルも、動きも全部」
「……新型か」
 三連沢は爪を噛んだ。
(シマイが密かに作成していたのか? いや、あり得ん。奴にそんな余裕はなかったはずだ)
 そこへ星野が、新たに判明した情報を次々と報告する。
「連中、海から突然出てきたって言ってる。動きも連携が取れてて、こっちは重傷者も出始めてるって」
「シマイが敗れてもなお統制を失わない……か。となると、シマイとは別の指揮下にあると考えるべきだな」
「待って、三連沢さん。新手が来たって言ってる」
「新手だと?」
「うん。戦鎚を持った女だって。……たぶんこいつが、指揮官だ」
「なぜ分かる?」
 当然の疑問を投げかけられ、星野は一瞬だけ躊躇して言った。
「私が魔界にいた頃、親父――前の主から聞いたことがある。悪魔の中には水中の戦いに特化した種族がいて、その中に、傭兵として各地を転々とする武装集団がいるって。その時に教えてもらった情報が、いま現場から送られてくるものとピッタリ合うんだ。まさか種子島に来てたなんて……」
「そういうことだったか。となれば、一刻の猶予もないな」
 種子島における冥魔勢の脱落は決まったようなものだ。今さら小勢があがいたところで、流れは変わらないだろう。
 そんな中、あえて攻勢に出てくる敵の狙いが何なのかは分からないが、次に控える戦いのためにも、被害は最小限で抑えなければならない。
 三連沢は椅子を蹴るようにして立ち上がり、星野に指示を出した。
「俺は斡旋所に依頼を出してくる。お前は応援を手配して現場に急行しろ。俺もすぐに行く」
「ああ、分かったよ――おっと」
 星野は学園の制服を羽織ると、三連沢に一礼した。
「星野睦美、直ちに現場に向かいます」
「うむ。急げよ」
 三連沢は微笑んで頷き、斡旋所へと駆け出した。


リプレイ本文


 7人が到着した浜辺には、すでに敵が待ち構えていた。

「なるほど、あれが新型か」
 学園が「大叉嘴:弐型」と呼称する3体のディアボロを見て、レイ・フェリウス(jb3036)がつぶやく。
(作戦通りにいけば、弐型は大丈夫かな。それより、気になるのは……)
 そう思ってレイが視線を送ったのは、弐型の後方にたたずむ人影だった。

「あれが敵の司令官ですか」
 ツヴァイハンダーを構えるネイ・イスファル(jb6321)の目も、その人影――女悪魔の姿を捉えていた。
 朱色の肌に、黒い髪。サメを思わせる翠色の目。手に携えるのは、錨を象った巨大な戦鎚だ。
 学園の情報では、ディアボロの主である可能性が高いという。

「なんにせよ、騒ぎを起こすようであれば、容赦なく」
 アウルを纏ったファリス・メイヤー(ja8033)がランタンシールドを構える。
「討たせていただきます。この力の及ぶ限り」

「みんな、気をつけよう! 固まらず、離れず、だよ!」
 鳳凰を召喚したファラ・エルフィリア(jb3154)が、仲間たちに声をかけた。
「さぁ一緒に頑張るのだ!」


 最初に動いたのは、柊 悠(jb0830)とリーア・ヴァトレン(jb0783)だった。
 ふたり揃って召喚したストレイシオンを、それぞれ左右の弐型に差し向ける。
 少し遅れてネイが続き、残る中央の弐型へと走った。

 まずは弐型のターゲットを悠、リーア、ネイに絞らせ、敵をバラバラに引き離す。
 その後3人が注意を引き続け、釣った敵を各個撃破。これが撃退士達の作戦だった。

 ストレイシオンと共に、弐型へと走る悠。
 と、ふいに両端の弐型が中央へと移動した。3体ひと組で行動するつもりのようだ。

「これでどう!?」
 リーアのストレイシオンが右端の弐型を威嚇するも、敵の動きに変化はない。
 悠もトリックスターを駆使し、左端の弐型に召喚獣で体当たりを敢行する。
 敵はこれを大剣でガード。命中こそしたものの、誘いに乗った様子はない。

(注目は……通じませんか)
 同じく閃滅をガードされたネイが、事前情報の一文を思い出し、内心で舌打ちした。

――敵は魔法防御と特殊抵抗に優れる個体と推定される。注意されたし。

 撃退士の作戦は、弐型が3人に誘い出され、戦力を分散させることを前提としたものだ。
 しかし、敵は初手から撃退士達の読みに反する行動を取ってきた。
 挑発が通じず、単独でも動かずとなれば――戦法を変更せざるを得ない。

 攻撃のために先行した悠の召喚獣に、2体の弐型から石走が浴びせられた。
「あ……危ない! 戻って、ストレイシオン!」
 苦しげな主の言葉に応じ、召喚獣が後方へ退がる。すかさずそこへ、残る1体が水檻を放った。
 たちまちドームが盛り上がり、悠とストレイシオン、ネイと鳳凰が囚われる。

 負傷した仲間を助けるべく、撃退士たちがドームへと向かった。
 弐型たちも負傷した悠を虎視眈々と狙いながら、撃退士たちの反対側に陣取る。

 場に漂う一触即発の空気。
 それを後方で見物する朱叉嘴にむかって、ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)が問いかけた。
「どうやら、あんたが司令官のようだねぇ……隙の無い佇まいといい、随分と強そうだ。今日は部下の腕試しかい?」
 無言の朱叉嘴に向かって、ジーナはさらに続ける。
「一応我々も傭兵のはしくれだ。あんたの部下をあたしらが倒せたなら、ご褒美にちょいと手合せを願っても構わないかねぇ……? 敵うとまでは思わないが、あんたのような相手を前にすると腕が疼くんでね。その強さ、見せておくれよ」
「……ふふふ。それはあんた達次第だねえ」
 朱叉嘴の言葉に、ジーナが問い返した。
「どういうことだい?」
「変な後腐れは残したくないってことさ。撃退士サマを傷物にして学園から睨まれるのも面倒だしねえ」
 目を細めた朱叉嘴が、くつくつと含み笑いを漏らす。
「まずは前座どもを片付けるんだね。それで立ってられたら、受けてやるよ」
 それだけ言うと、朱叉嘴は観戦の体勢に戻った。加勢する気はないらしい。
「……上等じゃないか。その言葉、忘れるんじゃないよ」
 静かな熱を帯びた声で、ジーナが返した。


「そういうことなら話は早い。さっさと終わりにしようか」
 ドームが消えると同時に、セプテントリオを構えたレイが、弐型の一体へと跳躍。
 弐型の側面から、ヘルゴートで強化されたランカーを放つ。
 だが、弐型はそれを大剣でガード。ダメージは与えたものの、致命傷には程遠い。
(受けた!?)
 敵の動きに、レイは舌を巻く。頭の両脇に位置する弐型の魚眼は、側面の攻撃にも対応できるようだ。

 3体の弐型が、大剣を構えて動いた。悠を標的に、立て続けに大剣を薙ぎ払う。
 ストレイシオンによる防御力増加効果も空しく、負傷した悠が気絶。ストレイシオンも消滅した。
「今助けます!」
「……やってくれるねぇ」
 駆け寄ったファリスとジーナのヒールによって、悠が意識を取り戻す。
 重体こそ避けられたものの、まだ傷口は塞がっていない。

「くらいなさーい!」
 そこへ鳳凰の爪とリーアのトリックスターが、側面と背後から連続で撃ち込まれる。狙うはレイが攻撃した弐型だ。
 命中。敵の動きが少し鈍くなってきた。ダメージが蓄積されているようだ。

 そこへ、弐型の1体が石走をファリスへ放った。
「させません」
 すかさずランタンシールドで受けるファリス。彼女の盾とアウルの鎧が、ダメージを軽微にとどめる。
 だが、敵は追撃の手を緩めない。次なる1体が、ファリスの傍に立つリーア目がけて石走を放った。
「うぐ……」
 スタンに倒れるリーア。すぐさまジーナが駆け寄り、クリアランスでこれを治す。
(まずいね。防戦一方だ)
 3体目の弐型が、再度水檻を発射。
 レイとネイ、リーアのストレイシオンをドームに取り込んだ。


 一方、朱叉嘴は撃退士の戦いを見て確信した。
(連中は、弐型の弱点に気付いていない)

 中近距離は弐型が最も得意とする間合い。
 石走でスタンさせ、そこへ追撃の薙ぎ払いを仲間たちが叩きこむのが基本スタイルだ。

 そんな弐型の弱点とはいったい何か?
 それは「周囲を敵に固められること」だ。

 四方を囲まれた状態では、弐型の攻撃手段は大幅に限られてくる。
 連携の起点である石走は射程外で使えない。薙ぎ払いによる巻き込みもまず不可能。
 水檻を駆使しても、初期型と違って墨で視界を奪うことも出来ず、死角からの攻撃を避ける術もない。

 朱叉嘴が最も恐れていたのは、撃退士が序盤から猛攻に出ること。
 すなわち、弐型の1体を取り囲まれて瞬殺されることだった。
 いくら弐型といえど、2対10では勝ち目はない。数の暴力の前に圧殺される。

 幸いというべきか、朱叉嘴の心配は杞憂に終わり、状況は弐型優勢へと傾きつつある。
 だが、まだ勝敗が決したわけではない……朱叉嘴はそう考えていた。
 相手はあのシマイを下した奴らなのだ。このまま大人しく敗北など、してはくれまい。


(しまった……!)
 水檻の中で、レイが歯噛みした。
 敵は先ほどから、自分とネイを視界から離さないよう立ち回っている。
 ひと通りこちらと刃を交えたことで、脅威となるアタッカーに目星をつけたのだろう。
(オンスロート……駄目だ。味方を巻き込んでしまう)
 攻撃を躊躇するレイの眼前で、復帰したリーアがバビエカレインズの一撃を負傷した弐型に放つ。
「ちょーしに……乗るなー!」
 命中した弐型の動きが、さらに鈍くなった。ダメージは確実に入っている。
 だがそこへ、ふたたび敵の追撃が浴びせられた。石走が命中し、意識が飛んだファリスの体がぐらりと傾ぐ。

「ファリス!!」
 地に倒れ伏したファリスに、クリアランスを施そうと駆け寄るジーナ。治癒膏を手にファラも続いた。
 回復役のファリスがここで倒れれば、こちらの劣勢は覆せないものとなる。
「しっかりおしよ!」
 治療を受けたファリスは、ふらつきつつも立ち上がった。
 そこへ、待っていたとばかりに2体の弐型が跳躍する。
 敵はいずれも大剣を振りかぶっていた。薙ぎ払いを2連撃で繰り出す気だ。
「落ちなさい!」
 悠が傷口を押さえて進み出ると、先頭の1体に最後のトリックスターを放った。
 命中。だが、攻撃力の低い悠の一撃は、敵の足を止めるには至らない。

 弐型の大剣が、次々と薙ぎ払われた。
 一撃目。巻き込まれたファラが負傷し、ガードを突き破られたファリスは気絶して再び倒れた。
 二撃目。大剣が3人の生命力をさらに容赦なく削り取る。

(まずい、このままじゃ……!)
 運よく敵の攻撃を逃れたジーナの体が考えるより先に動き、ファリスに最後のヒールを施した。
 ファラとて傷は浅くないが、ファリスのそれは命にかかわる。

 そこへ弐型3体が、さらなる猛攻を怒涛のように浴びせかけた。
 ファラとファリスめがけ、1体が再び大剣を振りかぶる。
 とどめとばかりに剣が振り下ろされようとした、その時。

「あぶ……ない……」
 最後の気力を振り絞り、ジーナが立った。ファラを全力で突き飛ばし、薙ぎ払いの射程から叩き出す。
 斬撃が一閃、振るわれる。ファリスの体から力が抜け、その身を覆うアウルの光が霧散した。

「こいつ……よくもぉー!」
 返す刃で、ファラが吸魂符を放つ。狙うは手負いの1体だ。
 命中。そこへ再び、リーアが鞭の追撃を加える。
 集中砲火を浴びた1体は、体中に傷を負っていた。あと一回、有効打が決まれば落とせそうだ。
(もう少し……もう少し!)
 だが、ファリスが倒れた事を確認した2体の弐型は、その標的をファラへと変えた。
 石走が命中。ファラが膝をついた。そこへさらに、大剣が振り下ろされる。
「ぐ……」
 ファラが倒れた。

「そんな……」
 倒れたファリスを見て、傷口を押さえながら呆然と呟く悠。その背後でドームが崩れた。
 武器を手にした仲間達が、弐型へと殺到した。


「そこまでです!」
 ネイのアイスウィップをガードする瀕死の弐型の背後から、
「おしまいだ。消えてもらうよ」
 ヘルゴートで強化されたレイのランカーが放たれ、敵を粉砕した。

 仲間が死んでもなお、残った2体は動じる気配もなく戦いを続行した。
 先頭を走る弐型が、悠のストレイシオンめがけて石走を飛ばす。
 ストレイシオンは消滅し、同時に悠も崩れ落ちた。
 残る弐型はジーナとリーアを水檻に捕え、残る1体とともに悠のもとへと走る。とどめを刺す気だ。

「残念だけど、死ぬのはきみたちの方だ」
 レイの放つオンスロートが、2体の弐型へ放たれる。
 火力に優れるレイの一撃が、弐型の体力を大きく削り取った。

 だが、なおも敵の足は止まらない。
 ふらつく足で立ち上がる悠に、石走と薙ぎ払いが立て続けに繰り出され――悠が倒れた。

「いーかげん、落ちなさいよ!」
 悠に石走を放った弐型めがけ、リーアのトリックスターによる体当たりが放たれる。
 背後からの直撃を受け、よろめく弐型。そこへレイのセプテントリオが振り下ろされ、2体目の体を両断した。

 残る敵は1体。既に戦況は完全に撃退士有利へと傾いていた。
 石走でレイをスタンさせた最後の弐型も、リーアのボルケーノとネイの閃滅を食らい、そこへ目を覚ましたレイのオンスロートをとどめに食らい、ようやく戦いは決着をみた。


「レイさん、リーアさん。3人を頼みます」
「わかった。私の分も任せたよ」
「無茶はだめだからね!」
 ネイの言葉に頷くと、レイとリーアは傷を押さえながら、重傷を負った仲間を連れて後ろへと下がった。

(……すまないねぇ)
 それを見送るジーナが、内心で詫びる。
 彼女の視線の先には、赤いパトランプの車輛が見えた。星野が手配した応援部隊だ。
 本来ならばレイたちの傷を癒し、皆で手合わせに臨みたかったが、そこまでの時間の猶予はなさそうだった。


「新手かい……あと10秒ってところかねえ。ま、それだけあれば十分だ」
「ずいぶんと余裕だねぇ。司令官さまは」
「見くびらないでもらいましょうか」
 戦鎚を手にした朱叉嘴が歩を進め、ジーナとネイの間合いへと近づく。
 ジーナとネイもまた、朱叉嘴の間合いへとにじり寄った。

 張り詰めた緊張感が場を支配する。
 浜辺の波の音も、応援を指揮する星野の声も、3人の耳には届かない。

 二の矢を番える時間はない。こちらにも、向こうにも。
 どちらかが仕掛け、どちらかが受ける。それで終わり――

 そう、ジーナが思った矢先だった。

「ひとつ、はっきりさせておこうかねえ」
 ふいに朱叉嘴が口を開いた。構えた戦鎚が、唸りをあげて今にも襲いかかってきそうだ。
「あんた達は傭兵で、これは喧嘩だ。そうだね?」
「ああ。そうさ」
 朱叉嘴の問いに、アズラエルアクスを担いだジーナが応える。
「なら、私も傭兵として喧嘩に応じる。それで構わないね?」
「元より、こちらもそのつもりです」
 朱叉嘴の問いに、ネイが頷く。手にする大剣の刀身が、輝きを増した。
「そうかい。なら結構だ」
 言い終えた直後、朱叉嘴の姿が忽然と消えた。

(いない!?)
 そう思った直後、朱叉嘴がジーナとネイの背後から現れた。
 瞬間移動? いや違う。これは――

「物質透過――!!」
「ご名答」
 大震動とともに砂柱が立ち、ふたりの体が宙を舞った。


(奴らは、阻霊符を持っていない)
 朱叉嘴がそれを悟ったのは、戦いが終盤に入る少し前のことだ。

 撃退士の中に同族がいると知ったとき、彼らは物質透過で弐型を奇襲する気だろうと朱叉嘴は思った。
 撃退士は過去にその戦法で初期型を破っている。砂浜に阻霊術が施されていないのも、そのためだろうと。

 だが。

 青髪の少女が倒れ、金髪の同族が倒れても、彼らは阻霊術を用いずに戦い続けた。
 同族の撃退士たちも、透過する気配をまったく見せない。
 そうこうするうち、また1人倒れた。

 ここに至り、朱叉嘴は確信する。
 撃退士は祖霊術を使わないのではない、使えないのだと。
 すなわち、阻霊符を持っていないのだと――

――やれやれ。元より喧嘩だ、手加減してやるか。

 朱叉嘴は戦鎚を振り下ろした。


「さて、時間だ。帰らせてもらうよ」
「……お待ち……」
「なんだい?」
 肩についた砂を払いのけ、踵を返す朱叉嘴を、地に伏したジーナが呼び止めた。
「ジーナ・アンドレーエフ。……まだ、あんたの名を聞いてない」
「私の名?」
 ジーナの言葉に、朱叉嘴が肩をすくめる。
「聞いてどうするんだい? ラブレターでもくれるのかい?」
「名無し相手に……借りは返せないからねぇ」
「へえ、そりゃ楽しみだねえ」
 朱叉嘴は肩を揺さぶって笑った。
「武力階級第8位。魚人の悪魔、朱叉嘴さ」
 それだけ言うと、朱叉嘴は海の中へと去っていった。


「至りませんでしたね」
「ああ。そうだねぇ……」
 敵の名前を脳裏に刻みながら、ネイの傷をライトヒールで癒すジーナ。

 ふと見ると、浜の向こうから救急箱を抱えた星野が走ってくるのが見えた。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: おまえだけは絶対許さない・ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)
 闇夜を照らせし清福の黒翼・レイ・フェリウス(jb3036)
重体: 天眼なりし戦場の守護者・ファリス・メイヤー(ja8033)
   <大叉嘴:弐型の集中攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
 未来導きし希求の召喚士・柊 悠(jb0830)
   <大叉嘴:弐型の集中攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
 おまえだけは絶対許さない・ファラ・エルフィリア(jb3154)
   <大叉嘴:弐型の集中攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

おまえだけは絶対許さない・
ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)

大学部8年40組 女 アストラルヴァンガード
天眼なりし戦場の守護者・
ファリス・メイヤー(ja8033)

大学部5年123組 女 アストラルヴァンガード
道指し示し夙志の召喚士・
リーア・ヴァトレン(jb0783)

小等部6年3組 女 バハムートテイマー
未来導きし希求の召喚士・
柊 悠(jb0830)

大学部2年266組 女 バハムートテイマー
闇夜を照らせし清福の黒翼・
レイ・フェリウス(jb3036)

大学部5年206組 男 ナイトウォーカー
おまえだけは絶対許さない・
ファラ・エルフィリア(jb3154)

大学部4年284組 女 陰陽師
闇を祓いし胸臆の守護者・
ネイ・イスファル(jb6321)

大学部5年49組 男 アカシックレコーダー:タイプA